説明

微生物検査用培地

【課題】微生物検査において微生物を培養する場合に、培養を始めるまでの一連の操作にかかる時間を短縮し、全体の作業工程を簡易化することができ、性能が劣化することもない培地を提供する。
【解決手段】粉末培地と精製水とを混合して調製された懸濁液12が、包装容器10に充填されて密閉蓋14で密封され、γ線、X線または電子線の照射により滅菌処理された培地であり、微生物の培養の際に包装容器ごと懸濁液を加熱して寒天を溶解させ溶融状態の寒天培地を包装容器から取り出して使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微生物検査において微生物を培養するのに使用される微生物検査用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌を分離培養する方法としては、平板塗沫法(画線培養法)と混釈培養法が一般に行われている。平板塗沫法は、50℃程度に加温されて固まらないようにされた寒天培地をペトリ皿に流し込んで平板状に固め、白金耳に採取した検査材料を寒天平板培地の表面に画線塗沫して、微生物の培養を行うようにする。また、混釈培養法は、検査材料を精製水等で適宜段階的に希釈して試料液を調製し、その試料液を一定量だけペトリ皿に分注し、50℃程度に加温されて固まらないようにされた寒天培地をペトリ皿に流し込んで、試料液と寒天培地とを十分に混釈させた後、寒天培地を凝固させて保温しながら微生物の培養を行うようにする。このとき使用される寒天培地は、フラスコに規定量の精製水を入れ、その精製水に乾燥粉末培地を加えて良く混和させた後、電子レンジや蒸し器などで培地を加熱して溶解させ、その後に、オートクレーブなどを使用して培地を121℃の温度で15〜20分間、加圧して滅菌処理し、滅菌後に培地を50℃程度まで冷却して作製される(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】橋本雅一、外5名、「新編臨床検査講座 22 微生物学・臨床微生物学」、第2版、医歯薬出版株式会社、1988年2月20日、p.251−255
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分離培養による微生物検査を行う臨床検査機関、食品工場、医療機関などの事業所においては、従来、乾燥粉末培地を購入し保管しておき、細菌を分離培養する前に、粉末培地を用いて上記した作業により寒天培地を作製し、その作製された寒天培地を使用して平板塗沫法や混釈培養法による検査を行うようにしていた。このため、微生物の培養を始めるまでの一連の操作に時間がかかっていた。また、寒天培地の作製作業において、乾燥粉末培地を精製水と混和させて溶解させる際と加圧滅菌する際にそれぞれ加熱処理を行う必要があり、作業工程が面倒である、といった問題点がある。
【0004】
なお、予め乾燥粉末培地と精製水とを混和させて加熱溶解させ、加熱・加圧滅菌した後に、冷却して容器詰めした寒天培地が市販されている。しかしながら、そのような市販の寒天培地は、使用する前に、凝固した寒天培地を再度加温して溶融させる必要がある。このため、培地性能が劣化する、といった問題点がある。
【0005】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、微生物検査において微生物を培養する場合に、培養を始めるまでの一連の操作にかかる時間を短縮するとともに、全体の作業工程を簡易化することができ、培地性能が劣化することもない微生物検査用培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、微生物検査に使用される微生物検査用培地であって、粉末培地と精製水とを混合して調製された懸濁液が包装体に充填されて密封され、γ線、X線または電子線の照射により滅菌処理されてなり、微生物の培養の際に包装体ごと懸濁液を加熱して寒天を溶解させ溶融状態の寒天培地を包装体から取り出して使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明の微生物検査用培地は、粉末培地が精製水に混合されγ線等の照射により滅菌処理されて容器等の包装体に充填され密封されているので、臨床検査機関等で細菌を分離培養するときには、包装体ごと懸濁液を100℃程度の温度に加熱して寒天を溶解させてから、平板塗沫を行うときはペトリ皿に包装体から溶融状態の寒天培地をペトリ皿に流し込んで平板状に固め、また、混釈培養を行うときは、試料液が分注されたペトリ皿に包装体から溶融状態の寒天培地を流し込んで、試料液と培地とを混釈させるようにするだけでよい。
したがって、請求項1に係る発明の微生物検査用培地を使用すると、培養を始めるまでの一連の操作にかかる時間を短縮することができる。また、従来のように寒天培地を作製する際に加熱処理を二度行う、といった必要も無いので、全体の作業工程を簡易化することができる。さらに、粉末培地を精製水に溶解させる際と凝固した寒天培地を溶融させる際の二度、培地を加熱する、といったことが行われないので、培地性能が劣化することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の最良の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の実施形態の1例を示し、微生物検査用培地を一部破断した状態で示す斜視図である。
【0009】
この微生物検査用培地は、ポリエチレン等のプラスチック材料やガラス材料などで形成された包装容器10内に、培地成分を含有する懸濁液12を充填し、包装容器10の上部開口を密閉蓋14で気密に密閉して構成されている。懸濁液12は、乾燥した粉末培地を規定量の精製水に加えて包装容器10を振盪することにより調製される。そして、懸濁液12が充填された包装容器10の上部開口を密閉蓋14により気密に密閉した後、懸濁液12に対しγ線を照射して懸濁液12を滅菌処理する。γ線に代えて、X線あるいは電子線の照射により滅菌処理を行ってもよい。懸濁液12は、水溶液中に寒天が分散した状態であり、包装容器10を静置しておくと、寒天が沈殿して、ペプトン、塩化ナトリウム等の栄養成分が溶解した溶液部分と寒天部分との2層に分離する。
【0010】
上記したようにして作製された微生物検査用培地は、培地メーカから微生物検査を行う臨床検査機関、食品工場、医療機関などへ運搬されて無菌室などに保管される。そして、微生物検査用培地は、細菌を分離培養するときに無菌室などから取り出されて使用される。この際、微生物検査用培地は、湯煎などにより包装容器10ごと懸濁液12を100℃程度の温度に加熱して用いられる。この加熱により、寒天が溶解して、溶融状態の寒天培地が得られる。そして、寒天培地が約50℃以下の温度とならないようにして溶融状態に保ちながら、平板塗沫を行うときは、包装容器10から寒天培地をペトリ皿に流し込んで平板状に固めるようにする。また、混釈培養を行うときは、包装容器10から寒天培地を、試料液が分注されたペトリ皿に流し込んで、試料液と寒天培地とを混釈させるようにする。したがって、この微生物検査用培地を使用すると、培養を始めるまでの一連の操作にかかる時間が短縮され、また、全体の作業工程も簡易化されることとなる。また、培地を一度加熱するだけであるため、寒天培地の性能が劣化することもない。以後の操作は、通常の微生物検査と同様にすればよい。
【0011】
なお、上記した実施形態では、培地成分を含有する懸濁液12を包装容器10内に充填して密閉蓋14で密封するようにしたが、懸濁液を包装袋などに充填して密封するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施形態の1例を示し、微生物検査用培地を一部破断した状態で示す斜視図である。
【符号の説明】
【0013】
10 包装容器
12 培地成分を含有する懸濁液
14 密閉蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物検査に使用される微生物検査用培地であって、
粉末培地と精製水とを混合して調製された懸濁液が包装体に充填されて密封され、γ線、X線または電子線の照射により滅菌処理されてなり、微生物の培養の際に包装体ごと懸濁液を加熱して寒天を溶解させ溶融状態の寒天培地を包装体から取り出して使用されることを特徴とする微生物検査用培地。

【図1】
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【公開番号】特開2009−219470(P2009−219470A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70738(P2008−70738)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(591237641)株式会社日研生物医学研究所 (10)
【Fターム(参考)】