説明

微小サンプリング装置の取付構造及び取付治具

【課題】タービンディスクのディスク面に微小サンプリング装置10を適切に位置決めしながら強固に固定する。
【解決手段】微小サンプルを切削採取するために用いられる微小サンプリング装置10をディスク面3上に取り付ける微小サンプリング装置10の取付治具20であって、ディスク面3の周方向に互いに離間して配置されて該ディスク面3に当接する第1位置決め手段30及び第2位置決め手段40と、微小サンプリング装置10をディスク面3に対して固定する固定ベルト50とを設け、第1位置決め手段30をディスク面3に対して進退可能とし、第2位置決め手段40を第1位置決め手段に対して進退可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガスタービンのタービンディスク等の産業機器材の表面から切削採取した微小サンプルを分析して産業機器材の脆化度の評価を行なう際に、微小サンプルを切削採取するために用いられる微小サンプリング装置を産業機器材に取り付けるための取付構造及び取付治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンのタービンディスクや車室材等の産業機器材には低合金鋼が用いられている。この低合金鋼は焼戻脆化が懸念されている材料であって、ガスタービンの健全性確保のためには、タービンディスクの高温長時間使用に伴う脆化進行挙動の把握が重要となる。
【0003】
上記ガスタービンの脆化進行挙動を把握するためには、信頼性向上の観点からは破壊試験を行うことが好ましい。しかし、破壊試験を行うためには、通常、大掛かりな部材の切り出しが必要となり、ガスタービンの長期的な稼動停止を招くため好ましくない。そこで、非破壊的でありつつも信頼性の高い脆化評価方法として、スモールパンチ法が提案されている。
【0004】
スモールパンチ法は、評価対象となる産業機器材の表面から薄膜状の微小サンプルを切削採取し、該微小サンプルに対してスモールパンチ試験を施して、産業機器材の脆化度を評価するものである。このスモールパンチ法を用いた具体的な評価方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
ここで、上記スモールパンチ法において微小サンプルを切削採取するための装置として、略円柱状をなす装置本体の径方向に開口する収納部内に、円弧状の切刃を備えた略半球状のカッターが配置された微小サンプリング装置が提案されている。この微小サンプリング装置においては、装置本体の収納部からカッターの切刃が径方向外側に向かって球面を描くように突出し、この切刃によって産業機器材の表面から円形薄膜状の微小サンプルを切削採取する構成とされている。
【0006】
なお、上記微小サンプリング装置の産業機器材への取り付けは、微小サンプリング装置側に設けられたマグネットを産業機器材に固定することで行なわれている。これにより、微小サンプルの切削採取時に、微小サンプリング装置が所定の位置からずれてしまうことを回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開3148869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のように微小サンプリング装置をマグネットによって産業機器材上に固定する場合、産業機器材の平坦面に対しては微小サンプリング装置を強固に固定することができるものの、例えばタービンディスクのディスク面等の円筒面を切削対象とする場合、該円筒面の種々の直径寸法に柔軟に対応して微小サンプリング装置を取り付けることが困難であるという問題があった。
【0009】
即ち、微小サンプルを切削採取するには、微小サンプリング装置と円筒面との位置決めを適切に行なう必要があるが、マグネットを用いて固定する構成の場合には、円筒面の直径寸法によっては上記位置決めを正確に行なうことが困難であり、所望の厚みの微小サンプルを取得することができないという問題があった。
【0010】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、タービンディスク等の産業機器材の円筒面に、微小サンプリング装置を適切に位置決めしながら強固に固定することが可能な微小サンプリング装置の取付構造、及び、該微小サンプリング装置の取付構造を備えた取付治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る微小サンプリング装置の取付構造は、微小サンプルを産業機器材の表面から切削採取して該微小サンプルから前記産業機器材の脆化度の評価を行なう際に、前記微小サンプルを切削採取するために用いられる微小サンプリング装置を、円筒面状をなす前記産業機器材に取り付ける微小サンプリング装置の取付構造であって、前記微小サンプリング装置に固定されるとともに、前記円筒面の周方向に互いに離間して配置されて該円筒面に当接する一対の位置決め手段と、該位置決め手段によって前記円筒面に対して位置決めされた微小サンプリング装置を、前記産業機器材に対して固定する固定手段とを備え、前記一対の位置決め手段の少なくとも一方が、前記円筒面に対して進退可能とされ、さらに前記一対の位置決め手段の少なくとも一方が、他方に対して進退可能とされていることを特徴とする。
【0012】
このような特徴の微小サンプリング装置の取付構造によれば、位置決め手段の少なくとも一方が円筒面に進退可能とされているため、微小サンプリング装置と円筒面との相対位置を適切に調節することができる。これにより、微小サンプリング装置の切削部と円筒面との位置決めを正確に行なうことが可能となる。
さらに、位置決め手段の少なくとも一方が他方に対して移動可能とされているため、種々の円筒面の直径寸法に柔軟に対応して、微小サンプリング装置を円筒面上に確実に設置することができる。
【0013】
また、前記一対の位置決め手段の少なくとも一方における前記円筒面との当接部は、丸みを帯びた形状をなしていることが好ましい。これにより、位置決め手段を円筒面に対して安定的に当接させることができる。
【0014】
さらに、前記一対の位置決め手段の少なくとも一方における前記円筒面との当接部が、前記円筒面と線接触する円弧面状をなしていることが好ましい。これによって、微小サンプリング装置が円筒面の軸線方向にぐらつくことなく、該微小サンプリング装置を安定的に円弧面上に設置することが可能となる。
【0015】
また、前記位置決め手段の少なくとも一方における前記円筒面との当接部に摩擦材が設けられ、又は、該当接部に粗面化処理が施されていることが好ましい。これにより、位置決め手段を円筒面上に滑ることなく設置することができ、例えば微小サンプルの切削採取時に切削抵抗を受けた際であっても、微小サンプリング装置が移動してしまうことを防止することができる。
【0016】
さらに、前記微小サンプリング装置の切削部の切削方向両側から該切削部を挟むようにして、一対の位置決め手段が配置されていることが好ましい。これにより、微小サンプルの切削採取時に円筒面から切削抵抗を受ける方向に位置決め手段が位置することになるため、該切削抵抗により微小サンプリング装置が移動してしまうことをより確実に防止することができる。
【0017】
また、前記固定手段は、前記円筒面に巻き掛けられて前記微小サンプリング装置を前記円筒面に対して押圧固定するベルト部材であることを特徴とする。これにより、位置決め手段によって適切に位置決めされた微小サンプリング装置を円筒面に対して確実に固定することができる。
【0018】
本発明に係る微小サンプリング装置の取付治具は、上記いずれの微小サンプリング装置の取付構造を備えた取付治具であって、前記位置決め手段と前記固定手段とが装着されるとともに、前記微小サンプリング装置の切削部を前記円筒面に向けて露出させた状態で該微小サンプリング装置を保持する治具本体を備えたことを特徴とする。
【0019】
このような特徴の微小サンプリング装置の取付治具によれば、治具本体が上記位置決め手段及び固定手段を備えているため、微小サンプリング装置と円筒面との位置決めを適切に行なうことができ、かつ、微小サンプリング装置を円筒面に対して確実に固定することができる。また、治具本体は、微小サンプリング装置の切削部を円筒面に向けて露出させた状態で該微小サンプリング装置を保持する構成のため、微小サンプリング装置よる微小サンプルの切削採取を妨げることなく、確実に微小サンプルを取得することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の微小サンプリング装置の取付構造及び取付治具によれば、種々の円筒面の直径寸法に対応して微小サンプリング装置の切削部と円筒面との位置決めを正確に行なうことできる。よって、例えば、タービンディスク等の産業機器材のディスク面上に、微小サンプリング装置を適切に位置決めしながら強固に固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】タービンディスクのディスク面に微小サンプリング装置を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図2】タービンディスクのディスク面に微小サンプリング装置を取り付けた状態におけるタービンディスクの軸線方向から見た図である。
【図3】微小サンプリング装置の斜視図である。
【図4】微小サンプリング装置が被切削物から微小サンプルを切削取得する動作を説明する図である。
【図5】微小サンプルを説明する図である。
【図6】取付治具の側面図である。
【図7】取付治具の平面図である。
【図8】取付治具によって微小サンプリング装置をディスク面に取り付けた状態を示すタービンディスクの軸線に直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の微小サンプリング装置の取付治具の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態の取付治具20は、図1及び図2に示すように、ガスタービンのローター1におけるタービンディスク2のディスク面(円筒面)3上に、該ディスク面3から微小サンプルSを切削採取するための微小サンプリング装置10を位置決めしながら取り付ける際に使用される。
【0023】
ガスタービンにおけるローター1は、図1に示すように、回転軸4と、複数のタービンディスク2とを備えている。
回転軸4は、図1に示すように、軸線Pを回転中心軸として、ガスタービンのケーシング(図示省略)の内方に回転自在に設けられており、発電機(図示省略)に接続されている。
【0024】
タービンディスク2は、軸線Pを中心として回転軸4外周側に固定される略円盤状をなしており、その外周部2aには動翼を固定するための複数の翼溝が複数形成されている。そして、このタービンディスクの3の軸線P方向の両端面には、該軸線Pを中心とする円筒状をなして軸線P方向に向かって突出するように形成された円筒部が形成されており、該円筒部の外周面が、タービンディスク2のディスク面3とされている。
【0025】
本実施形態においては、上記構成のタービンディスク2のディスク面3上に、微小サンプリング装置10が取付治具20によって取り付けられる。次に、微小サンプリング装置10の構成について図3及び図4を参照して説明する。
【0026】
微小サンプリング装置10は、図3に示すように、軸線Oを中心として所定の直径を有する円筒状をなす装置本体11を備えており、該装置本体11の前端部(図3における左側端部)寄りの部分には、装置本体11を直径方向に貫通する収納部12が形成されている。また、装置本体11の後端部(図3における右側端部)には、装置本体11内に内蔵されたモーターに電力供給を行なうための電源ケーブル11aが接続されている。
【0027】
また、上記装置本体11における収納部12内には、被切削物から微小サンプルSを切削取得するための切削部13が収容されている。この切削部13は、詳しくは図4に示すように、カッター14と、ボールネジ15と、連結部材16とを備えた構成とされている。
【0028】
カッター14は、略半球形状の内部がくり貫かれた略椀形状をなしており、その開口縁部の一部に円弧状をなす切刃14aが形成されている。このカッター14は、その切刃14aを、図4における収納部12の貫通方向下方側に突出された状態で配置されている。即ち、カッター14は、収納部12から被切削物側に向かって切刃14aが突出するように配置されている。
【0029】
ボールネジ15は、微小サンプリング装置10の後端側から前端側に向かって収納部12内に軸線Oに平行に突出している。このボールネジ15はその後端側が装置本体11内に内蔵されたモーターの回転軸に接続されており、これにより、モーターの回転に伴って収納部12内を軸線Oに平行に進退可能とされている。
【0030】
連結部材16は、カッター14とボールネジ15とを連結する部材であって、ボールネジ15の一端側が相対回動可能に取り付けられ、他端側がカッター14に固定されている。これによって、ボールネジ15の進退に伴い、カッター14は軸線O及び収納部12の貫通方向の両方に直交し、かつ、カッター14の略半球形状の中心を通過する軸線Qを中心として回転することになる。
【0031】
このようにカッター14が軸線Q回りに回転すると、図4(a)(b)に示すように、カッター14の切刃14aが収納部12から被切削物に向かって球面を描くように突出する。即ち、切刃14aが装置本体11の外周面から突出して球面を描きながら装置本体11の前端側から後端側に向かって移動することにより、被切削物の表面から微小サンプルSを切削採取することができるようになっている。
【0032】
このように切削採取された微小サンプルSは、図5に示すように、略円形又は楕円形の薄膜状をなしている。本実施形態においては、微小サンプリング装置10は、例えば直径dが17mm、厚みtが1.5mmの微小サンプルSを切削採取するものとする。なお、該微小サンプルSの寸法は、後述する第1位置決め手段30によって微小サンプリング装置10とディスク面3との距離を調節することにより、任意に変更することができる。
【0033】
次に、上記構成の微小サンプリング装置10をディスク面3上に取り付けるための取付治具20について図6及び図7を参照して説明する。
この取付治具20は、治具本体21と、締付部材26と、第1位置決め手段30と、第2位置決め手段40と、ベルト部材(固定手段)50とを備えており、図6における下側を被切削物(ディスク面)側として配置される。
【0034】
治具本体21は、微小サンプリング装置10の装置本体11の外周と略同一の内径を有する円筒形状の一部を切り欠いた形状をなしており、その内周側に治具本体21を軸線Oを一致させた状態で保持する。この治具本体21は、微小サンプリング装置10の軸線O方向全域にわたって保持することができるように、軸線O方向の寸法は微小サンプリング装置10の軸線O方向の寸法よりも大きくなるように構成されている。
【0035】
この治具本体21の軸線O方向中央よりも前端側(図6及び図7における左側)に所定距離離間した箇所における上側及び下側には、それぞれ第1開口部22及び第2開口部23が形成されている。
第1開口部22は、治具本体21における被切削物側の反対側において切り欠かれるようにして形成された開口であって、図7に示すように平面視において、軸線O方向を長手方向とした矩形状をなしている。
【0036】
第2開口部23は、治具本体21の被切削物側において切り欠かれるようにして形成された開口であって、上記第1開口部22よりも軸線O方向の寸法及び軸線O回りの周方向寸法が大きく形成されている。
この第2開口部23は、治具本体21の内周側に微小サンプリング装置10が保持された際に、微小サンプリング装置10の収納部12の被切削物側の開口が連通状態とされる。これによって、微小サンプリング装置10が治具本体21に保持された状態において、収納部12から突出するカッター14の切刃14aが、治具本体21の外周面の径方向外側に突出することができるようになっている。
【0037】
また、治具本体21の軸線O方向中央よりも後端側(図6及び図7における右側)に所定距離離間した箇所における被切削物側の反対側には、第3開口部24が形成されている。この第3開口部は、治具本体21をその周方向寸法半分よりも大きく切り欠くことにより形成された開口であって、これによって治具本体21に微小サンプリング装置10を保持した状態で該微小サンプリング装置10の装置本体11にメンテナンス等を行なうことができるようになっている。
【0038】
また、治具本体21における軸線O方向の略中央部には、治具本体21の外周側から内周側に向かって捩じ込まれる固定ネジ25が設けられており、治具本体21の内周側に微小サンプリング装置10が保持された状態でこの固定ネジ25を締め付けることで、微小サンプリング装置10を強固に保持することができるようになっている。
【0039】
締付部材26は、治具本体21後端に固定されており、軸線Oを中心とした略リング状をなし、ネジ部材27を締めることによりその内径が小さくなるように構成されている。これにより、締付部材26は、その内周側に位置する装置本体11の外周面を締め付けることで、該装置本体11を強固に保持することができるようになっている。
【0040】
第1位置決め手段30は、治具本体21の前端に設けられており、治具本体21の前端に固定され軸線Oを中心とした略円盤状をなす円盤部材31と、該円盤部材31における治具本体21とは反対側の面に固定されたネジ保持部材32と、該ネジ保持部材32を貫通して螺合された調整ネジ33とを備えている。
【0041】
即ち、上記ネジ保持部材32には、軸線Oに直交し、かつ、被切削物に向かった方向に貫通する雌ネジ孔(図示省略)が形成されており、該雌ネジ孔内に調整ネジ33が螺合された構成とされている。これにより、調整ネジ33は被切削物に対して進退可能とされる。そして、この調整ネジ33の先端は、タービンディスク2のディスク面3に当接可能な当接端部(当接部)34とされており、本実施形態においては、この当接端部34は丸みを帯びた形状、即ち、被切削物側に頂点を向けた略半球形状をなしている。
【0042】
第2位置決め手段40は、治具本体21において第3開口部24が存在する側の反対側、即ち、治具本体21の外周面における第3開口部24の周方向に離間した箇所に設けられている。この第2位置決め手段40は、治具本体21の外周面に軸線O方向に沿ってスライド移動可能に設けられたスライド板41と、該スライド板41の治具本体21とは反対側の面に固定された当接部材42とを備えている。
【0043】
第2位置決め手段40は、上記スライド板41を備えていることにより軸線O方向に、即ち、第1位置決め手段30に対して近接、離間する方向に移動可能とされている。また、当接部材42における被切削物側、かつ、第1位置決め手段30側の箇所には、被切削対象となるディスク面3に当接可能な当接面部(当接部)43が設けられている。この当接面部43は、被切削物側及び第1位置決め手段30側に凸となる円弧面状をなしており、ディスク面に対して線接触可能とされている。
【0044】
なお、治具本体21、第1位置決め手段30及び第2位置決め手段40の総重量は、上記微小サンプリング装置10よりも大きく設定されていることが好ましい。これにより、微小サンプリング装置10をより安定的に保持固定することができる。
また、上記第1位置決め手段30及び第2位置決め手段40は、微小サンプリング装置10の切削部13の切削方向両側から該切削部13を挟み込むように離間して配置されている。
【0045】
ベルト部材50は、長さ調節の可能な長尺帯状の部材であって、その一端が第1位置決め手段30に連結され、他端が第2位置決め手段40に連結されている。これによって、ベルトを切削対象となるディスク面3に周回させるように巻き付けて、ベルト部材50の長さを調節して締付けることにより、治具本体21をディスク面3に対して押圧することができるようになっている。
【0046】
次に、上記のような構成の取付治具20によって微小サンプリング装置10をタービンディスク2のディスク面3に固定する手順について説明する。
【0047】
まず、図8に示すように、取付治具20の治具本体21の内周側に微小サンプリング装置10を配置する。具体的には、治具本体21の後端側に設けられた締付部材26のネジ部材27を緩めることで、締付部材26の内周側を拡径させ、この状態において、治具本体21の後端側から該治具本体21の内周側へと微小サンプリング装置10を挿入する。なお、この際には、微小サンプリング装置10は、その先端側から治具本体21内周側へと挿入される。
【0048】
そして、図8に示すように、微小サンプリング装置10の収納部12の開口が治具本体の第2開口部23と連通状態となった位置において、治具本体21の固定ネジ25を締付けるとともに、締付部材26のネジ部材27を締付ける。これによって、微小サンプリング装置10と治具本体21との中心軸線が軸線Oに一致し、取付治具20内周側に微小サンプリング装置10が強固に一体化される。そして、第1位置決め手段30と第2位置決め手段40との間に、微小サンプリング装置10の切削部13が配置され、また、切削部13のカッター14における切刃14aが下方に露出する。
【0049】
次いで、上記のように微小サンプリング装置10を保持した取付治具20を、タービンディスク2のディスク面3上に設置する。この際、図2に示すように、微小サンプリング装置10及び取付治具20の軸線Oは、タービンディスク2の軸線Pに対して垂直な向きとされ、即ち、軸線Oはディスク面3の接線方向と平行な向きとされる。そして、第1位置決め手段30の調整ネジ33の当接端部34をディスク面3に当接させるとともに、第2位置決め手段40の当接部材42の当接面部43をディスク面3に当接させる。なお、この際、第2位置決め手段40をスライド移動させることによって該第2位置決め手段40と第1位置決め手段30との間隔を調節して、当該間隔をディスク面3の直径寸法に対応させる。
【0050】
このような状態においては、第1位置決め手段30の当接端部34は略半球状をなしているためディスク面3に対して点接触し、第2位置決め手段40の当接面部43は略円弧面状をなしているためディスク面に対して線接触する。
【0051】
続いて、図2に示すように、ベルト部材50をディスク面3の全周にわたって巻きつけて、該ベルト部材50の長さ寸法を短くするように締付けることで、取付治具20をディスク面3に対して押圧固定する。
そして、第1位置決め手段30の調整ネジ33を調整してディスク面3に対して進退移動させて、切刃14aとディスク面3との相対位置を調整する。以上の手順によって、微小サンプリング装置10の取付治具20によるディスク面3への取付手順が終了する。
【0052】
微小サンプルSを切削採取する際には、微小サンプリング装置10のモーターを駆動させることで、切削部13のカッター14を作動させる。これにより、上記調整ネジ33により調整した切刃14aとディスク面3との相対位置に応じて、所望の寸法の微小サンプルSを切削採取することができる。
そして、このように切削採取された微小サンプルSには、衝撃試験、靭性試験及び疲労試験等の各種機械強度試験が施させ、これによりタービンディスク2の脆化度の評価が行なわれる。
【0053】
本実施形態の取付治具20によれば、第1位置決め手段30の調整ネジ33が被切削対象としてのディスク面3に対して進退可能とされているため、微小サンプリング装置10の切削部13とディスク面3との相対位置を適切に調節することができる。これにより、微小サンプリング装置10の切刃14aとディスク面3との位置決めを正確に行なうことができ、切刃14aとディスク面3との距離に応じて所望のサイズの微小サンプルSを切削採取することが可能となる。
【0054】
さらに、第2位置決め手段40が第1位置決め手段30に対して近接、離間する方向に移動可能とされているため、当該第2位置決め手段40の位置を調整することにより、
種々の直径寸法のディスク面3に柔軟に対応して、微小サンプリング装置10をディスク面3上に確実に設置することが可能となる。
【0055】
また、第1位置決め手段30の調整ネジ33における当接端部が半球状、即ち、丸みを帯びた形状をなしているため、該第1位置決め手段30をディスク面3に対して安定的に当接させることができる。
さらにまた、第2位置決め手段40の当接部材42における当接面部43が、ディスク面3と線接触する円弧面状をなしているため、微小サンプリング装置10及び取付治具20をディスク面3の軸線P方向にぐらつかせることなく、安定的に設置することができる。
【0056】
また、微小サンプリング装置10をディスク面3に取り付けた状態において、第1位置決め手段30と第2位置決め手段40との間に微小サンプリング装置10の切削部13が配置され、即ち、切削時にディスク面3から切削抵抗が与えられる切削部13の両側において微小サンプリング装置10がディスク面3に対して設置されることになるため、該切削抵抗により微小サンプリング装置10及び取付治具20が移動してしまうことを防止することができる。
【0057】
さらに、ベルト部材50によって治具本体21をディスク面3に押圧固定することにより、第1位置決め手段30及び第2位置決め手段40によって適切に位置決めされた微小サンプリング装置10を円筒面に対して確実に固定することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、実施形態においては、第1位置決め手段30のみがディスク面3に対して進退可能な構成としたが、第2位置決め手段40も第1位置決め手段30と同様にディスク面3に対して進退移動可能とされていてもよい。この場合、切削部13とディスク面3との相対位置をより厳密に調整することができる。
【0059】
また、実施形態においては、第2位置決め手段40が第1位置決め手段30に対して進退可能な構成としたが、これに加えて第1位置決め手段30を第2位置決め手段40に対して進退可能な構成としてもよい。この場合、直径寸法の異なるディスク面3に対してより柔軟に対応することができる。
【0060】
また、第2位置決め手段40が移動不能とされ、第1位置決め手段30のみがディスク面3及び第2位置決め手段40のそれぞれに対して進退可能とされていてもよいし、逆に、第1位置決め手段30が移動不能とされ、第2位置決め手段40のみがディスク面3及び第1位置決め手段30のそれぞれに対して進退可能とされていてもよい。この場合であっても実施形態と同様、ディスク面3上に微小サンプリング装置10を適切に位置決めしながら強固に固定することができる。
【0061】
なお、第1位置決め手段30における当接端部34と第2位置決め手段40における当接面部43との少なくとも一方に、例えばゴム材等の摩擦材が設けられ、又は、これらの少なくとも一方に粗面化処理が施されていてもよい。この場合、第1位置決め手段30、第2位置決め手段40をディスク面3上に滑ることなく設置することができ、例えば微小サンプルSの切削時において微小サンプリング装置10及び取付治具20が移動してしまうことを防止することができる。
【0062】
また、実施形態においては微小サンプリング装置10を保持した取付治具20をディスク面3上に固定させる固定手段としてベルト部材50を用いたが、これに限定されることはなく、第1位置決め手段30及び第2位置決め手段40により位置決めされた取付治具20をディスク面3上に固定可能であるならば他の固定手段を用いてもよい。例えば、第1位置決め手段30及び第2位置決め手段40自体をマグネットから構成し、当該マグネットの吸着力によりディスク面3上に固定させる構成であってもよい。
【0063】
さらに、固定手段として用いられるベルト部材50は、必ずしもディスク面3の全周にわたって巻き掛けられていなくともよく、例えば、ベルト部材50の一部がディスク面3上に固定されており、該ディスク面3の周方向の一部においてベルト部材50が巻き掛けられた構成であってもよい。
【0064】
また、微小サンプリング装置10自体に、第1位置決め手段30、第2位置決め手段40及びベルト部材50からなる取付構造が直接的に設けられていてもよい。この場合であっても実施形態と同様に、ディスク面3上に微小サンプリング装置10を適切に位置決めしながら強固に固定することができる。
【0065】
そして、実施形態においては、微小サンプリング装置10の取付対象及び被切削対象をタービンディスク2のディスク面3とした場合について説明したが、これに限定されることはなく、円筒面を有するものならば他の産業機器材にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 ローター
2 タービンディスク
3 ディスク面(円筒面)
10 微小サンプリング装置
11 装置本体
20 取付治具
21 治具本体
30 第1位置決め手段(位置決め手段)
40 第2位置決め手段(位置決め手段)
50 ベルト部材(固定手段)
S 微小サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小サンプルを産業機器材の表面から切削採取して該微小サンプルから前記産業機器材の脆化度の評価を行なう際に、前記微小サンプルを切削採取するために用いられる微小サンプリング装置を、円筒面状をなす前記産業機器材に取り付ける微小サンプリング装置の取付構造であって、
前記微小サンプリング装置に固定されるとともに、前記円筒面の周方向に互いに離間して配置されて該円筒面に当接する一対の位置決め手段と、
該位置決め手段によって前記円筒面に対して位置決めされた微小サンプリング装置を、前記産業機器材に対して固定する固定手段とを備え、
前記一対の位置決め手段の少なくとも一方が、前記円筒面に対して進退可能とされ、さらに前記一対の位置決め手段の少なくとも一方が、他方に対して進退可能とされていることを特徴とする微小サンプリング装置の取付構造。
【請求項2】
前記一対の位置決め手段の少なくとも一方における前記円筒面との当接部が、丸みを帯びた形状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の微小サンプリング装置の取付構造。
【請求項3】
前記一対の位置決め手段の少なくとも一方における前記円筒面との当接部が、前記円筒面と線接触する円弧面状をなしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小サンプリング装置の取付構造。
【請求項4】
前記一対の位置決め手段の少なくとも一方における前記円筒面との当接部に摩擦材が設けられ、又は、該当接部に粗面化処理が施されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の微小サンプリング装置の取付構造。
【請求項5】
前記微小サンプリング装置の切削部の切削方向両側から該切削部を挟むようにして、一対の位置決め手段が配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の微小サンプリング装置の取付構造。
【請求項6】
前記固定手段は、前記円筒面に巻き掛けられて前記微小サンプリング装置を前記円筒面に対して押圧固定するベルト部材であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の微小サンプリング装置の取付構造。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の微小サンプリング装置の取付構造を備えた取付治具であって、
前記位置決め手段及び前記固定手段が固定されるとともに、前記微小サンプリング装置の切削部を前記円筒面に向けて露出させた状態で該微小サンプリング装置を保持する治具本体を備えたことを特徴とする取付治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117893(P2011−117893A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277452(P2009−277452)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】