説明

弾性ロール用布帛および弾性ロール

【課題】
弾性ロール成型時の繰返し加圧処理工程で発生する熱に対する寸法安定性が良く、高温下でのカレンダー加工処理が可能であり、弾性ロール表面にできた傷の修復性が良好な弾性ロール用布帛を提供する。
【解決手段】
耐熱性繊維で構成された布帛であって、少なくとも該耐熱性繊維としてポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を含んで構成されていることを特徴とする弾性ロール用布帛とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温下での熱収縮特性および耐熱性に優れたポリフェニレンスルフィド酸化物(以下、「PPSO」と表記する。)繊維を含んで構成された弾性ロール用布帛に関し、弾性ロール成型時の繰返し加圧処理工程で発生する熱に対する寸法安定性が良く高温下でのカレンダー加工処理が可能であり、弾性ロール表面にできた傷の修復性が良好な弾性ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、カレンダー加工処理等に使用される弾性ロールは木綿、羊毛、石綿などを主成分とする抄紙機で抄紙された紙状シートを複数枚積層した状態において、繰返し圧縮処理を行うことで圧着一体化して形成されるロール資材である。羊毛、石綿等はそれら単独では紙状には抄けないので、必要最小量の木綿または木材化学パルプを副成分として混抄して抄紙される。ここで示した弾性ロール材は主成分が木綿、羊毛、石綿の順に耐熱性が向上するが、そのレベルは副成分である木綿または木材化学パルプが持つ耐熱特性による影響が大きいため、100℃を著しく超える温度領域での長期間の使用には耐えられないという問題があった。なかでも、木綿で構成された弾性ロールの最高使用温度はおおよそ95℃前後とされており、これ以上の表面温度となるような運転条件で長期間使用し続けると、ヒステリシス挙動が顕著となるため、該弾性ロール内部で発熱が発生する。この内部発熱は主に該弾性ロール内部から表面側へ熱伝導する一方で、該弾性ロール表面への負荷温度/表面摩擦によって生じた熱は、該弾性ロール内部へ伝熱する。そうなると、これらのロール内部とロール表面からの熱の平衡位置が最高温度となる。この最高温度はおおよそ200℃前後まで達するため、木綿製弾性ロールの急激な脆化/炭化が進む要因となり、該弾性ロール表面のクラック/表面剥離の発生、さらには弾性力の低下といった弾性ロールとしての機能低下に繋がる恐れがある。
【0003】
これらの機能低下が発生すると、弾性ロールとしての役割であるカレンダー加工による処理基材への平滑性や光沢性付与といった処理を施しても十分な品位が得られなくなる。さらに、通常であればロール表面にできた傷や汚れ等はロールの表面層を再研摩加工することでロール外径の8割程度までは再利用が可能な状態とできるが、前記の脆化/炭化による機能低下が発生すると、大幅な寿命低下やロール表面の研摩処理加工による再利用が困難な場合が多い。
【0004】
このようなことから、さらに高温条件下でのカレンダー処理が可能な弾性ロール材として、特許文献1のような全芳香族アラミド系紙状物を多数枚積層して圧着一体化せしめてなる耐熱弾性ロールが開示されている。弾性ロールを構成する紙状物としては、全芳香族ポリアミドのみで構成されたもの以外に、全芳香族ポリアミドのパルプ粒子や未延伸糸等をバインダーとして使用し、基材として全芳香族ポリアミド繊維と同等またはそれ以上の耐熱性を有する繊維で構成することで、250℃以上の高温状態でも脆化することなく優れた弾性回復性を発揮することが特徴とされている。確かに、ここに示す様に該全芳香族アラミドからなる紙状物で弾性ロールを構成することで、弾性ロールとしての使用温度領域は一般的な木綿で構成された弾性ロールよりも極めて高い温度での実用運転が可能となった。しかしながら、該紙状物を多数枚積層して圧着一体化する工程において、繰返し圧縮処理で発生した熱により紙状物が熱収縮するため、弾性ロール成型時の寸法安定性に劣るという問題があった。
【0005】
さらに、該紙状物同士の層間での馴染みが悪いため、ロールの初期の慣らし運転及び再研削回数が増加することで、結果として加工賃、加工時間を浪費することとなる。また、通常ロール表面に付着した傷などは、木綿製弾性ロールの場合であれば傷の付いた箇所に水を含ませ、表層面を膨潤させた状態で加熱カレンダー処理を行うことである程度まで修復できるが、該全芳香族アラミドは同様の処理を施してもロール表面に付着した傷の修復性は十分でなかった。そのため、ロール表面の傷を修復するには装置メーカー指定の再研摩加工を施す必要がしばしばあった。そうなると、ロールの寿命が短くなるのは言うまでもなく、弾性ロールをメーカーに送付するための一部解体/再組立作業等の費用負担と、修復作業にも予想以上に時間を要することから、ある一定期間の間はカレンダー作業が実施できなくなる等の問題が発生する。
【0006】
また、特許文献2には芳香族ポリアミドから作られた合成繊維および合成パルプの他に、さらに羊毛およびまたは石綿を混合抄造してなる紙状シートで構成することで、卓越した耐熱性を有し、カレンダーの保守上極めて信頼性に富む弾性ロールを提供する旨が開示されている。確かに、ここに示す様に芳香族アラミドからなる紙状物で弾性ロールを構成することで、弾性ロールとしての使用温度領域は一般的な木綿で構成された弾性ロールよりも極めて高い温度での実用運転が可能となった。しかしながら、前記同様に弾性ロール成型時の寸法安定性やロール表面に付着した傷の修復性が悪いなどの問題があった。
【0007】
また、特許文献3には芳香族ポリアミドからなる繊維状物とコットンを混合抄造してなる紙状シートであることを特徴とする耐熱性弾性ロール用基材が開示されている。確かに、カレンダー用ロールなどに用いるのに十分耐熱性があり、ロール表面の傷の修復性を有した取扱いの簡便な耐熱性弾性ロール用基材を得ることができた。しかしながら、前記耐熱性弾性ロール用基材中にはコットンを混合抄造しているため、芳香族ポリアミドのみから構成された紙状物シートからなる弾性ロールと比べると、副成分であるコットンの持つ耐熱特性による影響が大きいため、使用温度領域としては大幅に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭52−49377号公報
【特許文献2】特公昭55−45771号公報
【特許文献3】特開平02−80691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、弾性ロール成型時の繰返し加圧処理工程で発生する熱に対する寸法安定性が良く、高温下でのカレンダー加工処理が可能であり、弾性ロール表面にできた傷の修復性が良好な弾性ロールおよびそのための布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、本発明は、次の(1)〜(6)の構成を特徴とするものである。
(1)耐熱性繊維で構成された布帛であって、少なくとも該耐熱性繊維としてポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を含んで構成されていることを特徴とする、弾性ロール用布帛、
(2)前記ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維の乾熱収縮率が2.5%以下であることを特徴とする、前記の弾性ロール用布帛、
(3)前記ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維のヤング率が6000N/mm2以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の弾性ロール用布帛、
(4)円形である前記いずれかに記載の弾性ロール用布帛、
(5)弾性ロールのロール芯が通じるための穴を有する前記弾性ロール用布帛。
(6)ロール芯の回りに、請求項1〜5いずれかに記載の弾性ロール用布帛が周回してなる弾性ロール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、弾性ロール成型時の繰返し加圧処理工程で発生する熱に対する寸法安定性が良く、高温下でのカレンダー加工処理が可能であり、弾性ロール表面にできた傷の修復性が良好な弾性ロール用布帛を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の弾性ロールの組み立て過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
本発明の弾性ロール用布帛は、耐熱性繊維で構成された布帛であって、少なくとも耐熱性繊維としてPPSO繊維を含んで構成されている。
PPSOとしては、下記の一般式(1)で示される繰り返し単位を主要構成単位とするポリマーにより表されるものが使用できる。
【0015】
【化1】

【0016】
(R"は、水素、ハロゲン、脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、分子間のR"同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。またR”はPPSOからなるポリマー鎖でもよい。R'”はPPSOからなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表し、Xは0、1、2のいずれかを表す。)。ただしポリマー中に必ずXが1または2である(1)で表される構造単位を含む。)
一般式(1)で示される繰り返し単位のうち、Xが0、1、2である構造単位中に占める、Xが1または2である構造単位の比率は、0.5以上0.9以下が好ましく、さらに好ましくは0.7以上0.9以下である。ポリフェニレンスルフィド構造は硫黄原子が酸素と共有結合もしくは配位結合していることから、自由電子の不安定構造が抑制されてチリルラジカル等の不安定物質の発生が減少し、ポリフェニレンスルフィド(以下、『PPS』と表記する。)構造よりも耐熱性が飛躍的に向上する。従ってPPS構造の融点285℃に見られる融解熱は、本発明のPPSO繊維では15J/g以下であることが好ましい。
また、上記繰り返し単位を主要構造単位として、下記の一般式(2)〜(8)で表される単位が共重合されていてもよい。
【0017】
【化2】

【0018】
(R”は、水素、ハロゲン、脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、R””は、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基を表し、分子間のRまたはR’どうしが互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。また、R”、R””はPPSOからなるポリマー鎖でもよい。R'”はPPSOからなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表し、nは0〜2のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)
上記一般式(2)〜(8)で表される単位の共重合率としては、上記一般式(1)で表される単位1.0モル当たり1.0モル以下が好ましく、より好ましくは0.3モル以下である。
【0019】
PPSO繊維は、例えばPPSからなる繊維を酸化処理することにより得ることができる。PPSは、下記の一般式(9)で示される繰り返し単位を主要構成単位とするポリマーにより表される。また、当該繰り返し単位を主要構造単位として、下記の一般式(10)〜(16)で表される単位が共重合されていてもよい。
【0020】
【化3】

【0021】
(9)から(16)において、Rは同じであっても、異なっていてもよく、水素、ハロゲン、脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基の少なくともいずれか1つを表し、水素または炭素数1〜4の脂肪族置換基が好ましい。R’は同じであっても、異なっていてもよく、水素または脂肪族置換基を表し、水素または炭素数1〜4の脂肪族置換基が好ましい。
【0022】
上記一般式(10)〜(16)で表される単位の共重合率としては、上記一般式(9)で表される単位1.0モル当たり1.0モル以下が好ましく、より好ましくは0.3モル以下である。
【0023】
PPSの具体例としては、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィド、ポリ−p−クロロフェニレンスルフィド、ポリ−p−フルオロフェニレンスルフィドなどが挙げられる。中でも好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィドであり、さらに好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィドである。
【0024】
PPSの酸化反応処理に使用される反応溶媒・反応液としては、酸化反応処理に用いる酸化剤を均一に溶解するものであることが好ましい。反応溶媒・反応液の具体例としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、ピリジン、有機酸、有機酸無水物、鉱酸が挙げられる。中でも、水、有機酸、有機酸無水物または鉱酸を含むものが好ましい。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸などが挙げられる。なかでも、酢酸、トリフルオロ酢酸が好ましい。有機酸無水物としては、下記一般式(a)で表される酸無水物が挙げられる。
【0025】
【化4】

【0026】
式(a)において、R、Rは、それぞれ炭素数1〜5の脂肪族置換基、芳香族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表す。RおよびRは、互いに連結して環状構造を形成していてもよい。
【0027】
一般式(a)で表される有機酸無水物の具体例としては、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸、無水−クロロ安息香酸などが挙げられる。なかでも、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸が好ましい。
【0028】
鉱酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられる。なかでも、硫酸、塩酸が好ましく、特に、硫酸が好ましい。
【0029】
また、反応溶媒・反応液を単独で用いる他に、複数種の反応溶媒・反応液を混合して用いることも好ましい。特に好ましいのは、水、酢酸および硫酸が混合されたものである。その混合組成比としては、水5〜20質量%、酢酸60〜90質量%、硫酸5〜20質量%が好ましい。
【0030】
PPSの酸化反応処理に使用される酸化剤としては、無機塩過酸化物、過酸化水素水から選ばれる少なくとも1つが好ましい。酸化剤として用いる無機塩過酸化物としては、過硫酸塩類、過ホウ酸塩類、過炭酸塩類が好ましく挙げられる。ここで、塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙ることができる。なかでも、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。その具体例としては、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸塩としては過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過ホウ酸アンモニウム、過炭酸塩としては過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどが挙げられる。
【0031】
また酸化剤としては、無機塩過酸化物および過酸化水素水から選択される一種以上と、有機酸および有機酸無水物から選択される一種以上との反応により生成される過酸化物(過酸を含む)も好ましい。過酸化水素水と、有機酸または有機酸無水物との混合物から形成される過酸の具体例としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などを挙げることができる。中でも、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸が好ましく、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、トリフルオロ過酢酸がさらに好ましい。
【0032】
酸化剤の濃度としては、処理効率の点からは高い濃度の方が好ましいが、工業的製法における安全性管理の上では低めに抑えることが好ましい。例えば過酸の濃度としては、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは3〜8質量%である。また例えば無機塩過酸化物の濃度としては、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%である。
【0033】
また、過酸化水素水と有機酸との反応により生成される過酸または過酸化物を用いる場合、その濃度としては、0.1〜10質量%が好ましい。また、過酸化水素水と有機酸無水物との反応により生成される過酸または過酸化物を用いる場合、その濃度としては、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは3〜8質量%である。
【0034】
それぞれ、上記範囲内の濃度で酸化剤を使用することにより、安全で良好な反応を得ることができる。例えば、示差走査熱量計(DSC−60:島津製作所)を用い、空気雰囲気下、サンプル量を5mg〜8mgの範囲内で秤量し、ステンレス製4.9MPa(50気圧)耐圧密閉容器にて、温度プログラムを30℃〜200℃(30℃から10℃/分昇温で200℃まで昇温)と設定して測定した時の過酢酸溶液の熱的挙動は、40%過酢酸溶液の場合が分解温度110℃、発熱量770J/gであり、酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸の場合が分解温度133℃、発熱量704J/gであるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは分解温度132℃、445J/gと約6割の発熱量であり、また9%のそれは分解温度110℃、230J/gと約3分の1の発熱量であり、非常に小さい。それ故に、酸化剤濃度を下げることで酸化反応処理プロセスの安全性を確保することは非常に重要である。
【0035】
酸化反応処理は、反応溶媒・反応液の沸点以下の温度で行うことが好ましい。沸点以上の温度では系が加圧になり、酸化剤の分解が促進されたり煩雑な設備となる場合が多く、また安全面においても厳しいプロセス管理が必要とされる傾向にある。具体的な酸化反応処理温度は、用いる反応溶媒・反応液の沸点により異なるが、反応溶媒・反応液の沸点が許容する範囲内において、0〜100℃が好ましく、より好ましくは30〜80℃、さらに好ましくは40〜70℃である。
【0036】
例えば、酢酸を反応溶媒・反応液として用いる場合には、酸化反応処理温度としては50〜70℃が好ましく、この範囲内の温度により安全で良好な反応を得ることができる。
【0037】
酸化反応処理時間としては、反応温度や酸化剤の濃度にもよるが、通常、60℃条件下、5質量%の酸化剤濃度において、1〜8時間が好ましい。
【0038】
また、前記一般式(a)で示される酸無水物と過酸化水素との混合物から形成される過酸を酸化剤として用いる場合、安全性を確保した上で効率よく短時間で酸化反応処理を行うことが好ましい。例えば、酢酸および34.5%過酸化水素水を等質量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸を酸化剤として用いた場合の、60℃条件下の酸化反応処理に要する時間は約8時間であるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等質量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸を酸化剤として用いた場合の、60℃条件下の酸化反応処理に要する時間は約2時間であり、非常に効率が良い。
【0039】
酸化反応処理の方式としては、バッチ式または連続式、あるいはそれらを組み合わせたものを採用できる。また、1段式プロセスまたは多段式プロセスのいずれでも採用できる。これらの方式によるPPSO繊維は、短繊維、長繊維、カットファイバー、紡績糸、布帛等の形態からなるPPS化合物を酸化処理することで得ることが可能である。ここで言う布帛とは、PPSO短繊維を含む不織布で、乾式法で得られた不織布(ニードルパンチフェルト)や湿式法で得られた不織布、または抄紙(WJPフェルト、ペーパー)を示すものであり、湿式法で得られた抄紙の中には異なる2種類以上の繊維から構成された混抄紙なども含まれる。
【0040】
酸化反応処理において、PPS化合物からなる繊維と酸化剤の含まれる液体とを接触させる方法としては、酸化剤の含まれる液体中にPPS化合物からなる繊維を浸漬する方法、任意の形態で固定化したPPS化合物からなる繊維に酸化剤の含まれる液体を散布または噴霧する方法のいずれも採用できる。
用いるPPS繊維は繊維直径が10〜300μmの範囲内にあるものなら問題なく使用できるが、繊維直径が10〜30μmの範囲内にあるものは酢酸、硫酸、酸化剤で構成される溶媒と高効率で接触し、効率良く酸化処理を行うことが可能となるので好ましい。
PPSO繊維は、前述の耐熱性が飛躍的に向上するのに加え、高温下での熱収縮特性が芳香族アラミド繊維よりも極めて低く優れている。たとえば、350℃×30分処理後における該PPSO繊維の乾熱収縮率は2.5%以下と低く、熱に対する寸法安定性に極めて優れた性能を有している。そこで、該PPSO繊維で構成された布帛は、PPSO繊維と同様に熱に対する寸法安定性に優れた特性を有することが可能となる。該布帛を弾性ロール用基材として用いることで、圧着一体成型する際の繰返し圧縮処理で発生する熱に対する寸法安定性に優れ、また、芳香族アラミド繊維製の弾性ロールよりもさらに高温領域でのカレンダー処理が可能となるものである。
【0041】
カレンダー用の弾性ロールは、ロール表面が硬くなり過ぎるとカレンダー処理物を加圧加工した際や、長時間連続してカレンダー処理を行った場合、弾性ロール表面に傷が入り易くなるため、弾性ロール用布帛を構成する耐熱性繊維材料としては、ヤング率(剛性)が6000N/mm以下であることが好ましい。ヤング率が6000N/mm以下だと布帛を構成した場合に適度な剛性を有するとともに、弾性ロール表面への傷が入り難くなる点で優れている。
【0042】
本発明に用いられるPPSO繊維はヤング率が5000N/mm前後のレベルであり、芳香族アラミド繊維よりもおおよそ40%程度剛性が低く、繊維の吸湿率も木綿と同レベルで芳香族アラミド繊維の約2倍程度の高い吸湿特性を有しているため、弾性ロール表面に傷が付き難く、もし弾性ロール表面に傷が付いた場合であっても、ロール表面の傷の付いた箇所に水を含ませ、ある程度表層面を膨潤させた状態で加熱カレンダー処理を行うことで、木綿製弾性ロールと同様に傷を修復させることが可能となる。
【0043】
PPSO繊維を含んで構成される弾性ロール用布帛を得る方法としては、前述の通りPPS繊維製の布帛を直接酸化処理加工しても良く、または、酸化処理加工で得たPPSO繊維とその他の耐熱性繊維とを混ぜ合わせえることが可能である。例えば、乾式法から得られるニードルパンチ不織布、湿式法から得られるWJP不織布や抄紙、または混抄紙から選ばれた少なくとも1つの手段から得ることが可能である。なかでも、緻密な布帛とするためには、後者の混抄紙が好ましく採用されることが多く、その他の耐熱性繊維からなるパルプと混ぜ合わせることで繊維同士の絡合が高くなり、より緻密な混抄紙とすることが可能である。
【0044】
PPSO繊維とその他の耐熱性繊維とを混ぜ合わせる際の混率としては、PPSO繊維を50質量%以上、さらに70質量%以上、さらに80質量%以上含んで構成された布帛とすることが好ましい。PPSO繊維の含有量が高い布帛とすることで、弾性ロール成型時の繰返し加圧処理工程で発生する熱に対する寸法安定性が良く、弾性ロール表面にできた傷の修復性が良好な弾性ロール用布帛が得られるので好ましい。
その他の耐熱性繊維としては、分解温度が200℃以上であり、かつ分解温度以下において融解しない繊維が好ましく、具体的には、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリベンザゾール(PBO)繊維などを適宜選択して採用することが好ましい。中でもパラ系アラミド繊維は高強度であるとともに、熱による寸法安定性に優れる点でも好ましい。また本発明の布帛には本発明の効果を損なわない範囲で、合成樹脂、上に示した耐熱性繊維以外の繊維、その他の添加剤を含むことができる。
【0045】
前記耐熱性繊維からなるパルプとは、繊維の一部に分枝構造もしくはフィブリル構造を有している繊維のことを指しており、一本の繊維が長さ方向に裂け目が入り、長さ方向に複数本に分かれた状態を指しており、長さ方向に構成本数の分布を有する状態をいう。また、複数本に分かれた状態は、再度一本の繊維の状態に戻っても構わないし、戻らずに箒の先の状態であっても構わない。ここでいうフィブリル構造とは、上記の分枝構造と同様の状態の構造を指すが、フィブリル構造の場合は、枝分かれした繊維の一本一本は極めて細く、光学顕微鏡で観察しても微細に分割された一本一本には見えない状態を言う。
【0046】
分枝構造を有する耐熱性繊維を得る方法としては、前記耐熱性繊維のカットファイバーを力学的作用により叩解することによって得られる。本発明における力学的作用とは、カットファイバーをすり潰す作用を与えることの出来るものならいかなる方法も採用することが出来る。例えば、ナイヤガラビーターを用いても良いし、他の方法としては、ホモジナイザーやディスクリファイナーを用いても良いし、あるいは、ライカイ機やすり棒とすり鉢を用いても構わない。また、高圧の水流によるウォータージェットパンチによっても良い。
【0047】
湿式法で得られる抄紙に用いるPPSO繊維やその他の耐熱性繊維、または耐熱性繊維からなるパルプの平均繊維長としては、0.01mm〜20mmである短繊維であり、好ましくは0.1mm〜10mm、より好ましくは1mm〜6mmである。0.01mm以上とすることで、繊維同士の絡合により得られる湿式抄紙の強度を高くすることができる。また、20mm以下とすることで繊維同士の絡合がダマになるなどしてムラ等が生じるのを防ぐことができる。
【0048】
PPSO繊維の短繊維を得る手順としては、前もってPPS繊維の短繊維を得ておいてから酸化反応処理を施してもよいし、PPS繊維を長繊維の状態で酸化反応処理してPPSO繊維の長繊維を得てから短繊維としてもよい。酸化反応処理の作業の容易さからは、前者を好ましく採用することができる。
PPSまたはPPSOの長繊維を短繊維にカットする手段としては、ECカッター、ギロチンカッター等を採用することができる。
【0049】
ここで、PPSO繊維とパルプ化したパラ系アラミド繊維で構成した、湿式法で得られる混抄紙の作製方法の一例を示す。
【0050】
まず、PPSO繊維とパルプ化したパラ系アラミド繊維とを水中に分散させ、抄紙用分散液をつくる。抄紙用分散液に対するPPSO繊維およびパルプ化したパラ系アラミド繊維の合計量としては、0.005〜5質量%が好ましい。合計量を0.005質量%以上とすることで、80g/m以上の目付の大きな湿式混抄紙を効率的に得ることができる。また、5質量%以下とすることで繊維の分散状態が良くなり均一な混抄紙を得ることができる。
【0051】
分散液は、予めPPSO繊維の分散液とパルプ化したパラ系アラミド繊維の分散液とを別々につくってから両者を抄紙機で混合してもよいし、直接両方を含む分散液をつくってもよい。それぞれの繊維の分散液を別々につくってから両者を混合するのは、それぞれの繊維の形状・特性等に合わせて攪拌時間を別個に制御できる点で好ましく、直接両方を含む分散液を作るのは工程簡略の点で好ましい。
【0052】
抄紙用分散液には、水分散性を向上させるためにカチオン系、アニオン系、ノニオン系などの界面活性剤などからなる分散剤や油剤、また泡の発生を抑制する消泡剤等を添加してもよい。抄紙用分散液を丸網式、長網式、傾斜網式などの抄紙機または手漉き抄紙機を用いて抄紙し、これをヤンキードライヤーやロータリードライヤー等で乾燥し、混抄紙とすることができる。
【0053】
また、必要に応じてカレンダーロールなどを用いて加熱加圧処理を施して、所定の厚みとなるようにしてもよい。加熱加圧処理の手段としては、平板等での熱プレス、カレンダーロールなどを採用することができる。なかでも、連続して加工することができるカレンダーロールが好ましい。カレンダーロールは、金属−金属ロール、金属−紙ロール、金属−ゴムロール等を使用することで厚みが均一な混抄紙とすることができる。
【0054】
弾性ロールに使用するときは、円形に切り出す。通常は、切り出しと同時または切り出し後、ロール芯が通過するための穴が設けられる。穴は円形、多角形がありうる。
【0055】
本発明の弾性ロールは、前記の湿式法で得て、円形として、穴を設けた混抄紙を弾性ロール用布帛として準備する。図1に示すように、金属などのロール芯1に、ナット2およびカバー3を施し、そして弾性ロール用布帛5を順次、複数枚積層して水圧機等で該軸方向に圧縮処理を施して、弾性ロール部4を積み上げていく。所定のロール長さとなるまで布帛をロール芯回りに積層/圧縮を繰り返し行い、さらにカバー3’およびナット4’を施す。そして弾性ロール部の表面を旋盤やグラインダーで研摩加工することで、本発明の弾性ロールが得られる。 前記圧縮動作を繰返し行うことでヒステリシス挙動による、該弾性ロール内部で発熱が発生するが、本発明の弾性ロール用布帛を構成するPPSO繊維は乾熱収縮率が低く優れると共に、溶融成分を含んでいないため、熱に対する寸法安定性が極めて優れている。さらに、弾性ロール用布帛の主構成繊維であるPPSO繊維は木綿並みの吸湿率を有するため、ロール表面にできた傷に対する修復性が良好な弾性ロールを得ることが可能となる。なお弾性ロール部の固さとしてはショアA硬度95以下のものが例示される。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0057】
[測定・評価方法]
1.乾熱寸法変化率(収縮率)
JIS L 1013:2010 8.15 b)法に拠って測定した。
高温乾燥機(ADVANTEC製 DRH653WA)を用い、乾燥機内温度を350℃に設定して、常温で初荷重をかけたときの繊維長を求めた試料を乾燥機内に吊り下げ、30分後に取り出して室温まで冷却後、熱処理後の試料に初荷重をかけたときの繊維長を計測し、次の式によって乾熱寸法変化率を算出した。試験回数は30回とし、その平均値を算出した。
C={(B−A)/B}×100
ここに、A:熱処理後の繊維長(mm)
B:熱処理前の繊維長(mm)
C:乾熱寸法変化率(%) 。
【0058】
2.見掛けヤング率
JIS L 1013:2010 8.5.1および8.10に拠って測定した。試料に0.03cN/dtexの初荷重をかけた状態で、引張試験機((株)島津製作所製 AGS−J 5kN)のRチャックに試長200mm、緩み0mmで取り付け、引張速度200mm/分の定速伸長にて試験を行った。得られた荷重−伸び曲線から荷重変化の最大点Aと、最大点Aの時の伸び量THを求め、次の式によって初期引張抵抗度を算出した。試験回数は10回とし、その平均値を算出した。
=P/(l‘/l)×F
ここに、T:初期引張抵抗度(N/tex)
P :接触角最大点Aにおける荷重(N)
:試料の正量繊度(tex)
l :試験長(mm)
l‘:最大点Aの時の伸び量TH(mm)
求めた初期引張抵抗度から、次の式によって見掛けヤング率を算出した。
=1000×ρ×T
ここに、Y:見掛けヤング率(N/mm
ρ :繊維の密度(g/cm
:初期引張抵抗度(N/tex) 。
【0059】
3.耐熱性(融解熱/分解熱有無)
示差走査熱量計((株)島津製作所製 DSC−60)を用いて、試料を2〜3mgの範囲内で秤量してアルミニウムパン中に密閉し、流速20mL/分の窒素流下で、昇温速度10℃/分で、30〜500℃、または30℃から熱分解の発熱により測定できなくなるまで昇温させた。試料と基準物質との温度差をゼロに保つのに必要な電気エネルギー(W)を縦軸、昇温の間の時間(s)を横軸とした示差熱量曲線を記録し、主吸熱ピーク/主発熱ピークから融解温度(℃)/分解温度(℃)を求めた。
【0060】
4.吸湿率
恒温恒湿機(TABAI ESPEC社製 PL−3F)を用い、運転温度20℃、湿度65%に設定、試料10gを装置内に入れ、24時間後に取り出した直後の質量を計量し、次に高温乾燥機(ADVANTEC製 DRH653WA)を用い、乾燥機内温度を105℃に設定、同試料を装置内に入れ、20分熱処理直後の絶乾質量を計量し、次の式によって吸湿率を算出した。試験回数は3回とし、その平均値を算出した。
う={(あ−い)/い}×100
ここに、あ:24時間調湿後の質量(g)
い:同試料の絶乾質量(g)
う:吸湿率(%) 。
【0061】
5.乾熱面積収縮率
高温乾燥機(ADVANTEC製 DRH653WA)を用い、乾燥機内温度を350℃に設定して、25cm×25cmの試料を熱処理して、30分後に試料を取り出し室温まで冷却後、熱処理後の試料面積を計測し、次の式によって乾熱面積収縮率を算出した。試験回数は3回とし、その平均値を算出した。乾熱面積収縮率が2%未満を○、2%以上〜3%未満を△、3%以上を×と判定した。
c={(a−b)/a}×100
ここに、a:熱処理前の試験片の面積(cm
b:熱処理後の試験片の面積(cm
c:乾熱面積収縮率(%) 。
【0062】
6.傷の復元性
(傷あり試料作成)
15cm×5cmの試料の表面に、Φ1mm×5cm長さのステンレス製針金を試料の長辺方向に対して垂直に寝かせて等間隔(5cm間隔)となるように2本乗せ、該針金の上に100kgの荷重をかけた状態で24時間常温下にて放置した後、荷重を取り除き試料表面に傷(凹部)を付けた傷あり試料を作成した。
【0063】
(傷の復元処理)
上記の傷あり試料を水道水の入った容器内に10分間浸漬させた後、傷の付いた表面側から家庭用アイロン(表面温度約200℃)を使用してアイロン掛けを10往復施した。本動作を計3回繰り返した。
【0064】
(傷の復元性評価)
トライボギア(商標)(新東化学株式会社製表面性測定機 TYPE:HEIDON(商標)−14DR)を用い、移動速度100mm/min、荷重2.9Nで、移動台に上記の傷なし/傷あり(傷の復元処理後)の試料を交互にセットし、該試料の長辺方向に平行にボール型の試験圧子を移動させて湿式混抄紙表面の傷の復元性を摩擦係数によるレコーダーの波形の状態から判断した。傷の復元性が認められるものは傷なしと同様の波形を示し、傷の復元性がない試料(凹部あり)は、傷(凹部)の付いた部分をボール型の圧子が走行する際に波形が大きく乱れることで判断した。波形が全く乱れない水準を○、波形が1回乱れた水準を△、波形が2回乱れた水準を×と判定した。なお測定は恒温恒湿環境下(20±2℃、60±5%RH)にて行った。
【0065】
なお、本評価においては、高圧化で整形された弾性ロールの表面とロール断面との表面硬度にほとんど差異がなく、いずれの部位においても傷修復性の優位差は同じであることから、各素材別に構成された弾性ロール用布帛に関し、傷の復元性を簡便的に判断するための評価手法として適用している。
【0066】
(PPSO繊維:PPS繊維の酸化処理)
PPS繊維“トルコン”(東レ(株)製ポリフェニレンサルファイド繊維 S301 2.2T−51mm)を1.0kg秤量して樹脂製のキャリアーに投入して蓋をし、反応槽中に設置した。該反応槽内に浴比1:15の割合となるよう、酢酸(99%純度)と硫酸(95%純度)とを86:14の質量割合で投入してPPS繊維を浸漬した。その後、過酸化水素水(30%純度)を滴下しつつ循環ポンプで液流循環させ、温度を50〜60℃に維持して4時間反応させてPPSO繊維を製造した。過酸化水素水は反応開始直後から30分間は8g/分の滴下速度とし、200分で滴下した過酸化水素水は1.6kgであった。得られたPPSO繊維の特性を表1に示した。
【0067】
(耐熱性繊維1)
フィブリルを有するパラ系アラミド繊維として“ケブラー”パルプ(DuPont社製 品番1F538)を用いた。該繊維の特性を表1に示した。
【0068】
(耐熱性繊維2)
PPS繊維として“トルコン”(東レ(株)製ポリフェニレンサルファイド繊維 S301 2.2T−51mm)を用いた。該繊維の特性を表1に示した。
【0069】
(耐熱性繊維3)
芳香族ポリアミド繊維として、メタアラミド短繊維(2.2T−約40mm)を用いた。該繊維は融点がなく分解温度が430℃前後と優れた耐熱特性、難燃性を有することが特徴的であり、産業用資材から消防士の防火服まで、幅広い用途での実績がある繊維である。該繊維の特性を表1に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
(耐熱性繊維の短繊維化)
ギロチンカッターにより手作業で耐熱性繊維を4〜6mmの長さにカットした。
【0072】
(PPSO繊維の分散液)
上記PPSO繊維を、それぞれ表2記載の質量分とり、水1Lとともに家庭用ジューサーミキサーに投入して攪拌し、分散液とした。攪拌時間としては、繊維同士が絡むのを防ぐために10秒とした。
【0073】
(耐熱性繊維1の分散液)
上記の耐熱性繊維1を、それぞれ表2記載の質量分とり、水1Lとともに家庭用ジューサーミキサーに投入して攪拌し、分散液とした。攪拌時間としては、良く分散させるために15分とした。
【0074】
(耐熱性繊維2の分散液)
上記の耐熱性繊維2を、それぞれ表2記載の質量分とり、水1Lとともに家庭用ジューサーミキサーに投入して攪拌し、分散液とした。攪拌時間としては、繊維同士が絡むのを防ぐために10秒とした。
【0075】
(耐熱性繊維3の分散液)
上記の耐熱性繊維3を、それぞれ表2記載の質量分とり、水1Lとともに家庭用ジューサーミキサーに投入して攪拌し、分散液とした。攪拌時間としては、繊維同士が絡むのを防ぐために10秒とした。
【0076】
(湿式混抄紙)
各実施例・比較例において使用した繊維の分散液1Lずつを、底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ25cm×25cm、高さ40cmの手すき抄紙機(熊谷理機工業社製)に投入し、さらに水を追加して抄紙分散液の総量を20Lとし、攪拌棒で十分に攪拌した。手すき抄紙機の水を抜き、抄紙網に残った湿紙を濾紙に転写した。
【0077】
(乾燥)
上記湿紙を濾紙ごとロータリー式乾燥機に投入し、温度125℃、工程通過速度0.5m/min、工程長1.25m(処理時間2.5min)にて乾燥する処理を5回繰り返した。
各実施例・比較例で得た湿式抄紙の特性を表2に示した。
【0078】
【表2】

【0079】
表2の評価結果から明らかなように、実施例1、2、3の布帛は比較例1、2よりも乾熱面積収縮率が低く寸法安定性が良く、傷の復元性に優れていることが分かり、弾性ロール用布帛として適当であることがわかった。
【0080】
(弾性ロールとしての評価)
実施例1の抄紙からなる布帛を直径10cmのドーナツ状円盤に打ち抜き、これをロール芯棒の回りに200枚順次積層し、圧縮し、弾性ロールとしてのモデル材料を作成した。針金の先端をロール周囲に接触、移動させ、ロール周辺に傷をつけた。このロールを水道水の入った容器内に10分間浸漬させた後、家庭用アイロン(表面温度約200℃)を使用して、ロール周囲のアイロン掛けを30回繰り返した。目視したところ、ロールの周囲にあった傷は消えていた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、弾性ロール用布帛に関し、弾性ロール成型時の繰返し加圧処理工程で発生する熱に対する寸法安定性が良く、高温下でのカレンダー加工処理が可能であり、弾性ロール表面にできた傷の修復性が良好な弾性ロール用布帛として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0082】
1 ロール芯
2、2’ ナット
3、3’ カバー
4 弾性ロール部
5、5’弾性ロール用布帛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性繊維で構成された布帛であって、少なくとも該耐熱性繊維としてポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を含んで構成されていることを特徴とする、弾性ロール用布帛。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維の乾熱収縮率が2.5%以下であることを特徴とする、請求項1記載の弾性ロール用布帛。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維のヤング率が6000N/mm2以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の弾性ロール用布帛。
【請求項4】
円形である請求項1〜3いずれかに記載の弾性ロール用布帛。
【請求項5】
さらに、弾性ロールのロール芯が通じるための穴を有する請求項4記載の弾性ロール用布帛。
【請求項6】
ロール芯の回りに、請求項1〜5いずれかに記載の弾性ロール用布帛が周回してなる弾性ロール。

【図1】
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