説明

微粒蛍光体の製造方法

【課題】紫外線により高輝度に蛍光発光するナノサイズ蛍光体を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】紫外線励起により蛍光発光する式YVO:A(Aはイットリウム以外の希土類金属を示す。)で表わされる微粒蛍光体の製造方法であって、水の存在下において、イットリウム化合物及びイットリウム以外の希土類金属の化合物に錯形成化合物を添加して溶液1を形成する工程、 バナジウム化合物を水に溶解又は分散させて、溶液又は分散液2を形成する工程、及び 前記溶液1と、前記溶液又は分散液2とを混合して、反応させる工程、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線により高輝度に蛍光発光するナノサイズ蛍光体を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アート・装飾分野や、セキュリティ等の分野において、紫外線などの光エネルギーを照射することにより蛍光発光する無機蛍光体が種々使用されてきた。通常、蛍光体粉末を塗料又はインキに加工し、目的物に塗装や、シルクスクリーン印刷が行なわれている。具体的には、アート・装飾分野では、テーマパークや、ホテル、地下道、列車などの壁や、天井に芸術家や、工芸塗装技術者などが、前記蛍光体含有塗料で装飾画等を描き、ブラックライト等で紫外線を照射することにより鮮やかな蛍光発色画を浮かび上がらせるものである。また、セキュリティ分野では、特殊使用法としてシルクスクリーン印刷が行われている。
【0003】
最近、インクジェット印刷技術の飛躍的進歩により、色鮮やかで高精細の屋内、屋外の広告看板、電飾看板が多く見られるようになっている。上記アート・装飾画、セキュリティの分野においても、このようなインクジェットを始めとする印刷技術で、高精細で耐久性のあるインビジブル印刷製品への期待が強まっている。
しかしながら、このような用途には装置の構造上、1000nm以下、場合によっては、100nm以下の極微細な無機蛍光体粒子が必要となるが、これまで、そのような用途に適する無機蛍光体は知られていなかった。通常、無機蛍光体は、乾式法(粉末冶金法)、即ち、原料の無機化合物粉末を混合した後、数百℃〜千数百℃において焼成した後、物理的に粉砕することによって作られているが、このような乾式法においては、一定以下の粒度に粉砕を行うことが困難であるとともに、たとえ微細粉砕できても、蛍光体の発光輝度が著しく低下するため、このような用途に使用することが出来なかった。
一方、希土類燐酸塩蛍光体の製造方法として、Yなどの希土類元素及びP、Ce、Tbを溶解して蛍光体原料の水溶液を液滴にして、キャリヤガスとともに熱分解反応炉に導入して800〜1900℃で加熱する方法(特許文献1)や、有機溶剤の存在下において、アルカリ土類金属化合物などを加熱する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−155276号公報
【特許文献2】特開2006−213822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、気相中で原料となる無機化合物を反応させる特許文献1に開示の方法では、微粒蛍光体を工業的に生産する場合においては、製造設備が大規模にならざるを得ず、製造コストが過大となるなどの問題がある。また、液相中で原料となる無機化合物を反応させる特許文献2に開示の方法では、有機溶剤を使用するため、有機溶剤の除去や環境に対して問題が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、従来の技術について鋭意検討の結果、蛍光体を形成するための原料を、水中で反応させることにより、発光輝度の高い、微粒蛍光体が作製できることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、紫外線励起により蛍光発光する、式、YVO4:A(Aは、イットリウム以外の希土類金属を示す。)で表される微粒蛍光体の製造方法であって、
(1) 水の存在下において、イットリウム化合物及びイットリウム以外の希土類金属の化合物を錯形成化合物で溶解して、溶液1を形成する工程、
(2) バナジウム化合物を水に溶解又は分散させて、溶液又は分散液2を形成する工程、及び
(3) 前記溶液1と、前記溶液又は分散液2とを混合して、反応させる工程、
からなることを特徴とする微粒蛍光体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特殊な装置を用いることなく、原料の無機化合物を水中で反応させることにより、高輝度蛍光体を効率よく製造することができる。また、本発明により製造した蛍光体は、1000nm以下の均一な粒子径を有する微粒子であり、紫外線励起により蛍光発光する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用されるイットリウム化合物としては、例えば、イットリウムの水酸化物や、キレート化物(例えば、キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤や、ホスホン酸系キレート剤等が好適に挙げられる)、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に使用することができる。これらの代表例として、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩(例えば、カルボン酸としては、シュウ酸や、酢酸、安息香酸など)、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に挙げることができる。その中でも、硝酸塩や、カルボン酸塩、アルコキシドが特に好適に使用することができ、これらの代表的なものとしては、硝酸イットリウムや、シュウ酸イットリウム、イットリウムイソプロポオキシド等が挙げられる。
【0009】
イットリウム以外の希土類金属元素としては、具体的には、Scや、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu等が好適に挙げられ、希土類化合物としては、希土類金属元素それ自体や、その水素化物、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、水酸化物、硫化物、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等が好適に挙げられる。代表的なものとしては、シュウ酸ユウロピウムや、硝酸エルビウム、酢酸サマリウム、硝酸セリウム等が好適に挙げられ、その中でも特にEuの化合物が特に好適に使用することができる。
【0010】
本発明で使用されるバナジウム化合物としては、例えば、バナジウムの水酸化物や、キレート物(例えば、キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤や、ホスホン酸系キレート剤等が好適に挙げられる)、酸化物、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に使用することができる。これらの代表例として、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩(例えば、カルボン酸としては、シュウ酸や、酢酸、安息香酸など)、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に挙げることができる。その中でも、硝酸塩、バナジン酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドが特に好適に使用することができ、これらの代表的なものとしては、トリイソプロポキシ酸化バナジウムや、バナジン酸カリウム等が挙げられる。
【0011】
式、YVO4:A(Aは、イットリウム以外の希土類金属元素)で示される蛍光体には、更に、補助付活剤Bを添加してもよい。この場合、式、YVO4:A,B(Aは、イットリウム以外の希土類金属元素であり、Bは、元素の周期表(長周期型)の第13から17族に属する元素(以下、単に、「Pブロック元素」と言う))で表される蛍光体となる。ただし、Pブロック元素の具体例としては、例えば、Alや、Zn、Ga、Ge、Cd、In、Sn、Sb、Hg、Tl、Pb、Bi、Poである。その中でも、Bi、Ga、Geを好適に使用することができ、特に好ましくは、Biである。これらPブロック元素を蛍光体合成反応に用いる場合は、水素化物や、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、水酸化物、硫化物、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等のPブロック元素化合物が好適に使用される。
【0012】
錯形成化合物は、イットリウムや希土類金属元素及びPブロック元素と錯体を形成する物質であり、金属イオンに配位する酸素や、窒素、硫黄等の3種類の原子を2個以上含み、キレート環を形成する化合物であって、O−O配位、N−N配位、S−S配位、O−N配位、S−N配位、O−S配位、及びこれらを複数個有する多座配位化合物である。具体的にはシュウ酸や、アセチルアセトン、クエン酸、エチレングリコール、エチレンジアミン、1,10−フェナントロリン、ジチオール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオオキシン3−メルカプト−p−クレゾール及びこれらの誘導体などである。本発明において特に好適に使用されるのは、クエン酸や、シュウ酸、エチレングリコールなどであるが、特にこれらに限定されるものではない。この錯形成化合物を添加することにより、混晶を析出と粒子成長の制御に効果があり、また生成した微粒子蛍光体の分散安定がよくなる。
【0013】
本発明の蛍光物質は、イットリウム酸化物の結晶内に発光中心(付活剤)である希土類金属元素や、任意の付活剤の発光を補助する補助付活剤が含有されることで紫外線などの励起源により発光する。なお、微粒蛍光体の粒径は、動的光散乱法により測定した粒度分布に基づくものである。
なお、理論により束縛されるものではないが、実験の観察によれば、本発明においては、イットリウム化合物と付活剤原料化合物や、補助付活剤原料化合物が、水中で溶解又は分散し、錯形成化合物の存在下で混晶を形成し、更にバナジウム化合物の添加することにより、微粒蛍光体が合成されると思われる。
従って、イットリウム化合物と、付活剤原料化合物(A成分化合物)や、補助付活剤原料化合物(Pブロック元素化合物)が、十分に水に溶解又は安定に分散する量とすることが必要である。
【0014】
溶液1において、イットリウム化合物は、一般に、水1容量部に対して、0.0001〜0.6質量部、好ましくは0.001〜0.5質量部の範囲とすることが好ましい。例えば、水1mlに対して、0.0001〜0.6g、好ましくは0.001〜0.5gとすることが適当である。
この範囲での使用により、粒子径が、好ましくは、1000nm以下、例えば、5〜1000nmの微粒蛍光体の水分散液を得ることができる。
前記添加量が0.0001質量部より少ないと、微粒蛍光体の製造効率が低下する傾向にある。また、0.6質量部より多いと、微粒蛍光体が凝集し、目的とする微粒蛍光体の均一な分散体を得にくい。
【0015】
イットリウム以外の希土類金属化合物の量は、同様に、水に対する溶解性又は分散性に基づくが、発光輝度の高い微粒蛍光体を製造効率よく製造するためには、前記イットリウム化合物1モルに対して、40モル%以下、好ましくは、0.005〜30モル%の範囲にとどめることが好ましい。
錯形成化合物の量は水1mlに対して、0.0001〜0.7質量部、好ましくは0.001〜0.6質量部であり、錯体を形成させるため、イットリウム元素、イットリウム以外の希土類金属元素及びビスマス元素の添加量を考慮し、添加する必要性がある。また、錯形成化合物は粒子の分散安定に寄与するため、添加量が少ないと、分散剤として機能しないため、好ましくない。
溶液又は分散液2において、バナジウム化合物の量は、水1mlに対して、0.0001〜0.6g、好ましくは0.001〜0.5gの範囲の量であることが好適である。
Pブロック元素(B)の化合物の量は、水に対する溶解性又は分散性に基づくが、発光輝度の高い微粒蛍光体を製造効率よく製造するためには、前記イットリウム化合物1モルに対して、60モル%以下、好ましくは、0.005〜50モル%の範囲にとどめることが好ましい。Pブロック元素(B)の化合物は、任意の時期に、溶液1又は、溶液又は分散液2に添加することができる。
なお、イットリウム化合物、イットリウム以外の希土類金属化合物、バナジウム化合物及び任意にPブロック元素化合物を複数併用する場合においては、得られる微粒蛍光体の組成や、粒径等によりその配合比率を適宜変化させることが可能である。
本発明の方法においては、溶液1と、溶液又は分散液2とを混合する工程3において、pHを調整することが好ましく、蛍光体の生成を促進することができる。pHは、例えば、4〜11程度であり、好ましくは、pH6〜10である。pHが4より低いとポリバナジン酸塩が生成しやすく、pHが11より高いと水酸化物が生成してしまうため、目的の蛍光体を生成することが難しい。
【0016】
本発明における反応は、大気圧下、又は水の沸点以上の圧力のどちらでも可能である。大気圧で反応を行う場合には、製造設備を過大にする必要が無く、より簡便に製造効率よく微粒蛍光体を製造することが可能となる。
加熱温度は、大気圧下であれば、例えば、20℃〜100℃の範囲で行うことが好ましい。加熱温度が20℃より低いと、微粒蛍光体の反応が著しく遅くなり易く、製造効率が低下する傾向にある。大気圧下での反応時間は、例えば、1分〜72時間であり、好ましくは、10分〜10時間で十分である。
また、加圧下では、100〜400℃程度の高温下で反応することも出来る。この場合、原料の溶解性が高まり、また反応時間も短くできる長所がある。
【0017】
本発明においては、反応の際、分散安定性の向上のため、界面活性剤などの有機分散剤や、無機分散剤、高分子分散剤、分散安定に寄与するイオン(例えば、酢酸イオン)などを加えてもよい。また、必要に応じて酸化防止剤や、還元剤などの添加剤を加えることも可能である。
また、反応の際には、窒素ガス又はアルゴンガス雰囲気下で反応を行うことも可能である。反応系に対する酸素の混入を防止し、蛍光体の蛍光強度の低下、生成物の着色等、蛍光体の性能低下を防止することが可能である。
本発明は、攪拌装置を用いて水を攪拌しながら行うことが好ましい。このような攪拌装置を用いることで、反応系を均一とし、反応効率を上昇させることができ、微粒蛍光体の安定的な製造が可能となる。
【0018】
<微粒蛍光体の特性>
本発明により製造された微粒蛍光体は、例えば、平均粒径が1000nm以下(下限は、例えば、5nm程度)という、これまでの蛍光体よりも非常に小さな粒径を有する。従って、微粒蛍光体をコーティングや、インクジェットプリンター用インクの用途等、幅広い用途で使用することが可能となる。より高い分散安定性や可視光下透明性が要求される用途においては、100nm以下の微粒蛍光体を使用することが出来る。
また、前記微粒蛍光体は、紫外線を照射することにより、蛍光発色するが、特に波長領域300〜400nmの近紫外線においても励起するため、ブラックライトや紫外線LEDなどの光源でも蛍光発光させることが可能である。そのため、近紫外線発光の望ましいアート・装飾の分野や各種有価証券、ブランド品等の偽造防止に適している。
更に、当然のことではあるが、本発明の蛍光体は上記の用途に限定されることなく、蛍光灯やLEDなどの照明やPDP、液晶、FEDなどのフラットパネル・ディスプレイ分野などに使用することも可能である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例等により、本発明について更に詳細に説明するが、これらの実施例によって、本発明の範囲は、何ら限定されるものではない。
粒度分布についてはマルバーン社製のMalvernHPPSを使用した。この測定機械は、動的光散乱法にて粒度分布を測定する装置である。
【0020】
<実施例1>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをウォーターバス中に設置した。当該フラスコに水40.0ml、硝酸イットリウム六水和物1.00g(2.6mmol)と、硝酸ユウロピウム六水和物0.09g(0.2mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.62gを加え、60℃で2時間攪拌を行ない、溶液1を調製した。
別途、水酸化ナトリウムでpH12.5に調整した水40.0mlをはかりとり、その中にオルトバナジン酸ナトリウム0.55g(3.0mmol)を加え、溶解させ、溶液2を調製し、溶液2を、溶液1の入っている上記3口フラスコに滴下した。
滴下終了後、60℃で3時間撹拌を行った。滴下直後のpHは8.5であった。その後、室温まで冷却し、やや黄みの白濁水分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径48nmの均一な粒子であった(図1参照)。
この分散液に対し、302nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、赤色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、615nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、バナジン酸イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置(ICPS−7510、島津製作所製)にて確認したところ、バナジウム、イットリウム、ユウロピウムの元素からなる物質であることが確認できた。
【0021】
<実施例2>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをウォーターバス中に設置した。当該フラスコに水40.0ml、硝酸イットリウム六水和物0.10g(0.3mmol)と、硝酸テルビウム六水和物0.05g(0.1mmol)を加え、80℃で1時間撹拌後、シュウ酸0.19gを加え、80℃で2時間攪拌を行ない、溶液1を調製した。
別途、水酸化ナトリウムでpH12.5に調整した水40.0mlを100mlのビーカーにはかりとり、その中にオルトバナジン酸ナトリウム0.55g(3.0mmol)を加え、溶解させ、溶液2を調製した。得られた溶液2を、溶液1の入っている3口フラスコに滴下した。
滴下終了後、80℃で3時間撹拌を行った。滴下直後のpHは8.2であった。その後、室温まで冷却し、やや黄みの白濁水分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径38nmの均一な粒子であった(図2参照)。
この分散液に対し、302nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ緑色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、544nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、バナジン酸イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置(ICPS−7510、島津製作所製)にて確認したところ、バナジウム、イットリウム、テルビウムの元素からなる物質であることが確認できた。
【0022】
<実施例3>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをウォーターバス中に設置した。当該フラスコに水40.0ml、硝酸イットリウム六水和物1.00g(2.6mmol)と、硝酸ユウロピウム六水和物0.09g(0.2mmol)を加え、70℃で1時間撹拌した後、クエン酸三ナトリウム二水和物0.62gを加え、更に30分後にクエン酸ビスマス0.48g(1.2mmol)を加え、70℃で2時間攪拌を行ない、溶液1を調製した。
別途、水酸化ナトリウムでpH12.5に調整した水40.0mlを100mlのビーカーにはかりとり、その中にオルトバナジン酸ナトリウム0.55g(3.0mmol)を加えて、溶液2を調製し、この溶液2を、溶液1の含まれている3口フラスコに滴下した。滴下終了後、70℃で3時間撹拌を行った。滴下直後のpHは7.5であった。その後、室温まで冷却し、室温で72時間撹拌を続け、やや黄みの白濁水分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径55nmの均一な粒子であった(図3参照)。
この分散液に対し、365nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、赤色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、615nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、バナジン酸イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置(ICPS−7510、島津製作所製)にて確認したところ、バナジウム、イットリウム、ユウロピウム、ビスマスの元素からなる物質であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、紫外線により高輝度に蛍光発光するナノサイズ蛍光体を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図2】実施例2で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図3】実施例3で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線励起により蛍光発光する、式、YVO4:A(Aは、イットリウム以外の希土類金属を示す。)で表される微粒蛍光体の製造方法であって、
(1) 水の存在下において、イットリウム化合物及びイットリウム以外の希土類金属の化合物を錯形成化合物で溶解して、溶液1を形成する工程、
(2) バナジウム化合物を水に溶解又は分散させて、溶液又は分散液2を形成する工程、及び
(3) 前記溶液1と、前記溶液又は分散液2とを混合して、反応させる工程、
からなることを特徴とする微粒蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記イットリウム以外の希土類金属が、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蛍光体の平均粒子径が、5〜1000nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光体が、式、YVO4:A、B(Aは、イットリウム以外の希土類金属を示し、Bは、周期律表(長周期型)第13〜第17族に属する元素を示す。)で示される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イットリウム化合物、前記バナジウム化合物、前記イットリウム以外の希土類金属の化合物、及び/又は前記周期律表(長周期型)第13〜第17族に属する元素の化合物が、水酸化物、キレート化物、無機酸塩、有機酸塩、酸素酸塩、ハロゲン化物及びアルコキシドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Bが、周期律表(長周期型)第15族元素である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
Aが、ユウロピウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記錯形成化合物が、クエン酸、シュウ酸及びエチレングリコールからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
錯形成化合物が、クエン酸である請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189761(P2008−189761A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24356(P2007−24356)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000107158)シンロイヒ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】