説明

弾性継手

【課題】弾性継手の動ばね定数を低減する。
【解決手段】駆動側接続素子12と従動側接続素子14とが、それぞれ複数個、同一円周上に交互に配置され、隣り合う接続素子の間に繊維コード34を巻き付けることにより繊維コード束20,22を架け渡し、これら接続素子と繊維コード束をゴム状弾性材24に埋設してなる弾性継手10において、繊維コード34として、合成繊維フィラメント束を下撚りしてなる複数本の下撚糸36を、該下撚糸の撚り方向と逆方向に45回/10cm以上の上撚り数で撚り合わせてなる撚糸を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車等において駆動軸と従動軸との間に介設されて、両者間の振動や捩れ等を吸収しながら回転トルクを伝達するのに使用される弾性継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のドライブシャフト、プロペラシャフト等の動力伝達部分には、駆動軸から従動軸に回転トルクを伝達するためのカップリングとして、振動減衰機能を持つ弾性継手(フレキシブルカップリング)が使用されている。
【0003】
このような弾性継手として、駆動軸に接続される円筒状の駆動側接続素子と、従動軸に接続される円筒状の従動側接続素子とが、それぞれ複数個、同一円周上に交互に配置され、隣り合う駆動側接続素子と従動側接続素子との間に無端状の繊維コード束が巻き掛けられて、これら接続素子と繊維コード束がゴム状弾性材に埋設されてなるものが知られている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
【0004】
従来、上記繊維コード束を構成する繊維コードとしては、通常2本の単糸を撚り合わせた双糸が使用されており、該双糸として上撚り数及び下撚り数ともに30〜40回/10cm程度のものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4114056号公報
【特許文献2】特開2009−264554号公報
【特許文献3】特開2010−1926号公報
【特許文献4】特開2010−25282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近の自動車の高出力化、高性能化に伴い、弾性継手には、より高い回転トルクを伝達することが要求されている。高いトルク伝達のためには、繊維コードの巻き数を増やす必要があるが、巻き数を増やすと防振性能が悪化するという背反がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、防振性能を向上することができる弾性継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、弾性継手に用いる繊維コードの撚り数を増やすことにより、弾性継手の高周波数領域での動ばね定数を低減できることを見い出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明に係る弾性継手は、駆動軸に接続される駆動側接続素子と、従動軸に接続される従動側接続素子とが、それぞれ複数個、同一円周上に交互に配置され、隣り合う駆動側接続素子と従動側接続素子との間に繊維コードを巻き付けることにより隣り合う各接続素子の間に繊維コード束が架け渡されて、前記駆動側及び従動側の接続素子と繊維コード束がゴム状弾性材に埋設されてなる弾性継手において、前記繊維コードとして、合成繊維フィラメント束を下撚りしてなる複数本の下撚糸を、該下撚糸の撚り方向と逆方向に45回/10cm以上の上撚り数で撚り合わせてなる撚糸を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の弾性継手によれば、繊維コードとして用いる撚糸の上撚り数を、従来に比べて高く設定したことにより、高周波数領域での動ばね定数を低減することができ、従って、防振性能を向上することができる。そのため、例えば、高いトルク伝達を可能にするために繊維コードの巻き数を増やした場合に、動ばね定数の悪化を抑えることができるので、高いトルク伝達性能と防振性能を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る弾性継手の正面図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】図1のIII−III線の断面図である。
【図4】図1のIV−IV線の断面図である。
【図5】繊維コードの一部拡大図である。
【図6】実施例及び比較例の動ばね特性を示すグラフである。
【図7】実施例及び比較例の繊維コード引張強さ及び動ばね定数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1〜4に実施形態に係る弾性継手10を示している。この弾性継手10は、自動車のドライブシャフトなどの駆動軸と従動軸との連結部材に介装されるものであり、駆動側接続素子12が駆動軸に取り付けられる一方、従動側接続素子14が従動軸に取り付けられることにより、振動を吸収しながら駆動軸から従動軸へ回転トルクを伝達するためのカップリングである。
【0014】
駆動側接続素子12と従動側接続素子14は円筒状の部材であり、これらはそれぞれ3個ずつが同一円周上に等間隔をなして交互に配置されている。詳細には、これら接続素子12,14は、各軸心が互いに平行で、かつ上記円の中心と軸平行に配列されている。駆動側接続素子12と従動側接続素子14は、ともに同一の構造であって、アルミニウムやその合金等のアルミ系金属などの金属製又は樹脂製のカラー16と、該カラー16の内周に締り嵌め状態に圧入された鉄などの金属製の内筒18とからなり、これら内筒18が駆動軸の端部および従動軸の端部に接続されるように構成されている。カラー16の外周面には、後述する繊維コード束20,22を所定の位置および巻き掛け状態に収納保持できるように複数のフランジ16Aが突設されている。
【0015】
隣り合う駆動側接続素子12と従動側接続素子14との間には、ポリエステル繊維等の合成繊維よりなる繊維コードを多層多列にループ状に巻き付けることにより形成した補強のための無端状の繊維コード束20,22が巻き掛けられている。
【0016】
詳細には、3個の各駆動側接続素子12と、その駆動時の回転方向Rの後方側に隣り合う従動側接続素子14との間に、それぞれ無端状の駆動側繊維コード束20が架け渡されている。また、3個の各駆動側接続部材12と、その駆動時の回転方向Rの前方側に隣り合う従動側接続部材14との間に、それぞれ無端状の従動側繊維コード束22が架け渡されている。
【0017】
ここで、回転方向Rとは、車両発進等による駆動開始時や通常の駆動回転時における弾性継手10の回転方向である。弾性継手10では、かかる駆動時において、各駆動側接続素子12とその回転方向R後方側の従動側接続素子14との間に大きい引張り力が作用するので、その間に架け渡された駆動側繊維コード束20のコード本数つまりコード束の断面積が、もう一方の従動側繊維コード束22のコード本数つまりコード束の断面積よりも大きく設定されている。
【0018】
本実施形態では、カラー16の外周面に設けられたフランジ16Aによって、駆動側繊維コード束20は各接続素子12,14の軸方向中央部に、従動側繊維コード束22は各接続素子12,14の軸方向両端部に、それぞれ区分して、カラー16の外周面上に巻き掛けられている。
【0019】
上記各駆動側接続素子12と各従動側接続素子14と駆動側繊維コード束20と従動側繊維コード束22は、少なくとも各接続素子12,14の内孔部、つまりは上記内筒18の内孔部が外部に露出するように、ゴム状弾性材24の成形(ここでは、ゴムの加硫成形)により、該ゴム状弾性材24内に埋設されている。
【0020】
すなわち、ゴム状弾性材24は、所定の成形型内に各接続素子12,14をセットし、更にこれらの接続素子12,14間に繊維コード束20,22を巻き掛けた後、あるいは、各接続素子12,14間に繊維コード束20,22を巻き掛けてから所定の成形型内にセットした後に、かかる成形型にゴム材料を注入して加硫することにより、一体に加硫成形される。
【0021】
弾性継手10は、図4に示すように断面略矩形であり、かつ、図1に示すように正面から見て(即ち、弾性継手の軸心方向視で)略多角形(ここでは、略六角形)の環状をなすように一体に形成されている。詳細には、弾性継手10は、各接続素子12,14の埋設部分を頂点とする六角形状の外周面26と、各接続素子12,14の埋設部分を頂点とする六角形状の内周面28とを有しており、これにより略六角形の環状をなしている。この例では、より詳細には、外周面26は、上記六角形の頂点に相当する角部が湾曲面状に丸みを帯びて形成されている。
【0022】
隣り合う各接続素子12,14の間のゴム状弾性材24の中間部には、該ゴム状弾性材24の弾性変形に対する表面の自由長を稼ぎかつ冷却効果を向上させることで耐久性を向上させるために、弾性継手の軸心方向(厚み方向)に陥没する穴抜き部30が、図2〜4に示すように軸心方向一端側に薄膜32を残存させて形成されている。
【0023】
本実施形態の弾性継手10では、上記繊維コード束20,22を構成する繊維コード34として、合成繊維フィラメント束を下撚りしてなる2本の下撚糸36,36を、45回/10cm以上の上撚り数で撚り合わせてなる撚糸が用いられている(図5参照)。該撚糸は、同方向に下撚りした2本の下撚糸36,36を引き揃え、該下撚糸36の撚り方向と逆方向の上撚りにより撚り合わせることで形成された双糸である。具体的には、下撚糸36は、合成繊維フィラメントの束を左撚り(Z撚り)したものであり、繊維コード34は、2本の下撚糸36,36を右撚り(S撚り)してなる。このように下撚りと上撚りを逆方向にすることにより、繊維コード34の捩れ等を防ぐことができる。なお、繊維コード34を構成する下撚糸の本数としては、コスト及び性能面から図示のように2本が好ましいが、3本以上としてもよい。
【0024】
該繊維コード34では、上記のように上撚り数を45回/10cm以上に設定することが肝要である。一般に、フィラメント糸では、撚り数の増加に伴い引張り強さが低下するので、従来、高いトルク伝達性能が要求される弾性継手に用いる繊維コードにおいて、撚り数をこのように大きく設定することは考えられていなかった。本発明者は、かかる技術常識に対して、上撚り数を45回/10cm以上に増やすことにより、繊維コードの引張り強さの低減量以上に、弾性継手の捩り方向(回転方向R)での動ばね定数を低減できることを見い出した。このように動ばね定数を低減できるのは、繊維コードが引っ張られたときに、撚り数が増えた分だけ繊維が動くことによるヒステリシスロスが増加するためと考えられる。上撚り数は、動ばね定数の低減効果の点より、48回/10cm以上であることがより好ましい。上撚り数の上限については、上記繊維コード34の機能を考えると、引張り方向の荷重(弾性継手10での回転トルク)に対して、引張り強さが高く、適度に伸びることが望ましい。撚り数を増加させることで、伸びは増すが、撚りすぎるとそれ以上は伸びなくなり、引張り強さが低下する。また、撚りすぎると、動ばね定数の低減効果も鈍化する傾向となる。そのため、これらのバランスより、上撚り数は55回/10cm以下であることが好ましく、より好ましくは52回/10cm以下である。
【0025】
繊維コード34の下撚り数(即ち、下撚糸36の撚り数)についても、45回/10cm以上であることが好ましく、このように撚り数を高く設定することにより、動ばね定数の低減効果を向上することができる。下撚り数の下限は、より好ましくは48回/10cm以上である。下撚り数の上限は、55回/10cm以下であることが好ましく、より好ましくは52回/10cm以下である。下撚り数と上撚り数は、スナールの発生を低減するために、同一に設定することが好ましく、すなわち、上撚り数と下撚り数の差を2回/10cm以下に設定することが好ましい。
【0026】
繊維コード34を構成する合繊繊維フィラメントの種類としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル繊維を用いることが特に好ましい。
【0027】
繊維コード34を構成する下撚糸36の繊度としては、弾性継手での高いトルク伝達性能を発揮するために、1000〜2000tex(テックス)であることが好ましい。また、これを撚り合わせてなる撚糸(繊維コード34)の繊度としては、2000〜4200texであることが好ましい。また、繊維コード34の外径(太さ)としては、0.4〜1.0mmであることが好ましい。
【0028】
繊維コード34は、その撚糸表面における糸軸Sに対する撚り角度θが30°〜60°であることが好ましい。ここで、撚り角度θは、任意の10箇所で測定した撚り角度の平均値である。このような撚り角度θに設定することにより、引張り強さの低下を抑えつつ、弾性継手での動ばね定数の低減効果を向上することができる。すなわち、撚り角度θが30°未満では、動ばね定数の低減効果が不十分となるおそれがあり、逆に撚り角度θが60°超では、引張り強さの低下が大きくなりすぎるおそれがある。撚り角度θは、45°〜55°であることがより好ましい。なお、撚り角度θは、撚り合わせる下撚糸36の太さ(繊度)と撚り数により設定され、同じ繊度であれば撚り数が多いほど撚り角度θは大きく、同じ撚り数であれば繊度が大きいほど撚り角度θは大きくなる。
【0029】
隣り合う駆動側接続素子12と従動側接続素子14との間に巻き掛ける繊維コード34の巻き数としては、特に限定されるものではないが、駆動側繊維コード束20では180〜200回であることが好ましく、従動側繊維コード束22では120〜140回であることが好ましい。上記のように繊維コード34の撚り数を増やすことにより弾性継手の動ばね定数を低減することができるので、高いトルク伝達を可能にするべく、従来よりも巻き数を増やしたとしても、防振性能の悪化を防ぐことができ、従って、高い回転トルクに対する耐久性と防振性能との両立を図ることができる。
【0030】
上記実施形態の弾性継手10について、繊維コード34の上撚り数及び下撚り数を、下記表1に示すように変更して、実施例及び比較例の弾性継手を試作した。繊維コード34は、ポリエステル繊維フィラメントからなるフィラメント束を、表1に示す下撚り数にて下撚りし、得られた下撚糸を2本引き揃えて、表1に示す上撚り数にて下撚りと逆方向に上撚りすることにより作製した(繊維コードの外径(太さ)は約0.7mm)。得られた繊維コードについて、撚り角度θを測定するとともに、引張り強さ及び破断伸びを測定した。また、該繊維コードを用い、表1に示す巻き数にて、図1〜4に示す弾性継手10を作製した。得られた弾性継手について、動ばね定数を測定した。各測定方法は以下の通りである。
【0031】
・引張り強さ、破断伸び:引張試験機に繊維コードをセットし、標点間距離20mm、引張速度30±2cm/分で該繊維コードを引っ張ることにより測定した。
【0032】
・動ばね定数:弾性継手に対して、捩り方向に一定加速度5Gを付与して、15〜500Hzの周波数帯にて動ばね定数を測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
結果は、表1及び図6,7に示す通りである。上撚り数及び下撚り数をともに40回/10cmとした比較例1に対し、撚り数を増やした実施例1〜3であると、100Hzという高周波数領域での動ばね定数が低減しており、防振性能が向上していた。特に、上撚り数及び下撚り数をともに50回/10cmとした実施例2では、比較例1に対して、繊維コード一本当たりの引張り強さの低下を5%程度に抑えつつ、動ばね定数が10%も低減されていた。
【0035】
図6に示すように、実施例2と比較例1について、100〜500Hzの動ばね定数を比較したところ、そのほぼ全域にわたって動ばね定数が10%程度低減していた。一方で、繊維コード一本当たりの引張り強さは上記のように5%程度低下したものの、弾性継手に回転方向Rでの高トルク(±1500Nm)を2Hzにて繰り返し加えて耐久性を評価したところ、弾性継手としての耐久性は、比較例1と同等レベルであり、従って、耐久性を損なうことなく、防振効果が高められていた。
【0036】
なお、上記実施形態では、弾性継手10を、3個の駆動側接続素子12と3個の従動側接続素子14との合計6個の接続素子で構成したが、接続素子の数はこれに限定されるものではなく、例えば、4個の駆動側接続素子と4個の従動側接続素子との合計8個の接続素子で構成してもよい。接続素子を6個から8個に増やすことにより、外径を大きくすることなく、高い回転トルクに対する耐久性を向上することができるので、高いトルク伝達性能と防振性能を更に高レベルで両立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、自動車のドライブシャフト、プロペラシャフト等の動力伝達部分において、駆動軸から従動軸に回転トルクを伝達するための振動減衰機能を持つカップリングとして特に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0038】
10…弾性継手 12…駆動側接続素子 14…従動側接続素子
20…駆動側繊維コード束 22…従動側繊維コード束 24…ゴム状弾性材
34…繊維コード 36…下撚糸 R…回転方向
S…糸軸 θ…撚り角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に接続される駆動側接続素子と、従動軸に接続される従動側接続素子とが、それぞれ複数個、同一円周上に交互に配置され、隣り合う駆動側接続素子と従動側接続素子との間に繊維コードを巻き付けることにより隣り合う各接続素子の間に繊維コード束が架け渡されて、前記駆動側及び従動側の接続素子と繊維コード束がゴム状弾性材に埋設されてなる弾性継手において、
前記繊維コードとして、合成繊維フィラメント束を下撚りしてなる複数本の下撚糸を、該下撚糸の撚り方向と逆方向に45回/10cm以上の上撚り数で撚り合わせてなる撚糸を用いたことを特徴とする弾性継手。
【請求項2】
前記繊維コードの下撚り数が45回/10cm以上であることを特徴とする請求項1記載の弾性継手。
【請求項3】
前記撚糸の表面における糸軸に対する撚り角度が30°〜60°であることを特徴とする請求項1又は2記載の弾性継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102770(P2012−102770A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250063(P2010−250063)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】