張り剛性評価方法、補強部材の取付け設計方法、張り剛性評価装置
【課題】補強部材を取り付けた状態の張り剛性を簡便に評価することを目的の一つとする。
【解決手段】パネル部品であるアウターパネル2に対し、所定方向に向けて延びる補強部材4を取り付けることによる、当該アウターパネル2の張り剛性の上昇を評価する。このとき、前記アウターパネル2に設定した評価位置に対する、前記補強部材4のアウターパネル2への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離dmと前記補強部材4の軸までの最短距離である軸位置最短距離drとの和である評価変数距離Dに基づき、当該補強部材4を取り付けることによる、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価する。
【解決手段】パネル部品であるアウターパネル2に対し、所定方向に向けて延びる補強部材4を取り付けることによる、当該アウターパネル2の張り剛性の上昇を評価する。このとき、前記アウターパネル2に設定した評価位置に対する、前記補強部材4のアウターパネル2への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離dmと前記補強部材4の軸までの最短距離である軸位置最短距離drとの和である評価変数距離Dに基づき、当該補強部材4を取り付けることによる、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアやルーフなどのパネル部品の張り剛性を補強する技術に関する。特に、本発明は、パネル部品に対し補強部材を取り付けた後の張り剛性を簡便に計算したり、パネル部品に対する補強部材の配置最適化をより簡便に求めたりするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のパネル部品(ドア、フード、ルーフ等)に求められる特性のひとつとして張り剛性が挙げられる。例えばドアのアウターパネルの張り剛性が低い場合には、その部分を押圧した際に、所謂ぺこぺこ感が発生し、車両の高級感を損ない、また車両走行時の風等に起因する振動によって騒音等の原因になるおそれがある。
従来、張り剛性を評価する場合には、実際に押圧試験を実施し、また、有限要素解析その他の解析を実施するなどの手法が採用されている。
【0003】
また、パネル部品の張り剛性を高めるためには、補強部材を取り付けることが有効な手段である。このとき、補強部材、および補強部材とパネル部品を接着する位置(マスチック接合位置=取付け部位置)により、パネル全体の張り剛性は変化する。そして、補強部材を設置する好適な位置を調べる方法としては、特許文献1や特許文献2に記載されているような方法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3786171号公報
【特許文献2】特開平7−33048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来技術では、パネル部品に対する補強部材の取付け位置を設定する度に有限要素解析法などによって、張り剛性の解析を行う必要がある。すなわち、補強部材が最適な位置となるまで、何度も補強部材の配置を変更する必要があるが、補強部材の位置を変更するたびに有限要素解析を繰り返す必要があるため、計算が面倒であったりして工数が掛かる。
本発明は、前記のような点に着目したもので、補強部材を取り付けた状態の張り剛性を簡便に評価できる、若しくは目標となる張り剛性とするための補強部材の配置位置を簡便に求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、解析のコストや工数を低減するため、補強部材を取り付けたときの張り剛性の上昇の度合いを、有限要素解析などの解析をできるだけ行わずに予測できないか調査及び検討を行った。その結果、パネル上の任意の位置における張り剛性の上昇は、補強部材を取り付けていない状態の張り剛性に対して、その任意位置から補強部材の軸までの距離、及びその任意位置から最寄りのマスチック接合位置(パネル部品への取付け部位置)までの距離の両方の和を変数とすることで、精度良く求めることが出来るという知見を得た。
【0007】
すなわち、前記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、少なくとも一方向に沿って湾曲した状態のパネル部品に対し、前記一方向に沿った方向に沿って延在する補強部材を取り付けることによる、当該パネル部品の張り剛性の上昇を評価する張り剛性評価方法であって、
前記パネル部品に設定した評価位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離に基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、前記評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関関係を予め求めておき、その予め求めた相関関係を利用して、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする。
次に、請求項3に記載した発明は、対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を補強前の張り剛性として求めると共に、
前記請求項1又は請求項2に記載した張り剛性評価方法によって、前記対象とする補強部材を取り付けることによる前記評価範囲の各評価点での張り剛性の上昇の度合いを求め、その求めた上昇の度合いと補強前の張り剛性とに基づき、前記対象とする補強部材を取り付けることによる、前記評価範囲の各評価点の張り剛性を評価することを特徴とする張り剛性評価方法を提供するものである。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した張り剛性評価方法に基づき、前記評価範囲での張り剛性が目標とする目標張り剛性以上となる、前記補強部材の配置、及び当該補強部材のパネル部品への取付け部位置の少なくとも一方を選定することを特徴とする補強部材の取付け設計方法を提供するものである。
【0010】
次に、請求項5に記載した発明は、対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を解析した結果である補強前の張り剛性、前記パネル部品に対する補強部材の配置位置及び取付け部位置、及び当該補強部材の断面二次極モーメントの情報が入力され、その入力した情報に基づいて、前記補強部材を取り付けた後の前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する張り剛性評価装置であって、
前記パネル部品における前記各評価点の位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離、及び前記断面二次極モーメントに基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記各評価点の張り剛性の上昇の度合いをそれぞれ演算する張り剛性上昇度合い演算部と、
前記入力した補強前の張り剛性と、前記張り剛性上昇度合い演算部が演算した張り剛性上昇の度合いとに基づき、前記補強部材を取り付けたときの前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する補強部材取付け後張り剛性演算部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補強部材の設置や、補強部材の配置位置又はパネル部品への取付け部位置(マスチック接合位置)の変更によるパネル部品の張り剛性の変化を、短時間で簡便に見積もることが可能となる。またこのことは、補強部材の配置の最適化を短時間で且つ簡便に行う事が可能となる。
ここで、補強部材を取り付けた際における、前記取付位置最短距離若しくは軸位置最短距離のいずれか一方の最短距離と張り剛性の上昇の度合いとの関係も求めてみたが、さほど精度の良い相関を得ることが出来なかった。さらに本発明者らは、その取付位置最短距離と軸位置最短距離との和である評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関を求めてみたところ、前記取付位置最短距離若しくは軸位置最短距離のいずれか一方の最短距離を変数とした場合に比べて、張り剛性の上昇の度合いとの相関が良かった。このような発明者らの知見に基づき、本発明は、前記評価変数距離に基づき、補強部材を取り付けることによる張り剛性の上昇を評価している。これによって、簡便且つより精度良く補強部材取付けによる張り剛性の上昇を評価することが可能となる。
【0012】
また、パネル部品を代えて同様の評価試験をしてみたところ、評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関はいずれも同じような関係が得られた。すなわち、対象とするパネル部品によって、係数その他について多少の調整を実施する必要が発生する可能性はあるが、同様な関数やマップに基づいて、複数種類のパネル部品の張り剛性の評価に対応することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るアウターパネルのモデルを説明する図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る補強部材を取り付けたインナーパネルのモデルを説明する図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る補強部材の取付け前のインナーパネルのモデルを説明する図である。
【図4】座標を示す図である。
【図5】取付位置最短距離dm、軸位置最短距離drを説明する図である。
【図6】評価変数距離と張り剛性の上昇率との関係及び近似曲線Aを示す図である。
【図7】近似曲線Bを示す図である。
【図8】近似曲線Cを示す図である。
【図9】本発明に基づく実施形態に係る評価方法を説明する図である。
【図10】本発明に基づく実施形態に係る最適化方法を説明する図である。
【図11】本発明に基づく実施形態に係る張り剛性評価装置の構成を示す図である。
【図12】実施例に係るドアを示す図であって、(a)はアウターパネルの外面を(b)はインナーパネルの内面をそれぞれ示す。
【図13】実施例における取付け点群M及びNを示す図である。
【図14】実施例における補強部材の断面形状を示す図である。
【図15】実施例におけるドアのモデルを示す図であって、(a)はアウターパネルのモデルを示す図で、(b)はインナーパネルのモデルを示す図である。
【図16】比較例での有限要素解析の方法を説明する図である。
【図17】補強部材の最適位置を示す図である。
【図18】張り剛性が最弱の位置A、Bを示す図である。
【図19】補強部材を中央に配置した図である。
【図20】押圧(実験)によって張り剛性を検出する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本実施形態の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、車両のドア部品におけるアウターパネルを、補強対象のパネル部品の例として説明する。但し、車両におけるルーフ部品などに本発明を適用しても構わない。すなわち、本発明の技術は、自動車のドアに限定して適用されるものではなく、例えば自動車のルーフ、ボンネット等のパネル部品であって、補強部材によって補強されるパネル部品に適用可能である。このように、本発明の技術は、少なくとも一方向に沿って湾曲した板部材からなるパネル部品であって、そのパネル部品の外縁部が拘束された状態で使用されるパネル部品であれば適用可能である。
【0015】
(パネル部品と補強部材の関係について)
ドア部品は、インナーパネルとアウターパネルとを備える。そして、例えばインナーパネルに両端部等が固定された補強部材に対し、複数の取付け部でアウターパネルとマスチック接合することで、アウターパネルに補強部材が取り付けられる。マスチック接合する部分がパネル部品への取付け部となる。
前記アウターパネルは、車両にドアが取り付けられた状態では、少なくとも車両前後に沿って湾曲した板形状となっている。本実施形態では、前記アウターパネルの前記湾曲した方向(車両前後方向)を湾曲方向とも呼ぶ。なお、パネル部品に対し加飾品や他の部品などが別途取り付けられていても良い。
【0016】
また、前記取り付けられる補強部材は、前記湾曲方向に沿った方向に軸を向けて配置される。前記湾曲方向に沿った方向とは、前記湾曲方向と一致した方向でも良いし、その湾曲方向に対して上下に傾いた方向であっても良い。補強部材は、棒状でも板状でも、ボックス形状などであっても良い。補強部材は、補強部材の軸方向に延在する形状の部材であればよい。
【0017】
ここで、ドア用の補強部材は、通常、棒状の形状(バー形状)となっている。この補強部材は、インナーパネル部品に取り付けられる。その状態で、その補強部材とアウターパネルとは、2以上の取付け部(マスチック接合部)において、熱発泡樹脂等の接合部材によってそれぞれ接合、すなわちマスチック接合がなされる。この補強部材によって、アウターパネルは、外力による変形に対して補強部材の剛性をもって補強されることで、張り剛性が高められる。
取付け部(マスチック接合部)は、補強部材の軸方向に沿って全面に設定されず、互いの取付け部間に間隔を開けて設定される。
【0018】
前記の構造的要因について、発明者らは、有限要素解析により補強部材の位置、マスチック接合位置(パネル部品に対する補強部材の取付け部位置)、及び補強部材の断面係数(本実施形態では断面二次極モーメントで代表させる)が張り剛性の上昇に対してどのように影響を及ぼすのかについて調査を行った。
その調査のために解析に用いたモデルの例を図1〜図3に示す。
図1は、対象のパネル部品となるアウターパネル2のモデルであり、諸元として板厚0.7mm、平均メッシュサイズ10mmに設定した。図2は、インナーパネル3に補強部材4が一体となったモデルであり、諸元として板厚1.2mm、平均メッシュサイズ7.5mmに設定したモデルである。図2では、補強部材4としてインパクトビームの場合を例示している。図3は、図2のモデルから中央を横切るインパクトビーム(補強部材4)を取り除いたモデルである。
【0019】
更に、前記図2及び図3のモデルからなる各インナーパネル3に対して、それぞれ図1のモデルのアウターパネル2を組み合わせることで、2種類の自動車用ドア1のモデルとした。
そして、これら2種類のドア1のモデルを用いてアウターパネル2上の任意の位置の張り剛性の測定を、補強部材4の位置、マスチック接合の位置、補強部材4の形状を種々に変えて行い、張り剛性に与える各因子の影響を整理した。
【0020】
実験した結果からは、補強部材4を取り付ける前に比較して、補強部材4を取り付けた後のパネル部品上の各部の張り剛性は、マスチック接合位置に近い部分ほど上昇する。また、最も近いマスチック接合位置が同じであっても、補強部材4の軸に近い方が張り剛性は上昇する。この理由は、補強部材4の軸から離れるにしたがい補強部材4に掛かるねじりモーメントが大きくなるからである。また、補強部材4の断面二次極モーメントIが高いほど張り剛性は上昇する。これは断面二次極モーメントIが高いほどねじり変形に対する抵抗が大きくなるためである。ここで、補強部材4の断面二次極モーメントIは、以下の式によって導かれる。但し、対象とする補強部材4の断面Aの図心を原点とし、図4に示すように、補強部材4の軸方向をx軸、x軸に直交する方向にy軸、z軸を取る。Iy、Izは断面二次モーメントである。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、図5に示すように、パネル部品上の任意の位置に対する、最も近いマスチック接合位置5までの距離を取付位置最短距離dm、補強部材4の軸Lまでの最短距離を軸位置最短距離drと定義する。また、取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drの和を評価変数距離Dと定義する。ここで、前記補強部材4の軸Lは、補強部材4の断面の図心の位置を通り且つ補強部材4の長手方向に延在する軸である。
【0023】
そして、前記検討を基に、パネル部品上の任意の位置の張り剛性上昇率Qと、前記評価変数距離Dとの関係について有限要素解析からデータを求めた。解析に用いたモデルは前記、図1のモデルと図2及び図3のモデルを組み合わせたモデルである。解析ソフトにはLS−DYNAver971d R3.2.1(Livermore Software Technology Corporation社製)を用いた。解析には静的陰解法を用いた。図1のモデルと図3のモデルを組み合わせたモデルから補強部材の配されていない場合のアウターパネルの張り剛性値(張り剛性値A)を求めることができる。また、図1のモデルと図2のモデルを組み合わせたモデルからは補強部材を配した場合のアウターパネルの張り剛性値(張り剛性値B)を求めることができる。アウターパネルのモデル、メッシュ形状は同じであるため、それぞれのモデルにおける同じ位置の張り剛性値を比較することにより、張り剛性の上昇率Qを求める事ができる。このとき、張り剛性の上昇率Qは、下記式に基づき算出した。
Q=(張り剛性値B−張り剛性値A)/張り剛性値A×100
【0024】
また、評価変数距離Dは補強部材を構成するノードの座標とアウターパネルを構成するノードからそれぞれ距離を算出し決定した。ここで、張り剛性上昇率Qと、前記評価変数距離Dとの関係について整理したところ図6に示す結果を得た。
なお、張り剛性の上昇率Qは、補強部材4の断面二次極モーメントIにも影響を受けるので、張り剛性の上昇率Qは、前記評価変数距離Dと前記断面二次極モーメントIを変数として求める事が出来る。もっとも、補強部材4の断面形状が決定されている場合には、評価変数距離Dだけが変数となる。また、上記解析に用いたモデルは、一例であり、他の公知のモデルを採用しても良い。
なお、別のアウターパネルについても実施してみたところ、図6と同様な分布関係になっていることを確認している。
【0025】
張り剛性の上昇率Qと評価変数距離Dとの関係は、図6から分かるように、下に凸の曲線に近似できることが分かる。なお、評価変数距離Dの代わりに、取付位置最短距離dm又は軸位置最短距離drのいずれか一方の最短距離と張り剛性の上昇率Qとの相関関係についても求めてみたが、図6のよりも分布がばらついていた。
なお、張り剛性の上昇率Qと評価変数距離Dとの相関関係を表す近似式(関数)としては、前記図6に示すデータの分布に沿った、反比例関数、正接関数、指数関数、区間に分けての近似直線の集合等が利用できる。また、図6の分布を表すマップを、張り剛性の上昇率Qと評価変数距離Dとの相関関係として利用しても良い。
【0026】
図6に、反比例関数による近似曲線Aの例を示す。図7に、正接関数による近似曲線Bの例を示す。図8に、区間内直線近似での近似直線の集合からなる近似曲線Cの例を示す。
ここで、張り剛性の上昇率Qの低い領域が、実際のパネル部品を評価する上で特に問題となる。このため、本実施形態では、前記近似曲線として、張り剛性の上昇率Qの低い領域で出来るだけ実験値を近似するように係数を設定した。
【0027】
そのような近似曲線A,近似曲線B、近似曲線Cの近似式の例を、次に示す。
「近似曲線A」
Q =(I/5882)0.25
×(1000/(D−60)−1.5) ・・・(1)
但し D ≧65[mm]
(Dの好適範囲は 250[mm]<D<350[mm])
「近似曲線B」
Q =(I/5882)0.25
×(−0.08+0.3tan(100/D))×100
・・・(2)
但し D ≧65[mm]
Dの好適範囲は 240[mm]<D<400[mm]
なお、Qが負となる場合はQ=0とする。
【0028】
「近似曲線C」
Q =(I/5882)0.25×(−9D+385)
(65[mm]<D<80[mm])
Q =(I/5882)0.25×(−0.5D+105)
(80[mm]≦D<170[mm])
Q =(I/5882)0.25×(−0.125D+41.25)
(170[mm]≦D<250[mm])
Q =(I/5882)0.25×(−0.03D+17.5)
(250[mm]≦D)
ただし、Qが負となる場合はQ=0とする。
・・・(3)
【0029】
前記各近似式から分かるように、張り剛性の上昇率Qは、下記式で表すことができる。
Q =(I/5882)0.25×ΔQ
= F(I)×ΔQ
すなわち、補強部材の断面二次極モーメントIから求まるF(I)と、評価変数距離Dから求まる上昇係数ΔQとに分離することが出来る。このため、補強部材の形状を限定せずに、評価変数距離Dから上昇係数ΔQを求めることが可能となる。
そして、前記張り剛性の上昇率Q若しくは上昇係数ΔQが、張り剛性の上昇の度合いに対応する。
【0030】
ここで、前記近似式(1)〜(3)において、評価変数距離D(=dm+dr)が65mmとなる値を境界として、それ以上もしくはそれよりも大きな値に適用している理由は、次の通りである。すなわち、「D <65mm」という範囲は十分にマスチック接合位置(取付け部位置5)に近く、補強部材4を取り付ける前と比較して補強部材4を取り付けることによって十分に張り剛性は上昇しており、張り剛性が低くて問題となる位置となることは無いと考えられるためである。
【0031】
このように、評価変数距離D(=dm+dr)が65mm未満の範囲は、図6に示すように、十分に張り剛性は上昇していると想定されるので、その部分については無条件に目標張り剛性まで上昇と判定して、前記近似曲線Bの近似式((2)式)だけを使用して、補強部材4を取り付けることによる各評価点の張り剛性の上昇を評価するようにしても良い。
【0032】
前記のような近似式を用いることで、パネル部品上の任意の点において、補強部材4の軸Lまでの軸位置最短距離dr、最も近いマスチック接合位置までの取付位置最短距離dm、および補強部材4の断面二次極モーメントIを近似式に代入することにより張り剛性の上昇率Qを精度良く見積もる事が可能となる。
【0033】
ここで、補強部材4を取り付ける前の状態での張り剛性の値は、実験、有限要素解析等で求める事は可能である。このとき、パネル部品全体の評価を行う事、およびその後マスチック接合位置との距離dm、補強部材4の軸Lとの距離drを求める事を考えた場合、有限要素解析で行うことが望ましい。すなわち、対象とするパネル部品の面に沿って、予め座標を設定してその後の処理をすることが好ましい。
張り剛性上昇率Qの算出に用いる近似式は、補強部材を入れる前の張り剛性値と仮に決定した位置に補強部材を入れた場合の張り剛性値をそれぞれ有限要素解析から求め、張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dの関係を図6のように整理し、整理した結果に近似するように決定する。張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dの関係はD=0でQは最大値を取り、Dが大きくなるに従いQは小さくなる関係となるため近似曲線は反比例関数、正接関数、または区間内直線近似の集合からなる曲線で近似することが望ましい。もちろん、張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dを整理した結果と良い相関を取るのであれば近似曲線は指数関数、対数関数、n次関数(nは1以上の整数)等で近似することも可能である。以降、補強部材の配置を変えても張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dの関係は前記の手順に従い決定された近似式に従うため、前記近似式の決定手順は一度行うだけでよい。すなわち、近似式を決定するために必要な有限要素解析の回数は二回となる。張り剛性上昇率Qの算出は、アウターパネル上の張り剛性上昇率を算出したい位置と補強部材の位置関係からdm及びdrを決定し、評価変数距離Dを求め、前記近似式に代入することにより行う。前記張り剛性上昇率Qを算出する計算は手計算で実施してもよい。ただし、パネル部品上の多数の評価点に対して計算を行う場合は表計算ソフト等を用いて自動演算させることが望ましい。
【0034】
(評価方法について)
次に、前記のような近似式を使用することによる、補強部材4を取り付けることによる張り剛性の評価方法の一例について、説明する。
その張り剛性の評価方法の例について、図9のフローチャートを参照して説明する。
ステップS10では、対象とするパネル部品に対し、対象とする補強部材4を取り付けていない状態で、予め設定した評価範囲の各評価点についての張り剛性を、有限要素解析によって求める。有限要素解析は、例えば後述の実施例における比較例の有限要素解析と同じ解析手法を採用すればよい。
【0035】
次に、ステップS20では、対象とする補強部材4の断面形状を決定する。断面形状を決定することで、補強部材4の断面二次極モーメントIが特定される。
次に、ステップS30では、対象とするパネル部品に対して補強部材4を配置する位置及び、パネル部品に対する補強部材4の取付け部位置5を仮決定する。このとき、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部であるマスチック位置の座標を求めて設定する。マスチック位置の座標は、前記直線上に存在する。
ここで、前記パネル部品を有限要素解析する際の座標系に対する、前記直線及び座標として、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部であるマスチック位置の座標を設定すればよい。前記直線は、例えばy切片及び傾き、または、直線の両端部の座標などで設定すれば良い。
【0036】
次に、ステップS40では、各評価点毎にそれぞれ取付位置最短距離dm及び軸位置最短距離drを求め、さらに取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drの和である評価変数距離Dを各評価点毎にそれぞれ求める。なお、評価点の各座標と、前記補強部材4の軸Lを表す直線を特定する情報及び取付け部であるマスチック位置の座標とを入力情報とした、前記評価変数距離Dを求める演算プログラムを作成しておき、その演算プログラムを使用して前記評価変数距離Dを演算させると良い。
【0037】
更にステップS40では、前記求めた各評価点毎の評価変数距離Dを前記近似式(予測式)に代入することで、各評価点の補強部材取付け後の張り剛性の上昇率Qを演算する。このとき、評価変数距離Dが65mm未満の場合には、近似式で演算しないで上昇率Qに固定値を設定するようにしても良い。その後、前記各評価点の位置毎に、前記求めた補強部材取付け後の張り剛性の上昇率Qと補強部材取付け前の張り剛性とを、例えば下記式のように乗算することで、補強部材取付け後の張り剛性をそれぞれ求める。
(補強部材取付け後の張り剛性)=(補強部材取付け前の張り剛性)
×(1+(Q/100))
【0038】
ステップS50では、必要に応じて前記評価点を増やして前記ステップS40の処理を繰り返して実施する。
前記のような処理手順を、パネル部品上の任意の評価範囲内の全ての評価点に対して実施することで、補強部材4を取り付けた際の任意の範囲内の張り剛性の分布の変化を見積もる事が可能となる。このことにより、補強部材4、マスチック接合位置を様々に設定しつつ任意の評価範囲内での張り剛性の分布を調べ、パネル部品上の任意の評価範囲内の張り剛性が要件を満たすように補強部材4の設置位置(補強部材4の配置及びパネル部品への取付け部の位置)を最適化することが可能となる。当然、パネル部品内の任意の評価範囲というのはパネル全面でも構わない。
【0039】
ここで、前記各ステップの処理のうち、少なくともステップS40の処理は、プログラムとして構成することが可能である。例えば図9に示す処理において、ステップS40の処理をソフトとした張り剛性評価装置を用意する。そして、ステップS10及びS20で求めた補強前の張り剛性の情報、補強部材4の断面二次極モーメントI、補強部材4の位置を特定する直線の方程式及びマスチックの位置の情報、及び評価範囲を、ステップS40の処理をソフトとする張り剛性評価装置に入力することで、評価範囲の各評価点における補強部材取付け後の張り剛性を演算させる。出力結果は、表示部に数値や分布などの状態で表示させれば良い。
【0040】
(取付け設計方法)
次に、補強部材4の配置を最適化する取付け設計方法の処理の一例を、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS110では、対象とするパネル部品について、対象とする補強部材4を取り付けていない状態で、予め設定した評価範囲の各評価点についての張り剛性を、有限要素解析によって求める。
【0041】
次に、ステップS120では、対象とする補強部材4の断面形状を決定する。断面形状を決定することで、補強部材4の断面二次極モーメントIが特定される。
次に、ステップS130では、対象とするパネル部品に対して補強部材4を配置する位置及び、パネル部品に対する補強部材4の取付け部位置5を仮決定する。このとき、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部位置5であるマスチック位置の座標を求めて設定する。
なお、前記パネル部品を有限要素解析する際の座標系に対する直線及び座標として、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部位置5であるマスチック位置の座標を設定すればよい。
【0042】
次に、ステップS140では、各評価点毎に取付位置最短距離dm及び軸位置最短距離drを求め、さらに取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drの和である評価変数距離Dをそれぞれ求める。なお、評価点の座標と、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部であるマスチック位置の座標とから、前記評価変数距離Dを演算する演算プログラムを作成しておき、その演算プログラムを使用して前記評価変数距離Dを演算させると良い。
【0043】
更にステップS140では、前記求めた各評価点対応の評価変数距離Dを前記近似式に代入して張り剛性の上昇率Qを求め、その張り剛性の上昇率Qに補強前の張り剛性を乗算することで、各評価点の補強部材取付け後の張り剛性を演算する。このとき、評価変数距離Dが65mm未満の場合には、近似式で演算することなく、固定値を張り剛性の上昇率Qとして採用しても良い。
【0044】
ステップS150では、パネル部品上の最適化を行おうとしている任意の評価範囲の各評価点について、前記処理が終了していない場合にはステップS140に移行して、前記ステップS140の処理を繰り返す。一方、任意の評価範囲の各評価点について全て補強部材取付け後の張り剛性を演算した場合にはステップS160に移行する。
ステップS160では、前記任意の評価範囲の各評価点についての補強部材取付け後の張り剛性が、目標とする張り剛性未満の場合には、ステップS120若しくはステップS130に移行して処理を繰り返す。補強部材取付け後の張り剛性が、目標とする張り剛性以上の場合には処理を終了する。
【0045】
ここで、前記評価範囲は、例えば補強前の張り剛性分布から予め設定した張り剛性以下の値、若しくは最弱部分を含む領域を採用すれば良い。
なお、前記近似式から分かるように、補強部材4の形状を変えて断面二次極モーメントIを増大することで、補強部材取付け後の張り剛性を大きくすることも出来るし、前記任意の評価範囲の各評価点に対する補強部材4の位置やマスチック位置(取付け部の位置)を変更することで補強部材取付け後の張り剛性を変更することが出来る。
【0046】
ここで、前記ステップの処理のうち、少なくともステップS140,S150の処理は、プログラムとして構成することが可能である。例えば図10に示す処理において、ステップS140の処理をソフトとした張り剛性評価装置を用意する。そして、ステップS110及びS120で求めた補強前の張り剛性の情報、補強部材4の断面二次極モーメントI、補強部材4の位置を特定する直線の方程式及びマスチックの位置の情報、及び評価範囲を、ステップS140の処理を行う演算プログラムを備えた張り剛性評価装置に入力することで、評価範囲の各評価点の補強部材取付け後の張り剛性を演算させる。出力結果は、表示部に数値や分布などの状態で表示させれば良い。
【0047】
また、前記近似式から分かるように、断面二次極モーメントIが一定の場合には、評価変数距離D(=dm+dr)が同じ場所では張り剛性の上昇率Qは等しい値となる。このため、張り剛性の上昇率Qは、パネル部品に対してマスチック接合部直上を頂点とした、等高線のような張り剛性の分布を持つ。このことを利用して、補強部材4による補強効果が強く現れる領域を見積もり、その領域がパネル部品内の張り剛性が低い領域をカバーするように補強部材4の位置を決定することによって、簡便にある程度以上の張り剛性を達成するような補強部材4の位置を決定することも可能である。
【0048】
例えば、前記評価点における補強前の張り剛性と前記目標とする張り剛性との差から、前記評価点における最低上昇率を求め、各評価点毎に、前記最低上昇率となる補強部材4の軸位置及びマスチック位置の設定可能範囲を求める。なおマスチック位置は、軸L上に存在する。これを各評価点毎に実施して、全ての評価点の前記設定可能範囲を全て通過する位置に補強部材4の配置を設定することで最適化する。
【0049】
(張り剛性評価装置)
張り剛性評価装置20は、図11に示すように、張り剛性上昇度合い演算部を構成する上昇率演算部20A、及び補強部材取付け後張り剛性演算部20BをCPUが処理するプログラムとして備える。
張り剛性評価装置20への入力情報は、対象とする補強部材4を取り付ける前の状態においてパネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を解析した結果である補強前の張り剛性、前記パネル部品に対する補強部材4の配置位置及び取付け部位置5、及び当該補強部材4の断面二次極モーメントIの情報である。なお、前記解析の際の座標系情報も入力する。
【0050】
張り剛性上昇率演算部20Aは、対象とするパネル部品における前記各評価点の位置に対する取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drとの和である評価変数距離D、及び前記断面二次極モーメントIに基づき、当該補強部材4を取り付けることによる、前記各評価点の張り剛性の上昇の度合いをそれぞれ演算する。
補強部材取付け後張り剛性演算部20Bは、入力された補強前の張り剛性と、前記張り剛性上昇率演算部20Aが演算した張り剛性の上昇の度合いとに基づき、前記補強部材4を取り付けたときの、前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する。
【0051】
具体的には、補強部材取付け後張り剛性演算部20Bは、対応する評価点の補強前の張り剛性に対して、対応する張り剛性の上昇率を乗算することで、補強部材取付け後の張り剛性を求める。
なお、張り剛性評価装置20への入力及び出力は、例えばタッチパネルなどの表示部上で実施すれば良い。
【0052】
ここで、前記実施形態では、パネル部品に取り付ける補強部材4が1本の場合を例示したが、二本以上の補強部材4を取り付ける場合であっても本発明手法を適用することも可能である。その場合、補強部材4の軸Lまでの軸位置最短距離drは、最も近いマスチック接合位置を保持する補強部材4の軸Lまでの距離とする。
以上のように、本発明に基づく本実施形態を採用すると、予め対象とする補強部材4を取り付ける前の張り剛性を求めておけば、対象とする補強部材4を取り付けることによる予め設定した各評価点位置における補強部材取付け後の張り剛性を、簡便に求めることが可能となる。このため、補強部材4の配置の最適化が簡便に実施することが可能となる。
【実施例】
【0053】
次に、前記実施形態に基づく補強部材4の最適配置に関する実施例について説明する。
図12は、本実施例の自動車ドア1の構成を示す斜視図である。ドア1は、図12に示すように、アウターパネル2とインナーパネル3を貼り合わせたパネル構造体となっており、それらの間に補強部材4を装着する。補強部材4は、接着剤を介してアウターパネル2の内面に接着されて取り付けられる。
【0054】
前記アウターパネル2の板厚は0.65mmとした。アウターパネル2が、対象とする張り剛性を補強するパネル部品となる。
ここで実施例の材質は、下記のような弾性率その他の値となっていた。
弾性率(ヤング率):210GPa 、YP:285MPa 、TS:345MPa、一様伸び:20.1%
本実施形態に基づく補強部材4の配置の評価による補強部材4の最適化と、比較例による補強部材4の配置の評価による補強部材4の最適化について比較を行った。
補強部材4の最適位置は、図13に示すように、その補強部材4の両端位置によって選定した、すなわち、図13に示す10点ずつの点群M及び点群Nから、それぞれ一点ずつ選んで形成される軸Lを持った補強部材4の配置を100通り想定し、それらのうちパネル部品上の張り剛性の最弱位置の張り剛性が最も高くなるときの位置を最適位置とした。
【0055】
また、マスチック接合位置は補強部材4上に5点、等間隔に設置した。なお、前記実施形態の手順に従い、マスチック接合位置(パネル部品への取付け部位置5)の最適化を行うこともちろん可能である。
また、補強部材4は図14に示すような板厚1mmの一定断面のハット型の形状とした。この補強部材4の断面二次極モーメントIは5161(mm4)であった。
【0056】
比較例では、次の有限要素解析を繰り返し実施した。
すなわち、有限要素解析として、解析ソフトにLS−DYNAver971d R3.2.1(Livermore Software Technology Corporation社製)を用いた。解析したモデル例を図15に示す。図15のモデルの平均メッシュサイズは、アウターパネル2が10mm、インナーパネル3および補強部材4が7.5mm、全ノード数が30728、アウターパネル2上の、解析対象とする領域内のノード数が1930点である。解析は静的陰解法を用いた。
【0057】
次に、比較例による有限要素解析の処理を、図16を参照して説明する。
先ずステップS210にて、補強部材4の形状を決定する。そして、補強部材4の断面二次極モーメントIを求める。
次に、ステップS220にて、補強部材4を配置する位置及びマスチックを付ける位置を仮決定して、有限要素解析モデルを作製する。
【0058】
次に、ステップS230にて、ステップS220にて作製した有限要素解析モデルを用いて、アウターパネル2上の任意の位置のノードに対して荷重若しくは変位を与え、荷重−変位曲線を得る。
次に、ステップS240では、アウターパネル2上の張り剛性を評価したい検出領域内の全てのノード(評価点)に対して、ステップS230の処理をしたか判定する。終了していない場合にはステップS230の処理を繰り返す。終了している場合にはステップS250に移行する。
【0059】
ステップS250では、求めた荷重−変位曲線から得られる張り剛性の値のうち、最小の値が水準に達しているか否かを判定する。条件を満足していなければステップS220に移行する。条件を満足したら処理を終了する。
これを、前記100通りについて実施して、最弱位置の張り剛性が一番上昇する位置を最適位置とする。
【0060】
一方、前記実施形態に基づく本発明例では、上述の図10に示す処理によって補強部材4の最適化を実施した。なお、近似式として、前記(2)式を採用した。
以上の計算の結果、補強部材4の最適配置は図17の位置に決定された。
表1に、最適配置に補強部材4を設置した場合について、図18に示される位置の点A、Bについての本発明手法で得られる、2mm押下するのに必要な荷重の予測値、ならびに前記比較例による前記有限要素解析を行い得られた場合の2mm押下するのに必要な荷重、およびそれらの荷重を導出するのに必要な時間を記す。
【0061】
【表1】
【0062】
ここで、図18に示す点A,Bの位置はそれぞれ、補強部材4をパネル部品であるアウターパネル2の中央を横断するように配置した場合(図19参照)の張り剛性が最弱である点をA、補強部材4を最適位置に配置した場合(図17参照)の張り剛性が最弱となる点をBとした。
表1から分かるとおり、本発明手法によって導かれる予測値(評価値)と、そのつど有限要素解析を行って求められた荷重とはほぼ等しいことが分かる。すなわち、本発明手法による予測値(評価値)が精度が高いことが分かる。
【0063】
しかし、導出に必要な時間は、図16の処理から分かるように、比較例の方法では補強部材4の位置を変更するごとに有限要素解析を行わなければならならないことから、配置の最適化を行う場合は補強部材4の設置位置のパターンの数だけ解析の計算を繰り返す必要がある。上述の条件では、100通りの補強部材4の配置パターンの中から最適位置を見つけるためには、100回の解析が要求されるので、一回の解析にかかる時間の100倍の時間が必要となる。
【0064】
これに対し、本発明に基づく実施形態を採用した場合には、有限要素解析の処理は補強部材4を入れない場合、及び補強部材4の配置を設置候補位置から任意の位置に仮設定し行う場合の二回行えばよい。前記二回の有限要素解析を行うことにより張り剛性上昇率と評価変数距離Dの関係を求める事ができ、近似式を決定することができる。以降は有限要素解析を行わずとも近似式に評価変数距離Dを代入することにより張り剛性上昇率Qを求めることが可能となるため、単純計算で補強部材4による補強効果(張り剛性上昇の度合い)を見積もることが可能となる。このため、圧倒的に本発明手法の方が時間も短く且つ工数も大幅に低減できた。
【0065】
また、本発明手法に基づく本実施形態を採用した場合に、実際の張り剛性が予測できているか確認するための試験を行った。
図19に示すように補強部材4がアウターパネル2の中央を横断するように設置した場合と、本発明による最適位置に設置した場合(図17参照)とで、図18で示した点A、Bに対して試験を行った。試験は、図20に示すように試験位置(A点、B点)を直径45mmのゴム圧子で外側(補強部材の取付け面と反対側)から押下し、荷重と変位の関係を求めた。評価は、2mm変位した時点での荷重が40Nを超えていれば可、40N以下であれば不可とした。
表2に、補強部材4の配置の最適化を行った場合(図17参照)と単にパネル中央に補強部材4を配置した場合(図19参照)との2つの例における評価結果を示す。
【表2】
【0066】
表2に示されるように、最適化を行った場合は最弱位置の張り剛性は可となるが、最適化を行わなかった場合は不可となっている。またそれぞれの評価位置での荷重について、本発明例は実測値とほぼ一致しており、本発明手法によって補強部材4の設置による張り剛性の予測が精度良く実施できていることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1 ドア
2 アウターパネル
3 インナーパネル
4 補強部材
5 マスチック接合位置(マスチック位置)
20 張り剛性評価装置
20A 張り剛性上昇率演算部(張り剛性上昇度合い演算部)
20B 補強部材取付け後張り剛性演算部
D 評価変数距離
dm 取付位置最短距離
dr 軸位置最短距離
I 断面二次極モーメント
L 軸
Q 張り剛性の上昇率
ΔQ 上昇係数
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアやルーフなどのパネル部品の張り剛性を補強する技術に関する。特に、本発明は、パネル部品に対し補強部材を取り付けた後の張り剛性を簡便に計算したり、パネル部品に対する補強部材の配置最適化をより簡便に求めたりするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のパネル部品(ドア、フード、ルーフ等)に求められる特性のひとつとして張り剛性が挙げられる。例えばドアのアウターパネルの張り剛性が低い場合には、その部分を押圧した際に、所謂ぺこぺこ感が発生し、車両の高級感を損ない、また車両走行時の風等に起因する振動によって騒音等の原因になるおそれがある。
従来、張り剛性を評価する場合には、実際に押圧試験を実施し、また、有限要素解析その他の解析を実施するなどの手法が採用されている。
【0003】
また、パネル部品の張り剛性を高めるためには、補強部材を取り付けることが有効な手段である。このとき、補強部材、および補強部材とパネル部品を接着する位置(マスチック接合位置=取付け部位置)により、パネル全体の張り剛性は変化する。そして、補強部材を設置する好適な位置を調べる方法としては、特許文献1や特許文献2に記載されているような方法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3786171号公報
【特許文献2】特開平7−33048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来技術では、パネル部品に対する補強部材の取付け位置を設定する度に有限要素解析法などによって、張り剛性の解析を行う必要がある。すなわち、補強部材が最適な位置となるまで、何度も補強部材の配置を変更する必要があるが、補強部材の位置を変更するたびに有限要素解析を繰り返す必要があるため、計算が面倒であったりして工数が掛かる。
本発明は、前記のような点に着目したもので、補強部材を取り付けた状態の張り剛性を簡便に評価できる、若しくは目標となる張り剛性とするための補強部材の配置位置を簡便に求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、解析のコストや工数を低減するため、補強部材を取り付けたときの張り剛性の上昇の度合いを、有限要素解析などの解析をできるだけ行わずに予測できないか調査及び検討を行った。その結果、パネル上の任意の位置における張り剛性の上昇は、補強部材を取り付けていない状態の張り剛性に対して、その任意位置から補強部材の軸までの距離、及びその任意位置から最寄りのマスチック接合位置(パネル部品への取付け部位置)までの距離の両方の和を変数とすることで、精度良く求めることが出来るという知見を得た。
【0007】
すなわち、前記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、少なくとも一方向に沿って湾曲した状態のパネル部品に対し、前記一方向に沿った方向に沿って延在する補強部材を取り付けることによる、当該パネル部品の張り剛性の上昇を評価する張り剛性評価方法であって、
前記パネル部品に設定した評価位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離に基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、前記評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関関係を予め求めておき、その予め求めた相関関係を利用して、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする。
次に、請求項3に記載した発明は、対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を補強前の張り剛性として求めると共に、
前記請求項1又は請求項2に記載した張り剛性評価方法によって、前記対象とする補強部材を取り付けることによる前記評価範囲の各評価点での張り剛性の上昇の度合いを求め、その求めた上昇の度合いと補強前の張り剛性とに基づき、前記対象とする補強部材を取り付けることによる、前記評価範囲の各評価点の張り剛性を評価することを特徴とする張り剛性評価方法を提供するものである。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した張り剛性評価方法に基づき、前記評価範囲での張り剛性が目標とする目標張り剛性以上となる、前記補強部材の配置、及び当該補強部材のパネル部品への取付け部位置の少なくとも一方を選定することを特徴とする補強部材の取付け設計方法を提供するものである。
【0010】
次に、請求項5に記載した発明は、対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を解析した結果である補強前の張り剛性、前記パネル部品に対する補強部材の配置位置及び取付け部位置、及び当該補強部材の断面二次極モーメントの情報が入力され、その入力した情報に基づいて、前記補強部材を取り付けた後の前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する張り剛性評価装置であって、
前記パネル部品における前記各評価点の位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離、及び前記断面二次極モーメントに基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記各評価点の張り剛性の上昇の度合いをそれぞれ演算する張り剛性上昇度合い演算部と、
前記入力した補強前の張り剛性と、前記張り剛性上昇度合い演算部が演算した張り剛性上昇の度合いとに基づき、前記補強部材を取り付けたときの前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する補強部材取付け後張り剛性演算部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補強部材の設置や、補強部材の配置位置又はパネル部品への取付け部位置(マスチック接合位置)の変更によるパネル部品の張り剛性の変化を、短時間で簡便に見積もることが可能となる。またこのことは、補強部材の配置の最適化を短時間で且つ簡便に行う事が可能となる。
ここで、補強部材を取り付けた際における、前記取付位置最短距離若しくは軸位置最短距離のいずれか一方の最短距離と張り剛性の上昇の度合いとの関係も求めてみたが、さほど精度の良い相関を得ることが出来なかった。さらに本発明者らは、その取付位置最短距離と軸位置最短距離との和である評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関を求めてみたところ、前記取付位置最短距離若しくは軸位置最短距離のいずれか一方の最短距離を変数とした場合に比べて、張り剛性の上昇の度合いとの相関が良かった。このような発明者らの知見に基づき、本発明は、前記評価変数距離に基づき、補強部材を取り付けることによる張り剛性の上昇を評価している。これによって、簡便且つより精度良く補強部材取付けによる張り剛性の上昇を評価することが可能となる。
【0012】
また、パネル部品を代えて同様の評価試験をしてみたところ、評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関はいずれも同じような関係が得られた。すなわち、対象とするパネル部品によって、係数その他について多少の調整を実施する必要が発生する可能性はあるが、同様な関数やマップに基づいて、複数種類のパネル部品の張り剛性の評価に対応することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るアウターパネルのモデルを説明する図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る補強部材を取り付けたインナーパネルのモデルを説明する図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る補強部材の取付け前のインナーパネルのモデルを説明する図である。
【図4】座標を示す図である。
【図5】取付位置最短距離dm、軸位置最短距離drを説明する図である。
【図6】評価変数距離と張り剛性の上昇率との関係及び近似曲線Aを示す図である。
【図7】近似曲線Bを示す図である。
【図8】近似曲線Cを示す図である。
【図9】本発明に基づく実施形態に係る評価方法を説明する図である。
【図10】本発明に基づく実施形態に係る最適化方法を説明する図である。
【図11】本発明に基づく実施形態に係る張り剛性評価装置の構成を示す図である。
【図12】実施例に係るドアを示す図であって、(a)はアウターパネルの外面を(b)はインナーパネルの内面をそれぞれ示す。
【図13】実施例における取付け点群M及びNを示す図である。
【図14】実施例における補強部材の断面形状を示す図である。
【図15】実施例におけるドアのモデルを示す図であって、(a)はアウターパネルのモデルを示す図で、(b)はインナーパネルのモデルを示す図である。
【図16】比較例での有限要素解析の方法を説明する図である。
【図17】補強部材の最適位置を示す図である。
【図18】張り剛性が最弱の位置A、Bを示す図である。
【図19】補強部材を中央に配置した図である。
【図20】押圧(実験)によって張り剛性を検出する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本実施形態の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、車両のドア部品におけるアウターパネルを、補強対象のパネル部品の例として説明する。但し、車両におけるルーフ部品などに本発明を適用しても構わない。すなわち、本発明の技術は、自動車のドアに限定して適用されるものではなく、例えば自動車のルーフ、ボンネット等のパネル部品であって、補強部材によって補強されるパネル部品に適用可能である。このように、本発明の技術は、少なくとも一方向に沿って湾曲した板部材からなるパネル部品であって、そのパネル部品の外縁部が拘束された状態で使用されるパネル部品であれば適用可能である。
【0015】
(パネル部品と補強部材の関係について)
ドア部品は、インナーパネルとアウターパネルとを備える。そして、例えばインナーパネルに両端部等が固定された補強部材に対し、複数の取付け部でアウターパネルとマスチック接合することで、アウターパネルに補強部材が取り付けられる。マスチック接合する部分がパネル部品への取付け部となる。
前記アウターパネルは、車両にドアが取り付けられた状態では、少なくとも車両前後に沿って湾曲した板形状となっている。本実施形態では、前記アウターパネルの前記湾曲した方向(車両前後方向)を湾曲方向とも呼ぶ。なお、パネル部品に対し加飾品や他の部品などが別途取り付けられていても良い。
【0016】
また、前記取り付けられる補強部材は、前記湾曲方向に沿った方向に軸を向けて配置される。前記湾曲方向に沿った方向とは、前記湾曲方向と一致した方向でも良いし、その湾曲方向に対して上下に傾いた方向であっても良い。補強部材は、棒状でも板状でも、ボックス形状などであっても良い。補強部材は、補強部材の軸方向に延在する形状の部材であればよい。
【0017】
ここで、ドア用の補強部材は、通常、棒状の形状(バー形状)となっている。この補強部材は、インナーパネル部品に取り付けられる。その状態で、その補強部材とアウターパネルとは、2以上の取付け部(マスチック接合部)において、熱発泡樹脂等の接合部材によってそれぞれ接合、すなわちマスチック接合がなされる。この補強部材によって、アウターパネルは、外力による変形に対して補強部材の剛性をもって補強されることで、張り剛性が高められる。
取付け部(マスチック接合部)は、補強部材の軸方向に沿って全面に設定されず、互いの取付け部間に間隔を開けて設定される。
【0018】
前記の構造的要因について、発明者らは、有限要素解析により補強部材の位置、マスチック接合位置(パネル部品に対する補強部材の取付け部位置)、及び補強部材の断面係数(本実施形態では断面二次極モーメントで代表させる)が張り剛性の上昇に対してどのように影響を及ぼすのかについて調査を行った。
その調査のために解析に用いたモデルの例を図1〜図3に示す。
図1は、対象のパネル部品となるアウターパネル2のモデルであり、諸元として板厚0.7mm、平均メッシュサイズ10mmに設定した。図2は、インナーパネル3に補強部材4が一体となったモデルであり、諸元として板厚1.2mm、平均メッシュサイズ7.5mmに設定したモデルである。図2では、補強部材4としてインパクトビームの場合を例示している。図3は、図2のモデルから中央を横切るインパクトビーム(補強部材4)を取り除いたモデルである。
【0019】
更に、前記図2及び図3のモデルからなる各インナーパネル3に対して、それぞれ図1のモデルのアウターパネル2を組み合わせることで、2種類の自動車用ドア1のモデルとした。
そして、これら2種類のドア1のモデルを用いてアウターパネル2上の任意の位置の張り剛性の測定を、補強部材4の位置、マスチック接合の位置、補強部材4の形状を種々に変えて行い、張り剛性に与える各因子の影響を整理した。
【0020】
実験した結果からは、補強部材4を取り付ける前に比較して、補強部材4を取り付けた後のパネル部品上の各部の張り剛性は、マスチック接合位置に近い部分ほど上昇する。また、最も近いマスチック接合位置が同じであっても、補強部材4の軸に近い方が張り剛性は上昇する。この理由は、補強部材4の軸から離れるにしたがい補強部材4に掛かるねじりモーメントが大きくなるからである。また、補強部材4の断面二次極モーメントIが高いほど張り剛性は上昇する。これは断面二次極モーメントIが高いほどねじり変形に対する抵抗が大きくなるためである。ここで、補強部材4の断面二次極モーメントIは、以下の式によって導かれる。但し、対象とする補強部材4の断面Aの図心を原点とし、図4に示すように、補強部材4の軸方向をx軸、x軸に直交する方向にy軸、z軸を取る。Iy、Izは断面二次モーメントである。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、図5に示すように、パネル部品上の任意の位置に対する、最も近いマスチック接合位置5までの距離を取付位置最短距離dm、補強部材4の軸Lまでの最短距離を軸位置最短距離drと定義する。また、取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drの和を評価変数距離Dと定義する。ここで、前記補強部材4の軸Lは、補強部材4の断面の図心の位置を通り且つ補強部材4の長手方向に延在する軸である。
【0023】
そして、前記検討を基に、パネル部品上の任意の位置の張り剛性上昇率Qと、前記評価変数距離Dとの関係について有限要素解析からデータを求めた。解析に用いたモデルは前記、図1のモデルと図2及び図3のモデルを組み合わせたモデルである。解析ソフトにはLS−DYNAver971d R3.2.1(Livermore Software Technology Corporation社製)を用いた。解析には静的陰解法を用いた。図1のモデルと図3のモデルを組み合わせたモデルから補強部材の配されていない場合のアウターパネルの張り剛性値(張り剛性値A)を求めることができる。また、図1のモデルと図2のモデルを組み合わせたモデルからは補強部材を配した場合のアウターパネルの張り剛性値(張り剛性値B)を求めることができる。アウターパネルのモデル、メッシュ形状は同じであるため、それぞれのモデルにおける同じ位置の張り剛性値を比較することにより、張り剛性の上昇率Qを求める事ができる。このとき、張り剛性の上昇率Qは、下記式に基づき算出した。
Q=(張り剛性値B−張り剛性値A)/張り剛性値A×100
【0024】
また、評価変数距離Dは補強部材を構成するノードの座標とアウターパネルを構成するノードからそれぞれ距離を算出し決定した。ここで、張り剛性上昇率Qと、前記評価変数距離Dとの関係について整理したところ図6に示す結果を得た。
なお、張り剛性の上昇率Qは、補強部材4の断面二次極モーメントIにも影響を受けるので、張り剛性の上昇率Qは、前記評価変数距離Dと前記断面二次極モーメントIを変数として求める事が出来る。もっとも、補強部材4の断面形状が決定されている場合には、評価変数距離Dだけが変数となる。また、上記解析に用いたモデルは、一例であり、他の公知のモデルを採用しても良い。
なお、別のアウターパネルについても実施してみたところ、図6と同様な分布関係になっていることを確認している。
【0025】
張り剛性の上昇率Qと評価変数距離Dとの関係は、図6から分かるように、下に凸の曲線に近似できることが分かる。なお、評価変数距離Dの代わりに、取付位置最短距離dm又は軸位置最短距離drのいずれか一方の最短距離と張り剛性の上昇率Qとの相関関係についても求めてみたが、図6のよりも分布がばらついていた。
なお、張り剛性の上昇率Qと評価変数距離Dとの相関関係を表す近似式(関数)としては、前記図6に示すデータの分布に沿った、反比例関数、正接関数、指数関数、区間に分けての近似直線の集合等が利用できる。また、図6の分布を表すマップを、張り剛性の上昇率Qと評価変数距離Dとの相関関係として利用しても良い。
【0026】
図6に、反比例関数による近似曲線Aの例を示す。図7に、正接関数による近似曲線Bの例を示す。図8に、区間内直線近似での近似直線の集合からなる近似曲線Cの例を示す。
ここで、張り剛性の上昇率Qの低い領域が、実際のパネル部品を評価する上で特に問題となる。このため、本実施形態では、前記近似曲線として、張り剛性の上昇率Qの低い領域で出来るだけ実験値を近似するように係数を設定した。
【0027】
そのような近似曲線A,近似曲線B、近似曲線Cの近似式の例を、次に示す。
「近似曲線A」
Q =(I/5882)0.25
×(1000/(D−60)−1.5) ・・・(1)
但し D ≧65[mm]
(Dの好適範囲は 250[mm]<D<350[mm])
「近似曲線B」
Q =(I/5882)0.25
×(−0.08+0.3tan(100/D))×100
・・・(2)
但し D ≧65[mm]
Dの好適範囲は 240[mm]<D<400[mm]
なお、Qが負となる場合はQ=0とする。
【0028】
「近似曲線C」
Q =(I/5882)0.25×(−9D+385)
(65[mm]<D<80[mm])
Q =(I/5882)0.25×(−0.5D+105)
(80[mm]≦D<170[mm])
Q =(I/5882)0.25×(−0.125D+41.25)
(170[mm]≦D<250[mm])
Q =(I/5882)0.25×(−0.03D+17.5)
(250[mm]≦D)
ただし、Qが負となる場合はQ=0とする。
・・・(3)
【0029】
前記各近似式から分かるように、張り剛性の上昇率Qは、下記式で表すことができる。
Q =(I/5882)0.25×ΔQ
= F(I)×ΔQ
すなわち、補強部材の断面二次極モーメントIから求まるF(I)と、評価変数距離Dから求まる上昇係数ΔQとに分離することが出来る。このため、補強部材の形状を限定せずに、評価変数距離Dから上昇係数ΔQを求めることが可能となる。
そして、前記張り剛性の上昇率Q若しくは上昇係数ΔQが、張り剛性の上昇の度合いに対応する。
【0030】
ここで、前記近似式(1)〜(3)において、評価変数距離D(=dm+dr)が65mmとなる値を境界として、それ以上もしくはそれよりも大きな値に適用している理由は、次の通りである。すなわち、「D <65mm」という範囲は十分にマスチック接合位置(取付け部位置5)に近く、補強部材4を取り付ける前と比較して補強部材4を取り付けることによって十分に張り剛性は上昇しており、張り剛性が低くて問題となる位置となることは無いと考えられるためである。
【0031】
このように、評価変数距離D(=dm+dr)が65mm未満の範囲は、図6に示すように、十分に張り剛性は上昇していると想定されるので、その部分については無条件に目標張り剛性まで上昇と判定して、前記近似曲線Bの近似式((2)式)だけを使用して、補強部材4を取り付けることによる各評価点の張り剛性の上昇を評価するようにしても良い。
【0032】
前記のような近似式を用いることで、パネル部品上の任意の点において、補強部材4の軸Lまでの軸位置最短距離dr、最も近いマスチック接合位置までの取付位置最短距離dm、および補強部材4の断面二次極モーメントIを近似式に代入することにより張り剛性の上昇率Qを精度良く見積もる事が可能となる。
【0033】
ここで、補強部材4を取り付ける前の状態での張り剛性の値は、実験、有限要素解析等で求める事は可能である。このとき、パネル部品全体の評価を行う事、およびその後マスチック接合位置との距離dm、補強部材4の軸Lとの距離drを求める事を考えた場合、有限要素解析で行うことが望ましい。すなわち、対象とするパネル部品の面に沿って、予め座標を設定してその後の処理をすることが好ましい。
張り剛性上昇率Qの算出に用いる近似式は、補強部材を入れる前の張り剛性値と仮に決定した位置に補強部材を入れた場合の張り剛性値をそれぞれ有限要素解析から求め、張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dの関係を図6のように整理し、整理した結果に近似するように決定する。張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dの関係はD=0でQは最大値を取り、Dが大きくなるに従いQは小さくなる関係となるため近似曲線は反比例関数、正接関数、または区間内直線近似の集合からなる曲線で近似することが望ましい。もちろん、張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dを整理した結果と良い相関を取るのであれば近似曲線は指数関数、対数関数、n次関数(nは1以上の整数)等で近似することも可能である。以降、補強部材の配置を変えても張り剛性上昇率Qと評価変数距離Dの関係は前記の手順に従い決定された近似式に従うため、前記近似式の決定手順は一度行うだけでよい。すなわち、近似式を決定するために必要な有限要素解析の回数は二回となる。張り剛性上昇率Qの算出は、アウターパネル上の張り剛性上昇率を算出したい位置と補強部材の位置関係からdm及びdrを決定し、評価変数距離Dを求め、前記近似式に代入することにより行う。前記張り剛性上昇率Qを算出する計算は手計算で実施してもよい。ただし、パネル部品上の多数の評価点に対して計算を行う場合は表計算ソフト等を用いて自動演算させることが望ましい。
【0034】
(評価方法について)
次に、前記のような近似式を使用することによる、補強部材4を取り付けることによる張り剛性の評価方法の一例について、説明する。
その張り剛性の評価方法の例について、図9のフローチャートを参照して説明する。
ステップS10では、対象とするパネル部品に対し、対象とする補強部材4を取り付けていない状態で、予め設定した評価範囲の各評価点についての張り剛性を、有限要素解析によって求める。有限要素解析は、例えば後述の実施例における比較例の有限要素解析と同じ解析手法を採用すればよい。
【0035】
次に、ステップS20では、対象とする補強部材4の断面形状を決定する。断面形状を決定することで、補強部材4の断面二次極モーメントIが特定される。
次に、ステップS30では、対象とするパネル部品に対して補強部材4を配置する位置及び、パネル部品に対する補強部材4の取付け部位置5を仮決定する。このとき、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部であるマスチック位置の座標を求めて設定する。マスチック位置の座標は、前記直線上に存在する。
ここで、前記パネル部品を有限要素解析する際の座標系に対する、前記直線及び座標として、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部であるマスチック位置の座標を設定すればよい。前記直線は、例えばy切片及び傾き、または、直線の両端部の座標などで設定すれば良い。
【0036】
次に、ステップS40では、各評価点毎にそれぞれ取付位置最短距離dm及び軸位置最短距離drを求め、さらに取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drの和である評価変数距離Dを各評価点毎にそれぞれ求める。なお、評価点の各座標と、前記補強部材4の軸Lを表す直線を特定する情報及び取付け部であるマスチック位置の座標とを入力情報とした、前記評価変数距離Dを求める演算プログラムを作成しておき、その演算プログラムを使用して前記評価変数距離Dを演算させると良い。
【0037】
更にステップS40では、前記求めた各評価点毎の評価変数距離Dを前記近似式(予測式)に代入することで、各評価点の補強部材取付け後の張り剛性の上昇率Qを演算する。このとき、評価変数距離Dが65mm未満の場合には、近似式で演算しないで上昇率Qに固定値を設定するようにしても良い。その後、前記各評価点の位置毎に、前記求めた補強部材取付け後の張り剛性の上昇率Qと補強部材取付け前の張り剛性とを、例えば下記式のように乗算することで、補強部材取付け後の張り剛性をそれぞれ求める。
(補強部材取付け後の張り剛性)=(補強部材取付け前の張り剛性)
×(1+(Q/100))
【0038】
ステップS50では、必要に応じて前記評価点を増やして前記ステップS40の処理を繰り返して実施する。
前記のような処理手順を、パネル部品上の任意の評価範囲内の全ての評価点に対して実施することで、補強部材4を取り付けた際の任意の範囲内の張り剛性の分布の変化を見積もる事が可能となる。このことにより、補強部材4、マスチック接合位置を様々に設定しつつ任意の評価範囲内での張り剛性の分布を調べ、パネル部品上の任意の評価範囲内の張り剛性が要件を満たすように補強部材4の設置位置(補強部材4の配置及びパネル部品への取付け部の位置)を最適化することが可能となる。当然、パネル部品内の任意の評価範囲というのはパネル全面でも構わない。
【0039】
ここで、前記各ステップの処理のうち、少なくともステップS40の処理は、プログラムとして構成することが可能である。例えば図9に示す処理において、ステップS40の処理をソフトとした張り剛性評価装置を用意する。そして、ステップS10及びS20で求めた補強前の張り剛性の情報、補強部材4の断面二次極モーメントI、補強部材4の位置を特定する直線の方程式及びマスチックの位置の情報、及び評価範囲を、ステップS40の処理をソフトとする張り剛性評価装置に入力することで、評価範囲の各評価点における補強部材取付け後の張り剛性を演算させる。出力結果は、表示部に数値や分布などの状態で表示させれば良い。
【0040】
(取付け設計方法)
次に、補強部材4の配置を最適化する取付け設計方法の処理の一例を、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS110では、対象とするパネル部品について、対象とする補強部材4を取り付けていない状態で、予め設定した評価範囲の各評価点についての張り剛性を、有限要素解析によって求める。
【0041】
次に、ステップS120では、対象とする補強部材4の断面形状を決定する。断面形状を決定することで、補強部材4の断面二次極モーメントIが特定される。
次に、ステップS130では、対象とするパネル部品に対して補強部材4を配置する位置及び、パネル部品に対する補強部材4の取付け部位置5を仮決定する。このとき、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部位置5であるマスチック位置の座標を求めて設定する。
なお、前記パネル部品を有限要素解析する際の座標系に対する直線及び座標として、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部位置5であるマスチック位置の座標を設定すればよい。
【0042】
次に、ステップS140では、各評価点毎に取付位置最短距離dm及び軸位置最短距離drを求め、さらに取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drの和である評価変数距離Dをそれぞれ求める。なお、評価点の座標と、前記補強部材4の軸Lを表す直線の方程式及び取付け部であるマスチック位置の座標とから、前記評価変数距離Dを演算する演算プログラムを作成しておき、その演算プログラムを使用して前記評価変数距離Dを演算させると良い。
【0043】
更にステップS140では、前記求めた各評価点対応の評価変数距離Dを前記近似式に代入して張り剛性の上昇率Qを求め、その張り剛性の上昇率Qに補強前の張り剛性を乗算することで、各評価点の補強部材取付け後の張り剛性を演算する。このとき、評価変数距離Dが65mm未満の場合には、近似式で演算することなく、固定値を張り剛性の上昇率Qとして採用しても良い。
【0044】
ステップS150では、パネル部品上の最適化を行おうとしている任意の評価範囲の各評価点について、前記処理が終了していない場合にはステップS140に移行して、前記ステップS140の処理を繰り返す。一方、任意の評価範囲の各評価点について全て補強部材取付け後の張り剛性を演算した場合にはステップS160に移行する。
ステップS160では、前記任意の評価範囲の各評価点についての補強部材取付け後の張り剛性が、目標とする張り剛性未満の場合には、ステップS120若しくはステップS130に移行して処理を繰り返す。補強部材取付け後の張り剛性が、目標とする張り剛性以上の場合には処理を終了する。
【0045】
ここで、前記評価範囲は、例えば補強前の張り剛性分布から予め設定した張り剛性以下の値、若しくは最弱部分を含む領域を採用すれば良い。
なお、前記近似式から分かるように、補強部材4の形状を変えて断面二次極モーメントIを増大することで、補強部材取付け後の張り剛性を大きくすることも出来るし、前記任意の評価範囲の各評価点に対する補強部材4の位置やマスチック位置(取付け部の位置)を変更することで補強部材取付け後の張り剛性を変更することが出来る。
【0046】
ここで、前記ステップの処理のうち、少なくともステップS140,S150の処理は、プログラムとして構成することが可能である。例えば図10に示す処理において、ステップS140の処理をソフトとした張り剛性評価装置を用意する。そして、ステップS110及びS120で求めた補強前の張り剛性の情報、補強部材4の断面二次極モーメントI、補強部材4の位置を特定する直線の方程式及びマスチックの位置の情報、及び評価範囲を、ステップS140の処理を行う演算プログラムを備えた張り剛性評価装置に入力することで、評価範囲の各評価点の補強部材取付け後の張り剛性を演算させる。出力結果は、表示部に数値や分布などの状態で表示させれば良い。
【0047】
また、前記近似式から分かるように、断面二次極モーメントIが一定の場合には、評価変数距離D(=dm+dr)が同じ場所では張り剛性の上昇率Qは等しい値となる。このため、張り剛性の上昇率Qは、パネル部品に対してマスチック接合部直上を頂点とした、等高線のような張り剛性の分布を持つ。このことを利用して、補強部材4による補強効果が強く現れる領域を見積もり、その領域がパネル部品内の張り剛性が低い領域をカバーするように補強部材4の位置を決定することによって、簡便にある程度以上の張り剛性を達成するような補強部材4の位置を決定することも可能である。
【0048】
例えば、前記評価点における補強前の張り剛性と前記目標とする張り剛性との差から、前記評価点における最低上昇率を求め、各評価点毎に、前記最低上昇率となる補強部材4の軸位置及びマスチック位置の設定可能範囲を求める。なおマスチック位置は、軸L上に存在する。これを各評価点毎に実施して、全ての評価点の前記設定可能範囲を全て通過する位置に補強部材4の配置を設定することで最適化する。
【0049】
(張り剛性評価装置)
張り剛性評価装置20は、図11に示すように、張り剛性上昇度合い演算部を構成する上昇率演算部20A、及び補強部材取付け後張り剛性演算部20BをCPUが処理するプログラムとして備える。
張り剛性評価装置20への入力情報は、対象とする補強部材4を取り付ける前の状態においてパネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を解析した結果である補強前の張り剛性、前記パネル部品に対する補強部材4の配置位置及び取付け部位置5、及び当該補強部材4の断面二次極モーメントIの情報である。なお、前記解析の際の座標系情報も入力する。
【0050】
張り剛性上昇率演算部20Aは、対象とするパネル部品における前記各評価点の位置に対する取付位置最短距離dmと軸位置最短距離drとの和である評価変数距離D、及び前記断面二次極モーメントIに基づき、当該補強部材4を取り付けることによる、前記各評価点の張り剛性の上昇の度合いをそれぞれ演算する。
補強部材取付け後張り剛性演算部20Bは、入力された補強前の張り剛性と、前記張り剛性上昇率演算部20Aが演算した張り剛性の上昇の度合いとに基づき、前記補強部材4を取り付けたときの、前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する。
【0051】
具体的には、補強部材取付け後張り剛性演算部20Bは、対応する評価点の補強前の張り剛性に対して、対応する張り剛性の上昇率を乗算することで、補強部材取付け後の張り剛性を求める。
なお、張り剛性評価装置20への入力及び出力は、例えばタッチパネルなどの表示部上で実施すれば良い。
【0052】
ここで、前記実施形態では、パネル部品に取り付ける補強部材4が1本の場合を例示したが、二本以上の補強部材4を取り付ける場合であっても本発明手法を適用することも可能である。その場合、補強部材4の軸Lまでの軸位置最短距離drは、最も近いマスチック接合位置を保持する補強部材4の軸Lまでの距離とする。
以上のように、本発明に基づく本実施形態を採用すると、予め対象とする補強部材4を取り付ける前の張り剛性を求めておけば、対象とする補強部材4を取り付けることによる予め設定した各評価点位置における補強部材取付け後の張り剛性を、簡便に求めることが可能となる。このため、補強部材4の配置の最適化が簡便に実施することが可能となる。
【実施例】
【0053】
次に、前記実施形態に基づく補強部材4の最適配置に関する実施例について説明する。
図12は、本実施例の自動車ドア1の構成を示す斜視図である。ドア1は、図12に示すように、アウターパネル2とインナーパネル3を貼り合わせたパネル構造体となっており、それらの間に補強部材4を装着する。補強部材4は、接着剤を介してアウターパネル2の内面に接着されて取り付けられる。
【0054】
前記アウターパネル2の板厚は0.65mmとした。アウターパネル2が、対象とする張り剛性を補強するパネル部品となる。
ここで実施例の材質は、下記のような弾性率その他の値となっていた。
弾性率(ヤング率):210GPa 、YP:285MPa 、TS:345MPa、一様伸び:20.1%
本実施形態に基づく補強部材4の配置の評価による補強部材4の最適化と、比較例による補強部材4の配置の評価による補強部材4の最適化について比較を行った。
補強部材4の最適位置は、図13に示すように、その補強部材4の両端位置によって選定した、すなわち、図13に示す10点ずつの点群M及び点群Nから、それぞれ一点ずつ選んで形成される軸Lを持った補強部材4の配置を100通り想定し、それらのうちパネル部品上の張り剛性の最弱位置の張り剛性が最も高くなるときの位置を最適位置とした。
【0055】
また、マスチック接合位置は補強部材4上に5点、等間隔に設置した。なお、前記実施形態の手順に従い、マスチック接合位置(パネル部品への取付け部位置5)の最適化を行うこともちろん可能である。
また、補強部材4は図14に示すような板厚1mmの一定断面のハット型の形状とした。この補強部材4の断面二次極モーメントIは5161(mm4)であった。
【0056】
比較例では、次の有限要素解析を繰り返し実施した。
すなわち、有限要素解析として、解析ソフトにLS−DYNAver971d R3.2.1(Livermore Software Technology Corporation社製)を用いた。解析したモデル例を図15に示す。図15のモデルの平均メッシュサイズは、アウターパネル2が10mm、インナーパネル3および補強部材4が7.5mm、全ノード数が30728、アウターパネル2上の、解析対象とする領域内のノード数が1930点である。解析は静的陰解法を用いた。
【0057】
次に、比較例による有限要素解析の処理を、図16を参照して説明する。
先ずステップS210にて、補強部材4の形状を決定する。そして、補強部材4の断面二次極モーメントIを求める。
次に、ステップS220にて、補強部材4を配置する位置及びマスチックを付ける位置を仮決定して、有限要素解析モデルを作製する。
【0058】
次に、ステップS230にて、ステップS220にて作製した有限要素解析モデルを用いて、アウターパネル2上の任意の位置のノードに対して荷重若しくは変位を与え、荷重−変位曲線を得る。
次に、ステップS240では、アウターパネル2上の張り剛性を評価したい検出領域内の全てのノード(評価点)に対して、ステップS230の処理をしたか判定する。終了していない場合にはステップS230の処理を繰り返す。終了している場合にはステップS250に移行する。
【0059】
ステップS250では、求めた荷重−変位曲線から得られる張り剛性の値のうち、最小の値が水準に達しているか否かを判定する。条件を満足していなければステップS220に移行する。条件を満足したら処理を終了する。
これを、前記100通りについて実施して、最弱位置の張り剛性が一番上昇する位置を最適位置とする。
【0060】
一方、前記実施形態に基づく本発明例では、上述の図10に示す処理によって補強部材4の最適化を実施した。なお、近似式として、前記(2)式を採用した。
以上の計算の結果、補強部材4の最適配置は図17の位置に決定された。
表1に、最適配置に補強部材4を設置した場合について、図18に示される位置の点A、Bについての本発明手法で得られる、2mm押下するのに必要な荷重の予測値、ならびに前記比較例による前記有限要素解析を行い得られた場合の2mm押下するのに必要な荷重、およびそれらの荷重を導出するのに必要な時間を記す。
【0061】
【表1】
【0062】
ここで、図18に示す点A,Bの位置はそれぞれ、補強部材4をパネル部品であるアウターパネル2の中央を横断するように配置した場合(図19参照)の張り剛性が最弱である点をA、補強部材4を最適位置に配置した場合(図17参照)の張り剛性が最弱となる点をBとした。
表1から分かるとおり、本発明手法によって導かれる予測値(評価値)と、そのつど有限要素解析を行って求められた荷重とはほぼ等しいことが分かる。すなわち、本発明手法による予測値(評価値)が精度が高いことが分かる。
【0063】
しかし、導出に必要な時間は、図16の処理から分かるように、比較例の方法では補強部材4の位置を変更するごとに有限要素解析を行わなければならならないことから、配置の最適化を行う場合は補強部材4の設置位置のパターンの数だけ解析の計算を繰り返す必要がある。上述の条件では、100通りの補強部材4の配置パターンの中から最適位置を見つけるためには、100回の解析が要求されるので、一回の解析にかかる時間の100倍の時間が必要となる。
【0064】
これに対し、本発明に基づく実施形態を採用した場合には、有限要素解析の処理は補強部材4を入れない場合、及び補強部材4の配置を設置候補位置から任意の位置に仮設定し行う場合の二回行えばよい。前記二回の有限要素解析を行うことにより張り剛性上昇率と評価変数距離Dの関係を求める事ができ、近似式を決定することができる。以降は有限要素解析を行わずとも近似式に評価変数距離Dを代入することにより張り剛性上昇率Qを求めることが可能となるため、単純計算で補強部材4による補強効果(張り剛性上昇の度合い)を見積もることが可能となる。このため、圧倒的に本発明手法の方が時間も短く且つ工数も大幅に低減できた。
【0065】
また、本発明手法に基づく本実施形態を採用した場合に、実際の張り剛性が予測できているか確認するための試験を行った。
図19に示すように補強部材4がアウターパネル2の中央を横断するように設置した場合と、本発明による最適位置に設置した場合(図17参照)とで、図18で示した点A、Bに対して試験を行った。試験は、図20に示すように試験位置(A点、B点)を直径45mmのゴム圧子で外側(補強部材の取付け面と反対側)から押下し、荷重と変位の関係を求めた。評価は、2mm変位した時点での荷重が40Nを超えていれば可、40N以下であれば不可とした。
表2に、補強部材4の配置の最適化を行った場合(図17参照)と単にパネル中央に補強部材4を配置した場合(図19参照)との2つの例における評価結果を示す。
【表2】
【0066】
表2に示されるように、最適化を行った場合は最弱位置の張り剛性は可となるが、最適化を行わなかった場合は不可となっている。またそれぞれの評価位置での荷重について、本発明例は実測値とほぼ一致しており、本発明手法によって補強部材4の設置による張り剛性の予測が精度良く実施できていることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1 ドア
2 アウターパネル
3 インナーパネル
4 補強部材
5 マスチック接合位置(マスチック位置)
20 張り剛性評価装置
20A 張り剛性上昇率演算部(張り剛性上昇度合い演算部)
20B 補強部材取付け後張り剛性演算部
D 評価変数距離
dm 取付位置最短距離
dr 軸位置最短距離
I 断面二次極モーメント
L 軸
Q 張り剛性の上昇率
ΔQ 上昇係数
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に沿って湾曲した状態のパネル部品に対し、前記一方向に沿った方向に沿って延在する補強部材を取り付けることによる、当該パネル部品の張り剛性の上昇を評価する張り剛性評価方法であって、
前記パネル部品に設定した評価位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離に基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする張り剛性評価方法。
【請求項2】
前記評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関関係を予め求めておき、その予め求めた相関関係を利用して、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする請求項1に記載した張り剛性評価方法。
【請求項3】
対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を補強前の張り剛性として求めると共に、
前記請求項1又は請求項2に記載した張り剛性評価方法によって、前記対象とする補強部材を取り付けることによる前記評価範囲の各評価点での張り剛性の上昇の度合いを求め、その求めた上昇の度合いと補強前の張り剛性とに基づき、前記対象とする補強部材を取り付けることによる、前記評価範囲の各評価点の張り剛性を評価することを特徴とする張り剛性評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載した張り剛性評価方法に基づき、前記評価範囲での張り剛性が目標とする目標張り剛性以上となる、前記補強部材の配置、及び当該補強部材のパネル部品への取付け部位置の少なくとも一方を選定することを特徴とする補強部材の取付け設計方法。
【請求項5】
対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を解析した結果である補強前の張り剛性、前記パネル部品に対する補強部材の配置位置及び取付け部位置、及び当該補強部材の断面二次極モーメントの情報が入力され、その入力した情報に基づいて、前記補強部材を取り付けた後の前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する張り剛性評価装置であって、
前記パネル部品における前記各評価点の位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離、及び前記断面二次極モーメントに基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記各評価点の張り剛性の上昇の度合いをそれぞれ演算する張り剛性上昇度合い演算部と、
前記入力した補強前の張り剛性と、前記張り剛性上昇度合い演算部が演算した張り剛性上昇の度合いとに基づき、前記補強部材を取り付けたときの前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する補強部材取付け後張り剛性演算部と、
を備えることを特徴とする張り剛性評価装置。
【請求項1】
少なくとも一方向に沿って湾曲した状態のパネル部品に対し、前記一方向に沿った方向に沿って延在する補強部材を取り付けることによる、当該パネル部品の張り剛性の上昇を評価する張り剛性評価方法であって、
前記パネル部品に設定した評価位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離に基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする張り剛性評価方法。
【請求項2】
前記評価変数距離と張り剛性の上昇の度合いとの相関関係を予め求めておき、その予め求めた相関関係を利用して、前記評価位置での張り剛性の上昇を評価することを特徴とする請求項1に記載した張り剛性評価方法。
【請求項3】
対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を補強前の張り剛性として求めると共に、
前記請求項1又は請求項2に記載した張り剛性評価方法によって、前記対象とする補強部材を取り付けることによる前記評価範囲の各評価点での張り剛性の上昇の度合いを求め、その求めた上昇の度合いと補強前の張り剛性とに基づき、前記対象とする補強部材を取り付けることによる、前記評価範囲の各評価点の張り剛性を評価することを特徴とする張り剛性評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載した張り剛性評価方法に基づき、前記評価範囲での張り剛性が目標とする目標張り剛性以上となる、前記補強部材の配置、及び当該補強部材のパネル部品への取付け部位置の少なくとも一方を選定することを特徴とする補強部材の取付け設計方法。
【請求項5】
対象とする補強部材を取り付ける前の状態において、パネル部品上に設定した評価範囲の各評価点の張り剛性を解析した結果である補強前の張り剛性、前記パネル部品に対する補強部材の配置位置及び取付け部位置、及び当該補強部材の断面二次極モーメントの情報が入力され、その入力した情報に基づいて、前記補強部材を取り付けた後の前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する張り剛性評価装置であって、
前記パネル部品における前記各評価点の位置に対する、前記補強部材のパネル部品への取付け部までの最短距離である取付位置最短距離と前記補強部材の軸までの最短距離である軸位置最短距離との和である評価変数距離、及び前記断面二次極モーメントに基づき、当該補強部材を取り付けることによる、前記各評価点の張り剛性の上昇の度合いをそれぞれ演算する張り剛性上昇度合い演算部と、
前記入力した補強前の張り剛性と、前記張り剛性上昇度合い演算部が演算した張り剛性上昇の度合いとに基づき、前記補強部材を取り付けたときの前記評価範囲の各評価点の張り剛性を演算する補強部材取付け後張り剛性演算部と、
を備えることを特徴とする張り剛性評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−221114(P2012−221114A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84742(P2011−84742)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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