説明

弾性リング装着工具

【課題】弾性リングをよじれることなくワークの環状溝内に装着させることが可能な弾性リング装着工具を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、ワークWの外周に設けた環状溝G内に弾性リングRを装着させる弾性リング装着工具1において、先端2aの外周に弾性リングRが装着されるとともに弾性リングRを装着したまま当該先端2aを拡径させてワークWの外周に嵌合するガイド筒2と、弾性リングRを押してガイド筒2の外周に装着された弾性リングRをガイド筒2の先端2aから環状溝G内にスライドさせるスライド部材3とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワークの外周に設けた環状溝内に弾性リングを装着させる弾性リング装着工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内径がワークの外径より小さい弾性リングをワークの外周に設けた環状溝内に装着する場合、一旦、弾性リングを拡径する必要があり、これを完全に手作業で行うには効率が悪く、労力も大きいことから、弾性リング装着工具を用いて上記作業を行うようにしている。
【0003】
この種、ワークの外周に設けた環状溝内に弾性リングを装着させる弾性リング装着工具としては、ワークの一端に被せられるとともに外周に弾性リングを仮装着したキャップと、キャップの外周に装着された弾性リングを押圧してキャップの先端から環状溝へ弾性リングを押し出す押圧部材とを備えて構成されたものが知られている。
【0004】
詳しくは、キャップは、外周にワーク側が拡径されたテーパ面を備えており、反ワーク側の外径は弾性リングの内径より小径に設定され、ワーク側の外径は弾性リングの内径より大径に設定されている。
【0005】
このキャップをワークの一端に被せると、キャップの先端は、ワークの外周に設けた環状溝を塞がず、かつ、環状溝の至近に配置されるようになっており、キャップの小径な反ワーク側に装着された弾性リングを押圧部材でワーク側へ押圧していくと、弾性リングは、キャップの外周を滑りながらワーク側へ移動し、ワーク側への移動によって自身の弾発力に抗して拡径せしめられる。そして、最終的には、弾性リングは、押圧部材の押圧によってキャップの先端から押し出されると同時に環状溝内に侵入し自身の弾発力によって縮径して環状溝内に装着されるようになっている(たとえば、特許文献1,2,3参照)。
【特許文献1】特開平9−108959号公報(図1)
【特許文献2】特開2003−39257号公報(図2)
【特許文献3】特開2004−306152号公報(図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した弾性リング装着工具を使用することで、弾性リングのワーク外周に設けた環状溝への装着作業を効率化でき、ひいては当該作業を自動化することが可能となるのであるが、キャップを用いて弾性リングを拡径させつつ環状溝まで搬送する際に、弾性リングがキャップ外周上をうまく滑らずに、周上の一部の内周が外周へと入れ替わるように回転してしまう場合があり、弾性リングがよじれた状態で環状溝に装着されてしまう場合がある。
【0007】
このようによじれた弾性リングは、ワークが挿入される相手部材との間のシール性能と摺動時の摩擦抵抗に少なからず悪い影響を与えることがあり、たとえば、ワークがピストンであって相手部材がシリンダであるようなシリンダ装置等である場合には、弾性リングのよじれによって製品毎にシール性能と摩擦抵抗にバラつきが生じることになる。
【0008】
これを避けようとする場合、弾性リングを環状溝内に装着した後に、手作業によって弾性リングのよじれの有無を確認する作業が必要であり、さらに、よじれを発見した場合、当該よじれを直す作業が発生するので、弾性リングの装着作業の効率が悪化し、作業負担も大きくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、弾性リングをよじれることなくワークの環状溝内に装着させることが可能な弾性リング装着工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、ワークの外周に設けた環状溝内に弾性リングを装着させる弾性リング装着工具において、先端外周に弾性リングが装着されるとともに弾性リングを装着したまま当該先端を拡径させてワークの外周に嵌合するガイド筒と、弾性リングを押してガイド筒の外周に装着された弾性リングをガイド筒の先端から環状溝内にスライドさせるスライド部材とを備えた。
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾性リング装着工具によれば、弾性リングの環状溝への装着に際して、弾性リングの拡径はガイド筒の外周をスライドさせることなく、仮装着されたガイド筒の先端の外周に留まったままで行われ、スライド部材による弾性リングのスライドの際には、弾性リングは僅かな距離しか移動しないので、弾性リングが環状溝への装着過程においてよじれる危険が無い。
【0012】
また、この弾性リング装着工具によれば、弾性リングの環状溝への装着過程において弾性リングがよじれることが無いので、弾性リングのシール性能を良好な状態に維持し、摺動時の摩擦抵抗も安定するので、製品毎にシール性能と摩擦抵抗にバラつきが生じることがなく、さらに、弾性リングを環状溝内に装着した後のよじれの確認作業や手直し作業が不要であるので、弾性リングの装着を効率的に行うことができるとともに作業負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図示した一実施の形態に基づいて、この発明を説明する。図1は、一実施の形態における弾性リング装着工具の断面図である。図2は、一実施の実施の形態の弾性リング装着工具におけるガイド筒の側面図である。図3は、一実施の形態の弾性リング装着工具におけるスライド部材の側面図である。図4は、ソケットを用いてガイド筒の先端外周に弾性リングを装着する工程を示した図である。図5は、ワークにガイド筒を嵌合させる工程を示した図である。図6は、弾性リング装着工具を使用してワークに弾性リングを装着する工程を示した図である。
【0014】
一実施の形態における弾性リング装着工具1は、図1から図6に示すように、先端2aの外周に弾性リングたるOリングRが装着されるガイド筒2と、上記OリングRを押してガイド筒2に装着されたOリングRをガイド筒2の先端2aからワークWの外周に設けた環状溝G内にスライドさせるスライド部材3とを備えて構成されている。
【0015】
そして、この弾性リング装着工具1は、OリングRをガイド筒2の先端2aの外周に装着したまま、ガイド筒2の先端2aをワークWの外周に嵌合させることで、OリングRを拡径させるとともに、スライド部材3でOリングRをワークW側へ押し出してワークWの外周に形成された環状溝G内にOリングRを装着させることができるようになっている。
【0016】
ワークWは、この実施の形態の場合、図5に示すように、軸10と、軸10の途中にピストン11とを備えて構成され、ピストン11の外周に環状溝Gが形成されている。そして、具体的には、このワークWは、図示しないシリンダ内に挿入されて、環状溝G内に装着されるOリングRでピストン11とシリンダとの間がシールされ、ピストン11を境にシリンダ内に二つの部屋が形成されるようになっている。
【0017】
なお、ワークWは、上記した構成に限られず、外周に弾性リングが装着される環状溝を有しているものであれば、OリングRの装着に際しこの弾性リング装着工具1を適用することができる。
【0018】
以下、弾性リング装着工具1の各部について詳細に説明すると、図1および図2に示すように、ガイド筒2は、図中下端となる先端2aから基端側へ向けて形成した割り2bを備えた筒とされており、割り2bは、この場合、四つ設けられ、割り2bによって先端2a側を拡径することができるようになっている。すなわち、ガイド筒2の内径より大径の外周を持つワークWがガイド筒2の先端2a内に挿入されると、先端2aが外方側へ弾性変形し割り2bの幅が拡大して先端2aの外径が拡径するようになっており、ワークWが取外されると割り2bの幅が元に戻って先端2aの外径は元の径に復元されるようになっている。
【0019】
また、このガイド筒2の肉厚は、割り2bより上方側が厚肉となっており、内周側に段部2cが形成されている。
【0020】
なお、割り2bの形状は、任意であるが、基端部の形状を円弧状として拡径時における応力集中を避けるようにしてある。
【0021】
さらに、先端2aの外周はテーパ面2dが設けられており、OリングRを先端2aに着脱するときに、先端2aの外周でOリングRを傷つけないように配慮されている。
【0022】
他方、スライド部材3は、図1および図3に示すように、図中下端となる先端3aから基端側へ向けて形成した割り3bを備えた筒とされており、割り3bは、この場合、四つ設けられ、割り3bによってガイド筒2と同様に先端3a側を拡径することができるようになっている。そして、このスライド部材3は、ガイド筒2の外周に摺動自在に装着されており、ガイド筒2の拡径に伴って割り3bの幅が拡大して先端3aが拡径し、ガイド筒2の拡径が解消されると割り3bの幅が元に戻って先端3aの外径は元の径に復元されるようになっている。
【0023】
また、先端3aの内周には、ガイド筒2の先端2aの外周に装着されたOリングRの侵入を許容する切欠3cが設けられており、ガイド筒2に対してスライド部材3を図1中下方へ移動させることで、切欠3c内に侵入したOリングRを下方へ押して、ガイド筒2の先端2aから脱落させることができるようになっている。なお、切欠3cは無くともよいが、切欠3cを設けることで、ガイド筒2の先端2aに装着したOリングRを切欠3c内に収めてワークWの環状溝G内へ装着するまで保護することができる。また、切欠3cの端部は、面取りされており、OリングRの収容時にOリングRを傷つけることが無いように配慮されている。
【0024】
つづいて、ガイド筒2の先端2aの外周にOリングRを装着するには、手作業によって行うようにしてもよいが、図4に示すように、ソケット4を用いると作業が簡単となる。なお、図4は、左半分と右半分で弾性リング装着工具1の異なる状態を示しており、それぞれ、ガイド筒2をソケット4内に挿入する前後の状態を示している。
【0025】
このソケット4は、開口端となる上端内周にOリングRを載置させる切欠5aを備えた有底筒状のソケット本体5と、ソケット本体5内に挿入されたプレート6と、ソケット本体5の底部とプレート6との間に介装されたバネ7とを備えて構成されている。
【0026】
ソケット本体5の内周には、段部5bが形成され、プレート6の外周に設けたフランジ6aを段部5bに衝合させることで、プレート6のそれ以上の上方への移動が規制され、プレート6の抜け止めとされている。
【0027】
そして、上記ソケット本体5の切欠5a内にOリングRを載置しておき、その状態からガイド筒2とスライド部材3を組み合わせた状態(図4中左半分)で、ガイド筒2のみをソケット本体5の内方へと侵入させる(図4中右半分)と、プレート6がガイド筒2の侵入に伴って下降し、ガイド筒2の先端2aがOリングRの内周に侵入する。なお、ガイド筒2の先端2aの外径はOリングRの内径より若干大径に設定されており、ガイド筒2のOリングR内への挿入によって、OリングRは少々拡径されて当該先端2aを緊迫力をもって締め付ける。そうしておいてから、ガイド筒2を引き上げてソケット本体5の内周から退避させると、OリングRはガイド筒2の先端2aの外周に装着されたまま引き上げられ、ガイド筒2へOリングRを移すことができ、その作業もソケット4の使用によって非常に簡単となる。
【0028】
引き続き、ガイド筒2の先端2aの外周に装着したOリングRをワークWの環状溝G内へ装着する工程について説明する。
【0029】
まず、図5に示すように、ワークWの一端側となる上端側に、円錐状の側面8aを備えたキャップ8を被せる。キャップ8は、この場合、軸10の挿通を共用できるように筒状とされるとともに、側面8aの外周は下端が大径となるように勾配した円錐状面とされている。そして、キャップ8は、その下端8bをピストン11の上面に当接させてワークWに被せられると、側面8aはピストン11の外周に面一となるようになっている。
【0030】
このように、キャップ8をワークWに被せた状態で、キャップ8をガイド筒2の内方に挿入していくと、ガイド筒2は、挿入が進むに連れてキャップ8の側面8aに沿って拡径が進み、最終的には、図6中の左側に示すように、挿入が進んでキャップ8の上端がガイド筒2の内周に設けた段部2cに当接すると、キャップ8の挿入が規制され、その状態でガイド筒2の先端2aが環状溝Gを閉塞せず、かつ、環状溝Gの至近に配置される。なお、図6は、左半分と右半分で弾性リング装着工具1の異なる状態を示しており、それぞれ、OリングRを環状溝Gへ装着する前後の状態を示している。
【0031】
続き、上記状態からガイド筒2に対してスライド部材3を下方へと移動させると、OリングRがスライド部材3によって押圧されて下方へスライドし、ガイド筒2の先端2aから脱落して環状溝G内へ対向する。すると、OリングRは、図6中の右側に示すように、それまでガイド筒2によって拡径せしめられていたので、元の内径に戻ろうとする弾発力によって縮径して環状溝G内に侵入し、環状溝Gに装着される。
【0032】
このように、OリングRの環状溝Gへの装着に際して、OリングRの拡径はガイド筒2の外周をスライドさせることなく、仮装着された先端2aの外周に留まったままで行われ、スライド部材3によるOリングRのスライドの際には、OリングRは僅かな距離しか移動しないので、弾性リングたるOリングRがOリングRの環状溝Gへの装着過程においてよじれる危険が無い。
【0033】
また、この弾性リング装着工具1によれば、OリングRの環状溝Gへの装着過程において弾性リングたるOリングRがよじれることが無いので、OリングRのシール性能を良好な状態に維持し、摺動時の摩擦抵抗も安定するので、製品毎にシール性能と摩擦抵抗にバラつきが生じることがなく、さらに、OリングRを環状溝G内に装着した後のよじれの確認作業や手直し作業が不要であるので、OリングRの装着を効率的に行うことができるともに作業負担を軽減することができる。
【0034】
なお、ガイド筒2の先端2aの肉厚を厚くするとともに内周に勾配を設けて、軸10の挿入によって先端2aが拡径させるようにする場合、キャップ8を用いずともよいが、外径の異なるキャップ8をいくつか用意しておくことで、ガイド筒2およびスライド部材3を径の異なる複数のワークWに適用することができる。
【0035】
また、スライド部材3は、OリングRをガイド筒2から環状溝Gへ押し出すことができればよいので、その形状および構造は任意であり、必ずしもガイド筒2の外周に装着されている必要は無いが、スライド部材3を筒状としてガイド筒2の先端2aの拡径に伴ってスライド部材3の先端3aも拡径するようにしておくことで、ガイド筒2とスライド部材3とを軸ぶれなく一体化することができ、当該ガイド筒2とスライド部材3とを駆動する装置への適用の際に有利となる。
【0036】
さらに、ガイド筒2とスライド部材3における割り2b,3bの数は、それらの先端2a,3aの拡径度合に応じて任意に設定することができる。
【0037】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一実施の形態における弾性リング装着工具の断面図である。
【図2】一実施の実施の形態の弾性リング装着工具におけるガイド筒の側面図である。
【図3】一実施の形態の弾性リング装着工具におけるスライド部材の側面図である。
【図4】ソケットを用いてガイド筒の先端外周に弾性リングを装着する工程を示した図である。
【図5】ワークにガイド筒を嵌合させる工程を示した図である。
【図6】弾性リング装着工具を使用してワークに弾性リングを装着する工程を示した図である。
【符号の説明】
【0039】
1 弾性リング装着工具
2 ガイド筒
2a ガイド筒における先端
2b ガイド筒における割り
2c ガイド筒における段部
2d ガイド筒におけるテーパ面
3 スライド部材
3a スライド部材における先端
3b スライド部材における割り
3c スライド部材における切欠
4 ソケット
5 ソケット本体
5a ソケット本体における切欠
5b ソケット本体における段部
6 プレート
6a プレートにおけるフランジ
7 バネ
8 キャップ
8a キャップにおける側面
8b キャップにおける下端
10 ワークにおける軸
11 ワークにおけるピストン
G 環状溝
R 弾性リングたるOリング
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの外周に設けた環状溝内に弾性リングを装着させる弾性リング装着工具において、先端外周に弾性リングが装着されるとともに弾性リングを装着したまま当該先端を拡径させてワークの外周に嵌合するガイド筒と、弾性リングを押してガイド筒の外周に装着された弾性リングをガイド筒の先端から環状溝内にスライドさせるスライド部材とを備えた弾性リング装着工具。
【請求項2】
ガイド筒は、先端から基端側へ向けて形成した割りを備えた筒であって、スライド部材は、先端から基端側へ向けて形成した割りを備えた筒であって、ガイド筒の外周側に摺動自在に装着されてなり、ガイド部材の拡径に伴って先端が拡径することを特徴とする請求項1に記載の弾性リング装着工具。
【請求項3】
円錐状の側面を有するとともに、ワークの一端側に被せられてガイド筒内に挿入されるキャップを備え、ガイド筒の先端を当該キャップの側面に沿って拡径させてワークの外周に嵌合させることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性リング装着工具。
【請求項4】
筒状とされて開口端の内周に弾性リングを載置させる切欠を有し、切欠側から内方に挿入されるガイド筒の先端の外周に弾性リングを装着させるソケットを備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の弾性リング装着工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214203(P2009−214203A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58247(P2008−58247)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】