説明

微小物体捕捉装置と、これを用いた細胞電位測定デバイスおよび切断デバイス

【課題】微小物体の捕捉・保持を簡便にし、捕捉装置の操作性を向上させることを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するための本発明は、基板2と、この基板2の上方に設けた第1の槽3と、基板2の下方に設けた第2の槽4と、第1の槽3と第2の槽4の少なくとも一方に接続された圧力装置とを備え、基板2の上面から下面までを貫通する貫通孔6を形成し、この貫通孔6の内壁には凹部8Aと凸部8Bとを交互に形成したものである。
これにより本発明は、圧力制御のみで容易に微小物体7(細胞)を貫通孔6内部に引き込み、捕捉することができる。そして貫通孔6内壁に設けた凸部8Bによって、微小物体7を貫通孔6内部で引き止め、保持することができる。従って、微小物体7の捕捉・保持を簡便にし、捕捉装置の操作性を向上させることができるのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞などを捕捉、保持することが容易な微小物体捕捉装置の構造と、それを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞などの微小物体試料の捕捉、保持等の操作は、顕微鏡を覗きながら注意深く行われてきた。例えばマイクロピペットを用いる場合、1個の細胞にマイクロピペットを高い精度で接触させ、吸引または刺して保持するという操作が行われている。
【0003】
また最近では光ピンセットが使用されており、これはレーザ光を集光させ、その光スポットを処理対象となる微小物体に照射し、その光圧によって微小物体を捕捉することができるものである。
【0004】
例えば特許文献1は、微小物体を光ピンセットで保持し所望の位置へ移動させるための技術を開示している。
【特許文献1】特表2004−510980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなマイクロピペットや光ピンセットを用いた微小物体の捕捉、保持の操作は熟練を要し、操作性が悪いという問題があった。特に複数の微小物体が重なり合っている場合、一つの微小物体に焦点を合わせて捕捉することは非常に困難であった。
【0006】
そこで本発明は、微小物体の捕捉、保持を簡便にし、微小物体捕捉装置の操作性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そしてこの目的を達成するために本発明は、基板と、この基板の上方に設けた第1の槽と、基板の下方に設けた第2の槽と、第1の槽または前記第2の槽と接続された圧力装置とを備え、基板の上面から下面までを貫通する貫通孔を形成し、この貫通孔の内壁には凹部と凸部とを交互に形成したものである。
【発明の効果】
【0008】
これにより本発明は、圧力装置を用いて第1の槽を加圧、あるいは第2の槽を減圧するだけで、容易に微小物体を貫通孔内部に引き込み、捕捉することができる。そして貫通孔内壁に設けた凸部によって、微小物体を貫通孔内部に引き止め、保持することができる。従って、微小物体の捕捉・保持を簡便にし、捕捉装置の操作性を向上させることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(実施の形態1)
図1の断面図に示すように、本実施の形態の微小物体捕捉装置1は、基板2と、この基板2の上方に設けた第1の槽3と、基板2の下面に設けた第2の槽4と、この第2の槽4と接続された減圧器5とを備えている。また基板2の上面から下面に向けて、基板2上面に対し略垂直に貫通孔6を形成し、第1の槽3と第2の槽4とをこの貫通孔6のみで繋げている。なお、捕捉・保持の対象となる微小物体には細胞7(哺乳類筋細胞)を用いた。
【0010】
そして図2の基板2の上面図に示すように、貫通孔6は筒形であり、基板2に平行な断面が略円形をしている。
【0011】
またこの貫通孔6の内壁には、この貫通孔6の内周に沿って輪状の凹部(図1の8A)と凸部(図1の8B)とが交互にそれぞれ複数個形成されている。すなわち、貫通孔6の内径は大小に繰り返し変化している。そして、この凹部8Aと凸部8Bとは、凹部8Aの最深部から凸部8Bの先端に向かってなだらかに湾曲する立ち上がり壁で連結しており、さらにこの凸部8Bの先端は丸みを帯びるように形成されている。
【0012】
ここで貫通孔6の最小内径は、測定する細胞7の大きさ、形状、性質によって決定されるが、捕捉・保持したい細胞7が貫通孔6をすり抜けてしまわないためにも、細胞7が球形あるいは楕円球形の場合は、貫通孔6の最小内径は細胞7の最小直径以下とすることが望ましい。またあまりに貫通孔7の内径が細胞7より小さいと、細胞7を貫通孔6内部へ引き込むことができないため、貫通孔6の最小内径は細胞7の最小直径の1/2以上であることが好ましい。
【0013】
さらに、細胞7を複数の凸部8Bと接触させれば、より安定して保持することができるため、隣接する凸部8Bの間隔を細胞7の最大直径より小さくすることが好ましい。
【0014】
ここで、細胞7の直径とは、細胞7を生理食塩水に含浸させ、細胞7内外の浸透圧が平衡に達した状態での直径の計測値を用い、この計測値の最大値を最大直径、最小値を最小直径とした。
【0015】
本実施の形態では、最小直径が15μmの細胞7を用いたため、貫通孔6の最小内径を10μmとした。また貫通孔6の内壁に設けた凸部8Bは貫通孔6の最側面から1μm以下の高さで突き出た構造となっている。
【0016】
また、この基板2の材料にはシリコンを用いた。したがって、この基板2は、微細加工技術を用いて小型化と高精度化を実現しながら作製することができる。
【0017】
次に、本実施の形態における微小物体捕捉装置1の動作について説明する。
【0018】
図3に示すように、まず、導入口9から第1の層へ細胞7と培養液10とを導入し、満たした状態にする。
【0019】
次に、減圧器5を用いて第2の槽4を減圧することによって(第1の槽3の領域を加圧器によって加圧しても良い)、図3に示す矢印方向、つまり貫通孔6の内部へ細胞7を引き込むことができる。
【0020】
すると、図1に示すように、細胞7が貫通孔6を通過しようとしても、貫通孔6の内壁に設けられた凸部8Bが通過時の抵抗となり、細胞7は貫通孔6の内部に引き止められ、保持される。
【0021】
一方、貫通孔6の最小内径よりも小さい細胞7は貫通孔6の内部で保持されることなく通過する。そのため、貫通孔6の最小内径以上の直径を有する細胞7を選択的に保持することになる。
【0022】
さらに減圧器5による減圧の圧力調整を行うことによって、貫通孔6で保持する細胞7のサイズをさらに限定する。
【0023】
例えば、減圧器5による減圧の圧力が過度に小さい場合には、貫通孔6の最大内径より大きい細胞7を貫通孔6の内部へ引き込むことができず、一方減圧の圧力が過度に大きい場合には、貫通孔6の最大内径よりはるかに大きい細胞7も変形し、貫通孔6内部へ引き込まれ、凸部8Bで保持されることなく通過してしまう。つまり、減圧器5による減圧を強化するにしたがって、貫通孔6の内部に保持することができる細胞7のサイズが大きくなっていく。このため、減圧器5の減圧の圧力を調整することによって、所望サイズの細胞7を選択的に貫通孔6の内部に保持することができる。
【0024】
この一連の動作中においては、培養液10の流れをモニタリングし、細胞7が貫通孔6に保持されたかどうかを確認することができる。これは、細胞7が貫通孔6の内部に保持された後は減圧器5を用いて減圧しても、この細胞7が培養液10の流れを阻害するためである。
【0025】
例えば、細胞7を貫通孔6の内部に保持していない状態では、減圧した場合の培養液10の流量はほぼ一定であるが、細胞7が貫通孔6の内部に保持された状態では、培養液10が流れなくなり、流量が0またはほぼ0となる。これを観察することによって細胞7を貫通孔6の内部で保持できたかどうか容易に確認することができる。
【0026】
以下に本実施の形態における微小物体捕捉装置1の製造方法を説明する。
【0027】
図4〜図7はそれぞれ本発明の実施の形態1における基板2の断面を示している。
【0028】
まず図4に示すように基板2にフォトリソグラフィーによってレジストマスク11を形成する。このレジストマスク11には所望とする貫通孔6の断面と同形状のマスクホール12を形成しておく。
【0029】
次に図5、図6に示すようにエッチングを行い、貫通孔6を形成する。なお、エッチング方法としてはドライエッチングが望ましく、エッチングガスとしてエッチングを促進するガス(以下エッチングガスという。)とエッチングを抑制するガス(以下抑制ガスという。)を用いる。本実施の形態では、エッチングガスとしてSF6を用い、抑制ガスとしてC48を用いた。
【0030】
そしてこのドライエッチング工程の際、まず基板2の上方では、外部コイルの誘導結合法によりプラズマを生成させている。したがって、エッチングガスSF6を導入すると、このプラズマ中には、エッチングガスSF6に含まれるプラスイオン(SF5+)とFのラジカル成分とが存在している。
【0031】
次に基板2に高周波を印加すると、基板2にはマイナスのバイアス電圧が発生し、前述のプラスイオン(SF5+)は基板2に向かって垂直に衝突し、またFのラジカル成分を用いることでより効率よく垂直にエッチングを行うことができる。
【0032】
その結果、図5に示すように、ドライエッチングは基板2の垂直方向(下方)に進むことになる。
【0033】
一方、抑制ガスC48を用いる際には、基板2に高周波を加えないでおく。そうすることによって、基板2にはバイアス電圧は全く発生しない。
【0034】
したがって、抑制ガスC48に含まれるCF+は、偏向を受けることなく、基板2のドライエッチング穴の壁面に付着し、均一な膜を形成する。
【0035】
そしてこのCF+の膜は、保護膜となってエッチングを抑制する。ここでこの保護膜は、貫通孔6の壁面部分だけでなく底面にも形成されるが、底面に形成された保護膜は壁面に形成された保護膜に比較して上記理由によりエッチングガスによって容易に除去されるため、エッチングは下方に進むことになる。ただし底面の保護膜が除去された部分の下方は、Fのラジカル成分による化学的な等方性エッチングにより、エッチングが下方向だけでなく横方向へも等方的に進行するため、図6のように貫通孔6の壁面は、貫通孔6の内周形状に合わせ、輪状の凹部8Aと凸部8Bとを交互に有する構造となる。そして凹部8Aの最深部から凸部8Bに向かって、なだらかに湾曲する立ち上がり壁が形成される。
【0036】
その後上記工程を繰り返すことによって、輪状の凹部8Aと凸部8Bとを複数有する貫通孔6が形成され、最後にレジストマスク11を除去することによって図7に示すような貫通孔6が形成される。なお、エッチングガスとしてCF4、抑制ガスとしてCHF3などを用いることができる。
【0037】
さらに図7に示すような貫通孔6を形成した後、この基板2をエッチングガスのみの雰囲気に設置すれば、凸部8Bの先端は他の部分に比較してエッチングガスが周囲に多く存在するため、凸部8Bの先端を図8に示すように丸くすることができる。エッチングガスとしてはSF6、CF4、XeF2などを用いると良い。
【0038】
以下に本実施の形態における効果を説明する。
【0039】
まず、本実施の形態では、細胞7の捕捉・保持を簡便にし、微小物体捕捉装置1の操作性を向上させることができる。
【0040】
すなわち、従来は細胞7を捕捉・保持するには、マイクロピペットや光ピンセットを用いており、この作業は顕微鏡を覗きながら対象物に狙いを定める必要があるなど、熟練を要していた。
【0041】
一方、本実施の形態の微小物体捕捉装置1を用いると、第2の槽4を減圧するだけで、容易に細胞7を貫通孔6内部に引き込み、捕捉することができる。また、複数の細胞7が重なり合っている場合でも、吸引によりいずれか一つの細胞7が貫通孔6に捕捉され、保持される。そしてこの保持された細胞7によって貫通孔6下方からの吸引は阻害されるため、これ以上細胞7が捕捉されるのを抑制することができ、一つの細胞7を的確に捕捉することができるのである。
【0042】
さらに、貫通孔6の内径や減圧器5の減圧の強度を調整することによって、捕捉したい細胞7のサイズを容易に選択することができる。
【0043】
また、本実施の形態では、貫通孔6内壁に設けた凸部8Bによって、細胞7が貫通孔6を通過する時の抵抗を高め、この貫通孔6内部で細胞7を引き止めることができる。したがって、細胞7を捕捉した後減圧を止めた場合や、高速で装置を駆動させた場合も、細胞7を安定して保持し、動作することが容易となる。また凸部8Bの高さによって、所望サイズの細胞7を捕捉することができる。
【0044】
また、本実施の形態では、凸部8Bを複数形成し、これらの複数の凸部8Bが細胞7と接触する構造となっている。これによって、細胞7が貫通孔6を通過する際の抵抗が増加し、より確実に貫通孔6の内部に細胞7を保持することができる。
【0045】
さらに、凸部8Bを貫通孔6の内周に沿って輪状に形成したことによって、内周の一部のみに凸部8Bを形成した場合や、角部分を有する四角形状の場合と比較し、細胞7と貫通孔6内壁との接触面積が増加し、細胞7のすり抜けを効果的に抑制することができ、より的確に細胞7を保持することができる。またこのような凸部8Bの構造によって、細胞7の周囲全体に抵抗が付与され、応力が均等に分散するため、細胞7の損傷を抑制する効果を有する。
【0046】
また図8に示すように、凸部8Bの先端に丸みをつけたことによって、細胞7が凸部8Bと接触した場合の細胞7の損傷を抑制することができる。
【0047】
さらに、凹部8Aと凸部8Bとが、凹部8Aの最深部から凸部8Bの先端に向かってなだらかに湾曲する立ち上がり壁で連結していることから、この凹部8Aの底は貫通孔6外方に向かって丸みを帯びている。したがって、平面に凸部8Bを形成した時と比較し、その湾曲面に沿って培養液10を滑らかに流動させることができ、この培養液10に伴って細胞7を的確に貫通孔6へと捕捉することができる。また、貫通孔6内壁には細胞7の捕捉の障害となる気泡が付着することがあるが、上記構成によって培養液10の流れが円滑になると、この気泡を除去しやすくなり、細胞7の捕捉効率を向上することができる。
【0048】
また本実施の形態における凹部8Aと凸部8Bは、上記のドライエッチング方法により、貫通孔6を形成する一連の工程で同時に形成することができる。また例えば貫通孔6の内径が3μm程度の非常に微細な場合であっても、上記製造方法によって、高さ1μm以下の凸部8Bを容易に形成することができる。
【0049】
さらに本実施の形態における微小物体捕捉装置1は、光ピンセットの装置が大型で高価なのに比較し、小型で安価に製造することができる。また圧力操作のみで動作が可能なため、短時間で細胞7を保持・捕捉することができる。
【0050】
(実施の形態2)
本実施の形態と実施の形態1との違いは、実施の形態1の貫通孔(図7の6)が円柱状であるのに対し、本実施の形態の貫通孔6Aを、図9に示すように、基板2の上面から下面にかけて徐々に細くなるテーパー構造にした点である。
【0051】
このようなテーパー構造にするには、エッチングを促進するガス(エッチングガス)とエッチングを抑制するガス(抑制ガス)との割合を変えればよい。すなわち、基板2の下面に近づくにしたがってエッチングガスの割合を減らせば、図9に示すようなテーパー構造に形成することができる。
【0052】
このように貫通孔6Aをテーパー構造とすれば、基板2上面では貫通孔6Aの断面積が大きいため細胞7を捕捉しやすく、基板2の下面に行くほど細胞7が通過する際の抵抗が大きくなり、これによってより確実に細胞7を貫通孔6Aの内部に保持することができる。
【0053】
なお、このような微小物体捕捉装置1は、例えば下記に説明する細胞電位測定デバイスとして使用したり、その他細胞7への特定成分の注入や抽出手段、またはレーザメスなどの切断処理手段と組み合わせた装置として応用したりできる。
【0054】
ここで、上述の細胞電位測定デバイスとは、図1の微小物体捕捉装置1の第1の槽3と第2の槽4にそれぞれ電極を設けたものである。
【0055】
動作方法としては、まず、細胞7を貫通孔6Aの内部に保持した後、細胞7に化学的、あるいは物理的刺激を与える。この刺激の種類としては、例えば化学的刺激としては化学薬品、毒物などがあり、物理的刺激としては機械的変位、光、熱、電気、電磁波などがある。そして細胞7がこれらの刺激に対して活発に反応する場合、例えば細胞7は細胞7膜のチャネルを通じて各種イオンを放出あるいは吸収する。すると細胞7内外の電位勾配が変化するため、その変化を電極によって検出し、細胞7の反応を分析する。
【0056】
本実施の形態の微小物体捕捉装置1は、特に細胞7と貫通孔6A内壁との密着性を高めることができるため、上記細胞電位測定デバイスに応用すれば細胞7内外の電位勾配を高精度で測定することができる。
【0057】
(実施の形態3)
本実施の形態と実施の形態1との違いは、実施の形態1の貫通孔(図7の6)を形成した後に、図10に示すように、貫通孔6内壁をシリコン酸化物からなる親水性膜13で被覆した点である。
【0058】
これはシリコンの基板2を1000℃以上の高温の酸素雰囲気中で酸化させることで形成できる。
【0059】
この親水性膜13は、細胞7などの親水性の物体と貫通孔6内壁との密着性を高めることができる。したがって、細胞7が貫通孔6を通過する際の抵抗が高くなり、より確実に細胞7を貫通孔6の内部に保持することができる。その他親水性膜13としてシリコン窒化物などで形成してもよい。
【0060】
(実施の形態4)
本実施の形態と実施の形態1との違いは、図11に示すように、基板2の上面に窪み14を有し、この窪み14の最深部から基板2下面に向けて貫通孔6を形成した点である。そして本実施の形態における窪み14は略四角錐形であり、基板2の上面から窪み14の最深部に向けて徐々に細くなるテーパー構造をしている。図12はこの基板2を上面から見た図であり、図11は図12のB−Bにおける断面図である。なお、この貫通孔6は、実施の形態1と同様に、内壁に複数の凹部8Aと凸部8Bとを有している。
【0061】
本実施の形態における効果を以下に説明する。
【0062】
本実施の形態の微小物体捕捉装置1は、基板2上面に広く開口した窪み14があるため、この窪み14部分には培養液10と共に細胞7が流入し易く、さらにこの窪み14は徐々に先細くなる斜面を有するため、細胞7はこの斜面に沿って重力にしたがい貫通孔6へと転がっていく。よって、細胞7をより確実に貫通孔6へと導き、その内部へ引き込むことができる。その他の効果については実施の形態1と同様であるため省略する。
【0063】
以下に、本実施の形態における窪み14の製造方法を説明する。
【0064】
まず図13に示すように(100)の面を有したシリコンの基板2の上面および下面にシリコン酸化物膜15を形成する。シリコン酸化物膜15はシリコンの基板2を1000℃以上の高温の酸素雰囲気中で酸化させることによって形成することができる。
【0065】
そして図14に示すように基板2の上面にフォトリソグラフィーによってレジストマスク16を形成する。このレジストマスク16には、窪み14の開口部と同形状のマスクホール17を形成しておく。また基板2の下面にもレジストマスク18を形成しておく。その後基板2上面において、シリコン酸化物膜15のエッチングを行うと、図14のような状態となる。このエッチングとしてはウェットエッチングを行い、BHFやHFなどのエッチャントを用いると良い。
【0066】
次に図15に示すように、レジストマスク16、18を除去し、残ったシリコン酸化物膜15をマスクとして基板2のエッチングを行う。エッチングとしてはウェットエッチングを行い、テトラメチルヒドロアンモニウムや水酸化カリウムなどのエッチャントを用いると良い。
【0067】
ここで本実施の形態の窪み14は略四角錐型をしている。これはシリコン基板2の異方性を利用したものであり、(111)の面に対してはエッチングの進行速度が遅く、(100)面に対してはエッチングの進行速度が速い、というエッチングレートの差を利用したものである。そのため窪み14の壁面は(111)の面が4面出現した状態となっている。
【0068】
次に図16に示すように基板2下面にフォトリソグラフィーによってレジストマスク19を形成する。このレジストマスク19は貫通孔6を形成するためのもので、貫通孔6の断面と同形状のマスクホール20を形成しておく。その後シリコン酸化物膜15のエッチングを行う。
【0069】
その後、基板2下面から実施の形態1と同様のドライエッチング方法で貫通孔6を形成する。そして最後にレジストマスク19とシリコン酸化物膜15を除去することによって図11に示すような構造が形成される。
【0070】
(実施の形態5)
本実施の形態は、実施の形態4における窪み14の形状を、図17に示すように略半球形状に形成したものである。なお、図18はこの基板2の上面図であり、図18のC−Cにおける断面図が図17である。
【0071】
本実施の形態の効果は実施の形態4と同様であるため省略する。
【0072】
以下、本実施の形態における窪み14Aの製造方法について説明する。
【0073】
まず図19に示すようにシリコンの基板2の上面にフォトリソグラフィーによってレジストマスク21を形成する。このレジストマスク21には、貫通孔6の断面と同形状のマスクホール22を形成しておく。
【0074】
次に図20に示すように、ドライエッチングを行い、窪み14Aを形成する。エッチングガスとしてはSF6、CF4、XeF2などを用いると良い。このドライエッチングではマスクホール22から等方的にエッチングが進行するため、図20に示すような半球形状の窪み14Aを形成することができる。ここで半球形状の窪み14Aを形成した後のレジストマスク21は図20に示すように中空に浮いた状態を保っている。
【0075】
その後、このレジストマスク21をそのまま用い、基板2上面から実施の形態1と同様のドライエッチング方法で貫通孔6を形成する。そして最後にレジストマスク21を除去すれば、図17のような窪み14Aが形成される。
【0076】
なお、上記の本実施の形態の製造方法は実施の形態4の製造方法に比較し、一枚のレジストマスク21で窪み14Aと貫通孔6を形成することができ、製造工程数が少なく容易であるという特徴もある。
【0077】
また、上記の実施の形態1から5の微小物体捕捉装置1は、第1の槽3の外部に圧電体からなる振動装置(図示せず)を配置することで、さらに細胞7の捕捉が容易となる。
【0078】
すなわち、この振動板装置を用いて所定の周波数の音響波を第1の槽3に印加することによって、貫通孔6の上部に節が形成されるような定在波を発生させることができる。そしてこの定在波の節に細胞7が凝集し、細胞7をより容易に貫通孔6内部へと導くことができるのである。
【0079】
なお、実施の形態1から5は微小物体として細胞7を挙げたが、細胞7に限定するものではない。たとえば、この微小物体捕捉装置1は、気体中に浮遊する微小粒子の捕捉にも用いることができる。また、第1の槽3および第2の槽4には培養液10などの液体以外にも、気体を注入することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の微小物体捕捉装置は、細胞の捕捉、保持が容易であり、医療・バイオテクノロジー分野などのMEMS技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明における微小物体捕捉装置の断面図
【図2】本発明における基板の上面図
【図3】本発明における微小物体捕捉装置の断面図
【図4】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図5】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図6】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図7】本発明における基板の断面図
【図8】本発明における基板の断面図
【図9】本発明における基板の断面図
【図10】本発明における基板の断面図
【図11】本発明における基板の断面図
【図12】本発明における基板の上面図
【図13】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図14】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図15】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図16】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図17】本発明における基板の断面図
【図18】本発明における基板の上面図
【図19】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【図20】本発明における製造工程を示す基板の断面図
【符号の説明】
【0082】
1 微小物体捕捉装置
2 基板
3 第1の槽
4 第2の槽
5 減圧器
6 貫通孔
6A 貫通孔
7 細胞(微小物体)
8A 凹部
8B 凸部
9 導入口
10 培養液
11 レジストマスク
12 マスクホール
13 親水性膜
14 窪み
14A 窪み
15 シリコン酸化物膜
16 レジストマスク
17 マスクホール
18 レジストマスク
19 レジストマスク
20 マスクホール
21 レジストマスク
22 マスクホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板の上方に設けた第1の槽と、
前記基板の下方に設けた第2の槽と、
前記第1の槽と前記第2の槽の少なくとも一方に接続された圧力装置とを備え、
前記基板の上面から下面までを貫通する貫通孔を形成し、
この貫通孔の内壁には凹部と凸部とを交互に形成した微小物体捕捉装置。
【請求項2】
前記凹部と凸部とは、
前記凹部の最深部から前記凸部の先端に向かってなだらかに湾曲する立ち上がり壁で連結している請求項1に記載の微小物体捕捉装置。
【請求項3】
前記凹部と凸部とを、
前記貫通孔の内周に沿って環状に形成した請求項1または2に記載の微小物体捕捉装置。
【請求項4】
前記凹部と凸部とを複数個形成した請求項1から3のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項5】
前記凸部の先端は丸みを帯びている請求項1から4のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項6】
前記貫通孔の最小内径は
微小物体の最小直径の1/2以上微小物体の最小直径以下である請求項1から5のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項7】
隣接する前記凸部の間隔は捕捉する微小物体の最大直径より小さい請求項1から6のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項8】
前記貫通孔は
前記基板上面から下面に向けて徐々に細くなる形状である請求項1から7のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項9】
前記基板の上面には窪みを有し、
前記貫通孔は前記窪みの最深部から前記基板の下面に向けて形成された請求項1から8のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項10】
前記第1の槽は圧電体からなる振動装置と接続された請求項1から9のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置と、前記第1の槽に設けた第1の電極と、前記第2の槽に設けた第2の電極とを備えた細胞電位測定デバイス。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一つに記載の微小物体捕捉装置と、切断手段とを備えた切断デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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