説明

強アルカリ性建設汚泥の中和を目的とした処理方法

【課題】 噴射攪拌工法などによる地盤改良工事で発生する強アルカリ性建設汚泥は、pH12.5以上を示し、さらにpH13を超えるものも多い。これを中和処理しようとすると多大な量の酸性物質を必要とする。これらの建設汚泥は曝気養生によるpH低減を図っても、なかなかpH値が低減せず、中和処理に際し、多量の酸性物質を必要とし、長期間の曝気期間を要する。
【解決手段】 排泥直後の建設汚泥に対し一次処理として塩化物を加え、1〜2日後に、二次処理として塩化物またはリン酸化合物を加えることで、強アルカリ性水酸化物の発生を抑制する。さらに一次処理においてアルミン酸ナトリウムを添加することで、水和反応を促進させ、曝気養生期間を短縮し、曝気養生後の中和処理に必要な酸性物質の所要量を大幅に減じることができる強アルカリ性建設汚泥の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射攪拌工法などによる地盤改良工事から排出する強アルカリ性建設汚泥中の強アルカリ性物質の生成を抑制し、さらにアルカリ成分の溶出を極力抑え、中和に必要とする酸性物質の所要量が極めて少ない、強アルカリ性建設汚泥の中和を目的とした処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良等における建設汚泥は、固化材として用いるセメントや添加剤などにより強アルカリ性を示す。このような強アルカリ性建設汚泥を中和するためには理論上、等量の酸を要する。また、セメントや固化材は水和反応の過程において様々なアルカリ性物質を経時的に生成する。このため、アルカリ性建設汚泥を排出時に中和するためには、理論上の数量より何倍もの酸性物質を必要とする。このように強アルカリ性建設汚泥を中和処理するには多大な量の酸を必要とし経済性が劣ることから、強アルカリ性のまま再利用または搬出されているのが現状である。
【0003】
建設汚泥の再利用は処分地の残余期間が逼迫していることなどから促進されるべきではあり、本来産業廃棄物として取り扱わなければならないこれらの建設汚泥を盛土材料等として再利用することができるよう、国の指針が示されている。しかし強アルカリ性のまま利用した場合、植生への影響や周辺環境へのアルカリ水の流出といった問題が生じる。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような建設汚泥を排出時点で中和しようとする場合、例えばリン酸二水素カルシウムを加え排水規準であるpH8.6以下まで中和すると、1mあたり500kg以上を要し、その中和コストは建設汚泥の廃棄処分費を大きく上回ってしまう。
【0005】
強アルカリ性泥土を経済的に中和処理する手法としては、一定期間曝気養生を行った後に酸を用いて中和する方法がある。曝気養生とは泥土をバックホウなどの機械を用い、頻繁に攪拌することで、強アルカリ性の原因物質である水酸化物を大気中の二酸化炭素と接触させ炭酸塩とし、pHの低減を図るための作業をいう。pH値はpH=−log10[H]で示される通り、曝気養生を実施する事によりpH値が1〜3程度減じた場合、中和処理に必要な酸性物質の使用量を大幅に減じ、経済的に中和処理することが可能になる。
【0006】
しかし、建設汚泥中に含まれるセメントや添加剤の量によっては曝気養生に要する期間が数ヶ月以上要することもあり、建設汚泥のストックヤードや工期の確保が新たな問題となり、中和処理の妨げになっている。
【0007】
また昨今の地盤改良は要求される耐震強度が大きくなり、それに伴い要求される強度を得るために様々な添加剤が開発されている。結果として一般的なポルトランドセメントや高炉セメントを主原料とした固化材が添加された建設汚泥の排出時pHはpH12.6程度であるのに対し、昨今の建設汚泥はpH13を超えるものが多い。一般的なセメントに含まれる水酸化カルシウムの飽和水溶液はpH12.6程度であることから、これを超える建設汚泥中には添加剤の影響により他の強アルカリ性水酸化物、例えば水酸化ナトリウムなどが生成され、これが中和処理を一層困難なものにしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、建設汚泥に含まれる強アルカリ物質の生成を抑制すること、さらに水和反応を促進させ余剰なアルカリ物質の溶出を抑えることで、曝気養生期間を減じ、曝気養生後の中和処理に必要な酸性物質の所要量を大幅に減じるものである。
【0009】
本発明は、セメントの水和反応が急激に進行し様々反応物質が生成される1〜2日間について、排出直後に一次処理を実施、1〜2日後に二次処理を実施することを特長とする。
【0010】
セメントの水和反応における化学物質それぞれの化学反応式は未だ完全に解明されておらず、本発明においても、発明の作用を特定し化学反応式として明らかにすることを主眼とするものではない。
【0011】
一次処理では、塩化物を加えることで強アルカリ性水酸化物をアルカリ度の低い塩化化合物に処理することでpH値を減じる。塩化物としては、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムなどを使用することができる。これらの塩化物はアルカリ性を示すため、使用量は建設汚泥1立方メートルに対し、100kg以下とすることが望ましい。
【0012】
さらに、一次処理において水和反応を促進させることを目的に、アルミン酸ナトリウムを加えることができる。アルミン酸ナトリウムは水酸化カルシウムの水和反応を促進させ、一定期間を経た曝気養生後の建設汚泥の中和処理におけるアルカリ成分の溶出量を減じることで、中和に必要な酸の所要量を減じることができる。アルミン酸ナトリウムは強アルカリ性であることから、使用量は建設汚泥1立方メートルあたり1kg以下とすることが望ましい。
【0013】
一次処理で用いる材料は、粉末であってもよいし、あらかじめ水溶液として加えてもよい。また、あらかじめ二つの材料を混合した状態で供することもできる。
【0014】
二次処理では、前述の塩化物を再度加え、水和反応の進行に伴い経時的に生成される強アルカリ性水酸化物を塩化物に処理しpH値を減じる。
建設汚泥は、地盤改良の要求品質によって様々な配合で施工され、その結果排出されるものであるから、現場ごとに異なる性状を持つ。一次処理後において塩化物を加えた直後にpH12.0以下を示すような建設汚泥の場合、二次処理においては塩化物に代えリン酸化合物を加えることができる。
【0015】
リン酸化合物としては、リン酸二水素カルシウム、燐酸二水素ナトリウムや過リン酸石灰等を利用できる。リン酸化合物は水和反応の過程で生じる余剰な水酸化カルシウムをリン酸カルシウムとし、曝気処理に必要な養生期間を縮減する。ここで用いるリン酸化合物は中和を目的とするものではなく、多量に用いると水和反応を阻害し硬化し難くなるため曝気養生における大気との接触機会が低減するので、建設汚泥1立方メートルあたり50kg以下とすることが望ましい。
【0016】
一次処理および二次処理された建設汚泥は、必要に応じて吸水剤や石膏などの中性の固化剤を用い再利用の際に必要とされる品質に改良することができる。
【0017】
上記のように処理された直後の建設汚泥は、未処理の建設汚泥に比較してpH値で1〜2程度低減し安定する。
【0018】
本発明による処理を加えた建設汚泥は、ストックヤードに集積し曝気養生を開始する。養生期間は2〜5週間程度確保することが望ましい。
【0019】
曝気養生期間中は、バックホウや土質改良機等を用い、建設汚泥が十分大気と接触するよう、ときどき攪拌することが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により処理された建設汚泥は、初期pH値が未処理の建設汚泥より低く、水和反応が促進され、結果として水酸化物の溶出が減じることから曝気養生期間が短縮され、早期に中和処理を行うことができる。
【0021】
本発明により処理された建設汚泥は、2〜5週間程度での曝気養生期間を経てpH10〜pH11程度まで低減する。この程度のpH値まで低減した建設汚泥を、排水基準であるpH8.6以下まで中和するために要する酸性物質の所要量は、例えばリン酸二水素カルシウムを使用した場合、1立方メートルの建設汚泥に対し40〜80kgとなる。
【0022】
曝気養生期間をさらに長期間確保することで、建設汚泥のpH値をさらに減じ、中和に必要な酸性物質の所要量を減少させることもできる。
【実施例】
【0023】
高圧噴射攪拌工法で排出される強アルカリ性建設汚泥を用いて、一次処理および2次処理実験を行った。この建設汚泥は排出直後にpH12.87を示した。この建設汚泥に塩化カルシウムを1立方メートルあたり60kgの割合で加えたところpH11.95を示した。さらに二次処理として24時間経過した時点で塩化カルシウムを1立方メートルあたり40kg加えたところpH11.45を示した。一方、未処理の試料は水和反応の進行とともにpH値は大きく上昇し、24時間後にpH13.57を示した。これらの結果を表1に示す。なお試料は、水和反応の進行に伴い24〜36時間以降、硬化をはじめるため適宜破砕し同体積の精製水を加えpHを測定した。実験結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1のデータをグラフとして示すものが図1である。未処理の建設汚泥は初期pH12.87であったものが、24時間後にpH13.57を示す。これは水和反応の経過に伴いpH13を超える強アルカリ性物質が生成されることを示している。一方、一次処理された試料は塩化カルシウムを加えた直後にpH11.95を示す。その後、pH値はリバウンドするが、24時間経過した段階で二次処理として塩化カルシウムを加えると、pH11.5〜pH11.6程度まで下降し、その後安定する。
【0026】
同じ建設汚泥を用い、二次処理の際に塩化カルシウムに代えてリン酸二水素カルシウムを1立方メートルあたり40kg加えた実験を実施した。リン酸二水素カルシウムはpH2.74を示す酸性物質であることから、酸の影響を受け添加直後にpH10.89を示した。その後pH値はリバウンドするが、二次処理後24時間経過した段階で、二次処理に塩化カルシウムを加えた試料と近似的なpH値を示しほぼ安定した。実験結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
本発明による一次処理および二次処理した試料は2〜3日間経過すると硬化するため、試料を細かく破砕し、プラスチック容器に取り入れ5週間曝気養生した。曝気期間中、3日に一度容器から取り出し攪拌した後、再び容器に戻す作業を繰り返した。曝気養生期間中に適宜試料を採取しpH値を測定した。測定結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

▲1▼は、未処理泥土である。
▲2▼は、排泥直後に一次処理として塩化カルシウムを60kg/m加え、24時間経過後に、二次処理として塩化カルシウムを40kg/m加えたものである。
▲3▼は、排泥直後に一次処理として塩化カルシウム60kg/mを加え、24時間経過後に二次処理としてリン酸二水素カルシウムを40kg/m加えたものである。
▲4▼は、▲2▼の一次処理の際に、塩化カルシウムに加え、アルミン酸ナトリウム1kg/mを添加したものである。
▲5▼は、▲3▼の一次処理の際に、塩化カルシウム加え、アルミン酸ナトリウム1kg/mを添加したものである。
【0030】
図2は表3のデータをグラフで示したものである。各試料に含まれる水酸化カルシウムおよび他のアルカリ性の水酸化物は、大気中の二酸化炭素と化学反応し炭酸塩に変化する作用によりpH値が低減した。アルミン酸ナトリウムを加えていない試料▲2▼および▲3▼は、未処理の試料と相関性の高いpH低減傾向を示した。しかし、本発明による処理を実施した試料は初期値が低いことから、結果として35日間の曝気養生後のpH値は1〜2程度低い値を示した。一方、アルミン酸ナトリウムを一次処理において1立方メートルあたり1kgを加えた試料▲4▼および▲5▼は、曝気養生開始後2〜3週を経た段階で著しいpH低減を示し、未処理試料に比べ最大でpH値として2.5の差を生じた。
【0031】
曝気養生期間35日を経過した試料に対し、リン酸二水素カルシウムを用いて中和実験を実施した。試験結果を表4に示す。中和に用いる酸性物質は適宜選択すればよく、リン酸二水素カルシウムのほかに例えば希硫酸、硫酸第一鉄などがあげられる。
【0032】
【表4】

▲1▼は、未処理泥土である。
▲2▼は、排泥直後に一次処理として塩化カルシウムを60kg/m加え、24時間経過後に、二次処理として塩化カルシウムを40kg/m加えたものである。
▲3▼は、排泥直後に一次処理として塩化カルシウム60kg/mを加え、24時間経過後に二次処理としてリン酸二水素カルシウムを40kg/m加えたものである。
▲4▼は、▲2▼の一次処理の際に、塩化カルシウムに加え、アルミン酸ナトリウム1kg/mを添加したものである。
▲5▼は、▲3▼の一次処理の際に、塩化カルシウム加え、アルミン酸ナトリウム1kg/mを添加したものである。
【0033】
本発明により処理された強アルカリ性建設汚泥を、リン酸二水素カルシウムを用いて中和した場合の所要量について図3を用いて説明する。未処理の試料はリン酸二水素カルシウムを120kg/m3加えた場合でもpH9.65に留まった。一次処理で塩化カルシウムを加え、二次処理において塩化カルシウムまたはリン酸二水素カルシウムを加えた試料(▲2▼及び▲3▼)はpH8.5まで中和するために要する所要量は建設汚泥1立方メートルに対し80〜90kgとなった。さらに一次処理においてアルミン酸ナトリウムを併用した試料(▲4▼及び▲5▼)は、建設汚泥1立方メートルに対し50kg程度の添加量でpH8.5となった。
【0034】
以上により、本発明により処理された強アルカリ性の建設汚泥は、一定の曝気養生期間内において未処理のものと比較してpH低減効果が大きく、結果として酸の所要量を大幅に縮減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】 本実施例における一次処理および二次処理に塩化カルシウムを加えた時のpH値の変化を示す。排泥直後の一次処理においては1立方メートルあたり60kgを、排泥から24時間経過した段階で、二次処理として40kg相当量を加えた。
【図2】 本実施例における一次処理および二次処理後の曝気養生期間中のpH値の変化を示す。▲1▼は、未処理泥土である。▲2▼は、排泥直後に一次処理として塩化カルシウムを60kg/m加え、24時間経過後に、二次処理として塩化カルシウムを40kg/m加えたものである。▲3▼は、排泥直後に一次処理として塩化カルシウム60kg/mを加え、24時間経過後に二次処理としてリン酸二水素カルシウムを40kg/m加えたものである。▲4▼は、▲2▼の一次処理の際に、塩化カルシウムに加え、アルミン酸ナトリウム1kg/mを添加したものである。▲5▼は、▲3▼の一次処理の際に、塩化カルシウム加え、アルミン酸ナトリウム1kg/mを添加したものである。
【図3】 本実施例における曝気養生期間35日を経過した試料をリン酸二水素カルシウムにより中和した時の中和曲線である。▲1▼は、未処理泥土である。▲2▼は、一次処理で塩化カルシウムを60kg/m3加え、二次処理では塩化カルシウムを40kg/m3加えたものである。▲3▼は、一次処理で塩化カルシウムを60kg/m3、二次処理ではリン酸二水素カルシウムを40kg/m3加えたものである。▲4▼は、▲2▼の一次処理の際に、塩化カルシウムに加え、アルミン酸ナトリウム1kg/m3を添加したものである。▲5▼は、▲3▼の一次処理の際に、塩化カルシウム加え、アルミン酸ナトリウム1kg/m3を添加したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強アルカリ性建設汚泥の中和に必要な酸性物質の所要量を減じることを目的とし、建設汚泥に塩化物を加える処理方法。
【請求項2】
排出直後に塩化物を加える一次処理を実施、1〜2日後にさらに塩化物を加える二次処理を実施することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
二次処理に、塩化物に代えてリン酸化合物を加える請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
一次処理または二次処理の際に塩化物に加えて、さらにアルミン酸ナトリウムを加える請求項1に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−25211(P2011−25211A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188726(P2009−188726)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(598156804)
【出願人】(503113935)
【出願人】(598156815)
【出願人】(509231363)相原造園土木株式会社 (1)
【Fターム(参考)】