説明

微細孔形成部の仕上げ加工方法

【課題】投射材の投射による加工でありながら,被加工物の梨地化を防止でき,微細孔形成部に生じたバリやドロスを確実に除去できると共に,孔内に詰まった研磨材を容易且つ確実に除去できる微細孔形成部の仕上げ加工方法を提供する。
【解決手段】被加工物の微細孔形成部に対し,弾性研磨材を投射する研磨材投射工程を行った後,クリーニング工程を行う。前記弾性研磨材として,水,アルコール又は有機溶剤のいずれかの液体で溶解又は軟化する弾性体に砥粒を分散し又は,前記弾性体の表面に砥粒を担持させたものを使用し,前記クリーニング工程で前記弾性体を溶解又は軟化させる前記液体を洗浄液として被加工物を洗浄することで,微細孔内に残留する弾性研磨材を溶解又は軟化させて除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細孔形成部の仕上げ加工方法に関し,例えば機械部品や電子部品等に対し微細孔を形成した際に生じるバリやドロスの除去,前記微細孔の開孔縁部の面取り等を行う仕上げ加工を,研磨材の投射によるブラスト加工によって行う,微細孔形成部の仕上げ加工方法に関する。
【0002】
なお,本発明において微細孔とは,孔径が0.02〜2mmの孔を言い,貫通孔の他,有底孔を含み,孔径が段階的に変化して内部に段差を有するもの,又は孔径が漸次変化してテーパ状を成すもの,及びこれらの組合せた形状を有するものをいずれも含む。
【背景技術】
【0003】
電子部品の実装基板や検査用基板等に設けるバイアホール,各種材料の切断,裁断等に使用されるウォータジェット用のノズル孔,マスク材や印刷用のスクリーンに形成する孔,X線コリメータの光透過孔等のように,微細孔の形成が各種の物品や部品に対し施されている。
【0004】
このような微細孔の形成が,金属やプラスチック等の展延性を有する材料によって形成された部品等に対して行われる場合,ドリルやエンドミル等を使用して微細孔を形成すると,微細孔の開口縁には,微細なバリが発生する。
【0005】
また,このような微細孔の形成をレーザ加工機によって行う場合,被加工物の構成成分が溶融して生じた「ドロス」や「スパッタ」が開孔形成部の周辺に付着する。
【0006】
そのため,これらのバリやドロスが生じたままでは,微細孔に部品等を正確に装着することができないだけでなく,バリによって作業者がけがをし,又は他の部品等を傷付けるおそれがあることから,微細孔の形成部に生じているバリやドロスを除去する仕上げ加工が必要となる。
【0007】
このような仕上加工の一例として,被加工物の微細孔の形成部に砥粒を投射するサンドブラストによって前述したバリやドロスを切削して除去する方法,鋼球や,ナイロン,ポリカーボネート等の樹脂製の球体からなる,所謂「ショット」と呼ばれる投射材を投射してバリの除去を行うショットブラスト等が考えられる。
【0008】
このうち,砥粒を投射する前掲のサンドブラスト法は,切削性を有する砥粒を投射材として投射することで,被加工物の表面の一部と共に前述したバリ,ドロス,スパッタ等を削り落とすことで除去しようというものである。
【0009】
そのため,バリ,ドロス,スパッタは比較的確実に除去できるが,被加工物の表面が削り取られて梨地となる等,被加工物に与えるダメージも大きく,鏡面等の平滑面に形成した被加工物を加工対象とする場合,表面の平滑さを維持できない。
【0010】
一方,前述のショットブラスト法は,球体等の角の無い「ショット」,すなわち切削性を発揮しない投射材を使用することで,前述のサンドブラストのようにバリ,ドロス,スパッタを「削り落とす」のではなく,ショットの衝突による衝撃によってバリをはたき落とす加工である。
【0011】
そのため, ショットとの衝突によってバリが押し潰されて被加工物の表面に密着してしまった場合等にはこれを除去することが困難となり,また,被加工物の表面に強固に付着しているドロスやスパッタについても除去が難しいという問題がある。
【0012】
また,角の無いショットは,切削力を発揮するものでは無いものの,被加工物の材質によってはショットの衝突によって被加工物の表面に半球状の窪みが生じるため,被加工物の表面が梨地化することも防止できるものとはなっていない。
【0013】
なお,サンドブラスト,ショットブラストのいずれの方法共,前述した微細孔の仕上げ加工に使用する場合には,使用した砥粒やショット等の投射材,及びこれらが破砕して生じた破砕片等が微細孔の内部に詰まり,又は微細孔内に残留する等して除去することが困難となる。
【0014】
そして,このような投射材が残留したままの微細孔に部品等を組み付けると,残留した研磨材が微細孔内に挿入された部品との間でかじりを起こし,機械に不具合が生じたり,また,微細孔の内面や挿入された部品の表面を傷付け,又は摩耗させる等の問題を生じる。
【0015】
特に,微細孔が有底孔である場合や,途中に段差等を有するものである場合,更には孔径が0.2mm以下の場合には,投射材が微細孔を完全に塞いでしまう場合もあり,このような状態では,微細孔の機能自体が失われるから,残留する研磨材を容易かつ確実に除去できるようにすることは,重要な課題である。
【0016】
なお,前述した砥粒やショットを投射材として使用する方法の他,微細孔が形成された被加工物に対するものではないが,被加工物に生じたバリを除去する方法として,過冷却状体の液滴(水滴)と凍結粒子(氷粒)を投射することにより,氷粒の衝突によってバリを除去するか,又は,バリに衝突した過冷却状態の水滴が固化することで生じた氷にバリを内包させ,この氷に氷粒を衝突させることでバリと共に除去する方法も提案されている(特許文献1)。
【0017】
また,別の方法として,ミョウバン及び乾燥ミョウバンのうちの少なくとも一種を含む投射材の投射によって,注射針等の微小孔に生じたバリ取りを行うことも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2008−307624号公報
【特許文献2】特開2004−314273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述の特許文献1に記載の方法では,投射材として氷粒と過冷却状体の水滴を使用するものであるため,被加工物に投射材が付着し,また,孔内に投射材が詰まっても,投射材を蒸発等させてしまえば被加工物の表面や孔内に対する投射材の残留という問題は生じない。
【0020】
しかし,上記方法では,氷粒の衝突による衝撃によってバリを除去しようというものであるから,被加工物が比較的軟質の材料によって形成されている場合には,依然として表面が梨地化するおそれがある。
【0021】
また,この方法においても投射材として切削力を発揮しないものを使用しているため,被加工物に切削傷を付けることは無いが,氷粒の衝突によって押し潰されて被加工物の表面に貼り付いてしまったバリや,被加工物の表面に強固に貼り付いているドロスやスパッタの除去は困難である。
【0022】
また,特許文献2に記載の方法では,投射材として水溶性を有するミョウバン又は乾燥ミョウバンを使用することから,ブラスト加工後の水洗によって投射材を洗い流すことで,投射材の残留という問題は解消する。
【0023】
しかし,特許文献2に記載の方法も,ミョウバン又は乾燥ミョウバンから成る投射材は,前述した鋼球やプラスチック球等の「ショット」と同様,衝突時の衝撃によってバリの除去を行うものであり,切削力の発揮によってバリやドロスを削り落とすものではないから,押し潰されて被加工物の表面に付着したバリや,被加工物の表面に強固に付着しているドロスやスパッタの除去が困難である。
【0024】
なお,特許文献2では,ミョウバン又は乾燥ミョウバン製の投射材が「研削性を維持しつつ,被加工物の表面に研削傷を生じ難い」という性質を両立させたものであると説明するが(特許文献2[0007],[0029]欄),特許文献2で言う「研削性を維持しつつ,被加工物の表面に研削傷を生じ難い」とは,実施例において下地金属を傷付けず表面の塗装のみを剥離することを指すものであり(特許文献2[0023]欄),特許文献2における「研削」の語は,一般的な意味での「研削」(削り取る)とは異なり,「剥離」という意味で使用されている。
【0025】
そのため,ミョウバンや乾燥ミョウバンでは得られない,本来の意味での「研削」(削り取る)という作用が必要な場合には,セラミック研磨材等の研削性を有する砥粒と混合して使用することが必要となり(引用文献2[0016]),被加工物の表面を梨地化してしまうという問題を解消できず,また,これらの砥粒が微細孔に詰まって除去できなくなるという問題も解消できない。
【0026】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,切削によってバリ取りやドロス,スパッタの除去,微細孔の開孔縁の面取り等の加工を確実に行うことができるものでありながら,被加工物の表面が梨地となることを防止でき,しかも,微細孔内に残留する研磨材を容易に除去することのできる微細孔形成部の仕上げ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために,本発明の微細孔形成部の仕上げ加工方法は,
被加工物の微細孔形成部に対し,研磨材を投射して行う仕上げ加工において,
前記研磨材を,水,アルコール又は有機溶剤のうちから選択されたいずれかの液体に溶解し,又は前記液体との接触により軟化する性質を有する弾性体と,前記弾性体に分散され,又は前記弾性体の表面に担持された砥粒とによって構成された弾性研磨材とし,前記被加工物の微細孔形成部に対し,前記弾性研磨材を投射する研磨材投射工程と,
前記研磨材投射工程後,前記被加工物を,前記弾性体を溶解又は軟化させる前記液体を洗浄液として使用して洗浄するクリーニング工程を含むことを特徴とする(請求項1)。
【0028】
前述の弾性研磨材としては,前記微細孔の孔径よりも大径のものを使用することが好ましい(請求項2)。
【0029】
また,前記弾性研磨材の投射は,被加工物の加工面に対し5〜60°の入射角となるよう行うことが好ましい(請求項3)。
【0030】
前記クリーニング工程における前記洗浄は,前記洗浄液を使用した超音波洗浄により行うことができる(請求項4)。
【0031】
または,前記クリーニング工程における前記洗浄を,前記微細孔形成部に対して前記洗浄液を単独で,又は圧縮気体と共に噴射して行うものとしても良い(請求項5)。
【0032】
更に,前記クリーニング工程は,前記被加工物を前記洗浄液に所定時間浸漬した後,前記微細孔形成部に対して圧縮気体を吹き付けることにより行うものとしても良い(請求項6)。
【0033】
前記弾性研磨材を構成する前記弾性体は,これをゼラチン,及び/又は寒天,カラギーナン,ペクチン等の増粘性多糖類のゲル化物によって形成することができ,この場合,前記洗浄液として水を使用することができる(請求項7)。
【0034】
なお,ゼラチンを多価アルコールに溶解したゲル化物は,アルコール,水のいずれにも溶ける。
【0035】
また,前記弾性研磨材を構成する前記弾性体としては,これを,糊化でん粉を主成分とする物質により形成するものとしても良く,この場合にも前記洗浄液として水を使用する(請求項8)。
【0036】
更に,前記弾性研磨材を構成する前記弾性体を,穀粉に水を添加すると共に混練してグルテンを生成させた混練物により形成すると共に,前記洗浄水を水とするものとしても良い(請求項9)。
【発明の効果】
【0037】
以上説明した本発明の構成により,本発明の微細孔形成部の仕上げ加工方法によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0038】
水,アルコール,又は有機溶剤のうちから選択されたいずれかの液体によって溶解し,又は軟化する性質を有する弾性体に砥粒を分散し,又は前記弾性体に砥粒を担持させた弾性研磨材を使用することで,微細孔の開孔縁に生じたバリやドロスの除去,開孔縁部の面取りを好適に行うことができるものでありながら,被加工物の表面に対する梨地の形成を抑制でき,しかも,微細孔内に弾性研磨材乃至は砥粒が残留しまたは詰まった場合であっても,前記液体を洗浄液とした洗浄を行うことで,これを容易に除去することができた。
【0039】
特に,前記弾性研磨材として,微細孔の開口径よりも大径のものを使用することで,弾性研磨材が微細孔の深部に対して入り込み難くすることで,洗浄による除去を容易にすることができた。
【0040】
また,前記弾性研磨材を,被加工物の基加工面に対し5〜60°の入射角となるよう投射する構成にあっては,弾性研磨材が被加工物の表面上を滑動する結果,被加工物の梨地化をより確実に防止できると共に,バリやドロスの切削による除去が可能である。
【0041】
クリーニング工程を,前記洗浄液を使用して超音波洗浄により行うことで,又は,前記洗浄液を単独,又は圧縮気体と共に微細孔形成部に噴射して行うことで,更には,前記洗浄液に対する所定時間の浸漬後,前記微細孔形成部に対し圧縮気体を噴射して行うことで,洗浄液によって溶解し,又は軟化した弾性研磨材を容易且つ確実に除去することができた。
【0042】
なお,前記弾性体としては,ゼラチン,寒天,カラギーナン,又はペクチンのいずれかの物質のゲル化物,糊化でん粉を主成分とする物質,又は,穀粉に水を添加すると共に混練してグルテンを生成させた混練物のいずれかによって製造することで,これを水によって溶解乃至は軟化させることができ,アルコールや有機溶剤を使用した洗浄を行う場合に比較して安全且つ容易に残留弾性研磨材の除去を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】被加工物に形成する微細孔の形状を例示した説明図であり,(A)は貫通孔,(B)は有底孔,(C),(D)は孔径が変化するもの,(E)は(A),(D)を組み合わせた形状。
【図2】実施例で処理対象としたアルミ合金製の被加工物の説明図であり,(A)は平面図,(B)は底面図,(C)は(A)のC−C線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に,本発明の実施形態につき以下説明する。
【0045】
〔被加工物〕
本発明で処理対象とする被加工物は,微細孔が形成された部品や製品であり,微細孔が形成されたものであれば,その材質は特に限定されず,金属,プラスチック,ガラス,セラミックス等の各種の材質のものを対象とすることができる。
【0046】
なお,微細孔の形成をレーザによって行う場合,特に材質に関係無くドロスの発生やスパッタによる付着物の発生という問題が生じ,これらを除去することが必要になるが,微細孔の形成方法がドリル等の機械加工による穿孔である場合には,被加工物の材質が,金属やプラスチックのような展延性を有する材質以外の材質である場合にはバリの発生が無いため,機械加工によって微細孔を形成する被加工物を本発明の方法による処理対象とする場合には,被加工物は展延性を有する材料,例えば金属又はプラスチックによって形成された被加工物が処理対象の中心となる。
【0047】
被加工物の形状及び形成する微細孔の数等についても特に限定されず,例えばスクリーン印刷用のメタルマスクのように金属薄板に微細孔が形成されたもの,ウォータジェット用のノズルのように金属やセラミックス等のブロックに微細孔が形成されたもの,更には,電子部品用の実装基板や検査用基板のように,樹脂基板に微細孔が形成されたもの等,各種のものを対象とする。
【0048】
この微細孔としては,直径約0.02〜2.0mmの範囲のものが対象であり,この微細孔には,図1(A)に示すように被加工物の表裏面間を貫通する貫通孔の他,図1(B)に示すように被加工物を貫通しない有底孔であっても良く,また,長さ方向の全部又は一部において孔径が段階的に変化し,又は漸次変化して,図1(C)に示す孔径の異なる2つの部分から成り,開孔中に段差を有する形状や,図1(D)に示すようなテーパ状,図1(E)に示すよう漏斗状等の各種形状,又はこれらを組み合わせた形状であっても良い。
【0049】
〔弾性研磨材〕
弾性研磨材の全体構造
本発明で使用する弾性研磨材は,水,アルコール又は有機溶剤のうちから選択されたいずれかの液体によって溶解し,又は軟化する弾性材料と,この弾性材料に分散又は担持させた砥粒によって構成されたもので,被加工物に対する衝突時,弾性体が衝突時の衝撃を吸収する一方,弾性体に分散ないしは担持された砥粒が切刃となって切削力を発揮するものとなっている。
【0050】
弾性材料に対する砥粒の担持方法としては,弾性材料中に砥粒を練り込む等して分散させたもの,弾性材料の表面に,弾性材料が有する粘着性によって砥粒を付着させ,又は,弾性材料の表面に粘着性を有する物質を接着剤として塗布して砥粒を接着することにより担持させたもののいずれを使用しても良い。
【0051】
なお,弾性体の表面に接着剤を塗布する場合,この接着剤についても弾性体と同じ洗浄液によって溶解乃至は軟化するものを使用することが好ましい。
【0052】
加工に使用する弾性研磨材の粒径は,例えば加工対象とする被加工物に形成した微細孔の孔径との関係において決定することができ,使用する弾性研磨材の粒径を,加工対象とする被加工物に設けた微細孔の孔径に対して大きなものを使用し,好ましくは,微細孔の孔径に対し,1.0〜50倍の粒径を有する弾性研磨材を使用する。
【0053】
なお,弾性研磨材の形状は,球形に限定されず,各種の不定形な形状のものであって良く,又は,片状乃至は板状を有するものとしても良く,この場合,弾性研磨材の最大幅を弾性研磨材の径とし,これが微細孔の孔径に対して大きなものであれば良い。
【0054】
砥粒
弾性研磨材に用いる砥粒は,金属,各種鉱物,セラミックスの粒子等,砥粒として既知の各種の物質より選択して使用することができ,一例としてダイヤモンド,炭化ケイ素,アルミナ等のセラミックス系の砥粒を使用することが好ましい。
【0055】
使用する砥粒は,被加工物の材質,微細孔の寸法,最終的に得ようとする加工状態等によっても異なるが,一例として♯600(平均粒子径20μm)〜♯20000(平均粒子径0.45μm)の範囲のものを好適に使用することができる。
【0056】
砥粒の粒径の選定は,例えば,♯600(平均粒子径20μm),♯1000(平均粒子径12μm),♯3000(平均粒子径4.0μm),♯6000(平均粒子径2μm),♯8000(平均粒子径1.2μm),♯10000(平均粒子径0.6μm),♯20000(平均粒子径0.45μm)の中から適当なものを選択して使用しても良く,又は,加工を数工程に分け,加工が進むにつれ徐々に低番手(大粒径)のものから高番手(小粒径)の砥粒を備えた弾性研磨材を使用するようにしても良い。
【0057】
この場合,加工の進展に従い,使用する砥粒の材質についても適切なものに変更する等しても良い。
【0058】
弾性材
前述した弾性研磨材の核となる弾性材料としては,一例として下記のものを使用することができる。
【0059】
ゲル化物
ゼラチンや,食品添加物における増粘性多糖類として知られる寒天,カラギーナン,ペクチン等を水に膨潤した後,加熱して溶解させ,又は前記いずれかの物質を温水に溶解させた後,凝固温度に冷却して得たゲル化物を前述の弾性材料として使用することができる。
【0060】
または,ゼラチンや増粘性多糖類を多価アルコールに溶解した後,放置又は冷却して凝固させたものを前述の弾性材料として使用するものとしても良い。
【0061】
製造する弾性研磨材が弾性体に砥粒を分散させたものである場合には,凝固する前にゲル化剤溶液に砥粒を添加し,これを型に入れて,又は例えば滴下中に冷却する等して,弾性体中に砥粒が分散された,所定粒径の弾性研磨材を得るものとしても良く,又は,砥粒と共に凝固したゲル化物を,所定のサイズに切断乃至は破砕する等して,弾性体中に砥粒が分散された,所定粒径の弾性研磨材を得るものとしても良い。
【0062】
なお,弾性研磨材として弾性体の表面に砥粒を担持した構造のものを得る場合には,前述したと同様の方法でゲル化剤溶液を所定粒径に凝固させ,又は,ゲル化溶剤を凝固させて得た弾性体の塊を切断乃至は破砕して弾性体の粒体を得,このようにして得た弾性体の粒体表面に砥粒をまぶして付着させることで,弾性研磨材を得るものとしても良い。
【0063】
糊化でん粉を主成分とする物質
弾性研磨材の核となる弾性体は,更に,糊化でん粉を主成分とする物質によって得るものとしても良い。
【0064】
デンプンを水中に懸濁し加熱すると,デンプン粒は吸水して次第に膨張し,更に加熱を続けると最終的にはデンプン粒が崩壊してゲル状に変化する。この現象は,でん粉の「糊化」として知られており,本発明ではこの糊化によってゲル化したでん粉(糊化でん粉)を主成分とする物質を前述した弾性材料として使用することができる。
【0065】
このような物質の原料としては,一例として,コーンスターチ(トウモロコシでん粉),小麦粉,米粉,片栗粉,各種豆類の粉,馬鈴薯でん粉,甘藷でん粉(サツマイモでん粉),キャッサバ(タピオカでん粉)等の既知の各種の材料を使用することができ,これらを水に溶いて加熱した後,冷却して前述の弾性体を得ることができる。
【0066】
また,例えば米粒等を粉末にすることなく,米粒の状態のままで水と共に加熱して糊化させることにより得られる,粘弾性を持った粒状体を前述の弾性体とし,この粒状体の表面に砥粒を付着させて弾性研磨材を得るものとしても良く,更には,水と共に加熱して糊化させた米粒をすり潰して弾性体を得,この弾性体に砥粒を練り込んだものを所定粒径の粒状体に成形し,又は前記弾性体を所定粒径の粒状体に形成した後,その表面に砥粒を付着させて,前述の弾性研磨材を得るものとしても良い。
【0067】
穀粉と水の混練物
更に,小麦,大麦,ライ麦等の穀粉に水を添加すると共に混練してグルテンを生成させた混練物は,生成されたグルテンによって粘りを有すると共に弾性を備えるものであり,これも前述した弾性体として使用することができ,この混練物に砥粒を練り込み,又はこの混練物を造粒して得た粒体表面に砥粒を付着させて弾性研磨材とするものとしても良い。
【0068】
その他
なお,以上で説明した弾性体は,いずれも水に溶解し,又は水によって軟化するものを示したが,例えば熱可塑性のエラストマー等であって,アルコールや有機溶剤に溶解し,又は軟化するものを弾性体として使用するものとしても良い。
【0069】
〔処理方法〕
主要構成
本発明の仕上げ加工方法は,前述した被加工物の微細孔形成部に対し,前述した構成の弾性研磨材を投射する「研磨材投射工程」と,前記研磨材投射工程の後,被加工物を洗浄して残留する弾性研磨材を除去する「クリーニング工程」によって構成される。
【0070】
研磨材投射工程
研磨材投射工程は,前述した構造を有する弾性研磨材を,被加工物の表面に対し投射し得るものであれば如何なる方法によって行っても良く,既知のブラスト加工装置を使用して行うことができる。
【0071】
このようなブラスト加工装置としては,羽根車を回転させて研磨材に遠心力を与えて投射する遠心式(インペラ式)や,打出しロータを用いて研磨材を叩きつけ投射する平打式,圧縮気体と共に研磨材を噴射するエア式のブラスト加工装置等,各種方式のものが存在するが,本発明では,研磨材を被加工物の所定の位置に投射し得るものであれば,これらのいずれも使用可能である。
【0072】
本実施形態にあっては,エアの圧力調整によって投射条件の調整が比較的容易であることから,圧縮気体と共に研磨材を投射するエア式のブラスト加工装置を使用しており,このエア式のブラスト加工装置における好適な研磨材の噴射条件は,噴射圧力;0.01MPa以上,又は,噴射速度;10m/sec以上である。
【0073】
被加工物に対する研磨材の入射角は特に限定されないが,好ましくは,被加工物の加工面に対して鋭角を成すと共に,微細孔の軸線方向に対し角度を成すように投射することが好ましく,好ましい入射角の範囲は,5〜60°,より好ましくは,10〜45°である。
【0074】
このようにして,被加工物の表面に投射された弾性研磨材は,弾性体の変形によって衝突時の衝撃が吸収されるために,被加工物の表面に対し梨地を形成し難いものとなっていると共に,被加工物の表面で過度に反躍することが防止されることで,被加工物の表面に沿って移動するため,この際に,弾性体に担持された砥粒が微細孔の開口縁に生じたバリやドロス,被加工物表面に付着したスパッタを切削,除去し,担持する砥粒の粒径が微細であれば,被加工物の表面を鏡面に研磨することもできる。
【0075】
また,弾性研磨材は,その弾性変形性によって被加工物の表面形状に追従して変形することから,弾性研磨材の一部が周突乃至は滑動時に微小孔の開口部より比較的浅く孔内に入り込み,開孔縁の面取りが行われる。
【0076】
その結果,従来技術として説明したように,バリが押し潰されて被加工物の表面に貼り付き,除去できなくなるといった事態は生じず,また,微細孔がレーザによって形成された場合のように,ドロスやスパッタのように被加工物の表面に強固に付着した付着物についても切削して除去することができる。
【0077】
なお,研磨材投射工程には,研磨材の投射後,後述の洗浄工程を行う前に,被加工物の表面や微細孔内に向けて圧縮空気などの圧縮気体を噴射して被加工物の表面等に残っている弾性研磨材を予備的に除去する工程を含めるものとしても良い。
【0078】
クリーニング工程
以上のようにして,研磨材投射工程が終了した被加工物は,弾性体を溶解し,又は軟化させる作用がある液体を洗浄液として使用した洗浄を行い,被加工物の表面や微細孔内に詰まった弾性研磨材の除去を行う「クリーニング工程」にかけられる。
【0079】
使用した弾性研磨材が前述したゲル化物,糊化でん粉を主成分とする物質,又は,穀粉と水の混練物である場合には,いずれもこのような液体として水を使用し,好ましくは温水を使用することで,溶解や軟化を早めることができる。
【0080】
また,使用する弾性体の特性に応じて,洗浄に使用する液体は,前述した水に限らず,アルコール類や,アセトン,トルエン,シンナー等の有機溶剤を使用しても良い。
【0081】
もっとも,被加工物の種類に応じて,被加工物を溶解,軟化,変質等させない性質の液体で洗浄を行うことが必要である。
【0082】
洗浄は,前述した洗浄液内に被加工物を浸漬することによって行っても良く,又は,洗浄液を噴射,噴霧する等して洗浄を行っても良い。
【0083】
洗浄に際し,被加工物に対しては,超音波振動発生器により振動を付加しても良く,また,前述したように洗浄液の噴射により洗浄を行う場合には,被加工物に形成されている微細孔に向けて加圧された洗浄液や圧縮気体を噴射するものとしても良い。
【0084】
このような洗浄方法として,洗浄液が充填された洗浄槽内に被加工物を投入すると共に超音波振動を付与する超音波洗浄,被加工物の微細孔形成部分に向けて加圧した洗浄液を単独で,又は圧縮気体と共に噴射して行う加圧洗浄,洗浄液が充填された洗浄槽内に被加工物を所定時間浸漬後,被加工物を取り出して圧縮気体を吹き付けて微細孔等の洗浄液と共に残留する弾性研磨材を除去する方法を行うことができ,また,これらの方法のうちの全部又は一部(各方法の一部分を含む)を組み合わせて適用することもできる。
【0085】
以上のように,弾性体を溶解乃至は軟化させる作用を有する洗浄液を使用して被加工物の洗浄を行うと,被加工物の表面に付着し,又は微細孔内に詰まった弾性研磨材を構成する弾性体が溶解し,又は,軟化して,被加工物より除去される。
【0086】
特に,超音波振動の付与,加圧した洗浄水や圧縮気体の吹き付けを行うこと,さらにはこれらを併用して行うことにより,微細孔内に入り込んだ弾性研磨材についても比較的容易に,且つ,確実に除去することが可能となる。
【0087】
なお,前述した洗浄を超音波洗浄や加圧洗浄によって行う場合,洗浄が終了した被加工物に対し,圧縮空気等の圧縮気体の噴射を行う等して,被加工物の表面や微細孔内に入り込んだ洗浄液等を除去する処理を,クリーニング工程に含めても良い。
【0088】
このように圧縮気体の噴射を行うことで,被加工物に付着した洗浄液が除去されるだけでなく,微細孔内に未だ弾性研磨材が残っていた場合であっても,これを確実に除去することができる。
【0089】
また,前述した超音波洗浄や加圧洗浄に先立ち,被加工物を予め一定時間,洗浄液に浸漬する等の前処理を行うものとしても良い。
【0090】
このように,本発明の微細孔形成部の仕上げ加工方法によれば,被加工物の表面に梨地を形成することを防止できるだけでなく,衝突時の衝撃によってバリ取りを行う従来の方式とは異なり,砥粒が切刃となって切削力を生じるものであるため,取り残しなくバリを除去することができると共に,レーザにより微細孔を形成した場合のようにドロスやスパッタ等が強固に付着している場合であっても,これを除去することができ,しかも,微細孔内に入り込んで詰まった弾性研磨材を容易に除去することができ,研磨材の残留という問題も無い。
【実施例】
【0091】
以下に,本発明の方法により2種類の被加工物を加工した加工実施例を比較例と共に示す。
【0092】
〔アルミニウム製の被加工物に対する加工例〕
被加工物
板厚4mmのアルミ合金(A5052)製の板に,ドリルで図2に示す微細孔を形成したものを被加工物とした。
【0093】
微細孔は,前記アルミニウム板の片面より直径(φ1)を0.4mm,反対面より直径(φ2)を0.2mmとする孔をそれぞれ深さ(D1,D2)が2mmとなるように形成し,アルミ合金板の厚みの中間で両孔を連通させたものであり,この微細孔を,中心間間隔(P)を1.0mmで計9個形成した。
【0094】
研磨材
本願の研磨材
ゼラチンを入れた水を加熱してゼラチンを溶かして得たゲル化物を冷却しながら粒状に成形して弾性体を製造し,弾性体自体が持つ粘着性によって弾性体の表面に,♯3000(平均粒子径4.0μm)の炭化ケイ素砥粒を担持させて,粒径0.8〜0.5mmの弾性研磨材(以下,「ゼラチン研磨材(1)」という)を得た。
【0095】
比較用の研磨材
弾性体をウレタンゴムとしてこのウレタンゴム自体の粘着性によって表面に砥粒を付着させた弾性研磨材(以下,「ウレタンゴム研磨材(1)」という。)を得た。なお,ウレタンゴム研磨材(1)に使用した砥粒は,ゼラチン研磨材(1)と同じである。
【0096】
加工方法
実施例1
研磨材投射工程として,(株)不二製作所製のエアー式のブラスト加工装置「LDQ−SR」を使用し,加工圧力0.06MPa,ノズル径8mm,噴射角度(基板とノズルの軸線とが成す角度)30°として,前記ゼラチン研磨材(1)を5分間噴射加工した後,被加工物の表面及び微細孔内に向けて0.3MPaの圧縮空気を噴射した。
【0097】
前記研磨材投射工程の後,クリーニング工程として,海上電機(株)〔現:(株)カイジョー〕製の超音波洗浄機「Sono Cleaner 200D」を使用して水に没した被加工物を10分間,超音波洗浄した。
【0098】
実施例2
実施例1と同様の研磨材投射工程を行った後,クリーニング工程として被加工物を30分間,水道水中に浸漬した後,0.3MPaの圧縮空気を被加工物の表面及び微細孔内に噴射した。
【0099】
実施例3
実施例1と同様の研磨材投射工程を行った後,クリーニング工程として圧力水(0.3MPa)と圧縮空気(0.3MPa)の気液混合流体を被加工物の表面に1分間噴射した。
【0100】
比較例1
実施例1と同様の研磨材投射工程のみを行い,洗浄を行っていない。
【0101】
比較例2
ウレタンゴム研磨材(1)を使用した点を除き,実施例1と同じ。
【0102】
比較例3
ウレタンゴム研磨材(1)を使用した点を除き,実施例2と同じ。
【0103】
比較例4
ウレタンゴム研磨材(1)を使用した点を除き,実施例3と同じ。
【0104】
比較例5
比較例2と同様の研磨材投射工程のみを行い,洗浄を行っていない。
【0105】
実験結果
上記各実施例及び比較例による加工を行った後の被加工物に対し,光学顕微鏡(50倍)を使用して研磨材の残留による光透過の減少,及び反射法による研磨材の残存の有無に基づき,微細孔の目詰まりの状態を評価した結果を下記の表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
実験結果の考察
以上の結果,ゼラチン,ウレタンゴムのいずれを弾性体とした弾性研磨材を使用した場合であっても,被加工物の表面を梨地とすることなく,且つ,バリの除去や開孔縁の面取りを行うことができていた。
【0108】
一方,いずれの弾性研磨材を使用した場合においても,研磨材の投射によって変形し,又は破砕した研磨材が全ての微細孔を塞いでおり,研磨材の投射後,圧縮空気の噴射を行っただけでは殆ど除去することができず,ゼラチン研磨材(1)については9個中8個,ウレタンゴム研磨材(1)については9個中7個という,いずれも高い確立で微細孔が詰まった状態にあることが確認された(比較例1,5)。
【0109】
しかし,ウレタンゴム研磨材(1)を使用した例(比較例2〜4)では,その後,如何なる方法で洗浄を行っても目詰まりを解消することができなかったのに対し,ゼラチン研磨材を使用した例では,水で洗浄することにより,実施例1〜3のいずれの方法による洗浄を伴うクリーニングを行った場合においても,全ての微細孔の目詰まりを解消することができた(実施例1〜3)。
【0110】
以上の結果から,本発明の方法は,被加工物の表面に梨地等を発生させることなく,且つ,バリを確実に除去できると共に,微細孔の開口縁の面取り等を同時に達成することができるものでありながら,洗浄によって微細孔内に目詰まりした弾性研磨材を容易に除去することができ,微細孔の形成部に対する仕上げ加工に使用するに好適な加工方法であることが確認できた。
【0111】
〔ステンレス鋼製の被加工物に対する加工例〕
被加工物
厚さ0.4mmのSUS304製の鏡面シートに,直径40μmの微細孔を200mmピッチで縦方向に4個,幅方向に4個の計16個をレーザによって形成した。
【0112】
このSUS製のシートを5枚重ね,厚さ2mmの部品を作成して,被加工物とした。
【0113】
研磨材
本願の研磨材
ゼラチンを水に入れて加熱して溶かしてゲル化したゲル化物を冷却しながら粒状に成形した弾性体を製造し,弾性体自体が持つ粘着性によって弾性体の表面に,♯8000(平均粒子径1.2μm)の炭化ケイ素砥粒を担持させた,粒径0.5〜0.2mmの弾性研磨材(以下,「ゼラチン研磨材(2)」という。)を製造した。
【0114】
比較用の研磨材
弾性体をウレタンゴムとしてこのウレタンゴム自体の粘着性によって表面に,前記ゼラチン研磨材(2)で使用したと同じ砥粒を付着させた弾性研磨材(以下,「ウレタンゴム研磨材(2)」という。)を製造した。
【0115】
加工方法
実施例4
研磨材投射工程として,(株)不二製作所製のエアー式のブラスト加工装置「LDQ−SR」を使用し,加工圧力0.06MPa,ノズル径8mm,加工時間2分,噴射角度(基板とノズルの軸線とが成す角度)30°として,前記ゼラチン研磨材(2)を5分間噴射加工した後,被加工物の表面及び微細孔内に向けて0.3MPaの圧縮空気を噴射した。
【0116】
前記研磨材投射工程の後,クリーニング工程として,被加工物を水道水に30分浸漬後,0.3MPaの圧力でエアブローを行った。
【0117】
実施例5
実施例4と同様の研磨材投射工程を行った後,洗浄工程として被加工物を30分間,水道水中に浸漬した後,(株)カイジョー製の超音波洗浄機「Sono Cleaner 200D」を使用して被加工物を10分間,超音波洗浄した。
【0118】
比較例6
実施例4と同様の研磨材投射工程のみを行い,洗浄を行っていない。
【0119】
比較例7
ウレタンゴム研磨材(2)を使用した点を除き,実施例4と同じ。
【0120】
比較例8
比較例7による処理後,更に(株)カイジョー製の超音波洗浄機「Sono Cleaner 200D」を使用して被加工物を10分間超音波洗浄した。
【0121】
比較例9
比較例7と同様の研磨材投射工程のみを行い,洗浄を行っていない。
【0122】
実験結果
上記各実施例及び比較例による加工を行った後の被加工物に対し,光学顕微鏡(50倍)を使用して研磨材の残留による光透過の減少,及び反射法による研磨材の残存の有無に基づき,微細孔の目詰まりの状態を評価した結果を下記の表2に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
実験結果の考察
以上の結果,ゼラチン,ウレタンゴムのいずれを弾性体とした研磨材を使用した場合であっても,被加工物の表面を梨地とすることなく,且つ,バリの除去や開孔縁の面取りが行われていた。
【0125】
一方,いずれの弾性研磨材を使用した場合においても,研磨材投射工程によって変形し,又は破砕した研磨材が,ゼラチン研磨材(2)については16個中13個,ウレタンゴム研磨材(2)については16個中10個という,いずれも高い確立で被加工物に形成した微細孔に詰まっており,圧縮空気の噴射だけではこれ以上除去することはできなかった(比較例6,9)。
【0126】
なお,レーザによる穿孔では,レーザの入射面と出射面では,形成された孔径が同一でなく,レーザの出口側の面において若干小径となる。従って,これを5枚重ねにした本試験例における被処理対象部品では,深さ方向において微細孔の径は一定しておらず,蛇腹状の断面形状となっており,弾性研磨材が詰まると,これを除去し難い形状となっている。
【0127】
そのため,本実施例で処理対象とした被加工物は,2mmという比較的厚みが薄い被加工物ではあるが,微細孔内に弾性研磨材が入り込むと取り出し難くなっており,ウレタンゴム研磨材(2)を使用した例(比較例7,8)では,その後,如何なる方法で洗浄を行っても目詰まりを解消することができなかったのに対し,ゼラチン研磨材(2)を使用した例では,水で洗浄することにより,実施例4,5のいずれの方法で洗浄を行う場合においても,全ての微細孔の目詰まりを解消することができた。
【0128】
以上の結果から,本発明の方法は,被加工物の表面に梨地等を発生させることなく,且つ,バリを確実に除去できると共に,微細孔の開口縁の面取りを同時に達成することができるものでありながら,洗浄によって微細孔内に目詰まりした弾性研磨材を容易に除去することができ,微細孔の形成部に対する仕上げ加工に使用するに好適な加工方法であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の微細孔形成部に対し,研磨材を投射して行う仕上げ加工において,
前記研磨材を,水,アルコール又は有機溶剤のうちから選択されたいずれかの液体に溶解し,又は前記液体との接触により軟化する性質を有する弾性体と,前記弾性体に分散され,又は前記弾性体の表面に担持された砥粒とによって構成された,弾性研磨材とし,前記被加工物の微細孔形成部に対し,前記弾性研磨材を投射する研磨材投射工程と,
前記研磨材投射工程後,前記被加工物を,前記弾性体を溶解又は軟化させる前記液体を洗浄液として使用して洗浄するクリーニング工程を含むことを特徴とする微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項2】
前記弾性研磨材として,前記微細孔の孔径よりも大径のものを使用することを特徴とする請求項1記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項3】
前記弾性研磨材を,被加工物の加工面に対し5〜60°の入射角となるよう投射することを特徴とする請求項1又は2記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項4】
前記クリーニング工程における前記洗浄を,前記洗浄液を使用した超音波洗浄により行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項5】
前記クリーニング工程における前記洗浄を,前記微細孔形成部に対して前記洗浄液を単独で,又は圧縮気体と共に噴射して行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項6】
前記クリーニング工程を,前記被加工物を前記洗浄液に所定時間浸漬した後,前記微細孔形成部に対して圧縮気体を吹き付けることにより行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項7】
前記弾性体をゼラチン,及び/又は増粘性多糖類のゲル化物によって形成すると共に,前記洗浄液を水としたことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項8】
前記弾性体を,糊化でん粉を主成分とする物質により形成すると共に,前記洗浄液を水としたことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。
【請求項9】
前記弾性体を,穀粉に水を添加すると共に混練してグルテンを生成させた混練物により形成すると共に,前記洗浄水を水としたことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の微細孔形成部の仕上げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52469(P2013−52469A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191487(P2011−191487)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)