説明

微生物の破砕方法

【課題】微生物の細胞壁を効果的に破砕する際の破砕コストを従来に比べて大幅に低減することができると共に、微生物から有用成分を抽出する際にも抽出効率を飛躍的に高めることができる微生物の破砕方法を提供する。
【解決手段】回転刃22と固定刃24とのクリアランスCが1mm以下の叩解機10を用いて、微生物の細胞壁を破砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の破砕方法に係り、特に有用成分を産出する微生物の破砕コストを削減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有用成分を産生することのできる藻類や酵母等の微生物を培養し、培養した微生物から有用成分を取り出すことが行われている。微生物から有用成分を取り出すため、特許文献1では、微生物の細胞壁を高圧ホモジナイザーやビーズミル等で破砕した後、遠心分離により細胞砕片を含む水相を取り除き、有用成分が存在する油相を取り出している。
【0003】
即ち、先ず微生物を破砕して有用成分を取り出し易くする破砕工程を行う必要があり、この破砕工程での破砕コストを如何に低く抑えるかが、工業化のためのコストパフォーマンスとして極めて重要になる。医薬品のように破砕量が少なく有用成分の単価を高く設定できる場合には、破砕コストを商品価格に吸収可能であるが、破砕量が多く単価をそれほど高く設定できない商品では破砕コストを吸収しきれないので、破砕コストを如何に下げるかが重要になる。
【0004】
また、微生物から有用成分を取り出す場合に限らず、例えばクロレラのような微生物そのものが栄養補助食品として摂取されるものは、破砕した粉末や粉末を顆粒状にした状態で摂取することが多いが、細胞壁の破砕状態が悪いと摂取効果が小さくなると言われている。したがって、如何に低い破砕コストで細胞壁を効果的に破砕できるかが重要になる。
【特許文献1】特表2004−504849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で使用されている、高圧ホモジナイザーやビーズミルの破砕機は、破砕に必要な微生物単位量当たりの消費電力が大きく、破砕コストを十分に削減することができないという問題がある。特に、最近話題になっているバイオ燃料やバイオマスプラスチックのバイオマス資源として微生物を利用しようとした場合、培養した大量の微生物を低コストで破砕する必要が生じる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、微生物の細胞壁を効果的に破砕する際の破砕コストを従来に比べて大幅に低減することができると共に、微生物から有用成分を抽出する際にも抽出効率を飛躍的に高めることができる微生物の破砕方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、回転刃と、固定刃若しくは逆方向に回転する回転刃とのクリアランスが1mm以下の回転型破砕機を用いて、微生物の細胞壁を破砕することを特徴とする微生物の破砕方法を提供する。
【0008】
回転刃と、固定刃若しくは逆方向に回転する回転刃とのクリアランスが1mm以下の回転型破砕機を用いて微生物の細胞壁を破砕することにより、従来の高圧ホモジナイザーやビーズミルの破砕機を用いたい場合に比べて、微生物単位重量当たりの消費電力を大幅に低減することができる。また、本発明の破砕方法と従来の高圧ホモジナイザーやビーズミルの破砕機を用いた破砕方法とを同じ消費電力当たりでみたときには、本発明の方が細胞壁の破砕レベルを顕著に向上することができる。これにより、微生物の細胞壁を効果的に破砕する際の破砕コストを大幅に低減することができる。また、細胞壁を破砕する破砕レベルが格段に良くなるので、微生物から有用成分を抽出する際にも抽出効率を飛躍的に高めることができる。
【0009】
回転型破砕機のクリアランスとしては、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましい。
【0010】
請求項2は請求項1において、前記回転型破砕機の剪断応力は10N/m以上であることを特徴とする。回転型破砕機の剪断応力が10N/m以上であることが、微生物の細胞壁を効果的に破砕する上で一層好ましいからである。したがって、回転型破砕機の回転刃と固定刃のクリアランスは1mm以下であるが、破砕条件(微生物の種類、回転刃22の回転速度、微生物溶液の濃度又は粘度等)に応じて、剪断応力が10N/m以上になるようにクリアランスや回転速度を調整することが好ましい。
【0011】
請求項3は請求項1又は2において、前記回転型破砕機は叩解機であることを特徴とする。
【0012】
本発明における回転型破砕機の具体例としては、叩解機が好適である。叩解機は、製紙工業でパルプ繊維を切断、膨潤、フィブリル化する工程で使用されているが、発明者は、微生物の細胞壁を破砕する破砕機として使用することで、微生物の細胞壁を効果的に破砕でき且つ従来の高圧ホモジナイザーやビーズミルに比べて破砕に要する消費電力を大幅に低減できることを発見した。
【0013】
請求項4は請求項1〜3の何れかにおいて、前記回転型破砕機で前記微生物の細胞壁を80%以上の割合で破砕するのに必要な消費電力が、微生物1g(ドライベース)当たり20ワット(W)以下であることを特徴とする。
【0014】
これは、本発明の微生物の破砕方法を使用することで達成できる省エネを、特徴の構成として限定したもので、微生物の細胞壁を80%以上破砕するのに必要な消費電力を、微生物1g(ドライベース)当たり20ワット(W)以下まで低減することができる。
【0015】
請求項5は請求項1〜4の何れかにおいて、前記微生物は、有用成分を産生する微細藻類、酵母、バクテリアの何れかであることを特徴とする。
【0016】
これは、破砕対象である微生物を具体的に特定したものであり、微生物は、有用成分を産生する微細藻類、酵母、バクテリアの何れかであることが好ましい。有用成分としては、脂質、糖質、蛋白質(アミノ酸を含む)、核酸を挙げることができる。
【0017】
請求項6は請求項5において、前記有用成分がバイオ燃料やバイオプラスチックの原料として利用可能な成分であることを特徴とする。
【0018】
バイオ燃料(例えばエタノール)やバイオプラスチックの原料(例えばポリ乳酸)としての利用可能な有用成分を産生する微生物を破砕対象として工業化を考えた場合、微生物を低コストで大量に破砕処理する必要が生じることから、本発明が特に有効だからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微生物の破砕方法によれば、微生物の細胞壁を効果的に破砕する際の破砕コストを従来に比べて大幅に低減することができる。また、細胞壁を破砕する破砕レベルが格段に良くなるので、微生物から有用成分を抽出する際にも抽出効率を飛躍的に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面に従って本発明の微生物の破砕方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0021】
本発明の微生物の破砕方法を適用する回転型破砕機として、以下に叩解機の例で詳しく説明する。
【0022】
叩解機は、製紙工業でパルプ繊維をフィブリル化するための専用機器として使用されている。しかし、発明者は、微生物の細胞壁を破砕する破砕機として使用することで、従来の高圧ホモジナイザーやビーズミルに比べて、予測を遥かに超えた破砕レベルと省エネルギーを得ることができるとの知見を得た。
【0023】
叩解機は、叩解方法の違いにより、ナイアガラビーター、ジョルダン、コニカル型リファイナー、ドラム型リファイナー、ディスクリファイナーがあり、いずれの叩解機も本発明に使用することができる。中でも、ディスクリファイナー型の叩解機は、微生物の細胞壁を破砕するのに特に適しており、図1はディスクリファイナー型の叩解機の一例を示す要部断面図である。
【0024】
図1に示すように、ディスクリファイナー型の叩解機10は、ケーシング12に、円板状の回転ディスク14が設けられ、回転ディスク14の中心が回転軸16に支持される。回転軸16はケーシング側面12Aを貫通してケーシング12外に延設され、クリアランス調整器18を介してモータ20に連結される。そして、回転ディスク14の内側面には歯形状の回転刃22がドーナツ状に設けられると共に、ケーシング12の側面12B内側には、回転刃22に対向して固定刃24がドーナツ状に固定支持される。回転刃22及び固定刃24は、連続したドーナツ状に形成されることに限らず、複数の扇形状をした回転刃22及び固定刃24がドーナツ状に間隔を置いて配置されていてもよい。
【0025】
回転刃22と固定刃24とのクリアランスCは1mm以下、好ましくは0.5mm以下、特に好ましくは0.2mm以下に設定される。また、回転ディスク14の直径Lは350mm〜920mmの範囲が好ましい。また、上記したクリアランス調整器18は、回転刃22と固定刃24とを1mm以下のクリアランスで且つ0.1mm精度で任意に調整できるものであればどのようなものでもよい。例えば、クリアランス調整器18としては、モータ20回転軸と回転軸16とをスプライン溝により回転動力が伝達可能な入れ子構造に形成し、回転軸16を支持するスライド板をボールネジ機構でケーシング方向に進退させる構成を採用することができる。
【0026】
また、回転軸16が貫通しない側のケーシング側面12B中央部には供給口26が形成され、この供給口26に破砕対象物である微生物をケーシング12内に供給するための供給管28が接続される。供給管28からは、0.1〜7質量%程度のスラリー濃度に調製した微生物スラリーを供給する。一方、ケーシング12下部には破砕された破砕処理液の排出口30が形成され、この排出口30には排出管32が接続される。そして、微生物を破砕するには、回転ディスク14を回転させて回転刃を回転した状態で、供給管28からケーシング12内に微生物スラリーを供給する。これにより、微生物スラリーには、回転刃22と固定刃24との間の極めて狭い間隙において大きな剪断力が付与されるので、微生物の細胞壁が破砕される。かかる微生物の細胞壁の破砕において、剪断応力は10N/m以上であることが好ましい。したがって、破砕条件(微生物の種類、回転刃22の回転速度、微生物溶液の濃度又は粘度等)に応じて図1に示すクリアランス調整器18を調整し、剪断応力が10N/m以上になるようにクリアランスCを調整することが好ましい。
【0027】
また、微生物の細胞壁はパルプ繊維に比べて軟らかいため、クリアランスCを小さくし過ぎたり、微生物のスラリー濃度を薄くし過ぎたりすると、回転刃22と固定刃24とが接触するメタルタッチと呼ばれる故障が発生し易い。したがって、モータ20の負荷を測定する負荷測定手段、例えばアンペア計を設けて、モータ負荷が急激に上昇したときに過電流が流れるようにすることが好ましい。これにより、メタルタッチが発生しないようにクリアランスCやスラリー濃度を適切に設定することができる。
【0028】
また、微生物から有用成分を取り出したり、微生物を栄養補助食品として使用したりする場合には、微生物の細胞を80%以上の割合で破砕することが好ましい。ここで、微生物の細胞を80%以上の割合で破砕するとは、破砕処理に供される微生物の細胞数全体を100としたときに、その80%以上の細胞の細胞壁が破砕されることを意味する。
【0029】
また、高圧ホモジナイザーやビーズミルを使用した従来の破砕方法で微生物1g(ドライベース)当たりを破砕するのに要する消費電力が20ワット(W)を超えることからして、叩解機を使用した本発明の破砕方法では、少なくとも消費電力を20ワット(W)以下にすることが必要になる。
【0030】
そして、本発明の破砕方法を実施することで、微生物の細胞を80%以上の割合で破砕することができ、且つ消費電力を20ワット(W)以下に削減することができる。
【0031】
本発明における破砕対象である微生物としては、有用成分を産生する微細藻類、酵母、バクテリアの何れかを好適に使用できる。
【0032】
微細藻類とは、陸上動物と同様に酸素発生を伴う光合成機能を有する単細胞、若しくは単細胞に近い多細胞の藻類であり、器官として未分化の細胞を有し、顕微鏡下の識別を要する小さな個体(1〜数十ミクロン)の藻を総称する。この微細藻類には、クロロフィル、フィコピリン、カロテノイド等の有用成分を含有している。微細藻類は、車軸藻、緑藻、褐藻、珪藻、黄緑藻、真正眼点藻、ハプト藻、紅藻、藍藻等の分類群に分類でき、いずれも光合成機能を有するため、植物プランクトンとも称される。
【0033】
酵母とは、細胞壁で覆われた内側に核やミトコンドリア等を確認できる真核単細胞生物で、サッカロミセス属酵母、チゴサッカロミセス属酵母、クルイフェロミセス酵母、シゾサッカロミセス属酵母、ハンセヌラ属酵母、ピチア属酵母、カンジダ属酵母、ロゾトルラ属酵母等の分類群に分類できる。
【0034】
バクテリアとは、古細菌が持たないN−アセチルムラミン酸を含んだ細胞壁を持つ原核生物で、具体的には、アクチノバクテリア門、ファーミキューテス門、プロテオバクテリア門、バクテロイデス門、デイノコックス門、プランクトミセス門、クラミジア門、スピロヘータ門、クロロビウム門、クロロフレクサス門、シアノバクテリア門等を例示できる。
【0035】
また、微生物が産出する有効成分としては、脂質、糖質、蛋白質(アミノ酸を含む)、核酸を挙げることができる。これらの有用成分の他、バイオ燃料(例えばエタノール)やバイオプラスチック(例えばポリ乳酸)の原料として利用可能な成分(例えばセルロース)を挙げることができる。
【0036】
脂質とは、パルミチン酸,ステアリン酸等の飽和脂肪酸、アラキドン酸(ARA),ドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサヘキサエン酸(EPA),γ−リノレイン酸(GLA)等の不飽和脂肪酸、n−アルカン,n−アルカジエン,n−アルカトリエン,tryococcene類等の高級炭化水素類、β−カロチン等のカロテノイド類、アスタキサンチン等のキサントフィル類、スクアレン,レチノール等のテルペノイド類、コレストロール,胆汁酸等のステロイド類、アルコールと脂肪酸のエステル類、リン脂質や糖脂質等の複合脂質を挙げることができる。
【0037】
糖類とは、単糖類やオリゴ糖類、多糖類を指す。単糖類には、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、ラムノース、リブロ、キシルロース、エリトロース、トレオース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等を挙げることができる。オリゴ糖は、特に、2〜10個、好ましくは2〜7個の単糖単位で構成されているものを称する。
【0038】
多糖類には1種の単糖からなるホモグリカン(単一多糖類)及び2種以上の単糖からなるヘテログリカン(複合多糖類)がある。ホモグリカンとしてはセルロース、デンプン、グリコーゲン、カロニン、ラミナラン、デキストランなどのグルカン類、イヌリン、レバンなどのフルクタン類、マンナン類、キシラン類、ペクチン類等のガラクツロナン、アルギン酸などのマンヌロナン類、キチン等のN−アセチルグルコサミン重合体などである。ヘテログルカンとしては、グアラン、マンナン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などのジヘテログリカン、フコイダン、アガロースなどがある。
【0039】
タンパク質は、アミノ酸からなる単純タンパク質と、核酸・リン酸・脂質・糖・金属などを含む複合タンパク質がある。また、酵素、ペプチドはタンパク質に含まれる。
【0040】
タンパク質を構成するアミノ酸としては、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アルギニン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸を挙げることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を、比較例と対比して説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
[試験1]
試験1では、ディスクリファイナー又はナイアガラビーター(叩解機)を用いてクロレラスラリーを破砕処理した本発明の実施例と、高圧ホモジナイザー又はビーズミルを用いてクロレラスラリーを破砕処理した従来の比較例とについて、消費電力及び破砕レベルを対比した。
【0043】
〈微生物スラリーの調製〉
市販の生クロレラV−12(クロレラ工業株式会社製、藻体濃度13質量%)に水を加えて、藻体濃度0.5質量%のクロレラスラリーを調製した。
【0044】
(実施例1)
上記のように調製したクロレラスラリー60kgを、クリアランスが1mm以下、回転刃の回転数1000rpmに設定したシングルタイプのディスクリファイナー(熊谷理機工業株式会社製KRK高濃度ディスクレファイナーNo.2500-I、リファイナープレートNo.2500-F)で破砕処理を行った。クロレラスラリーのディスクリファイナーへの通過回数は1回として、処理時間を2分とした。
【0045】
(実施例2)
回転刃の回転数を1100rpmとした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0046】
(実施例3)
藻体濃度を1%とした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0047】
(実施例4)
藻体濃度1%、回転刃の回転数を1500rpmとした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0048】
(実施例5)
藻体濃度を3%とした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0049】
(実施例6)
藻体濃度3%、回転刃の回転数を1500rpmとした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0050】
(実施例7)
藻体濃度3%、回転刃の回転数を2000rpmとした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0051】
(実施例8)
藻体濃度を5%とした以外は、実施例1と同じ処理を行った。
【0052】
(実施例9)
実施例1と同様に調製した藻体濃度0.5%のクロレラスラリー60kgを、実施例1とは別の相川鉄工株式会社製SDR14のシングルタイプのディスクリファイナーで、回転刃の回転数1500rpmで破砕処理した。クロレラスラリーの通過回数及び処理時間は実施例1と同様である。
【0053】
(実施例10)
実施例3と同様に調製した藻体濃度1.0%のクロレラスラリー23kgを、ナイアガラビーター(熊谷理機工業株式会社製試験用ナイアガラビーターNo.2505、回転刃の回転数500rpm)で破砕処理を行った。処理時間は4分とした。
【0054】
(比較例1)
実施例3と同様に調製した藻体濃度1.0%のクロレラスラリー60kgを、高圧ホモジナイザー(NIRO SOAVOI製 NS3037、使用圧力600bar)で破砕処理を行った。クロレラスラリーの高圧ホモジナイザーへの通過回数は3回とし、1回の処理時間を2分とした。
【0055】
(比較例2)
高圧ホモジナイザーの通過回数を5回とした以外は、比較例1と同じ処理を行った。
【0056】
(比較例3)
実施例3と同様に調製した藻体濃度1.0%のクロレラスラリー26Lを、ビーズミル(株式会社井上製作所製 連続式キーミルKMC−1、φ1mmのジルコニアビーズ使用)で破砕処理を行った。クロレラスラリーのビーズミルへの通過回数は2回、1回の処理時間を3分とした。
【0057】
(比較例7)
ビーズミルの通過回数を4回とした以外は、比較例3と同じ処理を行った。
【0058】
〈評価項目と評価基準〉
クロレラスラリーを所定時間破砕処理したときに要した破砕機(実施例は叩解機、比較例は高圧ホモジナイザー又はビーズミル)の消費電力と、得られた破砕レベルを調べた。破砕レベルについては次のように規定した。
【0059】
〈破砕レベル〉
藻体濃度1%に調製した生クロレラV−12のクロレラスラリー20mLを、ミキサーミル(株式会社レッチェ製MM−400、ボール径φ20mm、ジャー及びボール材質:ステンレス(材質番号1.4112))を用いて、処理時間を変えて破砕処理を行った。時間ごとの破砕処理液を顕微鏡で観察し、各処理時間で破砕された細胞の割合(%)を調べて以下のようにランク分けした。
【0060】
・ミキサーミル7分処理: 破砕レベル ◎ 破砕された細胞 約100%
・ミキサーミル5分処理: 破砕レベル ○ 破砕された細胞 約 80%
・ミキサーミル3分処理: 破砕レベル △ 破砕された細胞 約 50%
・ミキサーミル1分処理: 破砕レベル × 破砕された細胞 約 20%
そして、上記の実施例1〜10の破砕条件と、比較例1〜4の破砕条件で破砕した細胞の破砕状態が上記ランク分けのどのレベルに該当するかを調べた。
【0061】
[試験1の結果]
試験1の試験条件及び試験結果を図2の表に示した。
【0062】
図2の表において、「周速」とは回転刃の先端部における周速であり、回転刃の回転数と回転ディスクの直径Lから算出した。また、「乾物換算処理量」とは、スラリー処理量と処理時間から、クロレラの乾物換算量に対する1秒当たりの処理量として示した。また、「消費電力」は、クロレラ1g(ドライベース)当たりを破砕処理するのに要する消費電力として示した。
【0063】
図2の表から、高圧ホモジナイザー又はビーズミルを使用した従来の破砕方法で行った比較例1〜4は、消費したクロレラ1g当たりの消費電力が22〜75(W/g)の範囲で平均42.8(W/g)であった。また、破砕レベルも×〜○の範囲であり、クロレラの細胞全体のうち破砕された細胞の割合が低かった。
【0064】
これに対して、叩解機を使用した本発明の破砕方法で行った実施例1〜10は、消費したクロレラ1g当たりの消費電力が0.5〜4.9(W/g)の範囲で平均1.8(W/g)であった。また、破砕レベルも○〜◎の範囲であり、クロレラの細胞全体のうち約80%以上の細胞を破壊することができた。
【0065】
上記の実施例と比較例との試験結果から分かるように、微生物を叩解機で破砕処理する本発明の破砕方法を行うことにより、高圧ホモジナイザーやビーズミルを使用した従来の破砕方法に比べて破砕レベルを顕著に向上でき、しかもクロレラ単位質量当たりの消費電力を大幅に削減することができる。
【0066】
[試験2]
試験2は、破砕対象を試験1のクロレラから、有効成分として油分を含む微生物であるナンノクロロプシスに変えて実施した。そして、消費電力及び破砕レベルの他に、油脂分回収率を評価した。実施例ではディスクリファイナーを使用し、比較例では高圧ホモジナイザー又はビーズミルを使用した。
【0067】
〈油脂分回収率の評価方法〉
濃縮生ナンノクロロプシスを凍結乾燥した後、クロロホルム/メタノール(2体積/1体積の比率に混合)混液を用いたFolshらの方法により、乾物換算したナンノクロロプシス単位質量当たり含まれる総脂質含量を先ず定量した。その結果、総脂質含量は0.19g/g(X)であった。
【0068】
次に、破砕処理で得られたナンノクロロプシス処理液を、遠心分離(6200rpm、20℃、10分の条件)した後、ナンノクロロプシスを含む水層を除去して得られた油層部分を秤量して、乾物換算したナンノクロロプシス単位質量当たりの回収油脂量(Y)を算出した。そして、油脂分回収率は、(Y/X)×100(%)により求めた。
【0069】
(実施例11)
市販の濃縮生ナンノクロロプシス(マリーンバイオ社製マリーンフレッシュ、藻体濃度5.5質量%)に水を加えて、藻体濃度1%のナンノクロロプシススラリーを調製した。その他は、試験1での実施例3と同じ処理を行った。
【0070】
(実施例11)
藻体濃度を3%とした以外は、実施例11と同じ処理を行った。
【0071】
(比較例5)
実施例11と同様に調製した藻体濃度1%のナンノクロロプシススラリーについて、試験1の比較例1と同じ処理を行った。
【0072】
(比較例6)
実施例11と同様に調製した藻体濃度1%のナンノクロロプシススラリーについて、試験1の比較例3と同じ処理を行った。
【0073】
[試験2の結果]
試験2の試験条件及び結果を図3の表に示した。
【0074】
図3の表から、高圧ホモジナイザー又はビーズミルを使用した従来の破砕方法で行った比較例5及び6は、消費したナンノクロロプシス1g当たりの消費電力が22〜37.5(W/g)の範囲で平均29.8(W/g)であった。また、破砕レベルも×〜△の範囲であり、ナンノクロロプシスの細胞全体のうち破砕された細胞の割合が低かった。また、油脂分回収率は13〜25%の範囲で平均19%と極めて低かった。
【0075】
これに対して、叩解機を使用した本発明の破砕方法で行った実施例11〜12は、消費したナンノクロロプシス1g当たりの消費電力が0.6〜2.1(W/g)の範囲で平均1.4(W/g)であった。また、破砕レベルも◎であり、ナンノクロロプシスの細胞全体のうち約100%の細胞を破壊することができた。また、油脂分回収率は60〜65%の範囲で平均62.5%と高い回収率を得ることができた。
【0076】
上記の試験2での実施例と比較例との試験結果から分かるように、微生物の種類をクロレラからナンノクロロプシスに代えても、本発明の破砕方法は従来の破砕方法に比べて消費電力及び破砕レベルを顕著に向上できるだけでなく、油脂分回収率を顕著に向上できる。油脂分回収率を顕著に向上できる理由は、油脂分が含まれる細胞をどれだけ効率良く破砕できるかであり、実施例11及び12と比較例5及び6との破砕レベルの違いがそのまま油脂分回収率の違いとして現れたものと考察される。したがって、例えば非極性油脂分(例えば炭化水素)を多く産生するような微生物(例えば緑藻Botryococcus brauniiや、緑藻Pseudochoricystis ellipsoidea等)から油脂分を抽出する場合、本発明により、ヘキサンの様な有機溶剤を用いることなく、遠心分離の操作だけで高い回収率が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の破砕方法を実施する叩解機の一例としてディスクリファイナーの構造を示す要部断面図
【図2】本発明の破砕方法と従来の破砕方法とについて対比した試験1の結果を説明する表図
【図3】本発明の破砕方法と従来の破砕方法とについて対比した試験2の結果を説明する表図
【符号の説明】
【0078】
10…ディスクリファイナー型の叩解機、12…ケーシング、14…回転ディスク、16…回転軸、18…クリアランス調整装置、20…モータ、22…回転刃、24…固定刃、26…供給口、28…供給管、30…排出口、32…排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転刃と、固定刃若しくは逆方向に回転する回転刃とのクリアランスが1mm以下の回転型破砕機を用いて、微生物の細胞壁を破砕することを特徴とする微生物の破砕方法。
【請求項2】
前記回転型破砕機の剪断応力は10N/m以上であることを特徴とする請求項1の微生物の破砕方法。
【請求項3】
前記回転型破砕機は叩解機であることを特徴とする請求項1又は2の微生物の破砕方法。
【請求項4】
前記回転型破砕機で前記微生物の細胞を80%以上の割合で破砕するのに必要な消費電力が、微生物1g(ドライベース)当たり20ワット(W)以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の微生物の破砕方法。
【請求項5】
前記微生物は、有用成分を産生する微細藻類、酵母、バクテリアの何れかであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1の微生物の破砕方法。
【請求項6】
前記有用成分がバイオ燃料やバイオマスプラスチックの原料として利用可能な成分であることを特徴とする請求項5の微生物の破砕方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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