説明

引き違い戸用錠止具

【課題】引戸締まり金具の利点を生かし、プッ・シュプルという簡単な操作で施錠状態及び解錠状態にすることができること。
【解決手段】A室とB室を仕切る引き違い戸用錠止具であって、この引き違い戸用錠止具は、一方の引戸の召し合せ部に第1座板を介して水平移動自在に設けられたメス嵌合筒部材と、このメス嵌合筒部材に対向するように他方の引戸の召し合せ部に第2座板を介して水平移動自在に設けられたオス嵌入杆部材とから成り、少なくともメス嵌合筒部材又はオス嵌入杆部材のいずれか一方が、A室又はB室に存在する人の操作力により相手側の引戸に係合する軸芯内側方向に進入すると施錠状態となり、これに対して、メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材の両方が、引戸との係合状態を解消する軸芯外側方向にそれぞれ後退すると解錠状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き違い戸用錠止具に関し、特に、室内にニ以上の空間を引き違い戸を介して仕切りした環境の場で使用される引き違い戸用錠止具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の第1図乃至第6図には、引き違い戸用錠止具の一例が記載されている。特に、第6図には、引き違い戸を構成する一方の引戸の召し合せ部にメネジを有するネジ受け13を固定し、このネジ受け13の前記メネジに螺合する中折れねじ締まり本体4を他方の引戸の召し合せ部に小箱7を介して取付け、前記中折れねじ締まり本体4は、螺杆部2と、該螺杆部の外端部に軸支された板状摘み部とから構成されている(符号は公報記載のもの)。この特許文献1に記載の引き違い戸用錠止具は、「引戸締まり金具(ねじ締まり)」と称され、普通一般に雨戸用の締まり金具として古くから利用されている。
【0003】
しかして、この種の引戸締まり金具は、室内から前記板状摘み部を操作して前記螺杆部2を前記ネジ受け13に螺着すると、簡単に引き違い戸を錠止することができるという利点があるものの、あくまでも、防犯や雨戸の外れ防止に用いるものであるため、「A室とB室」或は「A空間とB空間」を仕切る引き違い戸には不向きであるという問題点があった。例えばインターネットカフェーに於いて、A室にいる人とB室にいる人が引き違い戸を基準にして左右で端末機を操作してゲームの対戦をしている場合に、合意の上で引き違い戸の錠止状態を解き、引戸を直ちに開けたいような環境の場には使用することができないという欠点があった。
【特許文献1】実開昭61−144172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の所期の目的は、例えばインターネットカフェーに於いて、A室にいる人とB室にいる人が引き違い戸を基準にして、端末機を用いてゲーム対戦や会話をしている場合に、合意の上で引き違い戸の錠止状態を解き、互いに引戸を直ちに開けたいような環境の場で実施することができることある。第2の目的は、引戸締まり金具の利点を生かし、簡単な操作で「施錠状態」及び「解錠状態」にすることができることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の引き違い戸用錠止具は、隣り合うA室とB室を仕切る引き違い戸用錠止具であって、この引き違い戸用錠止具は、一方の引戸の召し合せ部に第1座板を介して水平移動自在に設けられたメス嵌合筒部材と、このメス嵌合筒部材に対向するように他方の引戸の召し合せ部に第2座板を介して水平移動自在に設けられたオス嵌入杆部材とから成り、少なくとも前記メス嵌合筒部材又はオス嵌入杆部材のいずれか一方が、前記A室又はB室に存在する人の操作力により相手側の前記引戸に係合する軸芯内側方向に進入すると施錠状態となり、これに対して、前記メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材の両方が、前記引戸との係合状態を解消する軸芯外側方向にそれぞれ後退すると解錠状態となることを特徴とする。
【0006】
上記構成に於いて、メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材は、それぞれ「プッシュ」すると相手側の引戸に係合し或は互いに嵌合する錠止状態となり、一方、それぞれ「プル」すると前記引戸との係合状態が解消することを特徴とする。また、メス嵌合筒部材並びにオス嵌入杆部材は、それぞれの召し合せ部に内装された水平案内筒に案内されることを特徴とする。さらに、第1座板及び第2座板は、それぞれ引戸の外壁面に形成した横向き凹所に略入り込む引手であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
(a)例えばインターネットカフェーに於いて、A室にいる人とB室にいる人が引き違い戸を基準にして、お互いに顔を見ないで端末機の操作等をしている場合に、合意の上で引き違い戸の錠止状態を解き、お互いに引戸を直ちに開けたいような環境の場で実施することができる。それ故に、例えば端末機を用いてゲーム対戦をする場合にはゲームに集中することができる、隣り合う人同士の空間乃至プライバシーを確保することができる等の利点がある。
(b)引戸締まり金具の利点を生かし、プッ・シュプルという簡単な操作で「施錠状態」及び「解錠状態」にすることができる。
(c)メス嵌合筒部材並びにオス嵌入杆部材が、それぞれの召し合せ部に内装された水平案内筒に案内される実施例の場合には、メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材は、各水平案内筒に安定的に支持される。
(d)第1座板及び第2座板が、それぞれ引戸の外壁面に形成した横向き凹所に略入り込む引手である実施例の場合には、メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材のそれぞれの操作部が邪魔にならないので、所望するように各引戸を隣り合うA室とB室の各壁面を形成する戸袋に収納させることができる。
(e)シリンダ錠を用いないので、合鍵を紛失することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図1乃至図9に示す本発明を実施するための最良の形態(第1実施例)により説明する。
【0009】
(1)発明の実施の環境
図1乃至図3を参照にして発明の実施の環境を簡単に説明する。図1は実施の環境を示す概略横断面説明図である。図1に於いて、Xは引き違い戸用錠止具で、この引き違い戸用錠止具Xは、例えばインターネットカフェーに於ける隣り合うA室とB室を仕切る引き違い戸用の錠止具として使用されている。インターネットカフェーの前記A室とB室は、障子のようなパネル1を任意の形状に(例えば横断面が四角になるように囲って)組立てることにより形成されている。まず、符号2はA室とB室を仕切る引き違い戸で、該引き違い戸2は、一方の引戸2Aと他方の引戸2Bから成る。引き違い戸用錠止具Xは、これらの引戸2A、2Bの召し合せ部に装着されている。
【0010】
次に、符号3はA室とB室を仕切る壁面を形成する戸袋で、この戸袋3は一方の引戸2Aと他方の引戸2Bをそれぞれ収納することができるように四角のパネル1内の略中央部に設けられている。本発明の特定要件ではないが、この戸袋3を基準として、A室とB室には机4、4Aがそれぞれ配置されている。なお、A室とB室の出入り口5には、引戸方式の戸6がそれぞれ設けられている。
【0011】
図2は、図1の2−2線概略断面説明図であり、この図2では、一方の引戸2A及び他方の引戸2Bがそれぞれ戸袋3から完全に出ている状態を示している。したがって、B室にいる人からはA室にいる人の顔は全く見えない。それ故に、例えば端末機を用いたゲームの対戦時、隣り合う人同士の空間乃至プライバシーは完全に確保されている。
【0012】
図3は、図1の3−3線概略断面説明図であり、この図2では、パネル1で囲われた一つの空間が引き違い戸2及び戸袋3を介して「A室」と「B室」に仕切られていることを示す。
【0013】
本実施例では、A室とB室は略同一の大きさであり、机4、4Aの付近には端末機(いわゆるパソコン)等を使用することができるように不番のコンセントが設けられている。したがって、A室にいる人とB室にいる人は、それぞれ図示しない端末機を利用することができる。
【0014】
(2)各部材の具体的構成
以下、本発明の特定要件について順次説明する。図4は引き違い戸用錠止具Xが施錠状態であることを示し、一方、図5は引き違い戸用錠止具Xが解錠状態であることを示す。また、図6及び図7で示すように、引き違い戸用錠止具Xは、一方の引戸2Aと他方の引戸2Bの各召し合せ部2a、2aに装着されている。
【0015】
すなわち、本実施例の引き違い戸用錠止具Xは、一方の引戸2Aの召し合せ部2aに丸座或は長板状の第1座板11を介して水平移動自在に設けられたメス嵌合筒部材12と、このメス嵌合筒部材12に対向するように他方の引戸2Bの召し合せ部2aに丸座或は長板状の第2座板13を介して水平移動自在に設けられたオス嵌入杆部材14とから成る。
【0016】
前記各召し合せ部2a、2aには、引戸2A、2Bの厚さ方向にメス嵌合筒部材12とオス嵌入杆部材14をそれぞれ嵌め込むための嵌合孔15,16が形成されている。これらの嵌合孔15,16の引戸2A、2Bの厚さ方向の段差形状(大径部分と小径部分)は、メス嵌合筒部材12の嵌合筒部の外径、該嵌合筒部を案内する第1水平案内筒の外径、オス嵌入杆部材14の嵌入杆部の外径、該嵌入杆部を案内する第2水平案内筒の外径等を考慮して任意に設定される。
【0017】
ここで、図7及び図8を参照にして引き違い戸用錠止具Xの具体的構成を説明する。図7は引き違い戸用錠止具Xの分解斜視図、一方、図8は長板状の第1座板11にメス嵌合筒部材12を装着すると共に、長板状の第2座板13にもオス嵌入杆部材14を装着した概略説明図である。
【0018】
図7及び図8に於いて、まず、第1座板11は、中央部(中央部寄りの部位も含む)に軸孔17を有している。この第1座板11は、両端部に形成された取付け孔18,18及び複数個の固着具19を介して引戸2Aの召し合せ部2aの外壁面に固定される。
【0019】
次に、第1座板11に前記軸孔17を介してスライド自在に取付けられるメス嵌合筒部材12は、軸孔17を貫通する所定長の軸21と、この軸21の内端部に外嵌合状態で固定された嵌合筒部22と、前記軸21の外端部に枢着された摘み部(操作部)23とから成り、前記嵌合筒部22は、図4及び図5で示すように引戸2Aの召し合せ部2aの嵌合孔15に固定的に内装された第1水平案内筒24に案内される。
【0020】
一方、第2座板13も、第1座板11と同様に、その中央部(中央部寄りの部位も含む)に軸孔25を有している。この第2座板13は、両端部に形成された取付け孔26,26及び複数個の固着具27を介して引戸2Bの召し合せ部2aの外壁面に固定される。
【0021】
そして、第2座板13に前記軸孔25を介してスライド自在に取付けられるオス嵌入杆部材14は、軸孔25を貫通する所定長の嵌入杆部28と、この嵌入杆部28の外端部に枢着された軸部29aを有する摘み部(操作部)29とから成り、前記嵌入杆部28の中央部(中央部寄りの部位も含む)の貫通小孔には、ピン状のストッパ30がカシメ固定されていると共に、本実施例では、該ストッパ30を基準とする嵌入杆部28の外端部乃至前記摘み部(操作部)29の軸部29aは、図4及び図5で示すように引戸2Bの召し合せ部2aの嵌合孔16に固定的に内装された第2水平案内筒31に案内される。
【0022】
(3)施錠状態と解錠状態
図9は、本実施例の施錠状態と解錠状態を示す概略説明図である。この図9から明らかなように、図4で示した施錠状態は、施錠態様の一つであることが理解できる。本実施例の施錠態様は、図9の(a)、(b)及び(c)の3つある。
【0023】
図9の(a)の施錠態様は、矢印方向にメス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14の両方が、「プッシュ」されている場合である。メス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14の両方がそれぞれ軸芯内側方向に進入すると、メス嵌合筒部材12の嵌合筒部22の先端部が、図4で示すように引戸2Bの召し合せ部2aの嵌合孔16に入り込み、一方、前記嵌合筒部22の先端部にオス嵌入杆部材14の嵌入杆部28の先端部が嵌入する。これにより、両方の部材(メス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14)が「施錠状態」となる。
【0024】
これ対して、図9の(b)及び(c)の施錠態様は、A室にいる人とB室にいる人との意思が合致せず、一方の人のみが、メス嵌合筒部材12やオス嵌入杆部材14を「プル」した場合である。図9の(b)及び(c)から明らかなように、少なくとも前記メス嵌合筒部材12又はオス嵌入杆部材14のいずれか一方が、前記A室又はB室に存在する人の操作力により相手側の前記引戸(2A/2B)に係合する軸芯内側方向に進入すると「施錠状態」となる。
【0025】
これに対して、図9の(d)は、A室並びにB室に存在する人が互いに合意した後、メス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14の各操作部23,29を摘んで「プル」した場合である。A室並びにB室に存在する人の操作力により前記メス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14の両方が、引戸(2A/2B)との係合状態を解消する軸芯外側方向にそれぞれ後退すると「解錠状態」となる。
【0026】
このように、本実施例では、メス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14は、それぞれ「プッシュ」すると相手側の引戸に係合し或は互いに嵌合する錠止状態となり、一方、それぞれ「プル」すると前記引戸との係合状態が解消する(特徴部分)。
【実施例】
【0027】
発明の実施の形態で示した第1実施例に於いて、オス嵌入杆部材14のストッパ30を基準とする嵌入杆部28の外端部乃至前記摘み部(操作部)29の軸部29aは、例えば図5で示すように引戸2Bの嵌合孔16内の第2水平案内筒31に案内されるが、もちろん、第2水平案内筒31の位置は、本実施例に限定されるものではなく、引戸2Bの内壁面側(引戸2Aの第1水平案内筒24と対向する側)に内装しても良い。このような場合には、メス嵌合筒部材12の嵌合筒部22は、引戸2Bの嵌合孔16に第2水平案内筒31を介して間接的に係合する。
【0028】
また、図10及び図11は、第1座板11A及び第2座板13Aは、それぞれ引戸2A、2Bの各外壁面に形成した横向き凹所35,36に略入り込む引手であることを示している(これを便宜上「第2実施例」という)。
【0029】
この第2実施例では、メス嵌合筒部材12及びオス嵌入杆部材14のそれぞれの操作部23、29が邪魔にならないので、所望するように各引戸2A、2Bを隣り合うA室とB室の各壁面を形成する戸袋3に収納させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、主にインターネットカフェー等のサービス業界で利用される。また、錠前の分野でも施工され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1乃至図9は本発明の最良の第1実施例を示す各説明図。図10及び図11は本発明の第2実施例を示す各説明図。
【図1】実施の環境を示す概略横断面説明図。
【図2】図1の2−2線概略断面説明図。
【図3】図1の3−3線概略断面説明図。
【図4】施錠状態の一例を示す概略断面説明図。
【図5】解錠状態を示す概略断面説明図。
【図6】引き違い戸の召し合せ部に引き違い戸用錠止具Xを装着した斜視図。
【図7】引き違い戸用錠止具Xの分解斜視図。
【図8】長板状の第1座板にメス嵌合筒部材を装着すると共に、長板状の第2座板にもオス嵌入杆部材を装着した概略説明図。
【図9】本実施例の施錠状態と解錠状態を示す概略説明図。
【図10】第2実施例の解錠状態を示す概略断面説明図。
【図11】第2実施例の斜視からの説明図。
【符号の説明】
【0032】
X…引き違い戸用錠止具、1…パネル、2…引き違い戸、2A…方の引戸、2B…他方の引戸、2a…召し合せ部、3…戸袋、11,11A…第1座板、12…メス嵌合筒部材、13…第2座板、14…オス嵌入杆部材、15、16…嵌合孔、17…軸孔、21…軸、22…嵌合筒部、23…摘み部(操作部)、24…第1水平案内筒、25…軸孔、28…嵌入杆部、29…摘み部(操作部)、29a…軸部、30…ストッパ、31…第2水平案内筒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合うA室とB室を仕切る引き違い戸用錠止具であって、この引き違い戸用錠止具は、一方の引戸の召し合せ部に第1座板を介して水平移動自在に設けられたメス嵌合筒部材と、このメス嵌合筒部材に対向するように他方の引戸の召し合せ部に第2座板を介して水平移動自在に設けられたオス嵌入杆部材とから成り、少なくとも前記メス嵌合筒部材又はオス嵌入杆部材のいずれか一方が、前記A室又はB室に存在する人の操作力により相手側の前記引戸に係合する軸芯内側方向に進入すると施錠状態となり、これに対して、前記メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材の両方が、前記引戸との係合状態を解消する軸芯外側方向にそれぞれ後退すると解錠状態となる引き違い戸用錠止具。
【請求項2】
請求項1に於いて、メス嵌合筒部材及びオス嵌入杆部材は、それぞれ「プッシュ」すると相手側の引戸に係合し或は互いに嵌合する錠止状態となり、一方、それぞれ「プル」すると前記引戸との係合状態が解消することを特徴とする引き違い戸用錠止具。
【請求項3】
請求項1に於いて、メス嵌合筒部材並びにオス嵌入杆部材は、それぞれの召し合せ部に内装された水平案内筒に案内されることを特徴とする引き違い戸用錠止具。
【請求項4】
請求項1に於いて、第1座板及び第2座板は、それぞれ引戸の外壁面に形成した横向き凹所に略入り込む引手であることを特徴とする引き違い戸用錠止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−70957(P2010−70957A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238460(P2008−238460)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(392014818)株式会社アイ信 (6)