説明

循環水系の薬注制御方法、及び循環水系の薬注制御装置

【課題】循環水中の薬剤濃度を適正範囲に維持しつつ、循環水に注入された薬剤が即座に排水されて無駄に消費してしまうのを回避することができるようにする。
【解決手段】非排水期間T1、T3では、(b)、(c)に示すように、流量パルスが所定数発生する毎に薬剤が循環水に注入される。そして、(a)に示すように、電気伝導率が第1の所定値E1に達すると、(d)に示すように、排水期間T2に突入する。この排水期間T2では、薬剤の注入を禁止する一方、補給水を給水して循環水を希釈し、かつ該循環水の一部をブロー水としてブロー管から排水する。そして、電気伝導率が第2の所定値E2に低下するとブロー水の排水を終了する。一方、排水期間T2の流量パルスを計数しておき、排水期間T2の経過後に流量パルスの計数値に応じた薬剤量を循環水に補充注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は循環水系の薬注制御方法、及び循環水系の薬注制御装置に関し、より詳しくは薬剤が注入された循環水を使用して熱交換器等の被冷却装置を直接又は間接的に冷却する循環水系の薬注制御方法、及び循環水系の薬注制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、商業用ビルや各種工場などの空調設備では、冷却塔に供給された補給水を循環させて熱交換器等の被冷却装置を冷却するシステムが広く採用されている。
【0003】
この種のシステムでは、補給水を循環させると、水分の蒸発によって循環水が濃縮され、循環水中には溶存塩類等が高濃度に含まれるようになる。そしてその結果、循環水の水質が悪化して藻類やスライムが発生し、通水性の悪化や冷却能力の低下を招くおそれがある。また、上記スライム等に起因してレジオネラ菌が繁殖し、繁殖したレジオネラ菌が飛散水に同伴されて大気中に散布されてしまうおそれがある。さらに、硬度成分やシリカの濃縮によってスケールが析出して被冷却装置に付着し、熱効率の低下を招くおそれがある。
【0004】
そこで、非特許文献1に記載されているように、従来より、循環水中の溶存塩類等が過度に濃縮されないように、濃縮された循環水の一部を適宜系外に排水すると共に補給水を供給して循環水を希釈するブロー制御を行い、また防食剤や防スケール剤などの薬剤を循環水に注入し、冷却塔を運転することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、循環水系への補給水量を測定する補給水量測定手段と、循環水の水質を測定する水質測定手段と、補給水量測定手段と水質測定手段からの情報をもとに水処理薬品の注入量を制御する制御手段と、水処理薬品注入制御手段からの情報をもとに水処理薬品を注入する水処理薬品注入手段とからなる循環水系における水処理薬品注入制御システムが提案されている。
【0006】
この特許文献1では、循環水の濃縮倍率に応じた薬注量(水処理薬品注入量)を算出し、該薬注量を循環水に注入することにより、濃縮倍率が低いときは薬注量を増加させ、濃縮倍率が高くなると減少させ、これにより循環水中の薬剤濃度が適正範囲となるように制御している。すなわち、特許文献1では、濃縮倍率に応じて薬注量を補正することにより、循環水系の薬剤濃度を管理することができる。
【0007】
また、特許文献2は、ボイラに関するものであるが、給水ライン中にパルス発振付き流量計を挿設し、パルス発振付き流量計のパルス発振部と電磁駆動薬注ポンプの駆動部とを信号線にて連結した薬品注入装置が提案されている。
【0008】
ボイラに供給されるボイラ給水は、缶内で濃縮されるため、冷却塔と同様、ボイラ給水に薬剤を注入しながら運転しつつボイラ水を適宜ブローすることが行われている。そして、この特許文献2では、パルス発振付き流量計により給水量に比例したパルス信号(流量パルス)を発振し、該パルス信号にて電磁駆動薬注ポンプを駆動させることにより給水量に比例した量の薬剤を注入し、これによりボイラ給水中の薬剤濃度が一定となるようにしている。
【0009】
図11は、特許文献2の薬品注入装置を冷却塔等の循環水系に適用した場合の薬注タイミングとブロータイミングとの関係を示すタイムチャートである。
【0010】
すなわち、パルス発振付き流量計からは、図11(b)に示すように、補給水量に応じた流量パルスが出力される。そして、図11(c)に示すように、所定流量パルス(例えば、5流量パルス)毎に電磁駆動薬注ポンプが駆動し、薬剤が所定パルス幅で循環水に間欠的に注入される。
【0011】
一方、補給水を循環させると、該循環水は濃縮するため不純物濃度が高くなり、電気伝導率が上昇する。そして、図11(a)に示すように、循環水の電気伝導率が第1の所定値e1に達すると、図11(d)に示すように、循環水の一部は系外にブロー(排水)されると共に、補給水が冷却塔に強制的に供給され循環水は希釈される。そして、この循環水の希釈により濃縮倍率が低下し、電気伝導率は第2の所定値e2に低下してブローが終了する。
【0012】
また、特許文献1及び非特許文献1は、薬注タイミングとブロータイミングとの関係は記載されていないが、図11と略同様、電気伝導率で規定される排水期間で循環水をブローし、薬剤は所定間隔毎に循環水に注入されているものと思われる。
【0013】
【特許文献1】特開2002−159962号公報
【特許文献2】特開昭59−4806号公報
【非特許文献1】高田修一、川原孝七著「省エネルギー技術実践シリーズ 改訂2版クーリングタワー」、財団法人省エネルギーセンター、2003年4月16日、p.83〜91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように従来の循環系の薬注制御装置及び方法では、薬注タイミングとブロータイミングとは連携することなく、電気伝導率で規定される排水期間t中は、薬剤注入とは無関係にブロー制御が行われるのが一般的である。
【0015】
このため、上記図11に示すように、ブロータイミングと薬注タイミングとが時間的に重なり合い、ブローしている排水期間t中にも薬剤注入が行われる可能性がある。
【0016】
しかしながら、排水期間t中に薬剤注入が行われると、注入された薬剤が系内を循環することなく、そのままブロー水(ブロー時に排水される循環水)と共に系外に排水されてしまい、その結果薬剤が無駄に消費されてしまうおそれがある。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、循環水中の薬剤濃度を適正範囲に維持しつつ、循環水に注入された薬剤が即座に排水されて無駄に消費されてしまうのを回避することができる循環水系の薬注制御方法、及び循環水系の薬注制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、請求項1に記載の発明は、開放式の循環水系の循環水に水処理薬剤を注入する薬注制御方法であって、冷却塔における前記循環水のブロー中に、前記循環水への前記水処理薬剤の薬注を行わないように制御することを特徴としている。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記ブローが行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例した前記薬注を行うように制御することを特徴としている。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2において、前記ブロー弁を開弁制御していない場合に、前記循環水に前記水処理薬剤を所定量注入する薬注を行うように制御することを特徴としている。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、開放式の循環水系の循環水への水処理薬剤の注入を制御する薬注制御装置であって、冷却塔におけるブロー弁を制御するブロー弁制御と前記循環水に前記水処理薬剤を注入する薬注装置を制御する薬注制御とを行う制御部を備え、前記制御部による薬注制御は、前記循環水のブロー中に、前記薬注装置に薬注を行わせないように構成されていることを特徴としている。
【0022】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記薬注制御は、前記ブローが行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例して前記薬注装置に前記薬注を行わせるように構成されていることを特徴としている。
【0023】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5において、前記薬注制御は、前記ブロー弁を開弁制御していない場合に、前記循環水に前記水処理薬剤を所定量注入する薬注を前記薬注装置に行わせるように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、薬剤濃度を適正濃度に維持しつつ、薬剤が無駄に消費されるのを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る循環水系としての冷却塔の運転制御装置の一実施の形態(第1の実施の形態)を示すシステム構成図である。
【図2】上記第1の実施の形態のブロック構成図である。
【図3】運転制御装置の制御手順の第1の実施の形態を示すフローチャートである。
【図4】上記第1の実施の形態のタイムチャートである。
【図5】冷却塔の運転制御装置の第2の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図6】上記第2の実施の形態のブロック構成図である。
【図7】運転制御装置の制御手順の第2の実施の形態を示すフローチャートである。
【図8】上記第2の実施の形態のタイムチャートである。
【図9】運転制御装置の制御手順の第3の実施の形態を示すフローチャートである。
【図10】上記第3の実施の形態のタイムチャートである。
【図11】従来の循環水系の運転制御装置のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0027】
図1は、本発明に係る循環水系としての開放式冷却塔(以下、単に「冷却塔」という。)の運転制御装置について、第1の実施の形態を示すシステム構成図である。
【0028】
冷却塔1は、冷却塔本体2が、上部に開口部3を有すると共に、該開口部3にはファン4が配設され、かつ側面には外気を導入する通気孔としてのルーバー5が傾斜状に設けられている。
【0029】
また、冷却塔本体2の下部には循環水となる補給水を貯留する貯留部6が設けられると共に、該貯留部6には循環水の一部をブロー水としてオーバーフローを利用して系外に排水するブロー管7が設けられている。
【0030】
冷却塔本体2の下部には貯留部6内の水位を管理するボールタップ式給水栓(以下、「給水栓」という。)9が配されている。そして、該給水栓9には補給水ライン10が接続されると共に、該補給水ライン10には流量計11が介装され、補給水が循環水として貯留部6に給水されるように構成されている。また、流量計11は、補給水量に応じたパルス信号(以下、「流量パルス」という。)を発し、後述する制御部に送信する。
【0031】
また、流量計11の下流側には強制給水ライン12が給水ライン10から分岐して設けられている。該強制給水ライン12には電動弁13が介装されており、給水栓9により給水停止状態にあるときであっても強制給水ライン12から補給水が貯留部6に給水されることにより、循環水の一部がブロー管7をオーバーフローするように構成され、循環水の希釈及び排水が可能とされている。すなわち、強制給水ライン12、電動弁13及びブロー管7は、強制給水による排水手段として機能するように構成されている。
【0032】
尚、補給水の種類は特に限定されるものではなく、水道水、井戸水、地下水、工業用水等の原水を使用することができる。また、これらの原水をイオン交換樹脂等で処理し、軟水や脱塩水とした処理水を補給水に使用することもできる。
【0033】
また、貯留部6には、電気伝導率センサ(水質検出手段)14が挿設され、循環水の電気伝導率を検出する。そして、電気伝導率が過度に大きくなると、電動弁13が開弁し、強制給水ライン12から貯留部6へ強制的に補給水を給水することにより、循環水の一部はブロー管7をオーバーフローして系外に排水されると共に、循環水が希釈される。
【0034】
このようにして循環水の濃縮倍率を低下させることができ、これにより循環水の濃縮倍率が管理される。
【0035】
また、冷却塔本体2には薬注装置15が取り付けられている。この薬注装置15は薬剤(不図示)が貯留されると共に薬注ポンプ16aが内蔵された薬注装置本体16と、薬注ポンプ16aに接続されて貯留部6に挿設されたノズル17とを有している。そして、薬注ポンプ16aは、流量計11が発する流量パルスに応じ所定パルス幅で間欠的に駆動し、これにより必要に応じて薬剤が循環水に注入される。
【0036】
尚、薬注装置本体16に貯留される薬剤としては、防食・防スケール剤、又は防食・防スケール・殺菌の各作用を奏するマルチ剤を使用することができる。ここで、防食・防スケール剤としては、ポリマレイン酸やポリアクリル酸を主成分とした高分子ポリマー、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールを主成分としたアゾール類、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)や2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)を主成分としたホスホン酸類を挙げることができる。また、マルチ剤としては、上述した防食・防スケール剤に加えイソチアゾリン化合物やブロノポール等の殺菌剤を混合したものを挙げることができる。
【0037】
貯留部6には循環パイプ18が接続されると共に、該循環パイプ18の先端はファン4の下方に位置するように配され、かつ前記先端には多数のノズル19が装着されている。
【0038】
さらに、循環パイプ18の管路中には、循環水を冷却塔本体2の上部に還流させる循環ポンプ20と、循環水の温度を検出する温度センサ21と、熱交換器等の被冷却装置22とが配設されている。
【0039】
温度センサ21は、循環水の温度を検出し、ファン4を駆動するモータ23をインバータ制御する。具体的には、循環水の温度が高くなるとモータ23の回転数を高くしてルーバー5から冷却塔本体2に供給される風量を増やし、冷却効果を増大させる。一方、循環
水の温度が低い場合は、モータ23の回転数を低くしてファン4から冷却塔本体2に供給される風量を減らし冷却効果を低減させると共に、電力消費を抑制する。
【0040】
このように本実施の形態では、温度センサ21の検出結果に応じてモータ23をインバータ制御し、これにより冷却塔本体2内に供給される吸引風量、すなわちファン4からの吐出風量を管理している。
【0041】
図2は、第1の実施の形態に係る冷却塔の制御系を示すブロック構成図である。
【0042】
すなわち、制御部24は、制御対象となる構成部材との間でインターフェース動作を司る入出力部25と、所定の演算プログラム等が格納されたROM26と、演算結果を記憶したりワークエリアとして使用されるRAM27と、システム全体の制御を司るCPU28とを備えている。
【0043】
そして、流量計11、電気伝導率センサ14及び温度センサ21からの出力信号が入出力部25に入力され、また制御部24からの出力信号が薬注ポンプ16a、電動弁13及び循環ポンプ20に入力される。さらに、入出力部25にはインバータ装置29が電気的に接続されて該インバータ装置29との間で信号の授受を行い、モータ23の電源周波数を制御し、モータ23の回転数を変更する。
【0044】
このように構成された冷却塔は、以下のように運転制御される。
【0045】
図1において、まず、モータ23の駆動によりファン4が回転する。そしてこれにより、矢印A方向からルーバー5を介して冷却塔本体2内部に外気が流入し、また、この外気は冷却塔本体2の内部を循環して矢印Bに示すように、外部に排出される。
【0046】
そして、補給水が給水ライン10から給水栓9により給水が停止するまで冷却塔本体2に連続的に供給され、貯留部6に貯留される。これと並行して流量計11は補給水の通過に伴って流量パルスを発し、該流量パルスが制御部24に送信される。そして、流量パルスを受信した制御部24は、所定流量パルス(例えば、5パルス)毎に薬注ポンプ16aに駆動信号を送信する。この駆動信号を受信した薬注ポンプ16aは、所定パルス幅でもってノズル17から薬剤を吐出し、薬剤濃度が適正範囲となるように補給水に間欠的に注入する。
【0047】
貯留部6に貯留された補給水は、循環ポンプ20の駆動により、循環水として循環パイプ18を循環し、被冷却装置22を冷却する。
【0048】
一方、電気伝導率センサ14は循環水の電気伝導率を常時監視し、電気伝導率が第1の所定値E1を超えると循環水は過度に濃縮されたと判断し、電動弁13を開弁してブロー制御を開始する。すなわち、強制給水ライン12を介して補給水を強制的に給水して循環水を希釈しつつ、循環水の一部をブロー管7からオーバーフローさせて排水する。そして、電気伝導率が第2の所定値E2に低下すると、電動弁13を開弁して補給水の強制的な給水を停止し、ブロー制御を終了する。
【0049】
そして、本第1の実施の形態では、制御部24が、循環水の一部を系外に排水する排水期間中は薬剤の注入を禁止する薬剤注入禁止手段と、前記排水期間中の補給水量(流量パルス計数値)を記憶する補給水量記憶手段と、該補給水量記憶手段で記憶された補給水量に応じた薬剤量を前記排水期間経過後に前記循環水に補充注入する補充注入手段とを有している。
【0050】
図3は、第1の実施の形態に係る冷却塔の運転制御手順を示すフローチャートであって、本プログラムは冷却塔の運転により起動し、その停止により終了する。
【0051】
ステップS1では、薬注制御を行う。まず、補給水を補給水ライン10から貯留部6に給水すると共に、流量計11は補給水量に応じた流量パルスを発し、制御部24に送信する。そして、制御部24は、所定流量パルス(例えば、5流量パルス)毎に薬注ポンプ16aに駆動信号を送信し、薬注装置本体16に貯留された薬剤をノズル17から所定パルス幅で循環水に注入する。また、給水栓9により補給水が停止状態になると、流量計11は流量パルスを発しないため薬剤注入は停止する。
【0052】
次に、ステップS2ではブロー制御を開始するか否かを判断する。そして、その答が否定(No)、すなわちブロー制御を行わない場合は、ステップS1に戻り、上述した薬剤制御を続行する。具体的には、電気伝導率センサ14で検出される循環水の電気伝導率によりブロー制御を開始するか否かを判断する。そして、電気伝導率が第1の所定値E1未満の場合は不純物濃度も低く、循環水の濃縮倍率も低いためステップS2の答は否定(No)となり、ブロー制御は行わず、薬剤制御を実行する。
【0053】
一方、電気伝導率が第1の所定値E1を超えると、不純物濃度も高く循環水の濃縮倍率も高いため、ステップS2の答が肯定(Yes)となってブロー制御を開始する。すなわち、この場合はステップS3で薬剤注入を禁止し、ブローを実行する。具体的には、薬注ポンプ16aを停止して薬剤の注入を中断し、電動弁13を開弁して強制給水ライン12から補給水を貯留部6に給水して循環水を希釈しつつ、循環水の一部をブロー管7からオーバーフローさせて系外に排水する。また、これと同時に流量計11が発する流量パルスの計数を開始し、順次RAM27に記憶してゆく。
【0054】
次いで、ステップS4ではブロー制御を終了するか否かを判断する。そして、電気伝導率センサ14で検出される電気伝導率が第2の所定値E2(<E1)まで低下していない場合はブロー制御を実行する必要があることからステップS4の答は否定(No)となる。
【0055】
一方、電気伝導率が第2の所定値E2未満になった場合は濃縮倍率が十分に低下しているため、ステップS4の答は肯定(Yes)となり、ブロー制御を終了する。
【0056】
ステップS4の答が肯定(Yes)となってブロー制御が終了したと判断されると、ステップS5で流量パルスの計数を終了し、続くステップS6で、流量パルスの計数値、すなわち排水期間中の補給水量に応じた薬剤量を循環水に補充注入する。例えば、ステップS1の薬剤制御で5流量パルス毎に1回の薬剤注入を行う場合、ステップS3で計数された流量パルスの総数が10個のときは、所定パルス幅で連続的に2回分の薬剤量を循環水に補充注入する。
【0057】
そしてその後はステップS1に戻り、上述した薬注制御を行なう。
【0058】
図4は、薬注タイミングとブロータイミングとの関係を示すタイムチャートであり、図中、T2が電動弁13を開弁してブロー制御を行っている排水期間であり、T1、T3がブロー制御を行わずに薬注制御を行っている非排水期間である。
【0059】
非排水期間T1、T3では、図4(b)、(c)に示すように、流量計11が流量パルスを発すると、所定流量パルス、例えば5流量パルス毎に薬剤が所定パルス幅で流量パルスの発生に略同期して循環水に注入される。つまり、非排水期間T1、T3では、補給水量に比例した薬剤量が循環水に注入され、薬注制御が実行される。
【0060】
その後、時間の経過と共に循環水の濃縮倍率が高くなって不純物濃度が高くなると、電気伝導率が上昇する。そして、図4(a)に示すように、電気伝導率が第1の所定値E1に達すると、図4(d)に示すように、排水期間T2に突入する。この排水期間T2では、薬剤の注入を禁止する一方、補給水を強制給水ライン12から貯留部6に給水して循環水を希釈し、かつ該循環水の一部をブロー水としてブロー管7から排水する。そして、電気伝導率が第2の所定値E2に低下するとブロー水の排水を終了する。
【0061】
一方、排水期間T2中の流量パルスの計数値がRAM27に記憶されていることから、排水期間T2が終了すると薬注ポンプ16aが駆動し、流量パルスの計数値、すなわち排水期間T2中の補給水量に応じた薬剤量が循環水に補充注入される。すなわち、上述したように、例えば、薬剤制御時に5流量パルス毎に薬注ポンプ16aをパルス駆動させて薬注を行なっている場合、排水期間T2中に10個の流量パルスを計数したときは、排水期間T2終了後に2回連続的に薬注ポンプ16aを所定パルス幅で駆動させ、循環水に薬剤を補充注入する。
【0062】
このように本第1の実施の形態では、排水期間T2中は薬剤の注入を禁止する一方で、前記排水期間T2中の流量パルスを計数して記憶し、排水期間T2の経過後に排水期間T2中の流量パルスの計数値に応じた薬剤を循環水に補充注入するので、注入したばかりの薬剤がブロー水と共に排水されることもなく、薬剤が無駄に消費されるのを回避することができ、しかも循環水の薬剤濃度を常に適正範囲に維持することが可能となる。
【0063】
すなわち、本第1の実施の形態では、薬剤注入とブロー制御とが時間的に重なり合わないように薬剤注入とブロー制御とを連携させて運転制御し、かつブロー制御後に所要量の薬剤を補填するので、薬剤濃度を適正濃度に維持しつつ、薬剤が無駄に消費されるのを回避することができ、使用薬剤量の最適化を図ることが可能となる。
【0064】
尚、薬注タイミングとブロータイミングとが時間的に重なり合わないようにする方法としては、ブロータイミングを電気伝導率で制御する一方、薬注タイミングをタイマで制御することも可能である。この場合、薬注タイミングとブロータイミングとが時間的に重なり合うのを回避するためには、例えば、(i)薬剤注入を優先させ、ブロー制御する排水期間の開始をタイマで所定時間だけ遅延させる方法、或いは(ii)ブロー制御を優先させ、ブローが終了した後、薬剤注入を行う方法が考えられる。
【0065】
しかしながら、上記(i)の方法は、ブロー制御を遅延させるためのタイマが別途必要になる他、ブロー制御を遅延させているため、循環水の濃縮が促進され、スケールの生成や腐食等の不具合を早期に招くおそれがある。また、上記(ii)の方法は、ブロータイミングを薬剤注入に優先させるためのタイマが別途必要になる他、薬注タイミングと重なり合わないように電気伝導率が第1の所定値E1に達していなくてもブロー制御を行わなければならず、したがって濃縮倍率が未だ低い段階で循環水の一部が排水されることとなり、水が無駄に排水されるおそれがある。さらに、(i)、(ii)のいずれの方法も、薬剤注入をタイマで制御しているため、補給水の流量が変動すると循環水中の薬注濃度にバラツキが生じるおそれがあり、循環水中の薬剤濃度を適正範囲に維持するのが困難になるおそれがある。
【0066】
これに対し本第1の実施の形態では、流量計11が発する流量パルスに応じて薬剤を注入しており、しかも、排水期間T2経過後に所要量の薬剤を補充注入しているので、薬剤が無駄に消費されたり、循環水が無駄に排水されることもなく、循環水中の薬剤濃度が常に適正範囲に維持することができ、配管の腐食やスケールの発生を効果的に防止することが可能となる。
【0067】
図5は、本発明に係る循環水系としての冷却塔の運転制御装置について、第2の実施の形態を示すシステム構成図である。
【0068】
第1の実施の形態に係る冷却塔では、補給水ライン10に流量計11が介装されていたが、第2の実施の形態に係る冷却塔では、強制給水ライン12に定流量弁8(定流量化手段)が介装されている。
【0069】
図6は、第2の実施の形態に係る冷却塔の制御系を示すブロック構成図である。該第2の実施の形態では、CPU28′に内蔵されたタイマ28a′によりブロー制御中の排水期間T2を計時し、該排水期間T2と定流量弁8の設定流量から排水期間T2中の補給水量を算出し、排水期間中に給水された補給水量に応じた薬剤量を排水期間経過後に注入している。
【0070】
図7は、第2の実施の形態に係る冷却塔の運転制御手段を示すフローチャートであって、本プログラムは、第1の実施の形態と同様、冷却塔の運転により起動し、その停止により終了する。
【0071】
ステップS11では、薬注制御を行う。まず、補給水を補給水ライン10から貯留部6に給水する。そして、制御部24は、補給水量に比例した薬剤量が注入されるように一定時間間隔(例えば30分)毎に薬注ポンプ16aに駆動信号を送信し、薬注装置本体16に貯留された薬剤をノズル17から所定のパルス幅で循環水に注入する。
【0072】
薬注制御を行う際の補給水量は、下記数式(1)(2)より蒸発損失量E及び飛散損失量Wを算出し、これら蒸発損失量E及び飛散損失量Wの合計値(E+W)から推定する。
【0073】
E=R×(t1−t2)/λ ・・・(1)
W=R×0.001 ・・・(2)
ここで、Rは循環水量(kg/h)、t1は循環水入口温度(℃)、t2は循環水出口温度(℃)、λは蒸発潜熱(kcal/kg)である。
【0074】
例えば、蒸発損失量Eは、循環水入口温度t1が30℃、循環水出口温度t2が25℃のとき、水の蒸発潜熱を580kcal/kg(30℃)とすると、循環水量Rのおよそ0.86%となる。また、飛散損失量Wは、通常は循環水量Rの0.1%程度である。
【0075】
そして、この推定された補給水量に基づき、薬注ポンプ16aに駆動信号を送信する時間間隔、及び薬剤を注入するパルス幅を予め制御部24に設定しておく。
【0076】
次に、ステップS12ではブロー制御を開始するか否かを判断する。そして、その答が否定(No)の場合はステップS11に戻る一方、その答が肯定(Yes)の場合は、ステップS13に進み、薬剤の注入を禁止し、電動弁13を開弁してブローを実行する。また、これと同時にタイマ28a′により排水期間の計時を開始し、RAM27に記憶する。
【0077】
次いで、ステップS14ではブロー制御を終了するか否かを判断する。そして、その答が否定(No)のときはブロー制御の終了を待機する一方、その答が肯定(Yes)になると、ステップS15に進み、排水期間の計時を終了して該排水期間を算出し、続くステップS16では排水期間の経時値に定流量弁8の設定流量値を乗じて排水期間の補給水量を求め、該補給水量に応じた薬剤量を算出する。そして、ステップS17ではステップS16で算出された薬剤量を補給水に補充注入する。そしてその後はステップS11に戻り
、上述した薬注制御を行う。尚、ステップS12、S14におけるブロー制御の開始及び終了は、第1の実施の形態と同様に、電気伝導率センサ14で検出される電気伝導率に基づいて判断される。
【0078】
図8は、第2の実施の形態における薬注タイミングとブロータイミングとの関係を示すタイムチャートであり、第1の実施の形態(図4)と同様、T2がブロー制御を行っている排水期間であり、T1、T3がブロー制御を行わずに薬注制御を行っている非排水期間である。
【0079】
非排水期間T1、T3では、図8(b)に示すように、一定時間間隔、例えば30分毎に薬剤が所定パルス幅で循環水に注入される。
【0080】
そして、時間の経過と共に循環水の濃縮倍率が高くなって電気伝導率が上昇し、図8(a)に示すように、電気伝導率が第1の所定値E1に達すると、図8(c)に示すように、排水期間T2となる。この排水期間T2では、薬剤の注入を禁止する一方、補給水を強制給水ライン12から貯留部6に給水して循環水を希釈し、かつ該循環水の一部をブロー管7からブローする。一方、排水期間T2に突入するとタイマ28a′が計時を開始し、ブローの終了により排水期間T2が算出される。そして排水期間T2に定流量弁8の設定流量値を乗じて排水期間T2中の補給水量を求め、該補給水量に応じた薬剤量が算出し、ブロー制御の終了する排水期間T2の経過後、前記補給水量に応じた薬剤量を一括して循環水に補充注入する。
【0081】
このように本第2の実施の形態では、排水期間T2と補給水の設定流量から前記排水期間T2中の補給水量を算出し、さらに該補給水量に応じた薬剤量を算出して該薬剤量を排水期間の経過後に補給水に補充注入するので、第1の実施の形態と同様、注入したばかりの薬剤がブロー水と共に排水されることもなく、薬剤が無駄に消費されるのを回避することができ、しかも循環水の薬剤濃度を常に適正範囲に維持することが可能となる。
【0082】
すなわち、本第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、薬剤注入とブロー制御とが時間的に重なり合わないように薬剤注入とブロー制御とを連携させて運転制御し、かつブロー制御後に所要量の薬剤を補填するので、薬剤濃度を適正濃度に維持しつつ、薬剤が無駄に消費されるのを回避することができ、使用薬剤量の最適化を図ることが可能となる。
【0083】
図9は、第3の実施の形態を示すフローチャートであって、図1に示した冷却塔における運転制御手段の他の例を示すものである。この第3の実施の形態では、第1の実施の形態で説明した図3のフローチャートに加え、ステップS21、S22が追加されている。
【0084】
すなわち、この第3の実施の形態では、ステップS1で薬注制御を行った後、ステップS21で薬注後所定期間ΔTが経過したか否かを判断する。ここで、所定時間ΔTは、注入された薬剤が直ちにブロー管7に流入するのを回避でき、しかも、ブロータイミングの遅延により電気伝導率が第1の所定値E1を超えても濃縮が過度に促進されないような所定時間、例えば30分に設定される。そして、その答が否定(No)、すなわち、薬注直後の場合はステップS22に進み、ブロー制御を禁止して前記所定時間ΔTが経過するのを待機する。そして、薬注後所定時間ΔTが経過すると、ステップS21の答が肯定(Yes)の場合となって、ステップS2に進み、以降、第1の実施の形態と同様の処理を行う。
【0085】
図10は、上記第3の実施の形態における薬注タイミングとブロータイミングとの関係を示すタイムチャートである。
【0086】
すなわち、非排水期間T1では薬注制御が行われるが、薬注が行われた後は所定期間ΔTだけ強制的にブローを禁止し、所定期間ΔTが経過した後にブロー制御の可能状態とし、電気伝導率が第1の所定値E1を超えているときは、ブロー制御を行う。
【0087】
このように第3の実施の形態では、薬注後所定期間ΔTはブロー制御を禁止し、その後、ブロー制御を可能としているので、注入された薬剤が即座に循環水と共に系外に排水されるのを防止することができ、薬剤が無駄に消費されるのを回避することができる。
【0088】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、開放式冷却塔に限らず密閉式冷却塔にも適用可能なものである。
【0089】
上記第3の実施の形態では、第1の実施の形態に対して薬注直後のブロー制御を禁止しているが、第2の実施の形態に対しても同様に薬注直後のブロー制御を禁止するように構成するのも好ましい。
【符号の説明】
【0090】
1 冷却塔(循環水系)
13 電動弁(ブロー弁)
16 薬注装置本体(薬注装置)
24 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放式の循環水系の循環水に水処理薬剤を注入する薬注制御方法であって、
冷却塔における前記循環水のブロー中に、前記循環水への前記水処理薬剤の薬注を行わないように制御する
ことを特徴とする薬注制御方法。
【請求項2】
前記ブローが行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例した前記薬注を行うように制御する
ことを特徴とする請求項1記載の薬注制御方法。
【請求項3】
前記ブロー弁を開弁制御していない場合に、前記循環水に前記水処理薬剤を所定量注入する薬注を行うように制御する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の薬注制御方法。
【請求項4】
開放式の循環水系の循環水への水処理薬剤の注入を制御する薬注制御装置であって、
冷却塔におけるブロー弁を制御するブロー弁制御と前記循環水に前記水処理薬剤を注入する薬注装置を制御する薬注制御とを行う制御部を備え、
前記制御部による薬注制御は、前記循環水のブロー中に、前記薬注装置に薬注を行わせないように構成されている
ことを特徴とする薬注制御装置。
【請求項5】
前記薬注制御は、前記ブローが行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例して前記薬注装置に前記薬注を行わせるように構成されている
ことを特徴とする請求項4記載の薬注制御装置。
【請求項6】
前記薬注制御は、前記ブロー弁を開弁制御していない場合に、前記循環水に前記水処理薬剤を所定量注入する薬注を前記薬注装置に行わせるように構成されている
ことを特徴とする請求項4又は5記載の薬注制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−232306(P2012−232306A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161044(P2012−161044)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【分割の表示】特願2008−268970(P2008−268970)の分割
【原出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)