説明

微小孔の検査装置およびその検査方法

【課題】被検査物における微小孔の位置のみならずその大きさの検出を可能とする微小孔の検査装置および方法を提供する。
【解決手段】被検査物Aの検査領域A1の、一方の側に可聴音発生装置1を配置し、他方の側で音圧を測定する一対のマイクロホン2、3を2次元的に走査させ、出力信号をそれぞれ取り込み、取り込んだ出力信号に基づいて音響インテンシティを測定して検査領域A1の微小孔aの位置を検出し、さらに測定された音響インテンシティの傾きを算出して傾きの大きさに基づいて微小孔aの大きさを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響インテンシティ法を用いて、加工品などの被検査物の微小孔を検査する微小孔の検査装置およびその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工品などの被検査物を検査する手法として、例えば、被検査物の検査領域をカメラで撮影し、この撮影した画像に基づいて検査領域に形成される微小孔の良否などを検査するものが知られている。
また、加工品に孔をレーザで貫通させた場合に、その孔の貫通の有無を音響センサ(マイクロホン)を用いて検査する装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−237677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の音響的な方法を用いた検査装置では、孔の貫通の有無は検査できるが、孔の大きさや位置を検出することができないという不具合がある。
このような背景の下で、音響インテンシティ法を用いて各種の実験を重ねた結果、音響インテンシティ法を用いて被検査物における微小孔の大きさや位置を検出できる、という新たな知見を得ることができた。
本発明は、かかる新知見に基づいて完成したものであり、その目的は音響インテンシティ法を用いて被検査物における微小孔の位置のみならずその大きさの検出を可能とする微小孔の検査装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決し本発明の目的を達成するために、本発明は、以下のような構成からなる。
第1の発明は、被検査物の検査領域上で、音圧を測定する一対のマイクロホンを走査させるマイクロホン走査手段と、前記一対のマイクロホンの出力信号を当該一対のマイクロホンの走査中にそれぞれ取り込み、この取り込んだ出力信号に基づいて音響インテンシティを測定する音響インテンシティ測定手段と、前記音響インテンシティ測定手段が測定した音響インテンシティの傾きを算出し、この算出した傾きの大きさに基づいて前記検査領域の微小孔を検出する微小孔検出手段と、を備えている。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、前記被検査物を挟んで前記一対のマイクロホンが配置される側とは逆側に配置されて可聴音を発生する可聴音発生手段を、さらに備えている。
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記微小孔検出手段は、さらに、前記音響インテンシティ測定手段が測定した音響インテンシティに基づいて前記検査領域の微小孔の位置を検出する。
第4の発明は、第2または第3の発明において、可聴音発生手段は、前記被検査物を着脱自在に構成した。
【0007】
第5の発明は、第1〜第4の発明において、前記マイクロホン走査手段は、前記被検査物の検査領域上で前記マイクロホンを2次元的に走査させる。
第6の発明は、被検査物の微小孔の検査方法であって、前記被検査物の検査領域上で、音圧を測定する一対のマイクロホンを走査させ、この走査中に前記一対のマイクロホンの出力信号をそれぞれ取り込む第1ステップと、前記第1ステップで取り込んだ出力信号に基づいて音響インテンシティを測定する第2ステップと、前記第2ステップで測定した音響インテンシティの傾きを算出し、この算出した傾きの大きさに基づいて前記検査領域の微小孔を検出する第3ステップと、を含む。
第7の発明は、第6の発明において、前記第3ステップでは、さらに、前記第2ステップで測定した音響インテンシティに基づいて前記検査領域の微小孔の位置を検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、音響インテンシティ法を用いることにより、例えば被検査物に形成された微小孔などの検査において、その微小孔の位置のみならずその大きさを検査することができる。
また、本発明では、被検査物を検査する場合に音響的な方法で行うようにした。このため、光学的な方法等では検査ができない環境や条件がある場合には、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の検査装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の検査装置の制御処理および信号処理のための構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の検査装置の制御処理および信号処理のための処理例を示すフローチャートである。
【図4】マイクロホンを被検査物の検査領域において1次元的に走査して得られた音響インテンシティの一例を示す図であり、微小孔の直径が0.2〔mm〕の場合である。
【図5】音響インテンシティの傾きを説明する図である。
【図6】実験に使用した音源の構成を示す図である。
【図7】実験で行ったマイクロホンの走査の方向を説明する図である。
【図8】図7の走査で得られた音響インテンシティの結果の一例を示す図である。
【図9】孔の半径を変化させ、これに対応する音響インテンシティの傾きを算出した一例を示す図である。
【図10】縦軸を各区間における音響インテンシティを平均した値、縦軸を周波数の大きさとして表した図である。
【図11】音場を示す図である。
【図12】音源位置の推定方法を説明する図である。
【図13】補完処理をしたときのホログラフィの音圧分布の一例を示す図である。
【図14】補完によるシミュレーションの誤差をまとめた図である。.
【図15】補完処理をしたときのホログラフィの音圧分布の他の例を示す図である。
【図16】補完による実験の誤差をまとめた図である。
【図17】音源が2つの場合の0.125〔mm〕補間を行ったホログラフィの音圧分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、本発明完成の基礎となった基礎実験を行うことにより新たな知見を得ることができ、この新知見に基づいて完成されたものである。このため、本発明の実施形態の説明に先立って、その基礎実験について以下に説明する。
(本発明の基礎実験)
1.目的
この実験は微小孔(微小穴)の測定を目的とし、音響インテンシティ法を用いて音響インテンシティの傾きと微小孔の径との関係を検討することにした。
【0011】
2.原理
2−1音響インテンシティ
音響インテンシティI〔W/m〕とは、単位断面積を通過する音のエネルギー流を表すベクトル量であり、次式で求められる。
I(t)=p(t)v(t) ・・・(1)
ここで、p(t)は音圧〔Pa〕、v(t)は粒子速度〔m/s〕である。
【0012】
2−2掃引法
音響インテンシティは、粒子速度を近接した同じ特性を持つ2つのマイクロホンを用いて、音圧の傾きにより近似することで測定が可能となる。
微小距離d離れた2点間の音圧をp1(x,t)、p2(x,t)とすると、音響インテンシティI(ω)は次式で表わされる。
I(ω)=−(1/ρωd)×Im{Gp1p2(ω)}・・・(2)
ここで、ρは空気の密度〔kg/m〕、ωは角周波数〔rad/s〕、dはマイクロホンp1とp2間の距離〔m〕、Im{Gp1p2(ω)}は、マイクロホンp1とp2間のクロススペクトルの密度の虚数部である。
2つのマイクロホンが音源から等距離にある場合、クロススペクトル密度が0になり、その位置が音源であることがわかる。
【0013】
3.実験方法
実験は無響室内にて行った。測定には、1/2インチ音響インテンシティマイクロホン(Bruel&Kjaer社製、Type4177)と、1/4インチマイクロホン(Bruel&Kjaer社製、Type2670)とを用いて行った。
マイクロホンの配置としては、1/2音響インテンシティマイクロホンは12〔mm〕のスペーサーを間に挟んだface−to−face型を用いた。1/4マイクロホンは、図6に示すように、ドライバユニット(UNI−PEX社製、P−300)とその先端に取り付けた真鍮製のキャップとの空洞部に取り付け、空洞部の音圧が一定になるようにした。真鍮製のキャップには、微小孔が開いている。
【0014】
音響インテンシティの測定は、図7に示すように、音源のある軸上の10〔mm〕の場所を音源と平行に0.1〔mm〕間隔で掃引(走査)した。
測定は、ドライブユニット(音源)が発生する可聴音の周波数が500〔Hz〕、700〔Hz〕、2000〔Hz〕、5000〔Hz〕の各場合で行い、その各場合において微小孔の大きさ(直径)を0.2〔mm〕、0.3〔mm〕、0.5〔mm〕、1.0〔mm〕にそれぞれ変更して行った。このときには、真鍮製のキャップ内の音圧は110〔db〕で一定とした。
【0015】
3.1最小二乗近似
上記の条件の下で、上記の掃引法を行うと、図8に示すような結果が得られる。
音響インテンシティの傾きは、掃引法による測定結果から得られる音源位置から左右に1〔mm〕、2〔mm〕、3〔mm〕、4〔mm〕、5〔mm〕の区間で算出(最小二乗近似)し、それらの平均値から傾きを求めた。音源位置は、音響インテンシティの値が0の位置である。
【0016】
4.実験結果
図9は、微小孔の大きさ(直径)を変化させた結果を示す。図9において、縦軸が各区間における音響インテンシティの各区間における傾きを平均した値、横軸が微小孔の大きさである。
この結果から、各周波数においても微小孔と音響インテンシティに対数関数的に比例関係にあることが確認できる。
図10は、縦軸を各区間における音響インテンシティを平均した値、縦軸を周波数の大きさとして表したものである。図10によれば、各微小孔の径においても音響インテンシティの傾きにほとんど変化がないことが確認できる。0.2〔mm〕、0.3〔mm〕の微小孔の場合には、他の微小孔より傾きに若干変化がある。
【0017】
5.まとめ
この実験では、音響インテンシティ法を用いた微小孔の径の測定を目的として4種類の微小孔と周波数を用いて行った。その結果として、微小孔と音響インテンシティの傾きには対数関数的に比例関係があることが推測された。このことから、音響インテンシティを用いて微小孔の径が測定できる可能性が示された。
【0018】
(本発明の概要)
本発明は、上記の基礎実験を基に、音響インテンシティ法を用いて被検査物における微小孔の位置のみならず大きさを検出できるという新たな知見を得ることができ、この新知見に基づいて完成したものである。
そこで、本発明は、その新知見を基に、被検査物の検査領域上で音響インテンシティマイクロホンを走査し、この走査中にマイクロホンの出力信号を取り込んで音響インテンシティを測定し、この測定した音響インテンシティの傾きを求め、この求めた傾きにより検査領域上の微小孔の大きさを検出するようにした。
【0019】
(検査装置の構成)
次に、本発明の微小孔の検査装置の概略構成について、図1を参照して説明する。
この実施形態に係る検査装置は、音響インテンシティ法を用いて、被検査物における微小孔aの位置と大きさを検出するものである。
ここで、被検査物Aとしては、例えば微小孔を有する金属製品、半導体製品、あるいはプラスチック製品などの加工品である。また、微小孔aの形状はこの例では円形であるが、その形状は長方形などでも良い。さらに、微小孔aの個数は複数でも良い。
【0020】
被検査物Aは、検査時に可聴音発生装置1に装着され、検査の終了後にはそれから外されるようになっている。このため、可聴音発生装置1は、被検査物Aを着脱自在に構成する。そして、可聴音発生装置1は、図1に示すように、検査物Aが装着される検査時には、可聴音を発生し、この発生された可聴音は被検査物Aの検査領域A1の裏面側に一定の音圧を与えるようになっている。可聴音発生装置1は、図6のドライバユニットに相当するものである。
【0021】
この検査装置では、可聴音発生装置1に装着される被検査物Aの検査領域A1上を、一対のマイクロホン2、3が2次元的に走査するようになっている。具体的には、マイクロホン2、3は、走査装置(図示せず)により、被検査物Aの検査領域A1上においてX軸およびY軸の2つの方向に移動できるようになっている。
マイクロホン2、3は、所定間隔をおいて配置され、それぞれ音圧を測定するものである。このマイクロホン2、3は、音響インテンシティプローブ4を構成している(図2参照)。
【0022】
(検査装置の信号処理などの構成)
次に、この実施形態に係る検査装置の信号処理などの構成について、図2を参照して説明する。
この検査装置は、図2に示すように、マイクロホン2、3と、アンプ5、6と、FFT分析器(FFTアナライザ)7と、コンピュータ8と、出力装置9とを備えている。
マイクロホン2、3は、それぞれ音圧を測定し、この測定音圧に応じた電気信号をアンプ5、6に出力する。アンプ5、6は、マイクロホン2、3の出力信号を取り込み、この取り込んだ出力信号をそれぞれ増幅する。
FFT分析器7は、アンプ5、6の出力信号をそれぞれ取り込み、この取り込んだ各出力信号について高速フーリエ変換(FFT)を行い、これに基づいて2つの出力信号間のクロススペクトルを算出する。
【0023】
コンピュータ8は、FFT分析器7が算出したクロススペクトルから(2)式を用いて音響インテンシティを測定する。また、コンピュータ8は、その測定した音響インテンシティに基づいて被検査物Aの微小孔aの位置を検出する。さらに、コンピュータ8は、後述のように、その測定した音響インテンシティの傾きを算出し、この算出した傾きに基づいて微小孔の大きさを求める。
また、コンピュータ8は、その検出した微小孔aの位置、その求めた微小孔aの大きさを出力装置9に出力表示する。さらに、コンピュータ8は、マイクロホン2、3を走査する走査装置10の走査を制御し、可聴音発生装置1の可聴音の発生などを制御する。
【0024】
(微小孔の検査方法)
次に、このような構成の検査装置による微小孔の検査方法の一例について、図3のフローチャートを参照して説明する。
まず、被検査物Aを可聴音発生装置1に装着させる。そして、コンピュータ8は、可聴音発生装置1に可聴音を発生させ、その可聴音は被検査物Aの検査領域A1の裏面側において一定の音圧になるように制御する。
【0025】
次に、コンピュータ8は、走査装置10の動作を開始させるので、マイクロホン2、3は被検査物Aの検査領域A1上で走査を開始する(ステップS1)。
ここで、マイクロホン2、3の走査は、例えば図1の検査領域A1上において、次のように行う。まず、X軸方法に走査を開始し、そのX軸方向の走査の終了後にY軸方向に所定距離移動し、次にX軸方向に走査を開始する、という走査を繰り返して2次元的に走査する。
【0026】
この走査の開始に伴って、FFT分析器7は、マイクロホン2、3の出力信号を取り込みを開始する(ステップS2)。すなわち、マイクロホン2、3の出力信号はアンプ5、6でそれぞれ増幅されたのち、FFT分析器7に取り込まれていく。
FFT分析器7による信号の取り込みは、マイクロホン2、3の走査が終了するまで継続される。マイクロホン2、3の走査が終了すると(ステップS3:YES)、FFT分析器7は、その取り込んだ2つの信号について高速フーリエ変換(FFT)を行い、これに基づいて2つの出力信号間のクロススペクトルを算出する(ステップS4)。
【0027】
次に、コンピュータ8は、FFT分析器7が算出したクロススペクトルから(2)式を用いて音響インテンシティを測定する(ステップS5)。この音響インテンシティの測定例を示すと、図4のようになる。この例は、直径が0.2〔mm〕からなる微小孔a上をマイクロホン2、3が走査したときに測定されたものである。
次に、コンピュータ8は、その測定した音響インテンシティに基づいて被検査物Aの微小孔aの位置を検出する(ステップS6)。ここで、その微小孔aの位置は音源に相当し、その音源(微小孔a)の中心で音響インテンシティの値が0になるので、音響インテンシティに基づいて微小孔aの位置を特定できる。
【0028】
引き続き、コンピュータ8は、その測定した音響インテンシティの傾きθを算出する(ステップS7)。音響インテンシティの傾きθの一例を示すと、図5のようになる。
ここで、音響インテンシティの傾きθとは、マイクロホン2、3の走査方向の走査位置の所定の変化(走査位置の単位変化)に対する音響インテンシティの変化をいう(図5参照)。
その算出した音響インテンシティの傾きθは、上記のように微小孔aの大きさ(径)と相関がある。そこで、この検査装置では、微小孔の大きさが既知であってその大きさが異なる複数の被検査物をあらかじめ用意し、その微小孔の大きさ異なる被検査物ごとに音響インテンシティの傾きθを求めておくものとする。また、その求めた音響インテンシティの傾きθと微小孔の大きさとを対応付けたテーブル(対応表)を予め作成し、この作成したテーブルをコンピュータ8のメモリに予め格納しておくものとする。
【0029】
次に、コンピュータ8は、ステップS7で算出した音響インテンシティの傾きθに基づいて微小孔aの大きさを求める(ステップS8)。これは、上記のようにコンピュータ8のメモリに格納されているテーブルを参照することで、求めることができる。
その後、コンピュータ8は、ステップS6で特定した微小孔aの位置、およびステップS8で求めた微小孔aの大きさを出力装置9に出力するので、出力装置9の表示画面にはそれらが表示される(ステップS9)。
【0030】
以上のように、この実施形態では、被検査物の検査領域上でマイクロホンを走査し、この走査中にマイクロホンの出力信号を取り込んでクロススペクトル法により音響インテンシティを測定するようにした。さらに、その測定した音響インテンシティを基に検査領域上の微小孔の位置を特定するとともに、その測定した音響インテンシティの傾きを求め、この求めた傾きにより検査領域上の微小孔の大きさを求めるようにした。
このため、この実施形態によれば、音響インテンシティ法を用いることにより、被検査物に形成された微小孔の検査において、その微小孔の位置のみならずその大きさを検出できる。
【0031】
また、この実施形態は、被検査物を検査する場合に音響的な方法で行うようにしたので、光学的な方法等では検査ができない環境や条件がある場合に、特に有効である。
(実施形態の変形例)
(1)上記の実施形態では、被検査物Aを固定させ、マイクロホン2、3を走査装置10で走査させて検査を行うようにした。
しかし、マイクロホン2、3を固定させ、被検査物AをXYテーブル上で移動(走査)させて検査を行うようにすることもできる。この場合には、XYテーブル上に被検査物Aを装着させた可聴音発生装置1を搭載し、XYテーブルをコンピュータで制御するように構成する。
【0032】
(2)上記の実施形態では、被検査物Aの検査領域A1上でマイクロホン2、3を2次元的に走査するようにしたが、本発明は被検査物Aによっては検査領域A1上を1次元的に走査するようにしても良い。
(3)上記の実施形態では、被検査物Aの検査領域A1上に形成される微小孔の検査に適用する場合について説明した。しかし、本発明は被検査物の検査領域上に形成される微小な欠陥孔の検査に適用するようにしても良い。
【0033】
(本発明の関連技術)
本願発明の関連技術として「音響ホログラフィ法を用いた小さな穴(孔)の同定に関する研究」を行ったので、以下にこれについて説明する。
1.目的
近年、各種機器や工作機械等の精密機器に対する非破壊検査が重要となっている。その中で小さい穴から漏れる音を用いて穴の検査をすることが考えられている。現在、音源位置同定の手法として大型のマイクロホンアレイを用いた音源位置同定が盛んに行われている(吉住夏輝「手持ちマイクロホンによる遠方・広範囲の音場可視化システム」日本音響学会誌 (2006),p.416-p.424)。
【0034】
その中でも音圧分布を2次元画像化し空間分解能が非常に高いとされる近距離場音響ホログラフィ法(NAH法)がある。しかし空間分解能がマイクロホンアレイの計測点に依存することや、計測システムによる音圧分布計測結果にアレイ構造が音場を乱すなどの原因で小さい音源に対して行うことが難しい(佐藤利和, 長友宏, 石井豊“近距離音響ホログラフィの発展とその周辺技術”日本音響学会講演論文集pp.1505-1508(2008)、以下、文献2という)。
そこで、本研究では、空間分解能を高くするため計測点に補間を使って補うことでNAH法法で高精度に小さな音源の同定が行えるかの検討をシミュレーションを用いて行った。また、大型のマイクロホンアレイを用いずにNAH法を用いて小穴から漏れる音を用いて小穴の同定を実験的に検証を行った。
【0035】
2.原理
2.1 NAH法の原理
図11に音場を示す。音源がz=0のxy面上にあるとする。音源面から平行な任意の測定面をz=zh( ただし0<zh )とすると音源面の2次元平面p(x,y,0)から測定面の2次元平面p(x,y,zh)をNAM法を用いて計算する。伝搬関数をgとすれば2つの音場の関係式は、次にように表せる(E.G.ウィリアムズ[ 著],吉川茂・西條献児[ 訳],”フーリエ音響学”, シュプリンガー・フェアラーク東京,(2005) pp.41-46,pp.110-113 )。
【0036】
【数1】

【0037】
ここで、2次元フーリエ変換を行うことで(3)式を波数空間に表すことができる。波数空間において畳み込み積分は積に置き換えることができる。
【0038】
【数2】

また、伝搬関数は波数空間において次式のように与えられる。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、kは波数を表している。
以上により、z=zhの測定面の波数空間からz=0の音源面の波数空間を計算することができ、これを2次元逆フーリエ変換することでz=0の音圧分布を求めることができる。
【0041】
2.2補間による音源位置同定精度
NAH法での空間分解能( 音源位置同定能力)は計測点数に依存する。そのため小さな音源に適用する場合膨大な計測点数が必要となってしまう。そこで、本研究では音源位置の同定に特化するために計測点と計測点の間をいくつか補間することで計測点間を補い高分解能を得ることとした。
(4)式を変形すると、以下のようになる。
【0042】
【数4】

【0043】
ここで、xd、ydは各方向の計測間隔、mは計測点数、dは計測点間隔を表している。以上より、計測点を補間で補うことで高分解能が期待できる。
2.3 NAH法の周波数範囲
NAH法では2次元のフーリエ変換を行うに当たり、波長あたりのサンプル数によって周波数範囲が制限される(上記の文献2)。
つまり計測点の間隔、測定領域の大きさで周波数範囲が決定される。標本化定理より次の式が成立する。
【0044】
【数5】

【0045】
ここで、dは計測点の間隔、Dは測定領域の大きさを表す。(7)式(8)式を満たさなければ空間エイリアシングが発生し正確に正弦波を再現することができない(識名章博, 山崎憲, ”音の伝搬シミュレーションの検討”日本音響学会講演論文集(2010)および上記文献2)。
【0046】
3.シミュレーションによる検討
3.1 シミュレーション条件
提案したNAH法における小さな音源の位置同定の性能を確認するためにTLMシミュレーションを使って検討を行った(識名章博, 山崎憲“音響ホログラフィ法を用いた小穴の同定に関する検討”日本音響学会講演論文集 (2010) )。
【0047】
今回用いるシミュレーションに使うモデルを考える。20×20×30 [cm] の直方体を考える。1 メッシュの大きさは0.1[cm] で200 ×200 ×300 の領域とした。また、音源の周波数は6000[Hz]とした。zs= 0[cm]の面に0.3[cm] の小さい穴を中心(0[cm], 0[cm],0[cm])に作成し、その面を音源面とした。また、6面の境界は無反射として音源から3[cm] 四方の面のみ剛壁とし全反射とした。15[cm]×15[cm]の正方形に計測点を1[cm] 間隔に設置し16点×16点の測定面を考える。これ以上大きく間隔を取る場合、計測間の情報が不足してしまい補間を行ったときに大きな問題がでる。また、2以外の点数の場合フーリエ変換を行うときに誤差が発生する可能性があるため今回はこの条件で行った。測定面は音源面からzh= 5[cm], 10[cm], 15[cm], 20[cm]の4面計測することとし今回行う補間は間隔1[cm], 0.5[cm], 0.25[cm], 0.125[cm] となるようにスプライン補間を行いそれぞれの条件でシミュレーションを行った。
【0048】
3.2 シミュレーションの結果
図12で音源位置の推定方法について述べる。(a) に補間なしの計算で求めたホログラフィの音圧分布を示す。(a) の横の点線で通過した音圧分布の断面図を(b) で示した。(b) の縦の点線のように音圧が最も高い点を推定音源位置とした。以後このように推定音源位置を決める。
【0049】
図13は、四角で囲ったところが決めた方法で求めた音源の推定位置を示しており、十字の点が実際の音源の場所を表している。(a) は 10[cm] のときで補間処理を行っていないときで(b) が補間を0.5[cm] としたとき(c) は0.25[cm]のとき(d) は0.125[cm] のときのホログラフィの音圧分布を示す。推定位置と真値がほぼ一致していることから音源の推定ができていることがわかる。それぞれ推定誤差は5[mm], 2.5[mm], 2[mm], 1[mm]で補間なしのときよりすべての条件で誤差を低減ができることがわかった。また音圧分布も補間を行った方がより鮮明に表すことができることがわかった。
図14に今回の 5[cm], 10[cm],15[cm],20[cm]のときのシミュレーションの誤差をまとめた。図より補間なしよりも補間した場合の方がどの条件でも誤差が大幅に減っている。0.125[cm] の補間ですべての測定誤差は1[mm] まで低減することができた。
以上より補間することでNAH法の精度を上げることができると考えられる。
【0050】
4.実験による検討
4.1 実験方法
前項より補完することでNAH法の精度を上げることができることが分かった。そこで、実際に実験を行い同様に計測し精度が向上するか検討を行う。またマイクロホンアレイを用いずマイクロホンを2本使う。1 本は基準マイクロホンとして反射の少ない場所に設置しもう1本は移動マイクロホンとしてx軸とy軸に走査させていく。2本のマイクロホン間でクロススペクトル法を用いて位相平均し各測定点での同時性を保ちつつ1面のアレイとして取り扱う。アレイの大きさはシミュレーションのときと同様に15[cm]×15[cm]の正方形に16点×16点測定を行う。音源はドライバーユニットとし小さな音源とするために0.3[cm] の小穴の空いたキャップを付けることで再現した。設置場所は(0[cm], 0[cm], 0[cm]) で、周波数は6000[Hz]の正弦波とした。
【0051】
マイクロホンと音源までの距離はzh= 5[cm],10[cm],15[cm],20[cm] の4面計測し補間は間隔が1[cm],0.5[cm],0.25[cm],0.125[cm]となるようにスプライン補間を行い、それぞれの条件で実験を行った。また音源が2つの場合でzh= 10[cm] のとき音源の設置場所は(3.7[cm], 11.3[cm], 0[cm])と(11.3[cm], 3.7[cm],0[cm]) として実験を行った。
【0052】
4.2 実験結果
結果を図15に示す。四角で囲ったところがNAH法による音源の推定位置を示しており、十字の点が実際の音源の場所を表している。(a) はzh= 10[cm] のときで補間処理を行っていないときで(b) が補間を0.5[cm] 、(c) は0.25[cm]、(d) は0.125[cm] のときのホログラフィの音圧分布を示す。推定位置と真値がほぼ一致していることから音源の推定ができていることがわかる。それぞれの推定誤差は5[mm],2.5[mm],2[mm],1[mm] で補間なしのときよりシミュレーションと同様にすべての条件で誤差が低減できることがわかった。
【0053】
図16に今回のzh= 5[cm],10[cm],15[cm],20[cm] のときの実験の誤差をまとめた。図より補間なしよりも補完した場合の方がどの条件でも誤差が大幅に減っている。0.125[cm] の補間ですべての測定で誤差は2[mm] まで低減することができた。
図17に音源が2つの場合の0.125[cm] 補間を行ったホログラフィの音圧分布を示す。図より音源が2つでも誤差2[mm] で音源の位置同定ができることがわかった。
【0054】
5.まとめ
空間分解能を高くするため計測点に補間を使って補うことでNAH法により高精度に小さな音源の同定が行えるかをシミュレーションで検討し、マイクロホンアレイを用いずに実験でも検討を行った。
その結果、シミュレーションでも実験でも同様に提案法で音源位置の誤差が低減でき、音源から20[cm]離れていても誤差2[mm] に抑えることができた。また音源が2つの場合でも音源位置推定ができた。誤差の要因として距離が離れると測定音圧の減衰が大きくなるためホログラフィの音圧分布を正確に作成することができなくなることが考えられる。そのため、より精度の高い音源位置推定を行う場合できるだけ近くに測定面を置くことでできることがわかった。さらにマイクロホンアレイを用いずにNAH法を用い小穴から漏れる音源の同定を行うことができた。
【符号の説明】
【0055】
A 被検査物
A1 検査領域
a 微小孔
1 可聴音発生装置
2、3 マイクロホン
5、6 アンプ
7 FFT分析器
8 コンピュータ
9 出力装置
10 走査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の検査領域上で、音圧を測定する一対のマイクロホンを走査させるマイクロホン走査手段と、
前記一対のマイクロホンの出力信号を当該一対のマイクロホンの走査中にそれぞれ取り込み、この取り込んだ出力信号に基づいて音響インテンシティを測定する音響インテンシティ測定手段と、
前記音響インテンシティ測定手段が測定した音響インテンシティの傾きを算出し、この算出した傾きの大きさに基づいて前記検査領域の微小孔を検出する微小孔検出手段と、
を備えることを特徴とする微小孔の検査装置。
【請求項2】
前記被検査物を挟んで前記一対のマイクロホンが配置される側とは逆側に配置されて可聴音を発生する可聴音発生手段を、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の微小孔の検査装置。
【請求項3】
前記微小孔検出手段は、さらに、前記音響インテンシティ測定手段が測定した音響インテンシティに基づいて前記検査領域の微小孔の位置を検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微小孔の検査装置。
【請求項4】
可聴音発生手段は、前記被検査物を着脱自在に構成したことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の微小孔の検査装置。
【請求項5】
前記マイクロホン走査手段は、前記被検査物の検査領域上で前記マイクロホンを2次元的に走査させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちのいずれか1項に記載の微小孔の検査装置。
【請求項6】
被検査物の微小孔の検査方法であって、
前記被検査物の検査領域上で、音圧を測定する一対のマイクロホンを走査させ、この走査中に前記一対のマイクロホンの出力信号をそれぞれ取り込む第1ステップと、
前記第1ステップで取り込んだ出力信号に基づいて音響インテンシティを測定する第2ステップと、
前記第2ステップで測定した音響インテンシティの傾きを算出し、この算出した傾きの大きさに基づいて前記検査領域の微小孔を検出する第3ステップと、
を含む微小孔の検査方法。
【請求項7】
前記第3ステップでは、さらに、前記第2ステップで測定した音響インテンシティに基づいて前記検査領域の微小孔の位置を検出することを特徴とする請求項6に記載の微小孔の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate