説明

微小粒子分析装置及びデータ表示方法

【課題】微小粒子から発せられた蛍光スペクトルの測定が可能で、その測定データを視覚で理解することができる微小粒子分析装置及びデータ表示方法を提供する。
【解決手段】先ず、検出部2で、微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出する。次に、変換部3において、検出部2で取得された各波長領域の光を、それぞれ電圧パルス(電気的信号)に変換する。その後、変換部3で変換された電圧パルスを、解析部4において定量化し、パルス高さ、幅又は面積を求め、検出データとする。そして、その検出データを、密度プロット、ドットプロット又は等高線プロットなどの形式で、表示部5に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子分析装置及びこの装置により測定されたデータの表示方法に関する。より詳しくは、微小粒子から発せられる光を検出し、その種類などを分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、細胞、微生物及びリポソームなどの生体関連微小粒子を分析する場合は、フローサイトメトリー(フローサイトメーター)が利用されている(例えば、非特許文献1参照。)。フローサイトメトリーは、流路内を1列になって通流する微小粒子に特定波長のレーザ光(励起光)を照射して、各微小粒子から発せられた蛍光や散乱光を検出することにより、複数の微小粒子を1個ずつ分析する方法である。このフローサイトメトリーでは、光検出器で検出した光を電気的信号に変換して数値化し、統計解析を行うことにより、個々の微小粒子の種類、大きさ及び構造などを判定することができる。
【0003】
また、近年、フローサイトメトリーにおいて、複数の蛍光色素を使用したマルチカラー分析が普及してきている(例えば、特許文献1,2参照。)。これら従来のフローサイトメータでは、通常、波長が異なる複数の光源と、各色素から発せられた光を検出するための複数の検出器を備えている。一方、蛍光色素はスペクトルを持つため、マルチカラー分析のように一度の測定で複数の蛍光色素を使用すると、検出器に目的以外の蛍光色素からの光が漏れ込み、分析精度が低下する。そこで、従来のフローサイトメータでは、目的の蛍光色素からの光情報のみを取り出すため、光検出器で検出した光を電気的信号に変換して数値化する際に、数学的な補正、即ち、蛍光補正を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−230333号公報
【特許文献2】特表2008−500558号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中内啓光監修,「細胞工学別冊 実験プロトコルシリーズ フローサイトメトリー自由自在」,第2版,株式会社秀潤社,2006年8月31日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、蛍光色素はそれぞれ特有のスペクトルを持っており、そのスペクトル情報は、蛍光色素自身の特徴を表すものとして重要なデータとなる。しかしながら、従来のフローサイトメータは、目的とする蛍光色素からの光を、例えば特定のバンド幅をもつ光を受光するセンサで検出し、その検出データを対応データとして扱っているため、各蛍光色素のスペクトル情報を提示することができないという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、微小粒子から発せられた蛍光スペクトルの測定が可能で、その測定データを視覚で理解することができる微小粒子分析装置及びデータ表示方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る微小粒子分析装置は、微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出する検出部と、各波長領域での検出結果をスペクトル表示する表示部と、を有するものである。
本発明においては、微小粒子から発せられた蛍光のスペクトラム情報を提示することができるため、ユーザーは、蛍光補正の有無及び蛍光補正の結果にかかわらず、測定データを視覚で理解することができる。そして、例えば、その特定領域のデータを抽出することにより、微小粒子について種々の情報が得られる。
この微小粒子分析装置は、前記検出部に多チャンネル光電子倍増管が設けられていてもよい。
また、前記検出部での検出結果を保存する記憶部を有し、該記憶部に保存されたデータを前記表示部に表示することもできる。
【0009】
本発明に係るデータ表示方法は、微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出し、波長領域毎の検出データをスペクトル表示する。
この表示方法では、検出光を変換して得た電圧パルスの高さ、幅又は面積を検出データとして使用とすることができる。
また、スペクトル表示は、例えば、密度プロット、ドットプロット又は等高線プロットとすることができる。
更に、前記スペクトルから選択された特定領域のデータのみを抽出して表示してもよい。
その場合、抽出されたデータを、例えば二次元プロットすることもできる。
更にまた、複数の微小粒子を連続して検出し、その検出データを演算処理した結果を表示してもよい。
更にまた、検出データを一旦保存し、該保存されたデータを読み出して表示することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微小粒子から発せられた蛍光のスペクトラム情報を提示することが可能であるため、ユーザーが測定データを視覚で理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第2の実施形態に係る微小粒子分析装置の構成を示す図である。
【図2】測定結果の表示例を示す図である。
【図3】図2に示す表示例についてゲートをかける方法を示す図である。
【図4】ゲート後の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態
(スペクトル表示の方法の例)
2.第2の実施の形態
(スペクトル表示する微小粒子分析装置の例)

【0013】
<1.第1の実施の形態>
[全体構成]
先ず、本発明の第1の実施形態のデータ表示方法について説明する。本実施形態のデータ表示方法においては、細胞やマイクロビーズなどの微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出し、波長領域毎の検出データをスペクトル表示する。
【0014】
[検出データ]
本実施形態のデータ表示方法では、光検出器により検出された光を、波長領域毎に電圧パルス(電気的信号)に変換し、定量化して検出データとする。具体的には、電圧パルスの高さ、幅又は面積を求めて、検出データとする。
【0015】
[表示形態]
本実施形態のデータ表示方法では、前述した方法で求めた波長領域毎の検出データを、スペクトル表示する。その表示方法は、特に限定されるものではないが、例えば、密度プロット、ドットプロット又は等高線などが挙げられる。また、表示されているスペクトルから特定領域のデータのみを抽出し、そのスペクトラムチャートを拡大表示したり、ヒストグラムや二次元プロットを表示したりすることもできる。
【0016】
更に、このデータ表示方法では、複数の微小粒子を連続して検出することにより取得された検出データを演算処理し、その結果を表示することも可能である。その演算処理としては、例えば、検出データを積算したり、全微粒子の検出データの平均値を算出したりすることなどが挙げられる。更にまた、本実施形態のデータ表示方法では、検出しながら表示を行うこともできるが、検出データを一旦保存し、この保存されたデータを読み出して表示してもよい。その場合も、検出データを演算処理し、その結果を表示してもよい。
【0017】
従来の二次元プロットでは、蛍光補正を行っても、そのデータをユーザーが視覚で判断することは困難であった。これに対して、本実施形態のデータ表示方法では、微小粒子から発せられた蛍光のスペクトラム情報を提示することができるため、蛍光補正の有無及び蛍光補正の結果にかかわらず、ユーザーが測定データを視覚で理解することができる。また、本実施形態のデータ表示方法では、特定領域のデータを抽出することにより、微小粒子について種々の情報を得ることが可能である。
【0018】
本実施形態のデータ表示方法は、微小粒子や細胞などの分析装置に限らず、例えば、製造装置、検査装置及び医療用装置などにも適用可能である。
【0019】
<2.第2の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本発明の第2の実施形態に係る微小粒子分析装置について説明する。図1は本実施形態の微小粒子分析装置の構成を示す図であり、図2はその測定結果の表示例を示す図である。図1に示すように、本実施形態の微小粒子分析装置1には、少なくとも、検出部2と、変換部3と、解析部4と、表示部5が設けられている。
【0020】
[検出部2の構成]
検出部2は、分析対象の微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出可能な構成であればよい。具体的には、波長領域毎にその波長領域を検出可能なセンサを配置した構成や、多チャンネル光電子倍増管(Photo-Multiplier Tube:PMT)などのように複数の光を同時に検出可能な検出器を備えた構成とすることができる。この検出部2で検出する波長領域の数、即ち、検出部2に配設される検出器のチャンネル数又はセンサ数などは、使用する色素の数以上であればよいが、現在のマルチカラー分析では6〜8色が一般的で、最大でも10〜12色であることから、12以上であることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態の微小粒子分析装置1では、検出部2に分光器を設け、微小粒子から発せられた蛍光が、この分光器で分光された後、多チャンネルPMTなどの検出器に入射する構成としてもよい。更に、検出部2には、必要に応じて、対物レンズ、集光レンズ、ピンホール、バンドカットフィルター、ダイクロックミラーなどを設けることもできる。
【0022】
[変換部3の構成]
変換部3は、検出部2で検出した各波長領域の光を、それぞれ電圧パルス(電気的信号)に変換するものであり、例えばADコンバータなどを使用することができる。
【0023】
[解析部4の構成]
解析部4では、電子計算機などを用いて変換部3で変換された電圧パルスを処理して定量化し、検出データとする。具体的には、電圧パルスの高さ(peak)、幅(width)又は面積(integral)を求め、これらを検出データとして使用する。そして、その結果は、波長領域毎に関連付けられ、記憶部(図示せず)などに保存される。
【0024】
[表示部5の構成]
表示部5は、解析部4での処理で得た検出データ、即ち、本実施形態の微小粒子分析装置1の測定結果を表示するものである。具体的には、表示部5には、例えば、図2に示すように、横軸に検出部のチャンネル番号をとり、縦軸に強度をとって、チャンネル毎の蛍光強度を示した「密度プロット」などが表示される。このとき、チャンネル番号が大きくなるに従い、検出波長が高くなるようにすると、検出光(蛍光)のスペクトラム情報が得られる。
【0025】
[微小粒子分析装置1の動作]
次に、本実施形態の微小粒子分析装置1の動作について説明する。本実施形態の微小粒子分析装置1で分析とする微小粒子は、特に限定されるものではないが、例えば細胞やマイクロビーズなどが挙げられる。また、これら微小粒子を修飾する蛍光色素の種類及び数も、特に限定されるものではなくFITC(fluorescein isothiocyanete:C2111NOS)、PE(phycoerythrin)、PerCP(periidinin chlorophyll protein)、PE−Cy5及びPE−Cy7などの公知の色素を、必要に応じて適宜選択して使用することができる。更に、各微小粒子が複数の蛍光色素で修飾されていてもよい。
【0026】
この微小粒子分析装置1を使用して微小粒子を光学的に分析する際は、先ず、光照射部の光源から励起光を出射し、流路内を通流する微小粒子に照射する。次に、微小粒子から発せられた蛍光を、検出部2で検出する。その際、例えば、微小粒子から発せられた蛍光を、プリズムや回折格子などの分光器で分光し、検出部2に配設された各センサやPMTの各チャンネルに、それぞれ異なる波長領域の光を入射させる。
【0027】
その後、検出部2において取得された各波長領域のデータは、変換部3で電圧パルスに変換され、更に、解析部4において定量化され、保存される。そして、その結果は、例えば図2に示す「密度プロット」などの形式で、表示部5に表示される。なお、図2に示す「密度プロット」は、32チャンネルPMTを使用し、FITCのみで修飾されているサンプル、PEのみで修飾されているサンプル及びNegativeサンプルを混合したものを測定した結果である。
【0028】
この「密度プロット」は、横軸にPMTのチャンネル番号(波長依存番号)をとり、縦軸に蛍光強度をとって、積算数0を青色とし、積算数が増す、即ち、密度が高くなるに従い赤色になるようにしている。このとき、検出波長が最も小さいチャンネルの番号を1とし、番号が大きくなるに従い検出波長が高くなるようにすれば、蛍光スペクトルに相当する情報が得られる。そして、このスペクトラム情報から、ユーザーは、サンプルが何の蛍光にラベルされているかを認識することができる。
【0029】
更に、本実施形態の微小粒子分析装置1では、図2に示すデータについて、特定のサンプル群だけを選び出し、そのサンプル(微小粒子)のみのデータを抽出し表示するゲーティングを行うこともできる。その際の表示形態は特に限定されるものではなく、ヒストグラム、二次元プロット及びスペクトラムチャートなど、種々の形態で表示することが可能である。図3は図2に示す表示例についてゲートをかける方法を示す図であり、図4はゲート後の表示例を示す図である。従来のフローサイトメータでは、通常、二次元プロットに対してゲーティング処理を行っているため、2チャンネル分の情報にのみゲートをかけることとなる。
【0030】
これに対して、図3に示すように、本実施形態の微小粒子分析装置1では、蛍光スペクトルについて、例えば10チャンネル分まとめてゲートをかける。そして、図4に示すように、ゲーティングしたサンプルのデータを、スペクトラムプロットで、ドットプロットモードにしたり、色を変化させたりすることも可能である。これにより、より明示的なゲーティングを実現することが可能であり、そのデータをユーザーが明確に確認することができる。また、ゲーティングしたサンプルのデータを、二次元プロットで表示することも可能である。
【0031】
また、蛍光スペクトルに基づきゲートする領域を選択できるため、例えば1つの微小粒子に2種類の蛍光色素が固定されているのか、それぞれ異なる蛍光色素で修飾された2個の微小粒子を含むのかも、容易に切り分けることができる。更に、他の蛍光色素からの漏れ込みがない部分をゲーティングすることにより、蛍光補正の有無及び蛍光補正の結果にかかわらず、ユーザーは、視覚によって、表示されているデータから、種々の情報を得ることが可能である。
【0032】
なお、本実施形態の微小粒子分析装置1では、前述した「密度プロット」、「ドットプロット」だけでなく、「等高線プロット」、「二次元プロット」、「二次元ヒストグラム」などを表示することも可能である。また、複数の微小粒子を連続して測定し、検出部2で検出されたデータを随時積算し、表示部5に表示されている蛍光スペクトルにリアルタイムで反映させることもできる。更に、保存されたデータを読み出して使用して表示したり、複数の微小粒子を連続して測定した結果を一旦保存し、全サンプルの平均値を使用して表示したりすることもできる。
【符号の説明】
【0033】
1 微小粒子分析装置
2 検出部
3 変換部
4 解析部
5 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出する検出部と、
各波長領域での検出結果をスペクトル表示する表示部と、
を有する微小粒子分析装置。
【請求項2】
前記検出部は多チャンネル光電子倍増管を備えている請求項1に記載の微小粒子分析装置。
【請求項3】
前記検出部での検出結果を保存する記憶部を有し、該記憶部に保存されたデータを前記表示部に表示する請求項1又は2に記載の微小粒子分析装置。
【請求項4】
微小粒子から発せられた蛍光を、複数の波長領域で同時に検出し、波長領域毎の検出データをスペクトル表示するデータ表示方法。
【請求項5】
検出光を変換して得た電圧パルスの高さ、幅又は面積を検出データとして使用する請求項4に記載のデータ表示方法。
【請求項6】
スペクトル表示が、密度プロット、ドットプロット又は等高線プロットである請求項4又は5に記載のデータ表示方法。
【請求項7】
前記スペクトルから選択された特定領域のデータのみを抽出して表示する請求項4乃至6のいずれか1項に記載のデータ表示方法。
【請求項8】
抽出されたデータを、二次元プロットする請求項7に記載のデータ表示方法。
【請求項9】
複数の微小粒子を連続して検出し、その検出データを演算処理した結果を表示する請求項4又は5に記載のデータ表示方法。
【請求項10】
検出データを一旦保存し、該保存されたデータを読み出して表示する請求項4乃至9のいずれか1項に記載のデータ表示方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232254(P2011−232254A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104520(P2010−104520)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】