説明

微小重力環境用凝縮装置

【課題】小型の装置で蒸気の凝縮と非凝縮性ガスの分離とが行えるようにする。
【解決手段】微小重力環境下で使用される熱制御系ループのパネル放熱器3'の出口部に、ラジエータパネル7と、ラジエータパネル7の平面に沿って設けた円筒ケーシング8と、円筒ケーシング8の外周面からラジエータパネル7の平面に亘って配置したヒートパイプ14と、パネル放熱器3'からの気液混合液体20cを円筒ケーシング8の一端から接線方向に導入して旋回流を形成する流体導入口9と、円筒ケーシング8の他端に形成した液導出口10と、流体導入口9が設けられた円筒ケーシング8の一端の軸中心に挿入配置した非凝縮性ガス取出管11とを有する気体取出凝縮器6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小重力環境用凝縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙船や宇宙基地等では、搭載されている機器や居住空間の温度を所定に保つ必要から熱交換器等を備えた熱制御系ループが設置されて、内部の熱を外部に放熱して冷却することが行われている。
【0003】
この熱制御系ループでは、例えば、図5に示すように、熱交換媒体(冷媒)として水やフロン代替物質等の液体が使用され、液体20aを蒸発させることで機器1等を冷却する熱回収用の蒸発器2(熱交換器)と、蒸発した蒸気20bを宇宙空間に対して熱輻射により放熱させて液化するパネル放熱器3(熱交換器)との間を配管4で連通させてポンプ5で循環する形式が採用されていることが多い。パネル放熱器3は、大きな面積で形成されたラジエータパネル3aとコンデンサ3bから構成されている。
【0004】
ところで、このような熱制御系ループでは、配管4等の補修や交換後に、冷媒を充填しなければならないが、このとき、配管4内の冷媒中に非凝縮性のガス(例えば空気)による気泡が混入する場合があり、冷媒中に気泡が混入すると、ポンプ5のキャビテーションによる寿命の短縮化を招いたり、振動により無重力環境での実験に悪影響を及ぼす虞れがある。また、冷媒中に気泡が混入すると、パネル放熱器3による放熱性能が著しく低下することになり、このために、パネル放熱器3は大型の面積を有したものにする必要があった。
【0005】
このように気泡の混入による凝縮熱伝達性能の低下は、蒸気と凝縮液体の分離が微小重力環境下では有効に行なわれないことに起因しており、この問題を解決するための従来技術としては、膜を用いたもの(特許文献1)、ポアスロートを用いたもの(特許文献2)が提案されている。しかし、このような装置においては、装置構造が複雑になったり、簡易的な構造のものの場合には十分な気液分離性能が見込めないといった問題を有していた。
【0006】
また、高い気液分離性能を有するものとしては、機器の回転に伴い発生する遠心力を利用するようにしたもの(特許文献3)がある。しかし、このような回転駆動機器を備えたものの場合には、振動が微小重力環境に悪影響を与え、システムの信頼性の低下につながるため、宇宙機等への適用は好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−319496号公報
【特許文献2】特表2006−516478号公報
【特許文献3】特表平11−501578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、蒸発器2からの蒸気を冷却して熱を宇宙空間へ放熱するための凝縮装置としては、信頼性の面からパネル放熱器3が好ましいとされているが、パネル放熱器3は大きな面積のラジエータパネル3aを備える必要があるために、小型でしかも蒸気の凝縮と非凝縮性ガスの分離とが可能な凝縮装置の出現が望まれていた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなしたもので、小型の装置で蒸気の凝縮と非凝縮性ガスの分離とが行えるようにした微小重力環境用凝縮装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、微小重力環境下で使用される熱制御系ループに備えた蒸発器により液体を蒸発させて機器の熱を除去し、蒸発した蒸気をパネル放熱器で凝縮して得られた液体を前記蒸発器に循環するようにしている微小重力環境用凝縮装置であって、
前記パネル放熱器の出口部に、ラジエータパネルと、該ラジエータパネルの平面に沿って設けた円筒ケーシングと、該円筒ケーシングの外周面から前記ラジエータパネルの平面に亘って配置したヒートパイプと、前記パネル放熱器からの気液混合液体を円筒ケーシングの一端から接線方向に導入して旋回流を形成する流体導入口と、円筒ケーシングの他端に形成した液導出口と、前記流体導入口が設けられた円筒ケーシングの一端の軸中心に挿入配置した非凝縮性ガス取出管と、を有する気体取出凝縮器を備えた
ことを特徴とする微小重力環境用凝縮装置、に係るものである。
【0011】
上記微小重力環境用凝縮装置において、前記円筒ケーシングの内面にポーラス材を備えることは好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微小重力環境用凝縮装置によれば、パネル放熱器の出口部に、パネル放熱器からの気液混合液体を接線方向から導入して内部に旋回流を形成する円筒ケーシングをラジエータパネルに沿って設け、該円筒ケーシングの外周からラジエータパネルの平面に沿って延びるように設けたヒートパイプによって円筒ケーシングを冷却する気体取出凝縮器を備えたので、パネル放熱器からの気液混合液体を気体取出凝縮器により冷却しつつ旋回させることで凝縮を効果的に行わせて非凝縮性ガスを確実に分離することができる。従って、パネル放熱器では蒸気を完全に液体に凝縮する必要がないためにパネル放熱器は小型化することができ、更に、振動を生じることもなく、熱制御系ループ全体の小型・簡略化が図れるという優れた効果を奏し得る。
【0013】
又、円筒ケーシングの内面にポーラス材を備えることにより、分離した液を良好に保持して下流に導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の微小重力環境用凝縮装置を備えた熱制御ループの実施例を示す概略系統図である。
【図2】図1における気体取出凝縮器の一例を示す側面図である。
【図3】図2をIII−III方向から見た断面図である。
【図4】図3とは異なるヒートパイプの配置例を示す断面図である。
【図5】従来の熱制御ループの一例を示す概略系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0016】
図1〜図3は本発明の一実施例を示すものであって、図中、図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図5に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1に示す如く、ポンプ5によって冷媒が循環している熱制御系ループにおけるパネル放熱器3'の出口部に、気体取出凝縮器6を備えている。このとき、前記パネル放熱器3'は、従来のように蒸気20bを完全に液化させるようにしたパネル放熱器3に対して、蒸気20bを部分的に凝縮することができればよいため、従来のパネル放熱器3に比して大幅に小型のものとしている。
【0017】
前記気体取出凝縮器6は、図2、図3に示す如く、宇宙空間に対向して設けるようにした例えば長方形を有するラジエータパネル7と、該ラジエータパネル7の内側平面の長手方向中間部に沿って設けた円筒ケーシング8とを有している。円筒ケーシング8の一端は閉塞されており、閉塞された一端側の外周面には、前記パネル放熱器3からの気液混合液体20cを円筒ケーシング8内に接線方向から導入して旋回流を形成するようにした流体導入口9を設けている。又、円筒ケーシング8の他端には、先細り形状に形成された液導出口10を設けている。更に、前記流体導入口9を設けた円筒ケーシング8の一端側の軸中心位置には、非凝縮性ガス21を取り出すための非凝縮性ガス取出管11を挿入配置している。この非凝縮性ガス取出管11は、円筒ケーシング8内部への挿入長さを調節できるようになっていることが好ましく、更に、非凝縮性ガス取出管11には開閉弁12が設けてあり、該開閉弁12を開けて円筒ケーシング8内の圧力を利用して円筒ケーシング8内の非凝縮性ガス21を取り出すか、又は、非凝縮性ガス取出管11を吸引することによって円筒ケーシング8内の非凝縮性ガス21を取り出すようにしている。
【0018】
前記円筒ケーシング8の内面には、ポーラス材13を設けている。ポーラス材としては、100〜200メッシュのSUS製金網の積層体、SUS製もしくは銅製の焼結繊維、粉末焼結体等を用いることができる。
【0019】
前記円筒ケーシング8の長手方向に所要の間隔を隔てた外周面には、複数のヒートパイプ14の一端が沿うように設けてあり、該ヒートパイプ14の他端は前記ラジエータパネル7の内側平面の長手方向に沿うように配置されている。図3では、ラジエータパネル7上に配置された円筒ケーシング8の頂部を境にして左右のヒートパイプ14が円筒ケーシング8の外周面からラジエータパネル7の内側平面に亘って延びるように配置されている。
【0020】
又、図4では、ヒートパイプ14の一端が円筒ケーシング8の外周に例えば270゜の範囲で巻き付けられた後、ラジエータパネル7の内側平面に亘って配置されるようにした場合を示している。
【0021】
次に、上記実施例の作動を説明する。
【0022】
ポンプ5からの液体20aの冷媒が蒸発器2に供給されて、液体20aが蒸発することで機器1等の冷却が行われ、蒸発器2で蒸発した蒸気20bは、パネル放熱器3'に導かれて宇宙空間に対して熱輻射による放熱を行うことで液化が行われる。このとき、パネル放熱器3'で蒸気20bの完全な液化を行うことは、非常に大型のパネル放熱器3を必要とするために、本発明におけるパネル放熱器3'は蒸気を部分的に凝縮できる大きさのものとしている。このため、パネル放熱器3'の大きさは図5に示す従来のパネル放熱器3に比して小型化することができる。
【0023】
従って、前記パネル放熱器3'からは気液混合液体20cが導出されるようになる、この気液混合液体20cは流体導入口9から前記気体取出凝縮器6の円筒ケーシング8内に接線方向に導入される。これにより、円筒ケーシング8内には旋回流が形成され、微小重力環境では比較的小さな力の旋回流でも旋回が継続される効果があるため、ラジエータパネル7及びヒートパイプ14によって冷却されつつ、液及び液粒子は遠心力により外方へ移動してポーラス材13に捕捉され、気体は軸中心に集合することで気液分離が効果的に行われる。
【0024】
ポーラス材13に捕捉された液体20aは、液導出口10からポンプ5に供給され、円筒ケーシング8の軸中心に分離された非凝縮性ガス21は、非凝縮性ガス取出管11の開閉弁12を開けることにより外部へ取り出される。
【0025】
上記したように、パネル放熱器3'の出口部に、パネル放熱器3'からの気液混合液体20cを接線方向から導入して内部に旋回流を形成する円筒ケーシング8をラジエータパネル7に沿って設け、円筒ケーシング8の外周からラジエータパネル7の内側平面に沿って延びるように設けたヒートパイプ14によって円筒ケーシング8を冷却するようにした気体取出凝縮器6を備えたので、パネル放熱器3'からの気液混合液体20cを気体取出凝縮器6によって冷却しつつ旋回させることで凝縮を効果的に行い、非凝縮性ガス21を確実に分離することができる。従って、パネル放熱器3'では蒸気20bを完全に液体20aに凝縮する必要がないためにパネル放熱器3'の小型化を図ることができ、更に、振動を生じることもなく、熱制御系ループ全体の小型・簡略化を図ることができる。
【0026】
尚、本発明の微小重力環境用凝縮装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
2 蒸発器
3' パネル放熱器
6 気体取出凝縮器
7 ラジエータパネル
8 円筒ケーシング
9 流体導入口
10 液導出口
11 非凝縮性ガス取出管
13 ポーラス材
14 ヒートパイプ
20a 液体
20b 蒸気
20c 気液混合液体
21 非凝縮性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小重力環境下で使用される熱制御系ループに備えた蒸発器により液体を蒸発させて機器の熱を除去し、蒸発した蒸気をパネル放熱器で凝縮して得られた液体を前記蒸発器に循環するようにしている微小重力環境用凝縮装置であって、
前記パネル放熱器の出口部に、ラジエータパネルと、該ラジエータパネルの平面に沿って設けた円筒ケーシングと、該円筒ケーシングの外周面から前記ラジエータパネルの平面に亘って配置したヒートパイプと、前記パネル放熱器からの気液混合液体を円筒ケーシングの一端から接線方向に導入して旋回流を形成する流体導入口と、円筒ケーシングの他端に形成した液導出口と、前記流体導入口が設けられた円筒ケーシングの一端の軸中心に挿入配置した非凝縮性ガス取出管と、を有する気体取出凝縮器を備えた
ことを特徴とする微小重力環境用凝縮装置。
【請求項2】
前記円筒ケーシングの内面にポーラス材を備えたことを特徴とする請求項1記載の微小重力環境用凝縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−25163(P2011−25163A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173970(P2009−173970)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】