説明

微粒子の凝集抑制方法及び保存液

【課題】微粒子の保存中に生じる凝集を簡便に抑制し、凝集により生じるシグナル強度のばらつきを低減する方法を提供する。
【解決手段】平均分子量2M以上のPEGの溶液を、微粒子懸濁液に添加して微粒子の凝集を抑制する方法、ならびに平均分子量2M以上のPEGを含む微粒子保存液に関する。微粒子が磁気微粒子であり、微粒子の粒径が1μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の凝集を抑制するための方法及び保存液、より具体的には、磁気微粒子の凝集を抑制する方法及び保存液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床検査や遺伝子検査は、患者から採取した血液、尿、便などの臨床検体を出発原料とし、検査対象となる生体成分の存在量や生化学的な特徴を計測して診断指標を提供することを目的としている。しかし臨床検体は、多種多様な夾雑物を含み、夾雑物により検査対象である目的成分の検出が妨げられ検査結果の精度が低下する場合がある。
【0003】
そこで近年では、臨床検体から目的成分を単離・濃縮するために、目的成分に特異的に結合する抗体などの分子を表面に結合した磁気微粒子を利用する前処理技術が広く用いられるようになってきている。磁気微粒子は、夾雑物を多く含む液性検体中でも目的成分との接触頻度が高く、目的成分を効率よく吸着し単離することが可能である。また、磁気微粒子は磁気によるB/F分離が可能で、遠心機等の大型な装置を使用する必要がなく、自動化装置への適用に有効である。臨床検査分野においては、高感度なアッセイの開発を目指し微粒子による反応時間短縮・感度向上が望まれている。一般的に、微粒子は、保存中に粒子同士の凝集が進み、表面積が減少することによりシグナル強度が低下するという課題がある。また、保存中に凝集が進むため、微粒子の使用時期により凝集の程度が異なり、凝集塊の表面積にばらつきが生じ再現性の高い結果が得られないという課題がある。
【0004】
粒径0.01〜100μmの粒子が凝集することにより生じる課題を解決する手段として、特許文献1において(以下、従来例1)、「非特異的反応や自然凝集等を抑制するために処理を行う必要があれば、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化させた容器の溶液収容部分の内壁面又は粒子に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミン、若しくはその塩などのタンパク質、界面活性剤又は脱脂粉乳等を接触させること等の公知の方法により処理して、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化させた担体のブロッキング処理(マスキング処理)を行ってもよい。」旨の記載がある。
【0005】
非特許文献1においては(以下、従来例2)、分子量2000〜5000のPEGを粒径2.2μmの磁気微粒子表面に修飾し粒子の分散性を高めている。
【0006】
上記従来例1には以下の課題が考えられる。従来例1ではラテックス粒子におけるブロッキング処理の効果を示しているが、ラテックス粒子以外の粒子に対する効果は不明である。またブロッキング処理により、どの程度凝集が抑制されるか開示されていない。さらにブロッキング処理を行ったラテックス粒子においては、粒子の表面に上記ブロッキング剤による被覆が生じていると考えられ、ラテックス粒子表面が生体物質等結合のための活性基やリンカーで修飾されている場合には、形成された被膜が生体物質等の結合反応に阻害的に働き、表面の活性基やリンカーが見かけ上減少するという課題が生じる可能性がある。
【0007】
従来例2で述べられている粒子の分散性は、免疫沈降反応において抗原を添加したときに生じる粒子の凝集を粒子の沈降により評価しているに過ぎず、粒子の保存中に生じる凝集に対する評価は行っていない。また、PEGが表面に修飾されていない粒子を用いる場合は、粒子を使用する前にPEGで修飾する工程が必要となり、従来例1のように添加するだけの場合に比較し、手間と時間を要し簡便な方法ではない。
【0008】
粒径1μm以下の微粒子では、従来例で示されている粒径が1μmを超える粒子よりも、単位重量あたりの表面積が大きくなるため微粒子同士の接触回数が多くなり、凝集しやすくなると予想される。そのため保存中に微粒子の凝集を抑制し、且つ微粒子の反応性にも影響を及ぼさない保存液の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-227027
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nagasaki Y, Kobayashi H, Katsuyama Y, Jomura T, Sakura T.;Enhanced immunoresponse of antibody/mixed-PEG co-immobilized surface construction of high-performance immunomagnetic ELISA system, J Colloid Interface Sci, 309, 524-530, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、微粒子の保存中に生じる凝集を効率よく抑制し、且つ微粒子の反応性を維持する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、微粒子の保存中に生じる凝集を重量平均分子量2,000,000(2M)のポリエチレングリコール(PEG)を添加することにより抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)微粒子の凝集を抑制する方法であって、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールの溶液を、微粒子を含む懸濁液に添加することを含む、前記方法。
(2)微粒子が磁気微粒子である、(1)に記載の方法。
(3)微粒子の粒径が1μm以下である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)ポリエチレングリコール最終濃度が0.05〜1w/v%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)微粒子の凝集を抑制するための微粒子保存液であって、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールを含有する前記保存液。
(6)微粒子が磁気微粒子である、(5)に記載の保存液。
(7)微粒子が粒径1μm以下の微粒子である、(5)又は(6)に記載の保存液。
(8)ポリエチレングリコール濃度が0.1〜5.0w/v%である、(5)〜(7)のいずれかに記載の保存液。
(9)(5)〜(8)のいずれかに記載の保存液を用いて保存した微粒子を、反応液に添加するステップを有する、反応方法。
(10)(5)〜(8)のいずれかに記載の保存液を用いて保存した微粒子を洗浄し保存液を除去するステップと、保存液を除去した微粒子を反応液に添加するステップを有する、反応方法。
(11)微粒子及び重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールを含有する、微粒子懸濁液。
(12)微粒子が磁気微粒子である、(11)に記載の微粒子懸濁液。
(13)微粒子の粒径が1μm以下である、(11)又は(12)に記載の微粒子懸濁液。
(14)ポリエチレングリコール濃度が0.05〜1w/v%である、(11)〜(13)のいずれかに記載の微粒子懸濁液。
(15)微粒子が生体物質を結合するための表面修飾を有する、(11)〜(14)のいずれかに記載の微粒子懸濁液。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、微粒子に生じる凝集を簡便に抑制することができ、さらには、凝集により生じる測定結果のばらつきを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】PEGを含む保存液で保存した場合の単分散粒子の割合を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態である免疫酵素反応の模式図である。
【図3】実施例1の実験フローを示す。
【図4】実施例1で使用した微粒子の単分散粒子の割合を示す図である。
【図5】実施例1の免疫酵素反応の結果を示す図である。
【図6】実施例2の実験フローを示す。
【図7】実施例2で使用した微粒子の単分散粒子の割合を示す図である。
【図8】実施例2の免疫酵素反応の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、微粒子の凝集を抑制する方法に関し、該方法は、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールの溶液を、微粒子を含む懸濁液に添加することを含む。重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールの溶液を、微粒子を含む懸濁液に添加することにより、微粒子懸濁液の保存において微粒子の凝集を抑制することができる。従って、換言すれば、本発明は、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールの溶液を、微粒子を含む懸濁液に添加することを含む、微粒子懸濁液の保存方法に関する。
【0017】
本発明の方法において対象となる微粒子は特に制限されないが、水不溶性で、加熱変性時に溶融しないものが好ましい。その材料としては、例えば、例えば、金、銀、銅、鉄、酸化鉄、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;シリコン;ガラス、石英ガラス、溶融石英、合成石英、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライトおよび感光性ガラス等のガラス材料;ポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene 樹脂)、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂および塩化ビニル樹脂等のプラスチック;アガロース、デキストラン、セルロース、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、キチン、キトサンが挙げられる。本発明は、特に、鉄や酸化鉄からなる集磁可能な磁気微粒子を対象とすることが好ましい。磁気微粒子を用いる場合は、磁気分離による微粒子の回収等が可能となり、取り扱いが簡便な点で有利である。
【0018】
微粒子はいかなる形状のものでもよく、多面体、多角柱、球、円柱、錐体等の形状が挙げられる。微粒子のサイズは、好ましくは粒径1μm以下、より好ましくは粒径0.5〜1.0μmである。ここで、粒径は、平均粒径をさし、微粒子が球状でない場合、粒径は最長辺の長さをさす。
【0019】
本発明の方法は、生体物質を捕捉するための微粒子に特に好適に用いられる。生体物質を捕捉するための微粒子は、好ましくは、生体物質を結合するための表面修飾を有する。生体物質には、核酸(DNA及びRNAを含む)、タンパク質、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、糖、細胞などが包含される。微粒子上の表面修飾は特に限定されず、生体物質を、共有結合、イオン結合、水素結合、物理吸着、生物学的結合(例えば、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジンとの結合、抗原と抗体との結合など)によって結合するための表面修飾が挙げられる。具体的には、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、メルカプト基等を結合する活性基の導入、ならびに、プロテインA、プロテインG、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、アビジン、ストレプトアビジン等のタンパク質による被覆が挙げられる。
【0020】
例えば、微粒子に、活性エステル基、エポキシ基、アルデヒド基、カルボジイミド基、イソチオシアネート基またはイソシアネート基等の活性基を導入することにより、生体物質のアミノ基と共有結合を形成できる。また、微粒子に、活性エステル基、マレイミド基またはジスルフィド基等の活性基を導入することにより、生体物質のメルカプト基と共有結合を形成できる。活性エステル基としては、例えば、p−ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド基等が挙げられる。
【0021】
活性基を微粒子の表面に導入する方法の一つとしては、所望の活性基を有するシランカップリング剤によって微粒子を処理する方法が挙げられる。カップリング剤の例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−β−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、あるいはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。活性基を微粒子に導入する別の方法としては、プラズマ処理が挙げられる。このようなプラズマ処理により、微粒子の表面に、水酸基やアミノ基等の官能基を導入することができる。プラズマ処理は、当業者には既知の装置を用いて行うことができる。
【0022】
物理吸着によって生体物質を微粒子に結合する方法としては、ポリ陽イオン(ポリリシン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等)で表面処理した微粒子に、生体物質の荷電を利用して静電結合させる方法などが挙げられる。
【0023】
本発明の方法は、生体物質検出試験に使用するための微粒子にも好適に用いられる。生体物質検出試験は、検体等の試料に含まれる生体物質を検出する試験をさし、好ましくは、特定の生体物質を分離すること、及び/又は生体物質の相互作用を検出することを含む。生体物質の相互作用には、生体物質間の相互作用、及び生体物質とその他の物質との相互作用が包含され、例えば、タンパク質間の相互作用、タンパク質とポリペプチドの相互作用、核酸間の相互作用、タンパク質と核酸の相互作用、タンパク質と化合物との相互作用などが包含され、好ましくは生体物質間の特異的相互作用である。より具体的には、核酸相補鎖間のハイブリダイゼーション、抗原と抗体又はその断片との反応、酵素と基質又は阻害剤との結合反応、リガンドとレセプターの結合反応、アビジンとビオチンの結合反応、核酸と転写因子の結合反応、細胞接着因子の結合反応、糖鎖とタンパク質の結合反応、脂肪鎖とタンパク質の結合反応、リン酸基とタンパク質の結合反応、補欠因子とタンパク質の結合反応などが挙げられる。
【0024】
ポリエチレングリコール(PEG)の重量平均分子量は、2,000,000(2M)以上、好ましくは2〜3.5Mである。ここで、PEGの重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーを使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定したものをさす。一般に、重量平均分子量2MのPEGには1.5M〜2MのPEGが含まれる。
【0025】
重量平均分子量2M未満のPEGでは微粒子の凝集を抑制する効果がないので、本発明において用いるPEGの平均分子量は2M以上に限定される。凝集抑制効果を発揮するメカニズムは明らかではないが、一般的にPEGは溶液中で網目構造を形成すると考えられており、平均分子量2M以上のPEGが形成する網目構造により物理的障害が生じ、微粒子の接触頻度が低減することで凝集が抑制できると考えられる。
【0026】
ポリエチレングリコール(PEG)は、エチレングリコールの重合体であり、HO-(CH2-CH2-O)n-Hで表される構造を有する、ポリマーをさす。
【0027】
PEG溶液を微粒子を含む懸濁液に添加する際、PEG最終濃度、則ちPEG溶液添加後の微粒子懸濁液におけるPEG濃度が、好ましくは1w/v%以下、より好ましくは0.05〜0.1w/v%となるようにする。PEG最終濃度を0.05w/v%以上とすることにより、微粒子の凝集を効果的に抑制することができ、PEG最終濃度が1w/v%以下であればPEGが溶媒に容易に溶解する。
【0028】
PEGを溶解する溶媒は、特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。溶媒のpHは特に限定されず、その後の工程に合わせて適宜調製される。PEG溶液におけるPEG濃度は、微粒子懸濁液に添加した後のPEG最終濃度が上記濃度範囲となるように適宜選択されるが、好ましくは0.1〜5.0w/v%、より好ましくは0.5〜1w/v%である。
【0029】
保存中の微粒子の濃度は特に限定されず、その後の工程に合わせて適宜調製されるが、通常、50 mg/mL以下、より好ましくは1〜10 mg/mLである。
【0030】
本発明はまた、微粒子の凝集を抑制するための微粒子保存液に関する。本発明の微粒子保存液は、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールを含有する。保存対象となる微粒子、及びポリエチレングリコールについては、上述したとおりである。本発明の微粒子保存液におけるポリエチレングリコールの濃度は、微粒子懸濁液に保存液を添加した後のPEG最終濃度が上記濃度範囲となるように適宜選択されるが、好ましくは0.1〜5.0w/v%、より好ましくは0.5〜1w/v%である。
【0031】
本発明はまた、微粒子及び重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールを含有する、微粒子懸濁液に関する。微粒子、及びポリエチレングリコールについては、上述したとおりである。微粒子懸濁液におけるPEG濃度は、好ましくは1w/v%以下、より好ましくは0.05〜0.1w/v%である。PEG濃度を0.05w/v%以上とすることにより、微粒子の凝集を効果的に抑制することができ、PEG濃度が1w/v%以下であればPEGが溶媒に容易に溶解する。微粒子懸濁液における微粒子の濃度は特に限定されないが、通常、50 mg/mL以下、より好ましくは1〜10 mg/mLである。
【0032】
本発明のポリエチレングリコールを含む保存液中で保存された微粒子を使用するときは、微粒子が保存液に懸濁された状態で用いてもよいし、使用前に洗浄し微粒子から保存液を除去してもよい。洗浄後に微粒子を懸濁する溶液は特に限定されず、使用用途にあわせて適宜選択される。
【0033】
本発明の保存液で保存した微粒子の使用用途は特に限定されない。微粒子を適切に表面修飾することにより、例えば、免疫酵素反応、免疫凝集反応、免疫沈降反応、核酸精製、タンパク質精製、細胞回収、細菌回収等に使用することができる。例えば、免疫酵素反応においては、微粒子の凝集により全微粒子の表面積の総和が減少するために、微粒子の凝集程度により検出されるシグナル強度にばらつきが生じることが問題となることがあるが、本発明の保存方法及び保存液を用いることにより微粒子の凝集を抑制し、シグナル強度のばらつきを抑制することができる。
【0034】
本発明の保存液を用いて保存した微粒子を、例えば、生体物質の捕捉反応の反応液や生体物質の相互作用の反応液、好ましくは、免疫酵素反応、免疫凝集反応、免疫沈降反応等の反応液に添加して、反応を実施することができる。好ましくは、本発明の保存液を用いて保存した微粒子を洗浄して保存液を除去してから、微粒子を上記のような反応液に添加して反応を実施する。反応の前に微粒子を洗浄して保存液を除去することにより、PEGの排除体積効果により反応のシグナル強度を増強することができる。
【0035】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
〔実施例1〕
PEG添加による凝集抑制効果の検討
評価対象の微粒子として粒径1μmの磁気微粒子MyOne(Dynal社)を用いた。一般に磁気微粒子等は低温(4℃程度)で保存され、保存期間が長期になるほど磁気微粒子の凝集が生じ進行すると考えられている。磁気微粒子の長期間保存による凝集を実験的に再現するために、前記磁気微粒子を、4 ℃で1年間保存した状態と同等であると推定される、37℃で2週間保存する加速試験を実施した。重量平均分子量2MのPEG溶液を、磁気微粒子を含む懸濁液に添加し加速試験を行った後、微粒子の粒径分布を求めた。粒径分布は粒子の相対的な大きさに比例する前方散乱(FS)、側方散乱(SS)を指標として測定し、加速試験後の微粒子中に含まれる単分散粒子の割合を求めた。磁気微粒子の濃度は、1 mg/mLとした。その結果を図1に示す。微粒子の懸濁液として通常用いられているリン酸緩衝液(以下PBSとする)に磁気微粒子を懸濁し、4℃で2週間保存した時の単分散粒子の割合は67.7%であるのに対し、37℃で2週間の加速試験を行ったときの単分散粒子の割合は31.8%に減少し磁気微粒子が凝集していた。一方、重量平均分子量2MのPEGを最終濃度0.05〜0.25w/v%で添加したときは、37℃で2週間の加速試験後の単分散粒子の割合は78%以上で、重量平均分子量2MのPEGの添加により磁気微粒子の凝集を抑制できることが明らかになった。比較対照として、重量平均分子量0.5MのPEGを最終濃度2.5又は0.25w/v%で添加したときは、37℃で2週間の加速試験後の単分散粒子の割合は50%以下であり、重量平均分子量0.5MのPEGでは磁気微粒子の凝集を抑制することができなかった。この結果は、重量平均分子量2MのPEGは磁気微粒子の凝集抑制に効果があることを示す。
【0037】
微粒子を用いた免疫酵素反応評価
以下に示す方法を用いて、加速試験(37℃で2週間保存)を行った後の磁気微粒子の反応性を評価した。
免疫酵素反応のモデル系としてサンドイッチELISA系を用いた(図2)。使用した磁気微粒子1の表面にはストレプトアビジン2が修飾され微粒子3を形成している。検出成分5として肝臓がんの腫瘍マーカーであるα-フェトプロテイン(以下AFPとする、Dako X0900)、捕捉抗体4としてビオチン標識抗AFPヤギポリクローナル抗体(NBT PA-011)、検出抗体6としてアルカリフォスファターゼ標識抗AFPラビットポリクローナル抗体(Dako A008)を用いた。1.8 μLの捕捉抗体4と0.5 μLの検出成分5と0.6 μLの検出抗体6と180 μLのWash Buffer(0.9 % NaCl、0.1 % Tween20、以下WBとする)を混合して複合体7を形成させたものを、以降の反応に用いた。反応のフローを図3に示す。保存液中の磁気微粒子の濃度は、1 mg/mLとした。図3に示す保存液中で加速試験を行った微粒子3を14.4 μg使用し、白色ウェルプレート中で、これに20 μLの複合体7と80 μLのWBを混合し、37 ℃で反応後、磁気分離により微粒子3を回収した。80 μLのWBで微粒子を2回洗浄後、発光基質CDP-star(GEヘルスケアバイオサイエンス)を30 μL添加し、37 ℃で5分間反応させた。発光の測定はプレートリーダー(TECAN ULTRA)で行った。
【0038】
図3に示す保存液中で加速試験を行った微粒子3の単分散粒子の割合を図4に示す。単分散粒子の割合は、0.1w/v%PEGで78.5%であり、PBS中で加速試験を行った微粒子3より単分散粒子の割合が高く、PEGに凝集を抑制する効果があることが示された。
【0039】
次に、図3に示す保存液中で加速試験を行った微粒子3を使用して免疫酵素反応を行ったときの結果を、図5を用いて説明する。PBS中で加速試験を行った微粒子3を用いた場合のシグナル強度は、4℃で2週間保存した微粒子3を用いた場合と比較し約3割減少した。重量平均分子量2MのPEGを含む溶液中で加速試験を行った微粒子3を用いた場合は、4℃で2週間保存した微粒子3を用いた場合と比較してシグナル強度が約2倍に上昇した。この結果は、凝集抑制及びシグナル強度増強の両観点から、重量平均分子量2MのPEGは微粒子3の保存液の成分として適していること、平均分子量2MのPEGを、微粒子懸濁液に添加することで微粒子の凝集を抑制できることを示すものである。
【0040】
〔実施例2〕
実施例1と同様に重量平均分子量2MのPEGを含む溶液中で加速試験(37℃で2週間保存)を行った微粒子3を、免疫酵素反応を行う直前に洗浄し、PEGを除去してから免疫酵素反応に使用した。反応のフローを図6に示す。
【0041】
図6に示す保存液中で試験を行った微粒子3の単分散粒子の割合を図7に示す。微粒子3がPEGを含む保存液に懸濁したままの単分散粒子の割合は79.1%であるのに対し、加速試験後にPEGを除去した微粒子3の単分散粒子の割合は87.3%であり、PEGを除去しても微粒子3は凝集せず分散状態を維持していることが確認できた。
【0042】
次に、図6に示す保存液中で試験を行った微粒子3を使用して免疫酵素反応を行ったときの結果を図8に示す。PEGを含む保存液中での加速試験後にPEGを除去した微粒子3のシグナル強度は、PBS中4℃で2週間保存した微粒子と比較しおよそ3割上昇した。この結果は、重量平均分子量2MのPEG溶液中で微粒子3を保存することで、微粒子3の凝集を抑制しシグナル強度の低下を防止できたことを示す。微粒子3を、PEGを含む保存液中で加速試験を実施した後、PEGを含む保存液に懸濁したまま使用した時のシグナル強度と、PEGを除去して使用した時のシグナル強度の差は、PEGの排除体積効果によるシグナル強度の増強を示す。微粒子3を、PBSで懸濁し4℃で2週間保存した時のシグナル強度と、PEGを含む保存液中で加速試験を実施した後PEGを除去し使用した時のシグナル強度の差は、PEGを添加することにより微粒子3の凝集が抑制され表面積の低下が防止され、シグナル強度が維持されたことを示す。
【0043】
以上のことから、凝集抑制及びシグナル強度安定化の両観点において、重量平均分子量2MのPEGは微粒子3の保存液の成分として適していること、重量平均分子量2MのPEGを、微粒子3を含む懸濁液に添加することで微粒子3の凝集を抑制できることが明らかになった。また本発明により、従来例2と異なりPEGを保存液に添加するだけで微粒子3の凝集を簡便に抑制することが可能となった。
【符号の説明】
【0044】
1…磁気微粒子
2…ストレプトアビジン
3…微粒子
4…捕捉抗体
5…検出成分
6…検出抗体
7…複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子の凝集を抑制する方法であって、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールの溶液を、微粒子を含む懸濁液に添加することを含む、前記方法。
【請求項2】
微粒子が磁気微粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微粒子の粒径が1μm以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ポリエチレングリコール最終濃度が0.05〜1w/v%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
微粒子の凝集を抑制するための微粒子保存液であって、重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールを含有する前記保存液。
【請求項6】
微粒子が磁気微粒子である、請求項5に記載の保存液。
【請求項7】
微粒子が粒径1μm以下の微粒子である、請求項5又は6に記載の保存液。
【請求項8】
ポリエチレングリコール濃度が0.1〜5.0w/v%である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の保存液。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の保存液を用いて保存した微粒子を、反応液に添加するステップを有する、反応方法。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の保存液を用いて保存した微粒子を洗浄し保存液を除去するステップと、保存液を除去した微粒子を反応液に添加するステップを有する、反応方法。
【請求項11】
微粒子及び重量平均分子量2,000,000以上のポリエチレングリコールを含有する、微粒子懸濁液。
【請求項12】
微粒子が磁気微粒子である、請求項11に記載の微粒子懸濁液。
【請求項13】
微粒子の粒径が1μm以下である、請求項11又は12に記載の微粒子懸濁液。
【請求項14】
ポリエチレングリコール濃度が0.05〜1w/v%である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の微粒子懸濁液。
【請求項15】
微粒子が生体物質を結合するための表面修飾を有する、請求項11〜14のいずれか1項に記載の微粒子懸濁液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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