微生物数の測定方法及び微生物数の測定装置
【課題】酸素電流に基づく微生物の個体数を、早期に評価できる手法を提案する。
【解決手段】ステップS100ではフローチャートに沿った処理において使用する種々の設定をリセットする。ステップS101では酸素電流Inewの測定を行う。ステップSAでは酸素電流の傾斜を求める。ステップSBでは当該傾斜が安定したと判断してよいか否かを判定する。ステップSCでは第1測定時間を決定する。ステップSBにおいて傾斜の安定について判定するためには、順次に酸素電流Inewの測定を行い、安定したと判断されるまで酸素電流の傾斜を更新して求める。よってステップSBは二つの行き先が指定されている。傾斜が安定したと判断された場合にステップSBからステップSCへと処理が進み、そうでないと判断された場合には更に酸素電流Inewの測定を行うべくステップS101へと戻る。
【解決手段】ステップS100ではフローチャートに沿った処理において使用する種々の設定をリセットする。ステップS101では酸素電流Inewの測定を行う。ステップSAでは酸素電流の傾斜を求める。ステップSBでは当該傾斜が安定したと判断してよいか否かを判定する。ステップSCでは第1測定時間を決定する。ステップSBにおいて傾斜の安定について判定するためには、順次に酸素電流Inewの測定を行い、安定したと判断されるまで酸素電流の傾斜を更新して求める。よってステップSBは二つの行き先が指定されている。傾斜が安定したと判断された場合にステップSBからステップSCへと処理が進み、そうでないと判断された場合には更に酸素電流Inewの測定を行うべくステップS101へと戻る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は微生物の個体数を算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の個体数を算出する方法が種々提案されている。例えば公定法として採用されている方法には、培地において細菌を増菌培養し、所定時間経過後にコロニーを計数して初期菌数を求める手法がある。
【0003】
しかし、コロニーが目視できる程度にまで増菌培養を行うには二十時間近く要してしまう。そこで、微生物が培養される培地での溶存酸素濃度を測定する手法が提案されている。例えば酸素電極に流れる電流(以下「酸素電流」と称する)を測定することによって培地での溶存酸素濃度が測定される。かかる手法は例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−235599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で示される手法では、酸素電流が所定のしきい値に到達するまでの時間を計測する。本発明は酸素電流に基づく微生物の個体数を、より早期に評価できる手法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる微生物の測定方法の第1の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める方法であり、下記工程(a)〜(c)を備える。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b);である。
【0007】
この発明にかかる微生物の測定方法の第2の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される。
【0008】
この発明にかかる微生物の測定方法の第3の態様は、微生物数の測定方法の第2の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される。
【0009】
微生物の測定方法の第3の態様において望ましくは、前記係数(q)は0.8に設定される。
【0010】
この発明にかかる微生物の測定方法の第4の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める方法であって、下記工程(a)〜(c)を備える。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記測定期間に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC);である。
【0011】
この発明にかかる微生物の測定方法の第5の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第4の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0012】
この発明にかかる微生物の測定方法の第6の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第5の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0013】
微生物の測定方法の第6の態様において望ましくは、前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、前記所定回数(Z2)は10回であり、前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである。
【0014】
この発明にかかる微生物の測定方法の第7の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第6の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される。
【0015】
この発明にかかる微生物の測定方法の第8の態様は、微生物数の測定方法の第7の態様であって、前記不感時間は200分に設定される。
【0016】
この発明にかかる微生物の測定方法の第9の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第8の態様のいずれかであって、(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程を更に備える。
【0017】
この発明にかかる微生物の測定方法の第10の態様は、微生物数の測定方法の第9の態様であって、前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である。
【0018】
この発明にかかる微生物の測定方法の第11の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第10の態様のいずれかであって、検量線に基づき、前記微生物についての前記初期個数が未知である前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する。当該検量線は、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び培地について求められている。当該検量線で前記第1測定時間の測定対象となった前記培地は、未知であった前記初期個数を算出する際の前記培地と同一種である。但し、当該方法の第11の態様において、前記検量線に基づいて前記微生物の未知の前記初期菌数が算出されるものの、当該検量線を作成することまでは要求されない。
【0019】
この発明にかかる微生物の測定方法の第12の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第11の態様のいずれかであって、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める。
【0020】
この発明にかかる微生物の測定装置の第1の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定(S101,S112)する酸素電流測定部(201)と、前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める評価部(202)とを備える。そして前記評価部は、下記工程(a)〜(c)を実行する。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b);である。
【0021】
この発明にかかる微生物の測定装置の第2の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される。
【0022】
この発明にかかる微生物の測定装置の第3の態様は、微生物数の測定装置の第2の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される。
【0023】
微生物の測定装置の第3の態様において望ましくは、前記係数(q)は0.8に設定される。
【0024】
この発明にかかる微生物の測定装置の第4の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定する酸素電流測定部(201)と、前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める評価部(202)とを備える。そして前記評価部は、下記工程(a)〜(c)を実行する。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC);である。
【0025】
この発明にかかる微生物の測定装置の第5の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第4の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0026】
この発明にかかる微生物の測定装置の第6の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第5の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0027】
微生物の測定装置の第6の態様において望ましくは、前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、前記所定回数(Z2)は10回であり、前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである。
【0028】
この発明にかかる微生物の測定装置の第7の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第6の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される。
【0029】
この発明にかかる微生物の測定装置の第8の態様は、微生物数の測定装置の第7の態様であって、前記不感時間は200分に設定される。
【0030】
この発明にかかる微生物の測定装置の第9の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第8の態様のいずれかであって、前記評価部(201)は、(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程を更に実行する。
【0031】
この発明にかかる微生物の測定装置の第10の態様は、微生物数の測定装置の第9の態様であって、前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である。
【0032】
この発明にかかる微生物の測定装置の第11の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第10の態様のいずれかであって、検量線に基づき、前記微生物についての前記初期個数が未知である前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する。当該検量線は、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び培地について求められている。当該検量線で前記第1測定時間の測定対象となった前記培地は、未知であった前記初期個数を算出する際の前記培地と同一種である。但し、当該装置の第11の態様において、前記検量線に基づいて前記微生物の未知の前記初期菌数が算出されるものの、当該検量線を作成することまでは要求されない。
【0033】
この発明にかかる微生物の測定装置の第12の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第11の態様のいずれかであって、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める。
【発明の効果】
【0034】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第1の態様も、培地を酸素量に応じて流れる電流を測定して微生物の初期個数を求める手法において、当該手法に必要な時間を短縮する。
【0035】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第2の態様も、工程(c)における第1の閾値を設定する。
【0036】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第3の態様も、それぞれの第2の態様で設定された第1の閾値を用いて第1測定時間を得る際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0037】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第4の態様も、培地を酸素量に応じて流れる電流を測定して微生物の初期個数を求める手法において、当該手法に必要な時間を短縮する。
【0038】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第5の態様も、工程(b)における時間差分値の安定を判定する。
【0039】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第6の態様も、それぞれの第5の態様で時間差分値の安定を判断する際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0040】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第7の態様も、測定の当初における電流の乱れが工程(b)の判定に与える影響を除く。
【0041】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第8の態様も、それぞれの第7の態様で採用された不感時間を用いて第1測定時間を得る際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0042】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第9の態様も、工程(c)の判定ができない程に、初期個数が多い場合でも、第2測定時間を用いて当該初期個数を求めることができる。
【0043】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第10の態様も、それぞれの第9の態様で採用された第2測定時間を得る際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0044】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第11の態様も、培地を酸素量に応じて流れる電流を測定して微生物の初期個数を求める手法において、当該手法に必要な時間を短縮する。
【0045】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第12の態様も、それぞれの第11の態様で微生物数の初期個数を算出する際に用いられる検量線を作成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
発明の基本的な考え方.
本発明の実施の形態の詳細な説明に移る前に、本発明の基本的な考え方を示す。もちろん、この基本的な考え方も本発明の範疇にある。以下では微生物として細菌を例に取って説明するが、他の微生物に対しても同様に扱える。また酸素電流の値及びこれに関する閾値は酸素電極の面積で正規化して示すので、正確には電流密度として扱うべきであるが、以下では簡単のため、電流として説明する。
【0047】
図1は測定時間と酸素電流との関係を、初期菌数をパラメタとして例示するグラフである。測定時間中は増菌培養されるので、溶存酸素量が低下し、これに伴って酸素電流も低下する。グラフL0は初期菌数が0の場合を、グラフL1,L2,L3,L4,L5はそれぞれ初期菌数が101,102,103,104,105(CFU/ml)である場合を例示している。
【0048】
従来は、酸素電流について低い値にしきい値Ithを設定していた。そしてグラフL1,L2,L3,L4,L5がしきい値Ithに至る測定時間(それぞれ測定時間t10,t20,t30,t40,t50)を求めていた。そして測定時間t10,t20,t30,t40,t50と、既知の初期菌数101,102,103,104,105(CFU/ml)とから検量線が求められる。よって初期菌数が未知であっても、しきい値Ithに至る測定時間と当該検量線とから初期菌数を算出することができる。
【0049】
しかしながら、グラフL1,L2,L3,L4,L5に見られるように、酸素電流は測定時間の経過と共に減少するものの、その当初は減少の傾きが小さく、ある時間が経過してから減少の傾きが大きくなり、更にその後減少の傾きが増大する。よってこの、時間に対する酸素電流のグラフの傾斜(換言すれば、単位時間当たりの酸素電流の差分:以下、単に「酸素電流の傾斜」と称す)が変動する時点での測定時間(以下「傾斜変動時間」と称す:グラフL1,L2,L3,L4,L5に即して言えば減少の傾きが小から大へと移行する測定時間t11,t21,t31,t41,t51や、減少の傾きが大から小へと移行する測定時間t12,t22,t32,t42,t52)を求め、これと既知の初期菌数とから検量線を作成することができる。
【0050】
そして、当該検量線と、初期菌数が未知の場合の傾斜変動時間とから、初期菌数を算出することができる。しかも傾斜変動時間t11,t12は測定時間t10よりも短く、傾斜変動時間t21,t22は測定時間t20よりも短く、傾斜変動時間t31,t32は測定時間t30よりも短く、傾斜変動時間t41,t42は測定時間t40よりも短く、傾斜変動時間t51,t52は測定時間t50よりも短い。よって酸素電流の傾斜変動時間を求めれば、初期菌数の算出を早期に行うことができる。これが本発明の基本的な考え方である。
【0051】
しかし、酸素電流の傾斜の変動を目視で行うことは、作業の自動化を妨げる。また、傾斜変動時間が経過する前のみならず、経過した後のグラフについても測定しなければ、目視で傾斜変動時間を確認することができない。これでは測定時間を短縮することは容易ではない。
【0052】
そこで、以下に述べる第1乃至第3の実施の形態では、酸素電流の傾斜の変動を厳密に見ることに代わる便法を採用している。即ち、傾斜変動時間t11,t21,t31,t41,t51の後に酸素電流の傾斜が安定したら、それ迄に得られたグラフに基づいて第1の閾値を決定する。そして第1の閾値を1回以上超えて酸素電流が低下した測定時間(以下「第1測定時間」と称する)と、既知の初期菌数とに基づいて検量線を作成する。
【0053】
また、第4の実施の形態では、酸素電流の傾斜が安定したら、その傾斜の絶対値が小さくなる、いわばグラフの屈曲点を与える(第1乃至第3の実施の形態とは別の)第1測定時間(傾斜変動時間t12,t22,t32,t42,t52に相当する)と、既知の初期菌数とに基づいて検量線を作成する。
【0054】
検量線が作成された後は、当該検量線と、第1測定時間とから、未知の初期菌数を算出することができる。
【0055】
第1の実施の形態.
図2は本発明の第1の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートである。ステップS100ではフローチャートに沿った処理において使用するカウンタS,F2や、酸素電流の傾斜Koldを初期値に設定(リセット)する。ステップS101では酸素電流Inewの測定を行う。ステップSAでは酸素電流の傾斜を求める。ステップSBでは当該傾斜が安定したと判断してよいか否かを判定する。ステップSCでは第1測定時間を決定する。
【0056】
ステップSBにおいて傾斜の安定について判断するためには、順次に酸素電流Inewの測定を行い、安定したと判断されるまで酸素電流の傾斜を更新して求める。よってステップSBは二つの行き先が指定されている。傾斜が安定したと判断された場合にステップSBからステップSCへと処理が進み、そうでないと判断された場合には更に酸素電流Inewの測定を行うべくステップS101へと戻る。
【0057】
図3はステップSAの詳細を例示するフローチャートである。まずステップS104においてカウンタSが1加算される。最初にステップS104が実行されるまでは、ステップS100によってカウンタSには値0が設定されている。よって最初にステップS104が実行されることにより、カウンタSの値は1となる。
【0058】
次にステップS105において酸素電流のデータソーティングが行われる。具体的にはデータI2〜IZ+1の値がデータI1〜IZへと代入され、その後にデータIZ+1へとステップS101で測定された直近の酸素電流Inewが代入される。
【0059】
次にステップS106においてカウンタSが値Zよりも大きいか否かが判定される。ステップS106の判定が否定的であれば、ステップS101へと戻って次の酸素電流Inewが測定される。このようにしてステップS106の判定が肯定的となるまでステップS101〜S105が繰り返し実行されることにより、データI1〜IZにはこの順で時系列に並ぶ酸素電流のZ個の値が設定されることになる。このようにカウンタSが値Z以下である場合には、例外的にステップSAからステップS101へと処理が戻る。かかる分岐は図2において破線で示されている。
【0060】
カウンタSが値Zよりも大きくなれば、ステップS107へと処理が進む。ステップS107ではデータI1〜IZ+1についての回帰直線の傾斜Knewを求める。例えばステップS101での酸素電流Inewの測定を一定の間隔Tで行えば、ステップS101が実行された測定時間は、ステップS107の実行には特に必要はない。傾斜Knewは例えば最小二乗法を用いて求めることができる。
【0061】
ステップS107に代替可能でより簡易なステップとして、データの差(IZ+1−I1)を求め、これをZ・Tで除して傾斜を得ることもできる。いずれにせよ、ステップS107ではデータI1〜IZ+1が得られる期間(例えばZ・T)を測定期間とし、当該測定期間の酸素電流の測定値から、単位時間当たりの酸素電流の差分である時間差分値として、傾斜Knewが求められる。
【0062】
ステップS107の実行後、処理はステップSBへと進む。図4はステップSBの詳細を例示するフローチャートである。まずステップS108aにおいて、酸素電流の傾斜の変動が、所定の許容範囲内に収まるかが求められる。具体的にはステップS107で求められた傾斜Knewと傾斜Koldとの差の絶対値を、前回の酸素電流の測定時間から、今回の酸素電流の測定時間までの時間間隔Δtで除した値が、所定値E1よりも小さいか否かが判定される。そして上記判定が肯定的であればカウンタF1が1増加し、否定的であればカウンタF1は値0となる。例えば時間間隔Δtには上述の一定の間隔Tが採用される。
【0063】
最初にステップS108aが実行されるまでは、ステップS100によって傾斜Koldには値ZKが設定されている。そして値ZKは通常の測定で得られる傾斜Knewよりも所定値E1と時間間隔Δtとの積を越えて大きな値が採用される。よって最初にステップS108aが実行されることにより、必ずカウンタF1の値は0となる。
【0064】
その後、ステップS109においてカウンタF1が所定値Z1に至ったか否かが判定される。まず最初にステップS109が実行された場合、上述のようにカウンタF1の値は0であるので、当該判定は否定的結果となり、ステップS110へと処理が進む。ステップS110では、現状で得られている傾斜Knewを傾斜Koldとして採用する。そしてステップS101へと処理が戻り、再びステップSAによって新たに傾斜Knewが求められる。よって上述の間隔Tは、ステップSA,SBの両方の処理時間の和よりも長いことが望ましい。
【0065】
以上のことから、ステップS108aでは、順次に測定される直近の酸素電流Inewによって更新される傾斜Knewが、その直前に求められた傾斜Koldと比較されることになる。またステップS108a,S109の処理に鑑みれば、順次に更新される酸素電流の傾斜の変動が、連続してZ1回、所定値E1の範囲内に収まることでステップSCへと処理が進むことになる。
【0066】
図5はステップSBの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。この例では、図4に示されたフローチャートと比較して、ステップS108aをステップS108bと置換し、ステップS110を削除したフローチャートが採用される。
【0067】
ステップS108bでは、傾斜Knewの絶対値が所定値E2よりも小さいか否かが判定される。そして上記判定が肯定的であればカウンタF1が1増加し、否定的であればカウンタF1は値0となる。
【0068】
図6はステップSCの詳細を例示するフローチャートである。ステップSCではまずステップS111aにおいて第1の閾値IPを設定する。具体的にはステップSBからステップSCへ進む際のデータIZ+1のq倍(0<q<1)の値を第1の閾値IPとして採用する。そしてステップS112において再度、酸素電流を測定して酸素電流Inewを得る。
【0069】
ステップS112はステップS101と同様にして実行することが簡易であり、これらを併せて、間隔Tで酸素電流を測定することが望ましい。この場合、間隔TはステップSA,SBの両方の処理時間の和に更にステップS111aの処理時間を加算した時間よりも長いことが望ましい。このような望ましい態様では、ステップS111aにおいて第1の閾値IPとして、直近の酸素電流Inewに係数qを乗じた値を採用できる。
【0070】
しかし一般に第1の閾値IPは、傾斜を測定するための直近の測定期間における酸素電流に基づく値に依存して決定すればよい。直近に計算された傾斜によって、傾斜が安定したと判断されるからである。例えば第1の閾値IPは、直近の測定期間における酸素電流の平均値に基づいて設定することができる。例えば当該平均値に係数qを乗じた値を採用できる。
【0071】
ステップS112で測定された酸素電流Inewは、ステップS114aにおいて第1の閾値IPよりも小さいか否かが判定される。この判定の結果が肯定的であればカウンタF2の値が1増加する。カウンタF2にはステップS100において初期値0が設定されているので、最初にステップS114aが実行される前にはカウンタF2の値は0である。
【0072】
その後ステップS115へと処理が進み、カウンタF2の値が所定値Z2(>1)に至ったか否かが判定される。まず最初にステップS114aが実行された場合、カウンタF1の値は0または1であるので、当該判定は否定的結果となり、ステップS112へと処理が戻り、再び酸素電流Inewが求められる。よって間隔Tは、ステップS114a,S115の両方の処理時間の和よりも長いことが望ましい。
【0073】
ステップS114aでは、ステップS108a,S108bとは異なり、判定結果が否定的な場合にカウンタF2をリセットすることはない。よってステップS112によって順次に更新される酸素電流Inewが、連続しても、連続していなくても、Z2回、第1の閾値IPよりも小さければステップS116へと進む。ステップS116では、例えば最後に実行されたステップS112の測定時間を第1測定時間として設定する。
【0074】
図7はステップSCの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。ここではステップS111a,S114aがそれぞれステップS111b,S114bに置換されている。ステップS111bではステップSBからステップSCへ進む際のデータIZ+1から電流低下閾値Δを差し引いた値を第1の閾値IPとして採用する。上述のように、一般に、第1の閾値IPは直近の測定期間に測定された酸素電流に基づいた値に依存して決定されるので、当該直近の測定期間に測定された酸素電流の平均値から電流低下閾値Δを差し引いた値を第1の閾値IPとして採用してもよい。
【0075】
また、ステップS114bではステップS108a,S108bのカウンタF1と同様に、条件Inew<IPを満足しなければカウンタF2は0にリセットされる。つまり当該条件が連続してZ2回満足された初めてステップS116へと至る。
【0076】
このようにして第1測定時間が得られるので、まず検量線を作成する場合には、初期菌数が既知の場合について上述のように第1測定時間を測定する。そして検量線が得られた後は、初期菌数が未知の場合であっても、第1測定時間を測定することにより、検量線に基づいて初期菌数を算出することができる。
【0077】
例えば値Z,Z1,Z2としてそれぞれ値30,5,10を採用することができる。また間隔T,Δtとしてそれぞれ1(分),1(分)を採用し、係数qとして0.8を、電流低下閾値Δとして30nA/mm2を、それぞれ採用することができる。また値ZKとして103(nA/mm2/min)を採用し、所定値E1,E2としてそれぞれ0.6(nA/mm2/min2)、1.2(nA/mm2/min2)を採用することができる。このような具体的な値を採用した場合、上記のフローチャートは以下のように説明できる。
【0078】
まず酸素電流は1分毎に測定される。そして連続した30分間の酸素電流のデータについて、回帰直線の傾斜を求める。この傾斜は酸素電流を測定するたびに更新され、その安定性が判断される。
【0079】
例えば安定性の一つの判断手法(図4参照)として、この傾斜が更新されて、その変動の絶対値が0.6(nA/mm2/min2)を越える場合には傾斜が安定しているとは判断されない。傾斜の変動の絶対値が連続して5回、0.6(nA/mm2/min2)に収まって初めて傾斜が安定していると判断される。
【0080】
他の安定性の判断手法(図5参照)として、この傾斜の絶対値が1.2(nA/mm2/min)を越える場合には傾斜が安定しているとは判断されない。傾斜の絶対値が連続して5回、1.2(nA/mm2/min)に収まって初めて傾斜が安定していると判断される。
【0081】
そして傾斜が安定していると判断された場合の直近の酸素電流に基づいて第1の閾値が設定される。
【0082】
例えば第1の閾値の一つの設定方法として(図6参照)、当該直近の酸素電流に0.8を乗じた値が第1の閾値として設定される。あるいは他の設定方法として(図7参照)、当該直近の酸素電流から30nA/mm2を引いた値が第1の閾値として設定される。
【0083】
その後、第1の閾値を10回下回れば、傾斜変動時間が経過したと見なして第1測定時間を得る。
【0084】
図8は酸素電流の測定から第1測定時間を求める処理の概要を示すグラフであり、横軸に測定時間を、縦軸に酸素電流を、それぞれ採用している。酸素電流の測定値は白丸で示しており、最後にステップSAが実行された際のデータIZ+1の値を横線で示している。またグラフでの理解をし易くするために、最後にステップSAが実行された際のデータI1〜IZ+1についての回帰直線Lを図示している。もちろん、ステップSA,SBで必要なのは回帰直線L自体ではなく、その傾斜Knewである。
【0085】
第1の閾値IPも横線で示されている。ここでは例えばZ2の値として10が設定されており、酸素電流の測定値が第1の閾値IPを10回下回った際の測定時間を第1測定時間tsとしている。
【0086】
第2の実施の形態.
図8に示されるように、測定時間の当初において傾斜が安定するまでに大きな変動が生じることがある。これはステップSBでの処理を不要に繰り返すのみならず、安定した傾斜として誤検出される可能性もある。従って、測定時間の当初において、ステップSA以降を実行させない不感時間t0を設けることが望ましい。
【0087】
図9はかかる不感時間の設定を考慮したステップSAのフローチャートであり、図3に示されたフローチャートに対して、ステップS104の前にステップS103を追加している。ステップS103では不感時間が経過したか否かが判定される。不感時間が経過していなければステップS101に戻り、経過していればステップS104へと進む。
【0088】
これにより、測定時間の当初における酸素電流の波形の乱れの影響を除去し、酸素電流のデータについての回帰直線の傾斜の、ひいては第1測定時間の誤判定を回避することができる。
【0089】
第3の実施の形態.
酸素電流の測定結果によっては、酸素電流の値が急速に低下する場合がある。図10乃至図12はその種々の態様を示すグラフである。
【0090】
図10に示された第1の態様では、酸素電流の傾斜が安定した後、第1の閾値IPをZ2回下回る前に、測定不能となるまで低下している。図11に示された第2の態様では、酸素電流の傾斜が安定することなく、測定不能となるまで低下している。図12に示された第3の態様では、不感時間において既に測定不能となるまで低下している。そこで、これらの場合についても検量線の作成や、未知の初期菌数の算出を可能とするため、酸素電流の値が第2の閾値Idを越えて低下した場合には、その時点を第2測定時間ttとする。この第2測定時間についても第1測定時間と同様に扱って、検量線の作成や、未知の初期菌数の算出を行う。
【0091】
図13は本発明の第3の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートであり、図2に対応している。また図14及び図15は本発明の第3の実施の形態におけるステップSAの詳細を示すフローチャートであり、それぞれ第1の実施の形態で示された図3と、第2の実施の形態で示された図9とに対応している。
【0092】
図13乃至図15のいずれにおいても、酸素電流Inewが測定された直後に、これが第2の閾値Idよりも大きいか否かが判定されている。具体的にはステップS101の直後にステップS102が設けられている。第2の閾値Idとしては例えば60nA/mm2が採用される。
【0093】
ステップS102の判定が肯定的であれば、第1の実施の形態で示されたようにステップS104が(図3、図14参照)、あるいは第2の実施の形態で示されたようにステップS103が(図9、図15参照)、それぞれ実行される。しかしステップS102の判定結果が否定的であれば、ステップS117へと処理が進み、そのような酸素電流が測定された時点が第2測定時間として採用される。
【0094】
図16は本発明の第3の実施の形態におけるステップSCの詳細を示すフローチャートであり、第1の実施の形態で示された図6あるいは図7と対応している。このフローチャートにおいても、酸素電流Inewが測定された直後に、これが第2の閾値Idよりも大きいか否かが判定されている。具体的にはステップS112の直後にステップS113が設けられている。図中、ステップS112は、ステップS112a(図6)とステップS112b(図7)とを統合して示しており、両者のいずれかが採用される。
【0095】
ステップS113の判定が肯定的であれば、第1の実施の形態で示されたようにステップS114aが(図6参照)、あるいはステップS114bが(図7参照)、それぞれ実行される(図中、ステップS112は、ステップS112a(図6)とステップS112b(図7)とを統合して示しており、両者のいずれかが採用される)。しかしステップS113の判定結果が否定的であれば、ステップS117へと処理が進み、そのような酸素電流が測定された時点が第2測定時間として採用される。
【0096】
本実施の形態ではステップSCからステップS117へと分岐することがあるので、図13においてはかかる分岐を破線で示している。
【0097】
図10に示された第1の態様では、ステップS115の判定で肯定的な結果が得られることなく(図16参照)、ステップSCからステップS117へと分岐して第2測定時間ttが求められる。図11に示された第2の態様では、ステップS106の判定で肯定的な結果が得られず(図14、図15参照)、ステップSAからステップSBに処理が進むことなく、ステップS102からステップS117へと処理が進み、図13のステップSAからの破線で示される分岐に沿って処理が進む。図12に示された第3の態様では、図15のステップS103の判定で肯定的な結果が得られず、ステップS104にすら処理が進むことなくステップS102からステップS117へと処理が進む。
【0098】
第4の実施の形態.
本実施の形態では、「発明の基本的な考え方.」で説明した、減少の傾きが大から小へと移行する第1測定時間(第1乃至第3の実施の形態に言う「第1測定時間」とは異なる)t12,t22,t32,t42,t52を求める。第4実施の形態で求める第1測定時間も、第1乃至第3実施の形態に言う第1測定時間や第2測定時間と同様に、検量線の作成や、未知の初期菌数の算出に供する。
【0099】
もちろん、本実施の形態においても、第2の実施の形態で示された不感時間を導入してもよいし、第3の実施の形態で示された第2測定時間を導入してもよい。第1乃至第3の実施の形態に言う第1測定時間と区別するため、本実施の形態では第1測定時間を示す符号として“tu”を用いる。
【0100】
図17は本実施の形態において用いられるステップSCの詳細を示すフローチャートである。まずステップSBによって傾斜が安定したと判断された後、直近の傾斜Knewを一旦、傾斜Koldとして採用する。そしてステップS302において、新たに酸素電流Inewを測定する。そしてステップS303においてカウンタF2の値が1増加する。カウンタF2にはステップS100において初期値0が設定されているので、カウンタF2の値はステップS302が実行された回数を示している。
【0101】
そしてステップS105と同様にしてステップS304において酸素電流のデータソートを行い、ステップS106と同様にしてステップS305においてステップS302の実行回数が所望の回数(Y+1)だけ繰り返されたかが判定される。
【0102】
これらの動作は図3を用いて説明した動作と同様である。つまりステップS305の判定の結果が肯定的な場合、データI1〜IYにはこの順で時系列に並ぶ酸素電流のY個の値が設定されることになる。そしてステップS306ではステップS107と同様にデータI1〜IY+1についての新たな回帰直線の傾斜Knewを、単位時間当たりの酸素電流の差分として求める。
【0103】
なお、ステップSAのステップS105において既にそれまでに酸素電流I1〜IZ+1が求められているので、ステップS304でのデータソートでは、ステップS105の結果を利用することもできる。
【0104】
そしてステップS307においてはステップS301で設定された傾斜Koldと、ステップS306で求められた新たな傾斜Knewの大きさが比較される。傾斜Kold,Knewはいずれも酸素電流が減少する傾斜であり、負の値であるので、傾斜Koldよりも傾斜Knewが所定の閾値E3を超えた増分で大きくなった時点を第1測定時間tu(図1に即して言えば時刻t22,t32,t42,t52)として採用することができる。
【0105】
ステップS307では判定の便宜上、傾斜Koldの絶対値が傾斜Knewの絶対値よりも閾値E3を超えた増分で大きいか否かが判定される場合が例示されている。しかしこの判定において、絶対値を採用する必要がないことは明白である。
【0106】
ステップS307における判定の結果が肯定的であればステップS307へと進み、例えば最後に実行されたステップS302の測定時間を第1測定時間tuとして設定する。
【0107】
上記判定の結果が否定的であれば、ステップS308においてカウンタF2の値をリセット(値0を採用)してから、ステップS302へと戻り、新たに傾斜を求める。
【0108】
ステップS308の戻り先として、ステップS302を設定している。つまり酸素電流の傾斜が緩くなったか否かを判定するのに、ステップSBにおいて安定したと判断された際の酸素電流の傾斜を基準として採用している。
【0109】
ステップS308の戻り先として、ステップS301を設定し、酸素電流の傾斜の変化に基づいて第1測定時間tuを求めることも考えられる。しかし酸素電流の傾斜は緩やかに変化するので、ステップSBにおいて安定したと判断された際の酸素電流の傾斜を基準とした場合と比較すると第1測定時間tuが長くなり、しきい値Ithに至る測定時間(図1参照)よりも早期に測定する効果が小さい。よって早期に測定するという観点からは、ステップS308の戻り先としてはステップS301よりもステップS302を採用する方が望ましい。
【0110】
あるいは直近の傾斜Knewを得た測定期間に基づいて第1測定時間tuを決定してもよい。当該直近の測定期間において求められた傾斜によって、それ以前に求められた傾斜Koldよりも傾斜Knewが所定の閾値E3を超えた増分で大きくなったと判定されるからである。例えば第1測定時間tuは当該直近の測定期間の中央値として決定してもよい。
【0111】
以上の種々の実施の形態において得られた第1測定時間及び第2測定時間は、初期菌数が既知である場合に、検量線の作成に供される。そしてこの様にして得られた検量線に基づいて、初期菌数が未知の培地について酸素電流を計測すれば、その初期菌数を算出することができる。
【0112】
もちろん、測定の精度を高めるため、検量線を作成する際に初期菌数が既知である微生物の種類と、初期菌数が未知である微生物の種類とは同一であり、また検量線を作成する際に初期菌数が既知である微生物を含む培地の種類と、初期菌数が未知である微生物を含む培地の種類とは同一であることが望ましい。
【0113】
図18は、上述のようにして検量線を作成したり、初期菌数を算出したりする技術に適用可能な微生物数算出装置200の構成を示すブロック図である。微生物数算出装置200は、培地における酸素電流を測定する酸素電流測定部201と、酸素電流測定部201の動作を制御し、酸素電流を評価する制御・評価部202とを備えている。
【0114】
制御・評価部202は酸素電流を測定するタイミングを指示する指令Dを、酸素電流測定部201へと与える。例えば所定期間T毎に酸素電流を測定させたり、不感時間が経過してから酸素電流を測定させたり、第1測定時間ts,tuや第2測定時間ttが得られた後に酸素電流の測定を中止させる。酸素電流測定部201は主としてステップS101,S112を実行し、制御・評価部202は上述のフローチャートにおいてステップS101,S112以外のステップを実行する。
【0115】
その他:
測定時間と酸素電流との関係を、初期菌数をパラメタとして予め複数記憶し、これらの関係のうち、測定値との相違が最も小さくなるものを与えるパラメタを以て初期菌数を求めることも考えられる。
【0116】
例えば図1に示されたグラフL1,L2,L3,L4,L5を、予め電流データとしてそのまま、あるいは関数形として記憶しておく。そして図8や図10〜12に白丸で示されたような測定値と、上記の電流データとの相違を最小とする電流データを特定する。例えば測定時間ごとの測定値と電流データとの差の平方について、測定時間内の少なくとも一部で総和を採った結果を上記相違として採用する。そして上記相違を最小とする電流データと対応した初期菌数を、当該測定値から得られた初期菌数として選定する。
【0117】
但し、この手法は検体によってグラフが大きく歪む場合があるので、上記実施の形態に示された手法によって初期菌数を求める方が、確度は高い。
【実施例】
【0118】
以下、対照されるべき技術と共に、本件発明の実施例について説明する。表1は対照されるべき技術を説明する表である。
【0119】
【表1】
【0120】
検出条件#201〜#206はいずれも酸素電流を1分毎に測定し、ある時点での酸素電流が30分(時間間隔)前の酸素電流に対して設定電流の値を5回連続で下回った時点を検出時間として採用する。この検出時間も、初期菌数に依存すると考えられる。但し、いずれの検出条件#021〜#026についても不感時間を設定している。
【0121】
例えば検出条件#201では、設定電流の値を30nA/mm2に設定するので、不感時間100分が経過した後、酸素電流の傾斜が−30(nA/mm2)/30(min)=−1.0(nA/mm2/min)よりも小さく(急激に)なることが5回連続で生じた際の測定時間が検出時間として採用される。
【0122】
表2は酸素電流の傾斜が安定したことを、酸素電流の傾斜の絶対値が所定の範囲にあることで判断する技術を説明する表である。このような判断は上述の図5で示されたステップSBに対応する。
【0123】
【表2】
【0124】
検出条件#311〜#319は酸素電流を1分毎に測定する(この間隔が上述の一定の間隔Tに相当)。10分前(あるいは30分前)(この期間はカウンタSについての値Zと上記一定の間隔Tとの積に相当)の酸素電流を現在の酸素電流から差し引いた結果を、10分間(あるいは30分間)で除して傾斜を得る。この傾斜は最小二乗法で求めてはいない点で上述の傾斜Knewとは異なる。この傾斜の絶対値が5回連続して(上述の所定値Z1に相当)、1.2(nA/mm2/min)(上述の所定値E2に相当)よりも小さくなった時点で酸素電流の傾斜が安定したと判断する。そしてこの時点での酸素電流(上述のIZ+1に相当)よりも電流低下閾値(上述の電流低下閾値Δに相当)だけ小さい値の酸素電流が5回(上述の所定値Z2に相当)連続して観測された時点を第1測定時間として採用する。このような判断は図7に示されたステップSCに対応する。このようにして設定された第1測定時間も、初期菌数に依存すると考えられる。但し、いずれの検出条件#311〜#319についても不感時間を設定している。
【0125】
例えば検出条件#311では、不感時間100分が経過した後、酸素電流の傾斜の絶対値が1.2(nA/mm2)よりも小さく(平坦に)なることが5回連続で生じた時点で、当該傾斜が安定したと判定する。そしてその安定した時点の酸素電流の値から30(nA/mm2)低下した値を第1の閾値IPとして採用し、これよりも小さい酸素電流を5回連続して観測した時点を第1測定時間として採用する。
【0126】
表3は酸素電流の傾斜が安定したことを、酸素電流の傾斜の変化の絶対値が所定の範囲にあることで判断する技術を説明する表である。このような判断は上述の図4で示されたステップSBに対応する。
【0127】
【表3】
【0128】
検出条件#321〜#329は酸素電流の傾斜を検出条件#321〜#329と同様にして求める。この傾斜の変化量の絶対値(図4のステップS108aの|Knew−Kold|/Δtに相当)が5回連続して(上述の所定値Z1に相当)、3(nA/mm2/min)よりも小さくなった時点で酸素電流の傾斜が安定したと判断する。そしてこの時点での酸素電流(上述のIZ+1に相当)よりも電流低下閾値(上述の電流低下閾値Δに相当)だけ小さい値の酸素電流が5回(上述の所定値Z2に相当)連続して観測された時点を第1測定時間として採用する。このような判断は図7に示されたステップSCに対応する。このようにして設定されたこの第1測定時間も、初期菌数に依存すると考えられる。但し、いずれの検出条件#321〜#329についても不感時間を設定している。
【0129】
例えば検出条件#321では、不感時間100分が経過した後、酸素電流の傾斜の変化量の絶対値が3(nA/mm2/min)よりも小さく(平坦に)なることが5回連続で生じた時点で、当該傾斜が安定したと判定する。そしてその安定した時点の酸素電流の値から30(nA/mm2)低下した値を第1の閾値IPとして採用し、これよりも小さい酸素電流を5回連続して観測した時点を第1測定時間として採用する。
【0130】
表4〜表6は、上述の検出時間(検出条件#201〜#206)や第1測定時間(検出条件#311〜#319,#321〜#329)を、酸素電流の傾斜の変動を目視で行って傾斜変動時間を得た場合(これを自動的に行った技術が第4の実施の形態に相当する:表ではその結果を「目安点」と表記した)と比較したものである。なお、表4の条件#101は従来の技術を用いて、しきい値Ithに至る測定時間を測定した場合である。しきい値Ithとして180nA/mm2を採用し、これを3回下回った時点を検出時間として採用している。また第3の実施の形態で説明した第2の閾値Idによる第2測定時間は採用していない。
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
各条件について、傾斜変動時間と各検出条件の測定結果(検出時間や第1測定時間)とを一対の標本として捉え、両者の時間についての一標本t検定による有意差検定を行った(有意水準1%)。従って自由度は観測数から1を減じた値となっている。各検出条件と対をなす標本としての目安点は、それぞれの検出条件の左側の欄に記載している。よって縦二重線を介して隣接する各検出条件と目安点とは比較の対象とはならない。
【0135】
但し検体(測定対象となった培地)の総数は358個である。各検出条件についての測定結果の観測数が検体の総数よりも少ないのは、各検出条件を用いて得られた測定結果(検出時間や第1測定時間)と、目安点によって求めた傾斜変動時間との、少なくともいずれか一方が非常に大きな値を示す場合があるからである。これはつまり検体がいずれかの測定方法で陰性と判断される場合である。これらの場合は傾斜変動時間と測定結果との間で数値を用いた統計的な比較ができないため、観測数から除いている。
【0136】
表4の検出条件#101及びその目安点とのt検定の結果、棄却閾確率は1%(=0.01)よりも小さい。またt値の絶対値はt境界値よりも大きい。従って傾斜変動時間の平均値と、従来の酸素電流がしきい値Ithに至る測定時間の平均値とは、有意差があることが判る。つまり「A.発明の基本的な考え方.」で述べたように、酸素電流の傾斜変動時間を求めることで、初期菌数の算出を早期に行える。
【0137】
一方、表5、表6から、検出条件#319,#326,#329で得られる第1測定時間の平均値と、それぞれと対を成す傾斜変動時間の平均値とは有意差がないという帰無仮説は棄却されない。他方、これら三個の検出条件以外では、当該帰無仮説を棄却でき、有意差がある、と結論づけられる。厳密には、帰無仮説が棄却できないことは帰無仮説が妥当であることにはならないが、一般的にはそのような結論を用いる場合も多い。そこで、表1、表2、表3で示された各種の検出条件のうち、検出条件#319,#326,#329で得られる第1測定時間の平均値のみが、目視で得られた傾斜変動時間の平均値と有意差がない、と判断する。
【0138】
さて、このように検出条件#319,#326,#329を採用すれば、目視によって求められる傾斜変動時間を、第1実施の形態や第2実施の形態で示したように作業が自動化される第1測定時間で代替することができそうである。そこで、次に、検出条件#319,#326,#329の第1測定時間と、条件#101の測定時間とについて比較した。表7は測定時間の平均値のt検定(有意水準1%)の結果を示し、表8は測定時間のCV値(Coefficient of Variation)の平均値のt検定(有意水準5%)の結果を示す。これらの結果も表4、表5、表6と同様に、一標本t検定による有意差検定を行った。
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
表7から、検出条件#319,#326,#329の第1測定時間の平均値と、条件#101の測定時間の平均値とは有意差がある。従って検出条件#319,#326,#329の第1測定時間は、目視による傾斜変動時間と同様に、従来の酸素電流がしきい値Ithに至る測定時間に対して、時間を短縮する効果があることが判る。
【0142】
また表8から、検出条件#319,#329と、条件#101とは、CV値に有意差がない、との帰無仮説を棄却できない。このことから、第1測定時間のばらつきが、従来の測定時間のばらつきと同程度であると判断した。また検出条件#326についてはばらつきの点からは効果的ではないと判断した。
【0143】
そこで、次に、これら4つの検出条件に基づいて、全部の検体358個について、菌の陽性/陰性を判断した。その結果を、寒天培地を用いた手法(以下「寒天手法」と称す)増菌培養によって菌の陽性/陰性を判断した結果と比較した。比較結果を表9に示す。
【0144】
【表9】
【0145】
ここで「偽陽性」とは、各検出条件によって陽性と判断されたが、寒天手法では陰性と判断された場合を指す。また、「偽陰性」とは、各検出条件によって陰性と判断されたが、寒天手法では陽性と判断された場合を指す。よっていずれも寒天手法の結果とは相違する場合である。そして表9には「偽陽性」「偽陰性」と判断された検体数を各検出条件毎に記載し、併せて寒天手法との一致率を記載した。例えば検出条件#101では、「偽陽性」「偽陰性」となった検体数がそれぞれ5個及び25個であるので、一致率は(358−5−25)/358×100=91.6(%)となる。
【0146】
表9の結果からは、従来技術である検出条件#101と比較して、若干、寒天手法との一致率が低い。そこで、検出条件#326,#329の基本的な検出手法(ステップSBとして図4のフローチャートを採用)を踏襲しつつ、更に寒天手法との一致率を高める工夫を行った。具体的にはステップSCとして図7のフローチャートではなく、図6のフローチャートを使用した。ここで係数qとして0.8を採用している。また所定値E1として0.6(nA/mm2/min2)を採用した。所定値Z1,Z2はそれぞれ5,10とした。この検出条件を#331とする。また不感時間は200分とした。また酸素電流の傾斜は最小二乗法で求めており、ステップS107(図3参照)の傾斜Knewに対応する。
【0147】
更に、検出条件#331に加えて、実施の形態3で説明した第2の閾値Idをも採用して検出条件#332を設定した。即ち、検出条件#332では図6、図13、図14、図16(但しステップS111a,S114aを採用)に示されたフローチャートが採用される。ここでは第2の閾値Idを60nA/mm2とし、検出条件#332で得られる測定時間は第1測定時間及び(実施の形態3に言う)第2測定時間の両方を指す。
【0148】
検出条件#331,#332と、条件#101について比較した。表10は測定時間の平均値のt検定(有意水準1%)の結果を示し、表11は測定時間のCV値の平均値のt検定(有意水準5%)の結果を示す。これらの結果も表7、表8と同様に、一標本t検定による有意差検定を行った。
【0149】
【表10】
【0150】
【表11】
【0151】
表10から、検出条件#331,#332の測定時間の平均値と、条件#101の測定時間の平均値とは有意差がある。従って検出条件#331,#332の測定時間は、検出条件#319,#326,#329の測定時間と同様に、従来の酸素電流がしきい値Ithに至る測定時間に対して、時間を短縮する効果があることが判る。
【0152】
また表11から、検出条件#331,#332と、条件#101とは、CV値に有意差があることが判る。つまり検出条件#331,#332を採用すれば、従来の測定時間のばらつきよりも、測定時間のばらつきを改善できることが判る。
【0153】
そこで、次に、これら2つの検出条件に基づいて、全部の検体358個について、菌の陽性/陰性を判断した。その結果を寒天手法によって菌の陽性/陰性を判断した結果と比較した。比較結果を表12に示す。
【0154】
【表12】
【0155】
表9との比較から判るように、寒天手法との一致率は、第2測定時間を導入しない検出条件#331ですら改善されており88.3%となっている。更に第2測定時間を導入した検出条件#332では、寒天手法との一致率は91.6%となり、従来の技術による一致率と等しい。しかも偽陰性数は従来の条件#101と比較して小さく、安全上は好ましい傾向にある。
【0156】
以上のことから、ステップSBとしては図5で示されたものよりも図4で示されたフローチャートを採用することが望ましく、ステップSAにおいてはステップS111b,S114bを用いる場合(図7参照)よりもステップS111a,S114a(図6参照)を用いる場合の方が望ましく、更には不感時間を設ける場合(図13参照)が望ましいことが判る。更に、実施の形態3で示されたような第2測定時間をも導入すること(図16参照)が、より望ましいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】測定時間と酸素電流との関係を、初期菌数をパラメタとして例示するグラフである。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートである。
【図3】ステップSAの詳細を例示するフローチャートである。
【図4】ステップSBの詳細を例示するフローチャートである。
【図5】ステップSBの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。
【図6】ステップSCの詳細を例示するフローチャートである。
【図7】ステップSCの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。
【図8】酸素電流の測定から第1測定時間を求める処理の概要を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施の形態におけるステップSAのフローチャートである。
【図10】酸素電流の値が急速に低下する第1の態様を示すグラフである。
【図11】酸素電流の値が急速に低下する第2の態様を示すグラフである。
【図12】酸素電流の値が急速に低下する第3の態様を示すグラフである。
【図13】本発明の第3の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第3の実施の形態におけるステップSAの詳細を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第3の実施の形態におけるステップSAの詳細を例示するフローチャートである。
【図16】本発明の第3の実施の形態におけるステップSCの詳細を例示するフローチャートである。
【図17】本発明の第4の実施の形態におけるステップSCの詳細を例示するフローチャートである。
【図18】本発明を適用可能な微生物数算出装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0158】
I1〜IZ+1,Inew 酸素電流のデータ
Id 第2の閾値
IP 第1の閾値
Knew 酸素電流の傾斜
q 係数
ts 第1測定時間
tt 第2測定時間
Z1,Z2 所定値
【技術分野】
【0001】
この発明は微生物の個体数を算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の個体数を算出する方法が種々提案されている。例えば公定法として採用されている方法には、培地において細菌を増菌培養し、所定時間経過後にコロニーを計数して初期菌数を求める手法がある。
【0003】
しかし、コロニーが目視できる程度にまで増菌培養を行うには二十時間近く要してしまう。そこで、微生物が培養される培地での溶存酸素濃度を測定する手法が提案されている。例えば酸素電極に流れる電流(以下「酸素電流」と称する)を測定することによって培地での溶存酸素濃度が測定される。かかる手法は例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−235599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で示される手法では、酸素電流が所定のしきい値に到達するまでの時間を計測する。本発明は酸素電流に基づく微生物の個体数を、より早期に評価できる手法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる微生物の測定方法の第1の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める方法であり、下記工程(a)〜(c)を備える。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b);である。
【0007】
この発明にかかる微生物の測定方法の第2の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される。
【0008】
この発明にかかる微生物の測定方法の第3の態様は、微生物数の測定方法の第2の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される。
【0009】
微生物の測定方法の第3の態様において望ましくは、前記係数(q)は0.8に設定される。
【0010】
この発明にかかる微生物の測定方法の第4の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める方法であって、下記工程(a)〜(c)を備える。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記測定期間に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC);である。
【0011】
この発明にかかる微生物の測定方法の第5の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第4の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0012】
この発明にかかる微生物の測定方法の第6の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第5の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0013】
微生物の測定方法の第6の態様において望ましくは、前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、前記所定回数(Z2)は10回であり、前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである。
【0014】
この発明にかかる微生物の測定方法の第7の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第6の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される。
【0015】
この発明にかかる微生物の測定方法の第8の態様は、微生物数の測定方法の第7の態様であって、前記不感時間は200分に設定される。
【0016】
この発明にかかる微生物の測定方法の第9の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第8の態様のいずれかであって、(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程を更に備える。
【0017】
この発明にかかる微生物の測定方法の第10の態様は、微生物数の測定方法の第9の態様であって、前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である。
【0018】
この発明にかかる微生物の測定方法の第11の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第10の態様のいずれかであって、検量線に基づき、前記微生物についての前記初期個数が未知である前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する。当該検量線は、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び培地について求められている。当該検量線で前記第1測定時間の測定対象となった前記培地は、未知であった前記初期個数を算出する際の前記培地と同一種である。但し、当該方法の第11の態様において、前記検量線に基づいて前記微生物の未知の前記初期菌数が算出されるものの、当該検量線を作成することまでは要求されない。
【0019】
この発明にかかる微生物の測定方法の第12の態様は、微生物数の測定方法の第1の態様乃至第11の態様のいずれかであって、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める。
【0020】
この発明にかかる微生物の測定装置の第1の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定(S101,S112)する酸素電流測定部(201)と、前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める評価部(202)とを備える。そして前記評価部は、下記工程(a)〜(c)を実行する。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b);である。
【0021】
この発明にかかる微生物の測定装置の第2の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される。
【0022】
この発明にかかる微生物の測定装置の第3の態様は、微生物数の測定装置の第2の態様であって、前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される。
【0023】
微生物の測定装置の第3の態様において望ましくは、前記係数(q)は0.8に設定される。
【0024】
この発明にかかる微生物の測定装置の第4の態様は、初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定する酸素電流測定部(201)と、前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める評価部(202)とを備える。そして前記評価部は、下記工程(a)〜(c)を実行する。即ち(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA);(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB);(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC);である。
【0025】
この発明にかかる微生物の測定装置の第5の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第4の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0026】
この発明にかかる微生物の測定装置の第6の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第5の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する。
【0027】
微生物の測定装置の第6の態様において望ましくは、前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、前記所定回数(Z2)は10回であり、前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである。
【0028】
この発明にかかる微生物の測定装置の第7の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第6の態様のいずれかであって、前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される。
【0029】
この発明にかかる微生物の測定装置の第8の態様は、微生物数の測定装置の第7の態様であって、前記不感時間は200分に設定される。
【0030】
この発明にかかる微生物の測定装置の第9の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第8の態様のいずれかであって、前記評価部(201)は、(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程を更に実行する。
【0031】
この発明にかかる微生物の測定装置の第10の態様は、微生物数の測定装置の第9の態様であって、前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である。
【0032】
この発明にかかる微生物の測定装置の第11の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第10の態様のいずれかであって、検量線に基づき、前記微生物についての前記初期個数が未知である前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する。当該検量線は、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び培地について求められている。当該検量線で前記第1測定時間の測定対象となった前記培地は、未知であった前記初期個数を算出する際の前記培地と同一種である。但し、当該装置の第11の態様において、前記検量線に基づいて前記微生物の未知の前記初期菌数が算出されるものの、当該検量線を作成することまでは要求されない。
【0033】
この発明にかかる微生物の測定装置の第12の態様は、微生物数の測定装置の第1の態様乃至第11の態様のいずれかであって、前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める。
【発明の効果】
【0034】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第1の態様も、培地を酸素量に応じて流れる電流を測定して微生物の初期個数を求める手法において、当該手法に必要な時間を短縮する。
【0035】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第2の態様も、工程(c)における第1の閾値を設定する。
【0036】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第3の態様も、それぞれの第2の態様で設定された第1の閾値を用いて第1測定時間を得る際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0037】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第4の態様も、培地を酸素量に応じて流れる電流を測定して微生物の初期個数を求める手法において、当該手法に必要な時間を短縮する。
【0038】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第5の態様も、工程(b)における時間差分値の安定を判定する。
【0039】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第6の態様も、それぞれの第5の態様で時間差分値の安定を判断する際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0040】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第7の態様も、測定の当初における電流の乱れが工程(b)の判定に与える影響を除く。
【0041】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第8の態様も、それぞれの第7の態様で採用された不感時間を用いて第1測定時間を得る際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0042】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第9の態様も、工程(c)の判定ができない程に、初期個数が多い場合でも、第2測定時間を用いて当該初期個数を求めることができる。
【0043】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第10の態様も、それぞれの第9の態様で採用された第2測定時間を得る際に、従来の方法による結果との一致率を高める。
【0044】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第11の態様も、培地を酸素量に応じて流れる電流を測定して微生物の初期個数を求める手法において、当該手法に必要な時間を短縮する。
【0045】
この発明にかかる微生物数の測定装置及び測定方法のいずれの第12の態様も、それぞれの第11の態様で微生物数の初期個数を算出する際に用いられる検量線を作成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
発明の基本的な考え方.
本発明の実施の形態の詳細な説明に移る前に、本発明の基本的な考え方を示す。もちろん、この基本的な考え方も本発明の範疇にある。以下では微生物として細菌を例に取って説明するが、他の微生物に対しても同様に扱える。また酸素電流の値及びこれに関する閾値は酸素電極の面積で正規化して示すので、正確には電流密度として扱うべきであるが、以下では簡単のため、電流として説明する。
【0047】
図1は測定時間と酸素電流との関係を、初期菌数をパラメタとして例示するグラフである。測定時間中は増菌培養されるので、溶存酸素量が低下し、これに伴って酸素電流も低下する。グラフL0は初期菌数が0の場合を、グラフL1,L2,L3,L4,L5はそれぞれ初期菌数が101,102,103,104,105(CFU/ml)である場合を例示している。
【0048】
従来は、酸素電流について低い値にしきい値Ithを設定していた。そしてグラフL1,L2,L3,L4,L5がしきい値Ithに至る測定時間(それぞれ測定時間t10,t20,t30,t40,t50)を求めていた。そして測定時間t10,t20,t30,t40,t50と、既知の初期菌数101,102,103,104,105(CFU/ml)とから検量線が求められる。よって初期菌数が未知であっても、しきい値Ithに至る測定時間と当該検量線とから初期菌数を算出することができる。
【0049】
しかしながら、グラフL1,L2,L3,L4,L5に見られるように、酸素電流は測定時間の経過と共に減少するものの、その当初は減少の傾きが小さく、ある時間が経過してから減少の傾きが大きくなり、更にその後減少の傾きが増大する。よってこの、時間に対する酸素電流のグラフの傾斜(換言すれば、単位時間当たりの酸素電流の差分:以下、単に「酸素電流の傾斜」と称す)が変動する時点での測定時間(以下「傾斜変動時間」と称す:グラフL1,L2,L3,L4,L5に即して言えば減少の傾きが小から大へと移行する測定時間t11,t21,t31,t41,t51や、減少の傾きが大から小へと移行する測定時間t12,t22,t32,t42,t52)を求め、これと既知の初期菌数とから検量線を作成することができる。
【0050】
そして、当該検量線と、初期菌数が未知の場合の傾斜変動時間とから、初期菌数を算出することができる。しかも傾斜変動時間t11,t12は測定時間t10よりも短く、傾斜変動時間t21,t22は測定時間t20よりも短く、傾斜変動時間t31,t32は測定時間t30よりも短く、傾斜変動時間t41,t42は測定時間t40よりも短く、傾斜変動時間t51,t52は測定時間t50よりも短い。よって酸素電流の傾斜変動時間を求めれば、初期菌数の算出を早期に行うことができる。これが本発明の基本的な考え方である。
【0051】
しかし、酸素電流の傾斜の変動を目視で行うことは、作業の自動化を妨げる。また、傾斜変動時間が経過する前のみならず、経過した後のグラフについても測定しなければ、目視で傾斜変動時間を確認することができない。これでは測定時間を短縮することは容易ではない。
【0052】
そこで、以下に述べる第1乃至第3の実施の形態では、酸素電流の傾斜の変動を厳密に見ることに代わる便法を採用している。即ち、傾斜変動時間t11,t21,t31,t41,t51の後に酸素電流の傾斜が安定したら、それ迄に得られたグラフに基づいて第1の閾値を決定する。そして第1の閾値を1回以上超えて酸素電流が低下した測定時間(以下「第1測定時間」と称する)と、既知の初期菌数とに基づいて検量線を作成する。
【0053】
また、第4の実施の形態では、酸素電流の傾斜が安定したら、その傾斜の絶対値が小さくなる、いわばグラフの屈曲点を与える(第1乃至第3の実施の形態とは別の)第1測定時間(傾斜変動時間t12,t22,t32,t42,t52に相当する)と、既知の初期菌数とに基づいて検量線を作成する。
【0054】
検量線が作成された後は、当該検量線と、第1測定時間とから、未知の初期菌数を算出することができる。
【0055】
第1の実施の形態.
図2は本発明の第1の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートである。ステップS100ではフローチャートに沿った処理において使用するカウンタS,F2や、酸素電流の傾斜Koldを初期値に設定(リセット)する。ステップS101では酸素電流Inewの測定を行う。ステップSAでは酸素電流の傾斜を求める。ステップSBでは当該傾斜が安定したと判断してよいか否かを判定する。ステップSCでは第1測定時間を決定する。
【0056】
ステップSBにおいて傾斜の安定について判断するためには、順次に酸素電流Inewの測定を行い、安定したと判断されるまで酸素電流の傾斜を更新して求める。よってステップSBは二つの行き先が指定されている。傾斜が安定したと判断された場合にステップSBからステップSCへと処理が進み、そうでないと判断された場合には更に酸素電流Inewの測定を行うべくステップS101へと戻る。
【0057】
図3はステップSAの詳細を例示するフローチャートである。まずステップS104においてカウンタSが1加算される。最初にステップS104が実行されるまでは、ステップS100によってカウンタSには値0が設定されている。よって最初にステップS104が実行されることにより、カウンタSの値は1となる。
【0058】
次にステップS105において酸素電流のデータソーティングが行われる。具体的にはデータI2〜IZ+1の値がデータI1〜IZへと代入され、その後にデータIZ+1へとステップS101で測定された直近の酸素電流Inewが代入される。
【0059】
次にステップS106においてカウンタSが値Zよりも大きいか否かが判定される。ステップS106の判定が否定的であれば、ステップS101へと戻って次の酸素電流Inewが測定される。このようにしてステップS106の判定が肯定的となるまでステップS101〜S105が繰り返し実行されることにより、データI1〜IZにはこの順で時系列に並ぶ酸素電流のZ個の値が設定されることになる。このようにカウンタSが値Z以下である場合には、例外的にステップSAからステップS101へと処理が戻る。かかる分岐は図2において破線で示されている。
【0060】
カウンタSが値Zよりも大きくなれば、ステップS107へと処理が進む。ステップS107ではデータI1〜IZ+1についての回帰直線の傾斜Knewを求める。例えばステップS101での酸素電流Inewの測定を一定の間隔Tで行えば、ステップS101が実行された測定時間は、ステップS107の実行には特に必要はない。傾斜Knewは例えば最小二乗法を用いて求めることができる。
【0061】
ステップS107に代替可能でより簡易なステップとして、データの差(IZ+1−I1)を求め、これをZ・Tで除して傾斜を得ることもできる。いずれにせよ、ステップS107ではデータI1〜IZ+1が得られる期間(例えばZ・T)を測定期間とし、当該測定期間の酸素電流の測定値から、単位時間当たりの酸素電流の差分である時間差分値として、傾斜Knewが求められる。
【0062】
ステップS107の実行後、処理はステップSBへと進む。図4はステップSBの詳細を例示するフローチャートである。まずステップS108aにおいて、酸素電流の傾斜の変動が、所定の許容範囲内に収まるかが求められる。具体的にはステップS107で求められた傾斜Knewと傾斜Koldとの差の絶対値を、前回の酸素電流の測定時間から、今回の酸素電流の測定時間までの時間間隔Δtで除した値が、所定値E1よりも小さいか否かが判定される。そして上記判定が肯定的であればカウンタF1が1増加し、否定的であればカウンタF1は値0となる。例えば時間間隔Δtには上述の一定の間隔Tが採用される。
【0063】
最初にステップS108aが実行されるまでは、ステップS100によって傾斜Koldには値ZKが設定されている。そして値ZKは通常の測定で得られる傾斜Knewよりも所定値E1と時間間隔Δtとの積を越えて大きな値が採用される。よって最初にステップS108aが実行されることにより、必ずカウンタF1の値は0となる。
【0064】
その後、ステップS109においてカウンタF1が所定値Z1に至ったか否かが判定される。まず最初にステップS109が実行された場合、上述のようにカウンタF1の値は0であるので、当該判定は否定的結果となり、ステップS110へと処理が進む。ステップS110では、現状で得られている傾斜Knewを傾斜Koldとして採用する。そしてステップS101へと処理が戻り、再びステップSAによって新たに傾斜Knewが求められる。よって上述の間隔Tは、ステップSA,SBの両方の処理時間の和よりも長いことが望ましい。
【0065】
以上のことから、ステップS108aでは、順次に測定される直近の酸素電流Inewによって更新される傾斜Knewが、その直前に求められた傾斜Koldと比較されることになる。またステップS108a,S109の処理に鑑みれば、順次に更新される酸素電流の傾斜の変動が、連続してZ1回、所定値E1の範囲内に収まることでステップSCへと処理が進むことになる。
【0066】
図5はステップSBの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。この例では、図4に示されたフローチャートと比較して、ステップS108aをステップS108bと置換し、ステップS110を削除したフローチャートが採用される。
【0067】
ステップS108bでは、傾斜Knewの絶対値が所定値E2よりも小さいか否かが判定される。そして上記判定が肯定的であればカウンタF1が1増加し、否定的であればカウンタF1は値0となる。
【0068】
図6はステップSCの詳細を例示するフローチャートである。ステップSCではまずステップS111aにおいて第1の閾値IPを設定する。具体的にはステップSBからステップSCへ進む際のデータIZ+1のq倍(0<q<1)の値を第1の閾値IPとして採用する。そしてステップS112において再度、酸素電流を測定して酸素電流Inewを得る。
【0069】
ステップS112はステップS101と同様にして実行することが簡易であり、これらを併せて、間隔Tで酸素電流を測定することが望ましい。この場合、間隔TはステップSA,SBの両方の処理時間の和に更にステップS111aの処理時間を加算した時間よりも長いことが望ましい。このような望ましい態様では、ステップS111aにおいて第1の閾値IPとして、直近の酸素電流Inewに係数qを乗じた値を採用できる。
【0070】
しかし一般に第1の閾値IPは、傾斜を測定するための直近の測定期間における酸素電流に基づく値に依存して決定すればよい。直近に計算された傾斜によって、傾斜が安定したと判断されるからである。例えば第1の閾値IPは、直近の測定期間における酸素電流の平均値に基づいて設定することができる。例えば当該平均値に係数qを乗じた値を採用できる。
【0071】
ステップS112で測定された酸素電流Inewは、ステップS114aにおいて第1の閾値IPよりも小さいか否かが判定される。この判定の結果が肯定的であればカウンタF2の値が1増加する。カウンタF2にはステップS100において初期値0が設定されているので、最初にステップS114aが実行される前にはカウンタF2の値は0である。
【0072】
その後ステップS115へと処理が進み、カウンタF2の値が所定値Z2(>1)に至ったか否かが判定される。まず最初にステップS114aが実行された場合、カウンタF1の値は0または1であるので、当該判定は否定的結果となり、ステップS112へと処理が戻り、再び酸素電流Inewが求められる。よって間隔Tは、ステップS114a,S115の両方の処理時間の和よりも長いことが望ましい。
【0073】
ステップS114aでは、ステップS108a,S108bとは異なり、判定結果が否定的な場合にカウンタF2をリセットすることはない。よってステップS112によって順次に更新される酸素電流Inewが、連続しても、連続していなくても、Z2回、第1の閾値IPよりも小さければステップS116へと進む。ステップS116では、例えば最後に実行されたステップS112の測定時間を第1測定時間として設定する。
【0074】
図7はステップSCの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。ここではステップS111a,S114aがそれぞれステップS111b,S114bに置換されている。ステップS111bではステップSBからステップSCへ進む際のデータIZ+1から電流低下閾値Δを差し引いた値を第1の閾値IPとして採用する。上述のように、一般に、第1の閾値IPは直近の測定期間に測定された酸素電流に基づいた値に依存して決定されるので、当該直近の測定期間に測定された酸素電流の平均値から電流低下閾値Δを差し引いた値を第1の閾値IPとして採用してもよい。
【0075】
また、ステップS114bではステップS108a,S108bのカウンタF1と同様に、条件Inew<IPを満足しなければカウンタF2は0にリセットされる。つまり当該条件が連続してZ2回満足された初めてステップS116へと至る。
【0076】
このようにして第1測定時間が得られるので、まず検量線を作成する場合には、初期菌数が既知の場合について上述のように第1測定時間を測定する。そして検量線が得られた後は、初期菌数が未知の場合であっても、第1測定時間を測定することにより、検量線に基づいて初期菌数を算出することができる。
【0077】
例えば値Z,Z1,Z2としてそれぞれ値30,5,10を採用することができる。また間隔T,Δtとしてそれぞれ1(分),1(分)を採用し、係数qとして0.8を、電流低下閾値Δとして30nA/mm2を、それぞれ採用することができる。また値ZKとして103(nA/mm2/min)を採用し、所定値E1,E2としてそれぞれ0.6(nA/mm2/min2)、1.2(nA/mm2/min2)を採用することができる。このような具体的な値を採用した場合、上記のフローチャートは以下のように説明できる。
【0078】
まず酸素電流は1分毎に測定される。そして連続した30分間の酸素電流のデータについて、回帰直線の傾斜を求める。この傾斜は酸素電流を測定するたびに更新され、その安定性が判断される。
【0079】
例えば安定性の一つの判断手法(図4参照)として、この傾斜が更新されて、その変動の絶対値が0.6(nA/mm2/min2)を越える場合には傾斜が安定しているとは判断されない。傾斜の変動の絶対値が連続して5回、0.6(nA/mm2/min2)に収まって初めて傾斜が安定していると判断される。
【0080】
他の安定性の判断手法(図5参照)として、この傾斜の絶対値が1.2(nA/mm2/min)を越える場合には傾斜が安定しているとは判断されない。傾斜の絶対値が連続して5回、1.2(nA/mm2/min)に収まって初めて傾斜が安定していると判断される。
【0081】
そして傾斜が安定していると判断された場合の直近の酸素電流に基づいて第1の閾値が設定される。
【0082】
例えば第1の閾値の一つの設定方法として(図6参照)、当該直近の酸素電流に0.8を乗じた値が第1の閾値として設定される。あるいは他の設定方法として(図7参照)、当該直近の酸素電流から30nA/mm2を引いた値が第1の閾値として設定される。
【0083】
その後、第1の閾値を10回下回れば、傾斜変動時間が経過したと見なして第1測定時間を得る。
【0084】
図8は酸素電流の測定から第1測定時間を求める処理の概要を示すグラフであり、横軸に測定時間を、縦軸に酸素電流を、それぞれ採用している。酸素電流の測定値は白丸で示しており、最後にステップSAが実行された際のデータIZ+1の値を横線で示している。またグラフでの理解をし易くするために、最後にステップSAが実行された際のデータI1〜IZ+1についての回帰直線Lを図示している。もちろん、ステップSA,SBで必要なのは回帰直線L自体ではなく、その傾斜Knewである。
【0085】
第1の閾値IPも横線で示されている。ここでは例えばZ2の値として10が設定されており、酸素電流の測定値が第1の閾値IPを10回下回った際の測定時間を第1測定時間tsとしている。
【0086】
第2の実施の形態.
図8に示されるように、測定時間の当初において傾斜が安定するまでに大きな変動が生じることがある。これはステップSBでの処理を不要に繰り返すのみならず、安定した傾斜として誤検出される可能性もある。従って、測定時間の当初において、ステップSA以降を実行させない不感時間t0を設けることが望ましい。
【0087】
図9はかかる不感時間の設定を考慮したステップSAのフローチャートであり、図3に示されたフローチャートに対して、ステップS104の前にステップS103を追加している。ステップS103では不感時間が経過したか否かが判定される。不感時間が経過していなければステップS101に戻り、経過していればステップS104へと進む。
【0088】
これにより、測定時間の当初における酸素電流の波形の乱れの影響を除去し、酸素電流のデータについての回帰直線の傾斜の、ひいては第1測定時間の誤判定を回避することができる。
【0089】
第3の実施の形態.
酸素電流の測定結果によっては、酸素電流の値が急速に低下する場合がある。図10乃至図12はその種々の態様を示すグラフである。
【0090】
図10に示された第1の態様では、酸素電流の傾斜が安定した後、第1の閾値IPをZ2回下回る前に、測定不能となるまで低下している。図11に示された第2の態様では、酸素電流の傾斜が安定することなく、測定不能となるまで低下している。図12に示された第3の態様では、不感時間において既に測定不能となるまで低下している。そこで、これらの場合についても検量線の作成や、未知の初期菌数の算出を可能とするため、酸素電流の値が第2の閾値Idを越えて低下した場合には、その時点を第2測定時間ttとする。この第2測定時間についても第1測定時間と同様に扱って、検量線の作成や、未知の初期菌数の算出を行う。
【0091】
図13は本発明の第3の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートであり、図2に対応している。また図14及び図15は本発明の第3の実施の形態におけるステップSAの詳細を示すフローチャートであり、それぞれ第1の実施の形態で示された図3と、第2の実施の形態で示された図9とに対応している。
【0092】
図13乃至図15のいずれにおいても、酸素電流Inewが測定された直後に、これが第2の閾値Idよりも大きいか否かが判定されている。具体的にはステップS101の直後にステップS102が設けられている。第2の閾値Idとしては例えば60nA/mm2が採用される。
【0093】
ステップS102の判定が肯定的であれば、第1の実施の形態で示されたようにステップS104が(図3、図14参照)、あるいは第2の実施の形態で示されたようにステップS103が(図9、図15参照)、それぞれ実行される。しかしステップS102の判定結果が否定的であれば、ステップS117へと処理が進み、そのような酸素電流が測定された時点が第2測定時間として採用される。
【0094】
図16は本発明の第3の実施の形態におけるステップSCの詳細を示すフローチャートであり、第1の実施の形態で示された図6あるいは図7と対応している。このフローチャートにおいても、酸素電流Inewが測定された直後に、これが第2の閾値Idよりも大きいか否かが判定されている。具体的にはステップS112の直後にステップS113が設けられている。図中、ステップS112は、ステップS112a(図6)とステップS112b(図7)とを統合して示しており、両者のいずれかが採用される。
【0095】
ステップS113の判定が肯定的であれば、第1の実施の形態で示されたようにステップS114aが(図6参照)、あるいはステップS114bが(図7参照)、それぞれ実行される(図中、ステップS112は、ステップS112a(図6)とステップS112b(図7)とを統合して示しており、両者のいずれかが採用される)。しかしステップS113の判定結果が否定的であれば、ステップS117へと処理が進み、そのような酸素電流が測定された時点が第2測定時間として採用される。
【0096】
本実施の形態ではステップSCからステップS117へと分岐することがあるので、図13においてはかかる分岐を破線で示している。
【0097】
図10に示された第1の態様では、ステップS115の判定で肯定的な結果が得られることなく(図16参照)、ステップSCからステップS117へと分岐して第2測定時間ttが求められる。図11に示された第2の態様では、ステップS106の判定で肯定的な結果が得られず(図14、図15参照)、ステップSAからステップSBに処理が進むことなく、ステップS102からステップS117へと処理が進み、図13のステップSAからの破線で示される分岐に沿って処理が進む。図12に示された第3の態様では、図15のステップS103の判定で肯定的な結果が得られず、ステップS104にすら処理が進むことなくステップS102からステップS117へと処理が進む。
【0098】
第4の実施の形態.
本実施の形態では、「発明の基本的な考え方.」で説明した、減少の傾きが大から小へと移行する第1測定時間(第1乃至第3の実施の形態に言う「第1測定時間」とは異なる)t12,t22,t32,t42,t52を求める。第4実施の形態で求める第1測定時間も、第1乃至第3実施の形態に言う第1測定時間や第2測定時間と同様に、検量線の作成や、未知の初期菌数の算出に供する。
【0099】
もちろん、本実施の形態においても、第2の実施の形態で示された不感時間を導入してもよいし、第3の実施の形態で示された第2測定時間を導入してもよい。第1乃至第3の実施の形態に言う第1測定時間と区別するため、本実施の形態では第1測定時間を示す符号として“tu”を用いる。
【0100】
図17は本実施の形態において用いられるステップSCの詳細を示すフローチャートである。まずステップSBによって傾斜が安定したと判断された後、直近の傾斜Knewを一旦、傾斜Koldとして採用する。そしてステップS302において、新たに酸素電流Inewを測定する。そしてステップS303においてカウンタF2の値が1増加する。カウンタF2にはステップS100において初期値0が設定されているので、カウンタF2の値はステップS302が実行された回数を示している。
【0101】
そしてステップS105と同様にしてステップS304において酸素電流のデータソートを行い、ステップS106と同様にしてステップS305においてステップS302の実行回数が所望の回数(Y+1)だけ繰り返されたかが判定される。
【0102】
これらの動作は図3を用いて説明した動作と同様である。つまりステップS305の判定の結果が肯定的な場合、データI1〜IYにはこの順で時系列に並ぶ酸素電流のY個の値が設定されることになる。そしてステップS306ではステップS107と同様にデータI1〜IY+1についての新たな回帰直線の傾斜Knewを、単位時間当たりの酸素電流の差分として求める。
【0103】
なお、ステップSAのステップS105において既にそれまでに酸素電流I1〜IZ+1が求められているので、ステップS304でのデータソートでは、ステップS105の結果を利用することもできる。
【0104】
そしてステップS307においてはステップS301で設定された傾斜Koldと、ステップS306で求められた新たな傾斜Knewの大きさが比較される。傾斜Kold,Knewはいずれも酸素電流が減少する傾斜であり、負の値であるので、傾斜Koldよりも傾斜Knewが所定の閾値E3を超えた増分で大きくなった時点を第1測定時間tu(図1に即して言えば時刻t22,t32,t42,t52)として採用することができる。
【0105】
ステップS307では判定の便宜上、傾斜Koldの絶対値が傾斜Knewの絶対値よりも閾値E3を超えた増分で大きいか否かが判定される場合が例示されている。しかしこの判定において、絶対値を採用する必要がないことは明白である。
【0106】
ステップS307における判定の結果が肯定的であればステップS307へと進み、例えば最後に実行されたステップS302の測定時間を第1測定時間tuとして設定する。
【0107】
上記判定の結果が否定的であれば、ステップS308においてカウンタF2の値をリセット(値0を採用)してから、ステップS302へと戻り、新たに傾斜を求める。
【0108】
ステップS308の戻り先として、ステップS302を設定している。つまり酸素電流の傾斜が緩くなったか否かを判定するのに、ステップSBにおいて安定したと判断された際の酸素電流の傾斜を基準として採用している。
【0109】
ステップS308の戻り先として、ステップS301を設定し、酸素電流の傾斜の変化に基づいて第1測定時間tuを求めることも考えられる。しかし酸素電流の傾斜は緩やかに変化するので、ステップSBにおいて安定したと判断された際の酸素電流の傾斜を基準とした場合と比較すると第1測定時間tuが長くなり、しきい値Ithに至る測定時間(図1参照)よりも早期に測定する効果が小さい。よって早期に測定するという観点からは、ステップS308の戻り先としてはステップS301よりもステップS302を採用する方が望ましい。
【0110】
あるいは直近の傾斜Knewを得た測定期間に基づいて第1測定時間tuを決定してもよい。当該直近の測定期間において求められた傾斜によって、それ以前に求められた傾斜Koldよりも傾斜Knewが所定の閾値E3を超えた増分で大きくなったと判定されるからである。例えば第1測定時間tuは当該直近の測定期間の中央値として決定してもよい。
【0111】
以上の種々の実施の形態において得られた第1測定時間及び第2測定時間は、初期菌数が既知である場合に、検量線の作成に供される。そしてこの様にして得られた検量線に基づいて、初期菌数が未知の培地について酸素電流を計測すれば、その初期菌数を算出することができる。
【0112】
もちろん、測定の精度を高めるため、検量線を作成する際に初期菌数が既知である微生物の種類と、初期菌数が未知である微生物の種類とは同一であり、また検量線を作成する際に初期菌数が既知である微生物を含む培地の種類と、初期菌数が未知である微生物を含む培地の種類とは同一であることが望ましい。
【0113】
図18は、上述のようにして検量線を作成したり、初期菌数を算出したりする技術に適用可能な微生物数算出装置200の構成を示すブロック図である。微生物数算出装置200は、培地における酸素電流を測定する酸素電流測定部201と、酸素電流測定部201の動作を制御し、酸素電流を評価する制御・評価部202とを備えている。
【0114】
制御・評価部202は酸素電流を測定するタイミングを指示する指令Dを、酸素電流測定部201へと与える。例えば所定期間T毎に酸素電流を測定させたり、不感時間が経過してから酸素電流を測定させたり、第1測定時間ts,tuや第2測定時間ttが得られた後に酸素電流の測定を中止させる。酸素電流測定部201は主としてステップS101,S112を実行し、制御・評価部202は上述のフローチャートにおいてステップS101,S112以外のステップを実行する。
【0115】
その他:
測定時間と酸素電流との関係を、初期菌数をパラメタとして予め複数記憶し、これらの関係のうち、測定値との相違が最も小さくなるものを与えるパラメタを以て初期菌数を求めることも考えられる。
【0116】
例えば図1に示されたグラフL1,L2,L3,L4,L5を、予め電流データとしてそのまま、あるいは関数形として記憶しておく。そして図8や図10〜12に白丸で示されたような測定値と、上記の電流データとの相違を最小とする電流データを特定する。例えば測定時間ごとの測定値と電流データとの差の平方について、測定時間内の少なくとも一部で総和を採った結果を上記相違として採用する。そして上記相違を最小とする電流データと対応した初期菌数を、当該測定値から得られた初期菌数として選定する。
【0117】
但し、この手法は検体によってグラフが大きく歪む場合があるので、上記実施の形態に示された手法によって初期菌数を求める方が、確度は高い。
【実施例】
【0118】
以下、対照されるべき技術と共に、本件発明の実施例について説明する。表1は対照されるべき技術を説明する表である。
【0119】
【表1】
【0120】
検出条件#201〜#206はいずれも酸素電流を1分毎に測定し、ある時点での酸素電流が30分(時間間隔)前の酸素電流に対して設定電流の値を5回連続で下回った時点を検出時間として採用する。この検出時間も、初期菌数に依存すると考えられる。但し、いずれの検出条件#021〜#026についても不感時間を設定している。
【0121】
例えば検出条件#201では、設定電流の値を30nA/mm2に設定するので、不感時間100分が経過した後、酸素電流の傾斜が−30(nA/mm2)/30(min)=−1.0(nA/mm2/min)よりも小さく(急激に)なることが5回連続で生じた際の測定時間が検出時間として採用される。
【0122】
表2は酸素電流の傾斜が安定したことを、酸素電流の傾斜の絶対値が所定の範囲にあることで判断する技術を説明する表である。このような判断は上述の図5で示されたステップSBに対応する。
【0123】
【表2】
【0124】
検出条件#311〜#319は酸素電流を1分毎に測定する(この間隔が上述の一定の間隔Tに相当)。10分前(あるいは30分前)(この期間はカウンタSについての値Zと上記一定の間隔Tとの積に相当)の酸素電流を現在の酸素電流から差し引いた結果を、10分間(あるいは30分間)で除して傾斜を得る。この傾斜は最小二乗法で求めてはいない点で上述の傾斜Knewとは異なる。この傾斜の絶対値が5回連続して(上述の所定値Z1に相当)、1.2(nA/mm2/min)(上述の所定値E2に相当)よりも小さくなった時点で酸素電流の傾斜が安定したと判断する。そしてこの時点での酸素電流(上述のIZ+1に相当)よりも電流低下閾値(上述の電流低下閾値Δに相当)だけ小さい値の酸素電流が5回(上述の所定値Z2に相当)連続して観測された時点を第1測定時間として採用する。このような判断は図7に示されたステップSCに対応する。このようにして設定された第1測定時間も、初期菌数に依存すると考えられる。但し、いずれの検出条件#311〜#319についても不感時間を設定している。
【0125】
例えば検出条件#311では、不感時間100分が経過した後、酸素電流の傾斜の絶対値が1.2(nA/mm2)よりも小さく(平坦に)なることが5回連続で生じた時点で、当該傾斜が安定したと判定する。そしてその安定した時点の酸素電流の値から30(nA/mm2)低下した値を第1の閾値IPとして採用し、これよりも小さい酸素電流を5回連続して観測した時点を第1測定時間として採用する。
【0126】
表3は酸素電流の傾斜が安定したことを、酸素電流の傾斜の変化の絶対値が所定の範囲にあることで判断する技術を説明する表である。このような判断は上述の図4で示されたステップSBに対応する。
【0127】
【表3】
【0128】
検出条件#321〜#329は酸素電流の傾斜を検出条件#321〜#329と同様にして求める。この傾斜の変化量の絶対値(図4のステップS108aの|Knew−Kold|/Δtに相当)が5回連続して(上述の所定値Z1に相当)、3(nA/mm2/min)よりも小さくなった時点で酸素電流の傾斜が安定したと判断する。そしてこの時点での酸素電流(上述のIZ+1に相当)よりも電流低下閾値(上述の電流低下閾値Δに相当)だけ小さい値の酸素電流が5回(上述の所定値Z2に相当)連続して観測された時点を第1測定時間として採用する。このような判断は図7に示されたステップSCに対応する。このようにして設定されたこの第1測定時間も、初期菌数に依存すると考えられる。但し、いずれの検出条件#321〜#329についても不感時間を設定している。
【0129】
例えば検出条件#321では、不感時間100分が経過した後、酸素電流の傾斜の変化量の絶対値が3(nA/mm2/min)よりも小さく(平坦に)なることが5回連続で生じた時点で、当該傾斜が安定したと判定する。そしてその安定した時点の酸素電流の値から30(nA/mm2)低下した値を第1の閾値IPとして採用し、これよりも小さい酸素電流を5回連続して観測した時点を第1測定時間として採用する。
【0130】
表4〜表6は、上述の検出時間(検出条件#201〜#206)や第1測定時間(検出条件#311〜#319,#321〜#329)を、酸素電流の傾斜の変動を目視で行って傾斜変動時間を得た場合(これを自動的に行った技術が第4の実施の形態に相当する:表ではその結果を「目安点」と表記した)と比較したものである。なお、表4の条件#101は従来の技術を用いて、しきい値Ithに至る測定時間を測定した場合である。しきい値Ithとして180nA/mm2を採用し、これを3回下回った時点を検出時間として採用している。また第3の実施の形態で説明した第2の閾値Idによる第2測定時間は採用していない。
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
各条件について、傾斜変動時間と各検出条件の測定結果(検出時間や第1測定時間)とを一対の標本として捉え、両者の時間についての一標本t検定による有意差検定を行った(有意水準1%)。従って自由度は観測数から1を減じた値となっている。各検出条件と対をなす標本としての目安点は、それぞれの検出条件の左側の欄に記載している。よって縦二重線を介して隣接する各検出条件と目安点とは比較の対象とはならない。
【0135】
但し検体(測定対象となった培地)の総数は358個である。各検出条件についての測定結果の観測数が検体の総数よりも少ないのは、各検出条件を用いて得られた測定結果(検出時間や第1測定時間)と、目安点によって求めた傾斜変動時間との、少なくともいずれか一方が非常に大きな値を示す場合があるからである。これはつまり検体がいずれかの測定方法で陰性と判断される場合である。これらの場合は傾斜変動時間と測定結果との間で数値を用いた統計的な比較ができないため、観測数から除いている。
【0136】
表4の検出条件#101及びその目安点とのt検定の結果、棄却閾確率は1%(=0.01)よりも小さい。またt値の絶対値はt境界値よりも大きい。従って傾斜変動時間の平均値と、従来の酸素電流がしきい値Ithに至る測定時間の平均値とは、有意差があることが判る。つまり「A.発明の基本的な考え方.」で述べたように、酸素電流の傾斜変動時間を求めることで、初期菌数の算出を早期に行える。
【0137】
一方、表5、表6から、検出条件#319,#326,#329で得られる第1測定時間の平均値と、それぞれと対を成す傾斜変動時間の平均値とは有意差がないという帰無仮説は棄却されない。他方、これら三個の検出条件以外では、当該帰無仮説を棄却でき、有意差がある、と結論づけられる。厳密には、帰無仮説が棄却できないことは帰無仮説が妥当であることにはならないが、一般的にはそのような結論を用いる場合も多い。そこで、表1、表2、表3で示された各種の検出条件のうち、検出条件#319,#326,#329で得られる第1測定時間の平均値のみが、目視で得られた傾斜変動時間の平均値と有意差がない、と判断する。
【0138】
さて、このように検出条件#319,#326,#329を採用すれば、目視によって求められる傾斜変動時間を、第1実施の形態や第2実施の形態で示したように作業が自動化される第1測定時間で代替することができそうである。そこで、次に、検出条件#319,#326,#329の第1測定時間と、条件#101の測定時間とについて比較した。表7は測定時間の平均値のt検定(有意水準1%)の結果を示し、表8は測定時間のCV値(Coefficient of Variation)の平均値のt検定(有意水準5%)の結果を示す。これらの結果も表4、表5、表6と同様に、一標本t検定による有意差検定を行った。
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
表7から、検出条件#319,#326,#329の第1測定時間の平均値と、条件#101の測定時間の平均値とは有意差がある。従って検出条件#319,#326,#329の第1測定時間は、目視による傾斜変動時間と同様に、従来の酸素電流がしきい値Ithに至る測定時間に対して、時間を短縮する効果があることが判る。
【0142】
また表8から、検出条件#319,#329と、条件#101とは、CV値に有意差がない、との帰無仮説を棄却できない。このことから、第1測定時間のばらつきが、従来の測定時間のばらつきと同程度であると判断した。また検出条件#326についてはばらつきの点からは効果的ではないと判断した。
【0143】
そこで、次に、これら4つの検出条件に基づいて、全部の検体358個について、菌の陽性/陰性を判断した。その結果を、寒天培地を用いた手法(以下「寒天手法」と称す)増菌培養によって菌の陽性/陰性を判断した結果と比較した。比較結果を表9に示す。
【0144】
【表9】
【0145】
ここで「偽陽性」とは、各検出条件によって陽性と判断されたが、寒天手法では陰性と判断された場合を指す。また、「偽陰性」とは、各検出条件によって陰性と判断されたが、寒天手法では陽性と判断された場合を指す。よっていずれも寒天手法の結果とは相違する場合である。そして表9には「偽陽性」「偽陰性」と判断された検体数を各検出条件毎に記載し、併せて寒天手法との一致率を記載した。例えば検出条件#101では、「偽陽性」「偽陰性」となった検体数がそれぞれ5個及び25個であるので、一致率は(358−5−25)/358×100=91.6(%)となる。
【0146】
表9の結果からは、従来技術である検出条件#101と比較して、若干、寒天手法との一致率が低い。そこで、検出条件#326,#329の基本的な検出手法(ステップSBとして図4のフローチャートを採用)を踏襲しつつ、更に寒天手法との一致率を高める工夫を行った。具体的にはステップSCとして図7のフローチャートではなく、図6のフローチャートを使用した。ここで係数qとして0.8を採用している。また所定値E1として0.6(nA/mm2/min2)を採用した。所定値Z1,Z2はそれぞれ5,10とした。この検出条件を#331とする。また不感時間は200分とした。また酸素電流の傾斜は最小二乗法で求めており、ステップS107(図3参照)の傾斜Knewに対応する。
【0147】
更に、検出条件#331に加えて、実施の形態3で説明した第2の閾値Idをも採用して検出条件#332を設定した。即ち、検出条件#332では図6、図13、図14、図16(但しステップS111a,S114aを採用)に示されたフローチャートが採用される。ここでは第2の閾値Idを60nA/mm2とし、検出条件#332で得られる測定時間は第1測定時間及び(実施の形態3に言う)第2測定時間の両方を指す。
【0148】
検出条件#331,#332と、条件#101について比較した。表10は測定時間の平均値のt検定(有意水準1%)の結果を示し、表11は測定時間のCV値の平均値のt検定(有意水準5%)の結果を示す。これらの結果も表7、表8と同様に、一標本t検定による有意差検定を行った。
【0149】
【表10】
【0150】
【表11】
【0151】
表10から、検出条件#331,#332の測定時間の平均値と、条件#101の測定時間の平均値とは有意差がある。従って検出条件#331,#332の測定時間は、検出条件#319,#326,#329の測定時間と同様に、従来の酸素電流がしきい値Ithに至る測定時間に対して、時間を短縮する効果があることが判る。
【0152】
また表11から、検出条件#331,#332と、条件#101とは、CV値に有意差があることが判る。つまり検出条件#331,#332を採用すれば、従来の測定時間のばらつきよりも、測定時間のばらつきを改善できることが判る。
【0153】
そこで、次に、これら2つの検出条件に基づいて、全部の検体358個について、菌の陽性/陰性を判断した。その結果を寒天手法によって菌の陽性/陰性を判断した結果と比較した。比較結果を表12に示す。
【0154】
【表12】
【0155】
表9との比較から判るように、寒天手法との一致率は、第2測定時間を導入しない検出条件#331ですら改善されており88.3%となっている。更に第2測定時間を導入した検出条件#332では、寒天手法との一致率は91.6%となり、従来の技術による一致率と等しい。しかも偽陰性数は従来の条件#101と比較して小さく、安全上は好ましい傾向にある。
【0156】
以上のことから、ステップSBとしては図5で示されたものよりも図4で示されたフローチャートを採用することが望ましく、ステップSAにおいてはステップS111b,S114bを用いる場合(図7参照)よりもステップS111a,S114a(図6参照)を用いる場合の方が望ましく、更には不感時間を設ける場合(図13参照)が望ましいことが判る。更に、実施の形態3で示されたような第2測定時間をも導入すること(図16参照)が、より望ましいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】測定時間と酸素電流との関係を、初期菌数をパラメタとして例示するグラフである。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートである。
【図3】ステップSAの詳細を例示するフローチャートである。
【図4】ステップSBの詳細を例示するフローチャートである。
【図5】ステップSBの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。
【図6】ステップSCの詳細を例示するフローチャートである。
【図7】ステップSCの他の例について、その詳細を例示するフローチャートである。
【図8】酸素電流の測定から第1測定時間を求める処理の概要を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施の形態におけるステップSAのフローチャートである。
【図10】酸素電流の値が急速に低下する第1の態様を示すグラフである。
【図11】酸素電流の値が急速に低下する第2の態様を示すグラフである。
【図12】酸素電流の値が急速に低下する第3の態様を示すグラフである。
【図13】本発明の第3の実施の形態にかかる微生物数測定方法の一部を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第3の実施の形態におけるステップSAの詳細を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第3の実施の形態におけるステップSAの詳細を例示するフローチャートである。
【図16】本発明の第3の実施の形態におけるステップSCの詳細を例示するフローチャートである。
【図17】本発明の第4の実施の形態におけるステップSCの詳細を例示するフローチャートである。
【図18】本発明を適用可能な微生物数算出装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0158】
I1〜IZ+1,Inew 酸素電流のデータ
Id 第2の閾値
IP 第1の閾値
Knew 酸素電流の傾斜
q 係数
ts 第1測定時間
tt 第2測定時間
Z1,Z2 所定値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める方法であって、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b)と
を備える微生物数の測定方法。
【請求項2】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される、請求項1に記載の微生物数の測定方法。
【請求項3】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される、請求項1に記載の微生物数の測定方法。
【請求項4】
前記係数(q)は0.8に設定される、請求項3記載の微生物数の測定方法。
【請求項5】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める方法であって、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記測定期間に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC)と
を備える微生物数の測定方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項8】
前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、
前記所定回数(Z2)は10回であり、
前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである、請求項7記載の微生物数の測定方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される、請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項10】
前記不感時間は200分に設定される、請求項9記載の微生物数の測定方法。
【請求項11】
(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程
を更に備える、請求項1乃至請求項10のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項12】
前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である、請求項11記載の微生物数の測定方法。
【請求項13】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び当該培地について求められた検量線に基づき、
前記微生物についての前記初期個数が未知である前記同一種の前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項14】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、
複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項15】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定(S101,S112)する酸素電流測定部(201)と、
前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める評価部(202)と
を備え、
前記評価部は、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b)と
を実行する微生物数の測定装置。
【請求項16】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される、請求項15に記載の微生物数の測定装置。
【請求項17】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される、請求項15に記載の微生物数の測定装置。
【請求項18】
前記係数(q)は0.8に設定される、請求項17記載の微生物数の測定装置。
【請求項19】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定する酸素電流測定部(201)と、
前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める評価部(202)と
を備え、
前記評価部は、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記測定期間に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC)と
を実行する微生物数の測定装置。
【請求項20】
前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項15乃至請求項19のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項21】
前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項15乃至請求項19のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項22】
前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、
前記所定回数(Z2)は10回であり、
前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである、請求項21記載の微生物数の測定装置。
【請求項23】
前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される、請求項15乃至請求項19のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項24】
前記不感時間は200分に設定される、請求項23記載の微生物数の測定装置。
【請求項25】
前記評価部(201)は、
(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程
を更に実行する、請求項15乃至24のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項26】
前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である、請求項25記載の微生物数の測定装置。
【請求項27】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び当該培地について求められた検量線に基づき、
前記微生物についての前記初期個数が未知である前記同一種の前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する、請求項15乃至請求項26のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項28】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、
複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める、請求項15乃至請求項26のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項1】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める方法であって、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b)と
を備える微生物数の測定方法。
【請求項2】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される、請求項1に記載の微生物数の測定方法。
【請求項3】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される、請求項1に記載の微生物数の測定方法。
【請求項4】
前記係数(q)は0.8に設定される、請求項3記載の微生物数の測定方法。
【請求項5】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定し(S101,S112)、前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める方法であって、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記測定期間に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC)と
を備える微生物数の測定方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項8】
前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、
前記所定回数(Z2)は10回であり、
前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである、請求項7記載の微生物数の測定方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される、請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項10】
前記不感時間は200分に設定される、請求項9記載の微生物数の測定方法。
【請求項11】
(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程
を更に備える、請求項1乃至請求項10のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項12】
前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である、請求項11記載の微生物数の測定方法。
【請求項13】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び当該培地について求められた検量線に基づき、
前記微生物についての前記初期個数が未知である前記同一種の前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項14】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、
複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載の微生物数の測定方法。
【請求項15】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定(S101,S112)する酸素電流測定部(201)と、
前記酸素電流が第1の閾値(IP)を所定回数(Z2)越えて低下するまでに要した時間である第1測定時間(ts)を求める評価部(202)と
を備え、
前記評価部は、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、直近の前記測定期間に測定された前記酸素電流(I1〜IZ+1)に基づく値に依存し、かつ当該値よりも低く前記第1の閾値を設定する工程(S114a,S114b)と
を実行する微生物数の測定装置。
【請求項16】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)から所定の閾値(Δ)を差し引いて設定される、請求項15に記載の微生物数の測定装置。
【請求項17】
前記工程(c)において前記第1の閾値(IP)は、直近に測定された前記酸素電流(IZ+1)に、0より大きく1未満の係数(q)を乗じて設定される、請求項15に記載の微生物数の測定装置。
【請求項18】
前記係数(q)は0.8に設定される、請求項17記載の微生物数の測定装置。
【請求項19】
初期個数が測定対象となる微生物を含む培地において、酸素量に応じて流れる電流たる酸素電流(Inew)を順次に測定する酸素電流測定部(201)と、
前記酸素電流の減少が閾値(E3)を超えて緩やかとなる第1測定時間(tu)を求める評価部(202)と
を備え、
前記評価部は、
(a)前記酸素電流の、単位時間当たりの差分である時間差分値(Knew)を、所定の測定期間の前記酸素電流の測定値から求める工程(SA)と、
(b)前記工程(a)で求められた前記時間差分値が、安定したか否かを判定する工程(SB)と、
(c)前記工程(b)における判定が肯定的な場合に、その後に測定された前記差分値(Knew)が工程(b)における前記差分値(Kold)に対して、前記閾値を超えた増分で増大する場合、直近で測定した前記測定期間に基づいて前記測定時間を決定する工程(SC)と
を実行する微生物数の測定装置。
【請求項20】
前記工程(b)において、前記時間差分値の絶対値(|Knew|)が所定範囲(E2)内に所定期間において収まる(S108b,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項15乃至請求項19のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項21】
前記工程(b)において、前記時間差分値の時間に対する変動(|Knew−Kold|/Δt)の絶対値が所定範囲(E1)内に所定期間収まる(S108a,S109)ことを以て、前記時間差分値が安定したと判定する、請求項15乃至請求項19のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項22】
前記所定範囲(E1)は電流密度に換算して0.6nA/mm2/min2であり、
前記所定回数(Z2)は10回であり、
前記所定期間は前記酸素電流の測定が連続して5回(Z1)行われる長さである、請求項21記載の微生物数の測定装置。
【請求項23】
前記工程(b)において、前記工程(a)の後、所定の不感時間が経過してから、前記時間差分値が安定したか否かが判定される、請求項15乃至請求項19のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項24】
前記不感時間は200分に設定される、請求項23記載の微生物数の測定装置。
【請求項25】
前記評価部(201)は、
(d)前記酸素電流が第2の閾値(Id)を越えて低下するまでに要した時間である第2測定時間(tt)を求める工程
を更に実行する、請求項15乃至24のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項26】
前記第2の閾値(Id)は電流密度に換算して60nA/mm2/min2である、請求項25記載の微生物数の測定装置。
【請求項27】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについての前記第1測定時間と当該既知の初期個数との関係から、当該微生物及び当該培地について求められた検量線に基づき、
前記微生物についての前記初期個数が未知である前記同一種の前記培地について前記第1測定時間を求めて、未知であった前記初期個数を算出する、請求項15乃至請求項26のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【請求項28】
前記微生物についての前記初期個数が相互に異なって既知である同一種の前記培地のそれぞれについて前記第1測定時間を求め、
複数の当該既知の前記初期個数と複数の当該第1測定時間との関係から、当該微生物及び当該培地についての前記検量線を求める、請求項15乃至請求項26のいずれか一つに記載の微生物数の測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−177934(P2006−177934A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337499(P2005−337499)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【特許番号】特許第3788478号(P3788478)
【特許公報発行日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【特許番号】特許第3788478号(P3788478)
【特許公報発行日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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