説明

弾性繊維用処理剤および弾性繊維

【課題】 本発明の目的は、低粘度であっても、優れた解舒性を付与できる弾性繊維用処理剤および該処理剤が付与されている弾性繊維を提供することである。
【解決手段】 本発明の弾性繊維用処理剤は、シリコーン油、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(A)を含有し、さらに、一般式(1)で示されるシロキサンおよび一般式(2)で示されるシロキサンから選ばれる少なくとも1種の低分子量シロキサン(B)を含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性繊維用処理剤および弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の弾性繊維用処理剤は、ベース成分として、シリコーン油、鉱物油およびエステル油などを用いている。最近、弾性繊維を生産する際の紡糸速度が高速化してきており、また最近の弾性繊維の要求性能から細De化が進んできたため、オイリング時にローラーやノズルに糸が取られて糸切れする問題があり、これを解決するために粘度の低い処理剤成分を用いることが多くなっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、25℃における粘度が100mm/s以下のジオルガノポリシロキサンと5000〜1500mm/sのジオルガノポリシロキサンを85〜95:15〜5の割合で混合した成分を40重量%以上使用した弾性繊維用油剤が記載されている。特許文献2には、鉱物油又はポリジオルガノシロキサンとアミノ変性シリコーンよりなるポリウレタン弾性繊維用油剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−104283号公報
【特許文献2】特開昭61−97471号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された油剤を用いた場合、Cheeseとした後に、糸と糸の間に油剤がとどまらず排除されるために、経時によって膠着が進み、解舒性が悪くなる問題がある。また、低い粘度の鉱物油やエステル油を用いた場合、弾性繊維が膨潤してしまい、本来の性能が発揮されないといった問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低粘度であっても、優れた解舒性を付与できる弾性繊維用処理剤および該処理剤が付与されている弾性繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ベース成分(A)と特定の低分子量シロキサン(B)を含有する弾性繊維用処理剤であれば、オイリング時の粘度を下げ、Cheeseとした後に該低分子量シロキサンが蒸発して糸表面の処理剤粘度が上昇し、その結果、糸と糸の間に処理剤が留まり易くなるため、経時後も解舒性が優れていることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、シリコーン油、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(A)を含有する弾性繊維用処理剤であって、さらに、下記一般式(1)で示されるシロキサンおよび下記一般式(2)で示されるシロキサンから選ばれる少なくとも1種の低分子量シロキサン(B)を含有するものである。
【0009】
【化1】

(式(1)中、mは1〜4の整数を示す。)
【0010】
【化2】

(式(2)中、nは3〜6の整数を示す。)
【0011】
前記処理剤全体に占める前記低分子量シロキサン(B)の重量割合は0.001〜50重量%であることが好ましい。
また、前記処理剤の粘度(25℃)は3〜20mm/sであることが好ましい。
前記処理剤全体に占める前記ベース成分(A)の重量割合は40〜99.99重量%であることが好ましい。
【0012】
前記ベース成分(A)のシリコーン油の粘度(25℃)は5mm/s以上50mm/s未満であることが好ましい。また、本発明の処理剤は、粘度(25℃)が50mm/s以上であるオルガノポリシロキサンおよび/またはアミノ変性シリコーンからなる成分(C)をさらに含有し、前記処理剤全体に占める前記成分(C)の重量割合が0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の弾性繊維は、弾性繊維本体に、前記の弾性繊維用処理剤が0.1〜15重量%付与されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の弾性繊維用処理剤は、低粘度であっても優れた解舒性を弾性繊維に与えることができる。本発明の弾性繊維は、本発明の弾性繊維用処理剤が付与されているので、優れた解舒性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ローラー静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図2】編成張力の測定方法及び静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図3】繊維間摩擦係数の測定方法を説明する模式図。
【図4】解舒速度比の測定方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の弾性繊維用処理剤は、ベース成分(A)を含有し、さらに、特定の低分子量シロキサン(B)を含有する弾性繊維用処理剤である。以下、詳細に説明する。
【0017】
[ベース成分(A)]
本発明のベース成分(A)は、シリコーン油、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種である。従って、ベース成分として、1種または2種以上を併用してもよい。
前記処理剤全体に占める前記ベース成分(A)の重量割合は、40〜99.99重量%が好ましく、50〜99重量%がより好ましく、70〜95重量%がさらに好ましい。40重量%未満の場合、糸の平滑性が不足することがある。
【0018】
シリコーン油としては、特に限定はないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルフェニルシロキサン等を挙げることができる。1種または2種以上を併用してもよい。
シリコーン油の数平均分子量は、700以上が好ましく、800〜4000がより好ましく、1000〜3000がさらに好ましい。シリコーン油の粘度(25℃)は、5mm/s以上50mm/s未満が好ましく、6〜40mm/sがより好ましく、9〜30mm/sがさらに好ましい。
シリコーン油のシロキサン結合(SiOR:R、Rは有機基を示す)の結合量は、10〜55が好ましく、12〜45がより好ましく、14〜40がさらに好ましい。
ベース成分全体に占めるシリコーン油の割合は、50重量%以上が好ましく、55重量%以上がより好ましく、60重量%以上がさらに好ましい。50重量%未満の場合、低分子シロキサンとの相溶性が悪くなることがある。
【0019】
鉱物油としては、特に限定はないが、マシン油、スピンドル油、流動パラフィン等を挙げることができる。これらの中でも、鉱物油としては、臭気の発生が低いという理由から、流動パラフィンが好ましい。鉱物油は、1種または2種以上を併用してもよい。
鉱物油の粘度(25℃)は、5mm/s以上が好ましく、5〜50mm/sがより好ましく、5〜30mm/sがさらに好ましい。粘度(25℃)が5mm/s未満であると、糸を膨潤させることがあり、好ましくない。
ベース成分全体に占める鉱物油の割合は、特に限定はないが、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。鉱物油が50重量%超であると低分子シロキサンとの相溶性が悪くなることがある。
【0020】
エステル油としては、特に限定はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルを挙げることができる。エステル油としては、たとえば、下記から選ばれる脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルを例示できるが、下記脂肪酸やアルコールを原料としないエステルであってもよい。エステル油は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0021】
脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級脂肪酸であってもよく、環状の脂肪酸であってもよく、芳香族環を含有する脂肪酸であってもよい。前記脂肪酸としては、たとえば、カプリル酸、2−エチルヘキシル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセレン酸、アジピン酸、セバチン酸、安息香酸等が挙げられる。
アルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級アルコールであっても、環状のアルコールであっても、芳香族環を含有するアルコールであっても良い。前記アルコールとしては、たとえば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール、ソルビトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0022】
エステル油の粘度(25℃)は、5mm/s以上が好ましく、5〜50mm/sがより好ましく、5〜30mm/sがさらに好ましい。粘度(25℃)が5mm/s未満であると、糸を膨潤させることがあり、好ましくない。
ベース成分全体に占めるエステル油の割合は、特に限定はないが、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。エステル油が50重量%超であると、低分子シロキサンとの相溶性が悪くなることがある。
【0023】
[低分子量シロキサン(B)]
本発明の処理剤は、上記一般式(1)で示されるシロキサンおよび上記一般式(2)で示されるシロキサンから選ばれる少なくとも1種の低分子量シロキサン(B)を必須に含有する。これら低分子量シロキサンは、1種または2種以上を併用してもよい。
上記ベース成分(A)に加え、低粘度で平滑性のよい低分子量シロキサン(B)を含有することにより、処理剤粘度の低下を図れ、オイリングローラーや給油ノズルでの摩擦を低減して糸切を防ぐことができる。それと共に、Cheeseとなった後、低分子量シロキサン(B)が不純物として残らずに揮発または分解揮発するので、糸表面上の処理剤の粘度は高くなり、Cheeseとした後の解舒性を良好に保ち、さらに処理剤の移行による内層でのべたつきやスカム発生を抑制することができる。
揮発性溶剤として、粘度(25℃)が5mm/s未満のような鉱物油やエステル油などの低粘度の炭化水素系有機溶剤を用いると、平滑性の低下、糸の膨潤を引き起こすことがある。また、これらは人体に対する毒性を有する場合がある。しかし、本発明の低分子量シロキサン(B)は臭気が少なく、人体に対する安全性も高い。さらに、平滑性の低下や糸を膨潤させることもない。
【0024】
前記処理剤全体に占める低分子量シロキサン(B)の重量割合は、0.001〜50重量%が好ましく、0.01〜40重量%がより好ましく、0.1〜20重量%がさらに好ましく、0.1〜10重量%が特に好ましい。50重量%超の場合、揮発量が多すぎるために、糸上に残存する処理剤が少なくなり、性能が発揮されないことがある。
【0025】
上記一般式(1)で示されるシロキサンは、鎖状の低分子量シロキサンである。式(1)中、mは1〜4の整数を示し、揮発性の点から2〜4が好ましい。mが4超の場合、十分な揮発性が得られないことがある。
上記一般式(2)で示されるシロキサンは、環状の低分子量シロキサンである。一般的に環状シロキサンとしては、シロキサン結合(SiOR:R、Rは有機基を示す)の結合量が3〜20の環状シロキサンD(nは結合量を示す整数)が挙げられるが、本発明の処理剤では、ジメチルシロキサン(SiO(CH)の3〜6量体である環状の低分子量シロキサン(D〜D)を用いる。従って、式(2)中、nは3〜6の整数を示す。揮発性の点から、nは4〜5が好ましい。
【0026】
低分子量シロキサン(B)としては、分子中のSiの数が同一の場合、一般式(2)で示される環状シロキサンの方が、一般式(1)で示されるシロキサンよりも揮発性が大きくなるという理由から、一般式(2)で示されるシロキサンが好ましい。
【0027】
低分子量シロキサン(B)の数平均分子量は、500以下が好ましく、200〜400がより好ましく、200〜300がさらに好ましい。数平均分子量が500超の場合、揮発性が小さくなることがある。
低分子量シロキサン(B)の粘度(25℃)は、0.5〜4.5mm/sが好ましく、1〜4mm/sがより好ましく、2〜4mm/sがさらに好ましい。
【0028】
[成分(C)]
本発明の処理剤は低分子量シロキサン(B)の揮発後に糸と糸の間に処理剤を留まらせやすくするという理由から、粘度(25℃)が50mm/s以上であるオルガノポリシロキサンおよび/またはアミノ変性シリコーンからなる成分(C)をさらに含有することが好ましい。
また、処理剤全体に占める成分(C)の重量割合は、0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜8重量%がより好ましく、0.1〜5重量%がさらに好ましい。
【0029】
粘度(25℃)が50mm/s以上のオルガノポリシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。
成分(C)のオルガノポリシロキサンの粘度(25℃)は50mm/s以上であるが、50〜100000mm/sが好ましく、50〜50000mm/sがより好ましく、50〜10000mm/sがさらに好ましく、50〜5000mm/sが特に好ましい。
成分(C)のオルガノポリシロキサンの数平均分子量は、4500〜100000が好ましく、5000〜50000がより好ましく、5500〜40000がさらに好ましい。
成分(C)のオルガノポリシロキサンは、そのシロキサン結合(SiOR:R、Rは有機基を示す)の結合量が60〜2000のオイル状のものであってもよく、5000〜10000のゴム状のものであってもよい。解舒性の点からは、ゴム状のものが好ましく、その結合量は5000〜9000がより好ましく、6000〜8000がさらに好ましい。
【0030】
粘度(25℃)が50mm/s以上のアミノ変性シリコーンとしては、下記一般式(3)で表わされるアミノアルキル基含有オルガノポリシロキサンが好ましい。
(RSiO−[(RSiO]−[(R)SiO]−SiR(R (3)
【0031】
式(3)中、RはHN(CH−、1価炭化水素基、およびアルコキシ基から選択される基を示す。Rは1価炭化水素基又はアルコキシ基、Rは1価炭化水素基、HN(CH−、およびHN(CHNH(CH−から選択される基を示す。RはHN(CH−、1価炭化水素基、およびアルコキシ基から選択される基を示す。kは5〜10000の正数、lは0もしくは0.1〜400の正数を示す。式(3)中の−[(RSiO]−と、−[(R)SiO]−とは両基の結合位置関係を示すものではなく、単に分子中の両基の平均付加モル数を示すものである。従って、両基はランダムに結合していてもよくまたブロック状に結合していてもよい。式(3)中、R、R、Rはそのうちの少なくとも一つ以上はHN(CH−および/またはHN(CHNH(CH−である。Rは、HN(CH−、メチル基、メトキシ基が好ましい。Rはメチル基、メトキシ基が好ましい。Rはメチル基、HN(CH−、HN(CHNH(CH−が好ましい。RはHN(CH−、メチル基、メトキシ基が好ましい。kとlの総和が5未満では、揮発性が問題となることがあり、kが10,000を超え、且つlが400を超える場合は、処理剤の粘度が高くなり、平滑性に悪影響を及ぼすことがある。
【0032】
成分(C)のアミノ変性シリコーンの粘度(25℃)は50mm/s以上であるが、50〜30000mm/sが好ましく、100〜20000mm/sがより好ましく、200〜10000mm/sがさらに好ましい。粘度が50mm/s未満では膠着防止性が発揮されない場合がある。
また、成分(C)のアミノ変性シリコーンのアミン価は、0.1〜200(KOHmg/g)の範囲にあるものが好ましく、1〜160(KOHmg/g)がより好ましく、1〜50(KOHmg/g)がさらに好ましい。アミン価が0.1(KOHmg/g)未満では、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止の効果が不十分となることがあり、200(KOHmg/g)を超えると、分散媒体への溶解性が悪くなることがある。
成分(C)のアミノ変性シリコーンのアミノ当量としては、200〜1000000(g/mol)の範囲にあるものが好ましく、4000〜100000(g/mol)がより好ましく、400〜60000(g/mol)がさらに好ましい。
【0033】
[その他成分]
本発明の弾性繊維用処理剤は、解舒性、平滑性、および制電性の効果を高めるために、高級脂肪酸の金属塩(金属石鹸)をさらに含有していてもよい。本発明の弾性繊維用処理剤全体に占める高級脂肪酸の金属塩の重量割合は、特に限定はないが、0.01〜10重量%が好ましく、0.2〜5重量%がさらに好ましく、0.5〜3重量%が特に好ましい。高級脂肪酸の金属塩の重量割合が0.01重量%未満であると、少なすぎて添加による効果が見られないことがある。一方、10重量%超であると、多量の添加に見合う効果が得られず、経済的に不利なことがある。
高級脂肪酸の金属塩としては、従来弾性繊維に用いられている公知のものを用いることができ、たとえば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。これらの高級脂肪酸の金属塩のうちでも、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が好ましい。
【0034】
高級脂肪酸の金属塩はジェットミルやビーズミルを使用するなど、公知の方法を用いて微粒子化することができる。平均粒子径について、特に限定はないが、0.01〜5μmが好ましく、0.02〜3μmがさらに好ましく、0.05〜2μmが特に好ましい。高級脂肪酸の金属塩の平均粒子径が0.01μm未満であると、添加による効果が見られないことがある。一方、高級脂肪酸の金属塩の平均粒子径が5μm超であると、繊維表面から脱落しやすく、紡糸後の工程でスカムの原因となる場合がある。なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−910)のバッチセルを使用して、屈折率を1.02に設定して、体積基準の平均粒子径を測定した。
【0035】
また、本発明の弾性繊維用処理剤は、制電性や解舒性を向上させるために、変性シリコーンをさらに含有していてもよい。変性シリコーンとは、一般には、ジメチルシリコーン(ポリジメチルシロキサン)等のポリシロキサンの両末端、片末端、側鎖、側鎖両末端の少なくとも1ヶ所において、反応性(官能)基または非反応性(官能)基が少なくとも1つ結合した構造を有するものをいう。
【0036】
変性シリコーンとしては、たとえば、長鎖アルキル基(炭素数6以上のアルキル基や2−フェニルプロピル基等)を有する変性シリコーン等のアルキル変性シリコーン;エステル結合を有する変性シリコーンであるエステル変性シリコーン;アルコール性水酸基を有する変性シリコーンであるカルビノール変性シリコーン;酸無水物基またはカルボキシル基を有する変性シリコーンであるカルボキシ変性シリコーン;メルカプト基を有する変性シリコーンであるメルカプト変性シリコーン;グリシジル基または脂環式エポキシ基等のエポキシ基を有する変性シリコーン等のエポキシ変性シリコーン;ポリオキシアルキレン基(たとえば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレンオキシプロピレン基等)を有する変性シリコーン等のポリエーテル変性シリコーン等を挙げることができる。
【0037】
弾性繊維用処理剤全体に占める変性シリコーンの重合割合は、特に限定はないが、0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜7重量%がさらに好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。変性シリコーンの重量割合が0.01重量%未満であると、少なすぎて添加による効果が見られないことがある。一方、10重量%超であると、処理剤の適正な性能とならないことがある。
【0038】
また、本発明の弾性繊維用処理剤は、制電性や解舒性を向上させるために、シリコーンレジンをさらに含有していてもよい。シリコーンレジンとは、3次元架橋構造を有するシリコーンを意味し、その他の変性シリコーン等をさらに含有してもよい。シリコーンレジンは、一般に、1官能性構成単位(M)、2官能性構成単位(D)、3官能性構成単位(T)および4官能性構成単位(Q)から選ばれた少なくとも1種の構成単位からなっている。
シリコーンレジンとしては、たとえば、MQシリコーンレジン、MQTシリコーンレジン、Tシリコーンレジン、DTシリコーンレジン等のシリコーンレジン等を挙げることができる。
【0039】
MQシリコーンレジンとしては、たとえば、1官能性構成単位であるRSiO1/2(但し、R1、およびRはいずれも炭化水素基である。)と、4官能性構成単位であるSiO4/2と含むシリコーンレジン等を挙げることができる。
MQTシリコーンレジンとしては、たとえば、1官能性構成単位であるRSiO1/2(但し、R、RおよびRはいずれも炭化水素基である。)と、4官能性構成単位であるSiO4/2と、3官能性構成単位であるRSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)と含むシリコーンレジン等を挙げることができる。
Tシリコーンレジンとしては、たとえば、3官能性構成単位であるRSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)を含むシリコーンレジン(その末端は炭化水素基のほか、シラノール基やアルコキシ基となっていても良い。)等を挙げることができる。
DTシリコーンレジンとしては、たとえば、2官能性構成単位であるRSiO2/2(但し、R、およびRはいずれも炭化水素基である。)と、3官能性構成単位であるRSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)等を挙げることができる。
【0040】
弾性繊維用処理剤全体に占めるシリコーンレジンの重量割合は、特に限定はないが、0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜7重量%がさらに好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。シリコーンレジンの重量割合0.01重量%未満であると、添加による効果が見られないことがある。一方、10重量%超であると、処理剤性能の適正なバランスを維持できないことがある。
【0041】
本発明の弾性繊維用処理剤は、つなぎ剤、制電剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常弾性繊維の処理剤に用いられる成分をさらに含有することができる。
【0042】
[弾性繊維用処理剤]
本発明の弾性繊維用処理剤の製造方法としては、公知の方法を適用でき、ベース成分(A)、低分子量シロキサン(B)、必要に応じて成分(C)を任意の順番で添加混合できる。低分子量シロキサン(B)は、他のシリコーン成分に含有した状態で使用してもよい。例えば、低分子量シロキサン(B)は、ベース成分(A)のシリコーン油、成分(C)のオルガノポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、またはその他成分としての変性シリコーンに、含有した状態で用いることができる。
【0043】
本発明の弾性繊維用処理剤の粘度(25℃)は、3〜20mm/sが好ましく、5〜20mm/sがさらに好ましく、8〜15mm/sが特に好ましい。3mm/s未満では、弾性繊維用処理剤の揮発が問題となる場合があり、20mm/sを超えると弾性繊維がローラーに取られて糸切を生じる場合がある。
【0044】
[弾性繊維]
本発明の弾性繊維は、弾性繊維全体に上記弾性繊維用処理剤が0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%付与されている弾性繊維である。0.1重量%より少ないと本発明の効果が充分でなく、15重量%を越えると不経済である。付与方法については、公知の方法を採用できる。
【0045】
本発明の弾性繊維(弾性繊維本体)としては、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリアミドエラストマー等を使用した弾性を有する繊維であり、その伸度は通常300%以上である。またソフトなストレッチ性のあるポリオレフィン系弾性繊維、及びポリトリメチレンテレフタレート繊維を含めてもよい。
【0046】
本発明の弾性繊維は、たとえば、ポリウレタンウレア弾性繊維は、分子量1000〜3000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを用意し、PTMG/MDI=1/2〜1/1.5(モル比)でジメチルアセトアミドやジメチルホルムアミド等の溶媒中で反応させ、エチレンジアミン、プロパンジアミン等のジアミンで過剰のイソシアネートの80〜100%と反応させて鎖延長して得られるポリウレタンウレアポリマーの20〜40%溶液を乾式紡糸で、紡糸速度400〜800m/minで紡糸することにより製造できるポリウレタンウレア弾性繊維が好適である。
【0047】
本発明の処理剤は、弾性繊維の繊度が5〜40dtexの繊維に用いるのが好ましい。
本発明の弾性繊維の用途として、CSY、シングルカバリング、PLY、エアーカバリング等のカバリング糸等の加工糸や、丸編み、トリコット等により、布帛として使用することができる。また、これらの加工糸、布帛を使用してストッキング、靴下、下着、水着等の伸縮性が必要とされる製品や、ジーンズ、スーツ等のアウターウェア等に快適性のために伸縮性を付与させる目的でも使用される。さらに最近では、紙おむつにも適用される。
本発明の処理剤は、通常、弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与される。0.1重量%より少ないと本発明の効果が充分でなく、15重量%を越えると不経済である。
【0048】
本発明の処理剤に用いる低分子量シロキサン(B)は、本発明と同様な作用効果を付与するために、弾性繊維以外の繊維の処理剤に用いることができる。特に、上述したシリコーン油、アミノ変性シリコーン、変性シリコーン等のシリコーン系成分を含有する繊維処理剤(例えば、WO2007/066517号公報等の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤、特開2007−247128号公報等の透水性付与剤等)では、これらシリコーン系成分に低分子量シロキサン(B)を含有させた状態で使用できる。
【0049】
弾性繊維以外の繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、レーヨン、ポリノジック、リヨセル、キュプラ、ビニロン、アクリル、ジアセテート、トリアセテート、炭素繊維プレカーサー等の各種合成繊維などを挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)および部は、特に限定しない限り、「重量%」および「重量部」を示す。実施例における各特性の評価は次の方法に従って行った。
【0051】
[処理剤の評価方法]
(粘度)
キャノンフェンスケ粘度計を用い、25℃における試料液の動粘度を求めた。
(7日間経時後の粘度)
直径10cmの時計皿に処理剤1gを入れて、40℃ギアオーブンにいれ、一週間後の粘度を測定した。
【0052】
(アミン価)
イソプロピルアルコール、キシレン/イソプロピルアルコール(1/1)混合等の溶剤に溶解した試料を、0.1N−HClエチレングリコール/イソプロピルアルコール溶液で自動電位差滴定装置(平沼社製COM−900)を使用して電位差滴定して、終点の滴定量(ml)を測定し、下式aよりアミン価を算出した。尚、アミン価とは試料1gを中和するのに要するHClと当量となるKOHのmg数で表されるものである。
アミン価(KOHmg/g)=(A×F×5.61)/W (式a)
(式aにおいて、A=滴定量(ml)、F=0.1N−HClの力価、W=試料重量(g))
【0053】
(ローラー静電気)
図1において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(1)をセットし、50m/分の周速で回転させ、チーズ上2cmのところにおいて、春日式電位差測定装置(2)で、回転を始めて1時間後の発生静電気を測定する。
(編成張力)
図2において、チーズ(3)から縦取りした弾性糸(4)を、コンペンセーター(5)を経てローラー(6)、編み針(7)を介して、Uゲージ(8)に付したローラー(9)を経て速度計(10)、巻き取りローラー(11)に連結する。速度計(10)での走行速度が定速(例えば、10m/分、100m/分)になるように巻き取りローラーの回転速度を調整して、巻き取りローラーに巻き取り、そのときの編成張力をUゲージ(8)で測定し、繊維/編み針間の摩擦(g)を計測する。走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(12)で発生静電気を測定する。
【0054】
(繊維間摩擦係数(F/FμS))
図3において、処理剤が付与された弾性繊維のモノフィラメントを50〜60cm程取り、一方の端に荷重T1(13)を吊り、ローラー(14)を介して、Uゲージ(15)にもう一方の端を掛けて定速(例えば、3cm/分)で引っ張り、そのときの2次張力T2をUゲージ(15)で測定し、下式bにより、繊維間摩擦係数を求める。
摩擦係数(F/FμS)=1/θ・ln(T2/T1) (式b)
(式bにおいて、θ=2π、ln=自然対数、T1は22dtex当り1g)
【0055】
(解舒速度比)
図4において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(16)をセットし、巻き取り側に紙管(17)をセットする。巻き取り速度を一定速度にセットした後、ローラー(18)及び(19)を同時に起動させる。この状態では糸(20)に張力はほとんどかからないため、糸はチーズ上で膠着して離れないので、解舒点(21)は図4に示す状態にある。解舒速度を変えることによって、チーズからの糸(20)の解舒点(21)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(22)と一致するように解舒速度を設定する。解舒速度比は下式cによって求める。この値が小さいほど、解舒性が良いことを示す。
解舒速度比(%)=(巻取速度−解舒速度)÷解舒速度×100 (式c)
【0056】
(紡糸原液の調整)
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと4,4’―ジフェニルメタンジイソシアネートをモル比率1:2で反応させ、次いで1,2−ジアミノプロパンのジメチルホルムアミド溶液を用いて鎖延長し、ポリマー濃度27%のジメチルホルムアミド溶液を得た。30℃での濃度は1500mPaSであった。
【0057】
(実施例1〜13、15〜17および比較例1〜3)
処理剤(表中の配合量は重量部)は、表1および表2に記載の成分を任意の順番で混合することで調製した。また、ステアリン酸マグネシウムを含有する処理剤については、処理剤の全成分を混合後、ビーズミルを用いて、平均粒子径が3μmになるまで分散を行うことで調製した。
次に、ポリウレタン紡糸原液を210℃のN気流中に吐出して乾式紡糸した。紡糸中走行糸に調製した処理剤を繊維に対して6重量%付与した後、毎分500mの速度でボビンに巻き取り44dtex/4fチーズ(巻き量400g)を得た。得られたチーズを35℃、50%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。これらの結果を表1、表2に示す。
【0058】
(実施例14)
アミノ変性シリコーンKF−880(信越化学株式会社製、アミノ当量1800g/mol、アミン価30KOHmg/g、D4を5重量%含有。)を1.3kPaの減圧下、攪拌しながら80℃で3時間加熱し、D4の含有量を0.01重量%以下にしたもの(KF−880Mとする)を用いた以外は、前記実施例と同様に行った。この結果を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表に記載した成分の諸物性等を以下に示す。
1)ベース成分(A)
ジメチルシリコーン(15mm/s):平均分子量2000。
ジメチルシリコーン(20mm/s):平均分子量2500。
流動パラフィン:鉱物油、12.8mm/s。
イソオクチルラウレート:エステル油、7.3mm/s。
2)低分子量シロキサン(B)
D4:環状シロキサン4量体、2.4mm/s。
D5:環状シロキサン5量体、4.0mm/s。
D6:環状シロキサン6量体、2.5mm/s。
3)成分(C)
アミノ変性シリコーンKF−861:3500mm/s、アミノ当量2000g/mol、アミン価28KOHmg/g、D4を1重量%含有、信越化学株式会社製。
アミノ変性シリコーンKF−880:650mm/s、アミノ当量1800g/mol、アミン価30KOHmg/g、D4を5重量%含有、信越化学株式会社製。
アミノ変性シリコーンKF−880M:700mm/s、KF−880のD4削減品。
ポリジメチルシロキサン:ジメチルシリコーン、3000mm/s、平均分子量40
000、信越化学株式会社製。
アミノシリコーン生ゴム:40000mm/s、ジメチルシリコーン20mm/sの20%溶液。
4)その他の成分
ステアリン酸マグネシウム:99%、200メッシュ通過品。
【符号の説明】
【0062】
1 弾性繊維のチーズ
2 春日式電位差測定装置
3 弾性繊維のチーズ
4 糸
5 コンペンセーター
6 ローラー
7 編み針
8 Uゲージ
9 ローラー
10 速度計
11 巻き取りローラー
12 春日式電位差測定装置
13 荷重
14 ローラー
15 Uゲージ
16 チーズ
17 巻き取り用紙管
18 ローラー
19 ローラー
20 走行糸条
21 解舒点
22 チーズとローラーの接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン油、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(A)を含有する弾性繊維用処理剤であって、
さらに、下記一般式(1)で示されるシロキサンおよび下記一般式(2)で示されるシロキサンから選ばれる少なくとも1種の低分子量シロキサン(B)を含有する、弾性繊維用処理剤。
【化1】

(式(1)中、mは1〜4の整数を示す。)
【化2】

(式(2)中、nは3〜6の整数を示す。)
【請求項2】
前記処理剤全体に占める前記低分子量シロキサン(B)の重量割合が0.001〜50重量%である、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記処理剤の粘度(25℃)が3〜20mm/sである、請求項1または2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記処理剤全体に占める前記ベース成分(A)の重量割合が40〜99.99重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
前記ベース成分(A)のシリコーン油の粘度(25℃)が5mm/s以上50mm/s未満であり、
粘度(25℃)が50mm/s以上であるオルガノポリシロキサンおよび/またはアミノ変性シリコーンからなる成分(C)をさらに含有し、前記処理剤全体に占める前記成分(C)の重量割合が0.01〜10重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
弾性繊維本体に、請求項1〜5のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤が0.1〜15重量%付与されている、弾性繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−58129(P2011−58129A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209954(P2009−209954)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】