説明

弾性表面波霧化装置

【課題】基板上に供給された液体を基板上に薄く延ばすことができ、なおかつ、基板外に漏れることなく供給した液体を効率的に霧化することが可能な弾性表面波霧化装置を提供する。
【解決手段】弾性表面波を生成する基板部12を備え、基板部に供給される液体13を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置1であって、基板部表面には、周辺を残し中程に基板部の素地とは親水性の程度が異なる領域30aが形成されている構成とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を用いた霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波は、通常、圧電材料などからなる基板上に設けた交差指電極(Interdigital Transducer:IDT)に高周波電圧が印加されることによって、その基板表面に生成される。弾性表面波が伝搬している基板の表面に液体を供給すると、液体は弾性表面波のエネルギを受け取って振動しつつ流動し微小粒子となって飛翔する。従来、この現象により液体を霧化する弾性表面波霧化装置が知られている。
【0003】
弾性表面波霧化装置において、安定した霧化を効率的に行うには、液体供給量と噴霧量とのバランスを良好に保つと共に、液体を基板上に薄く延ばすことが必要である。そこで、液体を基板上に薄く延ばすため、弾性表面波の伝搬面上を親水処理した霧化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−114467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の霧化装置は、基板上に液体を薄く延ばすことができるものの、弾性表面波伝搬面の全面を親水処理しているため、例えば、基板外に液体が漏れ、液体を損失すると共に落下した液体で装置周辺が汚損するというおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、基板上に供給された液体を基板上に薄く延ばすことができ、なおかつ、基板外に漏れることなく液体を効率的に霧化することが可能な弾性表面波霧化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、弾性表面波を生成する基板部を備え、基板部に供給される液体を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置であって、基板部表面には、周辺を残し中程に基板部の素地とは親水性の程度が異なる領域が形成されている構成とする。
【0008】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、親水性の程度が異なる領域が、基板部の素地とは親水性の程度が異なる複数の領域構成部により構成されていることが好ましい。
【0009】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、親水性の程度が異なる領域では複数の領域構成部の存在割合が変化していることが好ましい。
【0010】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、複数の領域構成部が放射状に形成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、複数の領域構成部が同心状に形成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、複数の領域構成部の各々が隣接する領域構成部とは親水性の程度が異なるように形成されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の弾性表面波霧化装置において、領域構成部をパターニングにより形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の弾性表面波霧化装置は、基板部表面には、周辺を残し中程に基板部の素地とは親水性の程度が異なる領域が形成されている構成とすることで、供給された液体を基板部に薄く延ばすことができ、なおかつ、液体の広がる範囲を限定することができるため、供給された液体が基板外に漏れることを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、親水性の程度が異なる領域が、基板部の素地とは親水性の程度が異なる複数の領域構成部により構成されていることによって、領域内で親水性の程度を簡便に変化させることができる。
【0016】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、親水性の程度が異なる領域では複数の領域構成部の存在割合が変化していることによって、その存在割合の変化に沿って供給された液体を移動させるような力を働かせることができ液体を効率よく基板部に薄く延ばすことができる。
【0017】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、複数の領域構成部が放射状に形成されていることによって、形成した放射状の領域構成部に沿って供給した液体を薄く延ばすことができる。
【0018】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、複数の領域構成部が同心状に形成されていることによって、形成した同心状領域構成部にて供給された液体は分裂しやすくなり基板部上に液体を薄く延ばすことができる。
【0019】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、複数の領域構成部の各々が隣接する領域構成部とは親水性の程度が異なるように形成されていることによって、隣接する領域構成部にて供給された液体は細分化されやすくなり供給された液体を薄く延ばすことができる。
【0020】
また、本発明の弾性表面波霧化装置において、領域構成部をパターニングにより形成することによって、基板部に精度よく親水性の程度が異なる領域構成部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図2】接触角を説明するための対象物上の液滴の断面形状図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る他の例の弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る他の例の弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る他の例の弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図9】本発明の第5の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波霧化装置を、図面を参照して説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0024】
弾性表面波霧化装置1は、基板部12を備える。基板部12は、高周波電圧の印加によって弾性表面波を励振する交差指電極11を有する。そして、図示しない液体供給部によって基板部12表面に供給される液体13を基板部12表面に生成される弾性表面波によって霧化する。以下、各構成を詳細に説明する。
【0025】
交差指電極11は、それぞれ互いに異なる電極に属している櫛形電極11a、11bから構成されている。櫛形電極11a、11bの歯のそれぞれのピッチは励振する弾性表面波の波長の大きさに等しく、櫛形電極11a、11bを互いに噛み合わせて配置されている。
【0026】
交差指電極11が高周波電圧印加用の電源14から高周波(例えば、MHz帯)電圧を印加されることにより、交差指電極11によって電気的エネルギが波の機械的エネルギに変換されて、基板部12の表面にレイリー波と呼ばれる弾性表面波が励振される。励振された弾性表面波の振幅は、交差指電極11に印加する電圧の大きさで決まる。また、励振された弾性表面波の波束の長さは、電圧の印加時間の長さに対応する。
【0027】
交差指電極11によって励振された弾性表面波は櫛形電極11a、11bの歯に垂直な方向(方向x)に伝搬する。弾性表面波は、基板部12の表面に存在する液体13に対して、弾性表面波の伝搬方向に移動させるような力を及ぼす性質がある。
【0028】
基板部12は、例えば、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)のような圧電体からなる基板であり、平面視が長方形の板状である。また、基板部12は、基板部12の長手方向の一端側(図1の左方側)に交差指電極11を備えている。
【0029】
基板部12表面には、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30aが形成されている。領域30aは、基板部12表面の周辺を残し中程に形成されている。そして、基板部12の素地よりも親水性の大きな複数の領域構成部21aにより領域30aは構成されている。領域30aは、領域構成部21aを領域30a内に有していればよく、図1では、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域構成部21aと基板部12そのもので基板部12と親水性の程度が同じである基板領域部が存在することになる。
【0030】
一般に親水性の程度は、対象物51の接触角θを測定することにより求めることができる。接触角θとは図2で示すように、対象物51に液体を滴下したときの、液滴52の対象物51表面との接線53と対象物51とのなす角度をいう。図2(a)のように接触角θが小さいほど親水性の程度は大きくなり、図2(b)のように接触角θが大きいほど親水性の程度は小さくなる。また、一般に接触角θは、液体と対象物の馴染みやすさの指標として用いられる。接触角θが小さいときは液体と対象物は馴染みやすいといえ、接触角θが大きいときは液体と対象物は馴染みにくいといえる。
【0031】
また、領域30aには、基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて、基板部12に対しての領域構成部21aの存在割合が傾斜的に変化している。傾斜的に変化するとは、徐々に変化することをいい、例えば、基板部12の長手方向距離に対して比例的に変化する場合や階段状に変化する場合のことをいう。
【0032】
図1における領域構成部21aは、光官能層の成膜、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、剥離、洗浄の工程を経て、パターニングにより形成されている。パターニングにより形成されたひとつひとつの領域構成部21aは、形状が円状で大きさが略同等である。これらを基板部12に対して疎密を変化させ配置することで、基板部12に対しての領域構成部21aの存在割合を変化させている。
【0033】
図1では、領域構成部21aは、交差指電極11から遠くなるにつれ基板部12に対して疎に配置されている。これにより基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて、基板部12に対しての領域構成部21aの存在割合が傾斜的に小さくなっている。その結果、親水性の程度は、交差指電極11から近いところでは大きく、交差指電極11から遠くなるにつれて小さくなっている。
【0034】
液体供給部は、例えば、液体容器などのような液体供給手段を構成したものや、フェルト、紙、多孔質材料などからなる液体を含浸することができるものなどから構成される。このような液体供給部から基板部12に液体13が供給される。
【0035】
基板部12に領域30aが形成されていることで、領域30aに供給された液体13(例えば、水のような親水性の大きな液体)は、基板部12に広がりやすくなる。領域30aは基板部12の素地よりも親水性の程度が大きいため、基板部12に領域30aが形成されていないときと比べ、領域30aに供給された液体13に働く表面張力は小さくなる。このため、液体13は基板部12に広がりやすくなり液体13を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0036】
このように、液体13が基板部12に薄く延びると、液体13表面から基板部12までの距離が短くなる。このため、弾性表面波が液体13表面にまで作用するようになり、液体13全体に弾性表面波が作用しやすくなる。この結果、液体13を効率的に霧化することができる。
【0037】
さらに、領域30aは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体13の広がる範囲を限定することができる。このため、供給された液体13が基板外に漏れることを防ぐことができる。よって、供給した液体13を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0038】
また、基板部12では領域構成部21aの基板部12に対する存在割合が交差指電極11に近づくにつれて傾斜的に大きくなっているため、交差指電極11に向かって移動させるような力を液体13に対して働かせることができる。液体13が移動するにつれ領域構成部21a上に存在する液体13は徐々に基板部12に広げられていくことになる。この結果、効率よく基板部12に液体13を薄く延ばすことができる。また、液体13が弾性表面波から伝搬方向に力を受けたときでも、弾性表面波による力を相殺するような力を液体13に働かせることができるため、液体13の移動を防止することができる。
【0039】
複数の領域構成部21aの配置方法を変更させることで、基板部12に対する存在割合を簡便に変化させることができる。領域構成部21aは、図1のように交差指電極11側から他端側に向かうにつれて基板部12に対する領域構成部21aの存在割合を小さくなるように形成するだけではなく、例えば、図3のように基板部12に対する領域構成部21aの存在割合を、基板部12の中央を大きくし両側に向かうにつれて小さくするように形成してもよい。また、基板部12で領域構成部21aの基板部12に対しての存在割合がランダムに変化させていてもよい。このときは、液体13は供給されたひとつの位置に留まらず動きやすくすることができる。
【0040】
また、親水性の程度が異なる領域構成部21aをパターニングにより形成することで、基板部12に精度よく親水性の程度が異なる領域構成部21aを形成することができる。特に、簡便に基板部12に対しての親水性の程度の異なる領域構成部21aの存在割合を変化させることができるため好ましい。
【0041】
図1および図3では、領域構成部21aはそれぞれ形状が円で大きさが略同等のものを示したが、これに限られることなく、例えば、格子形状やひし形や三角形などのその他の形状であってもよいし、異なる大きさの領域構成部21aを設けてもよい。
【0042】
(第2の実施形態)
以下に述べる各実施形態は、上述した第1の実施形態と同様の構成については同一符号を付して詳しい説明を省略し、相違する構成について詳述する。
【0043】
図4は第2の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0044】
弾性表面波霧化装置1の基板部12に形成された基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30bの内側には、基板部12の素地よりも親水性の大きな帯状の帯状領域構成部21bが形成されている。このため、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30bの内側には、基板部12の素地よりも親水性の大きな帯状領域構成部21bと基板部12そのもので基板部12と親水性の程度が同じである基板領域部が存在することになる。
【0045】
帯状領域構成部21bは、点15を中心とした放射状に配置されている。点15は弾性表面波霧化装置1の霧化対象である液体13を供給する点である。また、帯状領域構成部21bは、アルミニウムを真空蒸着することにより形成されている。
【0046】
基板部12に形成された領域30bに供給された液体13(例えば、水のような親水性の大きな液体)は、基板部12に領域30bが形成されていることで、基板部12に広がりやすくなる。このため、液体13を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0047】
さらに、領域30bは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体13の広がる範囲を限定することができる。このため、供給された液体13が基板外に漏れることを防ぐことができる。よって、供給した液体13を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0048】
また、帯状領域構成部21bが基板部12の素地よりも親水性が大きいため、供給された液体13は帯状領域構成部21bの方へ移動する。帯状領域構成部21bは領域30bの縁側に向けて放射状に形成されているため、点15に供給された液体13は、帯状領域構成部21bに沿って広がりながら移動する。このため、液体13を基板部12に広がりやすくすることができる。
【0049】
図4のように、点15から放射状に帯状領域構成部21bを設けると基板部12全体に液体13を効率よく薄く延ばすことができるため好ましい。
【0050】
また、図4では四方向に伸びるように帯状領域構成部21bを設けたものを示したが、これに限られることはなく、例えば、多数方向に伸びるように帯状領域構成部21bを設けてもよい。
【0051】
(第3の実施形態)
図5は第3の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0052】
弾性表面波霧化装置1の基板部12に形成された基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30cの内側には、点15を中心とした同心状に基板部12の素地よりも親水性の大きな同心状領域構成部21cが設けられている。
【0053】
同心状領域構成部21cにおいて、点15を含む同心状領域構成部21cは円状となっており、点15を含まない同心状領域構成部21cは環状となっている。また、基板部12には、同心状領域構成部21cと交互になるように、基板部12の素地よりも親水性の程度が大きく同心状領域構成部21cとは親水性の程度が異なる同心状領域構成部21dが設けられている。このため、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30cの内側には、同心状領域構成部21c、21dが存在することになる。同心状領域構成部21c、21dはそれぞれアルミニウム、フッ素樹脂を真空蒸着することにより形成されている。
【0054】
基板部12に形成された領域30cに供給された液体(例えば、水のような親水性の大きな液体)は、基板部12に領域30cが形成されていることで、基板部12に広がりやすくなる。このため、液体を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0055】
さらに、領域30cは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体の広がる範囲を限定することができる。このため、供給された液体が基板外に漏れることを防ぐことができる。よって、供給した液体を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0056】
また、点15に液体が供給されると、隣接する同心状領域構成部21c、21dそれぞれの液体に対する表面張力に差が生じるため、液体が一定の位置に留まらず移動しやすくなる。移動しやすくなった液体は、同心状領域構成部21c、21dにおいて分裂されることになる。
【0057】
分裂された液体は、供給された直後の液体と比べひとつひとつの液体の大きさが小さくなり、液体表面から基板部12までの距離が短くなる。このため、弾性表面波が液体表面まで作用しやすくなり、液体全体に弾性表面波が作用しやすくなる。この結果、液体を効率よく霧化することができる。また、同心状領域構成部21c、21dを数多く形成することにより、供給した液体が分裂する確率が増えひとつひとつの液体がより小さくなり霧化されやすくなる。
【0058】
また、点15を中心とし基板部12の素地よりも親水性の大きな同心状領域構成部21eは、図6のように間隔をもって設けられていてもよい。このとき、同心状領域構成部21eは、基板領域部12aと交互に配置されることになる。同心状領域構成部21eと基板領域部12aが交互に設けられている場合にも、隣接する同心状領域構成部21eと基板領域部12aに供給された液体に働く表面張力に差が生じるため、供給された液体は分裂され霧化されやすくなる。
【0059】
図5および図6では、同心状領域構成部21c、21d、21eのそれぞれは親水性の程度が同一のものを示したが、これに限られることなく、親水性の程度がそれぞれで異なっていてもよい。
【0060】
また、図5および図6では、基板部12と親水性の程度が異なる領域構成部として形状が円の環状であるものを示したが、この形状に限られることなく、同心である形状であればよく、例えば、正方形の環状や長方形の環状などのその他の形状であってもよい。
【0061】
(第4の実施形態)
図7は第4の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0062】
弾性表面波霧化装置1の基板部12に形成された基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30dの内側には、基板部12の素地よりも親水性の大きな格子状の格子状領域構成部21f、21gが基板部12に敷き詰められたように形成されている。隣接する格子状領域構成部21fと格子状領域構成部21gとでは親水性の程度が異なっている。このため、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30dの内側には、格子状領域構成部21f、21gが存在することになる。
【0063】
基板部12に形成された領域30dに供給された液体13(例えば、水のような親水性の大きな液体)は、基板部12に領域30dが形成されていることで、基板部12に広がりやすくなる。このため、液体13を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0064】
さらに、領域30dは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体13の広がる範囲を限定することができる。このため、供給された液体13が基板外に漏れることを防ぐことができる。よって、供給した液体13を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0065】
また、図7のように、親水性の程度が異なる格子状領域構成部21f、21gを敷き詰められたように並んだ配置とすることで、隣接する格子状領域構成部21f、21gのそれぞれにおいて液体に対する表面張力に差が生じるため、液体が細分化される。このため、液体を効率よく霧化することができる。また、格子状領域構成部21f、21gを数多く形成することにより、供給した液体が細分化される確率が増えひとつひとつの液体の大きさがより小さくなり霧化されやすくなる。
【0066】
また、図8のように基板部12の素地よりも親水性の大きな格子状領域構成部21hが間隔をもって設けられていてもよい。このとき、親水性の程度が異なる格子状領域構成部21hと基板領域部12bは交互に配置されることになる。
【0067】
格子状領域構成部21hと基板領域部12bが交互に形成されている場合にも、隣接する格子状領域構成部21hは基板領域部12bに供給された液体に働く表面張力に差が生じるため、供給された液体は細分化され霧化されやすくなる。
【0068】
図7および図8では、格子状領域構成部21f、21g、21hのそれぞれは親水性の程度が同一のものを示したが、これに限られることなく、親水性の程度がそれぞれで異なっていてもよい。
【0069】
また、図7および図8では、格子領域構成部21f、21g、21hのそれぞれの大きさは全て略同等であるが、これに限られることはなく、例えば、大きさが異なる格子領域構成部を配列してもよい。また、図7および図8では、基板部12と親水性の程度が異なる領域構成部として形状は格子状であるものを示したが、例えば、ひし形や三角形などのその他の形状であってもよいし、異なる形状の領域構成部をランダムに設けてもよい。
【0070】
(第5の実施形態)
図9は第5の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0071】
弾性表面波霧化装置1の基板部12に形成された基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30eでは、基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて親水性の程度が傾斜的に徐々に小さくなっている。領域30eは、蒸着材料であるアルミニウムとフッ素樹脂を真空蒸着する際に、それぞれの蒸着方向と蒸着時間を制御することにより形成されている。
【0072】
基板部12に形成された領域30eに供給された液体13(例えば、水のような親水性の大きな液体)は、基板部12に領域30eが形成されていることで、基板部12に広がりやすくなる。このため、液体13を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0073】
さらに、領域30eは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体13の広がる範囲を限定することができる。このため、供給された液体13が基板外に漏れることを防ぐことができる。よって、供給した液体13を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0074】
また、図9のように、領域30eにおいて基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて親水性の程度が小さくなっているため、供給された液体は親水性の程度が大きい交差指電極11の方へ移動することになる。液体が移動するにつれ領域30eの親水性の程度が大きくなるため、液体は徐々に基板部12に広げられていくことになる。このため、効率よく基板部12に液体を薄く延ばすことができる。また、供給された液体13が弾性表面波から伝搬方向に力を受けたときでも、弾性表面波による力を相殺するような力を液体13に働かせることができるため、液体13の移動を防止することができる。
【0075】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、基板部12の素地と親水性の程度が異なる領域構成部をアルミニウムなどで形成したが、例えば、その他の金、白金などのような金属からなる薄膜や、ポリエチレングリコールのような有機物からなる薄膜などで形成することもできる。また、基板部12を脱酸素処理することや、基板部12に金属イオンを注入することによりも形成することができる。
【0076】
また、上記各実施形態では、基板部12の素地と親水性の程度が異なる領域30として親水性の大きな領域を基板部12に形成したが、これに限られず、親水性の小さな領域を形成することも可能である。基板部12の素地よりも親水性の小さな領域を形成することによって、霧化対象である液体が、例えば、トルエンやヘキサンなどの有機溶剤を含むときなどに、本実施形態にて述べた効果を得ることができる。つまり、基板部12と親水性の程度が異なる領域30は、供給する液体に対して馴染みのよい領域であればよい。
【0077】
また、上記各実施形態では、基板部12はLiNbO3(ニオブ酸リチウム)のような圧電体からなる基板であったが、これに限られることなく、非圧電基板の表面に圧電薄膜、例えば、PZT薄膜(鉛、ジルコニウム、チタン合金薄膜)を形成したものでもよい。このとき、非圧電基板の表面に形成された圧電体薄膜の表面部分において、弾性表面波が励振される。従って、基板部12は、弾性表面波が励振される圧電体部分を表面に備えた基板であればよい。
【0078】
以上、各実施形態を説明したが、本発明は、上記構成に限られることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 弾性表面波霧化装置
11 交差指電極
12 基板部
13 液体
14 電源
15 点
30 親水性の程度が異なる領域
51 対象物
52 液滴
53 接線
x 弾性表面波の伝搬方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を生成する基板部を備え、
前記基板部に供給される液体を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置であって、
前記基板部表面には、周辺を残し中程に前記基板部の素地とは親水性の程度が異なる領域が形成されていることを特徴とする弾性表面波霧化装置。
【請求項2】
前記領域は、前記基板部の素地とは親水性の程度が異なる複数の領域構成部により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項3】
前記領域では、前記複数の領域構成部の存在割合が変化していることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項4】
前記複数の領域構成部は、放射状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項5】
前記複数の領域構成部は、同心状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項6】
前記複数の領域構成部の各々は、隣接する領域構成部とは親水性の程度が異なるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項7】
前記領域構成部をパターニングにより形成することを特徴とする請求項1乃至請求項6いずれかに記載の弾性表面波霧化装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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