説明

引張り試験機

【課題】実験室においても、実際に使用される状態における材料のより正確な力学的特性測定ができるようにする。
【解決手段】測定対象の材料片101の一端を固定する固定部102と、材料片101の他端を保持する保持部103と、保持部103を固定部102より遠ざかる方向に引っ張る引張り部104と、引張り部104が引っ張る力を検出する力検出器105と、材料片101に液を滴下する液供給部106とを備える。液供給部106は、例えば、供給制御部161およびノズル162を備える。供給制御部161より供給される液が、ノズル162より吐出されて材料片101に付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料などの材料片の引張り試験を行う引張り試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料・無機材料・有機材料などの材料特性として、力学的な特性があり、力学的な試験により評価(測定)されている。このような力学的な評価を行う装置として、材料を引っ張る方向に力を加え、加えた力により材料に発生する歪みなどを測定する引張り試験機がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】http://www.shimadzu.co.jp/TEST/products/mtrl03/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際に用いられる環境下における材料の特性を知ることが、この材料を評価する上で重要となる。例えば、建築材料としてのコンクリートの引張り強度を補強するために用いられる鉄筋は、コンクリートというアルカリ性の雰囲気で用いられている。このような鉄筋の力学的特性を、実験室の環境下で引張り試験機を用いて測定しても、実際の使用環境とは大きく異なるため、正確な評価が下せない。このように、一般に用いられている引張り試験機を用いた実験室などにおける測定では、実使用の状態を考慮した材料の正確な評価が得られないという問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、実験室においても、実際に使用される状態における材料のより正確な力学的特性測定ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る引張り試験機は、測定対象の材料片の一端を固定する固定手段と、材料片の他端を保持する保持手段と、この保持手段を固定手段より遠ざかる方向に引っ張る引張り手段と、この引張り手段が引っ張る力を検出する力検出手段と、材料片に液を供給する液供給手段とを少なくとも備える。
【0007】
上記引張り試験機において、力検出手段が検出している力の減少により液供給手段による液の供給を停止する供給停止手段を備えるようにしてもよい。
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、引張り試験を行っている材料片に液を供給する液供給手段を備えるようにしたので、実際に使用される状態における材料のより正確な力学的特性測定ができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態における引張り試験機の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における他の引張り試験機の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における引張り試験機の構成を示す構成図である。この引張り試験機は、測定対象の材料片101の一端を固定する固定部102と、材料片101の他端を保持する保持部103と、保持部103を固定部102より遠ざかる方向に引っ張る引張り部104と、引張り部104が引っ張る力を検出する力検出器105と、材料片101に液を滴下する液供給部106とを備える。
【0011】
また、本実施の形態における引張り試験機は、力検出器105が検出している力の減少により液供給部106による液の供給を停止する供給停止部109を備える。
【0012】
また、本実施の形態における引張り試験機において、固定部102および引張り部104は、定盤107の上に固定されている。また、液供給部106は、支持部108により定盤107の上に支持されている。液供給部106は、例えば、供給制御部161およびノズル162を備える。供給制御部161より供給される液が、ノズル162より吐出されて材料片101に付着する。例えば、ノズル162は、固定部102および保持部103に保持されている材料片101の上部に配置され、ノズル162より吐出される液が、材料片101に滴下される。
【0013】
次に、本実施の形態における引張り試験機を用いた引張り試験方法について説明する。まず、材料片101の一端を固定部102に固定し、材料片101の他端を保持部103に固定する。この状態で、引張り部104を動作させ、設定されている引張り力で保持部103を固定部102より遠ざかる方向に引っ張る。引張り部104が引っ張る力は、力検出器105により検出される。
【0014】
このように引張り試験を行う過程で、液供給部106より所望とする液を材料片101に供給する。例えば、材料片101が鉄筋の場合、鉄筋が用いられる環境に対応し、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムや塩化物イオンのいずれか、もしくはこれらの複数を含む水溶液を液供給部106より材料片101に滴下する。滴下する水溶液の濃度は、1規定程度であればよい。また、海水と同程度の塩化物イオン濃度とすればよい。
【0015】
材料片101を水平に配置する場合、供給制御部161は上述した溶液の供給および供給停止を制御する弁の機能を有すものであればよく、重力によりノズル162より溶液を滴下すればよい。また、ポンプ機能を備える供給制御部161を用い、供給量を制御してノズル162より溶液を吐出させてもよい。また、ポンプ機能によりノズル162から溶液を噴出させるようにしてもよい。このようにすることで、例えば、鉛直に配置された材料片101に対し、横方向に配置されたノズル162より噴出させた溶液を付着させることができる。
【0016】
ところで、引張り試験においては、材料片101に引張り力を加え、破壊するまでの伸び・耐力などを測定するが、材料片101が破断した後は、上述したように液を供給する必要はなくなる。本実施の形態では、供給停止部109により、力検出器105が検出している力の減少が検出されると、液供給部106による液の供給を停止するので、材料片101が破断すると、材料片101に対する液の供給が停止される。
【0017】
以上に説明した本実施の形態によれば、材料が用いられる環境において存在する物質を含む溶液を供給した状態で引張り試験が行えるので、実験室においても、実際に使用される状態における材料のより正確な力学的特性測定ができるようになる。例えば、コンクリート中での鉄筋の力学的特性を調査するためには、コンクリートのようなアルカリ性のなかでの鉄筋の力学的特性を調査し、また、アルカリ性が二酸化炭素で中和し、塩化物イオンが混入するなどといった環境で力学的特性を知ることが求められる。本実施の形態によれば、これらの環境を再現した状態で、鉄筋の力学的特性を知ることが可能となる。
【0018】
また、上述したような環境を再現するために用いるアルカリ物質などの溶液は、腐食性を備えている場合が多く、引張り試験を終了した後は、迅速に液供給の停止をすることが重要となる。本実施の形態によれば、上述したように、供給停止部109により液供給部106による液の供給を停止するので、腐食性の溶液を用いる場合においても、試験終了時に迅速に液供給の停止が行える。
【0019】
次に、本発明に係る他の実施の形態について説明する。図2は、本発明の実施の形態における他の引張り試験機の構成を示す構成図である。この引張り試験機は、まず、2つの側部201,202を備える引張り試験用治具203を備える。引張り試験用治具203においては、側部201と側部202との間(材料片配置部)に、棒状とした材料片204が配置可能とされている。また、側部201および側部202に、対向配置する孔部(不図示)を備え、各々の孔部に、材料片204の両方の端部が貫通可能とされている。一方、試料片204には、両方の端部に雄ねじが形成され、ナット205,206が嵌合可能とされている。
【0020】
この引張り試験機では、材料片204の両端部を側部201の孔部および側部202の孔部に通し、側部201および側部202の外側に突出した材料片204の両端部に、ナット205およびナット206を嵌合させる。なお、ナット205と側部201との間には、座金207が配置され、ナット206と側部202との間には座金208が配置されている。
【0021】
上述した状態で、ナット205およびナット206を材料片204の両端部にねじ込むように回転させれば、ナット205およびナット206は、側部201および側部202の位置より内側(材料片配置部の側)には進めないので、材料片204が引っ張られるようになる。また、フッ素樹脂製の座金207を用いることで、ナット205およびナット206と座金207との間の摺動が滑らかとなり、ナット205およびナット206の締付けをより滑らかに行うことができる。このように、本実施の形態のこの引張り試験機によれば、上述した状態で材料片204の両端のナット205およびナット206を、締付けることで、試料片204の引張り試験が行える。
【0022】
また、本実施の形態における引張り試験機は、側部201および側部202の間の材料片配置部において、一部の材料片204の周囲を覆って封止するセル210を備える。例えば、セル210は、この両端部において、セル210の内側と材料片204との間に配置されたオーリング211,212により、セル210の内部空間を封止する。また、セル210は、液導入部213および液排出部214を備える。なお、本例では、セル210の内部に収容される材料片204の部分は、引張り試験に適用可能な程度に細くされている。例えば、材料片204は、太い部分が直径6mm程度とされ、セル210に収容される細い部分が、直径2.3mm程度とされている。
【0023】
上述したセル210を用いれば、例えば、試験溶液溜220に収容された試験溶液221を、ポンプ222を用いて導入パイプ223により液導入部213に供給することで、セル210の内部に試験溶液224が収容された状態とすることができる。試験溶液221,224は、例えば、NH4SCNである。このように、セル210の内部に試験溶液224を収容すれば、試験溶液224を材料片204に作用させることができる。なお、セル210内の試料溶液224は、回収パイプ225により試験溶液溜220に回収する。
【0024】
上述した引張り試験機によれば、ナット(ネジ)を用いることで、容易に引張り試験を行うことが可能であり、また、溶液を作用させた状態で引張り試験を行うことができる。なお、図示していないが、所定の箇所に力検出器などを配置することで、引張り試験を行う。
【0025】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、引張り試験機の液供給部および供給停止部以外の構成は、現在市販されている引張り試験機を用いることができる。また、上述では測定対象の材料として鉄筋を例にしたが、これに限るものではなく、プラスチックなどの材料を測定対象とし、使用環境に存在する揮発性有機物質の影響による力学的特性の変化を試験することも可能である。この場合、液供給部により、揮発性有機物質を含む溶液を材料片に供給すればよい。
【符号の説明】
【0026】
101…材料片、102…固定部、103…保持部、104…引張り部、105…力検出器、106…液供給部、107…定盤、108…支持部、109…供給停止部、161…供給制御部、162…ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の材料片の一端を固定する固定手段と、
前記材料片の他端を保持する保持手段と、
この保持手段を前記固定手段より遠ざかる方向に引っ張る引張り手段と、
この引張り手段が引っ張る力を検出する力検出手段と、
前記材料片に液を供給する液供給手段と
を少なくとも備えることを特徴とする引張り試験機。
【請求項2】
請求項1記載の引張り試験機において、
前記力検出手段が検出している力の減少により前記液供給手段による液の供給を停止する供給停止手段を備えることを特徴とする引張り試験機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153896(P2011−153896A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15243(P2010−15243)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】