説明

微細な球形造粒物の製造方法

【課題】使用目的に応じた造粒物強度を有する、粒度分布の狭い、微細な球形造粒物を高収率で製造するための方法を提供する。
【解決手段】原料粒子、または原料粒子にこれを変質させない温度で溶融する結合剤粒子を所定の比率で混合した混合粒子を平均粒子径3μm以下に微粉砕した後、ファンデルワールス定数aが0.025Pa・m/mol以下のガスを使用して常温で流動化して球形造粒物を製造するものである。さらに結合剤粒子を混合した場合には、造粒後、造粒物の運動を限定して結合剤の融点以上の温度で球形造粒物を加熱して強度の増加を図るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用目的に応じた造粒物強度を有し、粒度分布の狭い微細な球形造粒物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原料粉体はより高度な機能性を追求するため、より微細なものが要求される傾向にある。造粒物においても同様であり、成形体の製造に使用されるもの、コーティング用核粒子として使用されるものでは粒子径が100μm以下のものまでが要望されるようになっている。また、形状も球形度の高いものが望まれるようになっている。特にコーティング用核粒子として使用されるものでは高い球形度のものが要求されている。強度に対する要求は使用目的に応じて様々であり、例えば、成形体の製造に使用されるものでは、成形工程において容易に崩壊するものでなければならず、コーティング用核粒子として使用されるものでは、コーティング工程において破壊しないものでなければならない。
【0003】
球形造粒物を製造する方法としては、湿式造粒法または湿式コーティング法が広く知られている。その一例として、転動造粒機内で核となる粒子を転動させ、ここに結合剤を噴霧しながら微粒子を供給し、核粒子表面に付着させて雪だるま式に粒子を成長させる方法がある(特許文献1参照)。しかしながら、この方法により得られる造粒物は粒度分布が広く、特に微細なものの収率が低く、さらに、製造者の技量によるところが大きく、生産性の向上が課題であった。また、この方法はコーティング用核粒子を製造するための専用のもので、造粒物の強度を調整する手段を有していない。
【0004】
また、高い付着性を有する微粒子が凝集体を形成しやすい性質を利用した乾式造粒法もある。その一例として、流動層装置内で数μm以下の微粒子の層を、常温空気を使用して流動化することと、空気を逆方向から流して圧密化することを繰り返し、造粒する方法がある(特許文献2参照)。しかしながら、この方法によれば、比較的容易に粒度分布の狭い球形造粒物が高収率で得られるものの、得られる造粒物の粒子径は比較的大きく約500μm以上であり、微細な造粒物を得ることが困難であった。また、造粒物の強度が極端に小さいものしか得られない欠点も有していた。
【0005】
さらに付着性を有する微粒子にパラフィンワックスを混合した原料を、流動層装置内で加熱空気を使用して流動化することと、空気を逆方向から流して圧密化することを繰り返し、微粒子の付着性とパラフィンワックスの粘性を利用して造粒する方法がある(特許文献3参照)。しかしながら、微粒子とパラフィンワックスの混合は固形パラフィンワックスを溶融させて添加するか、粒子径が数十から数百μmのパラフィンワックス粉をそのまま添加しているため、パラフィンワックスの偏析により造粒物の粒度分布は広くなる傾向があった。また、溶融したパラフィンワックスにより小さな造粒物も形状を維持するに十分な強度を有してしまっているため、これがそのまま大きな造粒物に付着した場合、球形度を低下させる原因となっていた。さらに造粒物の強度を増加させるためにパラフィンワックス添加量を数質量%以上とした場合、微粒子の表面がパラフィンワックスで完全に覆われてしまい、微粒子の付着性を有効に働かせることができなくなり、造粒すら困難となってしまう傾向があった。装置面においても逆方向の空気流により圧密化する際に溶融したパラフィンワックスが分散板に付着して短時間で目詰まりを起こし、高頻度で分散板を清掃しなければならないという欠点を有していた。
【0006】
【特許文献1】特許3347788号公報
【特許文献2】特許2958783号公報
【特許文献3】特許3477582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、使用目的に応じた造粒物強度を有する、粒度分布の狭い、微細な球形造粒物を高収率で製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、流動層を使用した乾式造粒法において原料粒子の平均粒子径を3μm以下に粉砕することにより、造粒物の粒子径の均一度および球形度を向上させることができることを見出した。造粒物の強度を増加させるために低融点の結合剤粒子を添加する場合も混合した状態で粉砕することが有効であることを見出した。また、原料粒子表面の吸着水分を除去し、分子間力の小さいガスを使用して流動化して造粒することにより、造粒物を微細化できることを見出した。さらに、原料粒子を加熱して造粒物の強度を調整する場合、常温下で造粒後、造粒物の運動を限定して造粒物を加熱、冷却固化させることにより、摩砕による微粒子の発生を防止し、造粒物の粒子径の均一度を向上させることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の方法は、原料粒子を3μm以下に微粉砕した後、ファンデルワールス定数aが0.025Pa・m/mol以下のガス、好ましくは、ネオンガスまたはヘリウムガスを使用して流動化し、常温下で造粒することを特徴とする球形造粒物の製造方法である。
【0010】
また、平均粒子径が400μm以下である球形造粒物が得られることを特徴とする球形造粒物の製造方法である。
【0011】
さらに、原料粒子に、原料粒子を変質させない温度で溶融する結合剤粒子、好ましくは、融点が50〜90℃である油脂、ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ポリエーテルの粒子を0.5〜50質量%の比率で混合して同時に微粉砕し、常温下で造粒した後に静置または流動化開始直後の状態で造粒物を結合剤の融点から+30℃の範囲の温度で加熱して結合剤を溶融し、その後、冷却固化することを特徴とする球形造粒物の製造方法である。
【0012】
また、さらに微粉砕した粒子の表面に吸着した水分を水の蒸気圧以下の減圧下で除去する工程を造粒前に追加したことを特徴とする球形造粒物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法は原料粒子、または原料粒子にこれを変質させない温度で溶融する結合剤粒子を所定の比率で混合した混合粒子を平均粒子径3μm以下に微粉砕した後、常温下で分子間力の小さいガスを使用して流動層内で流動化して球形造粒物を製造するもので、さらに結合剤粒子を混合した場合にはその後、造粒物の運動を限定して結合剤の融点以上の温度で球形造粒物を加熱して強度の増加を図るものであり、使用目的に応じた造粒物強度を有し、粒度分布の狭い、微細な球形造粒物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方法における原料粒子は、医薬食品分野では賦形剤粒子、または賦形剤粒子、薬剤粒子および崩壊剤などの添加剤粒子の混合物である。医薬品用賦形剤粒子の典型は乳糖粒子である。また、粉末冶金分野では金属酸化物、炭化物、窒化物粒子、またはこれらと焼結助剤などの添加剤粒子の混合物である。
【0015】
原料粒子を変質させない温度で溶融する結合剤粒子には、融点が50〜90℃である物質が現実的であり、油脂、ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ポリエーテルがある。例えば、油脂では菜種硬化油、ワックスではパラフィンワックス、高級脂肪酸ではステアリン酸、高級アルコールではステアリルアルコール、ポリエーテルではポリエチレングリコールが挙げられる。結合剤粒子の混合比率は、所望の造粒物強度が得られる量を選択する。再分散させる目的では結合剤粒子を添加せず、成形体の製造に使用する目的では成形時の良好な崩壊性を得るために20質量%以下が好ましく、コーティングに使用する目的ではコーティング時に破壊しない強度を確保するために20質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0016】
原料粒子と結合剤粒子を混合する混合機には一般に粉体の混合に使用されている容器回転式、機械攪拌式のものを使用することができる。微粉砕で混合状態の精密化を図ることができるため、この操作において精密化する必要はない。
【0017】
原料粒子は一般に平均粒子径が約5μmであれば造粒に必要な付着性を十分に有しているが、粒度分布の狭い、微細な球形造粒物を高収率で製造するためには、微粉砕において有機物では3μm以下、無機物では1μm以下にすることが好ましい。また、3μm以下に合成された原料粒子は、改めて粉砕する必要はないが、結合剤粒子を混合する場合には現状、3μm以下の結合剤粒子は市販されていないため、混合後、粉砕機にかける必要がある。微粉砕機には乾式ボールミル、ジェットミルなどが使用できるが、粒度分布の狭い造粒物を製造するためには微粉砕した原料の粒度分布も狭くすることが好ましく、分級装置付のものが好ましい。
【0018】
微粉砕した粒子は非常に高い付着性を示す。付着性は一般に分子間力によると言われているが、粒子表面に吸着した微量の水分が付着性の増加に大きく寄与しており、特に微細な造粒物を製造するためには、造粒前に吸着水分を水の蒸気圧以下の減圧下で除去することが好ましい。
【0019】
造粒には流動層または噴流層を使用する。使用する装置は単純な構造の、円筒または円錐容器の下部に分散板を取り付けたものでよいが、その他、ドラフト管付、遠心型、転動型などのものも使用することができる。
【0020】
流動化ガスには常温の乾燥空気または不活性ガスなどを使用することができるが、微細な球形造粒物を高収率で製造するためには、分子間力の小さいガスを使用する。分子間力はファンデルワールスの状態方程式(P+a/v)(v−b)=RTの定数aで表現されている。ただし、Pは圧力、vはモル体積、aはガスの分子間力による理想ガスからの圧力のずれを補正する定数、bはガスの体積による理想ガスからの体積のずれを補正する定数、Rはガス定数、Tは温度である。分子間力の小さいガス、すなわちファンデルワールス定数aが0.025Pa・m/mol以下のガスには水素、ネオン、ヘリウムがあるが、爆発の危険がないネオンガスまたはヘリウムガスが好ましい。
【0021】
結合剤粒子を混合した場合には結合剤の融点以上に温度制御した空気または不活性ガスの雰囲気中または気流中で球形造粒物を加熱して強度の調整を行う。加熱温度はエネルギ消費を抑制する観点から結合剤の融点+30℃迄が現実的である。装置には棚式乾燥機、振動乾燥機、流動層乾燥機などを使用することができるが、摩砕による微粒子の発生を防止するため、造粒物の運動を限定した静止または流動化開始直後の状態で行うことが好ましい。
【実施例】
【0022】
実施例1
原料粒子には酸化亜鉛粒子(宮澤薬品製、局方)を使用した。レーザ回折式粒度分布測定器(島津製作所製、SALD−1100)を使用して測定した平均粒子径は0.57μmであった。この粒子50gを、目開き840μmのふるいを使用して大きな凝集体を解砕しながら塔径44mmのアクリル製流動層装置内に投入し、ファンデルワールス定数aが0.003412Pa・m/molであるヘリウムガス使用して流量35L/minで流動化させ、2時間、造粒した。
【0023】
その結果、図1および表1に示すように平均粒子径400μm以下の造粒物が得られた。
【0024】
実施例2
前記酸化亜鉛粒子50gを密閉容器内に投入し、電気ヒータを使用し、容器外壁を加熱して品温を50℃とし、さらに真空ポンプ(アルバック機工製、DA−15D)を使用し、容器内圧力を10kPaとして2時間、粒子表面に吸着した水分を除去した。その後、この粒子を目開き840μmのふるいを使用して大きな凝集体を解砕しながら前記流動層装置内に投入し、ヘリウムガスを使用して流量35L/minで流動化させ、2時間、造粒した。
【0025】
その結果、表1に示すように粒子表面に吸着水分を除去したことにより実施例1の結果に比較して粒子径が小さい方にシフトした造粒物が得られた。
【0026】
【表1】

【0027】
比較例
前記酸化亜鉛粒子50gを、目開き840μmのふるいを使用して大きな凝集体を解砕しながら前記流動層装置内に投入し、ファンデルワールス定数aが0.1345Pa・m/molであるアルゴンガス、0.1390Pa・m/molである窒素ガス、0.3592Pa・m/molである二酸化炭素ガスを使用して流量35L/minで流動化させ、2時間、それぞれ造粒した。
【0028】
その結果、表2に示すように実施例1の結果に比較して粒子径が大きい方にシフトした造粒物が得られた。しかし、比較例で使用したガスの違いによる造粒物の平均粒子径の差は顕著ではなかった。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例3
乳糖粒子(DMV製、Pharmatose450M)をジェットミル(ホソカワミクロン製、100AFG)を使用して微粉砕した。前記粒度分布測定器を使用して測定した粒子の平均粒子径は1.67μmであった。この微粒子25gを、目開き840μmのふるいを使用して大きな凝集体を解砕しながら前記流動層装置内に投入し、ヘリウムガスを使用して流量35L/minで流動化させ、2時間、造粒した。
【0031】
その結果、表3に示すような粒度分布を有する造粒物が得られた。また、表4に示すように粉体硬度計(セイシン企業製、BHT−500)を使用して測定した圧壊強度は非常に小さく、再分散させる目的に最適のものであった。
【0032】
実施例4
前記乳糖粒子と融点が約60℃であるポリエチレングリコール粒子(三洋化成製、マクロゴール6000)をビニール袋中で80:20の質量比率でハンドミキシングし、前記ジェットミルを使用して微粉砕した。前記粒度分布測定器を使用して測定した粒子の平均粒子径は1.58μmであった。この微粒子25gを目開き840μmのふるいを使用して大きな凝集体を解砕しながら前記流動層装置内に投入し、ヘリウムガスを使用して流量35L/minで流動化させ、2時間、造粒した。次に得られた造粒物を前記流動層装置内で80℃に加熱した圧縮空気を使用して流量6L/minで2時間、加熱した後、常温の圧縮空気を使用して流量6L/minで冷却した。
【0033】
その結果、図2および表3に示すような球形造粒物が得られた。また、表4に示すように圧壊強度は一般の湿式造粒法で得られる造粒物の強度と同等であった。さらに得られた造粒物40gを前記流動層装置内で常温の圧縮空気を使用して流量45L/minで4時間、流動化させた後に測定した摩損度は0.1質量%以下であり、コーティング用核粒子として使用可能なものであった。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1で得られた造粒物の顕微鏡写真
【図2】実施例4で得られた造粒物の電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粒子を平均粒子径が3μm以下となるように微粉砕した後、常温下でファンデルワールス定数aが0.025Pa・m/mol以下のガスを使用し、流動化して造粒することを特徴とする球形造粒物の製造方法。
【請求項2】
前記ガスがネオンガスまたはヘリウムガスであることを特徴とする請求項1に記載の球形造粒物の製造方法。
【請求項3】
前記球形造粒物の平均粒子径が400μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の球形造粒物の製造方法。
【請求項4】
前記原料粒子に、原料粒子を変質させない温度で溶融する結合剤粒子が0.5〜50質量%の比率で混合されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の球形造粒物の製造方法
【請求項5】
前記結合剤粒子が、融点が50〜90℃である油脂、ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ポリエーテルの粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の球形造粒物の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の球形造粒物の製造方法において、造粒後に静止または流動化開始直後の状態で造粒物を結合剤の融点から+30℃の範囲の温度で加熱して結合剤を溶融させ、その後、冷却して固化させる工程を追加したことを特徴とする球形造粒物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の球形造粒物の製造方法において、造粒前に微粉砕した粒子の表面に吸着した水分を水の蒸気圧以下の減圧下で除去する工程を追加したことを特徴とする球形造粒物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−262061(P2009−262061A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115159(P2008−115159)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(302056664)
【Fターム(参考)】