説明

弾性波装置

【課題】不平衡信号から変換された平衡信号の平衡度を向上させることができる弾性波装置を提供する。
【解決手段】IDT11BとIDT11Aとの境界BD1においては、IDT11Bの信号電極指19S(B1)とIDT11Aの信号電極指19S(A7)とが、1本の接地電極指19G(A8)を挟んで、交差幅d1の交差範囲R1に亘って併設されている。IDT11BとIDT11Cとの境界BD2においては、IDT11BおよびIDT11Cの信号電極指19S(B9、C1)が、交差範囲R1の中央(L3)を越える中途位置(L4またはL2)まで延びる長さとされており、接地電極指19Gを挟まずに、交差範囲R1の中央側の一部の範囲(R2)のみにおいて交差している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)装置等の弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不平衡信号を平衡信号に変換する機能が付加された縦結合多重モード(二重モード含む)SAWフィルタを有するSAW装置が知られている(例えば特許文献1)。なお、不平衡信号は、基準電位(0Vに限定されない)に対する電位を信号レベルとする信号である。平衡信号は、2つの信号からなり、2つの信号の電位差を信号レベルとする信号である。
【0003】
このようなSAW装置は、不平衡信号が入力される入力IDT(InterDigital Transducer)と、平衡信号の一方を出力する第1出力IDTと、平衡信号の他方を出力する第2出力IDTとを有している。そして、入力IDTと第1出力IDTとの境界における電極指の位置関係と、入力IDTと第2出力IDTとの境界における電極指の位置関係とは非対称となっている。
【0004】
上記の非対称な位置関係は、不平衡信号を平衡信号に変換するために必須のものである。しかし、この非対称性に起因して、第1出力IDTと第2出力IDTとの間においては、出力する信号の振幅および/または位相に差が生じる。すなわち、平衡信号の平衡度が低下する。
【0005】
そこで、特許文献1の技術では、入力IDTおよび第2出力IDTの境界において、入力IDTの電極指を短くすることによって交差幅の重み付けをしている。これにより、入力IDTと第1出力IDTとの結合関係と、入力IDTと第2出力IDTとの結合関係との対称性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−87081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2の技術では、交差幅の重み付けをした結果、入力IDTにおける信号の分布と第2出力IDTにおける信号の分布とが対称でなくなる。そして、この非対称性に起因して、2つの出力IDTから出力される平衡信号の平衡度が損なわれている。
【0008】
本発明の目的は、不平衡信号から変換された平衡信号の平衡度を向上させることができる弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様の弾性波装置は、不平衡信号が入力される1または複数の入力IDTと、前記入力IDTのいずれかに対して弾性波の伝搬方向において隣接し、不平衡信号の一方を出力する第1出力IDTと、前記入力IDTのいずれかに対して前記伝搬方向において隣接し、不平衡信号の他方を出力する第2出力IDTと、を有し、各IDTは、前記不平衡信号が入力されまたは前記平衡信号を出力する複数の信号電極指と、接地された複数の接地電極指とを有し、各IDTの前記伝搬方向の中央においては、前記信号電極指と前記接地電極指とが所定の交差幅で交差し、前記入力IDTと前記第1出力IDTとの第1境界においては、前記入力IDTの信号電極指と前記第1出力IDTの信号電極指とが、所定数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲に亘って併設されており、前記入力IDTと前記第2出力IDTとの第2境界においては、前記入力IDTおよび第2出力IDTの信号電極指が、前記交差幅の範囲の中央を越える当該範囲の中途位置まで延びる第1長さ電極指および第2長さ電極指とされており、接地電極指を挟まずにまたは前記所定数よりも少ない本数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲の中央側の一部の範囲のみにおいて交差している。
【0010】
好適には、前記入力IDTは、前記第2境界において、前記交差幅の範囲の中央よりも手前の当該範囲の中途位置まで延び、先端が前記第1長さ電極指の先端と対向する接地電極指である第3長さ電極指を有し、前記第2出力IDTは、前記第2境界において、前記交差幅の範囲の中央よりも手前の当該範囲の中途位置まで延び、先端が前記第2長さ電極指の先端と対向する接地電極指である第4長さ電極指を有する。
【0011】
好適には、前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指は前記交差幅の範囲内の長さが互いに同等であり、前記第3長さ電極指および前記第4長さ電極指は前記交差幅の範囲内の長さが互いに同等である。
【0012】
好適には、前記所定数は、前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指に挟まれる接地電極指の本数(0含む)よりも1多い数であり、前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指の前記交差幅の範囲内の長さと、前記第3長さ電極指および前記第4長さ電極指の前記交差幅の範囲内の長さとの比が3:1である。
【0013】
好適には、前記第1出力IDTおよび第2出力IDTは、信号電極指および接地電極指の配置位置の数が互いに等しく、前記第1出力IDTは、前記入力IDTとは反対側において、信号電極指であり、前記第2長さ電極指と前記交差幅の範囲内の長さが等しい第5長さ電極指と、接地電極指であり、前記第4長さ電極指と前記交差幅の範囲内の長さが等しく、先端が前記第5長さ電極指の先端と対向する第6長さ電極指とを有する。
【0014】
好適には、前記第1出力IDTおよび前記第2出力IDTはそれぞれ1または複数設けられ、前記入力IDTと前記第1出力IDTとの境界は複数あり、その全てにおいて、前記入力IDTの信号電極指と前記第1出力IDTの信号電極指とが、前記所定数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲に亘って併設されており、前記入力IDTと前記第2出力IDTとの境界は複数あり、その全てにおいて、前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指とが、接地電極指を挟まずにまたは前記所定数よりも少ない本数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲の中央側の一部の範囲のみにおいて交差している。
【発明の効果】
【0015】
上記の構成によれば、入力IDTと第1出力IDTとの第1境界においては、入力IDTの信号電極指と第1出力IDTの信号電極指とが、所定数の接地電極指を挟んで、所定の交差幅の範囲に亘って併設されており、入力IDTと第2出力IDTとの第2境界においては、入力IDTおよび第2出力IDTの信号電極指が、前記交差幅の範囲の中央を越える当該範囲の中途位置まで延びる第1長さ電極指および第2長さ電極指とされており、第1長さ電極指と第2長さ電極指とが接地電極指を挟まずにまたは前記所定数よりも少ない本数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲の中央側の一部の範囲のみにおいて交差していることから、第1境界における結合と第2境界における結合との非対称性が緩和され、不平衡信号から変換された平衡信号の平衡度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るSAW装置の構成を示す平面図である。
【図2】第1の比較例に係るSAW装置の構成および平衡度を説明する図である。
【図3】第2の比較例に係るSAW装置の構成および平衡度を説明する図である。
【図4】図1のSAW装置の平衡度を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るSAW装置の構成を示す平面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るSAW装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るSAW装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0018】
また、説明の対象となる比較例や実施形態において、既に説明された実施形態または比較例の構成と同一または類似する構成については、既に説明された実施形態または比較例の構成と同一の符号を付すことがあり、また、説明を省略することがある。
【0019】
符号は、同一または類似する構成のものについて、「出力端子9A、出力端子9B」などのように、同一の数字の符号と、互いに異なる大文字のアルファベットの付加符号とが組み合わされたものが使用されることがあり、また、付加符号が省略されることがあるものとする。
【0020】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るSAW装置1を示す平面図である。
【0021】
SAW装置1は、不平衡信号が入力され、その入力された不平衡信号をフィルタリングし、平衡信号を出力するフィルタ装置として構成されている。その入力から出力までの過程において、SAW装置1は、電気信号のSAWへの変換、および、SAWの電気信号への変換も行う。
【0022】
SAW装置1は、SAWが伝搬する基板3を有している。また、SAW装置1は、基板3の主面3a上において、不平衡信号が入力される入力端子5と、入力された信号をフィルタリングするSAW素子7と、フィルタリングされた平衡信号を出力する2つの出力端子9とを有している。
【0023】
基板3は、圧電効果を示す圧電体によって構成された、いわゆる圧電基板である。圧電体は、例えばLiNbOやLiTaOである。なお、基板3の平面形状は適宜に設定されてよい。
【0024】
SAWは、SAW素子7に励起されて主面3aを矢印で示す伝搬方向D1において伝搬する。なお、以下では、主面3aに沿う方向であって伝搬方向D1に直交する方向を直交方向D2ということがある。
【0025】
SAW素子7は、縦結合ダブルモード型の共振子SAWフィルタによって構成されている。具体的には、SAW素子7は、伝搬方向D1に配列された複数のIDT11と、当該複数のIDT11の列の両端に配置された反射器13とを有している。IDT11の数は、本実施形態では3個である。
【0026】
各IDT11は、1対の櫛歯電極15を有している。櫛歯電極15は、伝搬方向D1に延びるバスバー17と、バスバー17から直交方向D2に延びる複数の電極指19とを有している。
【0027】
1対の櫛歯電極15は、互いのバスバー17が直交方向D2において対向し、複数の電極指19が互いに噛み合うように配置されている。大多数(各IDT11の中央側の一部)の電極指19に関しては、隣り合う電極指19同士の交差幅d1は、各IDT11内において、また、複数のIDT11間において、概ね一定である。交差幅d1の範囲(交差範囲R1)は、例えば、バスバー17間の中央に位置している。
【0028】
複数の電極指19のピッチ(異なるIDT11間のピッチを含む)は、通過帯域の周波数等に応じて適宜に設定されている。例えば、大多数の電極指19のピッチは、通過帯域の周波数のSAWの半波長程度とされ、IDT11間およびその周辺のピッチは、これよりも狭く(例えば半分程度)される。なお、図1は模式図であることから、一定のピッチで電極指19を示している。
【0029】
電極指19の数(配置位置の数)も、要求されるフィルタ特性等に応じて適宜に設定されている。なお、図1は模式図であることから、実際よりも少ない数で電極指19を示している。IDT11Aと11Cとは、出力される平衡信号の平衡度を向上させる観点から、電極指19の配置位置の数が同数であることが好ましい。
【0030】
以下では、個々の電極指19を、その配置される位置A1〜A8、B1〜B9およびC1〜C8を参照して特定することがあるものとする。また、交差範囲R1を4分割したときの境界線である線L1〜L5を参照して、直交方向D2の範囲もしくは位置を特定することがあるものとする。
【0031】
各IDT11において、互いに対向する櫛歯電極15の一方は、信号が入力され、または、信号を出力するものであり(入力端子5または出力端子9に接続されるものであり)、互いに対向する櫛歯電極15の他方は基準電位(グランド)に接続されている。
【0032】
以下では、信号が入力され、または、信号を出力する櫛歯電極、バスバーおよび電極指の符号には、Sの付加符号を付すことがあり、また、「信号櫛歯電極」と呼ぶなど、「信号」の文字を名称の頭に付すことがあるものとする。また、基準電位に接続された櫛歯電極、バスバーおよび電極指の符号には、Gの付加符号を付すことがあり、また、「接地櫛歯電極」と呼ぶなど、「接地」の文字を名称の頭に付すことがあるものとする。
【0033】
複数のIDT11のうち、中央に配置されたIDT11Bの信号櫛歯電極15Sは入力端子5に接続されている。また、IDT11Bの両側に配置されたIDT11Aおよび11Bの信号櫛歯電極15Sは、出力端子9Aおよび9Bに接続されている。
【0034】
入力端子5からの不平衡信号s0がIDT11Bにより基板3に印加されると、不平衡信号s1がSAWに変換され、伝搬方向D1において伝搬する。伝搬したSAWはIDT11Aおよび11Cにより電気信号として取り出され、出力端子9へ出力される。この過程において、複数の電極指19のピッチを概ね半波長とする信号が抽出されることによって、フィルタリングが行われる。
【0035】
複数の電極指19のピッチは、信号の概ね半波長であるから、隣接する電極指19同士は、位相が互いに180°異なる(逆相)信号に対応することになる。なお、図1では、互いに同一の位相に対応する電極指同士をハッチングの有無により示している。
【0036】
ここで、IDT11BとIDT11Aとの境界BD1においては、IDT11Bの信号電極指19S(B1)と、IDT11Aの信号電極指19S(A7)とが1本(奇数本)の接地電極指19G(A8)を挟んで交差している。従って、IDT11Aの信号櫛歯電極15Sは、IDT11Bの信号櫛歯電極15Sに入力された信号s0と同位相の信号s1を出力する。
【0037】
一方、IDT11AとIDT11Cとの境界BD2においては、IDT11Bの信号電極指19S(B9)と、IDT11Cの信号電極指19S(C1)とが0本(偶数本)の接地電極指19Gを挟んで交差している。従って、IDT11Cの信号櫛歯電極15Sは、IDT11Bの信号櫛歯電極15Sに入力された信号s0の位相を反転した(位相が180°異なる)信号s2を出力する。
【0038】
このように、SAW素子7は、境界BD1と境界BD2とで信号電極指19Sに挟まれる接地電極指19Gの本数を異ならせることにより、IDT11Bに入力された信号s0を、信号s1および信号s2からなる平衡信号に変換して出力する。
【0039】
しかし、境界BD1と境界BD2とで接地電極指19Gの本数が異なることにより、平衡度が低下する。すなわち、接地電極指19Gの本数が相対的に少ない境界BD2においては、接地電極指19Gの本数が相対的に多い境界BD1に比較してIDT間の結合が強くなり、その結果、平衡度が低下する。そこで、本実施形態のSAW素子7は、以下のように構成されている。
【0040】
境界BD1において、IDT11Bの信号電極指19S(B1)、および、IDT11Aの信号電極指19S(A7)は、他の大多数の電極指19と同様に、交差幅d1の交差範囲R1に亘って延びている。そして、交差範囲R1に亘って交差している。
【0041】
一方、境界BD2において、IDT11Bの信号電極指19S(B9)は、交差幅d1の交差範囲R1の中央(L3)を越える、交差範囲R1の中途位置(L4)まで延びている。同様に、IDT11Cの信号電極指19S(C1)は、交差幅d1の交差範囲R1の中央(L3)を越える、交差範囲R1の中途位置(L2)まで延びている。そして、これら位置B9および位置C1の信号電極指19Sは、交差範囲R1の中央側の一部の領域R2のみにおいて交差している。
【0042】
位置B9および位置C1の信号電極指19Sの長さは、例えば、互いに同等である。従って、直交方向D2において、領域R2は、交差範囲R1のちょうど中央に位置する。また、これらの信号電極指19Sの交差幅は、例えば、交差幅d1の概ね1/2(交差幅d2)である。
【0043】
IDT11Cの接地櫛歯電極15Gは、位置C1において、交差範囲R1の中央(L3)よりも手前の、交差範囲R1の中途位置(L2)まで延び、先端が位置C1の信号電極指19Sの先端と対向する接地電極指19Gを有している。従って、領域R3において、IDT11Bの位置B9の信号電極指19Sは、2本の接地電極指19G(C1、C2)を挟んで、IDT11Cの信号電極指19S(C3)と交差している。領域R3における交差幅は、例えば、交差幅d1の概ね1/4(交差幅d3)である。
【0044】
同様に、IDT11Bの接地櫛歯電極15Gは、位置B9において、交差範囲R1の中央(L3)よりも手前の、交差範囲R1の中途位置(L4)まで延び、先端が位置B9の信号電極指19Sの先端と対向する接地電極指19Gを有している。従って、領域R4において、IDT11Cの位置C1の信号電極指19Sは、2本の接地電極指19G(B9、B8)を挟んで、IDT11Bの信号電極指19S(B7)と交差している。この領域R4における交差幅は、例えば、交差幅d1の概ね1/4(交差幅d4)であり、領域R3における交差幅d3と等しい。
【0045】
従って、IDT11BとIDT11Aとの間においては、1本の接地電極指19Gを挟んだ2本の信号電極指19Sの結合が交差幅d1で行われているのに対し、IDT11BとIDT11Cとの間においては、接地電極指19Gを挟まない2つの信号電極指19Sの結合が交差幅d1の半分程度(交差幅d2)で行われるとともに、2本の接地電極指19Gを挟む2つの信号電極指19Sの結合が交差幅d1の半分程度(交差幅d3+d4)で行われる。
【0046】
なお、厳密には、位置B9または位置C1においては、信号電極指19Sの先端と接地電極指19Gの先端との隙間が交差幅d1内に設けられるから、領域R2における交差幅は交差幅d1の半分よりも若干小さく、領域R3またはR4における交差幅は交差幅d1の1/4よりも若干小さい。ただし、本実施形態においては、当該隙間による誤差は無視して、交差幅もしくは電極指の長さを説明するものとする。他の位置(後述する位置A1等)についても同様である。なお、当該隙間は、例えば、通過帯域の周波数のSAWの半波長程度である。
【0047】
IDT11Aの信号櫛歯電極15Sは、IDT11Bとは反対側の最外電極指位置(A1)において、位置C1の信号電極指19Sと交差範囲R1内の長さが等しい信号電極指19Sを有している。また、IDT11Aの接地櫛歯電極15Gは、この最外電極指位置である位置A1に、位置C1の接地電極指19Gと交差範囲R1内の長さが等しく、先端が位置A1の信号電極指19Sの先端と対向する接地電極指19Gを有する。従って、IDT11Aは、IDT11Cと同一の構成となっている。
【0048】
以上の構成を有するSAW装置1の作用を説明する。
【0049】
図2は、第1の比較例に係るSAW装置901の構成および平衡度を説明する図である。具体的には、図2の上段はSAW装置901の平面図であり、下段は、上段の電極指位置における通過帯域高周波側における振幅を示すグラフである。なお、下段のグラフは、本実施形態の作用を説明するための概念的なものであり、実際の振幅のグラフとは相違する。
【0050】
SAW装置901は、IDT911の構成が実施形態と相違する。具体的には、IDT911BとIDT911Cの境界BD2において、IDT911Bの信号電極指19S(B9)とIDT911Cの信号電極指19S(C1)とは、接地電極指19Gを挟まずに、交差幅d1で交差している。また、IDT911AのIDT911Bとは反対側の最外電極指位置(A1)においては、信号電極指19Sが交差範囲R1に亘って延びている。
【0051】
境界BD1においては、信号電極指19S間に1本の接地電極指19Gが挟まれ、境界BD2においては、信号電極指19S間に0本の接地電極指19Gが挟まれている。すなわち、境界BD2においては、境界BD1に比較して、信号電極指19S間に挟まれる接地電極指19Gが少ない。
【0052】
従って、下段のグラフに示すように、IDT911Cの境界BD2の信号電極指19S(C1)における振幅は、IDT911Aの境界BD1の信号電極指19S(A7)における振幅よりも大きい。位置C3および位置A5等についても同様である。そして、上記の振幅の相違の結果、出力端子9Aおよび9Bに出力される平衡信号の平衡度が低下する。
【0053】
図3は、第2の比較例に係るSAW装置801の構成および平衡度を説明する、図2と同様の図である。
【0054】
SAW装置801は、紙面右側のIDT811Cの構成のみが第1の比較例のSAW装置901と相違する。具体的には、境界BD2において、IDT811Cの電極指19は2等分されている。すなわち、IDT811Cは、位置C1において、交差範囲R1の中央(L3)まで延び、先端が互いに対向する信号電極指19Sおよび接地電極指19Gを有している。
【0055】
下段のグラフにおいて、紙面左側(位置A5〜B3)の範囲については、表示方法およびその内容は、図2と同様である。紙面右側(位置B7〜C3)の範囲については、振幅は、交差範囲R1(図2)を2分割した分割トラックTR1およびTR2毎に示されている。
【0056】
分割トラックTR2においては、IDT911BとIDT811Cとの電極指19の位置関係は、交差幅が半分になっていることを除いて、図2のIDT911BとIDT911Cとの電極指19の位置関係と同様である。従って、位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR2の振動分布のグラフは、図2の位置B7〜C3までの範囲の振動分布のグラフにおいて振幅を半分としたものとなっている。
【0057】
分割トラックTR1の領域R5においては、IDT911Bの信号電極指19S(B9)と、IDT811Cの信号電極指19S(C3)とが、2本の接地電極指19G(C1、C2)を挟んで交差している。すなわち、境界BD1または分割トラックTR2における境界BD2よりも信号電極指19S間の接地電極指19Gの数が多い。従って、位置B9および位置C3における振幅は、位置A7および位置B1における振幅の半分よりも小さい、または、分割トラックTR2の位置B9および位置C1における振幅よりも小さい。その他の位置についても同様である。
【0058】
従って、位置B1およびB3においてハッチングして示した面積と、位置C1およびC3においてハッチングして示した面積の、分割トラックTR1およびTR2の合計との差は、図2の場合に比較して縮小される。その結果、出力端子9Aおよび9Bに出力される平衡信号の平衡度が改善される。
【0059】
ただし、境界BD1側においては、IDT11Bの振動分布とIDT11Aの振動分布とが対称であるのに対し、境界BD2側においては、分割トラックTR1において、IDT11Bの振動分布と、IDT11Cの振動分布とが非対称である。従って、当該非対称性に起因する平衡度の低下が生じる。
【0060】
図4は、本実施形態に係るSAW装置1の平衡度を説明する、図2と同様の図である。
【0061】
下段のグラフにおいて、紙面左側(位置A5〜B3)の範囲については、表示方法およびその内容は、図2および図3と同様である。紙面右側(位置B7〜C3)の範囲については、振幅は、交差範囲R1(図2)を1:2:1で分割した分割トラックTR3〜TR5毎に示されている。
【0062】
分割トラックTR4においては、IDT11BとIDT11Cとの電極指19の位置関係は、交差位置が交差範囲R1の中央になっていることを除いて、図3の分割トラックTR2におけるIDT911BとIDT811Cとの電極指19の位置関係と同様である。従って、位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR4の振動分布のグラフは、図3の位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR2の振動分布のグラフと同様である。
【0063】
分割トラックTR3においては、IDT11BとIDT11Cとの電極指19の位置関係は、交差幅が半分になっていることを除いて、図2の分割トラックTR1におけるIDT911BとIDT811Cとの電極指19の位置関係と同様である。従って、位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR3の振動分布のグラフは、図2の位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR1の振動分布のグラフにおいて振幅を半分としたものとなっている。
【0064】
分割トラックTR5においては、IDT11BとIDT11Cとの電極指19の位置関係は、分割トラックTR3におけるIDT11BとIDT11Cとの電極指19の位置関係と対称の関係となっている。従って、位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR5の振動分布のグラフは、位置B7〜C3までの範囲かつ分割トラックTR3の振動分布のグラフを、IDT11BとIDT11Cとの境界線に対して左右反転したものとなっている。
【0065】
従って、位置B1およびB3においてハッチングして示した面積と、位置C1およびC3においてハッチングして示した面積の、分割トラックTR3〜TR5の合計との差は、図3の場合と同様に、図2の場合に比較して縮小される。その結果、出力端子9Aおよび9Bに出力される平衡信号の平衡度が改善される。
【0066】
さらに、位置B7およびB9においてハッチングして示した面積の合計と、位置C1およびC3においてハッチングして示した面積の合計とは同等となる。従って、IDT11B側とIDT11C側との振動分布の非対称性に起因して生じる平衡度の低下が抑制される。
【0067】
なお、この非対称性の緩和の効果は、境界BD2の接地電極指19G(B9、C1)が設けられていない場合(この場合も本願発明に含まれる。)においても得られる。また、振幅について説明したが、出力端子9に出力される信号の位相についても同様の効果が得られると考えられる。
【0068】
以上の第1の実施形態によれば、SAW装置1は、不平衡信号が入力されるIDT11Bと、IDT11Bに対してSAWの伝搬方向D1において隣接し、不平衡信号の一方を出力するIDT11Aと、IDT11Bに対して伝搬方向D1において隣接し、不平衡信号の他方を出力するIDT11Cとを有する。各IDT11は、不平衡信号が入力されまたは平衡信号を出力する複数の信号電極指19Sと、接地された複数の接地電極指19Gとを有する。各IDTの伝搬方向D1の中央側においては、複数の信号電極指19Sと複数の接地電極指19Gとが所定の交差幅で交差する。IDT11BとIDT11Aとの境界BD1においては、IDT11Bの信号電極指19S(B1)とIDT11Aの信号電極指19S(A7)とが、所定数(1本)の接地電極指19G(A8)を挟んで、交差幅d1の交差範囲R1に亘って併設されている。IDT11BとIDT11Cとの境界BD2においては、IDT11BおよびIDT11Cの信号電極指19S(B9、C1)が、交差範囲R1の中央(L3)を越える中途位置(L4またはL2)まで延びる長さとされており、接地電極指19Gを挟まずに、交差範囲R1の中央側の一部の範囲(R2)のみにおいて交差している。
【0069】
従って、信号電極指19S間の接地電極指19Gの本数が相対的に少ない境界BD2において、信号電極指19S(B9、C1)の長さが短くされることになり、境界BD1と境界BD2との間の結合の非対称性が緩和され、平衡度が向上する。また、信号電極指19S(B9、C1)が交差範囲R1の中央側(TR4)において交差することにより、IDT11B側とIDT11C側との振動分布の非対称性も緩和され、平衡度が更に向上する。
【0070】
IDT11Bは、交差範囲R1の中央(L3)よりも手前の中途位置(L4)まで延び、先端が位置B9の信号電極指19Sの先端と対向する接地電極指19G(B9)を有する。IDT11Cは、交差範囲R1の中央よりも手前の中途位置(L2)まで延び、先端が位置C1の信号電極指19Sの先端と対向する接地電極指19G(C1)を有する。
【0071】
従って、境界BD2においては、境界BD1よりも接地電極指19Gの数が少ない結合(TR4)と、当該結合よりも接地電極指19Gの数が2本多い結合(TR3、TR5)とが組み合わされる。その結果、境界BD2における結合の強さの調整の自由度が向上し、境界BD1と境界BD2との結合を対称にすることが容易化される。さらに、信号電極指19Sと接地バスバー17Gとの隙間からのSAWの漏れ等を抑制できる。
【0072】
位置B9および位置C1の信号電極指19Sは交差範囲R1内の長さが互いに同等であり、位置B9および位置C1の接地電極指19Gは交差範囲R1内の長さが互いに同等である。従って、IDT11B側とIDT11C側との振動分布の対称性が確保されることが期待される。
【0073】
境界BD1における接地電極指19Gの数は、位置B9および位置C1の信号電極指19S間の接地電極指19Gの数(0本)よりも1本多い。また、位置B9および位置C1の信号電極指19Sの交差範囲R1内の長さと、位置B9および位置C1の接地電極指19Gの交差範囲R1内の長さとの比が3:1である。
【0074】
換言すれば、境界BD1においては、接地電極指19Gを1本挟む結合が交差幅d1に亘ってなされ、境界BD2側においては、接地電極指19Gを挟まない結合(領域R2)と、接地電極指19Gを2本挟む結合(領域R3およびR4)とが、それぞれの交差幅d1の半分で行われる。従って、信号電極指19S間の接地電極指19Gの本数は、境界BD1においては1本、境界BD2側においては、0本×0.5本+2本×0.5本=1本となる。その結果、境界BD1と境界BD2との間の対称性が確保されることが期待される。
【0075】
IDT11AおよびIDT11Cは、信号電極指19Sおよび接地電極指19Gの配置位置(A1〜A8、C1〜C8)の数が互いに等しい。IDT11Aは、IDT11Bとは反対側において、位置C1の信号電極指19Sと交差範囲R1内の長さが等しい信号電極指19S(A1)と、位置C1の接地電極指19Gと交差範囲R1内の長さが等しく、先端が位置A1の信号電極指19Sの先端と対向する接地電極指19G(A1)とを有する。
【0076】
従って、IDT11Cにおいて、位置C1の電極指19が分離されたことによる、IDT11AとIDT11Cとの間の容量の差が緩和される。その結果、一層の平衡度の向上が期待される。
【0077】
なお、以上の第1の実施形態において、SAW装置1は本発明の弾性波装置の一例であり、IDT11Bは本発明の入力IDTの一例であり、IDT11Aは本発明の第1出力IDTの一例であり、IDT11Cは本発明の第2出力IDTの一例であり、位置B9の信号電極指19Sは本発明の第1長さ電極指の一例であり、位置C1の信号電極指19Sは本発明の第2長さ電極指の一例であり、位置B9の接地電極指19Gは本発明の第3長さ電極指の一例であり、位置C1の接地電極指19Gは本発明の第4長さ電極指の一例であり、位置A1の信号電極指19Sは本発明の第5長さ電極指の一例であり、位置A1の接地電極指19Gは本発明の第6長さ電極指の一例であり、境界BD1は本発明の第1境界の一例であり、境界BD2は本発明の第2境界の一例である。
【0078】
<第2の実施形態>
図5は、本発明の第2の実施形態に係るSAW装置101を示す平面図である。
【0079】
SAW装置101のSAW素子107は、第1段のSAW素子108Aと、当該SAW素子108Aに接続された第2段のSAW素子108Bとを有している。
【0080】
第1段のSAW素子108Aは、入力端子5から不平衡信号が入力され、当該信号をフィルタリングするとともに平衡信号に変換して出力する。SAW素子108Aは、例えば、第1の実施形態のSAW素子7と同様の構成となっている。
【0081】
第2段のSAW素子108Bは、第1段のSAW素子108Aから平衡信号が入力され、当該信号をフィルタリングし、出力端子9Aおよび9Bに平衡信号を出力する。SAW素子108Bは、SAW素子108Aと同様に、縦結合ダブルモード型SAWフィルタによって構成されている。
【0082】
より具体的には、第2段のSAW素子108Bは、伝搬方向D1に配列された4つのIDT11D〜11Gを有している。IDT11Dおよび11Gは、IDT11Aおよび11Cから平衡信号が入力される。IDT11EおよびIDT11Fは、平衡信号を出力端子9に出力する。なお、IDT11Eおよび11Fは、接地バスバー17Gが共通化されており、電位の安定が図られている。
【0083】
以上の第2の実施形態によれば、第1段のSAW素子108Aは、第1の実施形態のSAW素子7と同様の構成とされていることから、第1の実施形態と同様に、平衡度の向上の効果が得られる。また、第1段のSAW素子108Aと第2段のSAW素子108Bとが接続されていることにより、フィルタ特性の向上が期待される。
【0084】
<第3の実施形態>
図6は、本発明の第3の実施形態に係るSAW装置201を示す平面図である。
【0085】
SAW装置201は、第1の実施形態のSAW装置1と同様に、縦結合ダブルモード型SAWフィルタによって構成されたSAW素子207を有している。SAW素子207は、SAW素子7と同様に、入力された不平衡信号をフィルタリングするとともに平衡信号に変換する。ただし、SAW素子7は3IDT型であったのに対し、SAW素子207は6IDT型となっている。
【0086】
具体的には、SAW素子207は、伝搬方向D1に配列された6つのIDT211A〜IDT211Fを有している。IDT211Bおよび211Eは、入力端子5から不平衡信号が入力される。IDT211Aおよび211Cは、出力端子9Aに不平衡信号の一方を出力する。IDT211Dおよび211Fは、出力端子9Bに不平衡信号の他方を出力する。なお、IDT211Cおよび211Dは、接地バスバー17Gが共通化されている。
【0087】
IDT211EとIDT211Dとの結合関係、および、IDT211EとIDT211Fとの結合関係は、第1の実施形態におけるIDT11BとIDT11Aとの結合関係と同様である。すなわち、IDT211EとIDT211Dとの境界、および、IDT211EとIDT211Fとの境界においては、信号電極指19Sが、1本の接地電極指19Gを挟んで、交差範囲R1(図1参照)に亘って交差している。
【0088】
一方、IDT211BとIDT211Aとの結合関係、および、IDT211BとIDT211Cとの結合関係は、第1の実施形態におけるIDT11BとIDT11Cとの結合関係と同様である。すなわち、IDT211BとIDT211Aとの境界、および、IDT211BとIDT211Cとの境界においては、信号電極指19Sが、接地電極指19Gを挟まずに、交差範囲R1(図1参照)の中央側の領域R2(図1参照)のみにおいて交差している。また、当該信号電極指19Sと先端同士を対向させる接地電極指19Gも設けられている。
【0089】
なお、IDT211Aおよび211Cの、IDT211Bとの境界とは反対側においては、第1の実施形態の位置A1のように、電極指19は分離されていない。ただし、第1の実施形態の位置A1と同様に、電極指19が分離されていてもよい。
【0090】
以上の第3の実施形態によれば、SAW装置201は、不平衡信号が入力されるIDT211と、平衡信号を出力するIDT211との電極指の位置関係が、第1の実施形態の位置関係と同様とされていることから、第1の実施形態と同様に、平衡度の向上の効果が得られる。
【0091】
また、SAW装置201は、不平衡信号が入力されるIDT211と、平衡信号を出力するIDT211との境界を複数有し、その全てにおいて、第1の実施形態の境界における電極指の位置関係と同様の位置関係が設定されていることから、一部の境界においてのみ第1の実施形態の位置関係が設定されている場合(この場合も本願発明に含まれる)に比較して、平衡度の向上が期待される。
【0092】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0093】
弾性波装置は、SAW装置に限定されない。例えば、弾性波装置は、弾性境界波装置(広義のSAW装置に含まれる)であってもよい。
【0094】
第2の実施形態において例示したように、複数のIDTがSAWの伝搬方向に配列された縦結合型のSAW素子は、入力側もしくは出力側に、共振子もしくは他のフィルタが接続されていてもよい。また、入力側(5)と出力側(9)とは、SAW素子を挟んで反対側とされず、伝搬方向に直交する方向(D2)の同一側とされてもよい。逆に、2つの出力側(9A、9B)は、SAW素子を挟んで反対側とされてもよい。
【0095】
第3の実施形態において例示したように、SAWの伝搬方向に配列されるIDTの数は、適宜に設定されてよい。例えば、SAW素子は、不平衡信号が入力される2つのIDTと、平衡信号を出力する2つのIDTを有する4IDT型であってもよいし、不平衡信号が入力される3つのIDTと、平衡信号を出力する2つのIDTを有する5IDT型であってもよいし、不平衡信号が入力される3つのIDTと、平衡信号を出力する4つのIDTを有する7IDT型であってもよい。
【0096】
入力IDT(11B)と第1出力IDT(11A)との境界(BD1)において信号電極指に挟まれる接地電極指の数と、入力IDT(11B)と第2出力IDT(11C)との境界(BD2)において信号電極指に挟まれる接地電極指の数との組み合わせは、1本および0本に限定されない。本数差は1本に限定されないし、奇数本が偶数本よりも大きくなくてもよい。例えば、3本および2本でもよいし、2本および1本でもよいし、3本および0本でもよい。接地電極指は、入力IDTおよび出力IDTのいずれに設けられていてもよいし、双方に設けられていてもよい。入力IDTと第1出力IDTとの境界における2つの信号電極指は互いに同一の方向に延びていてもよい。
【0097】
第1長さ電極指(19S、B9)および第2長さ電極指(19S、C1)の長さは、互いに異なっていてもよいし、また、これらの交差幅は、他の大多数の電極指の交差幅(d1)の1/2に限定されない。これら電極指の長さは、結合の対称性が確保されるように、適宜に設定されてよい。これら電極指と対向する第3長さ電極指(19G、B9)および第4長さ電極指(19G、C1)についても同様である。
【0098】
理論的には、実施形態のように、第1長さ電極指および第2長さ電極指の交差幅(d2)は、大多数の電極指の交差幅(d1)の1/2が好ましく、また、第3長さ電極指および第4長さ電極指の交差幅(d3、d4)は、それぞれ、大多数の電極指の交差幅(d1)の1/4が好ましい。しかし、実際の製品においては、種々の事情を考慮した微調整がなされたほうが、平衡度が向上することがある。このような微調整は、例えば、大多数の電極指の交差幅(d1)の1/8程度の長さ以内で行われる。従って、第1長さ電極指および第2長さ電極指の交差幅(d2)は、大多数の電極指の交差幅(d1)の3/8〜5/8の範囲内であることが好ましい。また、第3長さ電極指および第4長さ電極指の交差幅(d3、d4)も、これと対応する範囲(5/16〜3/16)内であることが好ましい。なお、弾性波の半波長の相違が本願においては無視されて言及されることは、実施形態において述べたとおりである。
【0099】
第5長さ電極指(19S、A1)および第6長さ電極指(19G、A1)は、設けられなくてもよい。また、これらの電極指が設けられる位置は、最外電極指位置に限定されない。入力IDT(11B)と第1出力IDT(11A)との境界からある程度離れ、当該境界における結合に及ぼす影響がある程度低い位置であればよい。例えば、第1出力IDT(11A)の、入力IDT(11B)とは(伝搬方向の中央よりも)反対側であればよい。
【0100】
IDTには、バスバーから交差範囲(R1)に到達しない長さで突出するダミー電極指が設けられてもよい。第3長さ電極指および第4長さ電極指に代えて、電気的に浮遊状態(信号線に接続されず、接地もされない)の電極指が配置されてもよい。伝搬方向に配列されたバスバー間には、電気的に浮遊状態のダミーバスバーが設けられてもよい。交差範囲R1とバスバーとの隙間は、接地側と信号側とで同一でなくてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1…SAW装置、11A…IDT(第1出力IDT)、11B…IDT(入力IDT)、11C…IDT(第2出力IDT)、19S…信号電極指、19G…接地電極指、d1…交差幅、D1…伝搬方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不平衡信号が入力される1または複数の入力IDTと、
前記入力IDTのいずれかに対して弾性波の伝搬方向において隣接し、不平衡信号の一方を出力する第1出力IDTと、
前記入力IDTのいずれかに対して前記伝搬方向において隣接し、不平衡信号の他方を出力する第2出力IDTと、
を有し、
各IDTは、前記不平衡信号が入力されまたは前記平衡信号を出力する複数の信号電極指と、接地された複数の接地電極指とを有し、
各IDTの前記伝搬方向の中央においては、前記信号電極指と前記接地電極指とが所定の交差幅で交差し、
前記入力IDTと前記第1出力IDTとの第1境界においては、前記入力IDTの信号電極指と前記第1出力IDTの信号電極指とが、所定数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲に亘って併設されており、
前記入力IDTと前記第2出力IDTとの第2境界においては、前記入力IDTおよび第2出力IDTの信号電極指が、前記交差幅の範囲の中央を越える当該範囲の中途位置まで延びる第1長さ電極指および第2長さ電極指とされており、前記第1長さ電極指と前記第2長さ電極指とが接地電極指を挟まずにまたは前記所定数よりも少ない本数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲の中央側の一部の範囲のみにおいて交差している
弾性波装置。
【請求項2】
前記入力IDTは、前記第2境界において、前記交差幅の範囲の中央よりも手前の当該範囲の中途位置まで延び、先端が前記第1長さ電極指の先端と対向する接地電極指である第3長さ電極指を有し、
前記第2出力IDTは、前記第2境界において、前記交差幅の範囲の中央よりも手前の当該範囲の中途位置まで延び、先端が前記第2長さ電極指の先端と対向する接地電極指である第4長さ電極指を有する
請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指は前記交差幅の範囲内の長さが互いに同等であり、
前記第3長さ電極指および前記第4長さ電極指は前記交差幅の範囲内の長さが互いに同等である
請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記所定数は、前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指に挟まれる接地電極指の本数(0含む)よりも1多い数であり、
前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指の前記交差幅の範囲内の長さと、前記第3長さ電極指および前記第4長さ電極指の前記交差幅の範囲内の長さとの比が3:1である
請求項3に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第1出力IDTおよび第2出力IDTは、信号電極指および接地電極指の配置位置の数が互いに等しく、
前記第1出力IDTは、前記入力IDTとは反対側において、
信号電極指であり、前記第2長さ電極指と前記交差幅の範囲内の長さが等しい第5長さ電極指と、
接地電極指であり、前記第4長さ電極指と前記交差幅の範囲内の長さが等しく、先端が前記第5長さ電極指の先端と対向する第6長さ電極指と
を有する
請求項2〜4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記第1出力IDTおよび前記第2出力IDTはそれぞれ1または複数設けられ、
前記入力IDTと前記第1出力IDTとの境界は複数あり、その全てにおいて、前記入力IDTの信号電極指と前記第1出力IDTの信号電極指とが、前記所定数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲に亘って併設されており、
前記入力IDTと前記第2出力IDTとの境界は複数あり、その全てにおいて、前記第1長さ電極指および前記第2長さ電極指とが、接地電極指を挟まずにまたは前記所定数よりも少ない本数の接地電極指を挟んで、前記交差幅の範囲の中央側の一部の範囲のみにおいて交差している
請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−129921(P2012−129921A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281675(P2010−281675)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】