微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法
【課題】特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができ、かつ、マイクロチップ及び装置そのものに複雑な機構を必要としない微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法を提供することを主な目的とする。
【解決手段】微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路A1と、該導入流路A1に連通する複数の分岐流路A2, A3と、を含む流路Aの流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して、所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取装置であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡Bを発生させ得る光照射手段を備え、発生させた気泡Bによって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取装置を提供する。
【解決手段】微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路A1と、該導入流路A1に連通する複数の分岐流路A2, A3と、を含む流路Aの流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して、所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取装置であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡Bを発生させ得る光照射手段を備え、発生させた気泡Bによって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法に関する。より詳しくは、レーザー光の照射により発生する気泡によって、微小粒子の送流方向を制御して分取を行う微小粒子分取装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための反応領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-total-analysis system)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化、あるいは、分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
特に、μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことなどの理由から、貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの生物学的分析への応用例として、マイクロチップ上に設けられた流路内で細胞等の微小粒子の特性を光学的に分析し、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を分別回収する微小粒子分取技術がある。
【0006】
微小粒子分取技術として、特許文献1には、レーザートラッピングを利用した粒子分別装置が開示されている。この粒子分別装置は、移動する細胞等の粒子に対して走査光を照射することにより、粒子の種類に応じた作用力を与えて粒子の分取を行うものである。同様の技術として、特許文献2には、光圧(optical forceもしくはoptical pressure)を利用した微粒子回収装置が開示されている。この微粒子回収装置は、微粒子の流路に、微粒子の流れ方向に交差させてレーザービームを照射し、回収すべき微粒子の運動方向をレーザービームの収束方向に偏向させて微粒子の回収するものである。
【0007】
また、特許文献3には、微粒子の移動方向を制御するための電極を有する微粒子分別マイクロチップが記載されている。この電極は、微小粒子計測部位から微小粒子分別流路への流路口付近に設置され、微粒子の移動方向を制御するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−24309号公報
【特許文献2】特開2004−167479号公報
【特許文献3】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、細胞等の分取のためには、水滴荷電方式により微小粒子のソーティングを行うセルソーターが用いられてきた。水滴荷電方式によるソーティングでは、まず、細胞等の微小粒子を含む水流を水滴としてノズルから射出し、この際水滴にプラスまたはマイナスの電荷を印加する。そして、この水滴が落下の途中に偏向用電極板の間を通過する際に、所望の微小粒子を含む水滴を電気的に偏向用電極板へ引き寄せ、その落下方向を偏向させることにより分取を行っている。
【0010】
このような従来型のセルソーターでは、例えば、細胞の分取を行おうとする際、水滴に印加される電荷によって、細胞にダメージを与えてしまう可能性があった。また、水滴発生のための超音波発生装置や偏向用電極板のために、装置そのものが大型化し、また高価になってしまうという問題があった。
【0011】
この点、上記特許文献1及び2に開示される装置は、レーザー光の光圧力によって分取を行うものであるため、超音波発生装置や偏向用電極板などの構成が不要で、装置を小型化し易く、コストを抑えることが可能である。しかし、細胞の分取に関しては、レーザー光の照射によって細胞にダメージを与えてしまう可能性が残されていた。
【0012】
また、特許文献3に開示される記載されるマイクロチップは、微粒子の移動方向を制御するための電極を基板上に配設されている。このために、マイクロチップそのものの機構が複雑となり、コスト上の問題を生じる可能性があった。
【0013】
そこで、本発明は、特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができ、かつ、マイクロチップ及び装置そのものに複雑な機構を必要としない微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決のため、本発明は、微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取装置であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ得る光照射手段を備え、該光照射手段によって発生させた気泡によって、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取装置を提供する。
この微小粒子分取装置において、前記流路は、基板上に配設されていてもよい。
前記光照射手段は、前記分岐流路内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成され、発生させた気泡による前記分岐流路の流れ抵抗の増大に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うものである。
また、前記光照射手段を、前記導入流路に連通するチャンバ内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成し、発生させた気泡により前記チャンバ内から排出される前記分散溶媒の排出圧に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うようにすることもできる。なお、この場合、前記チャンバが前記導入流路に連通する連通口の口径は、前記微小粒子の直径よりも小さくなるように構成される。
さらに、前記光照射手段は、前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査するための光走査部又は/及びレーザー光の強度を制御する光変調部を備えていてもよい。
この光走査部は、前記流路が複数設けられている場合においては、全ての流路の前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査可能に構成される。
【0015】
併せて、本発明は、微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取用基板であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に発生させた気泡によって、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向を制御し得る微小粒子分取用基板を提供する。
さらに、微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取方法であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ、発生させた気泡によって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取方法をも提供する。
【0016】
ここで、本発明において、「微小粒子分取装置」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などの微小粒子を光学的に測定し、分取するための装置が広く含まれる。対象とする細胞には、細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。生体高分子物質には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0017】
特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができ、かつ、マイクロチップ及び装置そのものに複雑な機構を必要としない微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法を提供することを主な目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0019】
図1は、本発明に係る微小粒子分取装置Kの構成を説明する模式図である。
【0020】
微小粒子分取装置Kは、基板a上に配設された微小粒子の分散溶媒を導入湯可能な流路Aと、微小粒子の光学測定のためのレーザー光L1(図中、白矢印参照)を放射するレーザー光源1と、熱源としてのレーザー光L2(図中、黒矢印参照)を放射するレーザー光源2と、レーザー光L1及びレーザー光L2を流路Aに対して走査する走査部3と、レーザー光L1及びレーザー光L2を流路Aの所定位置に集光するための対物レンズ4を備えている。図中、符号9及び10は、それぞれレーザー光源1及びレーザー光源2からのレーザー光L1及びレーザー光L2を平行光線にするためのコリメータレンズである。
【0021】
また、微小粒子分取装置Kは、レーザー光L1(以下、「測定レーザー光L1」という)の照射により、流路A内の微小粒子から発生する検出対象光R(図中、斜線矢印参照)を検出するための光検出器5を備えている。流路A内の微小粒子から発生する検出対象光Rは、対物レンズ4により集光され、走査部3を透過して、光検出部5に導光される。
【0022】
さらに、微小粒子分取装置Kは、光検出部5から出力されるデータを解析する解析手段6と、解析手段6からの解析結果の出力を受け、レーザー光源2から放射されるレーザー光L2の強度を制御する光変調部7を備えている。
【0023】
基板aは、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)であってレーザー光L1及びレーザー光L2を透過可能であり、測定レーザー光L1及びレーザー光L2に対して波長分散が少なく光学誤差の少ない材質を用いて形成される。基板aの材質をガラスとする場合には、ウェットエッチングやドライエッチングによって流路を転写する。また、プラスチック製とする場合には、ナノインプリントや成型によって基板上に流路を形成する。流路を形成した基板は、基板と同じ材質を用いて流路をカバーシールすることができる。
【0024】
測定レーザー光L1は、走査部3により基板a上の所定の位置を走査され、流路Aの走査線(図中、点線矢印S1参照)に対応する位置において、流路A内に導入された微小粒子に照射される。
【0025】
同様に、レーザー光L2も走査部3により基板a上の所定の位置を走査され、流路Aの走査線(図中、点線矢印S2参照)に対応する位置において、流路A内に導入された分散溶媒中に気泡を発生させる。ここで、「気泡」とは、熱源としてのレーザー光L2の照射により分散溶媒が気化し、分散溶媒中に発生する泡を意味する。以下、レーザー光L2については、「気泡発生レーザー光L2」というものとする。
【0026】
測定レーザー光L1には、分取の対象とする微小粒子や分取の目的に応じて、レーザー光源1を、アルゴンやヘリウム等のガスレーザーや半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)等公知の光源から適宜選択して用いることにより、種々の波長のレーザー光を選択して使用することができる。
【0027】
また、気泡発生レーザー光L2には、高精度かつ高速な温度制御を可能にするため、高精度な出力制御と高い応答性を備える半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)等の直接変換素子が好適に採用される。さらに、流路A内の所定位置に正確に気泡を発生させるため、単一波長性(可干渉性)に優れ、微小な領域に対して集光が可能な半導体レーザー(LD)を用いることが望ましい。ダイオードチップ内に共振機を備える半導体レーザー(LD)を用いることで、発光ダイオード(LED)に比べ高い出力を得ることが可能となり、レーザー光の照射時間をより短くして高速な温度制御を実現することができる。
【0028】
走査部3は、レーザー光源1及びレーザー光源2から発せられる測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の光路上にポリゴンミラーやガルバノミラー、音響光学素子、電気光学素子等として配置される。図1では、走査部3をダイクロイックミラーとして構成し、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2を一体に走査できるよう構成されている。
【0029】
走査部3による測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の走査は、一定周期で行われる。例えば、上記のダイクロイックミラーを高速回転させることにより、30,000rpm程度での走査が可能である。
【0030】
測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の照射は、各レーザー光が各流路に対して垂直に照射され、流路Aの走査線S1及び走査線S2に対応する位置(レーザー光の結像面)においてレーザー光のスポット幅が一定となるようなテレセントリック光学系により行うことが望ましい。
【0031】
測定レーザー光L1の照射によって、流路Aの走査線S1に対応する位置に導入されている微小粒子から発生する検出対象光Rは、光検出器5によって検出される。図1では、光検出器5としてマルチチャンネルフォトマルチプライヤーチューブ(PMT)を用いて、検出対象光Rを分光器8によりグレーティングした後、波長ごとに検出できるよう構成した。
【0032】
検出対象光Rは、測定対象微小粒子の大きさを測定する前方散乱光や、構造を測定する側方散乱光、蛍光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光などであってよい。また蛍光は、コヒーレントな蛍光であっても、インコヒーレントな蛍光であってもよい。
【0033】
光検出部5は、検出された各波長の光を増幅して電気信号へと変換し、解析手段6へ出力する。解析手段6は、光検出部5から入力される電気信号に基づいて、微小粒子の光学特性を解析し、微小粒子を分取するか否かについての解析結果を光変調部7へ出力する。そして、光変調部7は、解析手段6からの解析結果の出力を受け、レーザー光源2から放射される気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、流路Aの走査線S2に対応する位置において、流路A内に導入された分散溶媒中に気泡を発生させる。
【0034】
以下、この気泡発生レーザー光L2によって分散溶媒中に気泡を発生させた気泡により微小粒子の分取を行う方法について説明する。
【0035】
図2は、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第一の実施形態を説明する図である。
【0036】
図2は、図1中基板aに配設された流路Aの一つを模式的に拡大して示している。なお、図1では、基板a上に5本の流路Aを配設した場合を示したが、基板a上に配設される流路Aの数は特に限定されず、1以上の流路Aを適宜配設することができる。
【0037】
図2に示すように、流路Aは、微小粒子の分散溶媒が導入される導入流路A1と、この導入流路A1に連通する分岐流路A2及び分岐流路A3とを含んでいる。以下、この導入流路A1と分岐流路A2及び分岐流路A3の連通部を「流路分岐部」というものとする。
【0038】
分岐流路A2及び分岐流路A3の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap2及びサンプル貯留部Ap3が設けられている。
【0039】
さらに、流路Aは、微小粒子の分散溶媒を導入流路A1に導入するためのサンプル流路As1と、溶媒層流(シース流)を導入流路A1に導入するためのシース流路As2,As2とを備えている。サンプル流路As1から導入される微小粒子の分散溶媒は、2つのシース流路As2から導入される溶媒層流によって流路内の中央部に位置づけられた層流として導入流路A1に導入される。この際、微小粒子は、図に示すように、層流中に一定距離間隔で配列される。
【0040】
導入流路A1に一定距離間隔で配列された微小粒子は、図1中符号S1で示した測定レーザー光L1の走査線に対応する位置において、図2に示すように、測定レーザー光L1を照射される。図中、測定レーザー光L1が照射される微小粒子を、符号Pで示した。
【0041】
この測定レーザー光L1の照射によって、微小粒子Pから生じる測定対象光Rは、上述のように、光検出器5(図1参照)により検出され、電気信号へと変換された後、解析手段6へ出力される。そして、光変調部7は、解析手段6から出力される微小粒子Pを分取するか否かについての判定結果を受け、微小粒子Pを分取するべき場合には、レーザー光源2から放射される気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、分岐流路A2又は分岐流路A3の走査線S2に対応する位置において、分散溶媒中に気泡(図中、符合B参照)を発生させる。本図では、分岐流路A2内の分散溶媒中に気泡を発生させた場合を示した。
【0042】
微小粒子分取装置Kは、この気泡の発生によって分岐流路A2又は分岐流路A3に生じる流れ抵抗の増大に基づいて、流路分岐部における分散溶媒の送流方向、すなわち微量粒子Pの送流方向を制御し、微小粒子Pを分岐流路A2又は分岐流路A3のいずれかに選択的に導入し、サンプル貯留部Ap2又はサンプル貯留部Ap3のいずれかに貯留する。
【0043】
以下、図3及び図4に基づいて、気泡発生レーザー光L2により発生させた気泡により流路分岐部における分散溶媒の送流方向を制御する方法について、具体的に説明する。
【0044】
図3は、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図(上面図)である。
【0045】
流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、通常(分取を行わない)状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0046】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A2及び分岐流路A3の走査線S2に対応する位置のいずれにも気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0047】
図4には、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示した。
【0048】
解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A2の走査線S2に対応する位置の分散溶媒中に気泡Bを発生させる。この気泡Bの発生によって、分岐流路A2内に圧力損失が発生し、分岐流路A2の流れ抵抗が増大することで、分岐流路A2の流れが一時的に滞留することとなり、導入流路A1から送流される分散溶媒は、分岐流路A3へ流れるようになる(図中、矢印F3参照)。これにより、微小粒子Pを含む分散溶媒を分岐流路A3に導入し、微小粒子Pをサンプル貯留部Ap3内に分取することが可能となる。
【0049】
図5には、図4中走査線S2における分岐流路A2を含む基板aの断面図(A)と、Q-Qにおける分岐流路A2を含む基板a断面図(B)を示した。図は、気泡B近傍を拡大して示している。
【0050】
基板aは、図中符号a1で示す上層部と、図中符号a2で示す流路Aが形成された下層部と、上層部a1と下層部a2との間に設けられた蓄熱層a3とからなり、気泡発生レーザー光L2は、上層部a1を透過して蓄熱層a3に照射されるよう構成されている。
【0051】
蓄熱層a3は、気泡発生レーザー光L2のエネルギーを熱に変換し、分岐流路A2の走査線S2に対応する位置に導入された分散溶媒を加熱、気化させて、気泡Bを発生させるために設けられる。
【0052】
このため、蓄熱層a3は、気泡発生レーザー光L2の波長において吸光性に優れ、融点が高い素材によって形成されることが望ましい。蓄熱層a3の素材としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、スズなどの金属や、これらをベースとする合金、例えば、ステンレス、炭素鋼、黄銅、白銅、アルミニウム合金、さらにはアルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化珪素、炭化珪素をはじめとするセラミックスを用いることができる。そして、これらの素材を塗布、噴霧、溶着またはスポットすることにより、蓄熱層a3を形成する。
【0053】
蓄熱層a3を吸光性の高い素材によって形成することで、気泡発生レーザー光L2の照射によって、実質上即座に気泡Bを発生させることができる。また、高速かつ均質に分散溶媒を気化させて膜沸騰を誘起することができ、気泡B周囲の分散溶媒の加熱を回避するための蒸気層を形成させて、気泡B周囲の分散溶媒中に含まれる微小粒子を過度の加熱によって傷害することを防止できる。これは、特に微小粒子を細胞とする場合、細胞の生存率向上に寄与する。
【0054】
気泡発生レーザー光L2を蓄熱層a3に透過させるため、基板aの上層部a1は、気泡発生レーザー光L2を透過可能な素材によって形成する。上層部a1の材質としては、例えば、気泡発生レーザー光L2の波長に対し光透過性を有するガラスやプラスチックが採用される。
【0055】
なお、この蓄熱層a3は、気泡発生レーザー光L2により気泡Bを発生するための必須の構成とはならない。特に、流路の深さ(分散溶媒の厚み)dが、1mm程度以上である場合には、分岐流路A2の走査線S2に対応する位置に導入された分散溶媒そのものが気泡発生レーザー光L2の光エネルギーを吸収することにより、十分な速度で気泡Bを発生させることが可能である。蓄熱層a3は、流路の深さdが1mm程度未満であって、分散溶媒そのものの光吸収が不十分となる場合に設けられるものである。
【0056】
また、蓄熱層a3を設ける場合において、その位置は、図に示すような、分岐流路A2の上面側に限られず、分岐流路A2の分散溶媒に臨む面であれば、分岐流路A2の側面側や底面側であってよい。さらに、基板a(上層部a1及び下層部a2)が気泡発生レーザー光L2を透過可能である場合には、これらの面の表面に限定されず、気泡発生レーザー光L2が到達可能であり、蓄熱層a3からの熱が分散溶媒に伝達可能な限りにおいて、分岐流路A2の上面側や側面側、底面側の内層に蓄熱層a3を構成することも可能である。
【0057】
再度、図4に基づいて、気泡発生レーザー光L2によって気泡Bを発生させるタイミングについて説明する。
【0058】
気泡発生レーザー光L2による気泡Bの発生は、走査線S1上を走査される測定レーザー光L1を照射された微小粒子Pが、流路分岐部に送流された時点において、適切なタイミングで行われる。この気泡発生レーザー光L2の照射タイミングの制御は、光変調部7(図1参照)による気泡発生レーザー光L2の強度の制御によって実現される。
【0059】
先に説明したように、微小粒子分取装置Kにおいて、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の走査は、走査部3(図1参照)により一体に行われるものである。そして、この走査は、極めて短い周期(例えば、30,000rpm)で行われるため、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2は、走査線S1上において測定レーザー光L1を照射された微小粒子Pが流路分岐部に到達するまでの間に、それぞれ走査線S1及び走査線S2上を複数回走査されることとなる。光変調部7は、この気泡発生レーザー光L2が複数回走査される間の適切なタイミングにおいて、気泡発生レーザー光L2の強度を上昇もしくはオフからオンに切換えることにより、分岐流路A2内の分散溶媒中に気泡Bを発生させ、微小粒子Pを分岐流路A3に導入する。
【0060】
気泡の消失後は、分岐流路A2の流れ抵抗が減少し、分岐流路A2の流れの滞留が解消されるため、微小粒子の分散溶媒は、図3で説明したように、導入流路A1から分岐流路A2へ送流されるようになる(図3中、矢印F2参照)。
【0061】
これにより、導入流路A1内に一定間隔で配列された次の微小粒子が、測定レーザー光L1の走査線S1上に送流され、同様の手順により、分取が行われることとなる。
【0062】
この際、分岐流路A2の分散溶媒中に発生させた気泡Bが、あまりに長時間にわたって維持されると、本来分岐流路A3に導入されるべきでない微小粒子までもがサンプル貯留部Ap3内に分取されてしまう可能性がある。
【0063】
これは、気泡発生レーザー光L2の照射によって分散溶媒を気化させる際に、分散溶媒を過度に加熱することによって、大型の気泡が発生した場合に生じ易い。溶媒と空気では、熱伝達係数が空気の方が低く、大型の気泡では内部の熱が分散され難く、消失し難いためである。
【0064】
従って、導入流路A1内に一定間隔で配列され送流されてくる微小粒子を高精度に分取するためには、気泡Bを適切な大きさとし、一の微小粒子を分岐流路A3に導入するために必要かつ十分な時間、分岐流路A2内の流れを滞留させることが必要となる(適切な大きさの気泡を発生させるための方法については、図11〜図14において後述する)。
【0065】
なお、同様にして、図3に示した、微小粒子Pを分取しない場合において、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A3の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させて、微小粒子Pが確実に分岐流路A2へ送流され、サンプル貯留部Ap2内に貯留されるようにすることも可能である。
【0066】
以上のように、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第一の実施形態においては、解析手段6から出力される微小粒子Pを分取するか否かについての判定結果に基づいて、光変調部7によって気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、分岐流路内の分散溶媒中に気泡を発生させることで、気泡による分岐流路内の流れ抵抗の増大に基づいて、微小粒子Pの分取を行うことが可能である。
【0067】
図2〜図4では、分岐流路を2つとして、微小粒子をその光学特性に応じて2つのポピュレーションに分別する場合を例に説明したが、二以上の分岐流路を設ける場合も当然に可能である。
【0068】
図6には、3つの分岐流路を設けた流路Aを示す。
【0069】
図6に示す流路Aは、導入流路A1に連通する分岐流路として、分岐流路A2及び分岐流路A3に加え、分岐流路A4を備えている。そして、分岐流路A4の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap4が設けられている。
【0070】
図6に示す流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、通常(分取を行わない)状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0071】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A2、分岐流路A3及び分岐流路A4の走査線S2に対応する位置のいずれにも気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され(矢印F2参照)、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0072】
これに対して、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、図6に示すように、分岐流路A2及び分岐流路A3の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A4に導入し、サンプル貯留部Ap4内に分取することが可能となる(図中矢印F4参照)。
【0073】
また、分岐流路A2及び分岐流路A4の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A3に導入し、サンプル貯留部Ap3内に分取することも可能である。
【0074】
このように、図6に示す流路Aによれば微小粒子をその光学特性に応じて3つのポピュレーションに分別することが可能となる。
【0075】
さらに図2〜図6では、流路Aの1つを模式的に拡大して説明したが、図1で説明した通り、基板a上には複数の流路Aが設けられ、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2は、走査部3によって走査線S1及び走査線S2上を走査されることによって、全ての流路Aにおいて同時に上述したような微小粒子の光学測定と分取を行うものである。
【0076】
続いて、気泡発生レーザー光L2によって分散溶媒中に気泡を発生させた気泡によって微小粒子の分取を行う方法について、他の具体例を説明する。
【0077】
図7は、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第二の実施形態を説明する図である。
【0078】
図7は、図1中基板aに配設された流路Aの一つを模式的に拡大して示している。
【0079】
図7に示すように、流路Aは、微小粒子の分散溶媒が導入される導入流路A1と、この導入流路A1に連通する分岐流路A2及び分岐流路A3とに加え、さらに導入流路A1に連通するチャンバAc3を備えている。チャンバAc3は、導入流路A1に対して分岐流路A3と反対側に設けられ、導入流路A1と分岐流路A2及び分岐流路A3が連通する流路分岐部のすぐ上流(導入流路A1側)で導入流路A1に連通されている。
【0080】
また、図2と同様、分岐流路A2及び分岐流路A3の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap2及びサンプル貯留部Ap3が設けられている。
【0081】
また、微小粒子の分散溶媒を導入流路A1に導入するためのサンプル流路As1と、溶媒層流(シース流)を導入流路A1に導入するためのシース流路As2についても、図2で説明したのと同様の構成となっている。
【0082】
導入流路A1に一定距離間隔で配列された微小粒子は、図1中符号S1で示した測定レーザー光L1の走査線に対応する位置において、図に示すように、測定レーザー光L1を照射される。図中、測定レーザー光L1が照射される微小粒子を、符号Pで示した。
【0083】
この測定レーザー光L1の照射により微小粒子Pから生じる測定対象光Rに基づいて解析手段6が出力する判定結果に応じ、微小粒子Pを分取するべき場合には、光変調部7が、レーザー光源2から放射される気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、分散溶媒中に気泡(図中、符合B参照)を発生させる点も、図2で説明したのと同様である。しかし、図2では、分岐流路A2又は分岐流路A3の走査線S2に対応する位置に気泡を発生させる構成であったのと異なり、図7では、チャンバAc3の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させるように構成されている。
【0084】
微小粒子分取装置Kは、この気泡Bの発生によってチャンバAc3内から排出される分散溶媒の排出圧に基づいて、流路分岐部における分散溶媒の送流方向、すなわち、微量粒子Pの送流方向を制御し、微小粒子Pを分岐流路A2又は分岐流路A3のいずれかに選択的に導入し、サンプル貯留部Ap2又はサンプル貯留部Ap3のいずれかに貯留する。
【0085】
以下、図8及び図9に基づいて、気泡発生レーザー光L2により発生させた気泡により流路分岐部における分散溶媒の送流方向を制御する方法について、具体的に説明する。
【0086】
図8は、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である。
【0087】
チャンバAc3が導入流路A1に連通する連通口の口径(図中、U-U間距離)は、微小粒子の直径よりも小さく形成されている。このため、流路A内に微小粒子の分散溶媒が導入されると、分散溶媒のみが連通口を通過し、チャンバAc3内は分散溶媒で満たされる。この際、微小粒子がチャンバAc3内に導入されることはない。
【0088】
そして、流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、分取を行わない状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0089】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、チャンバAc3内に導入された分散溶媒中に気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0090】
図9には、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示した。
【0091】
解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、チャンバAc3内の走査線S2に対応する位置の分散溶媒中に気泡Bを発生させる。この気泡Bの発生によって、チャンバAc3内に満たされた分散溶媒が導入流路A1に排出される(図中、矢印f3参照)。そして、この排出される分散溶媒の排出圧によって、導入流路A1から送流される分散溶媒を押すようにして分岐流路A3へ送流する(図中、矢印F3参照)。これにより、微小粒子Pを分岐流路A3に導入し、サンプル貯留部Ap3内に分取することが可能となる。
【0092】
気泡発生レーザー光L2による気泡Bの発生は、走査線S1(図1参照)上を走査される測定レーザー光L1を照射された微小粒子Pが、チャンバAc3の導入流路A1への連通口(流路分岐部の直前)に送流された時点において行われる。この気泡発生レーザー光L2の照射タイミングの制御は、光変調部7(図1参照)による気泡発生レーザー光L2の強度の制御によって実現される。
【0093】
すなわち、走査線S1上において測定レーザー光L1を照射された微小粒子PがチャンバAc3の導入流路A1への連通口に到達するまでに、走査線S2上を複数回走査される気泡発生レーザー光L2の強度を、微小粒子PがチャンバAc3の導入流路A1への連通口に到達した際に、光変調部7が上昇もしくはオフからオンに切換えることにより、チャンバAc3内の分散溶媒中に気泡Bを発生させ、微小粒子Pを分岐流路A3に導入する。
【0094】
気泡発生レーザー光L2によりチャンバAc3内の分散溶媒中に気泡Bを発生させるに際しては、図5で説明したような、蓄熱層a3をチャンバAc3に設けることにより、気泡発生レーザー光L2の照射によって、実質上即座に気泡Bを発生させることが可能となる。
【0095】
以上のように、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第二の実施形態においては、解析手段6から出力される微小粒子Pを分取するか否かについての判定結果に基づいて、光変調部7によって気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、チャンバ内の分散溶媒中に気泡を発生させ、この気泡によってチャンバ内から排出される分散溶媒の排出圧に基づいて、微小粒子Pの分取を行うことが可能とされている。
【0096】
図7〜図9では、分岐流路を2つとして、微小粒子をその光学特性に応じて2つのポピュレーションに分別する場合を例に説明したが、二以上の分岐流路を設ける場合も当然に可能である。
【0097】
図10には、3つの分岐流路を設けた流路Aを示す。
【0098】
図10に示す流路Aは、導入流路A1に連通する分岐流路として、分岐流路A2及び分岐流路A3に加え、分岐流路A4を備えている。分岐流路A4の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap4が設けられている。そして、チャンバAc3に加えて、チャンバAc3の反対側で導入流路A1に連通するチャンバAc4を備えている。
【0099】
図9に示す流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、通常(分取を行わない)状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0100】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、チャンバAc3及びチャンバAc4のいずれの内部にも気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され(矢印F2参照)、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0101】
これに対して、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、図10に示すように、チャンバAc4内に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A4に導入し、サンプル貯留部Ap4内に分取することが可能となる(矢印F4参照)。
【0102】
また、図9と同様に、チャンバAc3内に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A3に導入し、サンプル貯留部Ap3内に分取することも可能である。
【0103】
このように、図10に示す流路Aによれば微小粒子をその光学特性に応じて3つのポピュレーションに分別することが可能となる。
【0104】
さらに図7〜図10では、流路Aの1つを模式的に拡大して説明したが、図1で説明した通り、基板a上には複数の流路Aが設けられ、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2は、走査部3によって走査線S1及び走査線S2上を走査されることによって、全ての流路Aにおいて同時に上述したような微小粒子の光学測定と分取を行うものである。
【0105】
次に、気泡発生レーザー光L2の照射によって適切な大きさの気泡Bを発生させるための構成について説明する。
【0106】
上述の通り、気泡発生レーザー光L2の照射によって分散溶媒を気化させる際に、分散溶媒を過度に加熱することによって、大型の気泡が発生した場合には、気泡Bが長時間にわたって維持され、微小粒子の分取を精度良く行うことができない可能性がある。
【0107】
このため、微小粒子分取装置Kにおいては、気泡発生レーザー光L2の照射によって分散溶媒を気化させる際に、光変調部7により照射される気泡発生レーザー光L2の強度の制御を行い、気泡Bを一の微小粒子を分取するために必要かつ十分な時間発生させるよう構成されている。
【0108】
図11は、光変調部7による気泡発生レーザー光L2の光変調方法を説明する図である。図11(A)〜(D)には本発明に係る光変調方法を、(E)及び(F)には比較のため光変調を行わない場合を示した。図中、横軸は時間(t)を、縦軸は強度(P)を表す。
【0109】
始めに、図11(E)及び(F)に基づいて、光変調を行わない場合について説明する。
【0110】
この場合、気泡発生レーザー光L2は、常に一定の強度により照射されるか((E)参照)、一定強度のパルスとして照射される((F)参照)。
【0111】
図11(E)及び(F)に示す気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を図12に例示する。
【0112】
図12(A)〜(C)は、図5(A)に示した走査線S2における分岐流路A2を含む基板Aの断面図(図4も参照)において、蓄熱層a3及び分岐流路A2を拡大して示している。また、(D)〜(F)は、蓄熱層a3の上面図である。
【0113】
図12(A)〜(F)は、気泡発生レーザー光L2の走査動作と、蓄熱層a3の温度分布の時系列変化を示している。蓄熱層a3中、黒く示した領域は、気泡発生レーザー光L2の照射によって高温となっている領域(以下、「高温領域」という)である。また、斜線で示した領域は、高温領域周辺の中程度の温度となっている領域(以下、「中温領域」という)を表している。また、図12(D)〜(F)中、点線で囲った領域は、気泡Bに対応している。
【0114】
図12(A)〜(C)に示すように、気泡発生レーザー光L2は走査線S2上を図中左から右へ走査されながら、蓄熱層a3に対して照射される。これにより、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域も、走査線S2に沿って図中左から右へ移動し、蓄熱層a3の温度分布は(D)〜(F)に示すように時系列変化する。
【0115】
この際、図11(E)及び(F)に示す光変調を行わない気泡発生レーザー光L2は、蓄熱層a3を一定強度で照射しながら加熱するため、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域は次第に拡大することとなる。そして、これに伴い、発生した気泡Bはさらに加熱されて膨張し、図12に示すように、次第に大型化する。
【0116】
このように、気泡発生レーザー光L2の光変調を行わない場合には、気泡Bは大型となり、上述の通り、微小粒子の分取精度に問題をきたす要因となる。
【0117】
これに対して、図11(A)〜(D)に示した気泡発生レーザー光L2の照射方法では、光変調部7によって、強度を時系列的に減少させるよう制御する。
【0118】
具体的には、図11(A)では、気泡発生レーザー光L2の強度を時系列に従って漸減させている。図11(B)では、パルス状とした気泡発生レーザー光L2の強度を同様に時系列に従って漸減させている。
【0119】
また、図11(C)では、レーザーを照射する時間と、照射しない時間とを設けた時分割により気泡発生レーザー光L2を照射(以下、「時分割照射」ともいう)した上、さらに気泡発生レーザー光L2の強度を時系列に従って漸減させている。図11(D)では、パルス状の気泡発生レーザー光L2を同様に時分割照射し、強度を漸減させている。
【0120】
図13に、図11(A)又は(B)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を、図14に、図11(C)又は(D)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を、それぞれ例示する。
【0121】
図12と同様に、図13及び図14は、気泡発生レーザー光L2の走査動作と、蓄熱層a3の温度分布の時系列変化を示している。
【0122】
図13(A)〜(C)に示すように、気泡発生レーザー光L2は、走査線S2上を図中左から右へ走査されながら、蓄熱層a3を照射する。これにより、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域も、走査線S2に沿って図中左から右へ移動し、蓄熱層a3の温度分布は、(D)〜(F)に示すように時系列変化する。
【0123】
この際、図11(A)及び(B)に示したように、気泡発生レーザー光L2の強度を時系列に従って漸減させることで、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域を拡大させることなく、発生する気泡の大型化を回避することが可能である。
【0124】
すなわち、図13(A)及び(D)に示す気泡発生当初においては、強度の大きい気泡発生レーザー光L2を照射し、蓄熱層a3を迅速に加熱して気泡Bを発生させる。続く、図13(B)及び(E),(C)及び(F)に示す気泡Bの成長段階においては、強度を次第に減少させて気泡発生レーザー光L2を照射する。これにより、すでに中温領域となった領域を強度の大きいレーザー光により過度に加熱することなく、気泡発生レーザー光L2が通過した高温領域での放温を促して、高温領域及び中温領域の拡大を回避することができる。
【0125】
従って、気泡Bの大型化を抑制することができる。さらには、蓄熱層a3の温度分布を、図13(F)に示すように、走査線S2に沿う均一な帯状として制御することができ、対応する領域に気泡Bを幅広に形成させることも可能となる(図13(C)も参照)。気泡Bを過度に大型化させることなく幅広に形成させることで、分岐流路A2内の流れ抵抗を効果的に増大させることができ、分取の精度をさらに高めることが可能となる。
【0126】
さらに、図11(C)及び(D)に示したように、気泡発生レーザー光L2を分割照射した上、さらに強度を時系列に従って漸減させることで、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域をスポット状に形成させ、小型の気泡を逐次的に形成させることも可能である。
【0127】
すなわち、気泡発生レーザー光L2が分岐流路A2上の走査線S2を走査される間に、気泡発生レーザー光L2を時分割により照射することで、図14に示すように、蓄熱層a3上に高温領域をスポット状に形成させ、対応する位置に複数の小型の気泡Bを逐次的に形成させることができる。
【0128】
さらに、この際、時系列に従って強度を漸減させることで、順次形成する高温領域を縮小していくことで、対応する位置に発生させる気泡の大きさを次第に小さくしていく。先に発生させた気泡が放熱により縮小するため、このように発生させる気泡の大きさを次第に小さくしていくことにより、結果として均一な大きさの気泡を連続的に多数形成させることが可能である。
【0129】
小型の気泡は、気泡体積に対して溶媒との接触面積が大きいため廃熱性が良く、短時間で消失し得るため、このように小型の気泡Bを多数逐次的に形成させて分岐流路A2内の流れ抵抗を増大させることで、大型の気泡を単独で発生させる場合に比べ、流路分岐部における送流方向の制御をより柔軟に高速に行うことが可能となる。
【0130】
なお、以上は、気泡発生レーザー光L2を蓄熱層a3に照射する場合を説明したが、先に図5で説明したように、蓄熱層a3に替えて、分岐流路A2に導入された分散溶媒に直接気泡発生レーザー光L2を照射して、加熱、気化させることにより、上記と同様の気泡を発生させることも当然に可能である。
【0131】
以上に説明した通り、微小粒子分取装置Kにおいては、流路内に発生させた気泡によって、流路分岐部における分散溶媒の送流方向を制御して、微小粒子の分取を行うことが可能である。このため、特に細胞を分取する場合に、従来の荷電や光圧力を利用した方法と異なり、荷電やレーザー光を直接細胞に照射することによる細胞へのダメージを抑制することができ、分取後の細胞の生存率や活性を高めることが可能となる。
【0132】
また、走査部3による測定光レーザーL1及び気泡発生レーザー光L2の走査により、基板上に配設された複数の流路において同時に微小粒子の光学測定及び分取を行うことが可能であるため、分取処理速度を高めることが可能である。
【0133】
さらに、気泡発生レーザー光L2の光学系(特に、光変調制御)のみによって分取の制御を行うことが可能であり、加えて、図1で説明したように、測定光レーザーL1及び気泡発生レーザー光L2の光学系を、対物レンズ4の光学収差の許容範囲において、同一の対物レンズ4(及び走査部3)によって構成することできるため、装置を大幅に小型化でき、製造コストを抑えることが可能である。同様に、基板についても、電極や可動部、駆動用配管等の複雑な構成が不要であるため、成形やナノインプリントのみによって基板を形成することができる。これにより、製造コストの低く、取り扱いが容易な基板を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係る微小粒子分取装置等は、微小粒子の化学的及び生物学的分析に用いることができ、分析の高速化や高効率化、集積化、あるいは、分析装置の小型化等に寄与する。
【0135】
また、特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができるため、幹細胞の分離を目的とした再生医療分野での利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明に係る微小粒子分取装置Kの構成を説明する模式図である。
【図2】微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第一の実施形態を説明する図である。
【図3】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第一実施形態)。
【図4】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第一実施形態)。
【図5】図4中走査線S2における分岐流路A2を含む基板aの断面図(A)と、Q-Qにおける分岐流路A2を含む基板aの断面図(B)である。
【図6】3つの分岐流路を設けた流路Aにおける分取方法を説明する図である(第一実施形態)。
【図7】微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第二の実施形態を説明する図である。
【図8】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第二実施形態)。
【図9】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第二実施形態)。
【図10】3つの分岐流路を設けた流路Aにおける分取方法を説明する図である(第二実施形態)。
【図11】光変調部7による気泡発生レーザー光L2の光変調方法を説明する図である。
【図12】図11(E)及び(F)に示す気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を示す図である。
【図13】図11(A)又は(B)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を示す図である。
【図14】図11(C)又は(D)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を示す図である。
【符号の説明】
【0137】
K 微小粒子分取装置
a 基板
a1 上層部
a2 下層部
a3 蓄熱層
A 流路
A1 導入流路
A2,A3,A4 分岐流路
Ap2,Ap3,Ap4 サンプル貯留部
Ac3,Ac4 チャンバ
B 気泡
L1 測定レーザー光
L2 気泡発生レーザー光
P 微小粒子
R 検出対象光
・ レーザー光源
3 走査部
4 対物レンズ
5 光検出部
6 解析手段
7 光変調部
8 分光器
9,10 コリメータレンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法に関する。より詳しくは、レーザー光の照射により発生する気泡によって、微小粒子の送流方向を制御して分取を行う微小粒子分取装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための反応領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-total-analysis system)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化、あるいは、分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
特に、μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことなどの理由から、貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの生物学的分析への応用例として、マイクロチップ上に設けられた流路内で細胞等の微小粒子の特性を光学的に分析し、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を分別回収する微小粒子分取技術がある。
【0006】
微小粒子分取技術として、特許文献1には、レーザートラッピングを利用した粒子分別装置が開示されている。この粒子分別装置は、移動する細胞等の粒子に対して走査光を照射することにより、粒子の種類に応じた作用力を与えて粒子の分取を行うものである。同様の技術として、特許文献2には、光圧(optical forceもしくはoptical pressure)を利用した微粒子回収装置が開示されている。この微粒子回収装置は、微粒子の流路に、微粒子の流れ方向に交差させてレーザービームを照射し、回収すべき微粒子の運動方向をレーザービームの収束方向に偏向させて微粒子の回収するものである。
【0007】
また、特許文献3には、微粒子の移動方向を制御するための電極を有する微粒子分別マイクロチップが記載されている。この電極は、微小粒子計測部位から微小粒子分別流路への流路口付近に設置され、微粒子の移動方向を制御するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−24309号公報
【特許文献2】特開2004−167479号公報
【特許文献3】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、細胞等の分取のためには、水滴荷電方式により微小粒子のソーティングを行うセルソーターが用いられてきた。水滴荷電方式によるソーティングでは、まず、細胞等の微小粒子を含む水流を水滴としてノズルから射出し、この際水滴にプラスまたはマイナスの電荷を印加する。そして、この水滴が落下の途中に偏向用電極板の間を通過する際に、所望の微小粒子を含む水滴を電気的に偏向用電極板へ引き寄せ、その落下方向を偏向させることにより分取を行っている。
【0010】
このような従来型のセルソーターでは、例えば、細胞の分取を行おうとする際、水滴に印加される電荷によって、細胞にダメージを与えてしまう可能性があった。また、水滴発生のための超音波発生装置や偏向用電極板のために、装置そのものが大型化し、また高価になってしまうという問題があった。
【0011】
この点、上記特許文献1及び2に開示される装置は、レーザー光の光圧力によって分取を行うものであるため、超音波発生装置や偏向用電極板などの構成が不要で、装置を小型化し易く、コストを抑えることが可能である。しかし、細胞の分取に関しては、レーザー光の照射によって細胞にダメージを与えてしまう可能性が残されていた。
【0012】
また、特許文献3に開示される記載されるマイクロチップは、微粒子の移動方向を制御するための電極を基板上に配設されている。このために、マイクロチップそのものの機構が複雑となり、コスト上の問題を生じる可能性があった。
【0013】
そこで、本発明は、特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができ、かつ、マイクロチップ及び装置そのものに複雑な機構を必要としない微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決のため、本発明は、微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取装置であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ得る光照射手段を備え、該光照射手段によって発生させた気泡によって、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取装置を提供する。
この微小粒子分取装置において、前記流路は、基板上に配設されていてもよい。
前記光照射手段は、前記分岐流路内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成され、発生させた気泡による前記分岐流路の流れ抵抗の増大に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うものである。
また、前記光照射手段を、前記導入流路に連通するチャンバ内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成し、発生させた気泡により前記チャンバ内から排出される前記分散溶媒の排出圧に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うようにすることもできる。なお、この場合、前記チャンバが前記導入流路に連通する連通口の口径は、前記微小粒子の直径よりも小さくなるように構成される。
さらに、前記光照射手段は、前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査するための光走査部又は/及びレーザー光の強度を制御する光変調部を備えていてもよい。
この光走査部は、前記流路が複数設けられている場合においては、全ての流路の前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査可能に構成される。
【0015】
併せて、本発明は、微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取用基板であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に発生させた気泡によって、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向を制御し得る微小粒子分取用基板を提供する。
さらに、微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取方法であって、熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ、発生させた気泡によって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取方法をも提供する。
【0016】
ここで、本発明において、「微小粒子分取装置」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などの微小粒子を光学的に測定し、分取するための装置が広く含まれる。対象とする細胞には、細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。生体高分子物質には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0017】
特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができ、かつ、マイクロチップ及び装置そのものに複雑な機構を必要としない微小粒子分取装置及び微小粒子分取用基板、並びに微小粒子分取方法を提供することを主な目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0019】
図1は、本発明に係る微小粒子分取装置Kの構成を説明する模式図である。
【0020】
微小粒子分取装置Kは、基板a上に配設された微小粒子の分散溶媒を導入湯可能な流路Aと、微小粒子の光学測定のためのレーザー光L1(図中、白矢印参照)を放射するレーザー光源1と、熱源としてのレーザー光L2(図中、黒矢印参照)を放射するレーザー光源2と、レーザー光L1及びレーザー光L2を流路Aに対して走査する走査部3と、レーザー光L1及びレーザー光L2を流路Aの所定位置に集光するための対物レンズ4を備えている。図中、符号9及び10は、それぞれレーザー光源1及びレーザー光源2からのレーザー光L1及びレーザー光L2を平行光線にするためのコリメータレンズである。
【0021】
また、微小粒子分取装置Kは、レーザー光L1(以下、「測定レーザー光L1」という)の照射により、流路A内の微小粒子から発生する検出対象光R(図中、斜線矢印参照)を検出するための光検出器5を備えている。流路A内の微小粒子から発生する検出対象光Rは、対物レンズ4により集光され、走査部3を透過して、光検出部5に導光される。
【0022】
さらに、微小粒子分取装置Kは、光検出部5から出力されるデータを解析する解析手段6と、解析手段6からの解析結果の出力を受け、レーザー光源2から放射されるレーザー光L2の強度を制御する光変調部7を備えている。
【0023】
基板aは、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)であってレーザー光L1及びレーザー光L2を透過可能であり、測定レーザー光L1及びレーザー光L2に対して波長分散が少なく光学誤差の少ない材質を用いて形成される。基板aの材質をガラスとする場合には、ウェットエッチングやドライエッチングによって流路を転写する。また、プラスチック製とする場合には、ナノインプリントや成型によって基板上に流路を形成する。流路を形成した基板は、基板と同じ材質を用いて流路をカバーシールすることができる。
【0024】
測定レーザー光L1は、走査部3により基板a上の所定の位置を走査され、流路Aの走査線(図中、点線矢印S1参照)に対応する位置において、流路A内に導入された微小粒子に照射される。
【0025】
同様に、レーザー光L2も走査部3により基板a上の所定の位置を走査され、流路Aの走査線(図中、点線矢印S2参照)に対応する位置において、流路A内に導入された分散溶媒中に気泡を発生させる。ここで、「気泡」とは、熱源としてのレーザー光L2の照射により分散溶媒が気化し、分散溶媒中に発生する泡を意味する。以下、レーザー光L2については、「気泡発生レーザー光L2」というものとする。
【0026】
測定レーザー光L1には、分取の対象とする微小粒子や分取の目的に応じて、レーザー光源1を、アルゴンやヘリウム等のガスレーザーや半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)等公知の光源から適宜選択して用いることにより、種々の波長のレーザー光を選択して使用することができる。
【0027】
また、気泡発生レーザー光L2には、高精度かつ高速な温度制御を可能にするため、高精度な出力制御と高い応答性を備える半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)等の直接変換素子が好適に採用される。さらに、流路A内の所定位置に正確に気泡を発生させるため、単一波長性(可干渉性)に優れ、微小な領域に対して集光が可能な半導体レーザー(LD)を用いることが望ましい。ダイオードチップ内に共振機を備える半導体レーザー(LD)を用いることで、発光ダイオード(LED)に比べ高い出力を得ることが可能となり、レーザー光の照射時間をより短くして高速な温度制御を実現することができる。
【0028】
走査部3は、レーザー光源1及びレーザー光源2から発せられる測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の光路上にポリゴンミラーやガルバノミラー、音響光学素子、電気光学素子等として配置される。図1では、走査部3をダイクロイックミラーとして構成し、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2を一体に走査できるよう構成されている。
【0029】
走査部3による測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の走査は、一定周期で行われる。例えば、上記のダイクロイックミラーを高速回転させることにより、30,000rpm程度での走査が可能である。
【0030】
測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の照射は、各レーザー光が各流路に対して垂直に照射され、流路Aの走査線S1及び走査線S2に対応する位置(レーザー光の結像面)においてレーザー光のスポット幅が一定となるようなテレセントリック光学系により行うことが望ましい。
【0031】
測定レーザー光L1の照射によって、流路Aの走査線S1に対応する位置に導入されている微小粒子から発生する検出対象光Rは、光検出器5によって検出される。図1では、光検出器5としてマルチチャンネルフォトマルチプライヤーチューブ(PMT)を用いて、検出対象光Rを分光器8によりグレーティングした後、波長ごとに検出できるよう構成した。
【0032】
検出対象光Rは、測定対象微小粒子の大きさを測定する前方散乱光や、構造を測定する側方散乱光、蛍光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光などであってよい。また蛍光は、コヒーレントな蛍光であっても、インコヒーレントな蛍光であってもよい。
【0033】
光検出部5は、検出された各波長の光を増幅して電気信号へと変換し、解析手段6へ出力する。解析手段6は、光検出部5から入力される電気信号に基づいて、微小粒子の光学特性を解析し、微小粒子を分取するか否かについての解析結果を光変調部7へ出力する。そして、光変調部7は、解析手段6からの解析結果の出力を受け、レーザー光源2から放射される気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、流路Aの走査線S2に対応する位置において、流路A内に導入された分散溶媒中に気泡を発生させる。
【0034】
以下、この気泡発生レーザー光L2によって分散溶媒中に気泡を発生させた気泡により微小粒子の分取を行う方法について説明する。
【0035】
図2は、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第一の実施形態を説明する図である。
【0036】
図2は、図1中基板aに配設された流路Aの一つを模式的に拡大して示している。なお、図1では、基板a上に5本の流路Aを配設した場合を示したが、基板a上に配設される流路Aの数は特に限定されず、1以上の流路Aを適宜配設することができる。
【0037】
図2に示すように、流路Aは、微小粒子の分散溶媒が導入される導入流路A1と、この導入流路A1に連通する分岐流路A2及び分岐流路A3とを含んでいる。以下、この導入流路A1と分岐流路A2及び分岐流路A3の連通部を「流路分岐部」というものとする。
【0038】
分岐流路A2及び分岐流路A3の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap2及びサンプル貯留部Ap3が設けられている。
【0039】
さらに、流路Aは、微小粒子の分散溶媒を導入流路A1に導入するためのサンプル流路As1と、溶媒層流(シース流)を導入流路A1に導入するためのシース流路As2,As2とを備えている。サンプル流路As1から導入される微小粒子の分散溶媒は、2つのシース流路As2から導入される溶媒層流によって流路内の中央部に位置づけられた層流として導入流路A1に導入される。この際、微小粒子は、図に示すように、層流中に一定距離間隔で配列される。
【0040】
導入流路A1に一定距離間隔で配列された微小粒子は、図1中符号S1で示した測定レーザー光L1の走査線に対応する位置において、図2に示すように、測定レーザー光L1を照射される。図中、測定レーザー光L1が照射される微小粒子を、符号Pで示した。
【0041】
この測定レーザー光L1の照射によって、微小粒子Pから生じる測定対象光Rは、上述のように、光検出器5(図1参照)により検出され、電気信号へと変換された後、解析手段6へ出力される。そして、光変調部7は、解析手段6から出力される微小粒子Pを分取するか否かについての判定結果を受け、微小粒子Pを分取するべき場合には、レーザー光源2から放射される気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、分岐流路A2又は分岐流路A3の走査線S2に対応する位置において、分散溶媒中に気泡(図中、符合B参照)を発生させる。本図では、分岐流路A2内の分散溶媒中に気泡を発生させた場合を示した。
【0042】
微小粒子分取装置Kは、この気泡の発生によって分岐流路A2又は分岐流路A3に生じる流れ抵抗の増大に基づいて、流路分岐部における分散溶媒の送流方向、すなわち微量粒子Pの送流方向を制御し、微小粒子Pを分岐流路A2又は分岐流路A3のいずれかに選択的に導入し、サンプル貯留部Ap2又はサンプル貯留部Ap3のいずれかに貯留する。
【0043】
以下、図3及び図4に基づいて、気泡発生レーザー光L2により発生させた気泡により流路分岐部における分散溶媒の送流方向を制御する方法について、具体的に説明する。
【0044】
図3は、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図(上面図)である。
【0045】
流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、通常(分取を行わない)状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0046】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A2及び分岐流路A3の走査線S2に対応する位置のいずれにも気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0047】
図4には、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示した。
【0048】
解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A2の走査線S2に対応する位置の分散溶媒中に気泡Bを発生させる。この気泡Bの発生によって、分岐流路A2内に圧力損失が発生し、分岐流路A2の流れ抵抗が増大することで、分岐流路A2の流れが一時的に滞留することとなり、導入流路A1から送流される分散溶媒は、分岐流路A3へ流れるようになる(図中、矢印F3参照)。これにより、微小粒子Pを含む分散溶媒を分岐流路A3に導入し、微小粒子Pをサンプル貯留部Ap3内に分取することが可能となる。
【0049】
図5には、図4中走査線S2における分岐流路A2を含む基板aの断面図(A)と、Q-Qにおける分岐流路A2を含む基板a断面図(B)を示した。図は、気泡B近傍を拡大して示している。
【0050】
基板aは、図中符号a1で示す上層部と、図中符号a2で示す流路Aが形成された下層部と、上層部a1と下層部a2との間に設けられた蓄熱層a3とからなり、気泡発生レーザー光L2は、上層部a1を透過して蓄熱層a3に照射されるよう構成されている。
【0051】
蓄熱層a3は、気泡発生レーザー光L2のエネルギーを熱に変換し、分岐流路A2の走査線S2に対応する位置に導入された分散溶媒を加熱、気化させて、気泡Bを発生させるために設けられる。
【0052】
このため、蓄熱層a3は、気泡発生レーザー光L2の波長において吸光性に優れ、融点が高い素材によって形成されることが望ましい。蓄熱層a3の素材としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、スズなどの金属や、これらをベースとする合金、例えば、ステンレス、炭素鋼、黄銅、白銅、アルミニウム合金、さらにはアルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化珪素、炭化珪素をはじめとするセラミックスを用いることができる。そして、これらの素材を塗布、噴霧、溶着またはスポットすることにより、蓄熱層a3を形成する。
【0053】
蓄熱層a3を吸光性の高い素材によって形成することで、気泡発生レーザー光L2の照射によって、実質上即座に気泡Bを発生させることができる。また、高速かつ均質に分散溶媒を気化させて膜沸騰を誘起することができ、気泡B周囲の分散溶媒の加熱を回避するための蒸気層を形成させて、気泡B周囲の分散溶媒中に含まれる微小粒子を過度の加熱によって傷害することを防止できる。これは、特に微小粒子を細胞とする場合、細胞の生存率向上に寄与する。
【0054】
気泡発生レーザー光L2を蓄熱層a3に透過させるため、基板aの上層部a1は、気泡発生レーザー光L2を透過可能な素材によって形成する。上層部a1の材質としては、例えば、気泡発生レーザー光L2の波長に対し光透過性を有するガラスやプラスチックが採用される。
【0055】
なお、この蓄熱層a3は、気泡発生レーザー光L2により気泡Bを発生するための必須の構成とはならない。特に、流路の深さ(分散溶媒の厚み)dが、1mm程度以上である場合には、分岐流路A2の走査線S2に対応する位置に導入された分散溶媒そのものが気泡発生レーザー光L2の光エネルギーを吸収することにより、十分な速度で気泡Bを発生させることが可能である。蓄熱層a3は、流路の深さdが1mm程度未満であって、分散溶媒そのものの光吸収が不十分となる場合に設けられるものである。
【0056】
また、蓄熱層a3を設ける場合において、その位置は、図に示すような、分岐流路A2の上面側に限られず、分岐流路A2の分散溶媒に臨む面であれば、分岐流路A2の側面側や底面側であってよい。さらに、基板a(上層部a1及び下層部a2)が気泡発生レーザー光L2を透過可能である場合には、これらの面の表面に限定されず、気泡発生レーザー光L2が到達可能であり、蓄熱層a3からの熱が分散溶媒に伝達可能な限りにおいて、分岐流路A2の上面側や側面側、底面側の内層に蓄熱層a3を構成することも可能である。
【0057】
再度、図4に基づいて、気泡発生レーザー光L2によって気泡Bを発生させるタイミングについて説明する。
【0058】
気泡発生レーザー光L2による気泡Bの発生は、走査線S1上を走査される測定レーザー光L1を照射された微小粒子Pが、流路分岐部に送流された時点において、適切なタイミングで行われる。この気泡発生レーザー光L2の照射タイミングの制御は、光変調部7(図1参照)による気泡発生レーザー光L2の強度の制御によって実現される。
【0059】
先に説明したように、微小粒子分取装置Kにおいて、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2の走査は、走査部3(図1参照)により一体に行われるものである。そして、この走査は、極めて短い周期(例えば、30,000rpm)で行われるため、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2は、走査線S1上において測定レーザー光L1を照射された微小粒子Pが流路分岐部に到達するまでの間に、それぞれ走査線S1及び走査線S2上を複数回走査されることとなる。光変調部7は、この気泡発生レーザー光L2が複数回走査される間の適切なタイミングにおいて、気泡発生レーザー光L2の強度を上昇もしくはオフからオンに切換えることにより、分岐流路A2内の分散溶媒中に気泡Bを発生させ、微小粒子Pを分岐流路A3に導入する。
【0060】
気泡の消失後は、分岐流路A2の流れ抵抗が減少し、分岐流路A2の流れの滞留が解消されるため、微小粒子の分散溶媒は、図3で説明したように、導入流路A1から分岐流路A2へ送流されるようになる(図3中、矢印F2参照)。
【0061】
これにより、導入流路A1内に一定間隔で配列された次の微小粒子が、測定レーザー光L1の走査線S1上に送流され、同様の手順により、分取が行われることとなる。
【0062】
この際、分岐流路A2の分散溶媒中に発生させた気泡Bが、あまりに長時間にわたって維持されると、本来分岐流路A3に導入されるべきでない微小粒子までもがサンプル貯留部Ap3内に分取されてしまう可能性がある。
【0063】
これは、気泡発生レーザー光L2の照射によって分散溶媒を気化させる際に、分散溶媒を過度に加熱することによって、大型の気泡が発生した場合に生じ易い。溶媒と空気では、熱伝達係数が空気の方が低く、大型の気泡では内部の熱が分散され難く、消失し難いためである。
【0064】
従って、導入流路A1内に一定間隔で配列され送流されてくる微小粒子を高精度に分取するためには、気泡Bを適切な大きさとし、一の微小粒子を分岐流路A3に導入するために必要かつ十分な時間、分岐流路A2内の流れを滞留させることが必要となる(適切な大きさの気泡を発生させるための方法については、図11〜図14において後述する)。
【0065】
なお、同様にして、図3に示した、微小粒子Pを分取しない場合において、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A3の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させて、微小粒子Pが確実に分岐流路A2へ送流され、サンプル貯留部Ap2内に貯留されるようにすることも可能である。
【0066】
以上のように、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第一の実施形態においては、解析手段6から出力される微小粒子Pを分取するか否かについての判定結果に基づいて、光変調部7によって気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、分岐流路内の分散溶媒中に気泡を発生させることで、気泡による分岐流路内の流れ抵抗の増大に基づいて、微小粒子Pの分取を行うことが可能である。
【0067】
図2〜図4では、分岐流路を2つとして、微小粒子をその光学特性に応じて2つのポピュレーションに分別する場合を例に説明したが、二以上の分岐流路を設ける場合も当然に可能である。
【0068】
図6には、3つの分岐流路を設けた流路Aを示す。
【0069】
図6に示す流路Aは、導入流路A1に連通する分岐流路として、分岐流路A2及び分岐流路A3に加え、分岐流路A4を備えている。そして、分岐流路A4の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap4が設けられている。
【0070】
図6に示す流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、通常(分取を行わない)状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0071】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、分岐流路A2、分岐流路A3及び分岐流路A4の走査線S2に対応する位置のいずれにも気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され(矢印F2参照)、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0072】
これに対して、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、図6に示すように、分岐流路A2及び分岐流路A3の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A4に導入し、サンプル貯留部Ap4内に分取することが可能となる(図中矢印F4参照)。
【0073】
また、分岐流路A2及び分岐流路A4の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A3に導入し、サンプル貯留部Ap3内に分取することも可能である。
【0074】
このように、図6に示す流路Aによれば微小粒子をその光学特性に応じて3つのポピュレーションに分別することが可能となる。
【0075】
さらに図2〜図6では、流路Aの1つを模式的に拡大して説明したが、図1で説明した通り、基板a上には複数の流路Aが設けられ、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2は、走査部3によって走査線S1及び走査線S2上を走査されることによって、全ての流路Aにおいて同時に上述したような微小粒子の光学測定と分取を行うものである。
【0076】
続いて、気泡発生レーザー光L2によって分散溶媒中に気泡を発生させた気泡によって微小粒子の分取を行う方法について、他の具体例を説明する。
【0077】
図7は、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第二の実施形態を説明する図である。
【0078】
図7は、図1中基板aに配設された流路Aの一つを模式的に拡大して示している。
【0079】
図7に示すように、流路Aは、微小粒子の分散溶媒が導入される導入流路A1と、この導入流路A1に連通する分岐流路A2及び分岐流路A3とに加え、さらに導入流路A1に連通するチャンバAc3を備えている。チャンバAc3は、導入流路A1に対して分岐流路A3と反対側に設けられ、導入流路A1と分岐流路A2及び分岐流路A3が連通する流路分岐部のすぐ上流(導入流路A1側)で導入流路A1に連通されている。
【0080】
また、図2と同様、分岐流路A2及び分岐流路A3の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap2及びサンプル貯留部Ap3が設けられている。
【0081】
また、微小粒子の分散溶媒を導入流路A1に導入するためのサンプル流路As1と、溶媒層流(シース流)を導入流路A1に導入するためのシース流路As2についても、図2で説明したのと同様の構成となっている。
【0082】
導入流路A1に一定距離間隔で配列された微小粒子は、図1中符号S1で示した測定レーザー光L1の走査線に対応する位置において、図に示すように、測定レーザー光L1を照射される。図中、測定レーザー光L1が照射される微小粒子を、符号Pで示した。
【0083】
この測定レーザー光L1の照射により微小粒子Pから生じる測定対象光Rに基づいて解析手段6が出力する判定結果に応じ、微小粒子Pを分取するべき場合には、光変調部7が、レーザー光源2から放射される気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、分散溶媒中に気泡(図中、符合B参照)を発生させる点も、図2で説明したのと同様である。しかし、図2では、分岐流路A2又は分岐流路A3の走査線S2に対応する位置に気泡を発生させる構成であったのと異なり、図7では、チャンバAc3の走査線S2に対応する位置に気泡Bを発生させるように構成されている。
【0084】
微小粒子分取装置Kは、この気泡Bの発生によってチャンバAc3内から排出される分散溶媒の排出圧に基づいて、流路分岐部における分散溶媒の送流方向、すなわち、微量粒子Pの送流方向を制御し、微小粒子Pを分岐流路A2又は分岐流路A3のいずれかに選択的に導入し、サンプル貯留部Ap2又はサンプル貯留部Ap3のいずれかに貯留する。
【0085】
以下、図8及び図9に基づいて、気泡発生レーザー光L2により発生させた気泡により流路分岐部における分散溶媒の送流方向を制御する方法について、具体的に説明する。
【0086】
図8は、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である。
【0087】
チャンバAc3が導入流路A1に連通する連通口の口径(図中、U-U間距離)は、微小粒子の直径よりも小さく形成されている。このため、流路A内に微小粒子の分散溶媒が導入されると、分散溶媒のみが連通口を通過し、チャンバAc3内は分散溶媒で満たされる。この際、微小粒子がチャンバAc3内に導入されることはない。
【0088】
そして、流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、分取を行わない状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0089】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、チャンバAc3内に導入された分散溶媒中に気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0090】
図9には、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示した。
【0091】
解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、チャンバAc3内の走査線S2に対応する位置の分散溶媒中に気泡Bを発生させる。この気泡Bの発生によって、チャンバAc3内に満たされた分散溶媒が導入流路A1に排出される(図中、矢印f3参照)。そして、この排出される分散溶媒の排出圧によって、導入流路A1から送流される分散溶媒を押すようにして分岐流路A3へ送流する(図中、矢印F3参照)。これにより、微小粒子Pを分岐流路A3に導入し、サンプル貯留部Ap3内に分取することが可能となる。
【0092】
気泡発生レーザー光L2による気泡Bの発生は、走査線S1(図1参照)上を走査される測定レーザー光L1を照射された微小粒子Pが、チャンバAc3の導入流路A1への連通口(流路分岐部の直前)に送流された時点において行われる。この気泡発生レーザー光L2の照射タイミングの制御は、光変調部7(図1参照)による気泡発生レーザー光L2の強度の制御によって実現される。
【0093】
すなわち、走査線S1上において測定レーザー光L1を照射された微小粒子PがチャンバAc3の導入流路A1への連通口に到達するまでに、走査線S2上を複数回走査される気泡発生レーザー光L2の強度を、微小粒子PがチャンバAc3の導入流路A1への連通口に到達した際に、光変調部7が上昇もしくはオフからオンに切換えることにより、チャンバAc3内の分散溶媒中に気泡Bを発生させ、微小粒子Pを分岐流路A3に導入する。
【0094】
気泡発生レーザー光L2によりチャンバAc3内の分散溶媒中に気泡Bを発生させるに際しては、図5で説明したような、蓄熱層a3をチャンバAc3に設けることにより、気泡発生レーザー光L2の照射によって、実質上即座に気泡Bを発生させることが可能となる。
【0095】
以上のように、微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第二の実施形態においては、解析手段6から出力される微小粒子Pを分取するか否かについての判定結果に基づいて、光変調部7によって気泡発生レーザー光L2の強度を制御して、チャンバ内の分散溶媒中に気泡を発生させ、この気泡によってチャンバ内から排出される分散溶媒の排出圧に基づいて、微小粒子Pの分取を行うことが可能とされている。
【0096】
図7〜図9では、分岐流路を2つとして、微小粒子をその光学特性に応じて2つのポピュレーションに分別する場合を例に説明したが、二以上の分岐流路を設ける場合も当然に可能である。
【0097】
図10には、3つの分岐流路を設けた流路Aを示す。
【0098】
図10に示す流路Aは、導入流路A1に連通する分岐流路として、分岐流路A2及び分岐流路A3に加え、分岐流路A4を備えている。分岐流路A4の一端には、微小粒子をプールするためのサンプル貯留部Ap4が設けられている。そして、チャンバAc3に加えて、チャンバAc3の反対側で導入流路A1に連通するチャンバAc4を備えている。
【0099】
図9に示す流路Aにおいて、導入流路A1内に導入された微小粒子は、通常(分取を行わない)状態では、導入流路A1に対し直線上に連通する分岐流路A2へ送流される(図中、矢印F2参照)よう構成されている。
【0100】
従って、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、チャンバAc3及びチャンバAc4のいずれの内部にも気泡を発生させないことにより、微小粒子Pは分岐流路A2へ導入され(矢印F2参照)、サンプル貯留部Ap2内に貯留される。
【0101】
これに対して、解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合には、気泡発生レーザー光L2によって、図10に示すように、チャンバAc4内に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A4に導入し、サンプル貯留部Ap4内に分取することが可能となる(矢印F4参照)。
【0102】
また、図9と同様に、チャンバAc3内に気泡Bを発生させれば、微小粒子Pを分岐流路A3に導入し、サンプル貯留部Ap3内に分取することも可能である。
【0103】
このように、図10に示す流路Aによれば微小粒子をその光学特性に応じて3つのポピュレーションに分別することが可能となる。
【0104】
さらに図7〜図10では、流路Aの1つを模式的に拡大して説明したが、図1で説明した通り、基板a上には複数の流路Aが設けられ、測定レーザー光L1及び気泡発生レーザー光L2は、走査部3によって走査線S1及び走査線S2上を走査されることによって、全ての流路Aにおいて同時に上述したような微小粒子の光学測定と分取を行うものである。
【0105】
次に、気泡発生レーザー光L2の照射によって適切な大きさの気泡Bを発生させるための構成について説明する。
【0106】
上述の通り、気泡発生レーザー光L2の照射によって分散溶媒を気化させる際に、分散溶媒を過度に加熱することによって、大型の気泡が発生した場合には、気泡Bが長時間にわたって維持され、微小粒子の分取を精度良く行うことができない可能性がある。
【0107】
このため、微小粒子分取装置Kにおいては、気泡発生レーザー光L2の照射によって分散溶媒を気化させる際に、光変調部7により照射される気泡発生レーザー光L2の強度の制御を行い、気泡Bを一の微小粒子を分取するために必要かつ十分な時間発生させるよう構成されている。
【0108】
図11は、光変調部7による気泡発生レーザー光L2の光変調方法を説明する図である。図11(A)〜(D)には本発明に係る光変調方法を、(E)及び(F)には比較のため光変調を行わない場合を示した。図中、横軸は時間(t)を、縦軸は強度(P)を表す。
【0109】
始めに、図11(E)及び(F)に基づいて、光変調を行わない場合について説明する。
【0110】
この場合、気泡発生レーザー光L2は、常に一定の強度により照射されるか((E)参照)、一定強度のパルスとして照射される((F)参照)。
【0111】
図11(E)及び(F)に示す気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を図12に例示する。
【0112】
図12(A)〜(C)は、図5(A)に示した走査線S2における分岐流路A2を含む基板Aの断面図(図4も参照)において、蓄熱層a3及び分岐流路A2を拡大して示している。また、(D)〜(F)は、蓄熱層a3の上面図である。
【0113】
図12(A)〜(F)は、気泡発生レーザー光L2の走査動作と、蓄熱層a3の温度分布の時系列変化を示している。蓄熱層a3中、黒く示した領域は、気泡発生レーザー光L2の照射によって高温となっている領域(以下、「高温領域」という)である。また、斜線で示した領域は、高温領域周辺の中程度の温度となっている領域(以下、「中温領域」という)を表している。また、図12(D)〜(F)中、点線で囲った領域は、気泡Bに対応している。
【0114】
図12(A)〜(C)に示すように、気泡発生レーザー光L2は走査線S2上を図中左から右へ走査されながら、蓄熱層a3に対して照射される。これにより、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域も、走査線S2に沿って図中左から右へ移動し、蓄熱層a3の温度分布は(D)〜(F)に示すように時系列変化する。
【0115】
この際、図11(E)及び(F)に示す光変調を行わない気泡発生レーザー光L2は、蓄熱層a3を一定強度で照射しながら加熱するため、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域は次第に拡大することとなる。そして、これに伴い、発生した気泡Bはさらに加熱されて膨張し、図12に示すように、次第に大型化する。
【0116】
このように、気泡発生レーザー光L2の光変調を行わない場合には、気泡Bは大型となり、上述の通り、微小粒子の分取精度に問題をきたす要因となる。
【0117】
これに対して、図11(A)〜(D)に示した気泡発生レーザー光L2の照射方法では、光変調部7によって、強度を時系列的に減少させるよう制御する。
【0118】
具体的には、図11(A)では、気泡発生レーザー光L2の強度を時系列に従って漸減させている。図11(B)では、パルス状とした気泡発生レーザー光L2の強度を同様に時系列に従って漸減させている。
【0119】
また、図11(C)では、レーザーを照射する時間と、照射しない時間とを設けた時分割により気泡発生レーザー光L2を照射(以下、「時分割照射」ともいう)した上、さらに気泡発生レーザー光L2の強度を時系列に従って漸減させている。図11(D)では、パルス状の気泡発生レーザー光L2を同様に時分割照射し、強度を漸減させている。
【0120】
図13に、図11(A)又は(B)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を、図14に、図11(C)又は(D)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を、それぞれ例示する。
【0121】
図12と同様に、図13及び図14は、気泡発生レーザー光L2の走査動作と、蓄熱層a3の温度分布の時系列変化を示している。
【0122】
図13(A)〜(C)に示すように、気泡発生レーザー光L2は、走査線S2上を図中左から右へ走査されながら、蓄熱層a3を照射する。これにより、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域も、走査線S2に沿って図中左から右へ移動し、蓄熱層a3の温度分布は、(D)〜(F)に示すように時系列変化する。
【0123】
この際、図11(A)及び(B)に示したように、気泡発生レーザー光L2の強度を時系列に従って漸減させることで、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域を拡大させることなく、発生する気泡の大型化を回避することが可能である。
【0124】
すなわち、図13(A)及び(D)に示す気泡発生当初においては、強度の大きい気泡発生レーザー光L2を照射し、蓄熱層a3を迅速に加熱して気泡Bを発生させる。続く、図13(B)及び(E),(C)及び(F)に示す気泡Bの成長段階においては、強度を次第に減少させて気泡発生レーザー光L2を照射する。これにより、すでに中温領域となった領域を強度の大きいレーザー光により過度に加熱することなく、気泡発生レーザー光L2が通過した高温領域での放温を促して、高温領域及び中温領域の拡大を回避することができる。
【0125】
従って、気泡Bの大型化を抑制することができる。さらには、蓄熱層a3の温度分布を、図13(F)に示すように、走査線S2に沿う均一な帯状として制御することができ、対応する領域に気泡Bを幅広に形成させることも可能となる(図13(C)も参照)。気泡Bを過度に大型化させることなく幅広に形成させることで、分岐流路A2内の流れ抵抗を効果的に増大させることができ、分取の精度をさらに高めることが可能となる。
【0126】
さらに、図11(C)及び(D)に示したように、気泡発生レーザー光L2を分割照射した上、さらに強度を時系列に従って漸減させることで、蓄熱層a3の高温領域及び中温領域をスポット状に形成させ、小型の気泡を逐次的に形成させることも可能である。
【0127】
すなわち、気泡発生レーザー光L2が分岐流路A2上の走査線S2を走査される間に、気泡発生レーザー光L2を時分割により照射することで、図14に示すように、蓄熱層a3上に高温領域をスポット状に形成させ、対応する位置に複数の小型の気泡Bを逐次的に形成させることができる。
【0128】
さらに、この際、時系列に従って強度を漸減させることで、順次形成する高温領域を縮小していくことで、対応する位置に発生させる気泡の大きさを次第に小さくしていく。先に発生させた気泡が放熱により縮小するため、このように発生させる気泡の大きさを次第に小さくしていくことにより、結果として均一な大きさの気泡を連続的に多数形成させることが可能である。
【0129】
小型の気泡は、気泡体積に対して溶媒との接触面積が大きいため廃熱性が良く、短時間で消失し得るため、このように小型の気泡Bを多数逐次的に形成させて分岐流路A2内の流れ抵抗を増大させることで、大型の気泡を単独で発生させる場合に比べ、流路分岐部における送流方向の制御をより柔軟に高速に行うことが可能となる。
【0130】
なお、以上は、気泡発生レーザー光L2を蓄熱層a3に照射する場合を説明したが、先に図5で説明したように、蓄熱層a3に替えて、分岐流路A2に導入された分散溶媒に直接気泡発生レーザー光L2を照射して、加熱、気化させることにより、上記と同様の気泡を発生させることも当然に可能である。
【0131】
以上に説明した通り、微小粒子分取装置Kにおいては、流路内に発生させた気泡によって、流路分岐部における分散溶媒の送流方向を制御して、微小粒子の分取を行うことが可能である。このため、特に細胞を分取する場合に、従来の荷電や光圧力を利用した方法と異なり、荷電やレーザー光を直接細胞に照射することによる細胞へのダメージを抑制することができ、分取後の細胞の生存率や活性を高めることが可能となる。
【0132】
また、走査部3による測定光レーザーL1及び気泡発生レーザー光L2の走査により、基板上に配設された複数の流路において同時に微小粒子の光学測定及び分取を行うことが可能であるため、分取処理速度を高めることが可能である。
【0133】
さらに、気泡発生レーザー光L2の光学系(特に、光変調制御)のみによって分取の制御を行うことが可能であり、加えて、図1で説明したように、測定光レーザーL1及び気泡発生レーザー光L2の光学系を、対物レンズ4の光学収差の許容範囲において、同一の対物レンズ4(及び走査部3)によって構成することできるため、装置を大幅に小型化でき、製造コストを抑えることが可能である。同様に、基板についても、電極や可動部、駆動用配管等の複雑な構成が不要であるため、成形やナノインプリントのみによって基板を形成することができる。これにより、製造コストの低く、取り扱いが容易な基板を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係る微小粒子分取装置等は、微小粒子の化学的及び生物学的分析に用いることができ、分析の高速化や高効率化、集積化、あるいは、分析装置の小型化等に寄与する。
【0135】
また、特に細胞の分取を行う場合に、細胞に及ぼすダメージを抑えて分取を行うことができるため、幹細胞の分離を目的とした再生医療分野での利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明に係る微小粒子分取装置Kの構成を説明する模式図である。
【図2】微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第一の実施形態を説明する図である。
【図3】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第一実施形態)。
【図4】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第一実施形態)。
【図5】図4中走査線S2における分岐流路A2を含む基板aの断面図(A)と、Q-Qにおける分岐流路A2を含む基板aの断面図(B)である。
【図6】3つの分岐流路を設けた流路Aにおける分取方法を説明する図である(第一実施形態)。
【図7】微小粒子分取装置Kにおける微小粒子の分取方法の第二の実施形態を説明する図である。
【図8】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきでないと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第二実施形態)。
【図9】解析手段6により微小粒子Pを分取すべきと判定された場合の流路分岐部における送流方向を示す図である(第二実施形態)。
【図10】3つの分岐流路を設けた流路Aにおける分取方法を説明する図である(第二実施形態)。
【図11】光変調部7による気泡発生レーザー光L2の光変調方法を説明する図である。
【図12】図11(E)及び(F)に示す気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を示す図である。
【図13】図11(A)又は(B)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を示す図である。
【図14】図11(C)又は(D)に示した気泡発生レーザー光L2を用いて発生させた気泡を示す図である。
【符号の説明】
【0137】
K 微小粒子分取装置
a 基板
a1 上層部
a2 下層部
a3 蓄熱層
A 流路
A1 導入流路
A2,A3,A4 分岐流路
Ap2,Ap3,Ap4 サンプル貯留部
Ac3,Ac4 チャンバ
B 気泡
L1 測定レーザー光
L2 気泡発生レーザー光
P 微小粒子
R 検出対象光
・ レーザー光源
3 走査部
4 対物レンズ
5 光検出部
6 解析手段
7 光変調部
8 分光器
9,10 コリメータレンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取装置であって、
熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ得る光照射手段を備え、
前記気泡によって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取装置。
【請求項2】
前記光照射手段は、前記分岐流路内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成され、
発生させた気泡による前記分岐流路の流れ抵抗の増大に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うことを特徴とする請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項3】
前記光照射手段は、前記導入流路に連通するチャンバ内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成され、
発生させた気泡により前記チャンバ内から排出される前記分散溶媒の排出圧に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うことを特徴とする請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項4】
前記光照射手段は、前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査するための光走査部を備えることを特徴とする請求項2又は3記載の微小粒子分取装置。
【請求項5】
さらに、前記光照射手段は、照射されるレーザー光の強度を制御する光変調部を備えることを特徴とする請求項4記載の微小粒子分取装置。
【請求項6】
前記流路が複数設けられており、
前記光走査部は、複数の流路の前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査可能に構成されていることを特徴とする請求項5記載の微小粒子分取装置。
【請求項7】
前記流路は、基板上に配設されていることを特徴とする請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項8】
前記チャンバが前記導入流路に連通する連通口の口径は、前記微小粒子の直径よりも小さいことを特徴とする請求項3記載の微小粒子分取装置。
【請求項9】
微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取用基板であって、
熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に発生させた気泡によって、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向を制御し得る微小粒子分取用基板。
【請求項10】
微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して、所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取方法であって、
熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ、
前記気泡によって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取方法。
【請求項1】
微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取装置であって、
熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ得る光照射手段を備え、
前記気泡によって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取装置。
【請求項2】
前記光照射手段は、前記分岐流路内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成され、
発生させた気泡による前記分岐流路の流れ抵抗の増大に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うことを特徴とする請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項3】
前記光照射手段は、前記導入流路に連通するチャンバ内の分散溶媒中に気泡を発生させ得るよう構成され、
発生させた気泡により前記チャンバ内から排出される前記分散溶媒の排出圧に基づいて、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行うことを特徴とする請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項4】
前記光照射手段は、前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査するための光走査部を備えることを特徴とする請求項2又は3記載の微小粒子分取装置。
【請求項5】
さらに、前記光照射手段は、照射されるレーザー光の強度を制御する光変調部を備えることを特徴とする請求項4記載の微小粒子分取装置。
【請求項6】
前記流路が複数設けられており、
前記光走査部は、複数の流路の前記分岐流路又は前記チャンバに対してレーザー光を走査可能に構成されていることを特徴とする請求項5記載の微小粒子分取装置。
【請求項7】
前記流路は、基板上に配設されていることを特徴とする請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項8】
前記チャンバが前記導入流路に連通する連通口の口径は、前記微小粒子の直径よりも小さいことを特徴とする請求項3記載の微小粒子分取装置。
【請求項9】
微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取用基板であって、
熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に発生させた気泡によって、前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向を制御し得る微小粒子分取用基板。
【請求項10】
微小粒子の分散溶媒を導入可能な導入流路と、該導入流路に連通する複数の分岐流路と、を含む流路の流路分岐部において、前記分散溶媒の送流方向を制御して、所望の微小粒子を選択された一の分岐流路内へ分取する微小粒子分取方法であって、
熱源としてのレーザー光の照射により前記分散溶媒中に気泡を発生させ、
前記気泡によって前記流路分岐部における前記分散溶媒の送流方向の制御を行う微小粒子分取方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−100698(P2009−100698A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277082(P2007−277082)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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