説明

強度増進特性に優れた粘結補填材と高強度コークスの製造方法

【課題】原料炭に占める非微粘結炭の配合割合が20%を超えても、DI15015で84.5以上、CSRで62以上の強度を確保できる粘結補填材と、該粘結補填材を用いて高強度のコークスを製造する製造方法を提供する。
【解決手段】強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45〜84%、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜54%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜40%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.95〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの強度を増進する作用をなす粘結補填材、特に、石油系の重質留分を用いて、高強度のコークスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業において、還元材のコークスには、炉内の通気性を確保するため、所要の強度が求められる。高強度のコークスを製造するためには、コークス用原料炭として、良質の強粘結炭を必要とするが、良質の強粘結炭は、長期にわたり資源的に枯渇状態にある。
【0003】
それ故、これまで、低品質の非微粘結炭を原料炭として高強度コークスを製造する方法が、数多く提案されている。
【0004】
低品質の非微粘結炭を原料炭として用いる場合、その粘結性を補填するため、粘結補填材を添加、混合する。例えば、粘結補填材として、タール、ピッチ、石油系粘結材等を使用する(特許文献1〜3、参照)。
【0005】
特許文献1には、アスファルト等の石油系重質留分を原料炭に添加し、粘結炭の配合割合を削減して、非微粘結炭の配合割合を増加させ、良質なコークスを製造する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ブタン、ペンタン又はヘキサンを溶剤として単独で又は混合して使用し石油系重質油から得た軟化点100℃以上の脱れきアスファルトを、原料炭に、2〜10重量部添加、配合するコークスの製造方法が開示されている。
【0007】
しかし、これらの製造方法では、コークス強度の指標DI15015は、高炉用コークスに最低限必要な84.5レベル以上を確保できない。また、非微粘結炭の配合比率は、特許文献1では0%、特許文献2では9〜13%と低い。
【0008】
一方、非微粘結炭を多量に使用し、高強度のコークスを得る方法の一つとして、石炭をコークス炉に装入する前に乾燥し、コークス炉に装入する石炭の嵩密度を向上させる調湿炭法と呼ばれるプロセスが日本国内で広く普及している(特許文献4、参照)が、調湿炭法において、コークス強度を有効に向上させる粘結補填材、及び、該粘結補填材を用いて高強度のコークスを製造できる製造方法については知られていない。
【0009】
そこで、本出願人は、高炉用の高強度コークスの製造を目指し、特許文献3で、非微粘結炭を0〜60wt%含む原料炭に、粘結補填材としてタール重質留分を添加する高炉用コークスの製造方法を提案した。
【0010】
この製造方法において、タールを200〜350℃で蒸留してヘキサン可溶分(HS)を20wt%以下、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS)を40〜80wt%、トルエンに不溶な成分(TI)を0〜40wt%に調整したタール重質留分を用いると、非微粘結炭の配合比率が40〜60%という高い範囲において、DI15015が83〜84という高い高炉用コークスの製造が可能である。しかし、タール重質留分を粘結材として用いる場合は、高炉装入用原料として乾留後のコークス強度(DI15015)とともに要求されるコークスの熱間反応後強度(以下「CSR」という。)を十分に満足することはできなかった。
【0011】
コークスのCSRは、高炉内での反応後の強度を示す指標であり、20±1mmの大きさに調整されたコークス200gを、ガス組成:二酸化炭素(100%)、反応温度1100℃、反応時間2時間の条件で反応させた後、I型ドラムで600回転させた後、反応後質量に対する9.56mm篩上質量の百分率で定義される。高炉内での反応後のコークスの粉化を抑制し、かつ鉄鉱石層間のスペーサとして炉内の通気性を良好に維持するためには、高いCSRが要求される。原料炭として非微粘結炭を多量に使用する場合には、従来の粘結材による方法では、DI15015が84.5以上の高い冷間コークス強度を確保できたとしても、CSRが62以上の高い熱間反応後強度を充分に確保することは困難であった。
【0012】
それ故、非微粘結炭を多量に用いても、DI15015が84.5以上の冷間コークス強度を確保しつつCSRが62以上の高い熱間反応後強度を充分にかつ確実に確保できるコークス製造技術が強く求められている。
【0013】
一方、石油系重質留分(例えば、脱れきアスファルト)は、原油から軽質油を分離、精製する際に副生する副産物であり、タールなどの石炭系重質留分とともにその有効活用が検討されている。従来、この石油系重質留分の大部分は燃料として使用していたが、タールなどの石炭系重質留分に比べて、石油系重質留分には、原油中に含有する硫黄成分やバナジウム等の重金属成分が高濃度で濃縮されている。このため、石油系重質留分を燃料として使用する場合には、排煙脱硫処理装置やバナジウム等による高温腐食対策が講じられた燃焼設備が必要となり、さらに、重金属を含む燃焼灰廃棄物の環境問題などの問題があった。
【0014】
近年、コークス製造プロセスにおいて石油系重質留分をタールなどの石炭系重質留分と同様な粘結補填材として利用することも検討されている。一般に、コークス製造プロセスでは、粘結補填材中の硫黄成分に起因してコークス製造時に発生する熱分解ガス(コークス炉ガス)中の硫黄濃度が高くなっても、付随するコークス炉ガス精製設備により脱硫されるため、設備コストなどの点で有利である。
【0015】
しかし、粘結補填材中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分に起因してコークス中に硫黄成分やバナジウム等の重金属成分が増加し、高炉での溶銑品質の低下が懸念させる。このため、石油系重質留分を粘結補填材としてコークス製造プロセスで使用する場合には、これら硫黄成分やバナジウム等の重金属成分に起因する高炉での溶銑品質の低下がないことが要求される。
【0016】
また、コークス製造プロセスではコークス成品以外の副生物であるタールなどの油分やコークス炉ガスの一部を化学原料および燃焼用ガスとして有効活用している。このため、石油系重質留分を粘結補填材としてコークス製造プロセスで使用する場合には、上記硫黄成分やバナジウム等の重金属成分に起因するタールなどの油分やコークス炉ガスの品質への影響がないことも要求される。
【0017】
【特許文献1】石炭化学と工業(三共出版(株)、昭和52年版、p.315)
【特許文献2】特開昭59−179586号公報
【特許文献3】特開平9−241653号公報
【特許文献4】ふぇらむ Vol.9(2004)、p.810
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記要望に鑑み、高炉用コークスの製造において、原料炭に占める非微粘結炭の配合割合が20%を超えても、DI15015で84.5以上、CSRで62以上の強度を確保できる粘結補填材と、該粘結補填材を用いて高強度のコークスを製造する製造方法を提供することを第1の課題とする。
【0019】
また、本発明は、石油系重質留分を配合原料の粘結補填材としてコークスを製造する際に、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留による高炉での溶銑品質、さらには、コークス炉の副生物である油分やコークス炉ガスの品質への影響がない良好な品質を有するコークスの製造方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
原料炭に占める非微粘結炭の割合が増加すると、原料炭としての粘結性は当然に低下するから、高強度のコークスを製造するためには、この粘結性の低下を補填できる粘結補填材を、原料炭に対し所定の量配合する必要がある。
【0021】
前述したように、タール、タール重質留分、石炭系ピッチ、石油系の重質留分(例えば、脱れきアスファルト)や、石油系ピッチは、コークスの強度を増進する粘結補填材として有効に機能する。
【0022】
しかし、多量の非微粘結炭を用いる場合や、各種銘柄の非微粘結炭を多種配合して用いる場合において、粘結補填材の強度増進効果を充分に引き出すためには、原料炭の性状、及び、粘結補填材の性状を知り、原料炭の性状に合致する粘結補填材を選択して配合する必要がある。
【0023】
本発明者は、粘結補填材として、石油系重質油から軽質油を分離して得られる石油ピッチを、水素化改質反応で熱改質した後、生じた軽質油を分離して得られる残渣中のHS成分、HITS成分およびTI成分の成分組成、および、H/C原子比に着目し、これらとコークスの強度増進効果との関係について調査した。
【0024】
その結果、原料炭の性状に応じて、HS成分、HITS成分、及び、TI成分の成分組成と、H/C原子比を調整した粘結補填材を所定量配合すれば、DI15015で84.5以上、CSRで62以上の高強度コークスを製造できることを見いだした。
【0025】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45〜84%、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜54%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜40%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.95〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0026】
なお、粘結補填材の各成分の含有量は質量%であり、以下の記載でも同様とする。
【0027】
(2)高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45%未満、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜99%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜85%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.85〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0028】
(3)前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0029】
(4)原料炭を乾留して高強度コークスを製造する方法において、原料炭に、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45〜84%、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜54%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜40%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.95〜1.10である粘結補填材を配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【0030】
(5)原料炭を乾留して高強度コークスを製造する方法において、原料炭に、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45%未満、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜99%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜85%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.85〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材を配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【0031】
(6)前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載の高強度コークスの製造方法。
【0032】
(7)前記粘結補填材を、原料炭に対し0.2〜5質量%配合することを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、石油系重質油から軽質油を分離して得られる石油ピッチを、水素化改質反応で熱改質した後、生じた軽質油を分離して得られる、HS成分:45〜84%、HITS成分:15〜54%、TI成分:1〜40%で、かつH/C原子比:0.95〜1.10、または、HS成分:45%未満、HITS成分:15〜99%、TI成分:1〜85%で、かつH/C原子比:0.85〜1.10の石油重質残渣を原料炭の性状に応じて、粘結材として原料炭に配合することにより、DI15015で84.5以上、CSRで62以上の高強度コークスを製造することができる。
【0034】
また、原油から軽質油を分離、精製する際に大量に発生する石油系重質留分をコークス製造用粘結材として有効に活用し、高炉用の高強度コークスを製造するという点で、産業上の価値が大きいばかりでなく、環境保護上も極めて社会的意義が大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明について、詳細に説明する。一般に石油重質残渣は、主として、ヘキサンに可溶な成分(以下「HS成分」ということがある)、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(以下「HITS成分」ということがある)、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分)と、その他、不可避的残留成分からなる。
【0036】
図1は、HS成分、HITS成分、及び、TI成分の組成を各辺にとった組成図である。本発明者は、石油重質残渣の中でも、図1において、実線で囲んだ領域(記号「a」+「b」の領域)、つまり、HS成分:84%以下、HITS成分:15%以上、及び、TI成分:1〜85%の領域にある石油重質残渣に着目し、乾留後のコークス強度(DI15015)ともにコークスの熱間反応後強度(以下「CSR」という。)を向上し得るコークス製造用の強度増進特性に優れた粘結補填材の成分組成について詳細に検討した。
【0037】
本発明者らの検討によれば、乾留後のコークス強度(DI15015)を確保するうえで、コークスの気孔構造においては、(a)気孔サイズが適切であること、(b)気孔形状が丸みを帯びていること、及び、(c)コークス壁が厚いことが重要であり、コークスの熱間反応後強度(CSR)を確保するうえで、(d)コークス表面が、異方性が発達したカーボン構造を有し、ミクロ気孔が少ないことが重要であり、粘結補填材中のHS成分、HITS成分およびTI成分の成分組成、および、H/C原子比(水素と炭素の原子数比を示す)が次の作用をなすことを実験的に確認した。
【0038】
(A)HS成分(軽質成分)は、乾留過程でガス化し、軟化溶融した石炭中の気泡の成長及び合体を促進して、気孔サイズを適切な大きさまで大きくする(気孔拡大作用)。
【0039】
(B)HITS成分(中間質成分)は、乾留過程で軟化溶融した石炭の粘性を低下させ、気泡の形状を丸みのある形状とする(気孔丸状化作用)。
【0040】
(C)TI成分(重質成分)は、殆ど残渣となるが、コークス壁を厚くする(壁厚増大作用)。
【0041】
(D)H/C原子比が高い粘結補填材は、脂肪族の側鎖がより多い構造を有し、熱分解時に側鎖が優先的に切れ、ラジカル構造を有する側鎖由来分子(炭化水素分子)がコークスの表面で重合反応、脱水素反応を起こし、異方性が発達したカーボン構造に変化させ、または、ミクロ気孔を封止する。
【0042】
さらに、原料炭の性状と粘結補填材の作用によるコークス強度向上効果について検討した結果、原料炭の性状に応じて、粘結補填材中のHS成分、HITS成分、及び、TI成分の成分組成と、H/C原子比を調整することにより、顕著なコークス強度増進効果が得られることを確認した。
【0043】
つまり、本発明者らの検討結果、以下のことが判った。
一般に非粘結炭は粘結性(JISで規定する膨張性)が低く、かつ揮発分の多い原料炭であるが、非粘結炭の中でも比較的粘結性(JISで規定する膨張性)が低いものと、揮発分の多いものとでは、乾留後のコークス強度(DI15015)およびコークスの熱間反応後強度(CSR)を共に向上するために効果を発揮するための粘結補填材の成分組成が異なることがわかった。
【0044】
(x)粘結性(JISで規定する膨張性)が低い原料炭に対して、気孔拡大作用をなすHS成分(軽質成分)が比較的多く、H/C原子比(水素と炭素の原子数比を示す)が比較的高い粘結補填材を添加すると、乾留後のコークス強度(DI15015)およびコークスの熱間反応後強度(CSR)を共に向上することができる。
【0045】
(y)揮発分の多い原料炭に対して、気孔拡大作用をなすHS成分(軽質成分)が比較的少なく、H/C原子比が比較的低い粘結補填材を添加すると、乾留後のコークス強度(DI15015)およびコークスの熱間反応後強度(CSR)を共に向上することができる。
【0046】
そして、本発明者は、上記(x)を満たす粘結補填材として、HS成分:45〜84%、HITS成分:15〜54%、及び、TI成分:1〜40%の成分組成(図1中「a」の組成領域)で、かつH/C原子比0.95以上1.10以下である粘結補填材Aを見出した。
【0047】
粘結性(JISで規定する膨張性)が低い原料炭に対して、HS成分(軽質成分)の含有量が45%未満の粘結補填材Aを添加する場合には、上記HS成分の作用による強度増進効果が得られない。特に、コークス強度(DI15015)を向上させるために粘結補填材A中のHS成分(軽質成分)の含有量の下限を45%とする。一方、HS成分の含有量が84%を超えると、コークス中に形成される気孔のサイズが大きくなり過ぎるとともに、壁厚が薄くなり、逆に、乾留後のコークス強度(DI15015)が低下するため、HS成分の含有量の上限を84%とする。
【0048】
粘結補填材A中のHITS成分(中間質成分)の含有量は、乾留過程で軟化溶融した石炭の粘性を低下させ、コークスの気孔の丸状化作用によるコークス強度(DI15015)の向上をえるために、15%以上とする必要がある。一方、HITS成分の含有量が54%を超えると、気孔丸状化作用も飽和して、所要の強度増進効果が得られない。
【0049】
粘結補填材A中のTI成分(重質成分)が1%未満であると、HS成分及び/又はHITS成分の添加量にかかわらず、壁厚増大作用が得られず、結局、所要のコークス強度(DI15015)の向上効果が得られない。一方、TI成分の含有量が40%を超えると、他の成分を低減せざるを得なくなり、所要の強度増進効果が得られない。
【0050】
上記HS成分、HITS成分、及び、TI成分の成分組成を満足するとともに、H/C原子比を以下の範囲に規定することで、粘結性(JISで規定する膨張性)が低い原料炭に粘結補填材Aを添加する場合に、乾留後のコークス強度(DI15015)に加えて、さらに、コークスの熱間反応後強度(CSR)を向上することが可能となる。
【0051】
本発明者らの検討によれば、H/Cが高い粘結補填材は、脂肪族の側鎖がより多い構造を有し、熱分解時に側鎖が優先的に切れ、ラジカル構造を有する側鎖由来分子(炭化水素分子)がコークスの表面でトラップされ、重合反応、脱水素分解を起こしやすい。この結果、コークス表面を異方性が発達したカーボン構造に改質したり、或いは、コークスのミクロ気孔内に沈着してミクロ気孔を封止することで、コークスの熱間反応後強度(CSR)を向上させる効果がある。また、粘結補填材のH/C原子比は、HS成分(軽質成分)が多くなるほど高くなる傾向にあり、粘結補填材Aの場合には、粘結補填材中のH/C原子比が0.95以上で上記コークスの熱間反応後強度(CSR)の向上効果が得られる。
【0052】
一方、粘結補填材のH/C原子比が1.10よりも高くなると、脂肪族の側鎖はより低温で熱分解し、コークス表面にトラップされ、重合反応、脱水素分解を生じる前に排出され、または、コークス表面のミクロ気孔を封止する効果も少なくなってしまう。したがって、コークスの熱間反応後強度(CSR)を向上させる効果を十分に発揮させるために、H/C原子比を0.95〜1.10とする必要がある。
【0053】
また、上記(y)を満たす粘結補填材として、HS成分:45%未満、HITS成分:15〜99%、及び、TI成分:1〜85%の成分組成(図1中「b」の組成領域)で、かつH/C原子比0.85以上1.10以下である粘結補填材Bを見出した。
【0054】
揮発分の多い原料炭に対して、HS成分含有量が45%以上の粘結補填材Bを添加する場合には、コークス中に形成される気孔のサイズが大きくなり過ぎるとともに、壁厚が薄くなり、コークス強度(DI15015)が低下する。このため、粘結補填材B中のHS成分含有量の上限はが45%未満とする。
【0055】
粘結補填材B中のHITS成分(中間質成分)の含有量は、乾留過程で軟化溶融した石炭の粘性を低下させ、コークスの気孔の丸状化作用によるコークス強度(DI15015)向上効果をえるために、15%以上とする必要がある。一方、HITS成分の含有量が99%を超えると、気孔丸状化作用も飽和して、所要の強度増進効果が得られない。
【0056】
粘結補填材B中のTI成分(重質成分)が1%未満であると、壁厚増大作用が得られず、所要のコークス強度(DI15015)向上効果が得られない。一方、TI成分の含有量が85%を超えると、他の成分を低減せざるを得なくなり、所要の強度増進効果が得られない。
【0057】
粘結補填材Bの場合には、粘結補填材中のH/C原子比が0.85以上で上記コークスの熱間反応後強度(CSR)の向上効果が得られる。一方、粘結補填材のH/C原子比が1.10よりも高くなると、脂肪族の側鎖はより低温で熱分解し、コークス表面にトラップされ、重合反応、脱水素分解を生じる前に排出され、または、コークス表面のミクロ気孔を封止する効果も少なくなってしまう。したがって、コークスの熱間反応後強度(CSR)を向上させる効果を十分に発揮させるために、H/C原子比を0.85〜1.10とする必要がある。
【0058】
上記のようなHS成分、HITS成分、及び、TI成分の成分組成を有し、かつ、H/C原子比を満足する粘結材は、以下のようにして製造することができる。
【0059】
先ず、溶剤抽出処理または蒸留処理により、石油系重質油から軽質油を分離し、石油ピッチを得る。
【0060】
溶剤抽出処理により石油系重質油から軽質油を分離する場合は、抽出溶剤として、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンを単独でまたは混合して使用するのが好ましい。また、溶剤抽出処理における抽出溶剤と石油系重質油の体積流量比(溶剤/石油系重質油)は、石油系重質油中のパラフィンなどの軽質油の分離効率を高めるために2以上とするのが好ましい。
【0061】
一方、抽出溶剤と石油系重質油の体積流量比が10より大きくなると、抽出溶剤の使用量が増えてプロセスのスケールが大きくなり、既存の設備で実施できなくなるばかりでなく、溶剤の加熱、冷却等各工程にかかる経費が増大する。したがって、溶剤抽出処理における抽出溶剤と石油系重質油の体積流量比は2〜10とするのが好ましい。
【0062】
また、蒸留処理により石油系重質油から軽質油を分離する場合は、石油ピッチ中のパラフィンを軽質油とともに効率的に分離するためにカットポイントを500℃以上とするのが好ましい。また、同様に圧力低くした方が、石油系重質油中のパラフィンを軽質油とともにより多く分離できるためより望ましい。
【0063】
一方、カットポイントが600℃より過度に高くなると、石油系重質油の一部が熱分解して、ガスの発生あるいは炭素分の析出が起こり、蒸留装置に負荷がかかり、工程安定性が低くなるため、カットポイントを600℃以下とするのが好ましい。これらの理由から、蒸留処理におけるカットポイントは500〜600℃とするのが好ましい。
【0064】
次に、上記の溶剤抽出処理または蒸留処理により、石油系重質油から軽質油を分離して得られた石油ピッチを水素化改質処理し、発生した軽質油を分離する。
【0065】
石油ピッチの水素化改質処理は、炭化水素の炭素−炭素結合、炭素−硫黄結合、炭素−窒素結合の切断を促進する水素化能を有する添加剤と水素の存在下で処理する。
【0066】
水素化能を有する添加剤としては、水素改質反応が円滑に進行する上で、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンおよびタングステンから選ばれる少なくとも一つを含む添加剤を共存させることがこのましい。添加剤として用いられるニッケル、コバルト、モリブデンおよびタングステンの金属は、金属単体、有機化合物および無機化合物のいずれの形態で用いてもよく、さらにこの金属単体、有機化合物および無機化合物は、アルミナ、シリカ、チタニアなどの担体に担持しても、溶液に分散させた状態で使用してもよい。
【0067】
また水素化改質反応の温度条件は、反応温度が高いほど進行しやすいが、過度に反応温度を高くすると、炭素分が反応装置およびこれに付属する配管の中で析出し、さらに析出した炭素分が添加剤表面に付着して、反応の進行が妨げられる。
【0068】
また、水素化改質反応における圧力条件、水素/石油ピッチの流量比は、炭素分の析出を抑制するために、圧力および水素/石油ピッチの流量比が大きいほど抑制されるが、過度に大きくすると、原料の加熱、冷却、圧縮、移送など各工程にかかる経費が増大し、コストアップにつながる。
【0069】
したがって、本発明の水素化改質反応は、炭素分の析出を抑制し、反応が円滑に進行するために、反応温度:380〜500℃、圧力:80〜250kg/cm2、水素/石油ピッチの流量比:1000〜3000Nm3/m3が好まし、さらに好ましくは、反応温度:400〜480℃、圧力:120〜210kg/cm2、水素/石油ピッチの流量比:1500〜2500Nm3/m3の条件下で実施するのよい。
【0070】
本発明において、粘結補填材の原料炭に対する添加量は、0.2質量%未満では、粘結補填材による上記効果を充分に発現させることが困難となり、目的とする乾留後のコークス強度(DI15015)とコークスの熱間反応後強度(CSR)が達成できなくなる。したがって、粘結補填材の原料炭に対する添加量は0.2質量%以上とすることが好ましい。
【0071】
また、石油系重質留分を配合原料の粘結補填材としてコークス製造プロセスで利用する場合は、石油系重質留分中には原油中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分が高濃度で濃縮されているため、これらのコークス中への残留が懸念される。粘結補填材中の硫黄成分はコークス炉でその約半分が熱分解ガス(コークス炉ガス)中に移行され、付随するコークス炉ガス精製設備により脱硫される。一方、粘結補填材中のバナジウム等の重金属成分はその大部分がコークス中に残留する。これらのコークス中に残留した硫黄成分およびバナジウム等の重金属成分は、コークスを高炉で使用する際に、その大部分が高炉で生成させたスラグ中に移行し、溶銑から除去、分離される。
【0072】
本発明者らの検討によれば、石油系重質留分を粘結補填材としてコークスを製造する際に、粘結補填材の原料炭に対する配合比率を5%以下とすることによって、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留による高炉での溶銑品質への影響がない良好な品質を有するコークスを製造することができることを確認した。また、粘結補填材の原料炭に対する配合比率を低減するほど、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留は低減されるため、この点から、粘結補填材の原料炭に対する配合比率は、好ましくは2%以下とするのが望ましい。
【0073】
また、コークス製造時に粘結補填材中の硫黄成分が熱分解ガス中に移行することによりコークス炉ガス中の硫黄成分濃度が上昇するが、上記粘結補填材の配合比率であれば、コークス製造プロセスに付随する既存のコークス炉ガス精製設備を改造することなく通常操業時に十分に脱硫できることも確認している。
【0074】
本発明は、所要の成分組成の粘結補填材を配合することにより、コークス強度の増進を図るものであるから、非微粘結炭の配合量に制限はない。
【0075】
通常、非微粘結炭の配合量が20質量%以上になると、コークス強度の低下が著しいが、本発明は、非微粘結炭の配合量が20質量%以上においても、顕著な効果を発揮する。また、本発明において、原料炭の粒度分布、性状にも制限はない。
【実施例】
【0076】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0077】
(実施例)
表1に示す組成の粘結補填材を用意した。記号A1、B1、C1、C4、D1の粘結補填材は、本発明で規定する組成範囲内のものであり、記号A2、A3、B2、B3、C2、C3、D2、D3、H2、H3の粘結補填材は、上記組成範囲外のものである。
【0078】
非微粘結炭としては、JISで規定する膨張性(全膨張率)が低い非微粘結炭A(揮発分 31%、全膨張率 10%)と、揮発分が比較的高い非微粘結炭B(揮発分 35%、全膨張率 21%)を用いた。これらの非微粘結炭を用いて、非微粘結炭Aの配合比率40%の配合炭A(揮発分 26.8%、全膨張率の加重平均値 52%)または非微粘結炭Bの配合比率40%の配合炭B(揮発分 28.4%、全膨張率の加重平均値 56%)に、表1に示す組成の粘結補填材を、表2に示す配合量で添加して乾留し、コークスを製造した。
【0079】
原料炭はあらかじめ3mmアンダー82%に粉砕し、水分3%、装入密度0.83dry,t/m3で試験コークス炉に装入した。
【0080】
製造したコークスのDI15015およびCSRを測定した。その結果を、表2に併せて示す。
【0081】
表2から、比較例、発明例の両方ともDI15015は85レベルの極めて高い強度が得られていることがわかる。また、比較例のCSRは58〜60であるのに対し、発明例のCSRは64〜65であり、より一層CSRが向上している事がわかる。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0084】
前述したように、本発明によれば、石油系重質油から軽質油を分離して得られる石油ピッチを、水素化改質反応で熱改質した後、生じた軽質油を分離して得られる粘結材を原料炭に配合することにより、DI15015で84.5以上、CSRで60以上の高強度コークスを製造することができる。また、石油系重質油に含まれる硫黄およびバナジウム等の重金属を、新規な設備投資を行うことなく効率的に分離除去する事が可能である。以上のように、石油系重質残渣をコークス製造用粘結材として用いることにより、大量に発生する石油ピッチを有効に活用し、高炉用の高強度コークスを製造するという点で産業上の価値が大きいばかりでなく、環境保護上も極めて社会的意義が大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明で用いる粘結補填材の組成領域(実線で囲んだ領域)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45〜84質量%、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜54質量%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜40質量%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.95〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項2】
高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45質量%未満、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜99質量%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜85質量%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.85〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項3】
前記原料炭が、非微粘結炭を20質量質量%超含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項4】
原料炭を乾留して高強度コークスを製造する方法において、原料炭に、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45〜84質量%、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜54質量%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜40質量%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.95〜1.10である粘結補填材を配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【請求項5】
原料炭を乾留して高強度コークスを製造する方法において、原料炭に、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):45質量%未満、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分):15〜99質量%、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1〜85質量%を含有し、残部が不可避的残留成分からなり、かつH/C原子比:0.85〜1.10であることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材を配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【請求項6】
前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項7】
前記粘結補填材を、原料炭に対し0.2〜5質量%配合することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−321076(P2007−321076A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153646(P2006−153646)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】