説明

循環処理液を使用する塗装ブース

【課題】処理水によって塗料ミストを回収処理する塗装ブースにおける泡の発生が周囲への汚損、バイオブースにおける処理水の機能低下、巻き込みによる処理能力の低下等をきたすため、効果的に消泡する手段を得る。
【解決手段】噴霧された塗料ミストを吸引し、処理水によって捕集した塗料ミストを回収処理する塗装ブースにおいて、循環使用する処理水を貯留する水槽の水面上方に加熱媒体を配置する。加熱媒体は、水面上に熱風を吹付けるノズルを水槽周囲に設けて水面上に流動する熱風域を形成する。また水面上に適宜の間隔で加温パイプを配設し、内部に加温流体を循環させることによって表面を周囲と温度差のある加熱媒体とする。加熱媒体は温度と時間のコントロールによって効果的に使用され、塗装室の運転と連動して作動が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧塗装における余剰ミストを、処理液を用いて捕集処理する塗装用ブースにおいて、循環する処理液に発生し貯留水槽に浮かぶ泡を効果的に消泡する手段を設けた装置に関する。

【背景技術】
【0002】
噴霧塗装においては、スプレーガンから噴霧された塗料が被塗装物に塗着し、塗膜を形成する割合に限度があり、一般的にも20%から50%は余剰ミストとして飛散するとされている。この飛散する塗料ミストは塗装機や被塗装物あるいは塗装方法等、種々の条件で異なるが、何れにせよこれらの飛散ミストは回収処理し外部に排出されないようにする必要がある。
【0003】
このため塗装ブースが使用され、余剰の飛散塗料ミストは捕集される構成となっている。塗料ミストの捕集は幾つかの方法が用いられているが、その多くは処理液を用いて気流中の塗料ミストを取り込み、処理液中で凝集若しくは分離等の手段を用いて回収処理する、湿式の塗装ブースが使用されている。
湿式の塗装ブースにおいては、塗料ミストを捕集するために形成される水流膜やシャワーに処理液を循環供給するために水槽が設けられ、そこから必要な処理液が送り込まれる形態がとられている。したがって塗料ミストを捕集した処理液は水槽内に還流され、ここで塗料ミストのみが取り除かれ、清浄な処理液として再び各部に送り込まれることになる。
【0004】
処理液中に取り込まれた塗料ミストは、塗料スラッジとして処理液中に含まれるため、これを効果的に取り除き、循環処理液として繰り返し使用されるようにする必要がある。これらの方法は、使用される塗料によっても異なり幾つかの方法が用いられている。
【0005】
循環処理液に取り込まれたスラッジは薬剤の添加により不粘着化処理することによって微細な塗料スラッジとして分散させ、処理液と共にポンプ等の手段によって吸引し遠心分離等による装置で処理液とスラッジを分離し、スラッジのみを回収する方法がある。このときポンプ等での吸引を効率的にかつ平均的に円滑に吸引するため処理液を撹拌装置や混合装置で強制的に分散させる必要がある。
【0006】
また処理液を循環させ、前記の水流膜やシャワーを形成し、再び水槽中に戻す工程では、空気と触れて気泡を巻き込むことは避けられず、水槽に還流したときに水面上に発生することになる。特に水系の塗料の場合に粘着性と表面張力により泡が発生し、この泡は消えにくいため水槽内に徐々に蓄積される。
【0007】
さらに処理液内に取り込んだ塗料スラッジを微生物により分解処理することでスラッジの分離回収を削減する方法なども実用的に使用されてきている。この方法による塗装ブース(バイオブース)の処理液は生きているため、常に酸素供給のため撹拌が行われ、上記と同様これによって処理液自体が泡立ち空気と遮断されることになる。
【0008】
このような処理液の泡立ちは、塗料スラッジの回収処理に支障をきたし、作業性を低下させることになる。また泡によって嵩が増した処理液が水槽の壁面よりあふれたり、周囲の器物に触れて汚損したりする問題がでるなどの悪影響も作業者の負担になっている。さらにバイオブースのようにスラッジ処理の基本機能を損ねることにもなる。
【0009】
このような問題に対し、これまでの多くは消泡剤を投入し、発泡を抑える手段が採られていた。しかし塗装ブースの水量は多く、消泡剤を多量に使用しなければならず、また定期的に補充しなければ効果が低減するために、これらにかかるメンテナンスや費用が大きな負担となっている。
【0010】
このため、浮遊する泡を吸引し、遠心力の作用で消泡した後に液化させて戻す仕組みの消泡装置として知られている装置を用いることなどもあった。しかしこの方法では広い面積の水槽に対して全域を消泡することは難しく、適切な方法が得られていない。
【0011】
一方、消泡技術としては前記のように、機械的に行う方法、消泡剤等の化学的な処理を行う方法のほかにも熱による方法があり、特に洗浄装置や振動・撹拌をともなう装置には加熱部への接触による消泡手段が用いられることがある。
【0012】
例えば特開平8−24510号公報には排液を蒸留器によって蒸留する際に泡立ちが発生し泡と共に凝縮器に向かってしまうのを防止するため、蒸留器の蒸気を多管の熱交換器に送り、蒸気熱による加熱で水と溶剤を蒸発させることで泡を消す方法が記載されている。このように加熱される手段を持ち、しかも高温による液そのものを蒸発させる加熱領域で泡を消す技術など、それぞれ設置される環境の中で利用されている技術が見られる。
【0013】
加熱体による塗装用ブースへの利用は、揮発性の溶剤系塗料に対する加熱によって生ずる危険性に懸念があり、これまで採用されるに至っていない状況があった。また前記塗装ブースのように広い水面をもつ水槽の消泡に十分な効果を見出していなかった。
【特許文献1】特開2002−370087号公報
【特許文献2】特開平6−114206号公報
【特許文献3】特開2003−10746号公報
【特許文献4】特開平8−24510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は大量の水量と広い面積にわたる水槽の水面に生じる泡を効率よく消し、塗装ブースの機能を損なわず、作業者のメンテナンスにおける負荷を軽減することが可能な塗装ブースを得ることが目的で、具体的には塗装用ブースの水面に生じる泡を自動的に消し、循環する処理液の利用効果を高めることにある。
【0015】
また消泡作業等、処理液の適性維持のため作業者を煩わすことなく、簡単な操作で消泡が可能な装置とし、必要に応じて消泡をコントロールすることによって日々のコストをかけることなく、常に最適な状態で塗装ブースの使用が可能となることを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、噴霧された塗料ミストを吸引し、処理液によって捕集した塗料ミストを回収処理する塗装ブースにおいて、循環使用する処理液を貯留する水槽の水面上方に加熱媒体を配置することにある。
加熱媒体は、水面上の適当な距離に適宜の間隔で加熱されたパイプを配設し、内部に加温流体を循環させることによって構成し、表面が周囲と温度差のある加熱媒体を配置するものである。また別の加熱媒体として熱風を吹付けるノズルを水槽周囲に設け、水面上全域に流動する熱風域を形成することによって熱媒体を配置することができる。
【0017】
さらに加熱媒体は、温度と時間の制御によって効果的に設定され、塗装ブースの運転と連動して作動が制御されるように構成される。
水上面に配置し、表面が加熱された熱媒体は、移動可能とする他、泡の接触可能部分に非粘着性の表面処理加工を施すことによって、さらに効率の良い塗装ブースが得られる。

【発明の効果】
【0018】
塗装ブースの運転では、処理液の循環使用によって気泡が生じ、その泡は貯留する水槽に流れ込み、次第に蓄積して水槽の側壁面からオーバーフローし周囲を汚損する。また溢れない場合でも一部の破泡によって処理液中の塗料スラッジが飛散し、不必要な箇所を汚損する。本発明によれば水面上に生じた泡は、加熱体や熱風等による加熱媒体によって泡表面の接触することによって破泡し、必要以上の泡の発生を防止することができる。
【0019】
加熱媒体は、内部に加熱油や蒸気等を通したパイプが適当な間隔で敷設され、その高温となった表面によって、接触した泡が破裂して、液滴となって水槽に落下し不要な泡の発生を抑えることができる。加熱流体は循環によって安全かつ効率的に、加熱媒体を必要な温度に維持でき処理液や使用される塗料の性状による条件の変更に対応する制御が容易にできる利点がある。さらにパイプへの接触破泡によって、飛散する塗料スラッジが非粘着性の表面処理により、付着堆積することもなく長期間にわたり効果を持続させることができる。
【0020】
また塗装ブースの水槽は、処理液中に取り込まれる塗料スラッジを定期的に回収することから大きく開口しており、全体に加熱媒体を敷設するにはコスト面での問題があるが、請求項2の発明によれば水槽の周囲から中央部に向け熱風を水面上に吹き出す手段を設けたため、全面の泡を消泡若しくは発生防止することが可能となる。熱風は泡が一定以上に上昇してきた時に、若しくは塗装ブースの運転に合わせ、一定の時間間隔で噴射することによって一気に消泡でき、最少のコストで稼動させることができる。
【0021】
さらに熱媒体としての熱風吹き付けや加温流体の循環による加熱パイプの温度調節は、バルブ等の開閉制御で容易に可能であり、必要に応じて手動で行ったり、塗装ブースの運転と連動させて設定し、最も効率的な操作形態を採用することが容易に可能である。その他の効果は以下の実施形態と共に説明する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明を実施する場合の塗装用ブースの概略構成図を示すもので、塗装ブース本体1は、下部に水槽2を備え、その上部に噴霧された塗料の余剰ミストを空気と共に吸引し、塗料ミストを捕集・回収するミスト処理室3が設けられている。塗料ミスト処理の構造は幾つかあるが、代表的には水槽中の処理液Wをポンプによって吸引し、これをノズル等により噴霧して形成した噴霧シャワー領域Dを通過させるときに塗料ミストを吸着し、噴霧液と共に下部の水槽内に落とし込むものである。
【0023】
その他にも気流の勢いで水面近くの処理液を吸引しそれによって形成される水膜や噴霧領域で塗料ミストを捕集する場合もある。このような場合水面レベルが処理液の吸引に大きく影響し、泡の発生は水位の変化をもたらすため確実に防止する必要がある。
【0024】
また処理液Wを塗装室A側の前面板11に水膜Cとして流し、ここに衝突する塗料ミストを捕集する手段が多く取り入れられている。何れの塗装ブースにおいても水を主とした処理液が使用されており、下部の水槽2には常時一定量の液量が貯留され、図の例では取り込まれた塗料ミストが後部の開口部12より回収される構造となっている。回収の手段や装置は、種々の技術が使用されているが、ここでは省略している。
【0025】
塗装ブースの構造は、実施例として示した図1の例によれば、塗装室Aの前面に処理液Wが流下する水流板11が設けられ、その下端には後部処理室3内に気流と共に吸引された塗料ミストを噴霧シャワー等で接触捕集する処理室3への開口部4が形成されている。水流板11から流れ落ちた処理液Wは下部に設けた水槽2内に落下し、泡発生の一要因となっている。図の例では開口部4の奥に下部水流板13を設け、床面14にも水流を形成している。
【0026】
一方前記噴霧シャワーはノズル5より噴霧され、排気扇6によって吸引される気流に乗って、処理室3に入り込んだ塗料ミストを取り込む構成になっている。これらの各部に流れる処理液Wは後部水槽2内に集まり、図には示されていないが適宜のフィルタ等を介し、ポンプによって再び送り込まれる。
水槽2内に還流する処理液Wは塗料ミストを含み、かつ衝突による気泡の巻き込み等の要因によって泡が発生し水槽水面に徐々に増加し、泡面が上昇することになる。
【0027】
図1の例で後部水槽2の水面上部に配置したパイプ9は、図2に示すように所要の間隔をもって折り返し配設され、熱源10より送り込まれる加熱流体が循環する構成を備えている。循環する流体は蒸気、油等の流体が用いられ、制御装置7によって流量が調整可能な他、状況に応じて温度、循環時間等が制御される構成が設けられる。
【0028】
また処理液Wの泡立ちは使用する塗料によって、また投入される凝集剤等の薬剤によって異なり、使用される状況によってパイプ9の設置位置は泡面ないしは水面との距離が調整できるように図3に概略示したような可動手段8が付設されている。例えばスクリューの回転を利用してパイプ9を上下させ、制御装置7や熱源10とはフレキシブルなチューブによって接続される構成等が用いられる。
【0029】
このような例では熱媒体としての加熱体であるパイプ9が泡と直接接触することで消泡するために、接触や破泡による液中のスラッジの飛散によって汚れやすく、汚れに対する防止手段が求められる。したがって熱伝導性が高く、付着性の低い表面を持った加熱体として、例えば銅製等の金属パイプにふっ素系樹脂をコーティングしたものなどが一般的に用いられる。
【0030】
別の例として図4に示すように水槽2の周辺部に熱風用パイプ15を配設し、該熱風用パイプ15の所要箇所に噴射ノズル16を設ける。噴射ノズル16は水面の全域に高温の熱風が行き渡るように、位置と設置数の他、噴出量、噴出方向等が設定され、若しくは設定できるように、前記幾つかの要素が変更できるように設けられる。
【0031】
これらの方法・手段は既存の技術の中から選択され使用される。これらの組合せは多様で、水面の広さと発生する泡の状態によって多くの選択肢、設計要素があるが、発生する泡の上方より下方に向けて熱風を噴射し、加熱媒体である熱気流を水面全域に行き渡らせ、流動化された熱源を直接泡と接触させることによって効率よく消泡が可能となる。
【0032】
またこれらの泡は破泡の際に含まれていた塗料スラッジが飛散することから、水槽の壁面に囲まれた内部で破泡が行われるように位置が設定され、前記のパイプ9に付着した場合であっても、容易に払拭できるよう、表面にふっ素加工処理を施すとよい。
【0033】
図4の場合、熱風用パイプ15は水槽2の長手方向の内縁に沿って設け、それぞれ噴出ノズル16を内側に傾斜させて設けている。吹き出しの状態にもよるが、噴出される領域から熱気流の届く範囲がカバーでき、直接消泡が出来ない範囲が存在する場合はその中央部に下向きに設けた噴出ノズル16を設ければよく、状況に応じた配置を選択することによって効率的に消泡が可能となる。
【0034】
通常、熱媒体としてのパイプや噴射させる加熱空気の温度は高温のほど効果が高いが、エネルギー量から見た経済性と高温における危険の増加を考慮すると効果が得られる温度であれば低い方が良く、確認の結果60℃程度で十分に効果が得られることがわかった。
【0035】
さらに図6の例では水槽の水面上に加熱された熱媒体を設置する場合で、加熱体は内部に加熱流体が循環する管状部材で構成されるため、実施形態として加熱流体の通過域を基管部分19のみで形成し、これに熱伝導性の高い金属等で形成した伝熱体18を設けて、この伝熱体18を熱媒体として構成するものでも良い。この場合伝熱体を可動とすることで水槽内の発泡状態に応じてバランスよく配置することが可能で、水槽内のメンテナンスを行う場合に、邪魔にならないように移動させることも可能となる。
【0036】
以上のように、水槽内の泡の生じる部分にその全域に周囲より高温の熱媒体が存在する領域を形成し、その領域は望ましくは、温度管理手段を介して調整され、使用される塗料や塗装ブースの処理液によって変更できるように構成される。熱媒体となる熱源を流体として循環使用する実施例では、循環若しくは噴出の時間的な制御として、単に予め設定した熱源を送り込むために、手動バルブによる噴出と停止を行う方法、塗装ブースの運転に合わせて噴出させたり、適当なインターバルを設けて噴出させる方法、さらに水面上の泡の発生をレベル検知等の手段で感知し、その出力信号に応じて加熱空気を噴出させる等の方法を用いることができる。
同様に塗装における条件によって泡の発生状況を把握し、消泡効果に影響する熱源の温度ないしは供給量を制御することによって効率の良い運転を行うことができる。

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の塗装ブースを側面から見た概略構成断面図である。
【図2】図1の塗装ブースの水槽部分を上方から見た熱媒体の配置図である。
【図3】図2の側方から見た図で、加熱体を上下に可動させる手段を示した略図である。
【図4】他の実他の実施例を示し、加熱媒体を熱風とし水面上に噴霧するノズルを備えた熱風用パイプの敷設図である。
【図5】同じく図4を側面から見た略図である。
【図6】加熱体を部分的に移動可能とした場合の概要図である。
【図7】図6を側方から見た断面略図である。
【符号の説明】
【0038】
1 塗装ブース本体
2 水槽
3 処理室
4 開口部
5 ノズル
6 排気扇
7 制御装置
8 可動手段
9 パイプ
10 熱源
11 前面板
12 水槽開口部
15 熱風用パイプ
16 噴出ノズル
18 伝熱体
19 基管部分
A 塗装室
B 泡
C 水膜
D 噴霧シャワー領域
W 処理液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧された塗料ミストを吸引し、処理液との接触によって捕集した塗料ミストを処理液とともに回収処理する塗装ブースにおいて、循環使用する処理液を貯留し上部が開口する水槽の水面上方に、温度調節された加熱媒体を配置してなる循環処理液を使用する塗装ブース。
【請求項2】
前記加熱媒体が、水槽の開口部水面上のほぼ全域に、加熱流体が循環するパイプを敷設し、該パイプに温度及び循環条件が設定された熱媒体を循環させる手段が接続された加熱体である請求項1の循環処理液を使用する塗装ブース。
【請求項3】
前記加熱体は、泡の接触可能部分に非粘着性の表面処理加工を施してなる請求項2の循環処理液を使用する塗装ブース。
【請求項4】
前記加熱媒体が、水槽の開口部水面上のほぼ全域にわたってノズルより噴射される熱風域で構成された請求項1の循環処理液を使用する塗装ブース。
【請求項5】
前記加熱媒体は、温度と時間が調節され、塗装室の運転と連動して作動が制御される請求項1から請求項3の循環処理液を使用する塗装ブース。































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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