説明

強化対象材料に金属要素をカップリングするカップリング剤

本発明は、カップリング剤が、金属要素との結合および加硫型エラストマー材料との反応の両方を提供する、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤に関する。カップリング剤には、高分子主鎖と少なくとも1つの官能性末端基が含まれる。官能性末端基は金属要素との結合を担う。主鎖は、1000〜10000の範囲の分子量を有し、加硫型エラストマー材料と反応するための少なくとも1つの不飽和炭素−炭素結合を有する。本発明はさらに、加硫型エラストマー材料に少なくとも部分的に埋め込まれた金属要素を含み、かつ、金属要素の加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤を含む物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属要素と強化対象材料、より好ましくは加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤に関する。本発明はさらに、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤を含む強化対象材料に、少なくとも部分的に埋め込まれた金属要素を含む物品に関する。さらに、本発明は、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼線またはスチールコードなどの金属要素で強化されたポリマー材料は、コンベヤーベルト、ホースおよびタイヤなどの多様な製品に広く適用されている。解決されるべき重大な問題の一つは、金属要素とポリマー材料の間に良好な接着力を達成することである。特に、特殊ゴム、例えばクロロプレンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、例えばブタジエンアクリロニトリル(NBR)または水素化ブタジエンアクリロニトリル(HNBR)のようなニトリルゴムなどに関して、金属要素とゴムとの間の接着力は依然として重大なままである。
【0003】
強化対象材料への金属要素の接着力を促進するための二官能性シランの使用は、当分野で公知である。しかし、多くの適用に関して、これらの二官能性シランは金属要素と強化対象材料との間に適切な接着力をもたらさない。
【0004】
その他の被膜、例えばフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ハロゲン化ポリマーおよびオレフィン系ポリマーシステムなどが、金属要素と特殊ゴムとの間の接着力を促進するために開発されている。これらの被膜の欠点は、比較的厚い層(通常25〜50μm)を必要とすることである。もう一つの欠点は、これらの被膜を金属要素に適用するためにキシレンまたはペルクロロエチレンなどの毒性溶媒が使用されることである。さらに、多くの適用に関して、これらの被膜は必要とされる接着レベルに達することを許容しない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、先行技術の欠点を回避することである。本発明のもう一つの目的は、該カップリング剤が加硫の間に金属要素との結合および加硫型エラストマー材料との反応の両方をもたらす、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤を提供することである。本発明のさらなる目的は、加硫型エラストマー材料に少なくとも部分的に埋め込まれた金属要素を含み、かつ、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤を含む物品を提供することである。なおさらなる目的は、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらす方法を提供することである。
【0006】
本発明の第1の態様によれば、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤が提供される。カップリング剤は、金属要素との結合および加硫型エラストマー材料との反応の両方をもたらす。カップリング剤は、高分子主鎖および少なくとも1つの末端基を含む。少なくとも1つの末端基は、金属要素との結合をもたらし、一方、主鎖は、加硫型エラストマー材料との反応をもたらす。カップリング剤の主鎖と加硫型エラストマー材料は、加硫の間に反応することが好ましい。
【0007】
末端基は、−SiX3基を含み、ここで、−Xは官能基を表す。各々の官能基−Xは、独立に、−R、−OR、−OC(=O)Rおよびハロゲン、例えば−Cl、−Br、−Fからなる群から選択され、ここで、−Rは、アルキル、好ましくはC1−C4アルキル、最も好ましくは−CH3および−C25である。
【0008】
場合により、カップリング剤は1より多くの末端基を含む。好ましい実施形態では、カップリング剤は2つの末端基を含む。これらの2つの末端基は同じであっても異なっていてもよい。
【0009】
主鎖は、1000〜10000の範囲の分子量を有する高分子構造を含む。より好ましくは、分子量は例えば3000〜4000のような2000〜5000の範囲に及ぶ。主鎖は、加硫型エラストマー材料と反応するために少なくとも1つの不飽和炭素−炭素結合を有する。カップリング剤と加硫型エラストマー材料との間の反応は、加硫型エラストマー材料の加硫の間に起こることが好ましい。
【0010】
好ましくは、主鎖の極性は、加硫型エラストマー材料の極性に適合するように選択される。加硫型エラストマー材料の極性は、1以上の極性官能基を主鎖に導入することにより影響され得る。可能性のある極性官能基は、−COOH、−OH、−NH2、−COOR、−SH、−OR、−CN、−CONHR、−NHRおよび−NR2であり;ここで、Rは、アルキル基、例えばC1−C4アルキルである。
【0011】
主鎖の極性に影響を及ぼす好ましい方法は、主鎖のアクリロニトリルの率を選択することによる。主鎖のアクリロニトリルの率は、0%〜40%の間、例えば0%、10%、18%、21%または26%に及ぶことが好ましい。
【0012】
本発明に係るカップリング剤は、少なくとも1つの有機官能性シランと少なくとも1つの多官能性ポリマーの反応生成物である。本発明について重要なことは、カップリング剤が1段階で金属要素に適用される点である。これは、最初に少なくとも1つの有機官能性シランと少なくとも1つの多官能性ポリマーが調製されることを意味する。有機官能性シランと多官能性ポリマーの反応の後、混合物が金属要素に適用される。
【0013】
有機官能性シランおよび多官能性ポリマーを、以下により詳細に説明する。
【0014】
<有機官能性シラン>
有機官能性シランは、少なくとも1つの第1の官能基および少なくとも1つの第2の官能基を含む。第1の官能基は、金属要素との結合が可能であり、第2の官能基は、多官能性ポリマーの少なくとも1つの官能基との結合が可能である少なくとも1つの基を含む。
【0015】
好ましい有機官能性シランは、次式Y−R−SiX3のシランであり、式中、
SiX3は第1の官能基を含み、
Rは、スペーサーを含み、
Yは、第2の官能基を含む。
【0016】
第1の官能基SiX3は、金属要素との結合が可能である。Xは、官能基を表し、各々の官能基は、独立に、−R、−OR、−OC(=O)Rおよびハロゲン、例えば−Cl、−Br、−Fからなる群から選択され、ここで、−Rは、アルキル、好ましくはC1−C4アルキル、最も好ましくは−CH3および−C25である。
【0017】
第2の官能基は、多官能性ポリマーの少なくとも1つの官能基との結合が可能である。第2の官能基は、イソシアネート基、チオシアネート基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む。
【0018】
イソシアネート基を第2の官能基として含む有機官能性シランが好ましい。イソシアネート基を含む、適した有機官能性シランの例は、イソシアナトアルキルアルコキシシラン、例えばイソシアナトプロピルトリエトキシシラン、イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、イソシアナトブチルトリメトキシシランおよびイソシアナトブチルトリエトキシシランである。
【0019】
<多官能性ポリマー>
多官能性ポリマーは、有機官能性シランの第2の官能基との、すなわちイソシアネート基との結合が可能な少なくとも1つの第1の官能基を含む。
【0020】
多官能性ポリマーは、1000〜10000の範囲の分子量を有し、かつ、少なくとも1つの不飽和炭素−炭素結合を有する。
【0021】
多官能性ポリマーとして、有機官能性シランの第2の官能基と結合するための少なくとも1つの第1の官能基を有する任意のポリマーまたはプレポリマーが検討され得る。
【0022】
多官能性ポリマーの好ましい第1の官能基は、アミノ官能基、チオール官能基またはヒドロキシル官能基を包含する。本発明の好ましい実施形態によれば、多官能性ポリマーは、少なくとも1つのアミノ官能基を含む。アミノ官能基は、脂肪族アミンまたは芳香族アミンを包含してよく、第一級もしくは第二級アミンを包含してもよい。脂肪族アミンおよび第二級アミンが好ましい。
【0023】
第1の官能基の次に、多官能性ポリマーは、さらなる官能基(例えば第2、第3、第4、などの官能基)を含む。これらのさらなる官能基は、加硫の間に加硫型エラストマー材料と反応可能である。金属と強化対象材料の間の接着力は、多官能性ポリマーと強化対象材料の間の化学結合の形成によりもたらされる。
【0024】
好ましくは、多官能性ポリマーは、少なくとも1つの不飽和炭素−炭素結合をさらなる官能基として含む。より好ましくは、多官能性ポリマーは、いくつかの不飽和炭素−炭素結合を含む。これらの不飽和炭素−炭素結合は、強化対象材料と反応可能である。好ましくは、多官能性ポリマーの不飽和炭素−炭素結合は、加硫に関与している。
【0025】
多官能性ポリマーの官能基は、多官能性ポリマーの所望の極性に関して選択することができる。多官能性ポリマーの極性は、例えば多官能性ポリマーの官能基を選択することにより影響を受け得る。可能性のある官能基は、−COOH、−OH、−NH2、−COOR、−SH、−OR、−CN、−CONHR、−NHRおよび−NR2であり、ここで、Rは、アルキル基、例えばC1−C4アルキルである。多官能性ポリマーの極性に影響を及ぼす好ましい方法は、多官能性ポリマーのアクリロニトリルの率を選択することによる。多官能性ポリマーのアクリロニトリルの率は、0%〜26%の間、例えば0%、10%、18%、21%または26%に及ぶことが好ましい。
【0026】
多官能性基の好ましい例には、ブタジエンアクリロニトリルコポリマーおよびアミノ官能基を含むブタジエンホモポリマーが含まれる。
【0027】
多官能性ポリマーは、好ましくは1000〜10000の範囲、より好ましくは、例えば3000〜4000のような2000〜5000の範囲の分子量を有する。
【0028】
有機官能性シランと多官能性ポリマーの混合物に架橋剤を添加することは好ましい。そのような架橋剤を添加することにより、有機官能性シランはより緻密な架橋ネットワークを金属表面に形成している。この緻密な架橋ネットワークにより、接着力を推進する結合の数および金属要素が増大するにつれて、金属要素の加硫型エラストマー材料への接着レベルが増大する。
【0029】
基本的に、緻密な架橋ネットワークを金属表面に形成するために役立つあらゆる架橋剤が検討され得る。好ましい架橋剤は、緻密な架橋されたポリシロキサンネットワークを、低分子有機官能性シランなどの金属表面に形成することを可能にする化合物である。適した架橋剤のさらなる例には、ビス(トリエトキシシリル)エタンが含まれる。架橋剤の濃度は、強化される具体的な金属要素−材料によって決まる。
【0030】
<金属要素>
金属要素(element)は、任意の金属または金属合金からなってよい。好ましくは、金属または金属合金は、鉄、銅、チタン、アルミニウムまたはそれらの合金から選択される。好ましい金属要素には、スチール要素が含まれる。スチールには、好ましくは普通炭素鋼、マイクロ合金鋼またはステンレス鋼が含まれる。
【0031】
金属要素には、好ましくは細長い要素が含まれる。好ましい金属要素には、モノフィラメントまたはマルチフィラメントが含まれる。モノフィラメントは、あらゆる断面、例えば円形、長方形または楕円形の断面を有してよい。モノフィラメントの例には、線、繊維、ストリップおよびリボンが含まれる。マルチフィラメントとして、束になった構造、撚り構造、編み上げ構造、または織物構造を検討することができる。マルチフィラメントの例には、コード、ロープ、ストランドおよびケーブルが含まれる。
【0032】
金属要素は、金属または金属合金被膜で被覆されてよい。好ましい金属または金属合金被膜には、亜鉛、錫、銅またはそれらの合金が含まれる。好ましい金属合金には、亜鉛合金、例えば亜鉛銅、亜鉛アルミニウム、亜鉛コバルト、亜鉛ニッケルまたは亜鉛鉄が含まれる。
【0033】
<加硫型エラストマー材料>
金属要素を用いて強化することのできるあらゆる加硫型エラストマー材料を検討することができる。例には、ゴム、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、例えばブタジエンアクリロニトリル(NBR)または水素化ブタジエンアクリロニトリル(HNBR)のようなニトリルゴムなどが含まれる。
【0034】
強化対象材料は、補強および非補強充填剤、可塑剤、酸化防止剤、安定剤、ゴム加工油、エキステンダー油、滑沢剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、ワックス、発泡剤、色素、難燃剤および当分野で公知のその他の加工助剤などの添加剤をさらに含んでよい。
【0035】
第2の態様によれば、加硫型エラストマー材料に少なくとも部分的に埋め込まれた少なくとも1つの金属要素を含む物品が提供される。物品は、金属要素と加硫型エラストマー材料との間のカップリングをもたらすためのカップリング剤をさらに含む。カップリング剤は、金属要素との結合および加硫型エラストマー材料との相互作用の両方を提供する。カップリング剤は上により詳細に説明されている。
【0036】
物品は、例えばホース、ケーブル、コンベヤーベルト、タイミングベルトまたはVベルトなどのベルト、強化エラストマーストリップ、タイヤ、空気ばねなどとして使用することができる。
【0037】
本発明の第3の態様によれば、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらす方法が提供される。この方法は、
少なくとも1つの金属要素を準備するステップと、
上記のようなカップリング剤を前記金属要素に適用するステップと、
加硫型エラストマー材料に、少なくとも部分的に前記カップリング剤を備えている前記金属要素を埋め込むステップと、
前記加硫型エラストマー材料を加硫するステップと、
を含む。
【0038】
カップリング剤は、金属要素との結合および加硫型エラストマー材料との反応の両方を提供することにより、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらす。
【0039】
カップリング剤を適用する前に、金属要素に清浄処理などの前処理を施すことが好ましい。清浄処理として、当分野で公知のあらゆる清浄処理を検討することができる。例には、熱処理、機械的処理、化学的処理またはそれらの組合せが含まれる。
【0040】
カップリング剤は、少なくとも1つの有機官能性シランおよび少なくとも1つの多官能性ポリマーを含む混合物を調製することにより得られ、前記有機官能性シランは、少なくとも1つの第1の官能基および少なくとも1つの第2の官能基を含み、前記有機官能性シランの前記第1の官能基は、前記金属要素との結合が可能であり、前記有機官能性シランの前記第2の官能基は、イソシアネート基、チオシアネート基およびエポキシ基からなる基から選択される少なくとも1つの基を含み、前記多官能性ポリマーは、少なくとも1つの第1の官能基を含み、前記多官能性ポリマーの前記第1の官能基は、前記有機官能性シランの前記第2の官能基との結合が可能であり、それにより、前記有機官能性シランの前記第2の官能基は、前記混合物中の前記多官能性ポリマーの前記第1の官能基と結合する。
【0041】
好ましくは、溶媒が混合物に添加される。
【0042】
本発明の第4の態様によれば、金属要素と加硫型エラストマー材料とのカップリングをもたらすカップリング剤を用いて金属要素と加硫型エラストマー材料との間の接着強さに影響を及ぼす方法が提供される。この方法は、多官能性ポリマーの極性が、強化対象材料の極性に近づくように多官能性ポリマーの極性を選択するステップを含む。多官能性ポリマーの極性を強化対象材料の極性に合わせることにより、多官能性ポリマーは、強化対象材料に一層適合し、かつ、多官能性ポリマーと強化対象材料の化学結合の最適条件である、強化対象材料へそれ自体を再配向および整列させることができる。
【0043】
例えば多官能性ポリマーと強化対象材料のような2つの材料の極性の差は、例えば水のような特定の溶媒の2つの材料に接する接触角の差を測定することにより評価することができる。
【0044】
多官能性ポリマーの極性は、例えば多官能性ポリマーの官能基を選択することにより影響を受け得る。可能性のある官能基は、−COOH、−OH、−NH2、−COOR、−SH、−OR、−CN、−CONHR、−NHRおよび−NR2であり、ここで、Rは、アルキル基、例えばC1−C4アルキルである。
【0045】
多官能性ポリマーの極性に影響を及ぼす好ましい方法は、多官能性ポリマーのアクリロニトリルの率を選択することによる。多官能性ポリマーのアクリロニトリルの率は、0%〜26%の間、例えば0%、10%、18%、21%または26%に及ぶことが好ましい。
【0046】
EPDMゴムまたは天然ゴムのような無極性ゴムに関して、アクリロニトリルを含まないか、またはアクリロニトリルの率の低い多官能性ポリマーが好ましい。
【0047】
クロロプレンゴムのような極性ゴムに関して、例えば20%または26%のような高い率のアクリロニトリルを含む多官能性ポリマーが好ましい。
【0048】
本発明をこれから添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る、金属要素と強化対象材料との間の接着力を促進するためのシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、本発明に係るカップリング剤10を含む物品の例を示す。カップリング剤10は、金属要素11と加硫型エラストマー材料12とのカップリングをもたらす。カップリング剤10は、高分子主鎖と、少なくとも1つの末端基とを含む。カップリング剤10は、有機官能性シラン13と多官能性ポリマー14の反応生成物である。有機官能性シラン13の分子は、第1の官能基16’および第2の官能基16”を有する小型のブロック15として表される。第1の官能基16’は、金属要素11の表面に結合している。第2の官能基16”は、外側に向いており、少なくとも1つのイソシアネート基を含む。多官能性ポリマー14は、強化対象材料12に対して適合性があり、強化対象材料12と共重合可能、共硫化可能、または架橋可能である。多官能性ポリマー14は、アミノ基を含む少なくとも1つの第1の官能基18を有する。多官能性ポリマー14の第1の官能基18は、有機官能性シランの第2の官能基16”に結合している。
【0051】
本発明に係る種々のカップリング剤の接着力を、具体例で説明する。金属要素とポリマー材料との間の接着力は、引き抜き力(Pull Out Force)およびAPR値(外観値)を測定することにより決定する。引き抜き力は、以下のようにして決定する。加硫型エラストマー材料には金属要素が埋め込まれている。加硫型エラストマー材料に埋め込まれた金属要素の長さは、12.7mmである。金属要素を備えた加硫型エラストマー材料を加硫する。金属要素を加硫ゴムから引き抜く。金属要素を引き抜くために必要な力を測定する。引き抜くために必要な力を比較することにより「接着損失率」が決定される。
【0052】
この引き抜き試験は、ASTM D229−(93)「鋼製タイヤコアとゴムの間の接着性の標準試験法」に従って、かつ、BISFA(人造繊維の標準化のための国際事務局)第E12号「ゴムコンパウンドとの静的接着性の決定」に従って実施した。
【0053】
APR値(外観等級)は、金属要素を加硫材料から剥がした後に、金属要素に残っている加硫材料の量(被覆の程度)を視覚的に評価することにより決定する。
【0054】
第1の例は、硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込まれた3+5×7×0.15mm型の亜鉛メッキスチールコードを含む。接着結果を表1に示す。例1Aは、カップリング剤を使用せずに硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込んだ3+5×7×0.15mm型の亜鉛メッキスチールコードに関する。例1Bは、カップリング剤で処理して硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込んだ3+5×7×0.15mm型の亜鉛メッキスチールコードに関する。カップリング剤は、イソシアナトプロピルトリエトキシシランと、アミノ官能性末端基を有する18%アクリロニトリル1,4ブタジエン共重合体との反応生成物である。例1Cは、例1Bのようにカップリング剤で処理して硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込んだ3+5×7×0.15mm型の亜鉛メッキコードに関する。この亜鉛メッキスチールコードは、カップリング剤を塗布する前に、適当な酸性溶液中に浸漬することによって前処理を行った。
【0055】
【表1】

【0056】
第2の例は、硫黄硬化天然ゴムに埋め込まれた3+5×7×0.15mm型の真鍮メッキスチールコードを含む。接着結果を表2に示す。例2Aは、カップリング剤を使用せずに硫黄硬化天然ゴムに埋め込んだ3+5×7×0.15mm型の真鍮メッキスチールコードに関する。例2Bは、カップリング剤で処理して硫黄硬化天然ゴムに埋め込んだ3+5×7×0.15mm型の真鍮メッキスチールコードに関する。カップリング剤は、イソシアナトプロピルトリエトキシシランと、アミノ官能性末端基を有する10%アクリロニトリル1,4ブタジエン共重合体との反応生成物である。例2Cは、例2Bのようにカップリング剤で処理して硫黄硬化天然ゴムに埋め込んだ3+5×7×0.15mm型の真鍮メッキコードに関する。この真鍮メッキコードは、カップリング剤を塗布する前に、適当な酸性溶液中に浸漬することによって前処理を行った。
【0057】
【表2】

【0058】
第3の例は、硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込まれた4×3×0.15mm型のAISI 302ステンレススチールコードを含む。接着結果を表3に示す。例3Aは、カップリング剤を使用せずに硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込んだ4×3×0.15mm型のAISI 302ステンレススチールコードに関する。例3Bは、カップリング剤で処理して硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込んだ4×3×0.15mm型のAISI 302ステンレススチールコードに関する。カップリング剤は、イソシアナトプロピルトリエトキシシランと、アミノ官能性末端基を有する18%アクリロニトリル1,4ブタジエン共重合体との反応生成物である。例3Cは、例3Bのようにカップリング剤で処理して硫黄硬化クロロプレンゴムに埋め込んだ4×3×0.15mm型のAISI 302ステンレススチールコードに関する。このコードは、カップリング剤を塗布する前に、適当な酸性溶液中に浸漬することによって前処理を行った。
【0059】
【表3】

【0060】
第4の例は、硫黄硬化ブタジエンアクリロニトリル(NBR)ゴムに埋め込まれた直径0.3mmの真鍮メッキ線を含む。接着結果を表4に示す。例4Aは、カップリング剤を使用せずに硫黄硬化NBRゴムに埋め込んだ直径0.3mmの真鍮メッキ線に関する。例4Bは、カップリング剤で処理して硫黄硬化NBRゴムに埋め込んだ直径0.3mmの真鍮メッキ線に関する。カップリング剤は、イソシアナトプロピルトリエトキシシランと、アミノ官能性末端基を有する18%アクリロニトリル1,4ブタジエン共重合体との反応生成物である。例4Cは、例4Bのようにカップリング剤で処理して硫黄硬化NBRゴムに埋め込んだ直径0.3mmの真鍮メッキ線に関する。このメッキ線は、カップリング剤を塗布する前に、適当な酸性溶液中に浸漬することによって前処理した。
【0061】
【表4】

【0062】
第5の例は、過酸化物硬化塩素化ポリエチレン(CPE)ゴムに埋め込まれた直径0.37mmの亜鉛メッキ線を含む。接着結果を表5に示す。例5Aは、カップリング剤を使用せずに過酸化物硬化CPEゴムに埋め込んだ直径0.37mmの亜鉛メッキ線に関する。例5Bは、カップリング剤で処理して過酸化物硬化CPEゴムに埋め込んだ直径0.37mmの亜鉛メッキ線に関する。カップリング剤は、イソシアナトプロピルトリエトキシシランと、アミノ官能性末端基を有する18%アクリロニトリル1,4ブタジエン共重合体との反応生成物である。亜鉛メッキ線は、カップリング剤を塗布する前に、適当な酸性溶液中に浸漬することによって前処理を行った。
【0063】
【表5】

【0064】
第6の例は、硫黄硬化EPDMゴムに埋め込まれた7×0.35mm型の真鍮メッキスチールコードを含む。例6Aは、カップリング剤を使用せずに硫黄硬化EPDMゴムに埋め込んだ7×0.35mm型の真鍮メッキスチールコードに関する。例6Bは、カップリング剤で処理して硫黄硬化EPDMに埋め込んだ7×0.35mm型の真鍮メッキスチールコードに関する。カップリング剤は、イソシアナトプロピルトリエトキシシランと、アミノ官能性末端基を有する18%アクリロニトリル1,4ブタジエン共重合体との反応生成物である。亜鉛メッキ線は、カップリング剤を塗布する前に、適当な酸性溶液中に浸漬することによって前処理をした。
【0065】
【表6】

【0066】
好ましくは、極性の高い多官能性ポリマーが、クロロプレンゴムなどの極性の高い加硫型エラストマー材料に用いられる。極性の低い多官能性ポリマーは、極性の低い加硫型エラストマー材料に用いられることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属要素と結合し、かつ加硫型エラストマー材料と反応することで、加硫型エラストマー材料に金属要素をカップリングするためのカップリング剤であって、このカップリング剤が、高分子主鎖と、少なくとも1つの末端基とを含み、前記末端基が、前記金属要素と結合するための−SiX3基を含み、式中、Xは官能基を表し、官能基Xは、それぞれ独立して、−R、−OR、−OC(=O)R、および−Cl、−Br、−F等のハロゲンからなる群から選択され、−Rは、アルキル、好ましくはC1−C4アルキルであり、前記高分子主鎖が、1000〜10000の範囲の分子量を有し、かつ前記加硫型エラストマー材料と反応するための少なくとも1つの不飽和炭素−炭素結合を有するカップリング剤。
【請求項2】
前記カップリング剤の高分子主鎖が、少なくとも1つの極性官能基を含む請求項1に記載のカップリング剤。
【請求項3】
前記極性官能基が、−COOH、−OH、−NH2、−COOR、−SH、−OR、−CN、−CONHR、−NHRおよび−NR2からなる群から選択され、Rは、アルキル基、例えばC1−C4アルキルである請求項1または2に記載のカップリング剤。
【請求項4】
前記カップリング剤の高分子主鎖が、0%〜40%のアクリロニトリルを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項5】
前記カップリング剤が、少なくとも1つの有機官能性シランと少なくとも1つの多官能性ポリマーとの反応生成物であり、前記有機官能性シランが、少なくとも1つの第1の官能基と少なくとも1つの第2の官能基とを含み、前記第1の官能基が、前記金属要素との結合が可能であり、かつ、前記第2の官能基が、イソシアネート基、チオシアネート基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含み、前記多官能性ポリマーが、少なくとも1つの第1の官能基を含み、この第1の官能基が、前記有機官能性シランのイソシアネート基との結合が可能である請求項1〜4のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項6】
前記多官能性ポリマーの第1の官能基が、アミノ官能基、チオール官能基およびヒドロキシル官能基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む請求項5に記載のカップリング剤。
【請求項7】
前記有機官能性シランが、イソシアナトアルキルアルコキシシランである請求項5または6に記載のカップリング剤。
【請求項8】
前記多官能性ポリマーが、1000〜10000の範囲の分子量を有する請求項5〜7のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項9】
前記多官能性ポリマーが、強化対象である前記加硫型エラストマー材料と反応するための少なくとも1つの不飽和炭素−炭素を有する請求項5〜8のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項10】
前記金属要素が、鉄、銅、チタン、アルミニウムおよびそれらの合金からなる群から選択される金属または金属合金からなる請求項1〜9のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項11】
前記金属要素が、モノフィラメントまたはマルチフィラメントを含む請求項1〜10のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項12】
前記金属要素が、金属または金属合金の被膜で被覆され、前記金属または金属合金の被膜が、亜鉛、錫、銅およびそれらの合金からなる群から選択される請求項1〜11のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項13】
少なくとも1つの金属要素を含む物品であって、この金属要素が、少なくとも部分的に加硫型エラストマー材料に埋め込まれ、前記物品が、前記金属要素と前記加硫型エラストマー材料とをカップリングする請求項1〜12のいずれか一項に記載のカップリング剤をさらに含む物品。
【請求項14】
前記物品が、ホース、ケーブル、ベルト、強化エラストマーストリップ、タイヤまたは空気ばねを含む請求項13に記載の物品。
【請求項15】
金属要素と加硫型エラストマー材料とをカップリングする方法であって、
少なくとも1つの金属要素を準備するステップと、
請求項1〜12のいずれか一項に記載のカップリング剤を、前記金属要素に塗布するステップと、
加硫型エラストマー材料に、前記カップリング剤を備えた前記金属要素を少なくとも部分的に埋め込むステップと、
前記加硫型エラストマー材料を加硫するステップと
を含む方法。
【請求項16】
前記カップリング剤が、少なくとも1つの有機官能性シランと少なくとも1つの多官能性ポリマーとの反応生成物であり、前記有機官能性シランが、少なくとも1つの第1の官能基と少なくとも1つの第2の官能基を含み、前記有機官能性シランの第1の官能基が、前記金属要素との結合が可能であり、前記有機官能性シランの第2の官能基が、イソシアネート基、チオシアネート基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含み、前記多官能性ポリマーが、少なくとも1つの第1の官能基を含み、この多官能性ポリマーの第1の官能基が、前記有機官能性シランの第2の官能基との結合が可能であり、前記有機官能性シランの第2の官能基が、前記混合物中で前記多官能性ポリマーの第1の官能基と結合している請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記多官能性ポリマーの第1の官能基が、アミノ官能基、チオール官能基およびヒドロキシル官能基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記有機官能性シランが、イソシアナトアルキルアルコキシシランである請求項15〜の17いずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記多官能性ポリマーが、1000〜10000の範囲の分子量を有する請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記多官能性ポリマーが、強化対象である前記材料と反応するための少なくとも1つの不飽和炭素−炭素を有する請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記金属要素が、鉄、銅、チタン、アルミニウムおよびそれらの合金からなる群から選択される金属または金属合金からなる請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記金属要素が、モノフィラメントまたはマルチフィラメントを含む請求項15〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記金属要素が、金族または金属合金の被膜で被覆され、前記金属または金属合金の被膜が、亜鉛、錫、銅およびそれらの合金からなる群から選択される請求項15〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
金属要素と加硫型エラストマー材料をカップリングするための請求項1〜12のいずれか一項に記載のカップリング剤を用いて金属要素と加硫型エラストマー材料との間の接着強度に影響を及ぼす方法であって、前記カップリング剤の主鎖の極性が加硫型エラストマー材料の極性に近づくように前記カップリング剤の主鎖の極性を選択するステップを含む方法。
【請求項25】
前記主鎖の極性が、主鎖のアクリロニトリルの率を選択することにより選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記主鎖のアクリロニトリルの率が、0〜26%の範囲である請求項25に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−519374(P2010−519374A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550716(P2009−550716)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052151
【国際公開番号】WO2008/101999
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】