説明

微細中空ガラス球状体の製造方法

【課題】 火山ガラス質堆積物を原料とし、高強度で白色度の優れた微細中空ガラス球状体を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 火山ガラス質堆積物粉体100重量部を、硫酸アルミニウム1〜10重量部を含有する水溶液中に分散させたのち、この懸濁液にアルカリ水溶液を添加して該粉体粒子表面にアルミナ水和物を析出させ、次いで固形物を洗浄、乾燥後、900〜1100℃の温度において1秒ないし1分間熱処理することにより、微細中空ガラス球状体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、火山ガラス質堆積物を原料として、微細中空ガラス球状体を製造する方法の改良に関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は、高強度で、かつ白色度の優れた微細中空ガラス球状体を効率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】微細中空ガラス球状体は、比重が小さく、かつ耐熱性に優れていることから、各種金属、セラミックス、コンクリート、プラスチックスなどの軽量化充てん材として注目され、最近その需要が著しく増大している。
【0003】これまで、火山ガラス質堆積物を原料として、微細中空ガラス球状体を製造する方法としては、シラスの微粒体を800〜1200℃の温度で10秒ないし10分間焼成したのち、水中における比重分離又は空気分級して微細中空ガラス球状体を製造する方法が知られている(特公昭48−17645号公報)。しかしながら、この方法では、粒径が20μm以下の火山ガラス質堆積物を処理しても、所望の微細中空ガラス球状体を得ることはできない。
【0004】一方、原料の前処理として、酸溶液を用いて加温処理を行うことにより、超微細中空ガラス球状体を製造する方法も知られている(特公平4−296750号公報)。しかしながら、この方法においては、100℃以上の水熱反応を進行させるために、耐酸、耐圧の処理容器を用いなければならず、設備的に不便である上、処理効率も極めて低いという欠点があり、また原料が微粒状であるため、従来の加熱発泡装置では粒子が凝集し、均一な加熱発泡が困難である。
【0005】本発明者らは、先に原料の前処理として、硫酸アルミニウム及び尿素を用いて加温処理を行うことにより、超微細中空ガラス球状体を製造する方法を開発した(特願平7−9015号)。しかしながら、この方法においては、70℃以上の加温が必要であり、かつ過剰の尿素を用いなければならず、設備的に不便である上、未反応の尿素を含む廃液の処理が必要となるなどの欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来の微細中空ガラス球状体の製造方法がもつ欠点を克服し、火山ガラス質堆積物を原料とし、簡単な装置を用い、かつ廃液処理を必要とせずに、高強度で白色度の優れた微細中空ガラス球状体を、加熱発泡時に粒子の凝集を生じさせることなく、効率よく製造する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、火山ガラス質堆積物を原料として微細中空ガラス球状体を製造する方法について鋭意研究を重ねた結果、火山ガラス質堆積物粉体を加熱発泡処理するに際し、予め該粉体粒子表面をアルミナ水和物で被覆しておけば、粒子内部の水が確保されて発泡が効果的に起こり、しかもその際、粒子表面に酸化アルミニウム膜が形成されるので、粒子間の融着が防止され、前記目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち、本発明は、火山ガラス質堆積物粉体100重量部を、硫酸アルミニウム1〜10重量部を含有する水溶液中に均質に分散させたのち、この懸濁液にアルカリ水溶液を添加して該粉体粒子表面にアルミナ水和物を析出させ、次いで固形物を取り出し、洗浄、乾燥後、900〜1100℃の温度において1秒ないし1分間熱処理することを特徴とする微細中空ガラス球状体の製造方法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明方法において、原料として用いる火山ガラス質堆積物は、シラス、黒曜石、真珠岩、松脂岩などとして天然に産出する鉱物であって、これらは通常SiO2、Al23、Fe23、CaO、MgO、Na2O及びK2Oから構成され、水分3〜10重量%を含んでいる。
【0010】本発明方法においては、これらの火山ガラス質堆積物を粉砕し、粉砕物を乾式分級や湿式分級などにより、通常粒径20μm以下の区分を分級して用いる。
【0011】本発明方法においては、まず、この火山ガラス質堆積物粉体100重量部を、硫酸アルミニウム1〜10重量部を含有する水溶液中に均質に分散させて、懸濁液を調製する。硫酸アルミニウムの量が1重量部未満では本発明の効果が十分に発揮されないし、10重量部を超えるとその量の割には効果の向上が認められない。効果の点から、この硫酸アルミニウムの好ましい量は2〜8重量部の範囲である。また、硫酸アルミニウム含有水溶液の硫酸アルミニウム濃度は0.001モル/リットル以上が好ましく、特に0.003〜0.1モル/リットルの範囲が好適である。
【0012】次に、このようにして得られた懸濁液をかき混ぜながら、これにアルカリ水溶液を徐々に添加して硫酸アルミニウムを加水分解させ、粉体粒子表面にアルミナ水和物を析出させる。アルカリ水溶液としては、例えばアンモニア水や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素アンモニウムのような炭酸水素塩などの水溶液が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で取り扱いやすく、収率が高いという点から、炭酸水素アンモニウム及び炭酸水素ナトリウムが好適である。このアルカリ水溶液の濃度は2モル/リットル以下が好ましく、特に0.5〜1.5モル/リットルの範囲が好適である。このアルカリ水溶液の添加量は、懸濁液中の硫酸アルミニウムに対し、炭酸水素塩が0.8〜1.2当量倍になるように選ぶのが有利である。また、この炭酸水素塩水溶液を添加する際の懸濁液の温度は、一般に室温で十分であるが、必要ならば適当に加温してもよい。
【0013】このようにして、火山ガラス質堆積物粉体粒子の表面がアルミナ水和物により被覆され、内部の水が確保される。
【0014】次に、懸濁液中の固形物をろ過、遠心分離、デカンテーションなどの公知の手段により取り出したのち、水洗などにより十分に洗浄したのち、乾燥処理し、次いでこの乾燥粉体を900〜1100℃の範囲の温度において1秒ないし1分間熱処理して発泡させる。この熱処理により、発泡粒子表面がアルミナで被覆されるので、粒子間の融着が効果的に防止される。熱処理温度が900℃未満では十分に発泡しないおそれがあるし、1100℃を超えると粒子間の融着が生じることがある。また、熱処理時間が1秒未満では十分に発泡しないおそれがあり、一方1分を超えるとそれ以上の発泡は起こらず、むしろ粒子間の融着など、好ましくない事態が招来する。
【0015】このようにして加熱発泡させたものは軽量の中空体であるが、さらに、比重差分別、例えば水中における浮沈分離又は空気分級することにより、より軽量の中空体を回収することもできる。
【0016】このような方法によれば、粒径が20μm以下で、粒子密度1g/cm3以下の微細中空ガラス球状体を、原料の重量に基づき50%以上という高い回収率で得ることができる。
【0017】
【発明の効果】本発明によると、火山ガラス質堆積物粉体を原料として用い、特殊な装置や廃液処理を必要とせずに、高強度で白色度の優れた微細中空ガラス球状体を、加熱発泡時に粒子の凝集を生じさせることなく、効率よく製造することができる。
【0018】本発明方法で得られた微細中空ガラス球状体は、各種金属、セラミックス、コンクリート、プラスチックスなどの軽量化充てん材として有用である。
【0019】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0020】なお、微細中空ガラス球状体の白色度及び強度は次の方法により測定した。
(1)白色度ラブ(Lab)法による表色系の頂点付近で標準白色板との色差を測定し、次式により白色度(W)を求めた。
W=100−[(100−L)2+a2+b21/2ただし、Lは明度、aは+で赤の度合、−で緑の度合、bは+で黄の度合、−で青の度合を示す。
【0021】(2)強度試料S1(g)を網ふるい製試料容器に入れ、この試料容器を加圧容器中に装てんして密閉し、圧力を8MPaまで上げたのち、試料容器を取り出す。次に、試料を浮沈分離器に入れて浮揚物と沈降物に分け、浮揚物をるつぼ型ろ過器で吸引ろ過し、乾燥してその重量S2(g)を測定し、次式に従って計算した静水浮揚率(H)をもって強度とする。
H(%)=(S2/S1)×100
【0022】実施例1表1に示す組成をもつ火山ガラス質堆積物(福島県福島市飯坂町産出、通称福島白土)を解砕し、粉末原料を調製した。
【0023】
【表1】


【0024】液体媒質として、水ガラス(JIS 3号)0.2重量%水溶液を用い、前記の粉末原料を投入し、粒子の水中沈降速度の差を利用する水簸により、分離粒度5μm及び10μmで分級した。分級粒子中に含まれる粒径10μmを超える粒子の割合は、いずれの場合も10重量%以下であり、また粒径5μm未満の粒子の割合は、いずれの場合も10重量%以下であった。
【0025】次に、この分級した粉末100重量部を、硫酸アルミニウム0.05モル/リットル濃度の水溶液160重量部(粉末に対する硫酸アルミニウムの割合:約3.5重量部)に添加し、室温下でかき混ぜながら、さらに1モル/リットル濃度の炭酸水素アンモニウム水溶液を2時間にわたって滴下し、硫酸アルミニウムの全量が加水分解する当量となるまで加えた。滴下終了2時間後、被覆処理された固形物をろ取したのち、水洗、乾燥した。
【0026】この乾燥粉末を、最高温度を1040℃とした加熱発泡装置に供給し、発泡させたのち、回収して回収物の粒子密度を測定した。
【0027】その後、水中における浮沈分離を行い、浮揚物として微細中空ガラス球状体を回収した。ここで得られた微細中空ガラス球状体の回収率を算出した。結果を表2に示す。
【0028】実施例2,3実施例1でアルカリ水溶液として用いた炭酸水素アンモニウム水溶液の代りに1モル/リットル濃度の水酸化ナトリウム水溶液又はアンモニア水を用い、実施例1と同様にして火山ガラス質堆積物粉末を処理した。このようにして得た乾燥粉末を最高温度1040℃で加熱発泡した。得られた微細中空ガラス球状体の粒子密度及び回収率を表2に示す。
【0029】比較例実施例1において、火山ガラス質堆積物の分級粉末に対し、被覆処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施した。しかし、加熱発泡装置内に火山ガラス質堆積物の分級粉末が多量に溶融付着して連続処理ができなかった。そこで、最高温度を1000℃としたところ、連続処理が可能となった。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】


【0031】表2から分かるように、実施例1は、比較例に比べて加熱発泡物の粒子密度が小さく、かつ微細中空ガラス球状体の回収率が2倍以上であった。なお、加熱発泡前の粒子密度は、両者共2.30g/cm3であった。
【0032】実施例4実施例1において、炭酸水素アンモニウム水溶液の代わりに、濃度1モル/リットルの炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた微細中空ガラス球状体の回収率を算出するとともに、その白色度及び強度を測定した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】


【0034】表3から分かるように、本発明方法で得られた中空ガラス球状体は、微粒で白色度が高く、強度の大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 火山ガラス質堆積物粉体100重量部を、硫酸アルミニウム1〜10重量部を含有する水溶液中に均質に分散させたのち、この懸濁液にアルカリ水溶液を添加して、該粉体粒子表面にアルミナ水和物を析出させ、次いで固形物を取り出し、洗浄、乾燥後、900〜1100℃の温度において1秒ないし1分間熱処理することを特徴とする微細中空ガラス球状体の製造方法。
【請求項2】 アルカリ水溶液が炭酸水素塩水溶液である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 炭酸水素塩水溶液が炭酸水素アンモニウム水溶液又は炭酸水素ナトリウム水溶液である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】 硫酸アルミニウム含有水溶液の硫酸アルミニウム濃度が0.001モル/リットル以上である請求項1,2又は3記載の製造方法。

【公開番号】特開平9−263425
【公開日】平成9年(1997)10月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−72442
【出願日】平成8年(1996)3月27日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 明 (外1名)
【出願人】(000231671)株式会社カルシード (2)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 明