説明

強迫性障害(OCD)処置用の薬剤の製造のためのアゴメラチンの使用

本発明は、強迫性障害(OCD)の処置用の薬剤の製造のためのアゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強迫性障害(OCD)の処置を目的とする医薬品の入手における、アゴメラチン、即ち、式(I):
【0002】
【化1】


で示されるN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、更にはまたその水和物、結晶形及び薬学的に許容しうる酸又は塩基との付加塩の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドは、一方では、メラトニン作動系の受容体のアゴニストであり、他方では、5−HT2C受容体のアンタゴニストであるという二重の特徴を有する。これらの特性により、中枢神経系において、そして特に大鬱病、季節性情動障害、睡眠障害、心血管病変、消化器系の病変、時差ぼけに起因する不眠症及び疲労、食欲障害及び肥満症の処置において活性がある。
【0004】
アゴメラチン、その製造及び治療におけるその使用は、ヨーロッパ特許明細書EP 0,447,285及びEP 1,564,202に記載されている。
【0005】
出願人は、アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、更にはまたその水和物、結晶形及び薬学的に許容しうる酸又は塩基との付加塩が、強迫性障害(OCD)の処置における使用を可能にする価値ある特性を有することを今や見い出した。
【0006】
強迫性障害(OCD)は、強迫観念及び強迫行為の存在により定義される病変である。この病変は、完璧に定義された基準に合致し、そして完全に独立した疾病学的実体を構成する(300-3, Disorder - DSM IV - Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th Edition, American Psychiatric Association)。
【0007】
強迫観念は、時に押し付けがましく不相応と感じられ、そして大量の苦悩を引き起こす、繰り返される思考、衝動又は精神的構築物として定義される。これらは単に、実生活の問題への過剰な執着というだけのものではない。患者は、一方ではこれらを無視又は抑制するよう努力し、そして他方ではこれらの起源が彼又は彼女自身の精神活動の中にあり、かつこれらは過剰又は不合理であることを認識している。
【0008】
強迫行為は、苦悩の感情を中和又は軽減すること、あるいは恐れている事象又は状況を妨げることを目的とする反復行動又は精神活動である。強迫行為は、中和するか若しくは妨げることを目的とするものと現実的な関係を持たないか、又は明らかに過剰であるかのいずれかである。
【0009】
強迫観念又は強迫行為は、際だった苦悩の感情及び相当な時間の無駄を引き起こす。これらは、特に患者のソシオプロフェッショナル(socio-professional)な機能及び日々の活動に干渉する。
【0010】
強迫性障害は、物質の直接生理作用に起因しない慢性病変である。その生涯有病率は、2〜3%程度である(Kaplan A. et al., Psychiatric Services, 2003, 54(8))。
【0011】
現在のところ、強迫性障害に対して真に満足できる処置法は存在しない。最も頻繁には、患者は、抗鬱薬のクロミプラミン、三環系抗鬱薬、又は主として認知及び行動療法と併用してセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で処置される。しかし、SSRI処置法は、胃腸障害、例えば、吐き気、食欲不振、体重減少、性機能障害又はセロトニン症候群のような、際だった副作用を引き起こす。更にこれらの効果は、即効性でなく、15日〜3週間の処置期間後に出現するのであるが、わずか20%の患者しかこれらの処置法には反応しない。
【0012】
したがって、強迫性障害(OCD)を患う患者の生活を向上させることができる新しい処置法が、今も実際に必要とされ続けている。
【0013】
出願人は今や、3900人に近い患者で実施された臨床試験において観測された、その薬理学的特性及び特にその優れた忍容性に基づいて、アゴメラチンが、強迫性障害(OCD)の処置において使用できることを見い出した。
【0014】
詳しくは、アゴメラチンは、普通の向精神薬に伴う副作用を持たない。これらの作用の中で、普通の向精神薬処置の中止で観察される離脱症候群が、アゴメラチンの場合には存在せず、このためアゴメラチンは、この適応症における最適な処置法になる。
【0015】
よって本発明は、強迫性障害(OCD)の処置を目的とする医薬組成物を得るための、アゴメラチン、更にはまたその水和物、結晶形及び薬学的に許容しうる酸又は塩基との付加塩の使用に関する。
【0016】
本発明は特に、強迫性障害(OCD)の処置を目的とする医薬組成物を得るための、特許出願EP 1,564,202に記載される、II型結晶として得られるアゴメラチンの使用に関する。
【0017】
本医薬組成物は、経口、非経口、経皮、鼻内、直腸内又は経舌経路による投与に適切な剤形で、そして特に注射製剤、錠剤、舌下錠、グロセット(glossettes)、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、クリーム剤、軟膏剤、皮膚用ゲル剤などの剤形で提示されよう。
【0018】
アゴメラチンの他に、本発明の医薬組成物は、希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色料、甘味料などから選択される、1種以上の賦形剤又は担体を含む。
【0019】
非限定例として、以下のものに言及できる:
・ 希釈剤として:乳糖、デキストロース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセロール、
・ 滑沢剤として:シリカ、タルク、ステアリン酸並びにそのマグネシウム及びカルシウム塩、ポリエチレングリコール、
・ 結合剤として:ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びポリビニルピロリドン、
・ 崩壊剤として:寒天、アルギン酸及びそのナトリウム塩、発泡性混合物。
【0020】
有用な用量は、患者の性別、年齢及び体重、投与経路、疾患の性質並びに関連したあらゆる処置により変化し、そして24時間当り1mg〜50mgのアゴメラチンの範囲である。
【0021】
アゴメラチンの1日用量は、好ましくは1日に25mgであり、1日に50mgまで増加させることが可能であろう。
【0022】
医薬組成物:
各々25mgの活性成分を含有する1000錠の調製のための処方:
N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド 25g
乳糖一水和物 62g
ステアリン酸マグネシウム 1.3g
ポビドン 9g
無水コロイド状シリカ 0.3g
セルロースグリコール酸ナトリウム 30g
ステアリン酸 2.6g
【0023】
前臨床試験
前臨床試験は、強迫性障害(OCD)の処置に対するアゴメラチンの可能性を確かめるため、本病変のモデルを使用して実施した。マウスにおける自発的なガラス玉覆い隠しは、OCDに関連性が高いと考えられる反復行動であり、そしてその阻害は、その処置における治療活性を示唆する(Witkin J.M., Current Protocols Neurosciences, 2008, Chapter 9, Unit 9.30)。10、40及び80mg/kgの用量での腹腔内投与後、アゴメラチンは、マウスにおける自発的なガラス玉覆い隠し行動を用量依存的に大いに減少させており、これはOCDの処置に対する治療可能性を示している。本試験は以下のとおり実施した。実験当日に体重20〜25gのNMRI系のオスのマウス(Iffa-Credo, L’Arbresle, フランス)を、5cmのおがくずを含有するMacrolonの箱(30×18×19cm)に個別に入れて、穴あきプレキシガラス板で覆った。24個の「キャッツアイ」ガラス玉は、箱の外周部でおがくず上に均等に分布させた。30分の自由探査後、マウスを箱から取りだし、覆い隠したガラス玉の数を数えた。アゴメラチン又は担体(対照)は、試験開始の30分前に注射した。
【0024】
覆い隠したガラス玉の数を単位として得られた結果は、以下のとおりである:
担体:20.2±0.6(n=14)
アゴメラチン10mg/kg:19.2±1.3(n=6)
アゴメラチン40mg/kg:15.3±3.0(n=6)
アゴメラチン80mg/kg:4.6±1.9(n=5)
分散分析:F(3.33)=23.4、P<0.01。アゴメラチンの40及び80mg/kg用量では、担体に対してP<0.05である(Dunnett検定)。
【0025】
得られた結果は、強迫性障害の代表的モデルにおけるアゴメラチンの統計的に有意な活性を示している。
【0026】
臨床試験
アゴメラチンのプラセボとの比較臨床試験は、DSM-IV-TRの基準により強迫性障害の一次診断が下った、年齢18歳を超え65歳未満の80名の外来患者において実施した。患者は、試験への参加にあたり、Y-BOCSスケール(Yale Brown Obsessive Compulsiveスケール)で20以上のスコアを取る必要があり、かつ強迫性障害に関してセロトニン再取り込み阻害薬(SRI)で以前に処置している。患者は、MADRS鬱病スケールで24未満の鬱病重症度スコアである必要がある。
【0027】
本試験は、16週間の処置期間の二重盲検プラセボ対照試験である。患者は、プラセボ群、又は25mgアゴメラチン群のいずれかに無作為に割り付けるが、後者は8週間の処置後に反応が不十分であった場合(反応が不十分の基準:総Y-BOCSスコアの20%未満の減少)にアゴメラチンの用量を50mgまで増加させる可能性がある。
【0028】
効果の評価の主要な基準は、Y-BOCSスケールでの総スコアの減少である。強迫観念及び/又は強迫行為病状の重症度を評価するための他の評価基準は、NIMH-OC(National Institute of Mental Health Obsessive-Compulsiveスケール)及びCGI-S(Clinical Global Impression-Severity)でのスコア、更にはCGI-I(Clinical Global Impression-Improvement)によるその病状の改善である。鬱症状の存在及びそれらの経時的進行は、処置開始時及び処置16週後にMADRS鬱病スケールにより解析する。
【0029】
反応は、Y-BOCSスケールでの総スコアの35%減少、及びCGI-Iでの1又は2のスコアとして定義する。寛解は、Y-BOCSスケールでの10以下のスコア及びCGI-Sでの2以下のスコアにより定義する。
【0030】
観測された結果は、強迫性障害(OCD)の処置におけるアゴメラチンの効果、及びまたその良好な許容性プロフィールを裏付ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強迫性障害(OCD)の処置を目的とする医薬品の製造における、アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、あるいはその水和物、結晶形又は薬学的に許容しうる酸若しくは塩基との付加塩の1つの使用。
【請求項2】
アゴメラチンが、II型結晶として得られることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
強迫性障害(OCD)の処置を目的とする医薬品の製造において使用するための、アゴメラチン、あるいはその水和物、結晶形又は薬学的に許容しうる酸若しくは塩基との付加塩の1つを、それ自体で、又は1種以上の薬学的に許容しうる賦形剤と合わせて含む医薬組成物。
【請求項4】
アゴメラチンが、II型結晶として得られることを特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
強迫性障害(OCD)の処置において使用するための、アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、あるいはその水和物、結晶形又は薬学的に許容しうる酸若しくは塩基との付加塩。
【請求項6】
強迫性障害(OCD)の処置において使用するための、アゴメラチンのII型結晶。

【公表番号】特表2013−519659(P2013−519659A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552440(P2012−552440)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/FR2011/000080
【国際公開番号】WO2011/098689
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】