説明

微生物阻害組成物を含む衛生用テッシュ

本発明は、微生物阻害組成物(8)を含む、おしぼり、ペーパータオル、洗面タオル、パッチ、ウェットティッシュ、ナプキンなどの衛生用テッシュ(1)に関し、前記微生物阻害組成物(8)は、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の細胞外産物、ならびに有機酸および/またはそれの塩の形態で、少なくとも1種の添加剤を含み、該添加剤のpKa値の少なくとも1種は5.5を超えない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おしぼり、ペーパータオル、洗面タオル、パッチ、ウェットティッシュ、ナプキンなどの衛生用テッシュに関し、その衛生用テッシュは、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の少なくとも1種の細胞外産物、およびカンジダアルビカンス(Candida albicans)または他の望ましくない微生物に対して相乗的阻害効果を発揮する選択された添加剤の少なくとも1種を含む。
【背景技術】
【0002】
泌尿生殖器領域は、50種を超える種々の細菌種を含んだ複雑な微生物生態系を有する(Hill et al.、Scand. J. Urol. Nephrol. 1984;86 (suppl.) 23〜29)。この領域で、妊娠可能な女性の場合に大半を占める種は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸産生細菌である。これらの乳酸産生メンバーは、これらの領域で健康な微生物叢を保持するのに重要であり、病原性微生物種に対して拮抗作用を有するプロバイオティクス細菌として作用する。乳酸産生細菌は、バイオフィルムを形成し入手可能な栄養素を得ようと競合することによって、コロニー形成に適した生態環境を占有することにより、他の微生物による成長およびコロニー形成を阻害し、それによって、有害な微生物によるコロニー形成が排除される。また、過酸化水素、バクテリオシンなどの特定の阻害物質、およびpHを低下させる有機酸(乳酸および酢酸を含む)の生成も、他の微生物の成長およびコロニー形成を阻害する。
【0003】
健康な個体の微生物生態系は、抗生物質の使用によって、妊娠中やエストロゲンを含む避妊薬の使用などのホルモンの変化中、月経中、閉経後、糖尿病などに罹患している人において、妨げられる可能性がある。また、微生物は肛門から泌尿生殖器領域に広がる可能性もあり、この結果、正常な微生物叢が乱され、個体は、膣炎やカンジダ感染、尿路感染、皮膚感染などの微生物感染を受け易くなる。これらの種類の感染に一般に関連している微生物は、エシェリキア(Escherichia)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、シュードモナス(Pseudomone)属、プロテウス(Proteus)属、クレブシェラ(Klebsiella)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ガードネレラ(Gardnerella)属、およびカンジダ(Candida)属に属する。女性は、肛門と泌尿生殖路との間の距離がより短いので、特定の危険性に曝されており;特に危険に曝されているのは、泌尿生殖領域に十分に発達した微生物叢がまだない若い女性と、ほとんどの場合はもはや保護的な叢を持たない高齢の女性である。
【0004】
泌尿生殖領域と同様に、皮膚には、その常在菌叢を形成する微生物の列がコロニー形成される。生物の数および種類は、種々の皮膚の部位同士で異なる。これは、皮膚の構造障壁と共に、侵入してくる細菌に対する優れた防御機能を宿主にもたらす。皮膚表面の細菌数は、前腕および背中の乾燥した表面でのcm2当たり2〜3百から、腋窩や鼠径などの湿り気のある領域でのcm2当たり何万まで様々である。この常在叢は、外来生物が皮膚上でコロニー形成するのを防ぐ際に重要な役割を演じるが、皮膚感染を避けるためにチェックし続ける必要がある。
【0005】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、せつや膿瘍などの軽い皮膚感染、ならびにより重症な術後創傷感染の、最も一般的な原因である。治療ではドレナージを行い、これは、通常は軽い病変には十分であるが、感染が重症でありかつ患者に熱があるときは、さらに抗生物質を与える可能性がある。
【0006】
毒素性ショック症候群は、毒素性ショック症候群の毒素を生成する黄色ブドウ球菌(S.aureus)株によって引き起こされる全身感染である。この疾患は、健康な女性によるタンポンの使用に関連して顕著になってきたが、女性に限られたものではなく、非生殖部位での黄色ブドウ球菌感染の結果として生じる可能性がある。
【0007】
他の一般的な皮膚感染は、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)(A群連鎖球菌)によって引き起こされる。生物は、感染した皮膚病変を有する他人との接触を通して獲得され、正常な皮膚でまずコロニー形成し、増殖し、その後、上皮の微小な破壊を通して侵入し、病変を発症させる可能性がある。
【0008】
ペニシリンまたはエリスロマイシンによる治療が、この感染と闘うには必要と考えられる。
【0009】
カンジダは、湿り気があり温かい皮膚の部位を好み、損傷した皮膚でも素早くコロニー形成する。したがって、皮膚の大部分の領域が比較的乾燥していることにより、カンジダの成長が防止され、したがって健康な皮膚では少数のカンジダが見られる。カンジダは、口腔および膣粘膜でもコロニー形成し、過成長の結果、これらの部位に疾患が生ずる。カンジダアルビカンス(C.albicans)は、おむつ皮膚炎に関連する。研究によれば、カンジダアルビカンスによって誘発された病変は、pHによって著しく影響を受け、皮膚のpHが低いほど病変は少なくなることが示されている(B. Runeman、Acta Derm Venereol 2000 ; 80: 421〜424)。
【0010】
上述の感染の種類に関する問題を削減する1つの方法は、個人の衛生状態をよくすることである。しかし、洗浄剤の過剰な使用は、有害な微生物の量を低下させるだけではなく、有益な微生物叢に害を与える可能性があり、やはり病原性種のコロニー形成が行われ易くなり、感染を引き起こす。あるいは、病原性種を打ち負かし、これらの領域で有益な微生物叢の回復および維持を促進させるために、乳酸産生細菌を泌尿生殖領域および皮膚に投与することは、微生物感染を治療し予防するための首尾良い手段であることがわかった。
【0011】
乳酸産生細菌は、例えばWO 92/13577、WO 97/02846、WO 99/17813、WO 99/45099、およびWO 00/35502に記載されているように、おむつや生理用ナプキン、失禁ガード、パンティライナー、タンポンなどの吸収用製品を介して送達できることが示唆されている。しかし、吸収用製品は常に最適な投与経路ではない可能性があり、吸収用製品を携行することは、不快で、分離しておらず(indiscrete)、温かいものとしてしばしば検知されるからである。また、乳酸産生細菌の反復投与はしばしば、治療または予防効果の効率を保持するために必要であることから、この投与経路は不都合であり得る。また、これらの製品は、泌尿生殖領域以外の身体の他の部位に細菌を送達するために使用することができない。したがって、いくつかの用途では、吸収用製品以外の別の方法によって、乳酸産生細菌を投与することがより有効であり得る。吸収用製品を介する乳酸産生細菌の投与に伴う第2の問題はかかる製品の製造に関し、該製品のあらゆる可能な変形及びサイズが細菌と共に供給されなければならないからである。したがって、個々的な調整なしに使用され得る、製品を介しての投与は、吸収用製品に対する製造上の利点を提供可能であろう。
【0012】
皮膚および泌尿生殖領域のクリーニングおよびケアを可能にし、かつプロバイオティクス乳酸産生細菌の送達を可能にする衛生用テッシュを介しての乳酸産生細菌を送達することも示唆されている(例えば、WO 04/060416)。
【0013】
乳酸産生細菌の伝達に使用することが意図される製品の提供に関する主な問題は、細菌が、製品の輸送および貯蔵中に生存し続けなければならないことである。乳酸産生細菌は、半湿潤条件下でその生存力を素早く失い、したがって細菌は、貯蔵中に湿分に曝されないことが重要である。乳酸産生細菌が与えられた吸収用製品におけるこの問題を部分的に克服する1つの方法は、製品に細菌を供給し、前記製品を乾燥してその湿分のほとんどを除去し、製品を、湿分不透過性パッケージに入れて提供することである(WO 99/17813)。
【0014】
WO 00/61201は、バチルスコアギュランス(Bacillus coagulans)などの、有効量の生存可能な非病原性プロバイオティクス細菌、またはその細胞外産物を含有する、生理用製品を開示する。
【0015】
EP 1140226は、部分的に中和された超吸収材料の形をとるpH調節物質と、乳酸産生細菌との組合せについて述べている。
【0016】
従来技術に照らせば、プレバイオティックおよび/またはプロバイオティクス効果が改善された、貯蔵および輸送が容易な衛生用テッシュが、依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO 92/13577
【特許文献2】WO 97/02846
【特許文献3】WO 99/17813
【特許文献4】WO 99/45099
【特許文献5】WO 00/35502
【特許文献6】WO 04/060416
【特許文献7】WO 99/17813
【特許文献8】WO 00/61201
【特許文献9】EP 1140226
【特許文献10】EP-A-1035818
【特許文献11】EP 1060240
【特許文献12】WO 00/76878
【特許文献13】WO 02/28446
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Hill et al.、Scand. J. Urol. Nephrol. 1984;86 (suppl.) 23〜29
【非特許文献2】B. Runeman,Acta Derm Venereol 2000 ; 80: 421〜424
【非特許文献3】Rainey,F.A.他、Int. J. Sys. Bacteriol. 1996 (46): 1088〜1092
【非特許文献4】Maidak,B.L.他、Nucl. Acids Res. 1999 (27): 171〜173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
この従来技術に鑑み、本発明の目的は、増強された効果を有する微生物阻害組成物を含む、衛生用テッシュを提供することである。また本発明の目的は、微生物阻害組成物がその微生物叢のバランスおよび健康増進機能を失うことなく、微生物阻害組成物を含む前記衛生用テッシュが容易に輸送され貯蔵されることでもある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記にて定められた問題は、おしぼり、ペーパータオル、洗面タオル、パッチ、ウェットティッシュ、ナプキンなどの衛生用テッシュであって、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の細胞外産物および5.5を超えないpKa値を有する有機酸および/またはその塩の形をとる少なくとも1種の添加剤を含む微生物阻害組成物を含み、相乗的プレバイオティクス効果を発揮する衛生用テッシュによって、本発明により解決される。
【0021】
一態様では、前記pKa値は5を超えない。
【0022】
本発明によれば、前記微生物阻害細胞外産物は、プロバイオティクス細菌の培養物の濾過または遠心分離によって得られた上清である。
【0023】
一実施形態では、前記微生物阻害組成物は、プロバイオティクス細菌を実質的に含まず、プロバイオティクス細菌は好ましくは100CFU/mlよりも高い量で存在せず、より好ましくは10CFU/mlよりも高くない。
【0024】
本発明の一実施形態では、前記微生物阻害組成物は、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の細胞外産物および前記添加剤の少なくとも1種を含む。
【0025】
本発明の一態様では、プロバイオティクス細菌は、乳酸産生細菌である。
【0026】
本発明のさらなる態様では、乳酸産生細菌は、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus Plantarum) LB 931である。本発明の他の一態様では、乳酸産生細菌が、ラクトバチルスファーメンタム(Lactobacillus fermentum) Ess-1である。本発明のさらなる態様では、乳酸産生細菌は、ラクトバチルスプランタルムLB 931およびラクトバチルスファーメンタムEss-1の組合せである。
【0027】
本発明の一態様では、前記添加剤は、酢酸、プロピオン酸、乳酸、アスコルビン酸、フェニルアラニン、クエン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、コハク酸、および/またはこれらの塩から選択される。好ましくは、前記添加剤は、酢酸、プロピオン酸、乳酸、フェニルアラニン、クエン酸またはコハク酸、アスコルビン酸、および/またはこれらの塩から選択される。最も好ましくは、前記添加剤は、アスコルビン酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、および/またはこれらの塩から選択される。
【0028】
本発明の別の態様では、前記塩はナトリウム塩であり、好ましくはプロピオン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムである。
【発明の効果】
【0029】
プロバイオティクス細菌の細胞外と添加剤を組み合わせた本発明の微生物阻害組成物は、病原性微生物の阻害に予期せぬ相乗効果を発揮するので、この微生物阻害組成物を含む本発明による衛生用テッシュは、増強されたプレバイオティック効果を有する。さらに、本発明の衛生用テッシュは、微生物阻害組成物の有益な性質を失うことなく、輸送および貯蔵が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】種々の酸/塩を添加した(50mM)、LB 931の細胞外産物中のC.アルビカンスの成長を示す図である。
【図2A】種々の酸/塩を添加した(50mM)、LB 931の細胞外産物中の大腸菌(E.coli)の成長を示す図である。
【図2B】種々の酸/塩を添加した(50mM)、LB 931の細胞外産物中の腐敗性ブドウ球菌(S.Saprofyticus)の成長を示す図である。
【図3A】ラクトバチルスファーメンタムEss-1の細胞外産物を、添加剤であるアスコルビン酸と組み合わせたときの、カンジダアルビカンスの成長を示す図である。
【図3B】ラクトバチルスファーメンタムEss-1の細胞外産物を、添加剤であるプロピオン酸と組み合わせたときの、カンジダアルビカンスの成長を示す図である。
【図4】本発明による衛生用テッシュの透視図である。
【図5】本発明による衛生用テッシュの透視図である。
【図6】本発明による衛生用テッシュの透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(定義)
本発明の文脈におけるプロバイオティクス/プロバイオティクスは、適切な量で宿主に投与された場合に健康上の利益をもたらす生きている微生物に関する。
【0032】
乳酸産生細菌は、乳酸を産生する細菌を意味する。本発明の目的に好ましい乳酸産生細菌には、ラクトバチルス属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、およびペディオコッカス(Pediococcus)属の細菌が含まれる。使用される選択された細菌は、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)、ラクトバチルスファーメンタム、ラクトバチルスラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルスアシドフィルス、またはラクトバチルスプランタルムの種から得られることが好ましい。細菌株は、ラクトバチルスプランタルムまたはラクトバチルスファーメンタムから選択されることが、より好ましい。乳酸産生細菌は、ラクトバチルムスプランタルム931(寄託番号(DSMZ): DSM 11918)およびラクトバチルスファーメンタムEss-1(寄託番号(DSMZ): DSM 17851)であることが、さらにより好ましい。
【0033】
本発明の文脈におけるプレバイオティクス/プレバイオティックは、適切な量で宿主に投与されたときに、バランスのとれた微生物叢を促進させる物質に関する。その例は、プロバイオティクス細菌の栄養素、プロバイオティクス細菌の宿主への付着を促進させる物質、pH調節物質、およびプロバイオティクス細菌からの細胞外産物である。
【0034】
微生物阻害とは、他の微生物の成長、コロニー化、および/または生存の阻害を意味する。
【0035】
細胞外産物とは、細胞外産物が抗菌効果を発揮するプロバイオティクス細菌の培養物中に分泌される産物を意味する。細胞外産物は、例えば濾過、遠心分離、またはこれらの両方によって、細菌細胞培養物から得られ、このように得られた細胞外産物を含む上清は、微生物阻害組成物で有用な抗菌活性を保持する。
【0036】
「衛生用テッシュ」という用語は、皮膚及び泌尿生殖領域の拭き取り、クリーニング及びケアのための任意の器具を意味し、これらの領域に微生物阻害組成物を送達するためにも使用され得、例えばおしぼり、ペーパータオル、洗面タオル、パッチ、ウェットティッシュ、ナプキンなどがある。
【0037】
本発明の文脈における「脂質」という用語は、水に不溶であるが有機溶媒に可溶である物質を意味する。
【0038】
(詳細な説明)
本発明の目的は、皮膚及び泌尿生殖領域の拭き取り、クリーニング及びケアに好適な衛生用テッシュを提供し、同時に該皮膚に転送される微生物阻害阻害物を放出することである。
【0039】
本発明は、前記衛生用テッシュを用いることにより、泌尿生殖領域中の、及び皮膚上の病原性微生物の成長、コロニー化および/または生存の問題の解決に関する。この問題は、本発明において、衛生用テッシュに対して、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の細胞外産物、および5.5を超えないpKa値を有する有機酸および/またはそれらの塩の形をとる少なくとも1種の添加剤を含む微生物阻害組成物を適用することにより解決される。
【0040】
前記添加剤に前記細胞外産物を組み合わせることにより、カンジダアルビカンスおよび例えば大腸菌やS.サプロフィティカス(S.saprophyticus)などの複数の他の微生物の阻害において、驚くべき大きな増加が得られる。
【0041】
当然ながら、本発明の細胞外産物を産生するために、2種以上のプロバイオティクス細菌株の組合せを使用できることに留意すべきである。また当然ながら、本発明による微生物阻害組成物で、少なくとも2種の細菌株の組合せを使用することも可能である。
【0042】
図4‐6は、微生物阻害組成物8を含む衛生用テッシュ1の好ましい実施態様を示す。提供される衛生用テッシュ1は、任意の天然または合成の繊維を含むマトリックスから成り得、それにはレーヨン、セルロース、再生セルロース、ポリエステル、ポリオレフィン繊維、織物など、または発泡体、不織布、フェルトまたは中綿、またはそれらの組合せがある。
【0043】
上述のおよび図面に示される衛生用テッシュは、非限定的な例を示すに過ぎず、本発明はそれらに限定するものではなく、上記にて定義された任意のタイプの衛生用テッシュで使用することができることが理解される。
【0044】
本発明の一実施態様において、微生物阻害組成物が前記細胞外産物および前記添加剤を含む場合には、前記組成物は実質的にプロバイオティクス細菌を有さない。プロバイオティクス細菌を完全に含まない組成物を製造することは非常に困難であるので、100 CFU/mlよりも高い量、好ましくは10 CFU/mlよりも高い量では存在しないのが好ましいことに留意する。この組成物は、細胞外産物が生存している微生物よりもより耐久性があるので、保存要件がより緩和されているという利点を有する。
【0045】
本発明の別の実施態様において、前記微生物阻害組成物は、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の細胞外産物および少なくとも1種の前記添加剤を含む。かかる実施態様において、前記微生物阻害組成物が少なくとも1種のプロバイオティクス細菌をも含む場合には、該効果はプレバイオティクスでありプロバイオティクスであると言われている。
【0046】
本発明で使用するのに適したプロバイオティクス細菌は、ほとんどの場合において酸を産生し、全ての場合において非病原性である。これらは、本明細書において以下に明らかにされる多くの適切な細菌であるが、本発明は、プロバイオティクス細菌の上述の機能および目的が満たされる限り、現在知られている細菌種および株に限定するものではない。
【0047】
プロバイオティクス乳酸産生細菌の重要な特徴は、乳酸および場合によっては他の酸も産生することができることであり、前記乳酸は、皮膚粘膜の酸性度を上昇させ、それが、望ましくない真菌および細菌の成長、コロニー化、および生存の予防を助ける。したがって、酸産生のメカニズムにより、これらのプロバイオティクス細菌は、競合する有害な細菌および真菌の成長を阻害する。前記細菌のさらに重要な特徴は、過酸化水素および他の微生物阻害物質を産生でき、細胞表面に付着することもでき、それによって他の有害な細菌および真菌がこれらの表面に付着するのを予防できることである。
【0048】
本発明の微生物阻害組成物に有用な、典型的な乳酸産生細菌は、効率的な酸産生体であるラクトバチルス、ラクトコッカス、またはペディオコッカスの全てのメンバーであり、バチルス(Bacillus)属の非病原性メンバー、ビフィズス菌(Bifidobacterium)属の全てのメンバー、およびシュードモナスリンベルギー(Pseudomonas limbergii)も含むが、下記のように、ある種は特に好ましい。
【0049】
ラクトバチルス属の好ましいメンバーには、ラクトバチルスアシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルスブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルスカセイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルスセレアル(Lactobacillus cereale)、ラクトバチルスデルブルケイ(Lactobacillus delbrukeii)、ラクトバチルスファーメンタム、ラクトバチルスガセリ(Lactobacillus gaserii)、ラクトバチルスジェンセニ(Lactobacillus jensenii)、ラクトバチルスプランタルム、ラクトバチルスラムノサス、ラクトバチルスサリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルスサーモフィルス(Lactobacillus thermophilus)、ラクトバチルスパラカサイ(Lactobacillus paracasai)種パラカサイ(paracasai)、ラクトバチルスクリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルスヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、および乳酸連鎖球菌などが含まれる。
【0050】
新規な細菌であるラクトバチルスファーメンタムEss-1およびラクトバチルスプランタルムLB931が、特に好ましい。LB 931は、例えばEP 1060240において多数の病原性微生物の成長を阻害するように、泌尿生殖器感染を予防しかつ/または治療するのに価値があることが、既に見い出されている。ラクトバチルスファーメンタムEss-1(寄託番号(DSMZ): DSM 17851)は、ドイチェ ザンムルンク フォン ミクロオルガニスメン ウント ツェルクルトゥレン ゲーエムベーハー(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)(Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweig)で、ブダペスト条約に従って寄託された(寄託者Essum AB、Box 3160、SE 90304 Umea、スウェーデン、2006年1月6日寄託)。
【0051】
しかし2種のラクトバチルス株のみ使用した下記の実施例では、これらの細菌株は、本発明の実施に際して有用なプロバイオティクス細菌のモデルとしてしか見られないことに、留意すべきである。したがって下記の実施例は、本発明を限定するものと見るべきではない。任意のプロバイオティクス細菌の乳酸産生種を、組成物中に使用することができることが意図される。
【0052】
本発明の細胞外産物は、細菌培養から得られる。本発明に適切な細菌は、本発明の目的に有用な抗菌活性を有する産物を分泌する。細胞外産物を得るために、細胞培養物を下記の通り収集し、上清を、遠心分離または濾過またはその両方によって得る。このように得られた上清は、その中に含まれる細胞外産物によって、微生物阻害活性を有する。細胞外産物をどのように調製できるかという例を、下記の実施例3に示す。
【0053】
細胞外産物は、細菌培養物から直接得られたときのような形をとってもよいが、上清をさらに濃縮しかつ/または精製することも可能である。精製とは、微生物阻害物質の一部が、例えばクロマトグラフィ、結晶化、または蒸留によって単離され、別々にもしくは他の単離された物質と組み合わせて使用されることを意味する。
【0054】
本発明のプロバイオティクス細菌および/または細胞外産物に添加される添加剤は、有機酸またはその塩の形をとる。前記添加剤を選択した場合、これは当然ながら、製品安全性の観点から作製すべきである。有機酸またはこれに対応する塩は、これらを衛生用テッシュに適用した場合に、衛生用テッシュの使用者にいかなる皮膚刺激も誘発しないような性質のもの、したがって有機酸のpKaが、25℃の水中で測定を行ったときに好ましくは2以上であるべきである。代わりにpKa値が高すぎる場合、有機酸またはその塩は、主にその酸形態をとることになる。これは、添加剤が、水素イオンとその脱プロトン化陰イオン形態、すなわちプロバイオティクス細菌および/またはその細胞外産物と前記相乗的微生物阻害効果を得るために必須と考えられる形態へと、十分に解離しなくなることを意味する。したがって、本発明に適した有機酸のpKa値は、5.5未満であるべきで、好ましくは5未満である。本発明に適した有機酸が、1pKaよりも高い値を有する場合、これらの値の少なくとも1つは、5.5未満であるべきで、好ましくは5未満である。
【0055】
細胞外産物が上清の形をとる場合、これら有機酸または対応する塩の溶解度は、前記添加剤が上清に溶解できるように、十分高いものであるべきである。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、添加剤は、酢酸、プロピオン酸、乳酸、アスコルビン酸、フェニルアラニン、クエン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、コハク酸、および/またはその塩から選択される。好ましくは、前記添加剤は、酢酸、プロピオン酸、乳酸、アスコルビン酸、フェニルアラニン、クエン酸、またはコハク酸、および/またはその塩から選択される。最も好ましくは、前記添加剤は、アスコルビン酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、および/またはその塩から選択される。
【0057】
本発明の一実施形態において、塩はナトリウム塩である。特に好ましい塩は、プロピオン酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムである。
【0058】
本製品は、典型的には約0.5-100 ml、好ましくは1-10 mlの細胞外産物を含む。
前記添加剤は、細胞外産物に対して、典型的には最終濃度5-100 mMで添加される。
衛生用テッシュがさらにプロバイオティクス細菌を含む場合、これらは、典型的には衛生用テッシュ1個当たり生存プロバイオティクス細菌が約106〜1011CFUという量で提供される。典型的には細菌は、細胞または胞子の形をとり、これが懸濁液として提供される。しかし、これらの量は、特定の用途、製品の製剤及び意図する用途に応じて変化し得る。
【0059】
微生物阻害組成物は、本発明による衛生用品に直接加えてもよく、または微生物阻害組成物の移動を高める医薬品として許容可能な担体中に提供してもよく、かかる例には脂質が含まれる。本発明に好適な脂質の例には、石油起源の脂質であって、例えば鉱物油(鉱油、灯油、及びワセリンオイル)、ワセリン(vaseline及びpetroleum jelly)、微結晶性ろう、オゾケライト、セレシン及びパラフィンが含まれる。代わりに、合成脂質であってジメチコン、シクロメチコン、及びシリコーンエステルであってアセテアリールメチコンなどを使用し得る。第3の代わりのもとしては、動物または植物起源の脂質であって通常はトリグリセリドであるものを使用することである。
【0060】
1つの好ましい実施形態では、微生物阻害組成物は懸濁液の形をとり、前記懸濁液は、含浸、噴霧、または印刷などによって衛生用テッシュに直接加えてもよく、その後、生理用品を例えば熱乾燥によって乾燥してもよい。
【0061】
別の好ましい実施形態では、微生物阻害組成物は、粉末の形をとる。粉末は、前記医薬品として許容可能な担体に混合してもよく、または粉末として衛生用テッシュに直接加えてもよい。粉末が、医薬品として許容可能な担体と混合される場合、この混合物を、含浸、噴霧、またはプリントなどによって衛生用テッシュに加えてもよく、その後、衛生用テッシュを乾燥してもよい。衛生用テッシュに取着される、個別のポケットを意味する送達用具も、前記微生物阻害組成物を送達する有利な方法である。
【0062】
上述による粉末は、上記にて論じた懸濁液を、熱乾燥、対流乾燥、噴霧乾燥、または凍結乾燥などによって蒸発させることにより得てもよい。微細な粉末を得るために、乾燥した微生物阻害組成物をさらに成型することも必要と考えられる。プロバイオティクス細菌は、好ましくは凍結乾燥される。
【0063】
好ましい一実施態様では、衛生用テッシュは乾燥衛生用テッシュであってよく、衛生用テッシュが粉末として微生物阻害組成物を含むか、衛生用テッシュが微生物阻害組成物を含む懸濁液の適用後に乾燥されることを意味する。かかる場合には、衛生用テッシュは使用前に濡らされることを意図し、したがって、添加剤の溶解は例えば水に接触した場合に添加剤が素早く溶液中に溶け込むような性質を有するべきである。
【0064】
さらなる好ましい実施態様では、衛生用テッシュは湿式衛生用テッシュであってよく、例えば、微生物阻害組成物を含む前記懸濁液または前記医薬品として許容可能な担体のいずれかで衛生用テッシュが含浸されることを意味する。
【0065】
衛生用テッシュが、生きているプロバイオティクス細菌を含む場合、その細菌は、湿分から保護されなければならない。したがって衛生用テッシュは、湿分不透過性パッケージに密封状態で封入してもよい。WO 00/76878は、そのような湿分不透過性パッケージの例を示す。細菌をどのように保護することができるかという別の例は、例えばWO 02/28446に例示されている送達システムの使用によるものである。
【0066】
本発明はまた、貯蔵中に効果を保持することによる問題を減少させることを目的とする。いくつかの実施態様におけるあらゆる効果及び他の実施態様における効果の少なくともある部分は、生存微生物を維持する問題から生じるので、実質的に生存している微生物を含まない組成物では、かかる効能は排除される。
【0067】
従来技術は、プロバイオティクス細菌または細胞外産物のみを含む吸収用物品を開示する。しかし、特にカンジダに対する微生物阻害効果及び衛生用物品から着用者へのプロバイオティクス細菌の移送は、必ずしも完全に満足させるものではなく、生存微生物を含む衛生用製品を生産し貯蔵する場合に克服すべき多くの問題もまた存在する。
【0068】
それゆえ、本発明による衛生用テッシュを提供する1つの有利な方法は、キットとして吸収用物品と一緒にすることである。吸収用物品の定期的な使用は、泌尿生殖器の微生物叢に不均衡をもたらし得る泌尿生殖領域の微生物環境に影響を有する。微生物阻害組成物の添加は、この均衡を改善するであろう。吸収用物品の定期的な使用が余分なリスクになり得るがゆえに、および吸収用物品の交換が定期的な時間で生じるがゆえに、このことは微生物阻害組成物を標的群に到達させ、微生物阻害組成物を投与するための決まった手法を確立するのに効果的な方法であろう。
【0069】
別の可能性は、使用者が衛生用テッシュを直接付着させるのに都合の良い形で、例えばその液体形態で、粉末として、ローションに分散させて、油に分散させて、別々に前記微生物阻害組成物を送達することである。前記微生物阻害組成物の供給手段は、スプレー、ロールオンデバイス、チューブ、ボトル、アンプル、ストリップ、またはスティックでよい。
【0070】
本発明のさらに別の態様では、微生物阻害組成物を、本発明による衛生用テッシュと組み合わせて使用する。
【0071】
本発明の別の態様は、前記微生物阻害組成物を前記衛生用テッシュに加えるステップを含む、衛生用テッシュの作製である。
【0072】
(実験セクション)
(試験1)
この試験の目的は、選択された添加剤がカンジダアルビカンスの成長に影響を及ぼすか否か、また添加剤をラクトバチルスプランタルムLB 931の細胞外産物に添加したときに改善された成長阻害を実現することができるか否かを決定することである。この試験で使用した添加剤は、アスコルビン酸、クエン酸、フェニルアラニン、酢酸、プロピオン酸、およびプロピオン酸ナトリウムであった。
【0073】
(方法)
(酵母株)
カンジダアルビカンスの臨床単離株(C.アルビカンス702と示す)を、試験株として使用した。膣カンジダ症に罹っている女性の膣から単離した。
【0074】
(対照)
対照として、純粋なdMRSブロス(酢酸ナトリウムを添加しないMRSブロス)を使用した。指定された体積を、マイクロタイタープレートのウェルに移し、空気乾燥した(45℃、最短で20時間)。
【0075】
(細胞外産物(ECP))
dMRSブロス中で成長させたLB 931の培養物を、遠心分離して細胞をペレットにし、LB 931細胞外産物を含むLB 931上清を得るために、0.22μmフィルタ(Milliporeフィルタ、Bedford、USA)を使用して滅菌濾過した。指定された体積の滅菌濾過済み上清を、マイクロタイタープレートのウェルに移し、空気乾燥し(45℃、最短で20時間)、その後、滅菌蒸留水に再懸濁して3倍の濃度にし、200μlを96ウェルマイクロタイタープレートに移した。
【0076】
(添加剤を含む細胞外産物)
LB 931の滅菌濾過済み上清が入っている管に、添加剤を添加して50mMの最終濃度にした。指定された体積をマイクロタイタープレートのウェルに移し、空気乾燥し(45℃、最短で20時間)、その後、滅菌蒸留水に再懸濁して3倍の濃度にし(すなわち、滅菌蒸留水の体積は、空気乾燥前の指定体積の約3分の1である)、200μlを96ウェルマイクロタイタープレートに移した。
【0077】
(添加剤を含んだブロス)
最終濃度が50mMになるように、添加剤をdMRSブロスに添加した。pHを、それぞれの添加剤ごとに添加剤を加えた細胞外産物の場合と同じpH値に調節した。指定された体積をマイクロタイタープレートのウェルに移し、空気乾燥し(45℃、最短で20時間)、その後、滅菌蒸留水に再懸濁して3倍の濃度にし、200μlを96ウェルマイクロタイタープレートに移した。
【0078】
カンジダを添加して、その最終濃度をウェル当たり約104細胞にし、マイクロタイタープレートを37℃で24時間インキュベートした。
【0079】
種々の添加剤に関するpHは、3.4±0.2の間で変化した。添加剤を含むブロスと添加剤を含む細胞外産物とのpHは、常に同じであった。
【0080】
試験は、結果に影響を及ぼす先入観が無くなるように、ブラインド式にした。カンジダの阻害に関し、計算した平均値を示している濁度の目視観察に基づいた5から0のスケール上で、テンプレートを使用する2名によって評価し段階分けした。純粋なdMRSブロス中で強力に成長したカンジダを含むウェルを、5に段階分けし、一方、成長が見られないウェルを0に段階分けした。
【0081】
(結果)
図1に見られるように、ごく僅かな添加剤そのものが、カンジダの成長に効果があることが判明したが、そのpHは非常に低かった。LB 931の細胞外産物は、カンジダの阻害に効果的であった。この効果は、LB 931の細胞外産物に添加剤を加えることによって、驚くほど高められた。LB 931の細胞外産物と組み合わせた全ての添加剤では、非常に良好な成長阻害効果が発揮された。最良の効果は、プロピオン酸をLB 931の細胞外産物に添加したときに発揮された(全く成長しなかった)。
【0082】
(試験2)
これらの試験の目的は、選択された添加剤が細菌の成長に影響を及ぼすか否か、またラクトバチルスプランタルムLB 931の細胞外産物に添加したときに、改善された成長阻害を実現することができるか否かを決定することであった。この試験で使用された添加剤は、酢酸ナトリウム、コハク酸、プロピオン酸ナトリウム、酢酸であった。
【0083】
(方法)
(細菌株)
大腸菌(E.coli 1と示す)およびスタフィロコッカスサプロフィティカス(S.saprophyticus 1)の臨床単離株を、試験株として使用した。これらは、尿路感染症に罹っている女性の生殖管から単離した。
【0084】
(対照)
対照として、純粋なdM17ブロス(MnSO4(最終濃度0.04g/l)、MgSO4(最終濃度0.2g/l)、およびグルコース(最終濃度20g/l)の添加によって変性させたM17ブロス)を使用した。200μlを、96ウェルマイクロタイタープレートに添加した。
【0085】
(細胞外産物(ECP))
LB 931細胞外産物を含むLB 931上清を得るために、dM17ブロス中で成長させたLB 931の培養物を遠心分離して、細胞をペレットにし、0.22μmフィルタ(Milliporeフィルタ、Bedford、USA)を使用して滅菌濾過した。200μlを、96ウェルマイクロタイタープレートに移した。
【0086】
(添加剤を含む細胞外産物)
LB 931の滅菌濾過済み懸濁液が入っている管に、最終濃度が50mMになるように添加剤を添加した。200μlを96ウェルマイクロタイタープレートに移した。
【0087】
(添加剤を含むブロス)
添加剤を、最終濃度が50mMになるようにdM17ブロスに添加した。200μlを、96ウェルマイクロタイタープレートに添加した。
【0088】
共に100×希釈したE.coli resp,腐敗性ブドウ球菌(S, saprophyticus)を一晩培養した培養物10μlを、マイクロタイタープレートのウェルに添加し、これを37℃で一晩インキュベートした。
【0089】
pHを、全ての試験において6.9に調節した。
【0090】
試験は、結果に影響を及ぼす先入観が無くなるように、ブラインド式にした。E.coli resp,腐敗性ブドウ球菌の阻害に関し、計算した平均値を示している濁度の目視観察に基づいた5から0のスケール上で、テンプレートを使用する2名によって評価し段階分けした。純粋なdM17ブロス中で強力に成長したE.coli resp,腐敗性ブドウ球菌を含むウェルを、5に段階分けし、一方、成長が見られないウェルを0に段階分けした。
【0091】
(結果)
図2Aからわかるように、試験がなされた添加剤単独でE.coliの成長に影響を及ぼすものは無いことが判明した。LB 931の細胞外産物は、E.coliの阻害に効果的であった。この効果は、LB 931の細胞外産物に添加剤を加えることによって、驚くほど高められた。LB 931の細胞外産物と組み合わせた全ての添加剤で、非常に良好な成長阻害効果が発揮された。
【0092】
図2Bからわかるように、試験がなされた添加剤単独で腐敗性ブドウ球菌の成長に影響を及ぼすものは無いことが判明した。LB 931の細胞外産物は、腐敗性ブドウ球菌の阻害に効果的であった。この効果は、LB 931の細胞外産物に添加剤を加えることによって、驚くほど高められた。LB 931の細胞外産物と組み合わせた全ての添加剤で、非常に良好な成長阻害効果が発揮された。
【0093】
(試験3)
この試験の目的は、ラクトバチルスファーメンタムEss-1の細胞外産物と、添加剤であるアスコルビン酸またはプロピオン酸とを組み合わせたときの、カンジダアルビカンスの阻害の亢進について評価することであった。
【0094】
(方法)
Ess-1を、dMRSブロス(酢酸ナトリウムを添加しないMRSブロス)中で静止期まで成長させた。細菌培養物を遠心分離して、細胞をペレットにし、0.22μmフィルタ(Milliporeフィルタ、Bedford、USA)を使用して滅菌濾過し、それによって細胞外産物を含む上清を得た。プロピオン酸およびアスコルビン酸を、最終濃度が50mMになるように、細胞外産物が入っている管に添加した。濾液を、それぞれの酸のpKa値まで(アスコルビン酸は4.2、プロピオン酸は4.87)pH調節し、200μlを96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに移した。C.アルビカンスを、最終濃度が約5×104CFUml-1になるように、各ウェルに添加した。プレートを37℃で20時間インキュベートし、その成長について、計算した平均値を示している濁度の目視観察に基づいた5から0のスケール上で、テンプレートを使用して2名が評価し段階分けした。純粋なdMRSブロス中で強力に成長したカンジダを含有するウェルを、5に段階分けし、一方、成長が目視されなかったウェルを0に段階分けした。
【0095】
(結果)
図3Aおよび3Bからそれぞれわかるように、Ess-1からの上清をアスコルビン酸またはプロピオン酸のどちらかと組み合わせたときに、予期せぬ阻害の増大が得られた。
【0096】
(試験4)
この試験の目的は、ラクトバチルスプランタルムLB 931の細胞成長と組み合わせた、酢酸Naからのカンジダ阻害の亢進について評価することであった。
【0097】
(方法)
2つのプレートをM17寒天で作製し、2つをMRS寒天で作製した。MRS培地(De Man、Rogosa、およびSharpeによって開発された)は、ラクトバチルスに一般に使用されている成長培地である。Merckから得たMRS寒天は、寒天1リットル当たり酢酸ナトリウムを5g含有する。M17(Oxoid)は、同様のラクトバチルス用の市販の基質であるが、酢酸ナトリウムは添加していない。これらの寒天は、パッケージ上に、記述されるように調製した。
【0098】
ラクトバチルスプランタルムLB 931を、5%CO2の下、37℃で、MRSブロス中で24時間培養した。カンジダアルビカンス702は、37℃のM17ブロス中で24時間培養した。
【0099】
穴(φ10mm)をプレートに開け、MRS寒天中に約107 LB 931を含有する寒天混合物の、250μlのプラグを充填した。プレートを30分間放置し、次いで5%CO2の下、37℃で24時間インキュベートした。M17ブロスでC.アルビカンスを一晩培養したものを、10倍に希釈し、100μlを各プレートの表面に塗り拡げた。次いでプレートを、37℃で24時間インキュベートした。対照として、穴(φ10mm)にMRS寒天のみ充填した。
【0100】
プレートを、そのカンジダ成長阻害に関して評価した。カンジダの成長が無いプラグの周りのゾーンを測定した(φmm)。
【0101】
(結果)
ゾーンのサイズを表1に見ることができる。
【0102】
【表1】

【0103】
LB 931は、LB 931が接種されている全てのプラグで十分に成長した。M17寒天のプレート上に、カンジダが成長していないゾーンはなかった。MRS寒天プレートでは、LB 931プラグの周りに透明なゾーンがあるが、寒天のみのプラグの周りにはゾーンがなかった。
【0104】
LB 931を、非常に少ない量でプレートに付着させたが、このことは、M17寒天プレート上になぜカンジダの阻害が見られなかったのかを説明することができる。しかしこれは、LB 931と添加剤との相乗効果によるカンジダの効率的な阻害を示しており、この場合、酢酸ナトリウムがMRS培地に含まれていた。
【実施例】
【0105】
本発明に関する下記の実施例は、例示的なものであり、当然ながら、本発明を具体的に限定するものと解釈すべきではない。
【0106】
(実施例1)
Ess-1の単離および類別
この研究の最初の目的は、他のラクトバチルス株に比べてかなりの程度までカンジダアルビカンスおよびカンジダグラブラタ(Candida glabrata)の成長を阻害するラクトバチルス株を、単離し類別することである。
【0107】
(方法)
(酵母株)
カンジダアルビカンスおよびカンジダグラブラタの臨床単離株を、試験株として使用した。これらを、膣カンジダ症に罹っている女性の膣から、および健康な女性から単離した。
【0108】
(スクリーニング1)
ヒトの皮膚、喉、歯、乳児の便、野菜、および種子由来の、約140のラクトバチルス株を、MRSブロスで培養し、MRS寒天プレート上にスタンプした。この寒天プレートを、37℃の嫌気性条件下でインキュベートした。さらにSAB(Sabouraud)寒天(LAB M、Bury、UK)をMRS寒天上に注ぎ、凝結させた。C.アルビカンス培養物を寒天上に播き、プレートを、37℃で好気的にインキュベートした。阻害の視覚的評価を行った。参照株であるラクトバチルスプランタルムLB 931に等しくまたはそれよりも大量にC.アルビカンスを阻害する株を選択し、さらなるスクリーニング(スクリーニング2)にかけた。
【0109】
(スクリーニング2)
dMRSブロス(酢酸ナトリウムが添加されないMRS)で成長したラクトバチルスの懸濁液を、遠心分離し、滅菌濾過した。濾液を、以後、ラクトバチルス無細胞濾液、LCFと呼ぶ。指定された体積をマイクロタイタープレートのウェルに移し、空気乾燥させ、その後、滅菌蒸留水に再懸濁して3倍の濃度にし、96ウェルマイクロタイタープレートに移した。カンジダを、全てのバイアルに添加した(それぞれC.アルビカンスおよびC.グラブラタの3つの単離株を使用した)。阻害を、濁度の目視観察によって評価し、5から0のスケールでテンプレートを使用して、2名により段階分けした。純粋なdMRSブロスで強力に成長したカンジダ種を含有するウェルを、5に段階分けし、一方、成長が目視されなかったものを0に段階分けした。
【0110】
(API類別および遺伝子型類別)
種のレベルの同定を、API 50 CHLシステム(bioMerieux、フランス)を使用して、製造業者の取扱い説明書に従って行った。発酵試験から得たデータを、API Lab Plusソフトウェアを使用して分析した。遺伝子型類別は、16S rRNAの部分配列決定分析により、DSMZ(Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbH)によって行った。
【0111】
(結果)
全ての株を、スクリーニング1でのC.アルビカンスに対する成長阻害能力に応じて評価した。LB 931の場合に匹敵しまたはそれを超える結果を有する23のラクトバチルス株を、スクリーニング2用に選択した。それらの23のラクトバチルス株の中で、3つは参照株であり、大多数の株は口道から単離したものであった。
【0112】
Ess-1は、カンジダの成長を阻害する包括的な能力を有することが判明した。試験がなされたラクトバチルス株の中で、C.アルビカンスおよびC.グラブラタの両方に対する影響に関してEss-1の活性と同様であるものはなかった。Ess-1に関する炭水化物発酵パターンおよび遺伝子型類別は、ラクトバチルス発酵種に属することが示された。
【0113】
(Ess-1の特徴付け)
株Ess-1(DSM 17851)から得た16S rDNAを、PCR増幅16S rDNAの約450ヌクレオチドの直接的な配列決定によって、DSMZ(Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbH)により分析した。ゲノムDNA抽出、16S rDNAのPCR媒介型増幅、およびPCR産物の精製を、前述のように実施した(Rainey,F.A.他、Int. J. Sys. Bacteriol. 1996 (46): 1088〜1092)。精製したPCR産物について、CEQ(商標)DTCS-Quickstart Kit (Beckamn Coulter)を使用し、製造業者の取扱い説明書に従って配列決定した。配列反応産物を、CEQ(商標)8000遺伝子分析システムを使用して電気泳動させた。
【0114】
得られた配列データをアラインメントエディターae2 (Maidak,B.L.他、Nucl. Acids Res. 1999 (27): 171〜173)に入れ、手作業でアラインメントし、ファーミキューテス(Firmicutes)に属する生物の代表的な16S rRNA遺伝子配列と比較した(Maidak,B.L.他)。比較のため、16S rRNA配列を、EMBLデータベースまたはRDP(Maidak,B.L.他)から得た。
【0115】
この分析の結果、下記の表2にはこれらの生物が列挙され、その16S rRNA遺伝子配列は、Ess-1の16S rDNA配列に比べて最高の相似値を示している。
【0116】
【表2】

【0117】
株Ess-1の部分16S rDNA遺伝子配列は、ラクトバチルスファーメンタムに対して最高の相似性を示す。その結果、株Ess-1は、ラクトバチルスファーメンタムの株であってもよいが、ラクトバチルス属の新種であってもよい。
【0118】
(実施例2)
プロバイオティクスラクトバチルスの産生
実験室規模において: ex. MRSブロスが入っている滅菌容器に、所望のラクトバチルス株の純粋な接種物を接種する。細菌を含むブロスを、好ましくは5%CO2の雰囲気と共に、37℃で一晩インキュベートする。次いで細胞を、遠心分離および滅菌生理食塩液を使用して洗浄してよい。保護糖、デンプン、またはタンパク質を添加し、細胞集団を凍結乾燥し、ミリング処理してよい。
【0119】
生産規模では、作業シードロットを種々のステップで、生産規模まで発酵させる。この生産は、特定の株が生産されるように制御され、最適化される。発酵後、培養物を洗浄し、かつ/または交差流精密濾過または遠心分離を使用して濃縮のみ行う。上述の保護糖を添加し、細胞を凍結乾燥しかつミリング処理しまたは噴霧乾燥することができる。
【0120】
(実施例3)
例えばラクトバチルスから得た細胞外産物の生成
実験室規模では、プロバイオティクス株を一晩培養したものを、実施例2のように生成する。濾過または遠心分離の後、上清を収集する。上清は、蒸発によって濃縮してもよく、または例えば乾燥空気中での対流乾燥、凍結乾燥、または噴霧乾燥によって、完全に乾燥してもよい。
【0121】
生産規模では、細菌培養物を、実施例2に従って発酵させる。この細胞外産物は、交差流精密濾過を使用して濾液として、または遠心分離を使用して上清として得られる。この場合も、蒸発を使用してさらに濃縮してもよく、または例えば噴霧乾燥を使用して完全に乾燥してもよい。
【0122】
(実施例4)
配合物
生殖衛生の改善のための衛生用テッシュ
Ess-1及びLB931の両方由来の上清の形態での細胞外産物を伴った、LB931細胞とEss-1細胞の一晩の培養物を酢酸と混合させて最終濃度を50 mMにした。pHを4.9に調節した。混合物をトレハロースで凍結乾燥させて細粒の粉末が形成されるまで細かくした。この粉末10グラムを120 mlのオリーブオイル(Filippo BERIO extra virgin olive oil)に添加し、均一の溶液が形成されるまで撹拌した。オリーブオイルをさらに80 mlのアリコートで添加し、最終量200 mlの溶液を約2分間ボルテックスした。細菌懸濁液を室温で3時間保持し、その間1時間に2回撹拌した。組織用シート(Spun Lace Dupont)を6 x 8 cm の四角形に切り出して無菌のステンレス製スチールのトレイに設置した。各組織用シート上に、4 mlの細菌懸濁液を、組織を覆うように滴下した。組織用シートを中央で折り畳み、ついで長い側から中央に再び折り畳んで、端が溶接されている
フォイルバッグ中にパックした。
【0123】
配合物の3つの例全てが、プロバイオティクス細菌としてラクトバチルスプランタルムLB 931および/またはラクトバチルスファーメンタムEss-1しか含まない場合であっても、前述のように本発明に適した全てのプロバイオティクス細菌を、同様に使用してもよいことに留意すべきである。
【符号の説明】
【0124】
図4−図6の1 生理用ナプキン
図4−図6の8 微生物阻害組成物
【受託番号】
【0125】
受入番号(DSMZ): DSM 11918, ラクトバチルムスプランタルムLB 931
受入番号(DSMZ): DSM 17851, ラクトバチルスファーメンタムEss-1
[寄託書]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物阻害組成物(8)を含む、おしぼり、ペーパータオル、洗面タオル、パッチ、ウェットティッシュ、ナプキンなどの衛生用テッシュ(1)であって、前記微生物阻害組成物(8)が、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌の細胞外産物、ならびに有機酸および/またはそれの塩の形態で、5.5を超えないpKa値を有する少なくとも1種の添加剤を含む衛生用テッシュ。
【請求項2】
前記pKa値が5を超えない、請求項1に記載の衛生用テッシュ。
【請求項3】
前記細胞外産物が、プロバイオティクス細菌の培養物の濾過または遠心分離によって得られる上清の形をとる、請求項1または2に記載の衛生用テッシュ。
【請求項4】
前記微生物阻害組成物(8)が、乳酸産生細菌を実質的に含まず、好ましくは100 CFU/mlよりも高い量で存在せず、より好ましくは10 CFU/mlよりも高くない、請求項1から3のいずれか一項に記載の衛生用テッシュ。
【請求項5】
前記微生物阻害組成物(8)がさらにプロバイオティクス細菌を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の衛生用テッシュ。
【請求項6】
前記プロバイオティクス細菌が乳酸産生細菌である、請求項1から5のいずれか一項に記載の衛生用テッシュ。
【請求項7】
前記乳酸産生細菌が、ラクトバチルスプランタルムLB 931、ラクトバチルスファーメンタムEss-1、またはこれらの組合せである、請求項6に記載の衛生用テッシュ。
【請求項8】
前記添加剤が、酢酸、プロピオン酸、乳酸、アスコルビン酸、フェニルアラニン、クエン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、コハク酸、および/またはこれらの塩から選択され、好ましくは、前記添加剤が、酢酸、プロピオン酸、乳酸、アスコルビン酸、フェニルアラニン、クエン酸、またはコハク酸、および/またはこれらの塩から選択され、最も好ましくは、前記添加剤が、アスコルビン酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、および/またはこれらの塩から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の衛生用テッシュ。
【請求項9】
前記塩がナトリウム塩であり、好ましくはプロピオン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムである、請求項8に記載の衛生用テッシュ。
【請求項10】
前記微生物阻害組成物(8)が、アンプル、ボトル、チューブ、ロールオンデバイス、スティック、またはスプレーとして提供される、請求項1から9のいずれか一項に規定される微生物阻害組成物(8)及び前記衛生用テッシュ(1)を含むキット。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に規定される衛生用テッシュ、ならびに生理用ナプキン、パンティライナー、失禁ガード、おむつ、失禁パッド、女性用挿入物、タンポンなどの吸収用物品を含むキット。
【請求項12】
衛生用テッシュ(1)と組み合わせた、請求項1から9のいずれか一項に記載の微生物阻害組成物の使用。
【請求項13】
前記微生物阻害組成物(8)を前記衛生用テッシュ(1)に適用させる工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の衛生用テッシュの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−509981(P2010−509981A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537110(P2009−537110)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【国際出願番号】PCT/SE2006/001312
【国際公開番号】WO2008/060199
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(506215320)エスセーアー・ハイジーン・プロダクツ・アーベー (157)
【Fターム(参考)】