説明

微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法

【課題】 フルオラス法による天然物やその類縁体の多段階の合成を効率的に行うため、合成途中に濃縮操作が不要で、分離したフルオラス相をそのまま次反応に使用できるフルオラス多相系の多段階反応の開発。
【解決手段】 フルオラスタグを結合させた有機化合物をフルオラス溶媒に溶解させたフルオラス溶液と、該フルオラス溶媒と実質的に混和しない非フッ素系溶媒に非フルオラス性化合物を溶解させた非フッ素系溶液とを微小流路内で接触させて、該フルオラスタグを結合させた有機化合物と該非フルオラス性化合物とを反応させることを特徴とする、微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒等の非フッ素系溶媒と、それと混和しないフルオラス溶媒を用いる多相系反応による多段階反応を微小流路内で連続的に行うことを特徴とする反応方法に関する。さらに詳しくは、得られた反応生成物をフルオラス溶媒中に抽出分離し、相分離したフルオラス溶媒相を直接次の反応の原料溶液として用いる、反応と分離を同時に同一の微小流路系内で行う、連続的な反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオラス多相系反応とは、非フッ素系溶媒と、これと実質的に混じり合わないフルオラス溶媒との、少なくとも二相系で反応を行うものである。そして、フルオラス溶媒とは、一般には高度にフッ素化(例えば、パーフルオロ化)された炭化水素であり、場合によりさらにヘテロ原子を含む炭化水素類である。
【0003】
近年、有機化学においては環境汚染や健康リスクの観点から、安全で容易に回収・再利用できる揮発性有機溶媒の代替品の開発や、それら代替媒体を使用した反応・分離プロセスの開発が必要とされている。代替媒体とし、近年、毒性がほとんどないフッ素系溶媒であるフルオラス溶媒が注目されている。さらにフルオラス溶媒は多くの非フッ素系溶媒と室温では混和しないため容易に回収・再利用できることからも、グリーンケミストリーの観点から注目されている。
【0004】
このようなフルオラス溶媒の性質を利用したフルオラス多相系反応は主に触媒反応に応用さている。代表的な例としては、有機溶媒/フルオラス溶媒による2相系反応(Fluorous Bisphase System: FBS)である(非特許文献1)。すなわち、反応後に反応生成物を含む反応相である有機相と、フルオラス化された触媒を含むフルオラス相が相分離するため、反応生成物を容易に分離することができ、さらに触媒とフルオラス溶媒の回収と再利用が可能である。
【0005】
しかしフルオラス多相系反応では、反応を促進させるため反応系を加熱して均一系にする必要がある。また、使用できる非フッ素系溶媒はヘキサンやジエチルエーテルのような低極性な溶媒であり、DMFやアセトニトリルのように極性の高い溶媒は加熱しても常圧では混和しないため、その使用は制限される。
【0006】
近年、マイクロリアクター等の微小流路内で有機/フルオラス2相系触媒反応を行うことで、従来のバッチ系では必要であった加熱操作をすることなく、不均一の反応系でも触媒反応が効率的に進行することが報告されている(非特許文献2)。
【0007】
微小流路内では単位体積当たりの表面積が通常のバッチ系の反応容器と比べて格段に大きくなる。従ってフルオラス多相系反応を微小流路内で行うと、各相間の界面面積が格段に大きくなり、そのため界面を通っての物質移動が効率よくおこるため、不均一系でも反応が効率的に進行する。
【0008】
ところで、フルオラス法は、近年ではペプチドや核酸、糖などの天然物やその類縁体の効率的合成法としても広く用いられるようになり、医薬品合成やファインケミカル等の分野においても注目されている。その手法としては、原料となる有機化合物にフルオラスタグを結合させて反応を行い、反応終了後に有機溶媒とフルオラス溶媒を用いた液―液分配抽出により、反応生成物をフルオラス相に抽出して、夾雑物から分離する手法である。
【0009】
しかし前述の触媒反応と異なり、天然物合成は多段階のかつ様々な異なる反応を行う必要がある。さらに反応効率の向上のために、有機溶媒−フルオラス溶媒系に有機/フルオラス両親媒性溶媒を加えた、または有機溶媒―有機/フルオラス両親媒性溶媒による均一溶媒系での反応を行う必要がある(特許文献1、非特許文献3、4)。
【0010】
また、反応終了後の有機溶媒とフルオラス溶媒を用いた液―液分配抽出を行う前に、有機/フルオラス両親媒性溶媒を除去するために濃縮操作を行う必要がある。
【0011】
さらに、分離されたフルオラス相を次の反応工程に使用するには、基質濃度を調節するためにフルオラス相を濃縮する必要がある。
【0012】
このように現状では多段階、かつ多種類の反応を必要とする天然物合成の際には、有機/フルオラス両親媒性溶媒を加えた均一溶媒系での反応を行う場合がほとんどであるため、濃縮操作が必須となっており、効率的な多段階連続合成の大きなボトルネックになっている。さらにフルオラス合成法を将来、自動合成装置に対応させることを考慮すると濃縮操作を行うための濃縮装置を合成装置に付帯させることになり装置の大型化、かつ煩雑化につながり、ひいては装置のコストにも影響を及ぼすことになる。
【0013】
以上のことからフルオラス法による天然物やその類縁体の多段階の合成を効率的に行うには、合成途中に濃縮操作が不要で、分離したフルオラス相をそのまま次反応に使用できるフルオラス多相系反応での多段階反応の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】再表2005−070859号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】I. T. Horvath and J. Rabai、Science, 1994年, 266巻, p72-75
【非特許文献2】K. Mikami, M. Yamanaka, M. N. Islam, K. Kudo, N. Seino and M. Shinoda、Tetrahedron, 2003年, 59巻, p10593-10597
【非特許文献3】M. Mizuno, K. Goto, T. Miura, D. Hosaka and T. Inazu、Chem. Commun., 2003年、p972-973
【非特許文献4】T. Miura, Y. Hirose, M. Ohmae and T. Inazu、Org. Lett., 2001年、3巻、p3947-3950
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は微小流路中で不均一なフルオラス多相系反応による有機反応を行い、相分離しているフルオラス相中に反応生成物を回収し、該フルオラス相を直接次反応の原料溶液として用いる連続的な液相反応方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、フルオラスタグを結合させた有機化合物をフルオラス溶媒に溶解させたフルオラス溶液と、非フルオラス性化合物を非フッ素系溶媒に溶解させた非フッ素系溶液とを微小流路内で接触させることにより、不均一なフルオラス多相系反応を微小流路内で行うことができ、さらに反応生成物が迅速、かつ高収率でフルオラス相から回収できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の通りの反応方法である。
<1> フルオラスタグを結合させた有機化合物をフルオラス溶媒に溶解させたフルオラス溶液と、該フルオラス溶媒と実質的に混和しない非フッ素系溶媒に非フルオラス性化合物を溶解させた非フッ素系溶液とを微小流路内で接触させて、該フルオラスタグを結合させた有機化合物と該非フルオラス性化合物とを反応させることを特徴とする、微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法。
【0019】
<2> <1>に記載の反応方法で得られる不均一多相からフルオラス相を分離し、そのフルオラス相を実質的にそのまま次のフルオラス溶液として用い、別の種類の非フルオラス性化合物に対する次の<1>に記載の反応方法を行う、ということにより別の種類の<1>に記載の反応方法を2回以上繰り返すことを特徴とする、微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法。
【0020】
<3> 該フルオラス溶液と該非フッ素系溶液とを用いるフルオラス不均一2相系反応方法である、<1>または<2>に記載の反応方法。
【0021】
<4> フルオラスタグのフルオラス基が高度にフッ素化された炭化水素基である、<1>〜<3>に記載の反応方法。
【0022】
<5> フルオラスタグのフルオラス基が下記式(1)で示されるペルフルオロポリエーテル基である、<4>に記載の反応方法。
【化1】

(式(1)においてnは1〜50の整数を表す。)
【0023】
<6> フルオラスタグのフルオラス基が下記式(2)で示されるペルフルオロポリエーテル基である、<4>に記載の反応方法。
【化2】

(式(2)においてnは10〜15の整数を表す。)
【0024】
<7> フルオラスタグを結合させる有機化合物が糖誘導体である、<1>〜<6>に記載の反応方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の反応方法は、フルオラス多相系反応への適性に優れ、かつ、多段階の合成反応を途中で濃縮操作を行うことなく連続的に行うことができる。さらに使用するフルオラス溶媒の量を最小限に抑えることができる。このように本発明は省エネルギーで省資源型の合成反応の手法であることから、工業的価値やその波及効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の、微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法の実施に用いられる装置の概略を示す模式図。
【図2】実施例の反応方法に用いる装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、図1を参照しながら説明する。
まず、フルオラス溶媒に溶解させるために出発原料である有機化合物にフルオラスタグを結合させた第1フルオラス化合物Rf1のフルオラス溶液と、第1反応で使用する非フルオラス系の基質群や試薬群A-1を非フッ素系溶媒に溶解させた非フッ素系溶液を準備する。
【0028】
次にフルオラス化合物Rf1のフルオラス溶液と、非フルオラス系の基質群や試薬群A-1の非フッ素系溶液を、それぞれ第1微小流路B1に供給し、その内部を流通させる。
【0029】
第1微小流路B1を流れる間に第1反応がフルオラス相と非フッ素系溶媒相との界面を介して進行する。
【0030】
第1微小流路B1から流出してきた第1反応溶液はフルオラス溶液相と非フッ素系溶液相とが相分離した状態で流出し、フルオラス相には第1反応のフルオラス性反応生成物Rf2が抽出されている。
【0031】
第1反応の結果生じたA-1由来の化合物群A-1*が溶解している非フッ素系溶媒相から、Rf2が溶解しているフルオラス溶液相を分離し、該フルオラス溶液と、第2反応で使用する非フルオラス系の基質群や試薬群A-2を非フッ素系溶媒に溶解させた非フッ素系溶液をそれぞれ第2微小流路B2に供給し、その内部を流通させる。なお、第1反応のフルオラス性反応生成物Rf2は第2反応のフルオラス性反応原料となる。
【0032】
以下、第1反応の場合と同様に、第2微小流路B2から流出してきた第2反応溶液は、第2反応のフルオラス性反応生成物Rf3が溶解したフルオラス溶液相と、第2反応の結果生じたA-2由来の化合物群A-2*が溶解している非フッ素系溶媒相が相分離しているので、Rf3が溶解したフルオラス溶液相を分離し、第3微小流路B3に、第3反応で使用する非フルオラス系の基質群や試薬群A-3を非フッ素系溶媒に溶解させた非フッ素系溶液と共に導入して、第3反応を進行させる。
【0033】
以下、目的の化合物が得られるまで全ての反応工程に対して、同様の操作を繰り返し行い、最終の第n反応終了後、フルオラス相から最終目的化合物である、第n反応生成物の粗生成物が得られる。該粗生成物はカラムクロマトグラフィー等の既存の精製手段で精製を行った後、目的物質Rf(n+1)が得られる。
【0034】
本発明において「微小流路」とは、反応のための流体が流れる流路の幅がマイクロオーダーまたはミリオーダー(約1μm以上、1cm以下)、具体的には約10〜5000μmである空間を意味し、例えば流路の断面積が約3.1×10-6〜7.9×10-1cm2である空間であり得る。尚、流路幅および流路断面積は、反応ごとに異なっていても、同じであってもよい。
【0035】
本発明における不均一なフルオラス多相系反応では、フルオラスタグが結合した有機化合物を用いることにより、フルオラス性の反応生成物がフルオラス溶媒相に可溶で非フッ素溶媒相に難溶、非フルオラス性の反応基質や試薬類が非フッ素系溶媒相に可溶でフルオラス溶媒相に難溶であることを利用して、反応終了後にフルオラス性の反応生成物をフルオラス溶媒相の溶液として非フルオラス性夾雑物から分離し、その他の一切の操作を加えることなくそのまま次反応の原料溶液として利用することを可能とする。
【0036】
本発明において、フルオラスタグを結合させる有機化合物とは、その構造が天然型、非天然型のいずれであってもよく、分子量が約1500未満、更に好ましくは約1000未満であり、例えば脂質、糖化合物、アミノ酸、ヌクレオチド、アルカロイド化合物、ステロイド化合物、芳香族化合物等を挙げることができ、糖誘導体が特に好ましい。また、分子量が1500未満であればこれらの有機化合物が同種、もしくは異種類の化合物間で結合した複合体やオリゴマーであってもよく、例えば糖化合物同士が結合した糖鎖、アミノ酸同士が結合したペプチド、ヌクレオチドが結合したオリゴヌクレオチド、糖化合物とアミノ酸が結合した糖アミノ酸、糖化合物と脂質が結合した糖脂質、糖化合物とヌクレオチドが結合した糖ヌクレオチド、糖化合物とぺプチドが結合した糖ペプチド等を挙げることができる。
【0037】
本発明において、非フルオラス性化合物とは、一分子内に含まれる炭素―フッ素結合が5ヶ所以下の化合物を意味する。
【0038】
本発明において「フルオラス溶媒」という用語は、「親フルオロカーボン性の溶媒」という意味の造語である。水素原子を、フッ素原子によって多数置換されたフルオラス溶媒は、他の一般的な有機溶媒や水などには難溶であるが、高度にフッ素化されたことにより親フルオロカーボン性を付与させたフルオラス化合物を良く溶解できる。
【0039】
フルオラス溶媒としては、周知の高度にフッ素化された溶媒を用いることができる。具体的には、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタンなどのパーフルオロアルカン類;パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,2−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリンなどのパーフルオロシクロアルカン類;パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフランや高分子量のポリエーテル類をペルフルオロ化したDuPont社のKrytox(登録商標)シリーズや、ダイキン工業社のデムナム(登録商標)シリーズ、ソルベイソレクシス社のガルデン(登録商標)シリーズなどのペルフルオロポリエーテル類;ペルフルオロトリブチルアミン、ペルフルオロトリペンチルアミンなどのペルフルオロアミン類など、完全に水素をフッ素化した誘導体を挙げることができる。中でも、ペルフルオロヘキサンやガルデン(登録商標)HT90、ガルデン(登録商標)HT135、Krytox(登録商標)K5、Krytox(登録商標)K6が好ましい。また、ペルフルオロブチルメチルエーテル等のように部分的に高度にフッ素化されたフルオラス溶媒、一部の水素を残した高度にフッ素化された誘導体等も挙げることができる。上記溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上の混合物として使用してもよい。混合物の具体例としてはペルフルオロヘキサンとペルフルオロブチルメチルエーテル、またはガルデン(登録商標)HT90とペルフルオロブチルメチルエーテルの混合溶媒が挙げられる。
【0040】
フルオラス溶媒相は、多相系を形成する量であれば、量の制限はないが、通常は5〜95vol%の範囲が好ましく、10〜90vol%の範囲がより好ましい。
【0041】
本発明における不均一フルオラス多相系反応では、フルオラス溶媒相以外の非フッ素系溶媒相は、フルオラス溶媒と実質的に混和しない溶媒であり、実質的に混和しないとは、フルオラス溶媒の非フッ素系溶媒への溶解度が約10wt%(25℃)以下のことである。通常は有機溶媒相一相であるが、水一相であってもよく、有機溶媒/水の二相であってもよい。場合によっては、非極性有機溶媒/極性有機溶媒の二相でもよい。また、反応によって水が生成する場合のように、反応初期は有機溶媒一相でも、反応中に有機溶媒/水の二相になる場合でもよい。これらは反応基質や生成物の性質に合わせて決定すればよい。多相の中には、超臨界二酸化炭素またはイオン液体が含まれていてもよい。また、有機基質を溶媒替わりに用いることも可能である。
【0042】
非フッ素系溶媒が有機溶媒の場合、好ましくは脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、酸素、窒素あるいは塩素で置換された脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素が用いられる。具体的には、トルエン、キシレン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、1−及び2−プロパノール、t−ブチルアルコール、アセトニトリル、プロピオニトリルが例示され、中でも塩化メチレン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、アセトニトリルが好ましい。上記溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上の混合物として使用してもよい。
【0043】
本発明の方法で用いられるフルオラスタグは多フッ素化有機基を有する有機化合物であり、いかなる種類のものでもよい。多フッ素化有機基は、ペルフルオロアルキル基をはじめ、ペルフルオロアリール基、ペルフルオロアラルキル基、それらの一部が水素や他のハロゲン基で置換されたもの、炭素骨格の一部が酸素や窒素等で置換されたものも含まれる。
【0044】
フルオラスタグのフルオラス基は、高度にフッ素化された炭化水素基が好ましく、下記式(1)で示されるペルフルオロポリエーテル基が特に好ましい。
【化3】

(式(1)においてnは1〜50の整数を表す。)
【0045】
一般式(1)において、−C36−基はどのような構造でもよいが、安定性及び製造のしやすさから好ましくは−CF(CF3)CF2−または−CF2CF2CF2−であり、最も好ましくは−CF(CF3)CF2−である。nは1〜50の整数であるが、nが小さすぎるとフルオラス溶媒への溶解度が低くなり、nが大きすぎると分子量が大きくなり基質濃度が低下する可能性が考えられるので好ましくは5〜25であり、より好ましくは8〜20である。nは数種類の混合物であってもかまわないが、その場合は全体の50wt%以上がn±5の範囲に入っていることが好ましく、80wt%以上であることがより好ましく、90wt%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
フルオラスタグのフルオラス基は、下記式(2)で示されるペルフルオロポリエーテル基が特にさらに好ましい。
【化4】

(式(2)においてnは10〜15の整数を表す。)
【0047】
本発明において、反応温度には何ら制限はないが、通常は使用する溶媒の融点から沸点までの範囲で、好ましくは−90℃から200℃の範囲である。
【0048】
反応の圧力には何ら制限はないが、好ましくは0.1 MPaから10 MPaまでの範囲で、更に好ましくは0.1 MPaから6 .0 MPaの範囲である。
【0049】
フルオラス溶液および非フッ素系溶液の流速には何ら制限はないが、好ましくは1μL/minから30 mL/minで、更に好ましくは5μL/minから10 mL/minである。両者の流速の比率には何ら制限はないが、好ましくは1:1から1:100の範囲で、更に好ましくは1:1から1:20の範囲である。なお、比率に関してはフルオラス溶液および非フッ素系溶液のどちらが1であってもかまわない。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
(実施例)
<第1反応がベンジリデン化、第2反応がアセチル化での連続反応>
まず、図2に示すような装置を準備した。
微小流路を規定する反応管R(マイクロチューブ)として、内径0.5mm、全長50cmのテフロン(登録商標)チューブを用いた。これらチューブ断面は円形で、流路断面積は1.96×10-3cm2であった。また反応溶液のミキシング効率を十分に確保するため、T字コネクタTとしてM&A社製 T字コネクタと、マイクロミキサーMとしてIMM社製マイクロミキサーSSIMM-V8を用いた。
【0052】
フルオラスタグが結合した下記の反応式の化合物1(268 mg, 0.10 mmol)のCH3OC4F9-FC72(1:1)溶液(10 mL)をシリンジS1に装入して、シリンジポンプにより、そこから0.50ml/minの供給速度で9mLをT字コネクタTへと連続的に供給した。
【0053】
また、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(152 mg, 1.0 mmol)のアセトニトリル溶液(5 mL)をシリンジS2に装入して、シリンジポンプにより、そこから0.25mL/minの供給速度で4.5mLをT字コネクタTへと連続的に供給した。
【0054】
そして、カンファースルホン酸(23 mg, 0.10 mmol)のアセトニトリル溶液(5 ml)をシリンジS3に装入して、シリンジポンプにより、そこから0.25mL/minの供給速度で4.5mLを、T字コネクタTから出てくるフルオラス―有機不均一溶液系と一緒にマイクロミキサーMへと連続的に供給した。第1反応はマイクロミキサーに接続されたテフロン(登録商標)チューブR内(滞留時間6秒)で進行させた。テフロン(登録商標)チューブから出てきた反応溶液を容器B1に抜き出し、そこからフルオラス相をアセトニトリル相から分離し、得られたフルオラス溶液9mLのうち8mLをシリンジS4中に装入した。
【0055】
シリンジS4から、シリンジポンプにより、0.50mL/minの供給速度で7mLをT字コネクタTへと連続的に供給した。
【0056】
また、40%無水酢酸/アセトニトリル溶液(5 mL)をシリンジS5に装入して、シリンジポンプにより、そこから0.25mL/minの供給速度で3.5mLをT字コネクタTへと連続的に供給した。
【0057】
そして、40%ピリジン/アセトニトリル溶液(5 mL)をシリンジS6に装入して、シリンジポンプにより、そこから0.25mL/minの供給速度で3.5mLを、T字コネクタTから出てくるフルオラス―有機溶媒不均一溶液系と一緒にマイクロミキサーMへと連続的に供給した。第2反応はマイクロミキサーに接続されたテフロン(登録商標)チューブR内(滞留時間6秒)で進行させた。テフロン(登録商標)チューブから出てきた反応溶液を容器B2に抜き出し、そこからフルオラス相をアセトニトリル相から分離し、得られたフルオラス溶液(7mL)を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH3OC4F9-クロロホルム-メタノール(30:66:4))で精製し、目的物質である化合物3(178 mg, 0.0623 mmol, 89%)を得た。
【0058】
1H-NMR (CHCl3, 600 MHz) δ2.03 (3H, s), 2.04 (3H, s), 3.55 (1H, m), 3.74 (2H, m), 3.78 (1H, m), 4.06 (1H, m)4.36 (2H, d, J=6.9 Hz), 4.68 (1H, t, J=7.6 Hz), 5.03 (1H, m), 5.30 (1H, t, J=9.6 Hz), 5.50 (1H, s), 7.35 (3H. m), 7.43 (2H, m).
【化5】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の微小流路内でのフルオラス多相系反応は、フルオラスタグを用いた各種の化学合成反応に適用することができるが、糖鎖又はその原料となる糖供与体や糖受容体などの糖質誘導体の合成に特に効果的に使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
A-1 非フッ素系溶媒に溶解している、非フルオラス性第1原料
A-1* 非フッ素系溶媒に溶解している、非フルオラス性第1原料もしくは第1反応で生成した非フルオラス性の第1原料由来化合物
B1 第1微小流路
Rf1 フルオラス溶媒に溶解している、出発原料の有機化合物にフルオラスタグが結合したフルオラス性化合物
A-2 非フッ素系溶媒に溶解している、非フルオラス性第2原料
A-2* 非フッ素系溶媒に溶解している、非フルオラス性第2原料もしくは第2反応で生成した非フルオラス性の第2原料由来化合物
B2 第2微小流路
Rf2 フルオラス溶媒に溶解している、第1反応によるフルオラス性反応生成物であり、第2反応のフルオラス性原料化合物
B(n) 第n微小流路
Rf(n+1) フルオラス溶媒に溶解している、第n反応によるフルオラス性反応生成物であり、最終生成物
A-n* 非フッ素系溶媒に溶解している、非フルオラス性第n原料もしくは第n反応で生成した非フルオラス性の第n原料由来化合物
n 1以上の整数
S1〜S6 シリンジ
T T字コネクタ
M マイクロミキサー
R 反応管(内径0.5mm、全長50cm)
B1, B2 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオラスタグを結合させた有機化合物をフルオラス溶媒に溶解させたフルオラス溶液と、該フルオラス溶媒と実質的に混和しない非フッ素系溶媒に非フルオラス性化合物を溶解させた非フッ素系溶液とを微小流路内で接触させて、該フルオラスタグを結合させた有機化合物と該非フルオラス性化合物とを反応させることを特徴とする、微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法。
【請求項2】
請求項1に記載の反応方法で得られる不均一多相からフルオラス相を分離し、そのフルオラス相を実質的にそのまま次のフルオラス溶液として用い、別の種類の非フルオラス性化合物に対する次の請求項1に記載の反応方法を行う、ということにより別の種類の請求項1に記載の反応方法を2回以上繰り返すことを特徴とする、微小流路内のフルオラス不均一多相系反応方法。
【請求項3】
該フルオラス溶液と該非フッ素系溶液とを用いるフルオラス不均一2相系反応方法である、請求項1または2に記載の反応方法。
【請求項4】
フルオラスタグのフルオラス基が高度にフッ素化された炭化水素基である、請求項1〜3に記載の反応方法。
【請求項5】
フルオラスタグのフルオラス基が下記式(1)で示されるペルフルオロポリエーテル基である、請求項4に記載の反応方法。
【化6】

(式(1)においてnは1〜50の整数を表す。)
【請求項6】
フルオラスタグのフルオラス基が下記式(2)で示されるペルフルオロポリエーテル基である、請求項4に記載の反応方法。
【化7】

(式(2)においてnは10〜15の整数を表す。)
【請求項7】
フルオラスタグを結合させる有機化合物が糖誘導体である、請求項1〜6に記載の反応方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−6845(P2012−6845A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141853(P2010−141853)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月12日に日本化学会第90春季年会(2010)講演予稿集IVにて講演予稿を発表 平成22年3月27日に日本化学会第90春季年会の講演にて文書をもって発表
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】