説明

微小部品の操作方法

【課題】
装置が簡便で操作が容易で、微小部品の形状を問わず操作が可能であり、微小部品に機械的な損傷を与えにくい微小部品の操作方法を提供することにある。
【解決手段】
キャピラリに液体を満たし、キャピラリの先端のキャピラリ穴から液体が漏れ脱さない表面張力と内圧とが均衡した状態で、キャピラリ穴を微小部品に接触させ、キャピラリを上昇させることにより液体の液架橋力により微小部品を持ち上げ、キャピラリを微小部品を載置したい設置面の位置の上方に移動し、位置でキャピラリを下降させ、微小部品が位置に着地した状態でキャピラリを横方向に移動させて液体を微小部品及び設置面に漏れ出させ、その後、キャピラリを上昇させ微小部品を位置に載置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロパーツ等の微小部品をハンドリングする微小部品の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロパーツ等の微小部品をハンドリングする操作では、いわゆるグリッパ方式が一般的である。グリッパ方式は、例えば特許文献1に示されるように、2本の把持指の先端部で微小部品を把持し、把持した状態で微小部品を目的の位置に移動させ、その位置で微小部品を離すことで操作を行う。
【特許文献1】特開2005−342847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の微小部品の操作方法であるグリッパ方式では、微小部品の形状によって位置決めが難しく、静電気や凝着力の影響で微小部品をスムーズにリリースできない場合がある。また、機械的に挟持することから、微小部品に機械的な損傷を与える場合がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、装置が簡便で操作が容易で、微小部品の形状を問わず操作が可能であり、微小部品に機械的な損傷を与えにくい微小部品の操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の微小部品の操作方法は、キャピラリに液体を満たし、キャピラリの先端のキャピラリ穴から液体が漏れ脱さない表面張力と内圧とが均衡した状態で、キャピラリ穴を微小部品に接触させ、キャピラリを上昇させることにより液体の液架橋力により微小部品を持ち上げ、キャピラリを微小部品を載置したい設置面の位置の上方に移動し、位置でキャピラリを下降させ、微小部品が位置に着地した状態でキャピラリを横方向に移動させて液体を微小部品及び設置面に漏れ出させ、その後、キャピラリを上昇させ微小部品を位置に載置することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の微小部品の操作方法は、微小部品を載置したい設置面の位置が親水面で、微小部品を載置しない位置が撥水面であることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の微小部品の操作方法は、キャピラリを横方向に移動させつつキャピラリ穴を微小部品に接触させ、キャピラリ穴から液体が漏れ出た状態でキャピラリを上昇させて微小部品を持ち上げることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の微小部品の操作方法は、微小部品を複数個積み上げた後、複数個の微小部品をキャピラリから漏れ出させた液体で覆い、複数個の微小部品を整列させることを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の微小部品の操作方法は、液体として、エタノールを用いることを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の微小部品の操作方法は、キャピラリ穴の穴径を変えて、液体の液架橋力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、液体の液架橋力を用いてキャピラリを微小部品に接触させるだけでピックアップでき、且つキャピラリを横方向に移動させるだけでリリースできることから、装置が簡便で操作が容易である。また、保持のための媒体が液体であることから、液体が微小部品の形状に倣うため、微小部品の形状を問わず操作が可能であり、又微小部品に機械的な損傷を与えにくい。
【0012】
請求項2の発明によれば、微小部品を載置したい設置面の位置を親水面にし、微小部品を載置しない位置を撥水面にすることで、微小部品の位置決めを正確に行うことができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、キャピラリ穴から液体が漏れ出た状態でキャピラリを上昇させて微小部品を持ち上げることから、キャピラリが微小部品の中心又は真上に精密に位置決めしなくともピックアップでき、操作が容易である。
【0014】
請求項4の発明によれば、複数個の微小部品をキャピラリから漏れ出させた液体で覆い、複数個の微小部品を整列させることから、精密な位置決めをして微小部品を予め整列するようにリリースする必要がなく、操作が容易である。
【0015】
請求項5の発明によれば、エタノールは速乾性に優れることから、作業性を向上させることができる。
【0016】
請求項6の発明によれば、キャピラリ穴の穴径を変えて液体の液架橋力を制御することで、微小部品の種類により作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、本発明に係る微小部品の操作方法のピックアップの様子を示す説明図である。図2は、同微小部品の操作方法のリリースの様子を示す説明図である。図3は、同微小部品の操作方法の撥水面でのリリースの様子を示す説明図である。図4は、同微小部品の操作方法の自動調心作用を示す説明図である。図5は、同微小部品の操作方法の自動整列作用を示す説明図である。図6は、同微小部品の操作方法の液体の種類による液架橋力の制御を示すグラフである。図7は、同微小部品の操作方法のキャピラリ穴径による液架橋力の制御を示すグラフである。
【0018】
図において、微小部品2は、例えば、チップコンデンサ、SUSパイプやマイクロソルダボール等の寸法が数十μm〜数百μmのマイクロパーツである。微小部品2の質量は、1mg以下である。基板5は、微小部品2を載置する設置面を形成するもので、例えば電子基板で、その設置面は親水性を有している。キャピラリ10は、極細の管で、先端にキャピラリ穴12が設けられキャピラリ穴径は例えば20μm程度である。キャピラリ10には、水やエタノール等の液体20が満たされている。また、キャピラリ10は、小型超精密位置決めステージ等により上下・左右の3軸方向に移動可能な構成になっている。
【0019】
次に、本実施の形態の微小部品2の操作方法を説明する。ここで、操作方法とは、微小部品2をピックアップし、基板5の所望の位置に載置し、その位置でリリースする一連の操作である。まず、キャピラリ10の先端のキャピラリ穴12から液体20が漏れ脱さない表面張力と内圧とが均衡した状態(図1(a))で、キャピラリ穴12を微小部品2に接触させる(図1(b))。次に、キャピラリ10を上昇させることにより液体20の液架橋力により微小部品を持ち上げる(図1(c))。ここで、液架橋力とは、粒子間に液体が存在し液面が粒子の高さ以下のときに、液体の界面エネルギーを最小にしようとして、粒子同士を引き寄せる方法に働く力である。
【0020】
次に、キャピラリ10が微小部品2をピックアップした状態で、キャピラリ10を微小部品2を載置したい基板5の設置面の位置の上方に移動する(図2(a))。そして、その位置でキャピラリ10を下降させ、微小部品2をその位置に着地させる(図2(b))。次に、微小部品2が着地した状態でキャピラリ10を横方向に移動させて液体20を微小部品2及び基板5に漏れ出させる(図2(c))。その後、キャピラリ10を上昇させ微小部品2をその位置にリリースする(図2(d))。液体20が微小部品2及び基板5に漏れ出ることで、キャピラリ10と微小部品2との間の液架橋力が急激に弱まり逆に基板5と微小部品2との間に液架橋力が生じ、キャピラリ10が微小部品2を保持できなくなり、キャピラリ10の上昇で微小部品2が分離されることになる。尚、基板5と微小部品2との部分には液体20が残留することになるが、水やエタノールは蒸発するので、液体20が長時間残留することはない。
【0021】
以上のように、本実施の形態の操作方法によれば、液体20の液架橋力を用いてキャピラリ10を微小部品2に接触させるだけでピックアップでき、且つキャピラリ10を横方向に移動させるだけでリリースできることから、装置が簡便で操作が容易である。また、保持のための媒体が液体であることから、液体20が微小部品2の形状に倣うため、微小部品2の形状を問わず操作が可能であり、又微小部品2に機械的な損傷を与えにくい。
【0022】
上述の基板5の設置面が親水性を有すると説明したが、微小部品2を載置したい位置のみを親水性にし、載置させたくない部分を撥水性にすることもできる。親水性を有する位置での操作方法については上述の通りである。撥水性の位置でのリリースの様子を図3を用いて説明する。まず、キャピラリ10が微小部品2をピックアップした状態で、キャピラリ10を微小部品2を載置したい基板7の設置面の位置の上方に移動する(図3(a))。そして、その位置でキャピラリ10を下降させ、微小部品2をその位置に着地させる(図3(b))。次に、微小部品2が着地した状態でキャピラリ10を横方向に移動させて液体20を微小部品2及び基板7に漏れ出させるようにする(図3(c))。しかし、基板7が撥水性を有して液体20をはじくことから、液体20はせいぜい微小部品2の表面に漏れ出す程度である。このため、微小部品2とキャピラリ10との間の液架橋力は維持されることになる。すなわち、このままキャピラリ10を上昇させても、微小部品2はキャピラリ10と共に上昇し、リリースされない(図3(d))。
【0023】
このように、微小部品2を載置したい設置面の位置を親水面にし、微小部品2を載置しない位置を撥水面にすることで、微小部品2の位置決めを正確に行うことができる。
【0024】
次に、キャピラリ10を微小部品2の中心又は真上に移動させない状態でのピックアップについて説明する。微小部品2のピックアップにおいて、図4(a)に示すように、キャピラリ10が微小部品2の中心又は真上ではない状態で、キャピラリ10を微小部品2に接触させる。そして、図4(b)に示すように、キャピラリ穴12の液体20が微小部品2に接触すると、液体20が微小部品2の表面にわずかに漏れ出す。そして、微小部品2とキャピラリ10との間に液架橋力が生じ、キャピラリ10を上昇させることにより、微小部品2がピックアップされる(図4(c))。尚、この時、液体20の界面エネルギーが最小になるように作用するので、微小部品2は、キャピラリ10の中心位置で保持されるように移動する(図4(c)の二点鎖線位置から実線位置へ)。
【0025】
このように、キャピラリ穴12から液体20が漏れ出た状態でキャピラリ10を上昇させて微小部品2を持ち上げることから、キャピラリ10が微小部品2の中心又は真上に精密に位置決めしなくともピックアップでき、操作が容易である。
【0026】
次に、例えばチップコンデンサ等の微小部品30,32,34を平行に積み上げたい場合を説明する。例えば、図5(a)及び(a1)に示すように、予め下段の微小部品32,34が平行に直列に並べられた状態で、その上に微小部品30を平行に積み上げたい場合を説明する。この場合、図5(a1)に示すように、キャピラリ10に保持された微小部品30が、必ずしも微小部品32,34に対して平行な位置関係にあるとは限らない。このように、それぞれの微小部品30,32,34が平行ではない状態で、キャピラリ10を下降させ、微小部品32,34の上に微小部品30を着地させる(図5(b))。そして、キャピラリ10内部の液体20の液量を増やす等して、キャピラリ穴12から液体20を微小部品30,32,34を覆うように漏れ出させる。すると、漏れ出た液体20の作用で、微小部品30,32,34が整列し平行になる。キャピラリ10を上昇させることにより、微小部品30,32,34が、平行に積み上げられた状態でリリースされることになる(図5(d)、(d1))。
【0027】
このように、複数個の微小部品30,32,34をキャピラリ10から漏れ出させた液体20で覆い、複数個の微小部品30,32,34を整列させることから、精密な位置決めをして微小部品30,32,34を予め整列するようにリリースする必要がなく、操作が容易である。
【0028】
尚、液体20の種類により液架橋力が異なることから、液体20の種類を適宜選択することにより、微小部品2の操作を制御できることになる。例えば、図6に示すように、キャピラリ穴12のキャピラリ穴径が20μmの場合の水の液架橋力は8.4μNで、エタノールの液架橋力は2.5μNである。液架橋力をみるとエタノールは水に対して非力ではなるが、エタノールでも十分にピックアップできる質量の微小部品2は存在する。また、エタノールは、水に比べて速乾性が高いので、基板5上に長時間にわたって残留せず、作業性を向上させることができる。
【0029】
また、キャピラリ穴12のキャピラリ穴径により液架橋力が異なることから、穴径を適宜選択することにより、微小部品2の操作を制御できることになる。例えば、図7に示すように、穴径が20μmの場合の液架橋力は2.5μNで、穴径が40μmの場合の液架橋力は8.2μNである。キャピラリ穴12の穴径を変えて液体20の液架橋力を制御することで、微小部品2の種類により液架橋力を変えて着脱を効率的に行えるように定めることをでき、作業性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、装置が簡便で操作が容易で、微小部品の形状を問わず操作が可能であり、微小部品に機械的な損傷を与えにくい微小部品の操作方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る微小部品の操作方法のピックアップの様子を示す説明図である。
【図2】同微小部品の操作方法のリリースの様子を示す説明図である。
【図3】同微小部品の操作方法の撥水面でのリリースの様子を示す説明図である。
【図4】同微小部品の操作方法の自動調心作用を示す説明図である。
【図5】同微小部品の操作方法の自動整列作用を示す説明図である。
【図6】同微小部品の操作方法の液体の種類による液架橋力の制御を示すグラフである。
【図7】同微小部品の操作方法のキャピラリ穴径による液架橋力の制御を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
2・・・・微小部品
5・・・・基板
7・・・・基板
10・・・キャピラリ
12・・・キャピラリ穴
20・・・液体
30・・・微小部品
32・・・微小部品
34・・・微小部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロパーツ等の微小部品をハンドリングする微小部品の操作方法において、
キャピラリに液体を満たし、該キャピラリの先端のキャピラリ穴から該液体が漏れ脱さない表面張力と内圧とが均衡した状態で、該キャピラリ穴を該微小部品に接触させ、
該キャピラリを上昇させることにより該液体の液架橋力により該微小部品を持ち上げ、
該キャピラリを該微小部品を載置したい設置面の位置の上方に移動し、該位置で該キャピラリを下降させ、
該微小部品が該位置に着地した状態で該キャピラリを横方向に移動させて該液体を該微小部品及び該設置面に漏れ出させ、
その後、該キャピラリを上昇させ該微小部品を該位置に載置することを特徴とする微小部品の操作方法。
【請求項2】
前記微小部品を載置したい前記設置面の位置が親水面で、前記微小部品を載置しない位置が撥水面であることを特徴とする請求項1記載の微小部品の操作方法。
【請求項3】
前記キャピラリを横方向に移動させつつ前記キャピラリ穴を前記微小部品に接触させ、
該キャピラリ穴から前記液体が漏れ出た状態で該キャピラリを上昇させて該微小部品を持ち上げることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の微小部品の操作方法。
【請求項4】
前記微小部品を複数個積み上げた後、該複数個の微小部品を前記キャピラリから漏れ出させた前記液体で覆い、該複数個の微小部品を整列させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の微小部品の操作方法。
【請求項5】
前記液体として、エタノールを用いることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の微小部品の操作方法。
【請求項6】
前記キャピラリ穴の穴径を変えて、前記液体の液架橋力を制御することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の微小部品の操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−56573(P2009−56573A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227830(P2007−227830)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(597139170)学校法人静岡理工科大学 (3)
【Fターム(参考)】