説明

微生物分離不活化処理方法及び装置

【課題】特定の微生物を選択的に捕捉して分離し、且つ確実に不活化できること。
【解決手段】微生物1を含む処理液2を処理槽12内に流動させると共に、処理槽の内部に設置された電極13A、13Bにより処理槽内に不均一な電場を形成する微生物処理部11と、電極13A、13B間に電圧を印加すると共に、この印加電圧の周波数を、処理槽内の電場の不均一部分に生ずる誘電泳動力が特定の微生物に対して増大するように選定する電源14と、処理槽の内部に設置され、誘電泳動力により処理液中の特定の微生物が電極13Bに捕捉されて分離される過程で、この分離された特定の微生物を不活化させる電磁波を照射する不活化用線源21と、を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理液中に含まれる細胞、微生物、DNA生命体など、生体由来の物体(以下、単に「微生物」と称する)を分離した上で、この分離した微生物に対し不活化(滅菌、殺菌など)処理を行う微生物分離不活化処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中や大気中の微生物を不活化(殺菌や滅菌など)する処理技術として、たとえば、化学的手法、機械的手法、熱的手法、量子的手法、電気的手法などが実用化もしくは研究されている。その中で、誘電泳動を用いて微生物を分離して濃縮し、濃縮した微生物を不活化する処理システムが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−18392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、高周波を用いて誘電泳動により微生物を捕捉して濃縮する誘電泳動回路とは別に、高電圧パルスにより微生物を不活化する高電圧パルス回路を設ける構造になっているので、捕捉と不活化で回路を切り替える必要が生じ、この回路切り替え時に、未処理(未不活化)の微生物が下流に流れてしまう恐れがある。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、特定の微生物を選択的に捕捉して分離し、且つ確実に不活化できる微生物分離不活化処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る微生物分離不活化処理方法は、電場を形成する電極を備えた処理槽内に微生物を含む処理液を流動させる間に、前記電極に印加する印加電圧の周波数を、前記電場の不均一部分に生ずる誘電泳動力が特定の微生物に対して増大するように選定することで、前記誘電泳動力により特定の微生物を選択的に捕捉して分離する微生物分離工程と、この微生物分離工程の実施中に、分離された特定の微生物を不活化する不活化手段を付与する微生物不活化工程と、を有することを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係る微生物分離不活化処理装置は、微生物を含む処理液を処理槽内に流動させると共に、前記処理槽の内部に設置された電極により前記処理槽内に不均一な電場を形成する微生物処理部と、前記電極に電圧を印加すると共に、この印加電圧の周波数を、前記処理槽内の電場の不均一部分に生ずる誘電泳動力が特定の微生物に対して増大するように選定する電源と、前記処理槽の内部または外部に設置され、前記誘電泳動力により処理液中の特定の微生物が前記電極に捕捉されて分離される過程で、この分離された特定の微生物を不活化させる不活化手段を付与する不活化手段付与源と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る微生物分離不活化処理方法及び装置によれば、微生物を含む処理液が流動する処理槽内に電極が設置され、この電極に印加される電圧の周波数を、特定の微生物に対する誘電泳動力が増大するように選定することで、その特定の微生物を選択的に捕捉して分離できる。そして、この微生物の分離処理の実施中に、分離された特定の微生物を不活化する不活化処理を実施するので、この特定の微生物を流失させることなく確実に不活化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る微生物分離不活化処理装置の第1の実施の形態を示す構成図。
【図2】図1の捕捉電極を示す概略平面図。
【図3】図1の捕捉電極を示し、(A)が顕微鏡写真、(B)が全体写真。
【図4】図1の電極間に生ずる電位分布を示す説明図。
【図5】印加電圧の周波数に対する水の比誘電率の変化を示すグラフ。
【図6】印加電圧の周波数に対する水の誘電損失の変化を示すグラフ。
【図7】本発明に係る微生物分離不活化処理装置の第2の実施の形態を示す構成図。
【図8】捕捉電極を含む電極の変形形態を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
[A]第1の実施の形態(図1〜図6)
図1は、本発明に係る微生物分離不活化処理装置の第1の実施の形態を示す構成図である。本実施の形態の微生物分離不活化処理装置10は、処理液2中に含まれる特定の微生物1を誘電泳動力を利用して選択的に分離し、この分離処理中に、分離された特定の微生物1に対し、不活化処理(滅菌や殺菌処理など)を実施するものである。この微生物分離不活化処理装置10は、処理槽12内に一対の電極13A、13Bを備えた微生物処理部11と、電源14と、送液機構15と、電力モニタ16と、液モニタ17と、微生物濃度モニタ18と、電気的条件制御部19と、液条件制御部20と、不活化手段付与源としての不活化用線源21と、を有して構成されている。
【0012】
処理槽12は、送液機構15の送液配管22、回収配管23及び循環配管24に接続される。送液配管22は、送液ポンプ25を備えると共に、微生物1を多数含む処理液2が貯溜される処理液タンク26に接続される。回収配管23は回収液タンク27に接続される。この回収液タンク27は、処理槽12内で処理されて微生物1が減少または除去された液(回収液3)を貯溜する。
【0013】
循環配管24は、処理槽12に接続されると共に、送液配管22における送液ポンプ25の上流側に接続されて、処理槽12内の処理液2を送液配管22へ戻し、処理液2を循環させるための配管である。回収配管23に回収用バルブ28が、循環配管24に循環用バルブ29がそれぞれ配設され、これらの回収用バルブ28と循環用バルブ29との開度により、処理槽12から回収液タンク27へ流れる回収液3の液量と、処理槽12から送液配管22へ戻る処理液2の液量との比率が調整される。
【0014】
処理槽12内には、送液機構15における送液ポンプ25の運転時に、微生物1を含む処理液2が流動する。この処理槽12の内部に、電極13A及び電極13Bが設置される。例えば電極13Aは、処理槽12の天板の内面に、電極13Bは処理槽12の底板の内面にそれぞれ設けられる。これらの電極13Aと電極13Bは、少なくとも一方の電極が金属細線30により構成される。つまり、電極13Aが、一様な導電性金属板からなる通常の電極であり、捕捉電極として機能する電極13Bが、図1及び図2に示すように、複数本の金属細線30から構成される。
【0015】
電極13B(捕捉電極)を構成する金属細線30は、ステンレスまたはチタンなどの導電性金属を用いて棒形状(円柱形状、角柱形状、円錐形状、角錐形状など)または板形状に形成される。この金属細線30は、棒形状の場合の軸直交寸法(例えば、円柱形状の場合の直径寸法α)または板形状の場合の幅寸法が0.01μm〜10mmの範囲、好ましくは0.1μm〜1mmの範囲に設定される。金属細線30は、上述の寸法範囲内で、均一寸法に形成されてもよく、または連続もしくは不連続に変化した寸法に形成されてもよい。
【0016】
電極(捕捉電極)13Bは、上述の金属細線30を多数集積させて構成される。例えば図3に示すように、金属繊維31(図3(A))が多数集積されて形成された板状の金属メッシュフィルタ32を、電極13Bとして使用してもよい。
【0017】
処理槽12内では、電極13Aと電極13Bとの間に、微生物1を含む処理液2が流動し、これらの電極13と電極13B間に、電源14から電圧が印加されることで、処理槽12内に電場が形成される。電極13Aと電極13B間に電圧が印加されたときの電位分布33は、図4に示すように電極13B近傍で不均一になり、従って、この電位分布33に直交する電場分布も、電極13B近傍で不均一になる。この電場分布が不均一になる電極13B近傍に電場勾配が生じ、この電場勾配によって誘電泳動力が発生する。
【0018】
この誘電泳動力は、下記のクラウジウス−モソッティの式(1)で評価されることが多い。
【数1】

ここで、FDEP:誘電泳動力、ε:微生物の比誘電率、ε:溶媒(例えば水)の比誘電率、r:微生物の代表寸法、E:電場強度、∇:微分演算子である。
【0019】
また、一般に、被誘電率εは、印加電圧の周波数f、溶媒の温度T、圧力Pの関数であり、下記の式(2)のように、複素数で表記される。
[数2]
ε(T、f,P)=ε−iε …(2)
ここで、ε:誘電比率(実数部)、ε:誘電損失、i:虚数単位である。また、式(1)におけるReは「実数部の抽出」を意味し、更に、∇|E|は、電場勾配∇Eに関連する値である。
【0020】
処理液2(溶媒:水)中に含まれる微生物1を想定すると、式(1)には、溶媒と微生物1の比誘電率の差の項[(ε−ε)/(ε+2ε)]が含まれている。印加電圧の周波数を選定することで、微生物1の比誘電率εと溶媒の比誘電率εの大小関係を調整することができ、これにより、特定の微生物1に対する誘電泳動力を増大させ、且つその特定の微生物1の移動方向を制御することが可能になる。
【0021】
つまり、電源14は、電極13Aと電極13B間に印加される印加電圧の周波数を、処理槽12内の電場分布の不均一部分(電極13B近傍)における電場勾配(∇E)によって生ずる誘電泳動力が、特定の微生物1に対して増大するように選定する。そして、このとき、特定の微生物1の比誘電率が溶媒の比誘電率よりも高い場合に、この特定の微生物1は、電場勾配(∇E)が高くなる電極13B近傍に集まり、この電極13Bに捕捉されて選択的に分離される(正の誘電泳動)。逆に、特定の微生物1の比誘電率が溶媒の比誘電率よりも低い場合に、この特定の微生物1は、電場勾配(∇E)の小さくなる部位に集まる(負の誘電泳動)。
【0022】
また、式(1)及び式(2)により、誘電泳動力に直接影響するのは、式(1)中の[(ε−ε)/(ε+2ε)]の比誘電率(実数部)と、電場勾配∇Eに関連する∇|E|であるが、[(ε−ε)/(ε+2ε)]の誘電損失が大きくなると、電気入力分のうち、溶媒の加熱に消費される割合が増加してしまう。
【0023】
溶媒である水の比誘電率が印加電圧の周波数に依存する周波数依存性は、例えばDielectric materials and applications Willy,1954 により報告されている。この報告されたデータを整理したものを図5及び図6に示す。水の比誘電率(実数部)と誘電損失の上記周波数に対する変化を比較すると、図5に示す水の比誘電率(実数部)はほとんど変化しないが、図6に示す水の誘電損失は大きく変化しており、エネルギー損失が増加していることが分かる。
【0024】
従って、電極13Aと電極13B間への印加電圧の周波数は、溶媒(例えば水)の誘電損失を低減させるために、300MHz以下の交流または直流(パルス化した直流を含む)が好ましい。このうち、コストの観点から、電極13Aと電極13B間への印加電圧の周波数は5MHz以下が好ましい。印加電圧の周波数が5MHz以下では、溶媒(例えば水)の誘電損失が増加するが、この周波数帯の電力が低コストであるからである。
【0025】
電極13Aと電極13B間への印加電圧の周波数は、単一である必要はなく、上述の範囲(300MHz以下)内の複数の周波数を重畳して印加したり、または、上記範囲(300MHz以下)内で、周波数を連続もしくは不連続に変化させてもよい。
【0026】
また、電極13Aと電極13B間に印加する印加電圧V(V;ボルト)は、対向配置された電極13Aと電極13B間の電極間距離をd(cm)としたとき、電圧波形にかかわらず、
[数3]
V/d≦100kV/cm
に設定される。印加電圧Vと電極間距離dとの比V/dが上述の範囲であれば、電極13Aと電極13B間に放電が発生することを防止できる。また、印加電圧Vと電極間距離dとの比V/dが上述の範囲であれば、印加電圧Vは連続的または周期的に変動してもよい。
【0027】
図1に示す電力モニタ16は、電源14から電極13A及び13Bへ印加される印加電圧、この印加電圧の周波数、及び印加電圧の波形を検出し、これらの検出された電力データを電気的条件制御部19へ出力する。また、液モニタ17は、処理槽12の外側における上流側の送液配管22と、処理槽12の外側における下流側の回収配管23及び循環配管24に配設されて、処理槽12内を流れる処理液2の流量、温度及び圧力などを検出し、これらの検出された液データを液条件制御部20へ出力する。
【0028】
更に、微生物濃度モニタ18は、液モニタ17と同様に、処理槽12の外側における上流側の送液配管22と、処理槽12の外側における下流側の回収配管23及び循環配管24に配設されて、処理槽12に流入する処理液20の微生物濃度を検出し、処理槽12から流出した処理液20の微生物濃度を検出する。これらの微生物濃度検出データから、電極(捕捉電極)13Bに捕捉された微生物1の捕捉率が算出される。また、処理槽12に流入する処理液2中の微生物濃度の検出データと、処理槽12から流出した処理液2中の微生物濃度の検出データは、電気的条件制御部19及び液条件制御部20へ共に出力される。尚、微生物濃度モニタ18は、例えば粒度分布計が用いられる。
【0029】
電気的条件制御部19は、電源14、電力モニタ16及び微生物濃度モニタ18に電気的に接続され、電力モニタ16からの電力データと微生物濃度モニタ18からの微生物濃度検出データに基づいて電源14を制御し、この電源14から電極13A、13B間に印加される印加電圧、印加電圧の周波数、印加電圧波形等の電気的条件を制御する。例えば、電気的条件制御部19は、微生物濃度モニタ18にて検出された微生物濃度検出データから電極13Bによる特定の微生物1の捕捉率が低いと判断したときに、電源14を制御して印加電圧を増大させ、更に、印加電圧の周波数を変更させて、特定の微生物1の捕捉率を高める。
【0030】
液条件制御部20は、液モニタ17、微生物濃度モニタ18、送液ポンプ25、回収用バルブ28及び循環用バルブ29、並びに送液配管22に配設されて処理液2を温度調整する温度調節器34に電気的に接続される。この液条件制御部20は、液モニタ17からの液データと微生物濃度モニタ18からの微生物濃度検出データとに基づいて、送液ポンプ25、回収用バルブ28、循環用バルブ29及び温度調節器34を制御し、処理槽12内を流れる処理液2の液条件を制御する。例えば、液条件制御部20は、微生物濃度モニタ18にて検出された微生物濃度検出データから電極13Bによる特定の微生物1の捕捉率が低いと判断した場合に、送液ポンプ25を制御して処理槽12内を流れる処理液2の流量を低下させ、更に、温度調節器34を制御して処理槽12内を流れる処理液2の温度を変更して、特定の微生物1の捕捉率を高める。
【0031】
また、液条件制御部20は、微生物濃度モニタ18にて検出された微生物検出濃度データから電極13Bによる微生物1の捕捉が不十分であると判断したときに、循環用バルブ29の開度を回収用バルブ28の開度よりも大きく変更して、処理槽12内の処理液2の大部分を送液配管22へ戻し、処理槽12内で微生物1の捕捉処理を再度実施させる。
【0032】
図1に示す不活化用線源21は、電磁波を発生する電磁波発生源であり、例えば300nm以下の紫外線を照射する紫外線源、X線を照射するX線源、γ線を照射するγ線源である。これらの不活化用線源21は、処理槽12の外部に1個、または同一種類の線源もしくは異なった種類の線源が複数個、本実施の形態では紫外線線源が複数個設置される。紫外線源としては、例えば高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプなどがある。
【0033】
この不活化用線源21は、処理液2中の特定の微生物1が処理槽12内で誘電泳動力により電極(捕捉電極)13Bに捕捉されて分離される過程で、この分離された特定の微生物1に不活化手段(300nm以下の紫外線、X線、γ線等の電磁波)を付与(照射)し、これにより、この特定の微生物に対し滅菌または殺菌などの不活化処理を行う。
【0034】
また、処理槽12の天板または側板には、不活化用線源21が配置された近傍に透光性窓35が設けられている。この透光性窓35は、不活化用線源21が発生する電磁波を透過する材質で構成されている。例えば、不活化用線源21が波長300nm以下の紫外線を照射する場合には、透光性窓35は、この波長300nm以下の紫外線を透過する石英製の窓である。
【0035】
次に、微生物分離不活化処理装置10の作用を説明する。この微生物分離不活化処理装置10では、特定の微生物1を選択的に捕捉して分離する微生物分離工程の実施中に、分離された特定の微生物を不活化する微生物不活化工程を実施する。
【0036】
微生物分離工程では、送液機構15の送液ポンプ25の運転により処理槽12内に微生物1を含む処理液2が流れる間に、電源14により電極13A、13B間に電圧が印加されて、処理槽12内に電場が形成される。このとき、電源14から電極13A、13B間に印加される電圧の周波数は、電場の不均一部分(つまり電極13B近傍)における電場勾配により生ずる誘電泳動力が特定の微生物1に対し増大するように設定されている。このため、処理槽12内で電極13Aと電極13B間を流れる処理液2中の特定の微生物1は、電極13A、13B間に形成される電場により分極されると共に、前記誘電泳動力によって電極(捕捉電極)13Bに捕捉され、選択的に分離される。
【0037】
微生物不活化工程では、上述の微生物分離工程の実施中に、分離された特定の微生物1に対して不活化用線源21、例えば紫外線源から300nm以下の紫外線を照射する。これにより、特定の微生物1を不活化(滅菌または殺菌など)させる。
【0038】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)微生物1を含む処理液2が流動する処理槽12内に電極13A及び13Bが設置され、これらの電極13A、13B間に印加される電圧の周波数を、特定の微生物1に対する誘電泳動力が増大するように選定することで、その特定の微生物1を電極(捕捉電極)13Bに選択的に捕捉して分離できる。そして、この微生物1の分離処理の実施中に、不活化用線源21から波長300nm以下の紫外線などの電磁波を照射することで、分離された特定の微生物1を不活化(例えば滅菌、殺菌など)する不活化処理を実施するので、この特定の微生物1を流失させることなく確実に不活化できる。
【0039】
例えば、処理液2中に特定の微生物1としてイースト菌が存在し、電極(捕捉電極)13Bを構成する円柱形状の金属細線30の直径が50μm〜150μmであり、電極13Aと電極13B間の電極間距離dが50μmであり、電源14から電極13A、13B間に印加される電圧Vが100Vであり、その印加電圧の周波数が1MHzの正弦波であるとき、電極間距離dに対する印加電圧Vの値はV/d=20kV/cmになる。この条件で行われた微生物分離工程で、イースト菌は、電場勾配の高くなる電極(捕捉電極)13Bに捕捉されて分離された。また、微生物不活化工程では、分離されたイースト菌に対して300nm以下の紫外線を照射したところ、イースト菌が殺菌されていることを確認できた。
【0040】
[B]第2の実施の形態(図7)
図7は、本発明に係る微生物分離不活化処理装置の第2の実施の形態を示す構成図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0041】
本実施の形態の微生物分離不活化処理装置40が、前記第1の実施の形態の微生物分離不活化処理装置10と異なる点は、不活化用線源21が発生する不活化手段(例えば300nm以下の紫外線などの電磁波)の強度に応じて、電気的条件制御部19が電極13A、13B間に印加される電気的条件を制御し、液条件制御部20が処理槽12内を流れる処理液2の液条件を制御する点である。
【0042】
つまり、微生物分離不活化処理装置40には、微生物濃度モニタ18の近傍に、不活化用線源21から発生する電磁波の強度を検出する、不活化手段強度モニタとしての電磁波強度モニタ21が設置されている。この電磁波強度モニタ41にて検出された電磁波、本実施の形態では300nm以下の紫外線の強度検出データが、電気的条件制御部19及び液条件制御部20へ出力される。紫外線の強度の変動に応じて、例えば、電気的条件制御部19は電源14から電極13A、13B間に印加される電圧を制御し、液条件制御部20は、送液ポンプ25を制御して処理槽12内を流れる処理液2の流量を調整する。
【0043】
具体的には、電磁波強度モニタ41が検出した紫外線の強度が低下した場合、電気的条件制御部19は、電極13A、13B間に印加される電圧を上昇させて、処理液2中の微生物に作用する誘電泳動力を高め、電極(捕捉電極)13Bによる微生物1の捕捉時間を長くする。また、電磁波強度モニタ41が検出した紫外線の強度が低下した場合、液条件制御部20は、処理槽12内を流れる処理液2の流量を減少させるように送液ポンプ25を制御して、電極(捕捉電極)13Bへの微生物1の捕捉時間を長くする。これにより、不活化用線源21による微生物1の不活化処理が確実に実施される。
【0044】
以上のように構成されたことから、本実施の形態においても、前記第1の実施の形態の効果(1)と同様な効果を奏する他、次の効果(2)を奏する。
【0045】
(2)不活化用線源21が発生する電磁波の強度を電磁波強度モニタ41が検出し、この検出された電磁波強度検出データに基づいて、電気的条件制御部19が電気的条件を制御し、液条件制御部20が液条件を制御するので、例えば不活化用線源21からの電磁波強度が変動した場合にも、これに応じて電気的条件、液条件を変動させることで、微生物1の不活化処理を効率的に実現できる。
【0046】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形してもよい。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせてもよく、またはこれらの全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0047】
例えば、図8に示すように、処理液2中の微生物1を捕捉するための電極(捕捉電極)45は、金属板46に円錐形状の針状の電極棒47を複数本立設させて構成されたものでもよい。この場合、電極棒47の先端部の直径が0.01μm〜10mm、好ましくは0.1μm〜1mmの範囲に構成される必要がある。尚、図8中の符号1Aは、処理液2から分離される対象の特定の微生物を示し、符号1Bは、分離対象外の微生物を示す。
【0048】
また、図8に示すように、電極45は、導電性金属からなる一様な板状の電極48と対をなすが、これらの一対の電極45及び48が、処理槽12に複数対設置されてもよい。この場合、各対の電極45、48間には、同一の電源14から、または異なる電源49A、49Bからそれぞれ電圧が印加される。
【0049】
更に、図1に示す一対の電極13A、13Bは、特に微生物1が正の誘電泳動を行なう場合には、共に金属細線30により構成されてもよい。これにより、処理液2中の特定の微生物1は、上述のように金属細線30から構成された両電極に捕捉される。
【0050】
また、両実施の形態では、不活化用線源21が処理槽12の外部に設置されるものを述べたが、処理槽12の内部に設置されて、処理液2中で電磁波を照射するものであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 微生物
2 処理液
10 微生物分離不活化処理装置
11 微生物処理部
12 処理槽
13A 電極
13B 電極(捕捉電極)
14 電源
18 微生物濃度モニタ
19 電気的条件制御部
20 液条件制御部
21 不活化用線源(不活化手段付与源)
30 金属細線
40 微生物分離不活化処理装置
41 電磁波強度モニタ(不活化手段強度モニタ)
V 印加電圧
d 電極間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電場を形成する電極を備えた処理槽内に微生物を含む処理液を流動させる間に、前記電極に印加する印加電圧の周波数を、前記電場の不均一部分に生ずる誘電泳動力が特定の微生物に対して増大するように選定することで、前記誘電泳動力により特定の微生物を選択的に捕捉して分離する微生物分離工程と、
この微生物分離工程の実施中に、分離された特定の微生物を不活化する不活化手段を付与する微生物不活化工程と、を有することを特徴とする微生物分離不活化処理方法。
【請求項2】
前記処理槽の外側における上流と下流のそれぞれを流れる処理液中の微生物濃度を検出し、この検出データに基づいて、電極に印加される印加電圧等の電気的条件と、前記処理槽内を流れる処理液の流量等の液条件を制御することを特徴とする請求項1に記載の微生物分離不活化処理方法。
【請求項3】
前記不活化手段が、波長300nm以下の紫外線、X線、またはγ線等の電磁波であることを特徴とする請求項1に記載の微生物分離不活化処理方法。
【請求項4】
前記不活化手段の強度を検出し、この検出データに応じて、処理槽内を流れる処理液の液条件、または電極間に印加される電気的条件を制御することを特徴とする請求項1に記載の微生物分離不活化処理方法。
【請求項5】
微生物を含む処理液を処理槽内に流動させると共に、前記処理槽の内部に設置された電極により前記処理槽内に不均一な電場を形成する微生物処理部と、
前記電極に電圧を印加すると共に、この印加電圧の周波数を、前記処理槽内の電場の不均一部分に生ずる誘電泳動力が特定の微生物に対して増大するように選定する電源と、
前記処理槽の内部または外部に設置され、前記誘電泳動力により処理液中の特定の微生物が前記電極に捕捉されて分離される過程で、この分離された特定の微生物を不活化させる不活化手段を付与する不活化手段付与源と、を有することを特徴とする微生物分離不活化処理装置。
【請求項6】
前記処理槽の外側における上流と下流のそれぞれを流れる処理液中の微生物濃度を検出する微生物濃度モニタと、
電源に接続され、電極に印加される印加電圧等の電気的条件を制御する電気的条件制御部と、
処理槽内を流れる処理液の流量等の液条件を制御する液条件制御部とを有し、
前記微生物濃度モニタからの検出データに基づいて、前記電気的条件制御部が電気的条件を制御し、前記液条件制御部が液条件を制御することを特徴とする請求項5に記載の微生物分離不活化処理装置。
【請求項7】
前記電極は一対または複数対設置され、各対の少なくとも一方の電極が、複数本の金属細線により構成されたことを特徴とする請求項5に記載の微生物分離不活化処理装置。
【請求項8】
前記金属細線は棒形状または板形状に形成され、棒形状の金属細線の軸直交寸法または板形状の金属細線の幅寸法が、0.01μm〜10mmの範囲に設定されたことを特徴とする請求項7に記載の微生物分離不活化処理装置。
【請求項9】
前記電極に印加される印加電圧の周波数が、300MHz以下に設定されたことを特徴とする請求項5に記載の微生物分離不活化処理装置。
【請求項10】
前記電極に印加される印加電圧V(V)は、対向配置された電極間距離d(cm)を用いて、V/d≦100kV/cmに設定されたことを特徴とする請求項5に記載の微生物分離不活化処理装置。
【請求項11】
前記不活化手段が、波長300nm以下の紫外線、X線、またはγ線等の電磁波であることを特徴とする請求項5に記載の微生物分離不活化処理装置。
【請求項12】
前記不活化手段の強度を検出する不活化手段強度モニタを有し、この不活化手段強度モニタからの検出データに応じて、電気的条件制御部が、電極間に印加される電気的条件を制御し、液条件制御部が、処理槽内を流れる処理液の液条件を制御することを特徴とする請求項6に記載の微生物分離不活化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71219(P2012−71219A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215852(P2010−215852)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】