説明

微生物付着用担体

【課題】簡便に、かつ、単位体積当たりに高い配置密度で処理水槽内に配置、固定でき、効率的な生物処理が可能な微生物付着用担体を提供する。
【解決手段】活性汚泥が投入された処理水槽内に浸漬配置され、活性汚泥中の微生物を付着させるシート状の微生物付着用担体10Aであって、少なくとも一方の表面に不織布11を備え、当該微生物付着用担体10Aを支持する支持棒20などの支持部材を挿通させる挿通穴として、例えば、当該微生物付着用担体10Aの周縁の一部を折り返して縫製することにより形成された筒部12を有する。この筒部12に支持棒20を通し、この支持棒を利用することにより、微生物付着用担体10Aを単位体積当たりに高い配置密度で処理水槽内に配置、固定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水などを生物処理する微生物を付着させる微生物付着用担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭排水、工場廃水などの有機性排水の処理方法として、生物処理が有効であることが知られている。なかでも、活性汚泥法は最も広く採用されている。
活性汚泥法には、活性汚泥が投入された処理水槽中に担体が浸漬配置され、該担体の表面に活性汚泥に含まれる微生物を付着させ、付着した微生物により排水中の有機物などを分解する方法がある。ここで担体としては、繊維製品を利用したものが知られており、例えば特許文献1には、多数の短繊維と紐状軸材とからなるモール状の生物担体が記載されている。また、特許文献2には、繊維の集合体からなる繊維状担体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−355688号公報
【特許文献2】特開2007−98242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に記載された形態の担体を処理水槽内に、単位体積当たりに高い配置密度で、かつ簡単な構成にて配置、固定することは困難であった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡便に、かつ、単位体積当たりに高い配置密度で処理水槽内に配置、固定でき、効率的な生物処理が可能な微生物付着用担体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微生物付着用担体は、微生物を付着させるシート状の微生物付着用担体であって、少なくとも一方の表面に不織布を備え、前記微生物付着用担体を支持する支持部材を挿通させる挿通穴が形成されていることを特徴とする。
前記挿通穴は、前記微生物付着用担体の周縁の少なくとも一部に形成されていることが好ましい。
前記不織布を構成する繊維は、アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系繊維であることが好ましい。
前記挿通穴は、前記微生物付着用担体の周縁の一部を折り返して縫製することにより形成された筒部や、前記微生物付着用担体の一面から他面に貫通した貫通穴が好適に例示できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便に、かつ、単位体積当たりに高い配置密度で処理水槽内に配置、固定でき、効率的な生物処理が可能な微生物付着用担体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の微生物付着用担体を備えた支持部材付き担体を示す斜視図である。
【図2】図1に示された微生物付着用担体の製造方法を説明する斜視図である。
【図3】微生物付着用担体の一例について、その要部を拡大した斜視図である。
【図4】微生物付着用担体の他の一例について、その要部を拡大した斜視図である。
【図5】図1の支持部材付き担体を備えた担体ユニットを示す斜視図である。
【図6】本発明の微生物付着用担体の他の例を示す斜視図である。
【図7】図6の微生物付着用担体を複数配置し、挿通穴に支持棒を挿通させた状態を示す斜視図である。
【図8】図6の微生物付着用担体を備えた担体ユニットを示す斜視図である。
【図9】図8の担体ユニットにおいて、微生物付着用担体間にスペーサを配置した状態を示す側面図である。
【図10】図9の担体ユニットに吊り下げ具を組み合わせた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の微生物付着用担体は、繊維で構成された不織布を少なくとも一方の表面に備えたシート状のものであって、有機性排水などを生物処理する活性汚泥が投入された処理水槽内に浸漬配置され、活性汚泥中の微生物を付着させるものである。処理水槽としては、活性汚泥による生物処理のみが行われる活性汚泥槽の他、中空糸膜などの分離膜も浸漬され、生物処理とともに分離膜による膜処理も行われる膜分離活性汚泥槽などが挙げられる。
【0010】
不織布を構成する繊維としては、簡便な方法で不織布形状に加工でき、処理水槽中に浸漬しても破損しない不織布を構成できるような強度を有するものが好ましい。
具体的には、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル系繊維などが挙げられるが、微生物との親和性の点などから、アクリル系繊維が好ましい。アクリル系繊維としては、アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系重合体の繊維が好ましい。
【0011】
なお、「アクリロニトリル単位を50質量%以上有する」とは、アクリル系重合体を製造する単量体中のアクリロニトリルの割合が50質量%以上であることを言う。
また、アクリロニトリル単位の好ましい上限は、97質量%である。
【0012】
アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系重合体は、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体からなる単位を50質量%以下の範囲で有することができる。
アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、これらの誘導体、酢酸ビニル、アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。また、目的によっては、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタクリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸ソーダなどのイオン性不飽和単量体をアクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体として用いることができる。
【0013】
アクリル系重合体の重合法は、特に限定されないが、例えば通常の懸濁重合法または溶液重合法を採用できる。
【0014】
不織布は、例えばアクリル系繊維などの繊維により構成されるものであれば特に制限はないが、不織布には、微生物付着用担体としての処理水槽中での耐久性が求められるため、乾式法を経て製造された乾式不織布が好ましい。
乾式不織布は、巻縮のあるステープル繊維をカーディングおよび積層してウェブを形成し、このウェブを結着させたものである。ウェブの結着方法としては、繊維を不織布の表面になるべく多く露出させ得ることから、スパンレース法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法のなかから選択される方法が好ましい。
【0015】
製造された不織布には、必要に応じて、カレンダー加工、エンボス加工、起毛加工、熱プレスなどの任意の加工を施してもよい。
【0016】
不織布の目付けおよび厚みは、微生物付着用担体として浸漬した際の微生物の付着量や、強度、耐久性などと関係があり、処理水槽内の排水の水質、処理条件などに応じて調整できるが、目付けは、1m当たり60g以上であることが好ましい。目付けが60g以上であると、微生物付着用担体として膜分離活性汚泥槽に浸漬されて曝気などの物理的負荷が加わった場合などにも、充分な強度、耐久性を発揮することができるとともに、微生物を充分に付着させることができる。
一方、微生物は、不織布の表面に多く付着して保持されやすいため、目付けが高すぎると、不織布内部の繊維は微生物の付着には充分には利用されない。また、目付けが高すぎると、不織布に付着した汚泥や水分により、不織布の重量が増す。このような観点からは、1m当たりの目付けは1000g以下であることが好ましく、さらに不織布の加工性、微生物の付着の効率性の観点などを考慮すると、300g以下がより好ましい。
【0017】
不織布の厚みは、薄すぎると強度、耐久性が弱くなるとともに、微生物の付着量が不充分となる場合がある。また、厚すぎると加工性が低下し、例えば後述のように担体ユニットを製造する際などの加工がしにくくなる場合がある。よって、不織布の厚みは、0.5mm以上30mm以下が好ましく、加工性の観点からは、20mm以下がより好ましい。
【0018】
本発明の微生物付着用担体は、上述した不織布を少なくとも一方の表面に備えて構成されたシート状のものであって、不織布のみから構成されたものでもよいし、微生物付着用担体の強度、耐久性を高めるために、不織布に基布を積層させた2層以上の積層体からなるものであってもよい。積層体の形態とする場合には、上述の不織布が少なくとも一方の表面に位置することが必要であり、微生物付着の観点からは、2枚の不織布で基布を挟持した形態など、不織布が両表面に位置することが好ましい。基布としては、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル系繊維など、水や生物に対して難分解性な繊維を材質としたスパンボンド不織布や織物などが挙げられる。
【0019】
次に図面を用いて本発明の微生物付着用担体について説明する。
図1は、本発明の一例である微生物付着用担体10Aと、該微生物付着用担体10Aを支持する2本の支持棒(支持部材)20とからなる支持部材付き担体30を示す斜視図である。
この支持部材付き担体30が具備する微生物付着用担体10Aは、矩形の不織布11からなり、支持部材20を挿通させる挿通穴として、不織布11における対向する一組の両端部がそれぞれ折り返して縫製された2つの筒部12を有している。図中符号13は、折り返した部分を縫製したことによる縫い目であり、縫い目13は各筒部12の長さ方向に沿って設けられている。
【0020】
筒部12は、不織布11の端部が1回のみ折り返されて縫製されたものでもよいが、例えば、図2(a)に示すように不織布11の端部が複数回折り返されて、その後、縫製されて図2(b)のように形成されたものであると、筒部12を構成する部分の不織布11が多層となり、支持棒20を挿通した際の強度に優れる。また、図3に示すように、筒部12の長さ方向に沿う縫い目13を略平行に複数本形成すると、筒部12へ支持棒20を挿入しやすくなるなど、取扱性が向上する。
【0021】
また、筒部12の強度を上げるために、筒部12に対して補強加工を施すこともできる。
補強加工としては、図4に示すように、不織布11の端部を例えば図2(a)のように折り返して多層とした後、その層間に、カーボンシートなどのシート状の補強部材14を挿入してから縫製し、筒部12を形成する方法がある。
また、補強加工としては、筒部12を形成する前に、少なくとも筒部12となる部分の不織布11に対して、ウレタン樹脂などのバインダーを塗布または含浸しておくことで、その部分を補強する方法なども挙げられる。
【0022】
このように微生物付着用担体10の周縁の少なくとも一部に筒部12を形成し、該筒部12に支持棒20を挿通することによって、挿通された支持棒20を利用して、簡便に、かつ、単位体積当たりに高い配置密度で、複数の微生物付着用担体10Aを処理水槽内に配置、固定して、効率的な生物処理を行うことができる。
具体的には、例えば図5に示すように、微生物付着用担体10Aの各筒部12に支持棒20を挿通させて支持部材付き担体30とし、該支持部材付き担体30を複数平行に配置する(図示例では4枚配置。)。そして、各支持棒20の一方の端部20aを第1の枠体40に取り付け、他方の端部20bを第2の枠体50に取り付けて担体ユニット60Aとする。こうして組み立てられた担体ユニット60Aを図示略の処理水槽内に浸漬し、第1の枠体40または第2の枠体50をボルトなどの固定具で槽壁に固定したり、上方から吊り下げたりすることにより、微生物付着用担体10Aを単位体積当たりに高い配置密度で処理水槽内に配置、固定できる。
【0023】
図6は、本発明の他の一例である微生物付着用担体10Bを示す斜視図である。
この例の微生物付着用担体10Bは、矩形の不織布11からなり、支持棒20を挿通させる挿通穴として、不織布11における対向する一組の両端部において、その一面から他面に貫通した貫通穴16が各端部に複数形成されている。この例では、貫通穴16は各端部に3つずつ形成されている。また、この例では、不織布11の各端部は1回以上折り返されて多層とされた後、貫通穴16が形成されている。これにより、貫通穴16の強度を上げることができる。なお、折り返された部分は、折り返し部分を固定するために、縫製や接着剤による接着がなされている。
【0024】
このように微生物付着用担体10Bの対向する一組の両端部それぞれに、貫通穴16を複数形成し、各貫通穴16に支持棒20を挿通することによって、挿通された支持棒20を利用して、簡便に、かつ、単位体積当たりに高い配置密度で、複数の微生物付着用担体10Bを処理水槽内に配置、固定して、効率的な生物処理を行うことができる。
具体的には、例えば図7に示すように、図6の微生物付着用担体10Bを複数平行に配置し(図示例では5枚配置。)、これら複数の微生物付着用担体10Bを貫くように、複数の支持棒20を各微生物付着用担体10Bの対応する貫通穴16に挿入する。そして、図8に示すように、各支持棒20の一方の端部20aを第1の枠体40に取り付け、他方の端部20bを第2の枠体50に取り付けて担体ユニット60Bとし、これを図示略の処理水槽内に配置、固定する。具体的には、第1の枠体40または第2の枠体50をボルトなどの固定具で槽壁に固定したり、吊り下げたりする形態が挙げられる。また、このように微生物付着用担体10Bを複数平行に配置する際、図9に示すように、隣接する微生物付着用担体10B同士の間隔を一定に維持するために、これらの間にスペーサ70を配置することが好ましい。この例のスペーサ70は中央に貫通穴70aを有し、支持棒20は、微生物付着用担体10Bの貫通穴16とスペーサ70の貫通穴70aとに挿通される。
【0025】
また、図10に示すように、図8の担体ユニット60Bにおける第1の枠体40および第2の枠体50の上方に接続され、該担体ユニット60Bを吊り下げる枠状の吊り下げ具80をさらに組み合わせ、この吊り下げ具80を固定具で槽壁などに固定することで、複数の微生物付着用担体10Bを処理水槽内に配置、固定してもよい。
【0026】
以上説明したように、微生物付着用担体の周縁の少なくとも一部に、支持部材を挿通させる挿通穴として、例えば、微生物付着用担体10Aの周縁の一部を折り返して縫製された筒部12や、微生物付着用担体10Bの一面から他面に貫通した貫通穴16が形成されていると、簡便に、かつ、単位体積当たりに高い配置密度で、複数の微生物付着用担体10A,10Bを処理水槽内に配置、固定でき、効率的な生物処理を行える。
【0027】
なお、担体ユニット60A,60Bにおける微生物付着用担体10A,10Bどうしの間隔は、20mm以上とすることが、効率的な処理を行う観点から好ましい。また、微生物付着用担体10A,10Bにおいて、挿通穴が形成されていない両側端部は、サイドステッチ、サイド折り返しなどにより、補強することが好ましい。
【符号の説明】
【0028】
10A,10B 微生物付着用担体
11 不織布
12 筒部
16 貫通穴
20 支持棒(支持部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を付着させるシート状の微生物付着用担体であって、
少なくとも一方の表面に不織布を備え、
前記微生物付着用担体を支持する支持部材を挿通させる挿通穴が形成されている、微生物付着用担体。
【請求項2】
前記挿通穴は、前記微生物付着用担体の周縁の少なくとも一部に形成されている、請求項1に記載の微生物付着用担体。
【請求項3】
前記不織布を構成する繊維は、アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系繊維である、請求項1または2に記載の微生物付着用担体。
【請求項4】
前記挿通穴は、前記微生物付着用担体の周縁の一部を折り返して縫製することにより形成された筒部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物付着用担体。
【請求項5】
前記挿通穴は、前記微生物付着用担体の一面から他面に貫通した貫通穴である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物付着用担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−59734(P2013−59734A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200440(P2011−200440)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】