説明

微生物検出用メンブランフィルタ

【課題】本発明は、蛍光バックグラウンドが低く、様々な波長の蛍光色素を組み合わせた染色に適応でき、操作性を向上させた微生物検出用メンブランフィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、厚さが10〜500μmのポリマー層と、前記ポリマー層上に厚さが0.1nm〜1μmの金属層とを有する微生物検出用メンブランフィルタを提供する。
また、本発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載の微生物検出用メンブランフィルタを用いて微生物を検出する微生物の検出方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光バックグラウンドが低く、平滑な微生物検出用メンブランフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物をメンブランフィルタで濾過し、フィルタ上にトラップされた微生物を蛍光染色して蛍光顕微鏡で観察する手法がある。しかし、メンブランフィルタも蛍光を発してしまうために感度よく微生物を検出できないという問題があった。観察には肉眼で行う方法、CCDカメラで撮像する方法などいくつかの選択があるが、いずれの手法においても、蛍光バックグラウンドと微生物の蛍光との区別がつきにくければ、感度よく微生物を検出できない。
この問題に対し、メンブランフィルタをイルガランブラックのような黒色染料で染色しバックグラウンドを下げる方法や、予め黒色染料で着色してある市販メンブラン(例;CycloblackTM、Whatman)を使用することが必要となる。しかしながら、そのようなメンブランを用いても、ある特定の波長についてバックグラウンド低減効果はあるものの、あらゆる波長についてバックグラウンドが低いわけではない。すなわち、従来技術では、様々な波長の蛍光色素を組み合わせた染色を行うことはできず、試験に制約があることが問題であった。
一方、蛍光染色に用いるメンブランフィルタの材質は、ポリカーボネートやポリエステルが一般的であるが、柔らかくて捲れ易い材質であるため、メンブラン表面がしわになりやすく、その後の顕微鏡観察では観察領域が異なるたびにフォーカス位置が変わるという問題があった。さらに、ピンセット等で挟んで扱う際の操作性が困難であることも問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明は、蛍光バックグラウンドが低く、様々な波長の蛍光色素を組み合わせた染色に適応でき、操作性を向上させた微生物検出用メンブランフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、メンブランフィルタの表面を金属でコーティングすることによって上記課題を効率的に解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、厚さが10〜500μmのポリマー層と、前記ポリマー層上に厚さが0.1nm〜1μmの金属層とを有する微生物検出用メンブランフィルタを提供する。
また、本発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載の微生物検出用メンブランフィルタを用いて微生物を検出する微生物の検出方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の微生物検出用メンブランフィルタは、ポリマー層と金属層を有する。
ポリマー層を構成するポリマーは、通常メンブランフィルタとして使用されるポリマーであれば特に限定されるものではないが、例えばニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフッ化エチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。好ましくは、ポリエステル、ポリカーボネートである。ポリエステルやポリカーボネートなどで製造するメンブランフィルタは細孔サイズが均一であるため、細菌などを捕捉し、蛍光染色観察するのに適している。
ポリマー層を形成する方法は、通常用いられるいずれの方法であってもよく、また、CycloblackTM(Whatman)、NucleporeTM(Whatman)などの市販のメンブランフィルタを本発明のポリマー層として使用することもできる。
ポリマー層の厚さは、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは20〜30μmである。
【0006】
金属層を構成する金属は、特に限定されるものではないが、例えば金、銀、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、タンタル、クロム、鉄、ニッケル、コバルト、鉛、錫などの金属又はこれらの合金が挙げられる(但し、金属層がAu、Pt、Pd、Pt-Pdである場合を除く)。好ましくは、である。錫は微生物に対する毒性がなく、染色後の細菌観察が容易であるので特に効果的である。
前記ポリマー層上に金属層を形成する方法は、平滑な膜を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば蒸着、スパッタリング、CVDなどが挙げられる。
金属層の厚さは、好ましくは0.1nm〜1μmであり、より好ましくは10〜100nmである。上記範囲内であれば、蛍光バックグラウンドを低減し、平滑で操作性に優れたメンブランフィルタを得ることができる。
【0007】
本発明のメンブランフィルタの細孔サイズは、好ましくはφ0.1〜10μmであるが、対象となる微生物細胞のサイズにより細孔サイズを選択することが好ましい。
細孔密度は、好ましくは105〜108個/m2である。細孔密度が大きければ大きいほど濾過性はよいが、メンブランフィルタの強度が低下する蛍光があるため、これらを考慮して細孔サイズと細孔密度を選択する必要がある。
【0008】
本発明のメンブランフィルタは、ポリマー層上に金属層を形成した後に細孔を形成して作製してもよく、又は細孔を形成したポリマー層上に金属層を形成して作製してもよい。
細孔を形成する方法は、通常用いられるいずれの方法であってもよく、例えばポリマー層に荷電粒子や中性子を照射して飛跡を作り、この飛跡を化学的に腐食処理する方法などが挙げられる。細孔は、均一な口径と円筒状の孔道をフイルム面に対して直角に形成されるほどよい。なお、蒸着などによって金属層を形成する場合には、本発明のメンブランフィルタの細孔サイズは、ポリマー層の細孔サイズよりも小さくなるため、所望の細孔サイズよりも大きい細孔サイズでポリマー層に細孔を形成する必要がある。
【0009】
本発明の微生物検出用メンブランフィルタを用いた微生物の検出は、従来のメンブランフィルタを用いる検出と同様にして行うことができる。微生物を本発明の微生物検出用メンブランフィルタで濾過し、フィルタ上にトラップされた微生物を蛍光染色して蛍光顕微鏡で観察する。本発明の方法における蛍光染色は、従来から用いられている任意の蛍光染色法であってもよく、例えば大腸菌特異的蛍光プローブ(vermicon AG)やDAPI(4'6ジアミノ-2-フェニルインドール)等による染色が挙げられる。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
Whatman社CycloblackTM(直径25mmポアサイズφ0.8μm)に対し、スパッタリング法によりSnをコーティングした。コーティングにより、メンブランフィルタ表層にSn層が形成され、最終のポアサイズはφ0.8μmよりも小さくなり、一般に微生物試験に用いられるポアサイズφ0.55μmとなった(図1)。
また、ポアサイズφ0.6μmのメンブランフィルタ(Whatman 社CycloblackTM)に対して、同様にSnをコーティングした場合は、最終のポアサイズは一般に微生物試験に用いられるφ0.45μmとなった。
また、ポアサイズφ0.4μmのメンブランフィルタ(Whatman 社CycloblackTM)に対して、同様にSnをコーティングした場合は、最終のポアサイズはφ0.25μmとなった(図1)。
【0011】
(実施例2)
実施例1のWhatman 社CycloblackTM(直径25mmポアサイズφ0.8μm)に対してSnをコーティングしたメンブランフィルタについて、蛍光顕微鏡観察時のバックグランドを試験した。 用いたメンブランフィルタは、市販品メンブランフィルタ1として、Whatman 社CycloblackTMを、市販品メンブランフィルタ2としてWhatman 社CycloporeTM(black)を、市販品メンブランフィルタ3としてWhatman 社社CycloporeTM(plain)を用い、本発明のメンブランフィルタは市販品メンブランフィルタ1にSnをイオンスパッターによりコーティングしたものを用いた。
測定方法は以下の通りである。すなわち、本発明のコーティングしたメンブランフィルタならびにコーティングしないメンブランフィルタを蛍光顕微鏡(Leica;DMRXA2)の観察領域下にセットした。蛍光フィルターブロックA4(励起フィルター;BP360/40、吸収フィルター;BP470/40)、L5(励起フィルター;BP480/40、吸収フィルター;BP527/30) 、Y3(励起フィルター;BP535/50、吸収フィルター;BP610/75)での蛍光像を各々冷却CCDカメラ(CoolSNAP)で撮像した。撮像時間(exposure time)は、60ms(A4)、160ms(L5)、160ms(Y3)とした。この様に撮像した各メンブランフィルタの蛍光バックグラウンドは、画像解析ソフトLeica−Qwinで、1画面あたりの蛍光画像(1300*1030画素)の1画素当たりの平均輝度(256階調)を算出した。その結果、市販メンブランフィルタ3が最も高い値を示したので、これを100とし相対値を算出した。
試験結果は図2に示すように、Snをコーティングしたメンブランフィルタはコーティングしないメンブランフィルタより大幅にバックグランドが低いことが示された。
【0012】
(実施例3)
大腸菌を実施例1のWhatman 社CycloblackTM(直径25mmポアサイズφ0.8μm)に対してSnをコーティングしたメンブランフィルタについて、を用いて濾過し、そのメンブランフィルタをSTA培地で37℃、4時間培養した。このように短時間培養したメタルメンブランフィルタに対し、エタノール固定後、市販の大腸菌特異的蛍光プローブ(vermicon AG)により染色した。染色方法は、記載のプロトコールに従った。その後、DAPI(4'6ジアミノ-2-フェニルインドール)による染色を行った後、そのメンブランフィルタをスライドグラスに貼り付けて、封入剤SlowFadeTM(Molecular Probe)で封入後カバーガラスを被せ、シールした。この試料を蛍光顕微鏡BX60(オリンパス)のステージ上にセットし、対物レンズ60倍、CCDカメラC5810(浜松フォトニクス)で撮像した。
図3は、左側は大腸菌特異プローブにより染色された大腸菌、右側はDAPIにより染色された大腸菌をそれぞれ示しており、同一の視野である。
図に見られるように、いずれの染色方法によっても大腸菌がクリアーに染色されていることがわかり、本染色方法の有効性が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のメンブランフィルタの電子顕微鏡による表面観察像を示す。
【図2】市販メンブランフィルタと本発明のメンブランフィルタの蛍光バックグラウンドを示す。
【図3】本発明のメンブランフィルタ上の大腸菌の蛍光染色写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが10〜500μmのポリマー層と、前記ポリマー層上に厚さが0.1nm〜1μmの金属層とを有する微生物検出用メンブランフィルタ(但し、金属層がAu、Pt、Pd、Pt-Pdである場合を除く)。
【請求項2】
細孔サイズがφ0.1〜10μmである請求項1記載の微生物検出用メンブランフィルタ。
【請求項3】
細孔密度が105〜108個/m2である請求項1又は2記載の微生物検出用メンブランフィルタ。
【請求項4】
金属層がSnを含む請求項1〜3のいずれか1項記載の微生物検出用メンブランフィルタ。
【請求項5】
請求項1〜5のいずれか1項記載の微生物検出用メンブランフィルタを用いて微生物を検出する微生物の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−129722(P2006−129722A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319479(P2004−319479)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】