説明

微粒子カウンター及び微粒子カウンターチップ

【課題】アパーチャ部の加工精度を低めることができ、かつ様々な大きさの微粒子を含む微粒子含有液体中の微粒子数を高精度に計測することを可能とする微粒子カウンターを提供する。
【解決手段】マイクロ主流路4に設けられたアパーチャ部5よりも上流側においてマイクロ主流路4から分岐し、アパーチャ部5より上流側で再度合流する第1の分岐流路17〜19と第2の分岐流路20〜22とが設けられており、第1,第2の分岐流路17〜19,20〜22の流路幅が、測定対象物である微粒子の直径よりも大きくされており、第1,第2の分岐流路17〜19,20〜22に分散媒のみを流し、再合流地点よりも下流において、微粒子含有液体の両側に分散媒が流れる三層流としてアパーチャ部における隙間Aを測定対象物である微粒子の径に比べて大きくすることを可能とした微粒子カウンター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子含有液体中の微粒子数の計測を行うことを可能とする微粒子カウンター及び微粒子カウンターチップに関し、より詳細には、微粒子含有マイクロ流体中の微粒子の数をインピーダンス変化により計測する微粒子カウンター及び微粒子カウンターチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中の微粒子の数を計測する装置として、コールターカウンターがー広く知られている。コールターカウンターでは、装置内部に設けられた液収容部からポンプにより、微粒子含有液体が流路に供給される。この流路の一部に、例えば、微粒子が1つだけ通過し得る、幅の細いアパーチャ部が設けられている。アパーチャ部を微粒子が通過する際のインピーダンス変化により、微粒子の通過が確認され、それによって通過した微粒子の数がカウントされている。
【0003】
従来のコールターカウンターでは、微粒子の数、例えば、ラテックス粒子や白血球、赤血球のような微粒子の数が測定されていた。この場合、サンプルとしての微粒子含有液体が変更される度に、上記アパーチャ部を含む流路を洗浄しなければならなかった。
【0004】
上記のような洗浄がかなり煩雑であるため、下記の特許文献1には、流路及びアパーチャ部が設けられたカートリッジが、計測部を有する計測装置本体に着脱可能とされている細胞数計測装置が開示されている。ここでは、着脱されるカートリッジに上記アパーチャ部が設けられた流路と、該アパーチャ部におけるインピーダンス変化を測定するための一対の電極とが配置されている。カートリッジを装置本体に装着されると、上記一対の電極が計測部と電気的に接続され、アパーチャ部を通過する細胞の数をカウントすることが可能とされている。
【特許文献1】特開2007−17303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の細胞数計測装置のように、従来のコールターカウンターと称されている微粒子カウンターでは、流路の一部に設けられた幅の狭いアパーチャ部を微粒子が通過する際のインピーダンス変化により、微粒子数がカウントされる。そのためには、アパーチャ部において対向されている流路壁間の隙間の大きさは、微粒子が通過し得る大きさであることが必要である。隙間が小さすぎると、アパーチャ部が詰まり、微粒子数の計測を行うことが困難となる。逆に、隙間が大きすぎると、再現性が低下する。
【0006】
さらに、計測しようとする微粒子の大きさに制限があった。すなわち、様々な大きさの微粒子をカウントしなければならない場合、高精度に、全微粒子数をカウントすることができなかった。そのため、例えば、直径7μm程度の赤血球の数を測定する場合には、アパーチャ部の上記隙間は、10μm程度とすることが望ましいとされている。
【0007】
他方、特許文献1に記載の細胞数計測装置に用いられているカートリッジなどでは、量産性を高め、コストを低減する上では、カートリッジを合成樹脂で構成することが求められている。しかしながら、合成樹脂を用い、10μm程度の非常に小さな隙間を精密に形成しつつ量産することは、非常に困難を伴う。そのため、歩留りが低下するおそれがあった。また、歩留りの低下を抑制するには、非常に高価な設備が必要となる。
【0008】
また、上記細胞数計測装置のような従来の微粒子カウンターでは、アパーチャ部を通過する微粒子間の間隔が十分に確保される必要があった。そのため、測定に先立ち、微粒子分散液を十分に希釈しておかねばならなかった。よって、事前の希釈操作が必要であり、かつ測定された値を校正したり、読み替えたりする必要があった。そのため、事前の希釈操作や上記数値の校正もしくは読み替えが煩雑であり、かつ操作ミスや校正もしくは読み替えの際のミスにより正確な計数値を得ることができないおそれがあった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、計測しようとする微粒子の大きさの制限が少なく、様々な大きさの微粒子の数をも高精度にカウントすることができ、さらに非常に小さな微粒子を測定するためのアパーチャ部を高い歩留りで容易にかつ安価に形成することが可能であり、煩雑な準備操作を省略することも可能な微粒子カウンター及び微粒子カウンターチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の第1の発明によれば、微粒子含有液体が通過されるアパーチャ部を有し、該アパーチャ部におけるインピーダンス変化により微粒子数を計測する微粒子カウンターであって、前記アパーチャ部に連ねられたマイクロ流路を有し、前記微粒子の直径よりも大きな流路幅の第1,第2の分岐流路が前記アパーチャ部よりも上流側に位置している分岐点において前記マイクロ流路から分岐されており、前記第1の分岐流路が前記マイクロ流路を挟んで前記第2の分岐流路と反対側に配置されており、該第1,第2の分岐流路が、前記分岐点よりも下流側であって前記アパーチャ部よりも上流側で前記マイクロ流路に再度合流されていることを特徴とする、微粒子カウンターが提供される。
【0011】
本願の第2の発明では、微粒子含有液体が搬送されるマイクロ流路を形成している流路形成部材を備え、前記マイクロ流路の一部に、微粒子含有液体におけるインピーダンス変化により微粒子の数を計測するためのアパーチャ部が形成されており、前記アパーチャ部におけるインピーダンス変化を検出するように設けられた第1,第2の電極をさらに備える微粒子カウンターであって、前記アパーチャ部に連ねられたマイクロ流路を有し、前記微粒子の直径よりも大きな流路幅の第1,第2の分岐流路が前記アパーチャ部よりも上流側に位置している分岐点において前記マイクロ流路から分岐されており、前記第1の分岐流路が前記マイクロ流路を挟んで前記第2の分岐流路と反対側に配置されており、該第1,第2の分岐流路が、前記分岐点よりも下流側であって前記アパーチャ部よりも上流側で前記マイクロ流路に再度合流されていることを特徴とする、微粒子カウンターが提供される。
【0012】
本発明(第1,第2の発明を、以下本発明と総称する)のある特定の局面では、上記第1,第2の電極が、上記アパーチャ部においてマイクロ流路に配置されている。
【0013】
また、本発明の他の特定の局面では、前記マイクロ流路の前記アパーチャ部よりも上流側の部分においてマイクロ流路から分岐されており、前記アパーチャ部においてマイクロ流路に再度合流されており、前記微粒子の直径よりも大きな流路幅を有する第3,第4の分岐流路をさらに備え、第3,第4の分岐流路に、それぞれ、前記第1,第2の電極が配置されている。
【0014】
すなわち、第1,第2の電極は、上記のように、アパーチャ部においてマイクロ流路に配置されていてもよく、上記第3,第4の分岐流路に配置されていてもよく、アパーチャ部を通過する微粒子によるインピーダンス変化を測定し得る限り、その位置は特に限定されるものではない。
【0015】
本発明に係る微粒子カウンターチップは、本発明に係る微粒子カウンターが構成されているプレートをさらに備え、該プレートに、上記微粒子含有液体が導入されるサンプル導入部とストップバルブが設けられている。従って、プレートのサンプル導入部から微粒子含有液体を導入し、上記第1,第2の電極間のインピーダンス変化を計測することにより、微粒子数を計測することができる。この場合、第1,第2の電極を外部の計測装置と電気的に接続することにより、プレートのみを交換して様々な微粒子含有液体の微粒子数を計測することができる。従って、特許文献1に記載のカートリッジと同様に、プレートを交換することにより、煩雑な洗浄操作を省略することができるととともに、より高精度に様々な微粒子含有液体中の微粒子数を計測することができる。
【0016】
本発明に係る微粒子カウンターチップでは、好ましくは、上記プレート、微粒子含有液体を搬送するためのガスポンプが上記マイクロ流路に接続されるように備えられている。ガスポンプをプレートに内蔵させることにより、外部のポンプ等の駆動源等を省略することができる。
【0017】
本発明に係る微粒子カウンターチップでは、好ましくは、前記プレートに、毛管現象とラプラスバルブによる秤取希釈機構が更に備えられている。
【0018】
本発明の微粒子カウンターチップの他の特定の局面では、上記プレートが上面に開いておりかつ上記マイクロ流路を形成するための溝が形成されたベースプレートと、ベースプレートの上面に積層されて上記溝を閉成することにより、上記マイクロ流路を形成するプレート材とを備える。その場合には、ベースプレートとプレート材を積層することにより、上記マイクロ流路が形成されたプレートを容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明(第1,第2の発明)に係る微粒子カウンターでは、第1,第2の分岐流路の流路幅が微粒子よりも大きいが、マイクロ主流路の流速と、第1,第2の分岐流路における流速との比を分岐流路の幅と長さとで制御することにより、第1,第2の分岐流路に分散媒である液体のみを流入させることができる。従って、アパーチャ部の上流側で、第1,第2の分岐流路から供給される分散媒が再度マイクロ主流路に合流した後には、中央を微粒子含有分散媒が、その両側を分散媒のみが流れる三層流が形成されることとなる。従って、同じ大きさの微粒子の数を測定する場合、アパーチャ部の上記隙間を、三層流でない場合よりも大幅に広げることができる。よって、アパーチャ部の隙間を形成する加工が従来の微粒子カウンターに比べて、格段に容易となる。そのため、合成樹脂を用いて、上記アパーチャ部を備えたマイクロ流路を容易にかつ安価な製造装置で高い歩留りで製造することが可能となる。
【0020】
加えて、上記アパーチャ部の隙間を大きくしても、微粒子を高精度にカウントすることができるため、色々な大きさの微粒子が含まれている場合においても、これらの微粒子の合計を高精度に計数することができる。
【0021】
加えて、流体駆動源であるガスポンプと、秤取希釈流路をチップ上に備えている場合には、サンプルの希釈を自動的に行なうため、測定前に事前の希釈操作等の煩雑な前処理を必要としない。従って、前処理や校正もしくは読み替えによる煩雑な操作も省略することが可能であり、このような煩雑な操作による測定ミスを生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図2及び図3は、本発明の一実施形態に係る微粒子カウンターチップの外観を示す斜視図及び分解斜視図であり、図1は、本実施形態の要部を示す模式的平面図である。
【0023】
図2に示すように、微粒子カウンターチップは、矩形板状のベースプレート2と、ベースプレート2上に積層されたプレート材3とを有する。ベースプレート2とプレート材3とは、接着等の適宜の方法で一体化されている。
【0024】
図3に示すように、ベースプレート2の上面には、上面側に開いた凹状の溝が形成されている。この溝が、平板状のプレート材3の下面を積層することにより閉成されて、後述のマイクロ主流路4などが形成されている。溝と流路の双方に参照番号を付すると、説明が煩雑になるため、以下、上記溝を閉成することにより構成された各流路に参照番号を付して説明することとする。
【0025】
また、プレート材3には、貫通孔3a,3bと貫通孔10a,11aが形成されている。貫通孔3aがサンプル導入部で、貫通孔3bがサンプル排出部とされている。もっとも、後述の変形例のように、サンプル排出部は必ずしも設けられずともよく、チップ内に廃液溜まり等を設けてもよい。
【0026】
ベースプレート2の上面には、本流路としてマイクロ主流路4が形成されている。マイクロ主流路4は、上流側の端部に、貫通孔3aに連なるサンプル導入側端部4aを有する。サンプル導入側端部4aの平面形状は、貫通孔3aと等しくされており、かつ貫通孔3aに重なり合わされている。もっとも、サンプル導入側端部4aは、サンプル中の微粒子を堰き止めない様に連結しているのであれば、貫通孔3aの平面積よりも大きくともよいし、小さくともよい。
【0027】
マイクロ主流路4は、上記サンプル導入側端部4aから矩形のベースプレート2の長さ方向さに沿って延ばされている。マイクロ主流路4の途中には、アパーチャ部5が設けられている。アパーチャ部5は、インピーダンス変化により、微粒子含有液体中の微粒子数を計測する部分である。マイクロ主流路4の残りの部分に比べて、対向流路壁間の隙間A(図1及び図4参照)が狭くされて、アパーチャ部5が構成されている。アパーチャ部5においては、両側に流路6,7が連ねられている。この流路6,7は、アパーチャ部5の一部を構成しており、該流路6,7にそれぞれ、第1,第2の電極8,9が配置されている。第1,第2の電極8,9間のインピーダンス変化により、隙間Aの部分を通過した微粒子の数を計測することが可能とされている。
【0028】
なお、流路6,7の端部には、図1に位置を模式的に示す電解液導入部10,11が設けられている。電解液導入部10,11は、プレート材3に設けられたピンホール10a,11aに連通されている。ピンホール10a,11aから電解液導入部10,11に電解液を注入することにより、電極8,9を電解液に漬し、アパーチャまで電気的に接続する。電解液に替えて、ジェル状の塩橋を用いることもできる。
【0029】
上記アパーチャ部5よりも下流側には、微粒子含有液体排出端部4bが設けられており、該微粒子含有液体排出端部4bは、貫通孔3bに重ねられており、かつ貫通孔3bと同じ平面形状を有する。流されてきた廃液としての微粒子含有液体が、上記サンプル排出部4bに至る。また、上記サンプル排出部4bと貫通孔3bとが連通されており、それによって、マイクロ主流路4の下流側端部が大気に連通されている。
【0030】
第1,第2の電極8,9は、配線12,13により、端子電極14,15に電気的に接続されている。端子電極14,15は、微粒子カウンターチップ1を計測装置の計測部に電気的に接続するために設けられている。従って、端子電極14,15は、ベースプレート2の上面から側面2aに至るように形成されていることが望ましい。あるいは、端子電極14,15を露出させるように、プレート材3に図3に破線で示す切欠B,Cが設けられていてもよい。
【0031】
本実施形態の微粒子カウンターチップ1の特徴は、上記アパーチャ部5と、アパーチャ部5の上流側に設けられた分岐流路の構造にある。
【0032】
すなわち、アパーチャ部5よりも上流側において、マイクロ主流路4からマイクロ主流路4の一方側において、マイクロ主流路4から分岐された複数の第1の分岐流路17〜19が形成されている。マイクロ主流路4の逆の側においても、複数の第2の分岐流路20〜22が形成されている。第1の分岐流路17〜19及び第2の分岐流路20〜22には、アパーチャ部5よりも上流側の分岐点においてマイクロ主流路4から分岐しており、かつ分岐点よりも下流側であって、アパーチャ部5よりも上流側において、マイクロ主流路4に再合流している。
【0033】
上記第1の分岐流路17〜19及び第2の分岐流路20〜22の流路幅は、測定される微粒子の直径よりも大きくされている。微粒子の直径とは、微粒子を被覆し得る数学的最小球の直径をいうものとする。マイクロ主流路4を微粒子含有液体が流れる流速に比べて、分岐流路17〜19,20〜22における流速を十分に小さくすくように流速を制御すれば、ある大きさよりも大きい微粒子が分岐流路17〜22には流れ込まないようにすることができる。
【0034】
具体的な条件を導出するにあたって、理解しやすいように、ここではマイクロ主流路4と分岐流路17〜19,20〜22の流路深さは共通であり、主流路も分岐流路も流路幅が一定であるとみなしうるとして話を進める。また、分岐流路は全て同じ流路幅であり、分岐流路の断面が正方形に近い矩形で、マイクロ主流路はひどく扁平であるとして計算するが、本発明はこの制約が課せられるものではない。
【0035】
さて、分岐流路内流れは矩形管流れで、主流路内の流れは Hele-Shaw流れで近似される。深さが共通の複数の矩形管路において、分岐点と合流点でそれぞれの矩形管路の始点と終点が共有されていると、それぞれの矩形管路内の圧力勾配は、それぞれの矩形管路の流路長に反比例する。流速は圧力勾配に比例する。したがって、それぞれの矩形管路内の流速は、流路長に反比例する。また、長さが同じ扁平流路と矩形管路と比べると、側壁が無視できる分、扁平流路に発達するHele-Shaw流れの方が矩形管流れの約2倍の速度になる。
【0036】
今、分岐流路iの流路長がマイクロ主流路の分岐部から合流部までの長さのni倍であるとすると、扁平流路内の流速は、主流路内の流速の概略2ni分の1となる。さらに、主流路内の流速を V0、i番目の分岐流路内の流速をVi、微粒子の直径をd、分岐流路の幅をwとすると、
微粒子が分岐流路に落ち込まない条件は、
0/Vi>{w−(1/√2)(d/2)}/{(1−1/√2)(d/2)}
>{(2w/d)−1/√2}/(1−1/√2)
となり、先に示した関係から、V0/Vi=2niであるから、
i>{(2w/d)−1/√2}/{2(1−1/√2)}
の関係が導かれる。
【0037】
したがって、例えば、分岐流路の幅が微粒子の直径の1.5倍あっても、分岐流路の流路長が主流路の分岐部から合流部までの長さの4倍以上あれば、粒子は分岐流路に流れ込むことなく、分散媒のみが流れ込むこととなる。同様に、分岐流路の幅が微粒子の直径の2倍あっても、分岐流路の流路長が主流路の分岐部から合流部までの長さの5.7倍以上あれば、粒子は分岐流路に流れ込むことなく、分散媒のみが流れ込むこととなる。
【0038】
分岐流路は複数あり、いずれの分岐流路においても分散媒のみが流れる。その結果、図4にアパーチャ部近傍を拡大して示すように、分岐流路17〜22が合流した部分よりも下流側においては、マイクロ主流路を流れてきた微粒子含有分散媒流23の両側に分散媒流24,25が流れ、三層流が形成されることとなる。そして、アパーチャ部5においては、隙間Aが他のマイクロ主流路4部分よりも狭くされているが、その部分においても、三層流状態を維持する。その結果、アパーチャ部5における隙間Aよりも比較的小さい微粒子Xの数を高精度に計測することができる。
【0039】
例えば、上記アパーチャ部5の隙間Aにおいて、微粒子含有分散媒流23の幅と、分散媒流24,25の幅が全て等しいとした場合には、微粒子含有分散媒流23の径は隙間Aの3分の1となり、隙間Aの3分の1のアパーチャ部を設けた従来例に相当の小さな微粒子Xを測定することができる。言い換えれば、アパーチャ部の隙間Aについては、三層流でない場合の3倍程度に広げることができ、それによって、アパーチャ部5の加工の難易度を大きく低減することができる。
【0040】
第1の分岐流路17〜19及び第2の分岐流路20〜22の流路幅は、測定対象物である微粒子の直径よりも大きい。微粒子の直径よりも小さいと、微粒子が分岐流路に詰まりがちとなる。また、上記分岐流路17〜19,20〜22の流路幅が大きすぎると、粒子が詰まり難いが、粒子が分岐流路に入ってしまう結果となる。粒子が分岐流路に入らないように分岐流路の流路長を長くとるにしても限界がある。従って、第1,第2の分岐流路17〜22の流路幅は、微粒子の直径の1.1倍〜3倍の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.2倍〜2倍程度である。また、赤血球や白血球等をカウントする場合を例にとると、上記分岐流路の流路幅は10μm〜20μm程度とすることが好ましい。この分岐流路の流路幅は、粒子の直径よりも大きいので、必ずしも精密に成形される必要がないことは、量産時の歩留まり確保するうえで重要である。
【0041】
また、上記マイクロ主流路4及びアパーチャ部5を流れる微粒子含有液体の流速は、特に限定されるわけではないが、1mm/sec〜1000mm/sec、より好ましくは10mm/sec〜100mm/sec程度とすることが望ましい。流速が速過ぎると、高圧が必要となることがあり、遅過ぎると、粒子をカウントするサンプル全てを処理するのに時間が掛かり過ぎる。
【0042】
上記マイクロ主流路4の流路幅については、分岐流路の本数、分岐流路の流路長とのバランスによって設計されるべきものであるため、一義的には定めない。
【0043】
概算としては、6ΣN(w/ni)程度が適当である。ここで、ΣNは、iについて、1からNまでの場合の総和をとることを意味している。Nは、片側の分岐数である。
【0044】
例えば、niがいずれも4程度であって、分岐流路が片側4本であるならば、マイクロ主流路の幅は、分岐流路の1本の幅の6倍程度が適当である。同様に、niがいずれも6程度であって、分岐流路が片側10本程度であるならば、主流路の幅は、分岐流路の1本の幅の10倍程度が適当である。なお、この計算は目安であって、実施においては、±50%程度の変更は許容される。
【0045】
上記第3,第4の分岐流路32,33の流路幅は、第1,第2の分岐流路17〜19,20〜22と同様に、微粒子の大きさの1.1倍〜3倍の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.2倍〜2倍程度である。もっとも、第3,第4の分岐流路32,33の流路幅は、第1,第2の17〜19,20〜22の流路幅と等しくする必要は必ずしもない。
【0046】
本実施形態では、第1の分岐流路17〜19と、第2の分岐流路20〜22とは、マイクロ主流路4の搬送方向に延びる中心線に対して、対称に形成されていたが、第1の分岐流路と第2の分岐流路は必ずしも対称に形成されている必要はない。また、図1に示したように、第1の分岐流路17〜19及び第2の分岐流路20〜22は、マイクロ主流路4に直交する方向に延びるように分岐された第1の部分と、マイクロ主流路4に平行の延び、第1の部分に連なられた第2の部分と、第2の部分に連ねられており、マイクロ主流路4に直交する方向に延び、再合流する第3の部分とを有していたが、このような形状に限定されるものではない。例えば、図5に示す変形例のように、曲線状の第1の分岐流路17A〜19A及び曲線状の第2の分岐流路20A〜22Aを形成してもよい。
【0047】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る微粒子カウンターチップを説明するための模式的平面図であり、第1の実施形態について示した図1に相当する図である。第2の実施形態の微粒子カウンターチップ31では、第1の分岐流路17〜19及び第2の分岐流路20〜22に加えて、第3の分岐流路32と、第4の分岐流路33とが備えられている。ここでは、第3の分岐流路32及び第4の分岐流路33は、マイクロ主流路4を挟んで両側に配置されている。第3の分岐流路32と第4の分岐流路33とは、マイクロ主流路4を挟んで対称に構成されているが、必ずしも対称に構成されている必要はない。
【0048】
第3の分岐流路32及び第4の分岐流路33は、本実施形態では、第1の分岐流路17及び第2の分岐流路20の分岐点よりも上流側でマイクロ主流路4から分岐しており、かつアパーチャ部5に接続されている。すなわち、第3の分岐流路32及び第4の分岐流路34の下流側端部が、アパーチャ部5に接続されており、第1,第2の電極8,9はアパーチャ部5ではなく、アパーチャ部に接続されている流路32,33の途中に設けられている。言い換えれば、分岐流路32,33がアパーチャ部5に接続されている部分近傍において、分岐流路32,33に第1,第2の電極8,9が配置されている。このように、アパーチャ部5を構成する流路6,7を別途形成せずに、上記第3,第4の分岐流路32,33を設け、該分岐流路32,33においてアパーチャ部5近傍に電極8,9を配置してもよい。
【0049】
第3,第4の分岐流路32,33は、第1,第2の分岐流路と同様に、測定される微粒子の直径よりも大きな流路幅を有している。従って、流速の制御により第3,第4の分岐流路32,33にも、分散媒のみを流すことができる。また、本実施形態においても、第1の分岐流路17〜20と、第2の分岐流路20〜22とが再合流した部分よりも下流側では、三層流が形成されるため、第1の実施形態と同様に、アパーチャ部5の隙間Aを大きくすることができ、アパーチャ部5の加工精度を大幅に低減することができる。
【0050】
また、第1の実施形態と同様に、大きさが異なる微粒子が通過する場合であっても、アパーチャ部5における隙間Aを測定対象の微粒子に比べて十分大きくすることができるので、様々な微粒子を含む微粒子の合計数を確実に計測することができる。
【0051】
図7は、図6に示した第2の実施形態の微粒子カウンターチップ31の変形例に係る微粒子カウンターチップを示す平面図である。本変形例では、第3,第4の分岐流路34,35が、第1,第2の分岐流路17〜19,20〜22の再合流地点よりも下流側において、マイクロ主流路4から分岐されている。このように、第3,第4の分岐流路34,35は、第1の分岐流路17〜19及び第2の分岐流路20〜22の再合流地点よりも下流側において、マイクロ主流路4から分岐されていてもよい。
【0052】
図7に示した変形例では、第3,第4の分岐流路34,35は第1,第2の分岐流路17〜22よりも下流側に配置されることとなるため、図6に示した第2の実施形態に比べて、マイクロ主流路4と直交する方向の寸法を小さくすることができる。
【0053】
なお、上記第1,第2の実施形態及び各変形例では、マイクロ主流路4の横方向両側にのみ第1,第2の分岐流路17〜19,20〜22が形成されていたが、図8に模式的正面断面図で示すように、マイクロ主流路4の上層側と下層側にも複数の第2の分岐流路43,44を追加して形成してもよい。これにより、アパ―チャ部の流れは、鞘管流れ(シースフロー)となる。
【0054】
上述した第1,第2の実施形態の微粒子カウンターチップ1,31は、上記分岐流路及びアパーチャ部が設けられている部分のみを有していたが、図9及び図10に示す各変形例のように、マイクロ主流路4の上流側及び下流側に、他の様々なマイクロ流路部分を設けてもよい。
【0055】
なお、図9及び図10は、図1と同様に微粒子カウンターチップの流路構造を模式的に示す平面図である。
【0056】
図9に示す微粒子カウンターチップ51では、第2の実施形態に係る微粒子カウンターチップ31と同様に、マイクロ主流路4と、第1の分岐流路17〜19と、第2の分岐流路20〜22と、第3,第4の分岐流路32,33とが形成されている。そして、アパーチャ部5に接続されている第3,第4の分岐流路32,33において、電極8,9が配置されている。ここでは、第2の実施形態に構造に加えて、マイクロ主流路4の上流側において、サンプル導入側端部4cが配置されており、該サンプル導入側端部4cの上方には、サンプルが供給される貫通孔が設けられている。ここでは、サンプル導入側端部4cに、駆動源52が接続されている。駆動源52は、図9ではその位置のみが略図的に示されている。駆動源52としては、外部シリンジポンプ、外部ガス圧源、間接駆動電気浸透流ポンプ、光等の外部刺激によりガスを発生する適宜の材料が内蔵されているガスポンプ等を用いることができる。微粒子カウンターチップに内蔵されるガスポンプは、ベースプレート2及び/またはプレート材3を透光性材料で形成し、光を照射することにより、ガスポンプ52に内蔵されている上記物質からガスを発生させる。このガス圧によりサンプル導入側端部4cに供給された微粒子含有液体をマイクロ主流路4側に向って搬送させることができる。
【0057】
そして、本実施形態では、上記マイクロ主流路4の下流側に、十分な長さ、及び幅の廃液流路部4dが連ねられている。廃液流路部4dが十分な面積及び長さ、すなわち十分な体積を有すると、測定が終了した微粒子含有液体が廃液流路部4dに貯留され、外部には漏洩しない。さらに、本実施形態では、廃液流路部4dの下流側端部に、ストップバルブ53が形成されている。ストップバルブ53としては、廃液流路部4dよりも流路幅が非常に小さいパッシブバルブ等の適宜のストップバルブを用いることができる。ストップバルブ53の存在により、微粒子含有液体の漏洩を防止することができる。
【0058】
図10に示す変形例の微粒子カウンターチップ61では、図9のサンプル導入側端部4cの上流側に、さらに下記の構造が備えられている。サンプル導入側端部4cに、マイクロ流路62からサンプルとしての微粒子含有液体が供給される。このマイクロ流路62の上流側端部には、外部からサンプルを供給するための貫通孔が下方に位置している供給部62aが連ねられている。サンプル供給部62aには、ガスポンプ63が接続されている。ガスポンプ63を駆動することにより、供給された微粒子含有液体すなわちサンプルが、マイクロ流路62に供給される。マイクロ流路62の途中には、サンプル導入側端部4cに接続されたサンプル秤取流路64が接続されている。サンプル秤取流路64は、サンプル導入側端部4cに一定量のサンプルを供給し得るように、その容積が定められている。サンプル秤取流路64の先端には、サンプル秤取流路64よりも径が小さい接続部65が設けられている。
【0059】
他方、サンプル導入側端部4cには、希釈液を供給するための溶液溜まり66が設けられている。ここでは、ミアンダ状の流路を形成することにより、十分の量の希釈液を貯留するための溶液溜まり66が形成されている。溶液溜まり66の上流側にガスポンプ67が接続されている。ガスポンプ67はガスポンプ63と同様に構成されている。
【0060】
本変形例では、ガスポンプ63を駆動し、サンプル供給部62aに供給された微粒子含有液体がマイクロ流路62に搬送され、秤取流路64に充填される。そして、ガスの通過とストップバルブ54による流れの停止に伴うガス圧の上昇によって、秤取流路64に秤取された一定量の微粒子含有液体が接続部65を介してサンプル導入側端部4cに吐出される。同時に、ガスポンプ67を駆動して溶液溜まり66に収納されていた希釈液がサンプル導入側端部4cに供給される。それによって微粒子含有液体を希釈液により希釈した後、マイクロ主流路4に供給することができる。このように、マイクロ主流路4の上流側に希釈構造を設けてもよい。
【0061】
なお、本発明に係る微粒子カウンターチップは、上記のような様々な微粒子カウンターに用いることができる。もっとも、上記微粒子カウンターチップのように、非常に小さなカード型の微粒子カウンターチップに適用した場合、本発明に従ってアパーチャ部の加工精度を低減することができるため、本発明の効果は大きい。
【0062】
また、本発明に係る微粒子カウンターチップは、白血球などの細胞数を計測するのに好適に用いられるが、白血球などの細胞だけでなく、ラテックス微粒子や無機粒子などの様々な微粒子を含有する液体中の微粒子数の計測に用いることができる。すなわち、本発明の微粒子カウンターの用途は特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る微粒子カウンターチップの流路構造を示す模式的平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る微粒子カウンターチップの外観を示す斜視図である。
【図3】第1の実施形態の微粒子カウンターチップの分解斜視図である。
【図4】第1の実施形態の微粒子カウンターチップのアパーチャ部及びその近傍における微粒子含有液体と微粒子分散状態とを説明するための模式図である。
【図5】第1の実施形態の微粒子カウンターチップの変形例を説明するための模式的平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る微粒子カウンターチップを説明するための模式的平面図である。
【図7】第2の実施形態の変形例に係る微粒子カウンターチップを説明するための模式的平面図である。
【図8】本発明の微粒子カウンターチップにおける第1,第2の分岐流路の変形例を説明するための部分切欠正面断面図である。
【図9】第2の実施形態の微粒子カウンターチップの変形例を説明するための模式的平面図である。
【図10】第2の実施形態の微粒子カウンターチップの他の変形例を説明するための模式的平面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…微粒子カウンターチップ
2…ベースプレート
2a…側面
3…プレート材
3a…貫通孔
3b…貫通孔
4…マイクロ主流路
4a…サンプル導入側端部
4d…微粒子含有液体廃液流路部
5…アパーチャ部
6,7…流路
8,9…第1,第2の電極
10,11…電解液導入部
12,13…配線
14,15…端子電極
17〜19…第1の分岐流路
17A〜19A…第1の分岐流路
20〜22…第2の分岐流路
20A〜22A…第2の分岐流路
31…微粒子カウンターチップ
32,33…第3,第4の分岐流路
41,42…第1の分岐流路
43,44…第2の分岐流路
51…微粒子カウンターチップ
52…駆動源
53…ストップバルブ
61…微粒子カウンターチップ
62…マイクロ流路
62a…サンプル供給部
63…ガスポンプ
64…秤取流路
65…接続部
66…溶液溜まり
67…ガスポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子含有液体が通過されるアパーチャ部を有し、該アパーチャ部におけるインピーダンス変化により微粒子数を計測する微粒子カウンターであって、
前記アパーチャ部に連ねられたマイクロ流路を有し、前記微粒子の直径よりも大きな流路幅の第1,第2の分岐流路が前記アパーチャ部よりも上流側に位置している分岐点において前記マイクロ流路から分岐されており、前記第1の分岐流路が前記マイクロ流路を挟んで前記第2の分岐流路と反対側に配置されており、該第1,第2の分岐流路が、前記分岐点よりも下流側であって前記アパーチャ部よりも上流側で前記マイクロ流路に再度合流されていることを特徴とする、微粒子カウンター。
【請求項2】
微粒子含有液体が搬送されるマイクロ流路を形成している流路形成部材を備え、
前記マイクロ流路の一部に、微粒子含有液体におけるインピーダンス変化により微粒子数を計測するためのアパーチャ部が形成されており、
前記アパーチャ部におけるインピーダンス変化を検出するように設けられた第1,第2の電極をさらに備える微粒子カウンターであって、
前記アパーチャ部に連ねられたマイクロ流路を有し、前記微粒子の直径よりも大きな流路幅の第1,第2の分岐流路が前記アパーチャ部よりも上流側に位置している分岐点において前記マイクロ流路から分岐されており、前記第1の分岐流路が前記マイクロ流路を挟んで前記第2の分岐流路と反対側に配置されており、該第1,第2の分岐流路が、前記分岐点よりも下流側であって前記アパーチャ部よりも上流側で前記マイクロ流路に再度合流されていることを特徴とする、微粒子カウンター。
【請求項3】
前記第1,第2の電極が、前記アパーチャ部において、前記マイクロ流路に配置されている、請求項1または2に記載の微粒子カウンター。
【請求項4】
前記マイクロ流路の前記アパーチャ部よりも上流側の部分においてマイクロ流路から分岐されており、前記アパーチャ部においてマイクロ流路に再度合流されており、前記微粒子の直径よりも大きな流路幅を有する第3,第4の分岐流路をさらに備え、第3,第4の分岐流路に、それぞれ、前記第1,第2の電極が配置されている、請求項1または2に記載の微粒子カウンター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の微粒子カウンターが構成されているプレートをさらに備え、該プレートに、前記微粒子含有液体が導入されるサンプル導入部とストップバルブが設けられている、微粒子カウンターチップ。
【請求項6】
前記プレートに、前記マイクロ流路に接続されておりかつ前記微粒子含有液体を搬送するためのガスポンプがさらに備えられている、請求項5に記載の微粒子カウンターチップ。
【請求項7】
前記プレートに、毛管現象とラプラスバルブによる秤取希釈機構が更に備えられている、請求項6に記載の微粒子カウンターチップ。
【請求項8】
前記プレートが、上面に開いておりかつ前記マイクロ流路を形成するための溝が形成されたベースプレートと、前記ベースプレートの上面に積層されて前記溝を閉成して前記マイクロ流路を形成しているプレート材とを備える、請求項7に記載の微粒子カウンターチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−128057(P2009−128057A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300677(P2007−300677)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】