説明

循環部品の押え具及び該押え具を備えたボールねじ装置

【課題】ボールねじ装置の高速化及び耐久性の向上を図ることができる循環部品の押え具を提供する。
【解決手段】ボールねじ装置の負荷領域を転動するボール25をナット24の側面に設けられた二個一組の循環孔34に両端部が嵌合された循環部品27を固定するための押え具40であって、深絞り加工により成形され、循環部品27を覆う本体41と、該本体41のナット24側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部42と、本体41のナット24側の座部42以外の開口端を該座部42より短い長さで外側に折り返して形成された補強部43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種産業機械等に用いられるボールねじ装置の循環部品を固定するための押え具及び該押え具を備えたボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は従来のチューブ循環式のボールねじ装置を示すものであり、このボールねじ装置1は、外周面に螺旋状のねじ溝2を有するねじ軸3に、内周面にねじ溝2に対応する螺旋状のねじ溝4を有するナット6が螺合されている。
ナット6のねじ溝4とねじ軸3のねじ溝2とは、互いに対向して両者の間に螺旋状の負荷領域を形成しており、該負荷領域には転動体としての多数のボール5が転動可能に装填されている。そして、ねじ軸3(又はナット6)の回転により、ナット6(又はねじ軸3)がボール5の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
【0003】
また、ナット6の側面の一部は平坦面とされ、この平坦面に、両ねじ溝2,4間に連通する2個一組の循環孔7を、ねじ軸3を跨ぐように形成して、この一組の循環孔7に略コ字状をなすチューブ状の循環部品8の両端を嵌め込むことにより、両ねじ溝2,4間の負荷領域に沿って公転するボール5を循環部品8の一方の端部からすくい上げてナット6の外部に導き、他方の端部から前記負荷領域に戻すボール循環経路を形成している。
【0004】
なお、循環部品8をナット6の平坦面に固定するには、図11に示すような押え具9を用いている。この押え具9は、安価に大量生産すべく板金プレス加工により製作されたもので、図12〜図14に示すように、ナット6の軸方向に長い金属製の板材の下面略中央に、循環部品8に嵌め込んで該循環部品8を押えるための溝部9aが、該循環部品8の軸方向に沿って斜めに形成されている。また、溝部9aの両側は座部9bとされており、該座部9bには、ねじ挿通孔9cが形成されている。
【0005】
そして、押え具9の溝部9aを循環部品8に嵌め込み、この状態で、ねじ挿通孔9cに挿通したねじ9dを、ナット6の平坦面に設けたねじ孔(図示せず)に締め付けることにより、循環部品8がナット6に固定される。
ところで、このようなチューブ式の循環部品では、ナットの側面方向からボールをナットのねじ溝から完全に離し、多列化が可能な外部循環方式であるため、特に小リード品の高負荷容量化には好適であるが、最近のボールねじ装置の高速化に伴って、ボールが循環部品に衝突するスピードが速くなって衝突エネルギーが大きくなると、循環部品やねじ溝(ねじ溝の両肩部など含む)が破損して高速化への妨げとなるため、循環部品によるボールのすくい上げ方向を、ねじ軸の接線方向で、且つリード角方向に傾けたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
このボールねじ装置は、循環部品が合成樹脂製とされたもので、この循環部品10は、図15に示すように、ナット6の一対の循環孔7に嵌合される一対の脚部11と、該一対の脚部11を接続する本体12とを備えており、該脚部11内のボールの循環経路が両ねじ溝2,4間の螺旋軌道の接線方向と略一致するように傾斜して配置され、且つ点対称で径方向に2つに分割されて、その分割面にボール循環経路10aを構成する循環溝15が形成されている。
【0007】
そして、循環部品10をナット6に固定するには、ナット6に循環部品10を、ねじ等を介して直接固定するようにしている。
【特許文献1】特開2003−232421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のチューブ循環式のボールねじ装置においては、例えばボールねじ装置の取り付けに誤差がある場合や、ボールねじ装置を組み込んだ機械自体の剛性不足等によってボールねじ装置に大きなモーメント荷重が作用するような用途等では、ボール5の公転速度が場所によって異なることでボール5が循環部品8内に詰まり、ボール5が循環部品8を押し上げる力が働くことがある。このような力が循環部品8に作用した場合、板金プレス加工により製作された押え具9は、ナット6の平坦面に接する座部9bか変形しやすく、循環部品8が浮き上がってしまう可能性がある。
【0009】
この循環部品8の浮き上がりを防止する対策として、大径のボール(鋼球)を用いる大型のボールねじ装置等で押え具に強度が求められる用途では、ブロック状の鋼材の削り出しで製作された押え具を用いているが、この押え具は一個一個を機械加工で製作するため、加工コストが高くつくという問題が生じてくる。
一方、上記特許文献1に記載のボールねじ装置では、ナット6に循環部品10を、ねじ等を介して直接固定するため、ねじ止めした樹脂製の循環部品10がクリープ変形することによってねじの締め付けが緩んでしまう可能性がある。
【0010】
そこで、これらの不都合を解消するために、本出願人等は、特願2003−370978号明細書に記載の循環部品の押え具を先に提案した。
この押え具50は、図16に示すように、金属製の板材にプレス機による深絞り加工を施して成形され、循環部品のナットの側面に露出する部分の略全域(この例では全域)を覆うキャップ状の本体51と、該本体51の幅方向の両側位置でのナット側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部52と、座部52の上面と本体51の側面との間に設けられた補強用のリブ70とを備えており、座部52にはねじ挿通孔53が形成されている。
【0011】
そして、押え具50の本体51を循環部品に嵌め込み、この状態で、ねじ挿通孔53に挿通したねじをナットの平坦面に設けたねじ孔に締め付けることにより、循環部品がナットに固定される。
このような構造であれば、万一、循環部品内でボールが循環不良を起こして循環部品を内部から押しても、循環部品の略全域が金属製の押え具50の本体51によって覆われているので、循環部品の浮き上がりを防止することができると共に、循環部品の内部から透過して外部に放出される音を遮音して、騒音を低減することもできる。
【0012】
また、金属製の押え具50の座部52がナットにねじ止め固定され、且つ座部52が補強リブ70によって補強されているので、樹脂製の循環部品がクリープ変形することによってねじの締め付けが緩む等の心配がなく、該循環部品をナットに確実、且つ容易に固定することができる。更に、押え具50を金属板の深絞り加工で成形しているので、低コストで大量生産が可能となる。
【0013】
しかしながら、図16に示す形状の押え具50を製作する場合、通常、深絞り加工によって本体51の形状を成形し、本体51のナットの開口端側から外側にはみ出した部分54(図17(a)参照)を、座部52を残して本体51の側面に沿って切断する(図17(b)参照)。図17からも判るように、このような加工の場合、押え具50の本体51のナット側の開口端の内側部分にR(図17(b)参照)が残り、結果として、先端が薄肉となって尖った形状となってしまう。このため、図16に示す押え具50では、製造上、座部52以外の本体51のナット側の開口端の肉厚が薄くなって強度が不足し、ボールねじ装置の高速使用時や循環部品内でのボールの詰まり等で過大な力が加わった場合に、特に、本体51の座部52近傍のナット側の開口端にクラック等が発生する可能性がある。
【0014】
また、図16に示す押え具50を含め、従来の循環部品の押え具では、ボールねじ装置を、例えば、ねじ軸の径をDとし、回転数をNとしたときに、D×N<10程度の低速で使用した場合や、転動体として直径8mm以下のボールを用いた場合では、損傷が発生する可能性は低い。しかしながら、より高速で使用した場合及び大径のボールを用いた場合には、押え具に加わる繰り返し応力や、繰り返し回数が増加するため、特に、本体51の座部52近傍のナット側の開口端にクラック等が発生し、最終的には破損する可能性がある。
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、ボールねじ装置の高速化及び耐久性の向上を図ることができる循環部品の押え具及び該押え具を備えたボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ボールねじ装置のねじ軸のねじ溝と前記ねじ軸に螺合されるナットのねじ溝との間の負荷領域を転動する転動体を前記ナットの側面に設けられた二個一組の循環孔の内の一方の循環孔から該ナットの外部に導き、他方の循環孔から前記負荷領域に戻す転動体循環経路を内部に形成すべく前記各循環孔に両端部が嵌合された循環部品を固定するための押え具であって、
深絞り加工により成形され、前記循環部品を覆う本体と、該本体の前記ナット側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部と、前記本体の前記ナット側の前記座部以外の開口端を該座部より短い長さで外側に折り返して形成された補強部とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記補強部の折り返し長さを、前記座部を除く部分について板厚の0.5〜5倍としたことを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記補強部及び前記座部の折り返し部分の前記ナット側の開口端の周方向における長さを、前記開口端の全周の90%以上としたことを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記本体及び前記補強部の前記座部の近傍に、前記本体と前記座部との間に加わる応力を緩和する応力緩和部を形成したことを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項4において、前記応力緩和部を、前記座部と前記補強部との境界を連続する切り欠きで構成したことを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記押え具の材料を、引っ張り強さが40kgf/mm以上のステンレス材としたことを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記押え具は、前記循環部品の中心部分を含む連続した面で循環部品と接触し、
前記押え具の前記循環部品との接触部分における循環部品の長さ方向に沿った長さをCLとし、前記循環部品の長さをLとし、前記循環部品の幅をWとしたときに、L−3W≦CL≦L−Wの条件式が成立していることを特徴とする。
【0019】
請求項8に係る発明は、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して前記ねじ軸に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間の負荷領域に転動可能に装填された多数の転動体と、前記負荷領域を転動する前記転動体を前記ナットの側面に設けられた二個一組の循環孔の内の一方の循環孔から該ナットの外部に導き、他方の循環孔から前記負荷領域に戻す転動体循環経路を内部に形成すべく前記各循環孔に両端部が嵌合された循環部品と、該循環部品を固定する押え具とを備えたボールねじ装置において、
前記押え具として、請求項1〜7のいずれか一項に記載の押え具を用いたことを特徴とする。
請求項9に係る発明は、請求項8において、前記循環部品は、両端部に前記ナットの前記循環孔に嵌合される脚部を有し、該脚部内の前記転動体の通路が前記脚部の外周面に対して傾斜して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、深絞り加工により成形され、循環部品を覆う本体と、該本体のナット側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部と、本体のナット側の座部以外の開口端を該座部より短い長さで外側に折り返して形成された補強部とを備えているので、本体のナット側の座部以外の開口端の肉厚を厚くすることができ、また、折り返しによる補強部により押え具全体の強度を上げることができる。これにより、ボールねじ装置の高速使用時や転動体の詰まり等で過大な力が加わった場合においても押え具の破損を防止することができ、ボールねじ装置の高速化及び耐久性の向上を図ることができる。
【0021】
また、本体及び補強部の座部の近傍に、本体と座部との間に加わる応力を緩和する応力緩和部を形成しているため、本体と座部との間に生じる応力集中を防止することが可能となる。
また、循環部品として、両端部にナットの前記循環孔に嵌合される脚部を有し、該脚部内の転動体の通路が脚部の外周面に対して傾斜して形成されたものを用いることで、接線方向で、且つリード角方向の転動体のすくい上げを容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の第一実施形態の一例を、図を参照して説明する。
図1は本実施形態の一例であるボールねじ装置を説明するための説明図、図2は図1の右側面図、図3は押え具の全体斜視図、図4は押え具を成形する際の途中工程の形状を示す斜視図、図5(a)は余肉部分の切断前の状態を示す部分断面図、図5(b)は余肉部分の切断後の状態を示す部分断面図である。
【0023】
本実施形態の一例であるボールねじ装置20は、図1及び図2に示すように、外周面に螺旋状のねじ溝21を有するねじ軸22に、内周面にねじ溝21に対応する螺旋状のねじ溝23を有するナット24が螺合されており、ナット24のねじ溝23とねじ軸22のねじ溝21とは互いに対向して両者の間に螺旋状の負荷領域を形成している。
該負荷領域には転動体としての多数のボール25が転動可能に装填されており、ねじ軸22(又はナット24)の回転により、ナット24(又はねじ軸22)がボール25の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
ナット24の周方向の側面の一部には平坦面24aが形成されており、該平坦面24aには、内部がボール25の循環経路とされた合成樹脂製の循環部品27が取り付けられている。
【0024】
循環部品27は、本体31と、該本体31の両端側に設けられてねじ軸12の軸方向に対して略直角方向に延びる柱状又はブロック状等の一対の脚部30とを備えており、一対の脚部30は、ねじ軸22の軸方向に互いに離間し、且つねじ軸22の径方向に互いに離間して配置されている。これらの脚部30は、前記両ねじ溝21,23間の負荷領域に連通して、ナット24の平坦面24aに穿孔された二個一組の長孔状の循環孔34に嵌合されている。また、各脚部30の内部のボール25の循環経路は、ねじ軸22の略接線方向で、且つ両ねじ溝21,23のリード角と略一致する方向に延びて配置されている。
【0025】
そして、この循環部品27によって、前記両ねじ溝21,23間の負荷領域を転動するボール25を一方の脚部30からすくい上げてナット24の外部に導き、他方の脚部30から前記負荷領域に戻すボール循環経路を循環部品27内に形成している。
この循環部品27が、図10に示す従来のボールねじ装置に用いられるチューブ式の循環部品8と異なる点としては、一対の脚部30をナット24の平坦面24aに形成した循環孔34にほとんど隙間なく、単純にはめ込みながら、脚部30の内部に形成するボール25の循環経路の方向を脚部30の外周面に対して傾けることが可能な点である。
【0026】
このため、ナット24の平坦面24aには、従来のボールねじ装置のように、ねじ軸22に対して垂直方向に循環孔34を加工しておき、この循環孔34に単純に循環部品27の脚部30をはめ込む構造としながら、脚部30内の循環経路でのボール25の進行方向をねじ軸22の略接線方向で、且つ両ねじ溝21,23のリード角と略一致する方向に傾けることが可能となり、これにより、ナット24の加工が簡単で、且つ循環部品27内のボール25の循環経路の設計的自由度の向上を図ることができる。
ここで、この実施の形態では、樹脂製の循環部品27の脚部30をナット24の循環孔34に嵌め込んだ状態で、該循環部品27を金属製の押え具40を用いてナット24に固定している。
【0027】
この押え具40は、図3に示すように、金属製の板材にプレス機による絞り加工を施して成形され、循環部品27のナット24の周方向の側面に露出する部分の略全域(この例では循環部品27の本体31の全域)を覆うキャップ状の本体41と、本体41の幅方向両側で該本体41のナット24側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部42と、本体41のナット24側の座部42以外の開口端を該座部42より短い長さで外側に折り返して形成された補強部43とを備えており、座部42にねじ挿通孔44が形成されている。
【0028】
本体41と座部42との間には、隅Rが形成されている。この隅Rは、R0.5〜R2.0程度に形成されている。
押え具40を形成する金属材料としては、引っ張り強さが40kgf/mm以上のステンレス材を用いている。
ここで、補強部43の折り返し長さは、板厚の0.5〜5倍が好ましく、また、補強部43及び座部42の折り返し部分のナット24側の開口端の周方向における長さは、該開口端の全周の90%以上が好ましい。
【0029】
図4に押え具40を成形する際の途中工程を示す。
押え具40を成形する際には、まず、深絞り加工にて図4のような本体41の形状を成形し、次いで、本体41のナット24の開口端側から外側にはみ出した部分の内の座部42以外の余肉部分45(図5(a)参照)を、本体41の側面から所定寸法外側位置で切断し(図5(b)参照)、これにより、補強部43を形成する。
【0030】
なお、図3を参照して、押え具40の長手方向の端部40aには前記補強部43を設けていない。これは、押え具40は、図1に示すように、ナット24に固定されるため、前記端部40aに補強部43を設けると、ナット24のフランジ24bに補強部43が干渉するのを避けるためにナット24の長さが長くなるという弊害が生じるからである。但し、この端部40aは循環部品27からの突き上げ力があまり加わらない部分でもあり、ナット24の長さを短くした場合には補強部43はなくても構わないが、ナット24の長さに余裕がある場合は補強部43を全周に設けるのが好ましい。
【0031】
そして、押え具40の本体41を循環部品27の本体31に嵌め込み、この状態で、座部42のねじ挿通孔44に挿通したねじ29を、ナット24の平坦面24aに設けたねじ孔(図示せず)に締め付けることにより、循環部品27がナット24に固定される。
このように、本実施形態では、循環部品27の略全域が金属製の押え具40の本体41によって覆われているので、循環部品27内でボール25が循環不良を起こして循環部品27を内部から押しても、循環部品27の浮き上がりを防止することができると共に、循環部品27の内部から透過して外部に放出される音を遮音して、騒音を低減することもできる。
【0032】
また、金属製の押え具40の座部42がナット24にねじ止め固定されているので、樹脂製の循環部品27がクリープ変形することによってねじの締め付けが緩む等の心配がなく、該循環部品27をナット24に確実、且つ容易に固定することができる。更に、押え具40を金属板の深絞り加工で成形しているので、低コストで大量生産が可能となる。
更に、循環部品27の押え具40が、循環部品27を覆う本体41と、該本体27のナット24側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部42と、本体27のナット24側の座部42以外の開口端を該座部42より短い長さで外側に折り返して形成された補強部43とを備えているので、特に振動等が加わり、破損がおきやすい本体41のナット24側の座部42以外の開口端の肉厚を厚くすることができ、また、折り返しによる補強部43により押え具40全体の強度を上げることができる。
【0033】
また、本体41と座部42との間には隅Rが形成されているので、本体41と座部42との間に生じる応力集中が緩和されている。
また、押え具40を形成する金属材料として、引っ張り強さが40kgf/mm以上のステンレス材を用いているので、押え具40の、繰り返し荷重に対する耐久性を向上させることが可能となる。
【0034】
これにより、ボールねじ装置の高速使用時や転動体の詰まり等で過大な力が加わった場合においても押え具40の破損を防止することができ、ボールねじ装置の高速化及び耐久性の向上を図ることができる。
なお、本実施形態では、樹脂製の循環部品として、両端部にナット24の循環孔34に嵌合される脚部30を有し、各脚部30内のボール25の循環経路が脚部30の外周面に対して傾斜して形成されているものを例に採ったが、必ずしもこれに限定されず、例えば、図10で示したボールねじ装置のチューブ状循環部品8の押え具に本発明を適用してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、押え具40を形成する金属材料として、引っ張り強さが40kgf/mm以上のステンレス材を用いたが、必ずしもこれに限定されず、押え具40を形成する金属として、例えば、SPCCやSPCE等のプレス鋼板を用いてもよい。
また、押え具40は、上述したように、深絞り加工等が施されている部分が多く、これに起因する変質加工層が多い。このため、例えば、ショットピーニング等により、加工硬化を緩和させることによって、ボールねじ装置20の作動によって負荷される振動に対する耐久性を向上させてもよい。
【0036】
以下、本発明の第二実施形態の一例を、図を参照して説明する。
図6は本実施形態の一例であるボールねじ装置に備えられる押え具の全体斜視図であり、図7は循環部品の全体斜視図である。
本実施形態の一例であるボールねじ装置に備えられる押え具40は、以下の点を除き、上述した第一実施形態のものと同様である。すなわち、図6に示すように、押え具40の補強部43と座部42との境界に、応力を緩和する応力緩和部46が形成されている。
【0037】
応力緩和部46は、座部42と補強部43との境界を連続する切り欠き47で構成されており、座部42の両端側に、それぞれ形成されている。
押え具40と循環部品27とは、循環部品27の中心部分を含む連続した面で接触している。押え具40と循環部品27との接触面は、図7に示すように、押え具40の循環部品27との接触部分における循環部品27の長さ方向に沿った長さをCLとし、循環部品27の長さをLとし、循環部品27の幅をWとしたときに、L−3W≦CL≦L−Wの条件式が成立するように形成されている。
【0038】
このように、本実施形態では、本体41及び補強部43の座部42の近傍に、本体41と座部42との間に加わる応力を緩和する応力緩和部46が形成されているので、本体41と座部42との間、すなわち、構造上、強度の低い折り曲げ部に集中する応力が緩和され、押え具40の強度を向上させることが可能となる。これは、ボールねじ装置の使用時には、図8に示すように、循環部品27内において、主にボールの進行方向が変わる部分(図中では、「進行方向変換部」と示す)、すなわち、循環部品27の脚部近傍で発生した持ち上げ力により、図9に示すように、座部42を支点として押え具40に加わるモーメント力Fによって、本体41と座部42との間に集中する応力が発生するためであり、本実施形態の押え具40であれば、応力緩和部46によって、持ち上げ力を緩和することが可能となるためである。
【0039】
また、本実施形態では、押え具40と循環部品27とは、循環部品27の中心部分を含む連続した面で接触している。さらに、押え具40と循環部品27との接触面は、押え具40の循環部品27との接触部分における循環部品27の長さ方向に沿った長さをCLとし、循環部品27の長さをLとし、循環部品27の幅をWとしたときに、L−3W≦CL≦L−Wの条件式が成立するように形成されている。このため、循環部品27によって押え具40に加わる繰り返し応力、すなわち、循環部品27の脚部近傍で発生した持ち上げ力が、本体41の端部に加わることを防止することが可能となるため、本体41と座部42との間に集中する応力が緩和され、押え具40の強度を向上させることが可能となる。これは、循環部品27の脚部近傍で発生した持ち上げ力が、本体41の中心部及びその近傍に加わるためである。
【0040】
これにより、ボールねじ装置の高速使用時や転動体の詰まり等で過大な力が加わった場合、また、大径のボールを用いた場合等、振動数や突き上げ力が大きい場合においても、特に、本体51の座部52近傍のナット側の開口端にクラック等が発生することを防止することが可能となる。その結果、押え具40の破損を防止することができ、ボールねじ装置の高速化及び耐久性の向上を図ることができる。
なお、本実施形態では、応力緩和部46を、本体41と補強部43とを連続する切り欠き47によって形成したが、これに限定されるものではなく、応力緩和部46を、例えば、本体41と補強部43とを連続するスリットによって形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第一実施形態の一例であるボールねじ装置を説明するための説明図である。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】押え具の全体斜視図である。
【図4】押え具を成形する際の途中工程の形状を示す斜視図である。
【図5】(a)は余肉部分の切断前の状態を示す部分断面図、(b)は余肉部分の切断後の状態を示す部分断面図である。
【図6】本発明の第二実施形態の一例であるボールねじ装置に備えられる押え具の全体斜視図である。
【図7】循環部品の全体斜視図である。
【図8】循環部品内のボールの通過経路を示す図である。
【図9】押え具に加わる力を示す図である。
【図10】従来のボールねじ装置を説明するための要部断面図である。
【図11】循環チューブに従来の押え具を取り付けた状態を示す図である。
【図12】従来の押え具を示す図である。
【図13】図12の矢印A方向から見た図である。
【図14】図12の矢印B方向から見た図である。
【図15】従来の循環部品の一例を示す分解斜視図である。
【図16】押え具の全体斜視図である。
【図17】(a)は余肉部分の切断前の状態を示す部分断面図、(b)は余肉部分の切断後の状態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0042】
20 ボールねじ装置
21 ねじ溝
22 ねじ軸
23 ねじ溝
24 ナット
25 ボール(転動体)
27 循環部品
30 脚部
34 循環孔
40 押え具
41 本体
42 座部
43 補強部
46 応力緩和部
47 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ装置のねじ軸のねじ溝と前記ねじ軸に螺合されるナットのねじ溝との間の負荷領域を転動する転動体を前記ナットの側面に設けられた二個一組の循環孔の内の一方の循環孔から該ナットの外部に導き、他方の循環孔から前記負荷領域に戻す転動体循環経路を内部に形成すべく前記各循環孔に両端部が嵌合された循環部品を固定するための押え具であって、
深絞り加工により成形され、前記循環部品を覆う本体と、該本体の前記ナット側の開口端を外側に折り返して形成された固定用の座部と、前記本体の前記ナット側の前記座部以外の開口端を該座部より短い長さで外側に折り返して形成された補強部とを備えたことを特徴とする循環部品の押え具。
【請求項2】
前記補強部の折り返し長さを、前記座部を除く部分について板厚の0.5〜5倍としたことを特徴とする請求項1に記載した循環部品の押え具。
【請求項3】
前記補強部及び前記座部の折り返し部分の前記ナット側の開口端の周方向における長さを、前記開口端の全周の90%以上としたことを特徴とする請求項1又は2に記載した循環部品の押え具。
【請求項4】
前記本体及び前記補強部の前記座部の近傍に、前記本体と前記座部との間に加わる応力を緩和する応力緩和部を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載した循環部品の押え具。
【請求項5】
前記応力緩和部を、前記座部と前記補強部との境界を連続する切り欠きで構成したことを特徴とする請求項4に記載した循環部品の押え具。
【請求項6】
前記押え具の材料を、引っ張り強さが40kgf/mm以上のステンレス材としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載した循環部品の押え具。
【請求項7】
前記押え具は、前記循環部品の中心部分を含む連続した面で循環部品と接触し、
前記押え具の前記循環部品との接触部分における循環部品の長さ方向に沿った長さをCLとし、前記循環部品の長さをLとし、前記循環部品の幅をWとしたときに、L−3W≦CL≦L−Wの条件式が成立していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載した循環部品の押え具。
【請求項8】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して前記ねじ軸に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間の負荷領域に転動可能に装填された多数の転動体と、前記負荷領域を転動する前記転動体を前記ナットの側面に設けられた二個一組の循環孔の内の一方の循環孔から該ナットの外部に導き、他方の循環孔から前記負荷領域に戻す転動体循環経路を内部に形成すべく前記各循環孔に両端部が嵌合された循環部品と、該循環部品を固定する押え具とを備えたボールねじ装置において、
前記押え具として、請求項1〜7のいずれか一項に記載の押え具を用いたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項9】
前記循環部品は、両端部に前記ナットの前記循環孔に嵌合される脚部を有し、該脚部内の前記転動体の通路が前記脚部の外周面に対して傾斜して形成されていることを特徴とする請求項8に記載したボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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