説明

微細ゲル粒子含有水溶液及びその調製方法

【課題】 微細ゲル粒子の集団的位置制御や移動が可能で、簡単に凝集沈殿することのない微細ゲル粒子含有水溶液及びその調製方法を提供する。
【解決手段】 多糖類をイオン架橋することによりゲル化して微細ゲル粒子を形成した後、架橋イオンを沈殿させる陰イオンを含む水溶液で処理し、水溶液に分散させる。処理後の微細ゲル粒子は、表面に屈折率の異なる含水層を有し、且つ表面電位の絶対値が10mV〜100mVである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が帯電した微細ゲル粒子が分散された新規な微細ゲル粒子含有水溶液に関するものであり、さらには、その調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸は、昆布等から抽出される天然多糖類であり、その高分子側鎖にカルボキシル基を有している。そのため、水溶液中では前記カルボキシル基が解離し、通常、高分子鎖が負に帯電した状態となる。したがって、前記アルギン酸の水溶液を、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の多価の正金属イオンを含む水溶液に滴下してやると、多価の正金属イオンと負に帯電しているカルボキシル基とがイオン架橋点を形成し、瞬時にゲル化が起こる。
【0003】
前記ゲル化は、マイクロオーダーの微細ゲル粒子(マイクロゲルビーズ)の作成に応用され、例えば粒径が0.1μm〜10μm程度の微細なゲル粒子を効率的に作成する技術の開発が進められている。
【0004】
例えば特許文献1には、霧状の高分子溶液(例えばアルギン酸塩溶液)と霧状のゲル化剤溶液とを接触させ、高分子をゲル化させる微細ゲル粒子の製造方法が開示されている。この特許文献1記載の発明は、微細ゲル粒子を例えば模擬血液を構成するための模擬血球として利用することを考慮したもので、高分子溶液やゲル化剤を霧化することで、粒径10μm以下の微細ゲル粒子を効率良く製造することを可能とするものである。
【0005】
また、特許文献2には、固体形成性A液(例えばアルギン酸塩水溶液)の液滴を、インクジェット法により、固体形成性B液(例えばアルカリ土類金属塩水溶液)に噴射することによりマイクロビーズを生成させることが開示されている。特許文献2記載の発明においても、サイズの均一なマイクロビーズを一工程で簡便に製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3740152号公報
【特許文献2】特開2007−111591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の各特許文献記載の方法で製造されるマイクロゲルビーズは、柔らかく、ビーズ自体の変形特性や大きさ等が血球と類似していることから、主に擬似血液中への使用や、ドラッグデリバリーシステム用マイクロカプセル等、医療分野での使用が検討されているが、その他の分野への応用展開は限られているのが実情である。
【0008】
その理由としては、先ず、これらマイクロゲルビーズは、通常溶液中でランダムに分散された状態で使用されるので、その正確な集団的位置制御や移動が困難であることを挙げることができる。ゲルビーズのイオン架橋された高分子ネットワークは、ほぼ電気的中性が保たれており、磁場や電場等の外力応答性が乏しい。
【0009】
また、従来のマイクロゲルビーズは、簡単に凝集沈殿してしまうという問題もある。ゲルビーズのイオン架橋された高分子ネットワークは、ほぼ電気的中性が保たれており、電荷反発に乏しいからである。
【0010】
マイクロゲルビーズ表面に電荷を与える方法はいくつか存在するが、短時間で効率的に行える方法は見つかっていない。イオン架橋は比較的強い結合であるので、架橋の役割を果たす多価の金属イオンを簡単には除去し難いからである。
【0011】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、微細ゲル粒子の集団的位置制御や移動が可能で、簡単に凝集沈殿することのない微細ゲル粒子含有水溶液を提供することを目的とする。また、本発明は、微細ゲル粒子表面に短時間で効率的に電荷を与えることができる微細ゲル含有水溶液の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するために、本発明の微細ゲル粒子含有水溶液は、多糖類をイオン架橋することによりゲル化された微細ゲル粒子が水溶液に分散されてなる微細ゲル粒子含有水溶液であって、前記微細ゲル粒子は、表面に屈折率の異なる含水層を有し、且つ表面電位の絶対値が10mV〜100mVであることを特徴とする。
【0013】
本発明の微細ゲル粒子含有水溶液では、微細ゲル粒子の表面に屈折率の異なる含水層を有する。この含水層は、微細ゲル粒子表面のイオン架橋に寄与する架橋イオンが沈殿されたことにより形成されるもので、多糖類の高分子鎖が開放されていわゆるブラシ状になることにより形成され、前記ブラシ状の高分子鎖に存在する官能基(例えばカルボキシル基)が解離することで、表面が帯電した状態になる。
【0014】
表面が帯電した微細ゲル粒子は、電場応答性が期待でき、集団的位置制御や移動が可能になる。また、微細ゲル粒子同士の電荷反発が強まり、微細ゲル粒子同士の凝集が抑制される。
【0015】
一方、本発明の微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法は、多糖類をイオン架橋することによりゲル化して微細ゲル粒子を形成した後、架橋イオンを沈殿させる陰イオンを含む水溶液で処理し、水溶液に分散させることを特徴とする。
【0016】
例えば、従来のキレート剤よりもカルシウムイオン等の架橋イオンの捕捉力の高い陰イオンを含む水溶液を処理液として使用することで、短時間で微細ゲル粒子の表面を化学修飾することが可能になり、表面が帯電した微細ゲル粒子が分散された水溶液が簡単に調製される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば電圧の印加に対して微細ゲル粒子が集団的応答を示す微細ゲル粒子含有水溶液を提供することが可能である。また、本発明の微細ゲル粒子含有水溶液では、微細ゲル粒子同士が凝集沈殿することを防止することができる。さらに、本発明の微細ゲル粒子含有水溶液では、例えば微細ゲル粒子を負に帯電させることで、正に帯電した表面への微細ゲル粒子の吸着性を向上させることができる。
【0018】
一方、本発明の調製方法によれば、従来のキレート剤よりも簡単且つ効率的に微細ゲル粒子の表面修飾を行うことができ、前述の種々の利点を有する微細ゲル粒子含有水溶液を僅かな処理の追加だけで調製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】微細ゲル粒子含有水溶液の構成を模式的に示す図である。
【図2】微細ゲル粒子の模式図である。
【図3】ゲル化操作の一例を模式的に示す図である。
【図4】炭酸ナトリウム処理による表面修飾の様子を示す図である。
【図5】微細ゲル粒子の処理操作の一例を示す図である。
【図6】実施例で調製した微細ゲル粒子の顕微鏡写真である。
【図7】炭酸ナトリウム水溶液により処理した微細ゲル粒子の顕微鏡写真である。
【図8】処理に使用した炭酸ナトリウムの濃度と処理された微細ゲル粒子の表面電位の関係を示す特性図である。
【図9】櫛形電極の模式的な平面図である。
【図10】炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズの電場応答を示す写真であり、(a)は電圧負荷前、(b)は電圧負荷約0.25秒後である。
【図11】炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズの周波数応答性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した微細ゲル粒子含有水溶液及び微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明の微細ゲル粒子含有水溶液は、図1に模式的に示すように、分散媒である水溶液1中に微細ゲル粒子2を分散してなるものである。分散媒である水溶液は、溶質等を含まないいわゆる純水であってもよいし、何らかの溶質を含む水溶液であってもよい。
【0022】
微細ゲル微粒子は、高分子である多糖類をイオン架橋することによりゲル化されたものであり、例えば0.1μm〜100μm程度の粒径を有するいわゆるマイクロゲルビーズである。多糖類がイオン架橋されることで三次元的な網目構造が形成され、その内部に水溶液を吸収して膨潤することでゲルを構成する。
【0023】
前記微細ゲル粒子形成のための多糖類としては、特に限定されないが、アルギン酸が好適である。アルギン酸は、昆布等から抽出される天然多糖類であり、化1に化学構造を示すように、その高分子側鎖にカルボキシル基を有しており、水溶液中ではカルボキシル基が解離し負に帯電している。そのため、アルギン酸水溶液を架橋イオンを含む水溶液に滴下するだけでゲル化することができる。
【0024】
【化1】

【0025】
ゲル化のための架橋イオンは、多糖類の種類に応じて選定すればよく、例えば多糖類として前記アルギン酸を使用した場合には、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等が架橋イオンとして使用可能である。
【0026】
本発明の微細ゲル粒子含有水溶液において特徴的なのは、水溶液1に分散されている微細ゲル粒子2が、図2に示すように表面に屈折率の異なる含水層2aを有し、且つ表面が帯電されていることである。
【0027】
前記含水層2aは、微細ゲル粒子2の表面を化学処理することで形成されるもので、前記化学処理によりイオン架橋(三次元的な網目構造)が破壊され、末端の高分子鎖が表面にブラシ状に存在するようになることにより形成される。このブラシ状の高分子鎖領域(すなわち含水層2a)は、三次元網目構造を保った微細ゲル粒子2内部に比べて分子密度が小さく、水溶液を多く取り込んでいることから、微細ゲル粒子2とは屈折率が異なり、例えば顕微鏡で観察することにより容易に判別することができる。
【0028】
また、前記微細ゲル粒子2の表面は、前記含水層2aが形成されることに起因して帯電しており、所定の表面電位を有している。前記含水層2aの形成に際しては、架橋イオンがゲルから離脱するが、その結果、多糖類の高分子鎖に存在しイオン架橋を形成していた官能基が解離され、表面が高濃度に帯電する。
【0029】
前記微細ゲル粒子2の帯電は、負であってもよいし、正であってもよい。また、微細ゲル粒子2の表面電位は、その絶対値が10mV〜100mVであることが好ましく、下限は30mV以上であることがより好ましい。表面電位の絶対値が10mV未満であると、十分な集団的位置制御や移動が困難になるおそれがあり、微細ゲル粒子2の凝集沈殿を抑えることができなくなるおそれもある。前記表面電位の絶対値について、特に上限はないが、100mVを越える表面電位を付与することは難しく、また微細ゲル粒子2の反発が大きくなりすぎて不都合が生ずる可能性があることから、実用的には100mV以下とすることが好ましい。
【0030】
例えば前記微細ゲル粒子2がアルギン酸のマイクロゲルビーズの場合、微細ゲル粒子2表面の帯電はカルボキシル基の解離により負となり、表面電位は−10mV〜−100mVである。
【0031】
なお、前記表面電位(ゼータ電位)であるが、溶液に別の相(ここでは微細ゲル粒子)が接触したとき、その界面では電荷分離が起こり、電気二重層が形成され電位差が生じる。溶液に対して接触した相が相対的に運動しているとき、接触相の表面からある厚さの層にある溶液は、粘性のために接触相とともに運動する。この層の表面(滑り面)と界面から十分に離れた溶液の部分との電位差をゼータ電位という。正式には界面動電電位と呼ぶが、記号ζで表すことが一般的であることからゼータ電位と呼ばれることの方が多い。
【0032】
ゼータ電位は、次のような原理で測定される。前記滑り面は接触相と同じ速度で運動するので、その速度は溶液と接触相の運動の相対速度と等しい。滑り面が一定速度で運動しているとき、そこに働く力は釣り合っている。溶液に対して一定の電圧Vを印加した場合、印加電圧による静電気力と溶液の粘性による摩擦力が釣り合う。その結果、ゼータ電位ζと溶液と接触相の運動の相対速度νとの間には、数1に示す(1)式の関係(ヘルムホルツ・スモルコウスキーの式)が成立する。(1)式において、εは溶液の誘電率、ηは溶液の粘度である。この関係から電気浸透や電気泳動によってゼータ電位を測定する。
【0033】
【数1】

【0034】
以上が本発明の微細ゲル粒子含有水溶液の基本的な構成であるが、例えば、前記微細ゲル粒子2は、用途に応じて機能性材料を内包していてもよい。多糖類(例えばアルギン酸)の微細ゲル粒子には、チタンブラックや酸化チタン、Ti等の金属微粒子、色素等、あらゆるものを内包させることができる。微細ゲル粒子2に機能性材料を内包させることで、本発明の微細ゲル粒子含有水溶液を様々な用途に応用展開することが可能になる。
【0035】
次に、以上の構成を有する微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法について説明する。なお、ここでは多糖類として代表的なアルギン酸を用いた場合を例にして説明する。
【0036】
微細ゲル粒子含有水溶液を調製するには、先ず、多糖類(ここではアルギン酸)をイオン架橋してゲル化し、微細ゲル粒子を作製する必要がある。微細ゲル粒子を作製するには、例えば図3に示すように、容器3に架橋イオンを含むゲル化剤溶液4を入れておき、ここにスポイト5等によりアルギン酸塩水溶液6を滴下すればよい。多糖類としてアルギン酸を使用する場合、架橋イオンとしてはCaが好適であり、したがって前記ゲル化剤溶液4としては、塩化カルシウム水溶液を使用する。
【0037】
前記滴下により、アルギン酸塩水溶液6に含まれるアルギン酸がイオン架橋され、瞬時にゲル化する。この際、アルギン酸塩水溶液6の液滴の大きさをコントロールすることで、生成する微細ゲル粒子2の粒径を制御することができる。ゲル化は、前記のようにスポイト等を用いて行ってもよいし、例えば前述の特許文献1,2等に記載されるように、噴霧法やインクジェット法で行ってもよい。これら方法を採用することにより、粒径が小さく均一な大きさの微細ゲル粒子を作製することができる。また、いずれの方法においても、前記アルギン酸塩水溶液6に機能性材料を混入すれば、簡単に微細ゲル粒子2に機能性材料を内包させることができる。
【0038】
微細ゲル粒子2の作製の後、この微細ゲル粒子2を表面処理して化学修飾し、表面に屈折率の異なる含水層2aを形成するとともに、表面電位を付与する。微細ゲル粒子2の表面処理は、微細ゲル粒子2の架橋イオンを沈殿させる陰イオンを含む水溶液で数秒程度処理するだけでよい。アルギン酸微細ゲル粒子の場合、架橋イオンであるCaを沈殿させる陰イオンとしては、炭酸イオン(CO2−)、硫酸イオン(SO2−)、硫黄イオン(S2−)等を挙げることができるが、ここでは前記陰イオンとして炭酸イオン(CO2−)を選択し、処理溶液として炭酸ナトリウム水溶液を使用することとする。カルシウムイオンの捕捉力が高い炭酸ナトリウムを使用することで、短時間で効率的に微細ゲル粒子の表面を化学修飾することができる。
【0039】
アルギン酸微細ゲル粒子を炭酸ナトリウム水溶液で処理すると、図4に示すように、表面近傍のカルシウムイオンが除去され、架橋点が破壊されてアルギン酸のブラシ状の末端高分子鎖により構成される含水層が形成され、解離したカルボキシル基の存在により表面電位が付与される。
【0040】
図5は、処理操作の一例を示すものである。処理に際しては、フラスコ11上にブフナー漏斗12を設置し、この中に作製したアルギン酸の微細ゲル粒子2を入れる。そして、吸引しながら、減圧下、フラスコ13内の炭酸ナトリウム水溶液14をブフナー漏斗12内に注ぐ。これだけで処理は完了であり、微細ゲル粒子2の表面電位を劇的に上げることができる。
【0041】
前記炭酸ナトリウム水溶液による処理においては、炭酸ナトリウムの濃度を調整することで、処理後の微細ゲル粒子2の表面電位を制御することが可能である。例えば、炭酸ナトリウムの濃度を高くすることで、表面電位の絶対値を大きくすることができる。したがって、要求される表面電位に応じて炭酸ナトリウム水溶液における炭酸ナトリウム濃度を調整すればよい。通常は、0.01M〜0.1M程度の濃度の炭酸ナトリウム溶液を使用する。
【0042】
このようにしてアルギン酸微細ゲル粒子の表面処理を行った後、処理した微細ゲル粒子を分散媒に分散し、微細ゲル粒子含有水溶液とする。この時、処理後の微細ゲル粒子の表面には、沈殿した炭酸カルシウムが沈着しているので、分散媒への分散の前に、これを洗浄する洗浄工程を行うことが好ましい。この洗浄工程は、炭酸カルシウムを溶解除去し得る溶液を使用して行えばよく、例えば塩酸水溶液で洗浄すればよい。使用する塩酸の濃度は、例えば0.1N〜1N程度である。使用する塩酸の濃度が0.1N未満であると、炭酸カルシウムを十分に溶解除去できないおそれがある。逆に、塩酸の濃度が1Nを越えると、微細ゲル粒子に悪影響を与えるおそれがある。
【0043】
以上が本発明の微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法であるが、調製に使用する多糖類、架橋イオン、架橋イオンを沈殿させる陰イオン、洗浄液の種類、濃度等は、調製する微細ゲル粒子の種類に応じて適宜選定すればよく、前述のものに限定されるわけではない。
【0044】
調製される微細ゲル粒子含有水溶液においては、微細ゲル粒子が電圧印加に対して集団的応答を示し、表面電位の絶対値が高いほど応答性も高い。また、微細ゲル粒子の電荷反発力が高いので、微細ゲル粒子同士が凝集沈殿することを防止することができる。さらに、前記アルギン酸微細ゲル粒子の場合、表面は高濃度で負に帯電するので、正に帯電した表面への吸着性が向上する。
【0045】
また、前述の調製法において、アルギン酸ゲルのマイクロゲルビーズは、2種類の水溶液を混ぜるだけで瞬時に得られ、その後の表面処理も炭酸ナトリウム水溶液に数秒浸すだけである。炭酸ナトリウムを使用することで、従来のキレート剤よりも効率的に微細ゲル粒子の表面修飾を簡単に行うことが可能である。
【0046】
調製される微細ゲル含有水溶液は、前記特性を活かして、様々な用途に利用することができる。利用可能な分野、製品としては、例えば、人工赤血球、人工血液、ドラッグデリバリーシステム、皮膚浸透薬品、血管内洗浄剤等の医療分野、高吸着性化粧水、保湿剤、マイクロブラシ効果による皮膚洗浄剤、歯磨き粉やマヨネーズ等のエマルジョン物質の分散安定剤、マイクロブラシ効果による歯表面カチオン性汚れの洗浄剤等の化粧品・食品分野、既存のインクや墨汁等の分散安定剤等の工業分野等を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果に基づいて詳細に説明する。
【0048】
アルギン酸マイクロゲルビーズの作製
濃度1Mの塩化カルシウム水溶液中に濃度1wt%のアルギン酸ナトリウム水溶液を滴下し、アルギン酸マイクロゲルビーズを作製した。この操作により、塩化カルシウム水溶液中にカルシウムイオンでイオン架橋されたアルギン酸マイクロゲルビーズが瞬時に形成された。形成されたアルギン酸マイクロゲルビーズの直径は、数μm〜数十μmである。
【0049】
なお、通常、アルギン酸ゲルは無色透明であるため、チタンブラックを内包させ、黒色のゲルとして可視化した。作製したアルギン酸マイクロゲルビーズを図6に示す。作製したアルギン酸マイクロゲルビーズの表面は、過剰のカルシウムイオンの存在で電気的中性が保たれており、表面電位の絶対値が1.3mVしかなく、電場応答性もなかった。
【0050】
炭酸ナトリウム水溶液による処理
そこで、作製したアルギン酸マイクロゲルビーズ表面近傍のカルシウムイオンを除去することで架橋点を壊し、解離したカルボン酸を表面に存在させ、ゲルの表面電位の絶対値を高くすることを試みた。具体的には、作製したアルギン酸マイクロゲルビーズをカルシウムイオン捕捉力の高い炭酸イオンを発生する炭酸ナトリウム水溶液中に数秒間浸漬させ、表面化学処理を行った。
【0051】
その結果、表面電位の絶対値を最大71mVまで上げることに成功した。図7に処理後のアルギン酸マイクロゲルビーズの顕微鏡写真を示す。この写真から、前記処理によりアルギン酸マイクロゲルビーズの表面が化学修飾され、表面に屈折率の異なる含水層が形成されてコアシェル型の構造を採っていることが確認できた。
【0052】
また、図8は、処理に使用した炭酸ナトリウム水溶液の濃度と処理後のアルギン酸マイクロゲルビーズの表面電位の関係を示すものである。処理する炭酸ナトリウム水溶液の濃度に依存してアルギン酸マイクロゲルビーズの表面電位が変化していることがわかる。
【0053】
分散安定性の確認実験
炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズの分散安定性を調べるために、(a)チタンブラック、(b)チタンブラックを内包したアルギン酸マイクロゲルビーズ(未処理)、(c)チタンブラックを内包したアルギン酸マイクロゲルビーズ(炭酸ナトリウム水溶液で処理済み)をそれぞれバイアル瓶中の水に分散させ、分散状態を観察した。分散させた直後、分散させてから2日後のそれぞれについて分散状態を観察したところ、炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズでは、分散直後の分散性が向上しているのみならず、分散させてから2日後においても分散性に優れており、時間的安定性も向上していることがわかった。
【0054】
電場応答性の確認実験
次に、炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズを用いて、電場応答性の実験を行った。実験に際して、電極には図9に模式的に示すような正負交互に10μm間隔で規則的に配置された櫛形電極を用いた。炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズを水溶液中に分散させ、櫛形電極上に載せた。その後、交流電圧を印加して電場応答性を観察した。
【0055】
図10は、炭酸ナトリウム水溶液で処理したアルギン酸マイクロゲルビーズ(表面電位の絶対値が41mV、直径約3μm)が電極間を移動する様子を示すものである。2Hzの交流電圧を印加しているため、この後、何度も2Hzの周波数で電極間を往復する様子が確認されている。
【0056】
図11は、表面電位が41mVであるアルギン酸マイクロゲルビーズが2Hz、4Vの正弦交流電圧に応答する様子を示すものである。図中の線は正弦波でフィッティングしたものであり、印加した交流電圧に対して良い応答性を見せていることがわかる。作製したアルギン酸マイクロゲルビーズの最小駆動電圧は約4Vであり、最大応答周波数は4Hzであった。また、これらのアルギン酸マイクロゲルビーズは、集団で周波数応答することも確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 水溶液、2 微細ゲル粒子、2a 含水層、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類をイオン架橋することによりゲル化された微細ゲル粒子が水溶液に分散されてなる微細ゲル粒子含有水溶液であって、
前記微細ゲル粒子は、表面に屈折率の異なる含水層を有し、且つ表面電位の絶対値が10mV〜100mVであることを特徴とする微細ゲル粒子含有水溶液。
【請求項2】
前記多糖類がアルギン酸であり、Caイオンでイオン架橋されてゲル化されるとともに、前記微細ゲル粒子の表面電位が−10mV〜−100mVであることを特徴とする請求項1記載の微細ゲル粒子含有水溶液。
【請求項3】
前記微細ゲル粒子が機能性材料を内包していることを特徴とする請求項1または2記載の微細ゲル粒子含有水溶液。
【請求項4】
多糖類をイオン架橋することによりゲル化して微細ゲル粒子を形成した後、架橋イオンを沈殿させる陰イオンを含む水溶液で処理し、水溶液に分散させることを特徴とする微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法。
【請求項5】
前記多糖類がアルギン酸であり、Caイオンでイオン架橋することによりゲル化して微細ゲル粒子を形成するとともに、前記架橋イオンを沈殿させる水溶液として炭酸ナトリウム水溶液を用いることを特徴とする請求項4記載の微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法。
【請求項6】
前記炭酸ナトリウム水溶液で処理した後、さらに塩酸で処理することを特徴とする請求項5記載の微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法。
【請求項7】
前記ゲル化の際に微細ゲル粒子内に機能性材料を内包させることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項記載の微細ゲル粒子含有水溶液の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−94076(P2011−94076A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251222(P2009−251222)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月27日〜28日 日本化学会関東支部、高分子学会北陸支部主催の「2009年支部合同新潟地方大会」において文書(2009年支部合同新潟地方大会講演要旨集)をもって発表
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】