強度劣化部の強度回復方法および該強度回復方法に用いられる高周波誘導加熱装置
【課題】強度劣化部の強度を現場で回復させることのできる方法を提供する。また、強度劣化部の強度を回復処理するときに好適に用いることができる高周波誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】鋼製部材を用いて構成されている設備の強度劣化部の強度を回復させるには、該強度劣化部を鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持すればよい。
【解決手段】鋼製部材を用いて構成されている設備の強度劣化部の強度を回復させるには、該強度劣化部を鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持すればよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電プラントや原子力発電プラント、化学プラント等に使用される鋼製部材の強度再生方法に関するものであり、特にクリープ損傷を受けて強度劣化した部分や溶接部等のようにクリープ強度が低い部分、脆化・疲労して強度が低下している部分、或いは強度が高い組織中に強度が低い組織が存在している部分等における強度を回復させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや原子力発電プラント、化学プラント等で使用される設備(例えば、ボイラやタービンなど)は、約400℃以上の高温で、しかも加圧された状態で長時間使用されることが多い。こうした設備のうち、特に、加熱された蒸気の入口や主蒸気の入口の管台などの鋼製部材は、高温・高圧下に曝されることが多い。こうした部材は、高温・高圧下に曝されることによって一定の温度で一定の荷重が加わった状態が継続すると、時間の経過とともに次第に材料の強度が低下し、最終的に破壊してしまう。こうした現象は「クリープ」と呼ばれており、クリープによる材料の材質劣化や内部構造変化は「クリープ損傷」と呼ばれている。また、上記鋼製部材は、高温・高圧下に曝されると、使用条件や材料の材質によっては、脆化や疲労によっても材料の強度が低下し、最終的に破壊してしまう。
【0003】
このようにクリープ損傷を受けたり、脆化や疲労によって亀裂等の欠陥が発生すると、現在では、亀裂が発生した部分をグラインダー等で除去して対処しているが、グラインダー等で除去すると鋼製部材の肉厚が薄くなるため、補修溶接するか、部材を取り替えなければならない。しかし補修溶接した場合には、溶接部、特に熱影響部の結晶粒が微細化して強度が低くなるため、高温・高圧下に曝されたときに亀裂が発生し易くなる。また、補修溶接に限らず、管台に配管を接合する場合や配管同士を接合する場合にも溶接法が採用されるが、溶接部、特に熱影響部の結晶粒が微細化するため、強度が低くなる。一方、結晶粒径が大きくなり過ぎると、残留オーステナイト領域が増加し、疲労限が低下することも知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
上記鋼製部材の組織に関しては、例えば、高中圧タービンケーシング材(Cr−Mo−V鋳鋼)を例にとると、クリープ強度が高いベイナイト組織のものが用いられる。ところがベイナイトのような強度の高い組織中に、強度の低い組織(例えば、フェライト組織)が一部混在しても強度が低くなる。
【0005】
このように強度の劣化は、使用によって劣化する場合、溶接によって劣化する場合、製造時や補修時に起因する組織的な要因等によって劣化する場合等、様々なケースで発生する。そこで上記設備の寿命を延ばすには、強度が劣化した部分(以下、「強度劣化部」と呼ぶことがある)の強度を回復させる必要がある。
【0006】
こうした強度を回復させる技術として、特許文献1の技術が提案されている。この特許文献1には、クリープ劣化部を拘束した状態で、該クリープ劣化部を加熱することによって膨張による圧力を利用してボイドや亀裂を圧接し、補修することによってクリープ損傷を受けた部材の延命化を図ることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、レーザービームまたは電子ビームを用い、クリープ損傷を生じ組織的な劣化や機械的開口亀裂を生じた部材を、再溶融処理または溶体化温度域まで加熱することで、機械的欠陥部の再生または組織的クリープボイドの再生除去を行うことが記載されている。
【0008】
一方、非特許文献2には、クリープ強さの劣化とボイドの関係について記載されており、クリープ損傷を受けた部材を再熱処理すると、最小クリープ速度は未使用材とほぼ同程度の小さな値を示すことが記載されている。またこの非特許文献2には、クリープ強さの劣化と炭化物の関係についても記載されており、高温・高圧下に長時間曝されると、粒界上の炭化物が粗大化することが示されている。更にこの非特許文献2には、再熱処理してもボイドや割れが依然として残存していることも示されている。従ってこの非特許文献2によれば、クリープ強さの劣化は、ボイドや割れの発生、或いはこれらの成長とは直接関係がなく、炭化物の析出、或いは炭化物の粗大化に伴う粒界近傍での局所的な回復現象に起因することが分かる。よって上記特許文献1に記載されているように、クリープ劣化部を拘束した状態で加熱し、ボイドや亀裂を減少させたとしても、クリープ強さを高めることは難しいと考えられる。また、上記特許文献2に記載されているように、レーザービームまたは電子ビームにより加熱してクリープボイドを除去してもクリープ強さを高めることはできないと考えられる。
【0009】
また、高温で使用される部材の強度劣化の原因の一つとして、脆化があり、これも炭化物析出に起因することが知られている。この脆化により疲労強度も低下する。また、前述したように、結晶粒径によっても疲労限が異なる(非特許文献1参照)。
【0010】
ところで強度劣化部の位置や大きさによっては、当該設備の操業を停止し、強度劣化した鋼製部材を設備から一旦外して強度回復させることが考えられる。しかし設備の操業を停止すると生産性を低下させる。そこで設備のメンテナンスは、設備を稼動させた状態で行うか、設備を停止するにしてもその時間をできるだけ短くする必要がある。そのため強度劣化部の強度を現場で、しかも短時間で回復処理することが望まれる。なお、上述した非特許文献2には、クリープ損傷を受けた部材を再熱処理することについては記載されているが、この再熱処理を現場で行なうための具体的な方法については記載されていない。
【特許文献1】特開2003−253337号公報
【特許文献2】特開平6−88120号公報
【非特許文献1】横堀武夫 翻訳監修,「金属疲労の基礎と破壊力学」,現代工学社,p.301−309
【非特許文献2】木村一弘 他,「耐熱金属材料第123委員会研究報告書」,Vol.23,No.2,第1・2分科会,p.53−61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記特許文献1に記載された技術とは異なる観点から、強度劣化部の強度を回復させることのできる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、強度劣化部の強度を現場で回復処理するときに好適に用いることができる高周波誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明に係る強度劣化部の強度回復方法とは、鋼製部材を用いて構成されている設備の強度劣化部を鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持する点に要旨を有する。
【0013】
前記強度劣化部の加熱は、高周波誘導加熱装置を用いて行うことが好ましい。前記強度劣化部としては、例えば、鋼材同士の溶接部とその熱影響部などが挙げられる。
【0014】
上記強度回復方法に好適に用いることのできる本発明の高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルの他に、該誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えている点に要旨を有している。
【0015】
前記高周波誘導加熱装置は、少なくとも2つの誘導加熱コイルを備えており、隣り合う一方の誘導加熱コイルと他方の誘導加熱コイルは、加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル同士の相対関係を調整可能に接続されていてもよい。前記少なくとも2つの誘導加熱コイルは、隣コイルに近い側に位置している導体同士の通電方向が同方向となる通電極性にて配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度劣化部を、所定の温度以上に高周波誘導加熱装置等の加熱装置を用いて加熱することで、現場での補修が可能となる。また加熱した状態で一定時間保持することによって、析出した炭化物を再固溶させたり、微細化した結晶粒を回復させたり、逆に粗大化した結晶粒を回復させることができ、或いは強度の低い例えばフェライト組織を、強度が高い例えばベイナイト組織に変えるなど組織を高強度化でき、強度劣化部の強度を回復させることができる。
【0017】
上記強度劣化部を加熱する際には、例えば、高周波誘導加熱装置を用いることができる。特に本発明の高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えているため、強度劣化部を集中的に、かつ均一に加熱することができ、強度劣化部の強度を確実に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述したように、鋼製部材の強度劣化は、高温・高圧下に曝されることによって炭化物が析出、或いは炭化物が粗大化して軟化したり、補修溶接したときに結晶粒が微細化することによって発生する。また、製造時の冷却速度によっては、ベイナイト組織中に強度の小さいフェライト組織が生成するため、部材の強度が元々小さい部分がある。
【0019】
そこで本発明者らが強度劣化部の強度を回復させる方法について検討したところ、鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持すれば、析出(或いは析出して粗大化)した炭化物を固溶させることができ、または微細化した結晶粒を回復(或いは粗大化した結晶粒を回復)させることができ、或いはフェライト組織をベイナイト化することができ、強度劣化部の強度を劣化前(即ち、新材)の強度と同程度に回復することが判明した。
【0020】
強度劣化部を加熱するときの温度は、強度劣化部に析出(或いは析出して粗大化)した炭化物を固溶、または微細化した結晶粒を回復(或いは粗大化した結晶粒を回復)させることができる温度であればよく、具体的には、加熱対象とする鋼製素材のA3変態点以上とするのがよい。好ましくは「A3変態点+50℃」以上であり、より好ましくは「A3変態点+100℃」以上である。加熱温度の上限は特に限定されないが、1200℃程度である。なお、A3変態点の温度としては、Ac3変態点の温度を基準にすればよい。
【0021】
鋼製素材のA3変態点は、例えば、熱間加工再現装置(加工フォーマスター)に付属している径変化追従型He−Neガスレーザーを用い、加熱したサンプルの加熱−膨張曲線から求めればよい。
【0022】
強度劣化部を加熱保持するときの時間は、強度劣化部に析出(或いは析出して粗大化)した炭化物を固溶させることができ、または微細化した結晶粒を回復(或いは粗大化した結晶粒を回復)させることができることができ、或いは強度の低い例えばフェライト組織を強度の高い例えばベイナイト組織にすることができるだけの時間とすればよい。一つの目安として、結晶粒度番号が、新材と同程度になるように適宜設定すればよい。但し、具体的な保持時間は、加熱対象とする鋼材の種類(組成)や、強度劣化の程度、或いは強度をどの程度回復させるかによるため一律に規定することができない。なお、炭化物の固溶や結晶粒の回復、組織制御には、加熱温度と保持時間が大きく影響を及ぼしており、加熱温度を高くすると炭化物の固溶や結晶粒の成長、或いは組織の変態が促進されるため、保持時間を短くすることができる。
【0023】
加熱対象とする鋼材の種類が、例えば、火力発電所の高中圧タービンのケーシング材に一般的に使用されているCr−Mo−V鋳鋼の場合は、保持時間を少なくとも5秒とすればよい。保持時間は、例えば、1分以上としてもよく、10分以上であってもよい。保持時間の上限は特に限定されないが、長時間加熱しても結晶粒を成長させる等の強度回復効果は飽和するため、例えば、8時間程度(特に、5時間程度)である。
【0024】
加熱保持した後は、焼戻しすることは周知の事実である。焼戻しする場合は、例えば、約690℃で5〜8時間程度、または約710℃で3時間程度保持して焼戻しすることが推奨される。
【0025】
上記のようにして強度劣化部を加熱保持した結果として、結晶粒径について言えば、新材の結晶粒径に対して±40%以内になっていることが好ましい。結晶粒径が±40%以内になっていれば、強度もほぼ新材と同程度に回復しているとみなすことができる。結晶粒径は、好ましくは±20%以内になっているのがよい。
【0026】
結晶粒径は、結晶粒度番号で比較してもよい。結晶粒度番号は、例えば、JIS G0551の「鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法」で規定されている方法で測定できる。
【0027】
なお、本発明では、上記で紹介した特許文献1のように、強度劣化部を拘束する必要はない。本発明では、強度劣化部の炭化物を固溶させるか、結晶粒を成長・制御させるか、或いはフェライト組織をベイナイト化する等組織を強度が大きなものにすることによって、強度劣化部の強度を回復させる技術であり、例えば上記特許文献1のように、強度劣化部を拘束することによってボイドや亀裂を圧接する技術ではないからである。
【0028】
上記強度劣化部は、加熱装置を用いて所定の温度に加熱して保持すればよいが、加熱装置としては、例えば、シースヒーターや高周波誘導加熱装置などを用いることができる。シースヒーターや高周波誘導加熱装置を用いることで、現場での補修が可能となり、補修対象とする設備を停止させることなく、或いは設備を停止させるにしても極短時間での強度回復処理が可能となるからである。例えば、強度劣化部を設備から一旦外し、例えば電気炉等で加熱保持して強度回復させた後、元の設備に溶接して補修することも可能であるが、そうすると設備を停止させる時間が極めて長くなる。また、設備を更新する場合は、さらに多大な費用と時間を要するが、シースヒーターや高周波誘導加熱装置などを用いて強度劣化部を加熱保持して強度を回復すれば、コスト削減等が可能となる。シースヒーターや高周波誘導加熱装置を用いることで、強度劣化部のみを選択してピンポイントでの補修が可能となるため、補修効率も向上させることができる。即ち、強度劣化部にシースヒーターや高周波誘導加熱装置を取り付け、加熱保持すれば、強度劣化部のみを局所的に加熱できる。上記加熱装置としては、高周波誘導加熱装置を用いることが好ましい。
【0029】
本発明において強度劣化部とは、例えば、火力発電プラントや原子力発電プラント、化学プラント等で使用される設備(例えば、ボイラやタービンなど)のうち、溶接部(特に、熱影響部)、高温・高圧下で長時間使用されてクリープ損傷を受けた部分、脆化した部分、疲労した部分などを意味する。また、こうした部分を補修溶接した部分や、その熱影響部も強度が低下しており、本発明の強度劣化部に包含される。更に製造時の冷却速度によって強度の高い組織中に強度の低い組織が生成し、強度が低くなった部分も本発明の強度劣化部に含まれる。
【0030】
上記強度劣化部は、例えば、鋼製部材の硬さを測定したり、レプリカ法による組織観察によって検出できる。
【0031】
硬さと強度劣化部の関係についていえば、材料の硬さと強度とは比較的良い相関関係があることが知られており、強度が低下すると、硬さが低くなる。そこで材料の硬さを測定して強度劣化部を検出する方法では、現場で鋼製部材のビッカース硬さを測定し、該部材の初期ビッカース硬さよりも低下していれば、強度劣化していると判断できる。このとき予め硬さと強度の関係を示す検量線を求めておけば、硬さを測定することによって強度の低下度合いを求めることができ、鋼製部材の余寿命を予測できる。
【0032】
一方、レプリカ法による組織観察によって強度劣化部を検出する方法では、金属組織をフィルムに転写させて、炭化物の析出状態やボイドの発生状況を観察すれば、鋼製部材の余寿命を予測できる。
【0033】
次に、強度劣化部の強度を回復させるために用いることのできる加熱装置のうち、好適に用いることのできる加熱装置として高周波誘導加熱装置を取り上げて説明する。本発明の高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルの他に、該誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えているところに特徴を有している。誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えていることで、強度劣化部を所定の温度で所定の時間加熱保持できる。
【0034】
誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係とは、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との位置と距離の両方を意味している。即ち、相対関係とは、強度劣化部を適切に加熱できるような相対位置に誘導加熱コイル配置するとともに、誘導加熱コイルに通電したときに強度劣化部を適切な温度で加熱できるように誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対距離を調整することを意味している。強度劣化部を適切に加熱できるような相対位置とは、加熱対象とする部材に誘導加熱コイルの形状を投影したときに、加熱すべき位置が誘導加熱コイルの投影像に含まれていることを意味する。なお、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との位置については、強度劣化部を覆うように強度劣化部の上方に誘導加熱コイルを配置すればよいが、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との距離については、一律に規定することはできない。加熱しようとする温度や、被加熱物の形状によって、距離を調整させなければならないからである。
【0035】
誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成としては、例えば、強度劣化部との距離を一定に保つことができるような部材(治具)を誘導加熱コイルに備えればよい。
【0036】
以下では、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えた本発明の高周波誘導加熱装置について図面を用いてより具体的に説明する。但し、下記に示す図面は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に設計変更することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
図1(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の一構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)の一部を拡大した図である。図1(a)に示した高周波誘導加熱装置は、加熱対象とする被処理材2の形態が、主として平面状の場合(例えば、設備の壁面や底面のように平面状の場合、また曲面状の一部の場合)に好適に用いることのできる装置である。なお、被処理材2の形態は、表面が湾曲した曲面でもよい。
【0038】
図1中、1は高周波誘導加熱装置、2は加熱対象とする被処理材を示しており、高周波誘導加熱装置1は、強度劣化部21を覆うように保持されている。高周波誘導加熱装置1は、矩形状の誘導加熱コイル11と、該誘導加熱コイル11と加熱すべき強度劣化部21との距離を一定に保つための治具12を備えている。
【0039】
治具12の拡大図を図1(b)に示す。治具12は、誘導加熱コイル11と加熱対象とする被処理材2との距離を一定に保つためのスペーサ12aと、このスペーサ12aと誘導加熱コイル11とを接続するための接続部材12bと、スペーサ12aと接続部材12bとを固定するためのボルト12cから構成されており、治具12は図示しないボルト等によって誘導加熱コイル11に接続されている。
【0040】
図1(a)に示すように、治具12と被処理材2とを密着させることで、誘導加熱コイル11と被処理材2の距離を一定に保ちつつ固定することができ、長時間保持することが可能となる。そのため図示しない電源から誘導加熱コイル11に電流を流すことにより、被処理材2を局所的に、しかも長時間に亘って安定して加熱することができる。
【0041】
上記治具12は、その長さを変化させることができるように構成してもよい。誘導加熱コイル11と被処理材2の距離を必要に応じて変更するためである。上記スペーサ12aの素材は、誘導加熱コイル11によって加熱されない素材、即ち、非導電性材料であればよく、例えば、セラミックを用いることができる。耐熱性樹脂も援用されてよい。
【0042】
図2(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)をA−A’方向から見たときの断面図である。上記図1と同じ部分には同一の符合を付した。
【0043】
図2(a)に示した高周波誘導加熱装置1は、加熱対象とする被処理材3の形態が、主として管状(例えば、設備に備え付けられている配管)であって、特に口径が大きな場合に好適に用いることができる。図2中、1は高周波誘導加熱装置、3は加熱対象とする被処理材を示しており、高周波誘導加熱装置1は、横方向に伸びた管状の被処理材3の壁面に検出された強度劣化部(図示しない)を囲むように保持されている。この強度劣化部としては、例えば、管状の鋼製部材同士を互いに溶接接合した部分(周方向溶接部)等が挙げられる。
【0044】
高周波誘導加熱装置1は、大口径の管状被処理材3を囲むために、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11b(これらをまとめて誘導加熱コイル11と呼ぶ)が、略円状になるように配置されている。また、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11bには、これらを組み合わせて構成される略円状の誘導加熱コイル11の中心軸方向に向かって、加熱すべき強度劣化部との距離を一定に保つための治具12を備えている。
【0045】
誘導加熱コイル11aと誘導加熱コイル11bの給電側端部が接触してショートしないように、該誘導加熱コイルは絶縁材13を介して接続されている。また、高周波誘導加熱装置1は、強度劣化部の近傍に確実に固定するために固定台5を用いて図示しない設備本体に固定されている。
【0046】
図2(a)に示すように、治具12と被処理材3とを密着させることで、誘導加熱コイル11と被処理材3の距離を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル11を固定でき、長時間の保持が可能となる。そのため図示しない電源から誘導加熱コイル11に電流を流すことにより、被処理材3を局所的に、しかも長時間に亘って安定して加熱できる。
【0047】
上記絶縁材13の素材も誘導加熱コイル11によって加熱されない素材、即ち、非導電性材料であればよく、上記治具12と同様の素材であればよい。
【0048】
図2では、高周波誘導加熱装置1を固定するために固定台5を用いたが、固定台5に車輪等を取り付け、管状の被処理材3に沿って可動するように構成してもよい。固定台5に乗せた高周波誘導加熱装置1を一定速度で可動させれば、広い範囲を熱処理できる。
【0049】
図3(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)をB−B’方向から見たときの断面図である。上記図1と同じ部分には同一の符合を付した。図3中、1は高周波誘導加熱装置、6は加熱対象とする被処理材を示しており、高周波誘導加熱装置1は、縦方向に伸びた管状の被処理材6の壁面に検出された強度劣化部(図示しない)を囲むように保持されている。この強度劣化部としては、例えば、管状の鋼製部材同士を互いに溶接接合した部分(周方向溶接部)等が挙げられる。
【0050】
図3(a)に示した高周波誘導加熱装置1は、加熱対象とする被処理材6の形態が、主として管状(例えば、設備に備え付けられている配管)で、特に口径が小さな場合に好適に用いることができる。
【0051】
高周波誘導加熱装置1は、小口径の管状被処理材6を囲むために、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11b(これらをまとめて誘導加熱コイル11と呼ぶ)が、略円状になるように配置されている。また、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11bには、これらを組み合わせて構成される略円状の誘導加熱コイル11の中心軸方向に向かって、加熱すべき周方向溶接部等の強度劣化部との距離を一定に保つための治具12を備えている。
【0052】
なお、高周波誘導加熱装置1は、強度劣化部の近傍に確実に固定するために、高周波誘導加熱装置1の下方に設けられたクランプ7と接続部材8を介して接続されている。
【0053】
図3(a)に示すように、治具12と被処理材6とを密着させることで、誘導加熱コイル11と被処理材6の距離を一定に保ちつつ固定することができ、長時間保持することが可能となる。そのため図示しない電源から誘導加熱コイル11に電流を流すことにより、被処理材6を局所的に、しかも長時間に亘って安定して加熱できる。
【0054】
上記クランプ7に誘導加熱コイル11を固定する接続部材8の素材も誘導加熱コイル11によって加熱されない素材、即ち、非導電性材料であればよく、上記治具12と同様の素材であればよい。
【0055】
図3では、高周波誘導加熱装置1を固定するためにクランプ7を用いたが、クランプ7ごと管状の被処理材6に沿って可動するように構成してもよい。高周波誘導加熱装置1を一定速度で可動させることで、広い範囲を熱処理できる。
【0056】
上記高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルを2つ以上備えていてもよい。誘導加熱コイルを2つ以上備えている場合は、隣り合う一方の誘導加熱コイルと他方の誘導加熱コイルは、加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル同士の相対関係を調整可能に接続されていることが好ましい。誘導加熱コイル同士の相対関係とは、誘導加熱コイル同士の距離や強度劣化部に対する変位を意味する。即ち、誘導加熱コイルを2つ以上備えている場合は、強度劣化部を加熱したときに加熱ムラが生じず、強度劣化部を均一な温度で加熱できるように、誘導加熱コイル同士の距離を適切に調整する必要がある。また、後述する図4に示すように誘導加熱コイルが平面的な形状の場合には、例えば、加熱すべき強度劣化部が曲面を呈しているときは、強度劣化部の形状に沿うように、個々の誘導加熱コイルの変位を調整し、誘導加熱コイルと強度劣化部の相対関係が一定になるように調整すればよい。
【0057】
以下では、誘導加熱コイルを2つ以上接続したときの構成例について説明する。図4は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、矩形状の誘導加熱コイル11cと矩形状の誘導加熱コイル11dが、接続部材14を用いて接続されている。なお、図4では、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との距離を一定に保つための治具を図示していない。また、矩形状の誘導加熱コイル11cや11dは、これらのコイルを夫々構成する往復電路導体間にコア材を介在させた構成となっている。磁束集束機能を有するコア材を配したことによって、往復電路導体の回りに夫々発生する磁束は同極性でコア材に集束される結果、磁束の打ち消し合いにより誘導加熱入熱が小さくなることを防止できる。コア材としては、例えば、フェライトと通称される鉄系酸化物の固結体や、珪素鋼板などの強磁性体を用いることができる。
【0058】
矩形状の誘導加熱コイル11cと11dは、ボルトで接続部材14に固定されているが、この接続部材14には、スリット14aが設けられており、矩形状の誘導加熱コイル11cと11dの距離やコイル同士の傾きを自由に調整できる。
【0059】
図4では、矩形状の誘導加熱コイルを2つ接続した例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、矩形状の誘導加熱コイルを3つ以上接続してもよい。矩形状の誘導加熱コイルを3つ(11c〜11e)接続したときの構成例を図5に示す。なお、図5では、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との距離を一定に保つための治具を図示していない。
【0060】
上記図4や図5に示したように、誘導加熱コイルを2つ以上接続した場合には、夫々の誘導加熱コイルによって形成される磁束が同方向となるように配置し、通電することが好ましい。例えば、図中の誘導加熱コイルに付した矢印の方向に電流を流せばよい。通電することによって形成される磁束を同方向にすることで、磁束の打ち消しを低減することができ、加熱効率を高めることができるからである。このことを図面を用いて更に詳細に説明する。
【0061】
図6は、矩形状の誘導加熱コイル15Aと15Bを、図4に示すように隣り合うように配置したときの誘導加熱コイルの断面図を示している。図6中、矢印は誘導加熱コイルに通電したときに発生する磁束とその方向を示している。
【0062】
誘導加熱コイル自体にコア材を設けない場合は、図6の(a)の15Aに示したように、誘導加熱コイル15aと15bに通電したときに発生する磁束が互いに打ち消されるが、誘導加熱コイル自体にコア材15fを設けると、図6の(a)の15Bに示したように、磁束の打ち消しを防止できる。
【0063】
このように矩形状の誘導加熱コイル自体は、往復電路導体間にコア材15fを配して構成できるが、矩形状の誘導加熱コイル同士の間には、互いの位置取りを任意に調整するために、コア材を介在させることができない。そのため隣り合う矩形状の誘導加熱コイルについて、隣のコイルに近い側の電路を夫々構成している2本の導体に、電流が互いに逆方向となるように流すと、図6の(b)に示すように、通電によって発生する導体回りの磁束が相互に打ち消されてしまい、その結果として、誘導加熱入熱が小さくなる。
【0064】
そこで誘導加熱コイルを2つ以上接続した場合には、上記図4や図5に示した誘導加熱コイルに矢印を付したように、隣り合う矩形状の誘導加熱コイルへの通電極性(即ち、右回り通電か左回り通電か)を夫々のコイルについて、隣コイルに近い側の電路を構成する2本の導体に流れる電流が互いに同方向となるように設定すればよい。即ち、図6の(c)に示すように、隣コイルに近い側の電路を構成する誘導加熱コイル15bと15cに流れる電流が互いに同方向となるように設定すれば、通電によって発生する導体回りの磁束が相互に合算され、その結果、誘導加熱入熱が大きくなる。
【0065】
図7は、本発明の実施形態の一例を示しており、ボイラ等の管寄せ9に適用した例を示している。図7中、(a)は概略説明図であり、(b)は(a)をC−C’方向から見たときの断面図である。なお、図7では、誘導加熱コイル11fおよび11gと、加熱すべき強度劣化部92との距離を一定に保つための治具を図示していない。図7に図示した管寄せ9は円形断面であるが、矩形断面であってもよい。
【0066】
図7中、管寄せ9は多数の配管を集め、流れの分配、或いは流れの合流を行なう容器であり、各配管を取り付けるための管台91が溶接によって取り付けられている。管台91の根元部の溶接部92とその熱影響部は、結晶粒が微細化し、強度が低下する。また結晶粒が粗大化している部分もあり、応力の加わり方によっては損傷を受けるケースもある。そこで本発明では、図7に示したように、溶接部92とその熱影響部の近傍に誘導加熱コイル11fと11gを溶接部92との相対関係を一定に保つように設け、溶接部92とその近傍を加熱すればよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0068】
実施例1
強度劣化部を加熱保持したときに、結晶粒がどの程度成長するかについて、高周波誘導加熱装置の代わりに高温還元反応炉を用いて模擬実験を行った。
【0069】
火力発電設備において、約400℃以上の環境下で20年程度使用された高中圧タービンから切り出したサンプル(以下、ケーシング廃材と呼ぶことがある)を、高温還元反応炉を用いて加熱保持し、加熱保持前後における結晶粒度の変化を夫々測定した。また、加熱保持前後における強度変化を調べるために硬さを測定した。
【0070】
上記サンプルは、Cを0.15質量%、Siを0.47質量%、Mnを0.62質量%、Pを0.009質量%、Sを0.009質量%、Crを1.15質量%、Moを1.02質量%、Vを0.08質量%、Niを0.13質量%、Cuを0.14質量%含有し、残部が鉄および不可避不純物からなるCr−Mo−V鋳鋼のケーシング廃材であり、このサンプルを形状がφ8mm×12mmの試験片に加工し、熱間加工再現装置(加工フォーマスター)を用いて下記表1に示す条件で熱処理した。表1には、室温から加熱温度までの加熱速度、加熱温度から室温までの冷却速度も併せて示した。
【0071】
上記サンプルのA3変態点は、熱間加工再現装置(加工フォーマスター)に付属している径変化追従型He−Neガスレーザーを用いて加熱−膨張曲線を求め、この曲線から鋼製素材のAc3変態点を求めた。なお、下記表1のNo.3〜8は、加熱温度が低過ぎるため、Ac3変態点を測定できなかった。
【0072】
加熱保持後は、アルゴンガス雰囲気下で、690℃×5時間保持して応力除去焼きなましし、次いで常温まで炉冷した。
【0073】
得られた試験片の中心軸を通るように長手方向に2分割して横断面を露出させ、その一方を研磨、3質量%ナイタール液でエッチングした後、光学顕微鏡で400倍でミクロ組織を観察した。ミクロ組織の写真を撮影し、結晶粒の粒度番号を、JIS G0551の「鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法」で規定される結晶粒度標準図と比較して測定した。なお、新材(No.1)の粒度番号と、熱処理する前のケーシング廃材まま(No.2)の粒度番号についても同様に測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。
【0074】
また、加熱温度と粒度番号との関係を示すグラフを図8として示す。図8中、◇は保持時間が6秒の例、□は保持時間が60秒の例、△は保持時間が600秒の例の結果を示している。
【0075】
また、得られた試験片の硬さをビッカース硬度計を用いて測定した。硬さは3箇所測定し、結果を平均した。なお、熱処理する前のケーシング廃材ままの粒度番号と、新材の粒度番号についても同様に測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。また、加熱温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフを図9として示す。図9中、◇は保持時間が6秒の例、□は保持時間が60秒の例、△は保持時間が600秒の例の結果を示している。
【0076】
【表1】
【0077】
表1と図8から明らかなように、加熱温度を高くするほど、或いは保持時間を長くするほど、結晶粒が成長し、粒度番号が小さくなっている。また、表1と図9から明らかなように、加熱温度を高くするほど、或いは保持時間を長くするほど、硬くなっており、加熱保持によって、硬さが回復していることを示している。これは、加熱温度が高いほど、或いは保持時間が長いほど、オーステナイトへの変態が進み、冷却時にオーステナイトからベイナイトまたはマルテンサイトへの変態量が増大した結果、硬くなると考えられる。なお、材料の硬度とクリープ強度の間には相関関係があり、硬度が大きいほど、クリープ強度が大きいことが一般的に知られている。
【0078】
実施例2
上記実施例1で用いたケーシング廃材から切り出した試験片を用い、クリープ試験した。試験片としては、下記表2に示したNo.21〜30を用いた。
【0079】
No.21は、後記する図13に示した新材のクリープ試験のデータから各試験応力における平均クリープ強度を算出し、このデータから回帰曲線を求めて算出したデータである。No.22〜26では、ケーシング廃材から切り出した試験片を熱処理したものを用いてクリープ試験した。熱処理は、高温還元反応炉で1100℃に加熱し、この温度で8時間または10分間保持した後、室温まで空冷(AC;冷却速度は約1000℃/時間)するか、或いは保持した後、350℃まで徐冷(冷却速度は約200℃/時間)したあと空冷し、次いで690℃で8時間加熱して焼戻しした(No.22,23,25,26)。また、高周波誘導加熱装置で1100℃に加熱し、この温度で4分間または1時間保持した後、室温まで空冷(AC;冷却速度は約1000℃/時間)するか、或いは保持した後、350℃まで徐冷(冷却速度は約200℃/時間)したあと空冷し、次いで690℃で8時間加熱して焼戻しした(No.24,27)。
【0080】
No.28では、上記ケーシング廃材を、高周波誘導加熱装置で1100℃に加熱し、この温度で1時間保持した後、350℃まで徐冷(冷却速度は約200℃/時間)し、次いで空冷し、更に690℃で8時間加熱して焼戻ししたサンプルについて、高周波誘導加熱コイルの形状をケーシング廃材に投影したときに、高周波誘導加熱コイルの形状が投影された部分と投影されていない部分の境界部を含むように切り出したものを用いてクリープ試験した。No.29では、上記ケーシング廃材同士を溶接し、溶接継ぎ手と熱影響部を含むように切り出したサンプルを用いてクリープ試験した。No.30では、溶接熱影響部における組織を模擬するために(細粒域再現材)、上記ケーシング廃材を熱処理して結晶粒径を約10〜30μmに調整したサンプルを用いてクリープ試験した。
【0081】
クリープ試験の試験応力は、8kgf/mm2、12kgf/mm2または20kgf/mm2とした。クリープ試験の結果から、下記(1)式を用いてラーソン−ミラーパラメータ(LMP)を算出した。算出結果を下記表2に示す。LMPと応力の関係を図10〜図12に示す。図10はNo.21とNo.22〜24の結果、図11はNo.21とNo.25〜27の結果、図12はNo.21とNo.28〜30の結果を夫々示している。下記(1)式中、Tは試験温度(℃)、trは破断時間(h)、20は材料定数である。
LMP=(T+273)×(logtr+20) ・・・(1)
【0082】
また、種々の新材を用いてクリープ試験し、ラーソン−ミラーパラメータを算出し、応力との関係をプロットしたものに、下記表2のNo.25とNo.26の結果を重ねてプロットしたグラフを図13に示す。図13中、△はNo.25の結果(1100℃、8hr、徐冷)、□はNo.26の結果(1100℃、10min、徐冷)を示している。
【0083】
【表2】
【0084】
表2と図10〜図13から明らかなように、加熱保持した例(No.22〜27)では、ケーシング廃材のクリープ強度が新材程度に回復していることが分かる。
【0085】
特に図10と図13から明らかなように、ケーシング廃材を4分間加熱保持した場合(No.24)と10分間加熱保持した場合(No.23)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の下限程度に回復することが分かる。一方、ケーシング廃材を8時間加熱保持した場合(No.22)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の上限程度に回復することが分かる。
【0086】
図11と図13から明らかなように、ケーシング廃材を10分間加熱保持した場合(No.26)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の下限程度に回復することが分かる。一方、ケーシング廃材を1時間加熱保持した場合(No.27)と8時間加熱保持した場合(No.25)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の上限程度に回復することが分かる。
【0087】
図10と図11を比べると、加熱保持した後に、空冷するよりも徐冷する方がクリープ強度が高くなることが分かる。空冷するとマルテンサイトに近い組織になるのに対し、徐冷すると一部にクリープ強度が低いフェライト組織が生成するものの、大半がクリープ強度の高い上部ベイナイト組織が生成したためと考えられる。
【0088】
図11〜図13から明らかなように、高周波熱処理境界部(No.28)のクリープ強度は、ケーシング廃材を10分間加熱保持した場合(No.26)のクリープ強度と同程度であり、新材のクリープ強度の下限程度に回復することが分かる。一方、溶接材(No.29)と細粒域再現材(No.30)のクリープ強度は同程度であり、著しく低いことが分かる。
【0089】
上記No.25とNo.26のクリープ強度の結果と、新材の個々のクリープ強度の結果を併せたものを図13に示す。図13から明らかなように、ケーシング廃材を8時間加熱保持した場合(No.25)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の上限程度に回復しており、ケーシング廃材を10分間加熱保持した場合(No.26)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の下限程度に回復していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1の(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の一構成例を示す概略説明図であり、(b)は(a)の一部を拡大した図である。
【図2】図2の(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は(a)をA−A’方向から見たときの断面図である。
【図3】図3の(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)をB−B’方向から見たときの断面図である。
【図4】図4は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図である。
【図5】図5は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図である。
【図6】図6は、矩形状の誘導加熱コイルを2つ隣り合うように配置し、通電したときに発生する磁束を模式的に描いた図である。
【図7】図7の(a)は、本発明の実施形態の一例を示した概略説明図であり、(b)は(a)をC−C’方向から見たときの断面図である。
【図8】図8は、加熱温度と粒度番号との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、加熱温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図10】図10は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【図11】図11は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【図12】図12は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【図13】図13は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 高周波誘導加熱装置
11 誘導加熱コイル
12 治具
12a スペーサ
12b 接続部材
12c ボルト
13 絶縁材
14 接続部材
14a スリット
2 加熱対象とする被処理材
21 強度劣化部
3 加熱対象とする被処理材(大口径の管状被処理材)
5 固定台
6 加熱対象とする被処理材(小口径の管状被処理材)
7 クランプ
8 接続部材
9 管寄せ
91 管台
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電プラントや原子力発電プラント、化学プラント等に使用される鋼製部材の強度再生方法に関するものであり、特にクリープ損傷を受けて強度劣化した部分や溶接部等のようにクリープ強度が低い部分、脆化・疲労して強度が低下している部分、或いは強度が高い組織中に強度が低い組織が存在している部分等における強度を回復させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや原子力発電プラント、化学プラント等で使用される設備(例えば、ボイラやタービンなど)は、約400℃以上の高温で、しかも加圧された状態で長時間使用されることが多い。こうした設備のうち、特に、加熱された蒸気の入口や主蒸気の入口の管台などの鋼製部材は、高温・高圧下に曝されることが多い。こうした部材は、高温・高圧下に曝されることによって一定の温度で一定の荷重が加わった状態が継続すると、時間の経過とともに次第に材料の強度が低下し、最終的に破壊してしまう。こうした現象は「クリープ」と呼ばれており、クリープによる材料の材質劣化や内部構造変化は「クリープ損傷」と呼ばれている。また、上記鋼製部材は、高温・高圧下に曝されると、使用条件や材料の材質によっては、脆化や疲労によっても材料の強度が低下し、最終的に破壊してしまう。
【0003】
このようにクリープ損傷を受けたり、脆化や疲労によって亀裂等の欠陥が発生すると、現在では、亀裂が発生した部分をグラインダー等で除去して対処しているが、グラインダー等で除去すると鋼製部材の肉厚が薄くなるため、補修溶接するか、部材を取り替えなければならない。しかし補修溶接した場合には、溶接部、特に熱影響部の結晶粒が微細化して強度が低くなるため、高温・高圧下に曝されたときに亀裂が発生し易くなる。また、補修溶接に限らず、管台に配管を接合する場合や配管同士を接合する場合にも溶接法が採用されるが、溶接部、特に熱影響部の結晶粒が微細化するため、強度が低くなる。一方、結晶粒径が大きくなり過ぎると、残留オーステナイト領域が増加し、疲労限が低下することも知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
上記鋼製部材の組織に関しては、例えば、高中圧タービンケーシング材(Cr−Mo−V鋳鋼)を例にとると、クリープ強度が高いベイナイト組織のものが用いられる。ところがベイナイトのような強度の高い組織中に、強度の低い組織(例えば、フェライト組織)が一部混在しても強度が低くなる。
【0005】
このように強度の劣化は、使用によって劣化する場合、溶接によって劣化する場合、製造時や補修時に起因する組織的な要因等によって劣化する場合等、様々なケースで発生する。そこで上記設備の寿命を延ばすには、強度が劣化した部分(以下、「強度劣化部」と呼ぶことがある)の強度を回復させる必要がある。
【0006】
こうした強度を回復させる技術として、特許文献1の技術が提案されている。この特許文献1には、クリープ劣化部を拘束した状態で、該クリープ劣化部を加熱することによって膨張による圧力を利用してボイドや亀裂を圧接し、補修することによってクリープ損傷を受けた部材の延命化を図ることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、レーザービームまたは電子ビームを用い、クリープ損傷を生じ組織的な劣化や機械的開口亀裂を生じた部材を、再溶融処理または溶体化温度域まで加熱することで、機械的欠陥部の再生または組織的クリープボイドの再生除去を行うことが記載されている。
【0008】
一方、非特許文献2には、クリープ強さの劣化とボイドの関係について記載されており、クリープ損傷を受けた部材を再熱処理すると、最小クリープ速度は未使用材とほぼ同程度の小さな値を示すことが記載されている。またこの非特許文献2には、クリープ強さの劣化と炭化物の関係についても記載されており、高温・高圧下に長時間曝されると、粒界上の炭化物が粗大化することが示されている。更にこの非特許文献2には、再熱処理してもボイドや割れが依然として残存していることも示されている。従ってこの非特許文献2によれば、クリープ強さの劣化は、ボイドや割れの発生、或いはこれらの成長とは直接関係がなく、炭化物の析出、或いは炭化物の粗大化に伴う粒界近傍での局所的な回復現象に起因することが分かる。よって上記特許文献1に記載されているように、クリープ劣化部を拘束した状態で加熱し、ボイドや亀裂を減少させたとしても、クリープ強さを高めることは難しいと考えられる。また、上記特許文献2に記載されているように、レーザービームまたは電子ビームにより加熱してクリープボイドを除去してもクリープ強さを高めることはできないと考えられる。
【0009】
また、高温で使用される部材の強度劣化の原因の一つとして、脆化があり、これも炭化物析出に起因することが知られている。この脆化により疲労強度も低下する。また、前述したように、結晶粒径によっても疲労限が異なる(非特許文献1参照)。
【0010】
ところで強度劣化部の位置や大きさによっては、当該設備の操業を停止し、強度劣化した鋼製部材を設備から一旦外して強度回復させることが考えられる。しかし設備の操業を停止すると生産性を低下させる。そこで設備のメンテナンスは、設備を稼動させた状態で行うか、設備を停止するにしてもその時間をできるだけ短くする必要がある。そのため強度劣化部の強度を現場で、しかも短時間で回復処理することが望まれる。なお、上述した非特許文献2には、クリープ損傷を受けた部材を再熱処理することについては記載されているが、この再熱処理を現場で行なうための具体的な方法については記載されていない。
【特許文献1】特開2003−253337号公報
【特許文献2】特開平6−88120号公報
【非特許文献1】横堀武夫 翻訳監修,「金属疲労の基礎と破壊力学」,現代工学社,p.301−309
【非特許文献2】木村一弘 他,「耐熱金属材料第123委員会研究報告書」,Vol.23,No.2,第1・2分科会,p.53−61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記特許文献1に記載された技術とは異なる観点から、強度劣化部の強度を回復させることのできる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、強度劣化部の強度を現場で回復処理するときに好適に用いることができる高周波誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明に係る強度劣化部の強度回復方法とは、鋼製部材を用いて構成されている設備の強度劣化部を鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持する点に要旨を有する。
【0013】
前記強度劣化部の加熱は、高周波誘導加熱装置を用いて行うことが好ましい。前記強度劣化部としては、例えば、鋼材同士の溶接部とその熱影響部などが挙げられる。
【0014】
上記強度回復方法に好適に用いることのできる本発明の高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルの他に、該誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えている点に要旨を有している。
【0015】
前記高周波誘導加熱装置は、少なくとも2つの誘導加熱コイルを備えており、隣り合う一方の誘導加熱コイルと他方の誘導加熱コイルは、加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル同士の相対関係を調整可能に接続されていてもよい。前記少なくとも2つの誘導加熱コイルは、隣コイルに近い側に位置している導体同士の通電方向が同方向となる通電極性にて配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度劣化部を、所定の温度以上に高周波誘導加熱装置等の加熱装置を用いて加熱することで、現場での補修が可能となる。また加熱した状態で一定時間保持することによって、析出した炭化物を再固溶させたり、微細化した結晶粒を回復させたり、逆に粗大化した結晶粒を回復させることができ、或いは強度の低い例えばフェライト組織を、強度が高い例えばベイナイト組織に変えるなど組織を高強度化でき、強度劣化部の強度を回復させることができる。
【0017】
上記強度劣化部を加熱する際には、例えば、高周波誘導加熱装置を用いることができる。特に本発明の高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えているため、強度劣化部を集中的に、かつ均一に加熱することができ、強度劣化部の強度を確実に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述したように、鋼製部材の強度劣化は、高温・高圧下に曝されることによって炭化物が析出、或いは炭化物が粗大化して軟化したり、補修溶接したときに結晶粒が微細化することによって発生する。また、製造時の冷却速度によっては、ベイナイト組織中に強度の小さいフェライト組織が生成するため、部材の強度が元々小さい部分がある。
【0019】
そこで本発明者らが強度劣化部の強度を回復させる方法について検討したところ、鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持すれば、析出(或いは析出して粗大化)した炭化物を固溶させることができ、または微細化した結晶粒を回復(或いは粗大化した結晶粒を回復)させることができ、或いはフェライト組織をベイナイト化することができ、強度劣化部の強度を劣化前(即ち、新材)の強度と同程度に回復することが判明した。
【0020】
強度劣化部を加熱するときの温度は、強度劣化部に析出(或いは析出して粗大化)した炭化物を固溶、または微細化した結晶粒を回復(或いは粗大化した結晶粒を回復)させることができる温度であればよく、具体的には、加熱対象とする鋼製素材のA3変態点以上とするのがよい。好ましくは「A3変態点+50℃」以上であり、より好ましくは「A3変態点+100℃」以上である。加熱温度の上限は特に限定されないが、1200℃程度である。なお、A3変態点の温度としては、Ac3変態点の温度を基準にすればよい。
【0021】
鋼製素材のA3変態点は、例えば、熱間加工再現装置(加工フォーマスター)に付属している径変化追従型He−Neガスレーザーを用い、加熱したサンプルの加熱−膨張曲線から求めればよい。
【0022】
強度劣化部を加熱保持するときの時間は、強度劣化部に析出(或いは析出して粗大化)した炭化物を固溶させることができ、または微細化した結晶粒を回復(或いは粗大化した結晶粒を回復)させることができることができ、或いは強度の低い例えばフェライト組織を強度の高い例えばベイナイト組織にすることができるだけの時間とすればよい。一つの目安として、結晶粒度番号が、新材と同程度になるように適宜設定すればよい。但し、具体的な保持時間は、加熱対象とする鋼材の種類(組成)や、強度劣化の程度、或いは強度をどの程度回復させるかによるため一律に規定することができない。なお、炭化物の固溶や結晶粒の回復、組織制御には、加熱温度と保持時間が大きく影響を及ぼしており、加熱温度を高くすると炭化物の固溶や結晶粒の成長、或いは組織の変態が促進されるため、保持時間を短くすることができる。
【0023】
加熱対象とする鋼材の種類が、例えば、火力発電所の高中圧タービンのケーシング材に一般的に使用されているCr−Mo−V鋳鋼の場合は、保持時間を少なくとも5秒とすればよい。保持時間は、例えば、1分以上としてもよく、10分以上であってもよい。保持時間の上限は特に限定されないが、長時間加熱しても結晶粒を成長させる等の強度回復効果は飽和するため、例えば、8時間程度(特に、5時間程度)である。
【0024】
加熱保持した後は、焼戻しすることは周知の事実である。焼戻しする場合は、例えば、約690℃で5〜8時間程度、または約710℃で3時間程度保持して焼戻しすることが推奨される。
【0025】
上記のようにして強度劣化部を加熱保持した結果として、結晶粒径について言えば、新材の結晶粒径に対して±40%以内になっていることが好ましい。結晶粒径が±40%以内になっていれば、強度もほぼ新材と同程度に回復しているとみなすことができる。結晶粒径は、好ましくは±20%以内になっているのがよい。
【0026】
結晶粒径は、結晶粒度番号で比較してもよい。結晶粒度番号は、例えば、JIS G0551の「鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法」で規定されている方法で測定できる。
【0027】
なお、本発明では、上記で紹介した特許文献1のように、強度劣化部を拘束する必要はない。本発明では、強度劣化部の炭化物を固溶させるか、結晶粒を成長・制御させるか、或いはフェライト組織をベイナイト化する等組織を強度が大きなものにすることによって、強度劣化部の強度を回復させる技術であり、例えば上記特許文献1のように、強度劣化部を拘束することによってボイドや亀裂を圧接する技術ではないからである。
【0028】
上記強度劣化部は、加熱装置を用いて所定の温度に加熱して保持すればよいが、加熱装置としては、例えば、シースヒーターや高周波誘導加熱装置などを用いることができる。シースヒーターや高周波誘導加熱装置を用いることで、現場での補修が可能となり、補修対象とする設備を停止させることなく、或いは設備を停止させるにしても極短時間での強度回復処理が可能となるからである。例えば、強度劣化部を設備から一旦外し、例えば電気炉等で加熱保持して強度回復させた後、元の設備に溶接して補修することも可能であるが、そうすると設備を停止させる時間が極めて長くなる。また、設備を更新する場合は、さらに多大な費用と時間を要するが、シースヒーターや高周波誘導加熱装置などを用いて強度劣化部を加熱保持して強度を回復すれば、コスト削減等が可能となる。シースヒーターや高周波誘導加熱装置を用いることで、強度劣化部のみを選択してピンポイントでの補修が可能となるため、補修効率も向上させることができる。即ち、強度劣化部にシースヒーターや高周波誘導加熱装置を取り付け、加熱保持すれば、強度劣化部のみを局所的に加熱できる。上記加熱装置としては、高周波誘導加熱装置を用いることが好ましい。
【0029】
本発明において強度劣化部とは、例えば、火力発電プラントや原子力発電プラント、化学プラント等で使用される設備(例えば、ボイラやタービンなど)のうち、溶接部(特に、熱影響部)、高温・高圧下で長時間使用されてクリープ損傷を受けた部分、脆化した部分、疲労した部分などを意味する。また、こうした部分を補修溶接した部分や、その熱影響部も強度が低下しており、本発明の強度劣化部に包含される。更に製造時の冷却速度によって強度の高い組織中に強度の低い組織が生成し、強度が低くなった部分も本発明の強度劣化部に含まれる。
【0030】
上記強度劣化部は、例えば、鋼製部材の硬さを測定したり、レプリカ法による組織観察によって検出できる。
【0031】
硬さと強度劣化部の関係についていえば、材料の硬さと強度とは比較的良い相関関係があることが知られており、強度が低下すると、硬さが低くなる。そこで材料の硬さを測定して強度劣化部を検出する方法では、現場で鋼製部材のビッカース硬さを測定し、該部材の初期ビッカース硬さよりも低下していれば、強度劣化していると判断できる。このとき予め硬さと強度の関係を示す検量線を求めておけば、硬さを測定することによって強度の低下度合いを求めることができ、鋼製部材の余寿命を予測できる。
【0032】
一方、レプリカ法による組織観察によって強度劣化部を検出する方法では、金属組織をフィルムに転写させて、炭化物の析出状態やボイドの発生状況を観察すれば、鋼製部材の余寿命を予測できる。
【0033】
次に、強度劣化部の強度を回復させるために用いることのできる加熱装置のうち、好適に用いることのできる加熱装置として高周波誘導加熱装置を取り上げて説明する。本発明の高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルの他に、該誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えているところに特徴を有している。誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えていることで、強度劣化部を所定の温度で所定の時間加熱保持できる。
【0034】
誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係とは、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との位置と距離の両方を意味している。即ち、相対関係とは、強度劣化部を適切に加熱できるような相対位置に誘導加熱コイル配置するとともに、誘導加熱コイルに通電したときに強度劣化部を適切な温度で加熱できるように誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対距離を調整することを意味している。強度劣化部を適切に加熱できるような相対位置とは、加熱対象とする部材に誘導加熱コイルの形状を投影したときに、加熱すべき位置が誘導加熱コイルの投影像に含まれていることを意味する。なお、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との位置については、強度劣化部を覆うように強度劣化部の上方に誘導加熱コイルを配置すればよいが、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との距離については、一律に規定することはできない。加熱しようとする温度や、被加熱物の形状によって、距離を調整させなければならないからである。
【0035】
誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成としては、例えば、強度劣化部との距離を一定に保つことができるような部材(治具)を誘導加熱コイルに備えればよい。
【0036】
以下では、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えた本発明の高周波誘導加熱装置について図面を用いてより具体的に説明する。但し、下記に示す図面は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に設計変更することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
図1(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の一構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)の一部を拡大した図である。図1(a)に示した高周波誘導加熱装置は、加熱対象とする被処理材2の形態が、主として平面状の場合(例えば、設備の壁面や底面のように平面状の場合、また曲面状の一部の場合)に好適に用いることのできる装置である。なお、被処理材2の形態は、表面が湾曲した曲面でもよい。
【0038】
図1中、1は高周波誘導加熱装置、2は加熱対象とする被処理材を示しており、高周波誘導加熱装置1は、強度劣化部21を覆うように保持されている。高周波誘導加熱装置1は、矩形状の誘導加熱コイル11と、該誘導加熱コイル11と加熱すべき強度劣化部21との距離を一定に保つための治具12を備えている。
【0039】
治具12の拡大図を図1(b)に示す。治具12は、誘導加熱コイル11と加熱対象とする被処理材2との距離を一定に保つためのスペーサ12aと、このスペーサ12aと誘導加熱コイル11とを接続するための接続部材12bと、スペーサ12aと接続部材12bとを固定するためのボルト12cから構成されており、治具12は図示しないボルト等によって誘導加熱コイル11に接続されている。
【0040】
図1(a)に示すように、治具12と被処理材2とを密着させることで、誘導加熱コイル11と被処理材2の距離を一定に保ちつつ固定することができ、長時間保持することが可能となる。そのため図示しない電源から誘導加熱コイル11に電流を流すことにより、被処理材2を局所的に、しかも長時間に亘って安定して加熱することができる。
【0041】
上記治具12は、その長さを変化させることができるように構成してもよい。誘導加熱コイル11と被処理材2の距離を必要に応じて変更するためである。上記スペーサ12aの素材は、誘導加熱コイル11によって加熱されない素材、即ち、非導電性材料であればよく、例えば、セラミックを用いることができる。耐熱性樹脂も援用されてよい。
【0042】
図2(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)をA−A’方向から見たときの断面図である。上記図1と同じ部分には同一の符合を付した。
【0043】
図2(a)に示した高周波誘導加熱装置1は、加熱対象とする被処理材3の形態が、主として管状(例えば、設備に備え付けられている配管)であって、特に口径が大きな場合に好適に用いることができる。図2中、1は高周波誘導加熱装置、3は加熱対象とする被処理材を示しており、高周波誘導加熱装置1は、横方向に伸びた管状の被処理材3の壁面に検出された強度劣化部(図示しない)を囲むように保持されている。この強度劣化部としては、例えば、管状の鋼製部材同士を互いに溶接接合した部分(周方向溶接部)等が挙げられる。
【0044】
高周波誘導加熱装置1は、大口径の管状被処理材3を囲むために、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11b(これらをまとめて誘導加熱コイル11と呼ぶ)が、略円状になるように配置されている。また、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11bには、これらを組み合わせて構成される略円状の誘導加熱コイル11の中心軸方向に向かって、加熱すべき強度劣化部との距離を一定に保つための治具12を備えている。
【0045】
誘導加熱コイル11aと誘導加熱コイル11bの給電側端部が接触してショートしないように、該誘導加熱コイルは絶縁材13を介して接続されている。また、高周波誘導加熱装置1は、強度劣化部の近傍に確実に固定するために固定台5を用いて図示しない設備本体に固定されている。
【0046】
図2(a)に示すように、治具12と被処理材3とを密着させることで、誘導加熱コイル11と被処理材3の距離を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル11を固定でき、長時間の保持が可能となる。そのため図示しない電源から誘導加熱コイル11に電流を流すことにより、被処理材3を局所的に、しかも長時間に亘って安定して加熱できる。
【0047】
上記絶縁材13の素材も誘導加熱コイル11によって加熱されない素材、即ち、非導電性材料であればよく、上記治具12と同様の素材であればよい。
【0048】
図2では、高周波誘導加熱装置1を固定するために固定台5を用いたが、固定台5に車輪等を取り付け、管状の被処理材3に沿って可動するように構成してもよい。固定台5に乗せた高周波誘導加熱装置1を一定速度で可動させれば、広い範囲を熱処理できる。
【0049】
図3(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)をB−B’方向から見たときの断面図である。上記図1と同じ部分には同一の符合を付した。図3中、1は高周波誘導加熱装置、6は加熱対象とする被処理材を示しており、高周波誘導加熱装置1は、縦方向に伸びた管状の被処理材6の壁面に検出された強度劣化部(図示しない)を囲むように保持されている。この強度劣化部としては、例えば、管状の鋼製部材同士を互いに溶接接合した部分(周方向溶接部)等が挙げられる。
【0050】
図3(a)に示した高周波誘導加熱装置1は、加熱対象とする被処理材6の形態が、主として管状(例えば、設備に備え付けられている配管)で、特に口径が小さな場合に好適に用いることができる。
【0051】
高周波誘導加熱装置1は、小口径の管状被処理材6を囲むために、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11b(これらをまとめて誘導加熱コイル11と呼ぶ)が、略円状になるように配置されている。また、半円状の誘導加熱コイル11aと半円状の誘導加熱コイル11bには、これらを組み合わせて構成される略円状の誘導加熱コイル11の中心軸方向に向かって、加熱すべき周方向溶接部等の強度劣化部との距離を一定に保つための治具12を備えている。
【0052】
なお、高周波誘導加熱装置1は、強度劣化部の近傍に確実に固定するために、高周波誘導加熱装置1の下方に設けられたクランプ7と接続部材8を介して接続されている。
【0053】
図3(a)に示すように、治具12と被処理材6とを密着させることで、誘導加熱コイル11と被処理材6の距離を一定に保ちつつ固定することができ、長時間保持することが可能となる。そのため図示しない電源から誘導加熱コイル11に電流を流すことにより、被処理材6を局所的に、しかも長時間に亘って安定して加熱できる。
【0054】
上記クランプ7に誘導加熱コイル11を固定する接続部材8の素材も誘導加熱コイル11によって加熱されない素材、即ち、非導電性材料であればよく、上記治具12と同様の素材であればよい。
【0055】
図3では、高周波誘導加熱装置1を固定するためにクランプ7を用いたが、クランプ7ごと管状の被処理材6に沿って可動するように構成してもよい。高周波誘導加熱装置1を一定速度で可動させることで、広い範囲を熱処理できる。
【0056】
上記高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルを2つ以上備えていてもよい。誘導加熱コイルを2つ以上備えている場合は、隣り合う一方の誘導加熱コイルと他方の誘導加熱コイルは、加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル同士の相対関係を調整可能に接続されていることが好ましい。誘導加熱コイル同士の相対関係とは、誘導加熱コイル同士の距離や強度劣化部に対する変位を意味する。即ち、誘導加熱コイルを2つ以上備えている場合は、強度劣化部を加熱したときに加熱ムラが生じず、強度劣化部を均一な温度で加熱できるように、誘導加熱コイル同士の距離を適切に調整する必要がある。また、後述する図4に示すように誘導加熱コイルが平面的な形状の場合には、例えば、加熱すべき強度劣化部が曲面を呈しているときは、強度劣化部の形状に沿うように、個々の誘導加熱コイルの変位を調整し、誘導加熱コイルと強度劣化部の相対関係が一定になるように調整すればよい。
【0057】
以下では、誘導加熱コイルを2つ以上接続したときの構成例について説明する。図4は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、矩形状の誘導加熱コイル11cと矩形状の誘導加熱コイル11dが、接続部材14を用いて接続されている。なお、図4では、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との距離を一定に保つための治具を図示していない。また、矩形状の誘導加熱コイル11cや11dは、これらのコイルを夫々構成する往復電路導体間にコア材を介在させた構成となっている。磁束集束機能を有するコア材を配したことによって、往復電路導体の回りに夫々発生する磁束は同極性でコア材に集束される結果、磁束の打ち消し合いにより誘導加熱入熱が小さくなることを防止できる。コア材としては、例えば、フェライトと通称される鉄系酸化物の固結体や、珪素鋼板などの強磁性体を用いることができる。
【0058】
矩形状の誘導加熱コイル11cと11dは、ボルトで接続部材14に固定されているが、この接続部材14には、スリット14aが設けられており、矩形状の誘導加熱コイル11cと11dの距離やコイル同士の傾きを自由に調整できる。
【0059】
図4では、矩形状の誘導加熱コイルを2つ接続した例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、矩形状の誘導加熱コイルを3つ以上接続してもよい。矩形状の誘導加熱コイルを3つ(11c〜11e)接続したときの構成例を図5に示す。なお、図5では、誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との距離を一定に保つための治具を図示していない。
【0060】
上記図4や図5に示したように、誘導加熱コイルを2つ以上接続した場合には、夫々の誘導加熱コイルによって形成される磁束が同方向となるように配置し、通電することが好ましい。例えば、図中の誘導加熱コイルに付した矢印の方向に電流を流せばよい。通電することによって形成される磁束を同方向にすることで、磁束の打ち消しを低減することができ、加熱効率を高めることができるからである。このことを図面を用いて更に詳細に説明する。
【0061】
図6は、矩形状の誘導加熱コイル15Aと15Bを、図4に示すように隣り合うように配置したときの誘導加熱コイルの断面図を示している。図6中、矢印は誘導加熱コイルに通電したときに発生する磁束とその方向を示している。
【0062】
誘導加熱コイル自体にコア材を設けない場合は、図6の(a)の15Aに示したように、誘導加熱コイル15aと15bに通電したときに発生する磁束が互いに打ち消されるが、誘導加熱コイル自体にコア材15fを設けると、図6の(a)の15Bに示したように、磁束の打ち消しを防止できる。
【0063】
このように矩形状の誘導加熱コイル自体は、往復電路導体間にコア材15fを配して構成できるが、矩形状の誘導加熱コイル同士の間には、互いの位置取りを任意に調整するために、コア材を介在させることができない。そのため隣り合う矩形状の誘導加熱コイルについて、隣のコイルに近い側の電路を夫々構成している2本の導体に、電流が互いに逆方向となるように流すと、図6の(b)に示すように、通電によって発生する導体回りの磁束が相互に打ち消されてしまい、その結果として、誘導加熱入熱が小さくなる。
【0064】
そこで誘導加熱コイルを2つ以上接続した場合には、上記図4や図5に示した誘導加熱コイルに矢印を付したように、隣り合う矩形状の誘導加熱コイルへの通電極性(即ち、右回り通電か左回り通電か)を夫々のコイルについて、隣コイルに近い側の電路を構成する2本の導体に流れる電流が互いに同方向となるように設定すればよい。即ち、図6の(c)に示すように、隣コイルに近い側の電路を構成する誘導加熱コイル15bと15cに流れる電流が互いに同方向となるように設定すれば、通電によって発生する導体回りの磁束が相互に合算され、その結果、誘導加熱入熱が大きくなる。
【0065】
図7は、本発明の実施形態の一例を示しており、ボイラ等の管寄せ9に適用した例を示している。図7中、(a)は概略説明図であり、(b)は(a)をC−C’方向から見たときの断面図である。なお、図7では、誘導加熱コイル11fおよび11gと、加熱すべき強度劣化部92との距離を一定に保つための治具を図示していない。図7に図示した管寄せ9は円形断面であるが、矩形断面であってもよい。
【0066】
図7中、管寄せ9は多数の配管を集め、流れの分配、或いは流れの合流を行なう容器であり、各配管を取り付けるための管台91が溶接によって取り付けられている。管台91の根元部の溶接部92とその熱影響部は、結晶粒が微細化し、強度が低下する。また結晶粒が粗大化している部分もあり、応力の加わり方によっては損傷を受けるケースもある。そこで本発明では、図7に示したように、溶接部92とその熱影響部の近傍に誘導加熱コイル11fと11gを溶接部92との相対関係を一定に保つように設け、溶接部92とその近傍を加熱すればよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0068】
実施例1
強度劣化部を加熱保持したときに、結晶粒がどの程度成長するかについて、高周波誘導加熱装置の代わりに高温還元反応炉を用いて模擬実験を行った。
【0069】
火力発電設備において、約400℃以上の環境下で20年程度使用された高中圧タービンから切り出したサンプル(以下、ケーシング廃材と呼ぶことがある)を、高温還元反応炉を用いて加熱保持し、加熱保持前後における結晶粒度の変化を夫々測定した。また、加熱保持前後における強度変化を調べるために硬さを測定した。
【0070】
上記サンプルは、Cを0.15質量%、Siを0.47質量%、Mnを0.62質量%、Pを0.009質量%、Sを0.009質量%、Crを1.15質量%、Moを1.02質量%、Vを0.08質量%、Niを0.13質量%、Cuを0.14質量%含有し、残部が鉄および不可避不純物からなるCr−Mo−V鋳鋼のケーシング廃材であり、このサンプルを形状がφ8mm×12mmの試験片に加工し、熱間加工再現装置(加工フォーマスター)を用いて下記表1に示す条件で熱処理した。表1には、室温から加熱温度までの加熱速度、加熱温度から室温までの冷却速度も併せて示した。
【0071】
上記サンプルのA3変態点は、熱間加工再現装置(加工フォーマスター)に付属している径変化追従型He−Neガスレーザーを用いて加熱−膨張曲線を求め、この曲線から鋼製素材のAc3変態点を求めた。なお、下記表1のNo.3〜8は、加熱温度が低過ぎるため、Ac3変態点を測定できなかった。
【0072】
加熱保持後は、アルゴンガス雰囲気下で、690℃×5時間保持して応力除去焼きなましし、次いで常温まで炉冷した。
【0073】
得られた試験片の中心軸を通るように長手方向に2分割して横断面を露出させ、その一方を研磨、3質量%ナイタール液でエッチングした後、光学顕微鏡で400倍でミクロ組織を観察した。ミクロ組織の写真を撮影し、結晶粒の粒度番号を、JIS G0551の「鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法」で規定される結晶粒度標準図と比較して測定した。なお、新材(No.1)の粒度番号と、熱処理する前のケーシング廃材まま(No.2)の粒度番号についても同様に測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。
【0074】
また、加熱温度と粒度番号との関係を示すグラフを図8として示す。図8中、◇は保持時間が6秒の例、□は保持時間が60秒の例、△は保持時間が600秒の例の結果を示している。
【0075】
また、得られた試験片の硬さをビッカース硬度計を用いて測定した。硬さは3箇所測定し、結果を平均した。なお、熱処理する前のケーシング廃材ままの粒度番号と、新材の粒度番号についても同様に測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。また、加熱温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフを図9として示す。図9中、◇は保持時間が6秒の例、□は保持時間が60秒の例、△は保持時間が600秒の例の結果を示している。
【0076】
【表1】
【0077】
表1と図8から明らかなように、加熱温度を高くするほど、或いは保持時間を長くするほど、結晶粒が成長し、粒度番号が小さくなっている。また、表1と図9から明らかなように、加熱温度を高くするほど、或いは保持時間を長くするほど、硬くなっており、加熱保持によって、硬さが回復していることを示している。これは、加熱温度が高いほど、或いは保持時間が長いほど、オーステナイトへの変態が進み、冷却時にオーステナイトからベイナイトまたはマルテンサイトへの変態量が増大した結果、硬くなると考えられる。なお、材料の硬度とクリープ強度の間には相関関係があり、硬度が大きいほど、クリープ強度が大きいことが一般的に知られている。
【0078】
実施例2
上記実施例1で用いたケーシング廃材から切り出した試験片を用い、クリープ試験した。試験片としては、下記表2に示したNo.21〜30を用いた。
【0079】
No.21は、後記する図13に示した新材のクリープ試験のデータから各試験応力における平均クリープ強度を算出し、このデータから回帰曲線を求めて算出したデータである。No.22〜26では、ケーシング廃材から切り出した試験片を熱処理したものを用いてクリープ試験した。熱処理は、高温還元反応炉で1100℃に加熱し、この温度で8時間または10分間保持した後、室温まで空冷(AC;冷却速度は約1000℃/時間)するか、或いは保持した後、350℃まで徐冷(冷却速度は約200℃/時間)したあと空冷し、次いで690℃で8時間加熱して焼戻しした(No.22,23,25,26)。また、高周波誘導加熱装置で1100℃に加熱し、この温度で4分間または1時間保持した後、室温まで空冷(AC;冷却速度は約1000℃/時間)するか、或いは保持した後、350℃まで徐冷(冷却速度は約200℃/時間)したあと空冷し、次いで690℃で8時間加熱して焼戻しした(No.24,27)。
【0080】
No.28では、上記ケーシング廃材を、高周波誘導加熱装置で1100℃に加熱し、この温度で1時間保持した後、350℃まで徐冷(冷却速度は約200℃/時間)し、次いで空冷し、更に690℃で8時間加熱して焼戻ししたサンプルについて、高周波誘導加熱コイルの形状をケーシング廃材に投影したときに、高周波誘導加熱コイルの形状が投影された部分と投影されていない部分の境界部を含むように切り出したものを用いてクリープ試験した。No.29では、上記ケーシング廃材同士を溶接し、溶接継ぎ手と熱影響部を含むように切り出したサンプルを用いてクリープ試験した。No.30では、溶接熱影響部における組織を模擬するために(細粒域再現材)、上記ケーシング廃材を熱処理して結晶粒径を約10〜30μmに調整したサンプルを用いてクリープ試験した。
【0081】
クリープ試験の試験応力は、8kgf/mm2、12kgf/mm2または20kgf/mm2とした。クリープ試験の結果から、下記(1)式を用いてラーソン−ミラーパラメータ(LMP)を算出した。算出結果を下記表2に示す。LMPと応力の関係を図10〜図12に示す。図10はNo.21とNo.22〜24の結果、図11はNo.21とNo.25〜27の結果、図12はNo.21とNo.28〜30の結果を夫々示している。下記(1)式中、Tは試験温度(℃)、trは破断時間(h)、20は材料定数である。
LMP=(T+273)×(logtr+20) ・・・(1)
【0082】
また、種々の新材を用いてクリープ試験し、ラーソン−ミラーパラメータを算出し、応力との関係をプロットしたものに、下記表2のNo.25とNo.26の結果を重ねてプロットしたグラフを図13に示す。図13中、△はNo.25の結果(1100℃、8hr、徐冷)、□はNo.26の結果(1100℃、10min、徐冷)を示している。
【0083】
【表2】
【0084】
表2と図10〜図13から明らかなように、加熱保持した例(No.22〜27)では、ケーシング廃材のクリープ強度が新材程度に回復していることが分かる。
【0085】
特に図10と図13から明らかなように、ケーシング廃材を4分間加熱保持した場合(No.24)と10分間加熱保持した場合(No.23)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の下限程度に回復することが分かる。一方、ケーシング廃材を8時間加熱保持した場合(No.22)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の上限程度に回復することが分かる。
【0086】
図11と図13から明らかなように、ケーシング廃材を10分間加熱保持した場合(No.26)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の下限程度に回復することが分かる。一方、ケーシング廃材を1時間加熱保持した場合(No.27)と8時間加熱保持した場合(No.25)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の上限程度に回復することが分かる。
【0087】
図10と図11を比べると、加熱保持した後に、空冷するよりも徐冷する方がクリープ強度が高くなることが分かる。空冷するとマルテンサイトに近い組織になるのに対し、徐冷すると一部にクリープ強度が低いフェライト組織が生成するものの、大半がクリープ強度の高い上部ベイナイト組織が生成したためと考えられる。
【0088】
図11〜図13から明らかなように、高周波熱処理境界部(No.28)のクリープ強度は、ケーシング廃材を10分間加熱保持した場合(No.26)のクリープ強度と同程度であり、新材のクリープ強度の下限程度に回復することが分かる。一方、溶接材(No.29)と細粒域再現材(No.30)のクリープ強度は同程度であり、著しく低いことが分かる。
【0089】
上記No.25とNo.26のクリープ強度の結果と、新材の個々のクリープ強度の結果を併せたものを図13に示す。図13から明らかなように、ケーシング廃材を8時間加熱保持した場合(No.25)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の上限程度に回復しており、ケーシング廃材を10分間加熱保持した場合(No.26)のクリープ強度は、新材のクリープ強度の下限程度に回復していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1の(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の一構成例を示す概略説明図であり、(b)は(a)の一部を拡大した図である。
【図2】図2の(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は(a)をA−A’方向から見たときの断面図である。
【図3】図3の(a)は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図であり、(b)は上記(a)をB−B’方向から見たときの断面図である。
【図4】図4は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図である。
【図5】図5は、本発明の高周波誘導加熱装置の他の構成例を示す概略説明図である。
【図6】図6は、矩形状の誘導加熱コイルを2つ隣り合うように配置し、通電したときに発生する磁束を模式的に描いた図である。
【図7】図7の(a)は、本発明の実施形態の一例を示した概略説明図であり、(b)は(a)をC−C’方向から見たときの断面図である。
【図8】図8は、加熱温度と粒度番号との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、加熱温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図10】図10は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【図11】図11は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【図12】図12は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【図13】図13は、クリープ試験したときの結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 高周波誘導加熱装置
11 誘導加熱コイル
12 治具
12a スペーサ
12b 接続部材
12c ボルト
13 絶縁材
14 接続部材
14a スリット
2 加熱対象とする被処理材
21 強度劣化部
3 加熱対象とする被処理材(大口径の管状被処理材)
5 固定台
6 加熱対象とする被処理材(小口径の管状被処理材)
7 クランプ
8 接続部材
9 管寄せ
91 管台
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部材を用いて構成されている設備の強度劣化部の強度を回復させる方法であって、
該強度劣化部を鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持することにより強度を回復させることを特徴とする強度劣化部の強度回復方法。
【請求項2】
前記強度劣化部の加熱を、高周波誘導加熱装置を用いて行う請求項1に記載の強度回復方法。
【請求項3】
前記強度劣化部が、鋼材同士の溶接部とその熱影響部を含む部分である請求項1または2に記載の強度回復方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の強度回復方法に用いられる高周波誘導加熱装置であって、この装置は、誘導加熱コイルの他に、該誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えていることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
前記高周波誘導加熱装置は、少なくとも2つの誘導加熱コイルを備えており、隣り合う一方の誘導加熱コイルと他方の誘導加熱コイルは、加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル同士の相対関係を調整可能に接続されている請求項4に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
前記少なくとも2つの誘導加熱コイルは、隣コイルに近い側に位置している導体同士の通電方向が同方向となる通電極性にて配置されている請求項5に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項1】
鋼製部材を用いて構成されている設備の強度劣化部の強度を回復させる方法であって、
該強度劣化部を鋼製部材のA3変態点以上の温度で加熱保持することにより強度を回復させることを特徴とする強度劣化部の強度回復方法。
【請求項2】
前記強度劣化部の加熱を、高周波誘導加熱装置を用いて行う請求項1に記載の強度回復方法。
【請求項3】
前記強度劣化部が、鋼材同士の溶接部とその熱影響部を含む部分である請求項1または2に記載の強度回復方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の強度回復方法に用いられる高周波誘導加熱装置であって、この装置は、誘導加熱コイルの他に、該誘導加熱コイルと加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保つための構成を備えていることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
前記高周波誘導加熱装置は、少なくとも2つの誘導加熱コイルを備えており、隣り合う一方の誘導加熱コイルと他方の誘導加熱コイルは、加熱すべき強度劣化部との相対関係を一定に保ちつつ、誘導加熱コイル同士の相対関係を調整可能に接続されている請求項4に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
前記少なくとも2つの誘導加熱コイルは、隣コイルに近い側に位置している導体同士の通電方向が同方向となる通電極性にて配置されている請求項5に記載の高周波誘導加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−95133(P2008−95133A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275719(P2006−275719)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】
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