説明

微細気泡含有液体製造装置、及びこの装置を用いた植物の栽培装置、並びに植物栽培用液体

【課題】 植物が生育する土壌環境に応じて最適な微細気泡含有液体を簡便に調製できる微細気泡含有液体製造装置、及びこの装置を用いた植物の栽培装置、並びに肥料を施さずとも優れた植物育成効果を得ることができる植物栽培用液体を提供すること。
【解決手段】 微細気泡の発生場となる液体と微細気泡を形成する気体とを混合する気液混合槽と、気液混合槽に液体を導入するための液体導入路と、気液混合槽に気体を供給するための給気路と、気液混合槽内にて調製された気体含有液体を吐出する気体含有液体吐出路と、気体含有液体吐出路に取り付けられた微細気泡発生手段と、液体導入路と分岐弁を介して連結された複数の液体貯蔵タンクとを備えており、液体貯蔵タンクは、少なくとも水貯蔵タンク、液体肥料貯蔵タンク、好気性菌含有液体貯蔵タンクからなる微細気泡含有液体製造装置、該微細気泡含有液体製造装置を用いた植物の栽培装置、並びに該微細気泡含有液体製造装置から得られる植物栽培用液体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡含有液体の製造装置、及びこの装置を用いた植物の栽培装置、並びに植物栽培用液体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の生育を促進するための装置として、水耕栽培において、培養液となる水に空気や酸素を溶解させる装置が知られている。
この装置を使用すると、水耕栽培の培養液となる水に空気や酸素を溶解させて植物の根へと供給することができるため、植物の根が活性化されて生長が促進される。
【0003】
しかしながら、このような従来の装置は、水中で植物を栽培する水耕栽培への適用を前提とした装置であるため、土壌栽培への適用は困難であった。
【0004】
特許文献1には、大気導入資材を培地中に設置し、コンプレッサーによって大気又は窒素を培地(土壌中、水中)に直接供給する植物の栽培装置が開示されている。
この装置を用いることによって、大気又は窒素を直接培地に供給でき、培地に存在する窒素固定菌やその他の微生物を活性化し、これらが作り出す養分で植物の生長促進を図ることができる。
しかし、この装置は、窒素固定菌やその他の微生物が少ない土壌や養分が乏しい土壌に対して適用した場合、土壌中の養分が充分な量とならないため、優れた植物育成効果を得ることはできない。即ち、この装置では、植物が生育する土壌に応じて最適な育成環境を作り出すことはできない。
【0005】
また特許文献2においては、気泡径が数十マイクロから数百ナノオーダーの範囲の微細気泡を発生させるマイクロバブル発生装置を備えた植物の活性化装置が記載されている。
この装置により得られる微細気泡を含有する栽培用水、即ち溶存酸素を多く含む栽培用水を植物に供することにより、酸素を効率よく植物の根に供給することができるため、植物の根を活性化でき、またマイクロバブルの特性を利用して根付近に養分を引き寄せ吸収を促進することができる。
しかしながら、この装置はその構成上、マイクロバブルの発生場となる液体が1種類に特定されるため、植物が生育する土壌に応じて最適な栽培用液体を簡便に選択的に製造することができなかった。
【0006】
特許文献3においては、空気又は酸素の気泡を含む液体を植物に供給する装置が開示されている。この装置によれば、加圧下で液体に空気又は酸素を溶解させるので高濃度の溶存酸素水が得られ、また前記溶存酸素水を培地に直接供給するための給水パイプを備えているので、植物の根に効率良く酸素が供給できる。
しかし、この装置の気泡水生成部に導入される液体は1種類に特定されるため、植物が生育する土壌に応じて最適な栽培用液体を簡便に選択的に製造することができなかった。
【0007】
また、特許文献3に記載された液体は、水中に供給されることを前提としたものであって土壌に供給されることを意図したものではない。
更に、この液体に含まれる気泡は、視認できる程度の大きなものであるため、液体中で気泡が維持される時間は短い。また、気泡となる気体は空気又は酸素に限られており、窒素や酸素の比率を植物が生育する環境(土壌環境等)に応じて設定したものではない。
そのため、仮にこの液体を植物を植えた土壌に供給したとしても、土壌中の微生物(特に窒素固定菌)を充分に活性化することはできず、土壌汚染を引き起こす虞がある窒素肥料等の肥料を施さずに植物の充分な成長を促すことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−102273号公報
【特許文献2】特開2006−042785号公報
【特許文献3】特開2006−304714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、植物が生育する土壌環境に応じて最適な微細気泡含有液体を簡便に調製できる微細気泡含有液体製造装置、及びこの装置を用いた植物の栽培装置、並びに肥料を施さずとも優れた植物育成効果を得ることができる植物栽培用液体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、微細気泡の発生場となる液体と微細気泡を形成する気体とを混合する気液混合槽と、前記気液混合槽に前記液体を導入するための液体導入路と、前記気液混合槽に前記気体を供給するための給気路と、前記気液混合槽内にて調製された気体含有液体を吐出する気体含有液体吐出路と、前記気体含有液体吐出路に取り付けられた微細気泡発生手段と、前記液体導入路と分岐弁を介して連結された複数の液体貯蔵タンクとを備えており、前記液体貯蔵タンクは、少なくとも水貯蔵タンク、液体肥料貯蔵タンク、好気性菌含有液体貯蔵タンクからなることを特徴とする微細気泡含有液体製造装置に関する。
請求項2に係る発明は、前記給気路に混合弁を介して複数の気体貯蔵タンクが連結されており、前記気体貯蔵タンクは、少なくとも酸素タンクと窒素タンクからなることを特徴とする請求項1記載の微細気泡含有液体製造装置に関する。
請求項3に係る発明は、前記液体肥料貯蔵タンクに貯蔵される液体肥料の主成分が窒素肥料、リン酸肥料、カリウム肥料であることを特徴とする請求項1又は2記載の微細気泡含有液体製造装置に関する。
請求項4に係る発明は、前記好気性菌含有液体貯蔵タンクに貯蔵される好気性菌が窒素固定菌であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の微細気泡含有液体製造装置に関する。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4いずれか記載の微細気泡含有液体製造装置を備えた植物の栽培装置であって、前記微細気泡発生手段にて発生した微細気泡を含んだ液体を、植物を植えた土壌に直接供給するように構成したことを特徴とする植物の栽培装置に関する。
【0012】
請求項6に係る発明は、液体中に、酸素と窒素を空気と異なる成分比で混合した気体からなる500μm以下の径の微細気泡を含有し、土壌に供給されることを特徴とする植物栽培用液体に関する。
請求項7に係る発明は、前記液体が好気性菌を含有することを特徴とする請求項6記載の植物栽培用液体に関する。
請求項8に係る発明は、前記液体が液体肥料であることを特徴とする請求項6又は7記載の植物栽培用液体に関する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、水、液体肥料、好気性菌含有液体を、分岐弁を介して選択的に気液混合槽に導入し、微細気泡発生手段により微細気泡を含有する微細気泡含有液体を製造することが可能となり、植物の生育する土壌環境に応じて最適な液体を含む微細気泡含有液体を簡便に調製することができる。
請求項2に係る発明によれば、酸素と窒素を混合弁を介して任意の成分比に混合して気液混合槽に導入し、微細気泡発生手段により微細気泡含有液体を製造することが可能となり、植物の生育する土壌環境に応じて最適な気体を含む微細気泡含有液体を簡便に調製することができる。
請求項3に係る発明によれば、液体肥料タンクに貯蔵される液体肥料の主成分が窒素肥料、リン酸肥料、カリウム肥料であるため、養分の極端に少ないやせた土壌においても、高い植物育成効果を得ることのできる微細気泡含有液体を製造することができる。
請求項4に係る発明によれば、好気性菌含有液体貯蔵タンクに貯蔵される好気性菌含有液体中の好気性菌が窒素固定菌であるため、植物を植えた土壌内の窒素固定量をより効率的に増加させることができ、植物育成効果の向上を図ることのできる微細気泡含有液体を製造することができる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、植物の生育する土壌環境に応じて最適な微細気泡含有液体を直接土壌に供給することができるため、高い植物育成効果を得ることができる栽培装置となる。
【0015】
請求項6に係る発明によれば、液体中に酸素と窒素を空気と異なる成分比で混合した気体からなる微細気泡が500μm以下の径であるため、土壌中のミリスケールの間隙を気泡が潰れることなく通ることができる。またこの液体が土壌に供給される植物栽培用液体であるため、窒素や酸素の比率を植物が生育する土壌環境に応じて設定することにより、土壌内に存在する微生物、特に好気性菌を充分に活性化し、植物の養分となり得る窒素の固定量を増加させることができる。
その結果、土壌汚染を引き起こす虞がある化学肥料や有機肥料などの肥料を外部から供給することなく、高い植物育成効果を得ることができる。
請求項7に係る発明によれば、前記液体が好気性菌を含有しているため、微生物、特に好気性菌の少ない土壌であっても土壌中の好気性菌を増加させて、高い植物育成効果を得ることができる。
請求項8に係る発明によれば、前記液体が液体肥料であることから、養分が極端に少ないやせた土壌においても高い植物育成効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る微細気泡含有液体製造装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明に係る微細気泡含有液体製造装置の別の例を示す構成図である。
【図3】本発明に係る植物栽培装置の構成図である。
【図4】化学肥料流出量比較試験の結果を示すグラフである。
【図5】窒素固定量比較試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る微細気泡含有液体製造装置、及びこの装置を用いた植物の栽培装置、並びに植物栽培用液体について詳述する。
【0018】
図1は、本発明に係る微細気泡含有液体製造装置の構成図である。
本発明に係る微細気泡含有液体製造装置は、微細気泡の発生場となる液体と微細気泡を形成する気体とを混合する気液混合槽(1)と、気液混合槽(1)に液体を導入するための液体導入路(2)と、気液混合槽(1)に気体を供給するための給気路(3)と、気液混合槽(1)にて調製された気体含有液体を吐出する気体含有液体吐出路(4)と、気体含有液体吐出路(4)に取り付けられた微細気泡発生手段(5)と、液体導入路(2)と分岐弁(6)を介して連結された複数の液体貯蔵タンク(7)とを備えている。
【0019】
給気路(3)には、混合弁(8)を介して複数の気体貯蔵タンク(9)が連結されており、各気体貯蔵タンク(9)に貯蔵された気体を任意の比率(一種類の気体の比率が0となる場合も含む)で混合して給気路(3)へと供給することが可能となっている。
気体貯蔵タンク(9)に貯蔵される気体は酸素及び窒素である。
従って、本発明に係る微細気泡含有液体製造装置において、気体貯蔵タンク(9)は少なくとも2つ備えられる。但し、本発明において気体貯蔵タンク(9)の数は2つに限定されず、3つ以上として貯蔵される気体の種類を増やすことも可能である。また気体貯蔵タンク(9)を備えずに、空気をそのまま給気路(3)を介して気液混合槽(1)に導入しても良い。
【0020】
微細気泡を形成するための気体は、複数の気体貯蔵タンク(9)から混合弁(8)を介して任意の比率で混合されて給気路(3)を通して気液混合槽(1)に貯蔵された液体中に放出される。また微細気泡の発生場となる液体は、後述する種類の液体を貯蔵した複数の液体貯蔵タンク(7)から分岐弁(6)及び液体導入路(2)を介して気液混合槽(1)に導入される。
気液混合槽(1)に貯蔵された液体中に放出された前記気体は、当該液体と混合されて、気体含有液体が調製される。この気体含有液体を、気体含有液体吐出路(4)に備えられた微細気泡発生手段(5)を通して吐出することで、液体中に微細気泡を含有した微細気泡含有液体が得られる。このとき形成される微細気泡の気泡径が小さいほど、気泡が液体中で長時間維持され、液体への溶解度も向上する。
【0021】
一般的に、微細気泡の名称は気泡発生時の気泡径によって異なる。気泡発生時の気泡径が十〜数十μmの範囲であるときはマイクロバブル、数百nm〜十μmの範囲であるときはマイクロナノバブル、数百nm以下であるときはナノバブルと言う。
気泡径が数十μm以下の気泡は、通常の気泡とは異なる性質を有する。具体的には、水中への酸素、オゾン、窒素などの溶解効率が向上する、通常の気泡よりも上昇速度が遅いため液体中に気泡が長く維持される、等の特徴を有する。
【0022】
本発明で用いる気体(後述する)で形成される微細気泡の気泡径は500μm以下であり、数十μm(100μm未満)の気泡であることが好ましく、具体的には例えば10〜30μmの範囲とされる。
気泡径が500μm以下であると、気泡が潰されることなく土壌中のミリスケールの間隙を通ることができ、また液体中での気泡の維持時間が長くなり土壌中の微生物を充分に活性化することができる。100μm未満であると液体中での気泡の維持時間が格段に長くなり土壌中の微生物の活性度を格段に高めることができる。
【0023】
微細気泡発生手段(5)は500μm以下の微細気泡を発生させることができるものであれば特に限定されないが、例えば図1に示した構造とすることができる。具体的には、気体含有液体吐出路(4)の先端にノズル(10)を取り付け、当該ノズル(10)を液槽(11)に収容された液体(12)内に配置し、ノズル(10)から気体含有液体を噴出することにより液体(12)内に微細気泡を発生させ、発生した微細気泡を含んだ液体を吐出管(13)を通して吐出するように構成することができる。
液槽(11)に収容される液体(12)は気液混合槽(1)から供給してもよいし、液体導入路(2)を液槽(11)に接続して供給してもよい。
このような微細気泡発生手段(5)としては、バブルタンク社製(BT-50)のマイクロナノバブル発生装置が挙げられるが、これに限定されない。
図2は別の微細気泡発生手段(5)を備えた微細気泡含有液体製造装置を示す図である。図2に示した微細気泡含有液体製造装置は、ノズル(14)自体が微細気泡発生手段(5)を構成している。
このような微細気泡発生手段(5)としては、例えばオーラテック社製(OM4-MDG-045)のマイクロナノバブル発生装置が挙げられるが、これに限定されない。
ノズル(10)又はノズル(14)からの液体の吐出圧力は、0.1MPa〜0.3MPaに設定するとよい。液体の吐出圧力は、所望の出水量に応じて適宜設定される。
このような微細気泡発生手段(5)を備えた本発明に係る微細気泡含有液体製造装置を用いると、粘土質や砂質等、様々な土壌質において、気泡が潰されることなくその土壌の団粒間間隙や団粒内間隙を通ることのできる微細気泡を含有する液体を製造することができる。
【0024】
ここで、通常の気泡と数十μm以下の気泡とを比較すると、通常の気泡は発生してから液中を上昇し、液面に到達すると破裂する。しかし数十μm以下の気泡は、前述したように通常の気泡よりも気泡体積が小さいために上昇速度が遅く、その結果、通常の気泡より長く液中に気泡として維持される。
また数十μm以下の気泡の圧力は、気泡径が小さくなるほどに高くなる。即ち、気泡周囲からかかる圧力により気泡が経時的に小さくなり、気泡内の圧力が高まる。その結果、前述したように気体が効果的に液中に溶解することとなる。
【0025】
微細気泡を形成するための気体は、少なくとも酸素又は窒素のいずれかを含んだ気体であり、酸素と窒素を空気と異なる混合比率で混合した気体であることが好ましい。
酸素は植物の根に直接作用し、根を活性化して養分の吸収を促すことができ、好気性菌を活性化して窒素固定量の増加を図ることができる。また窒素は、土壌内の養分(窒素化合物)の素となる窒素の量を増加させることができ、土壌内に存在する窒素固定菌を活性化して窒素固定量の増加を図ることができる。
酸素と窒素を空気と異なる混合比率で混合した気体の場合、酸素を通常の比率より多くしたり窒素を通常の比率より多くしたりする設定を行うことで、土壌環境に応じて、これらの作用のいずれか一方をより強く発現させて植物育成効果を効果的に高めることが可能となる。
【0026】
液体貯蔵タンク(7)に貯蔵される液体は、水、液体肥料、好気性菌含有液体である。従って、本発明に係る微細気泡含有液体製造装置において液体貯蔵タンク(7)は少なくとも3つ備えられる。但し、本発明において液体貯蔵タンク(7)の数は3つに限定されず、4つ以上として貯蔵される液体の種類を増やすことも可能である。
【0027】
液体貯蔵タンク(7)に貯蔵された液体は、各貯蔵タンクから分岐弁(6)を介して気液混合槽(1)に導入される。従って、微細気泡含有液体を供給する土壌質を考慮して、液体を選択的に気液混合槽(1)に導入することができる。更に、気液混合槽(1)内で各液体を任意の比率で混合することができる。
水は植物の生命活動の維持のために必要であり、液体肥料は養分の極端に少ないやせた土壌であっても植物の育成効果の向上を図ることができ、また好気性菌含有液体は、窒素固定菌の少ない土壌においても効果的に土壌内の窒素固定量を増加させることができ、養分を植物に供して生長を促進することができる。
【0028】
液体肥料の種類は特定されないが、肥料の三要素である窒素、リン酸、カリウムを含んでいることが望ましい。窒素は、植物の細胞の分裂・増殖に関与するため植物の生長には必須であり、リン酸は植物中の核酸の構成成分であるため植物の生長を促進し、カリウムは植物の根の発育を促進することから、本発明では液体肥料として前記成分を主成分とする化学肥料が好適に用いられる。
本発明に用いる窒素肥料としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、石灰窒素、硝酸カリウム、硝酸石灰、硝酸ソーダ、リン酸肥料としては過リン酸石灰、熔成リン肥、カリウム肥料としては塩化カリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。これらは肥効に優れるため、効果的に植物の育成向上を図ることができる。
【0029】
好気性菌含有液体中の好気性菌は特定されないが、具体的にはアゾトバクター、根粒菌、光合成細菌、放線菌、硝化菌、亜硝化菌、タンパク質分解菌等が挙げられる。また、多数種類の好気性菌が入っている市販の土壌改良剤を水に溶かして好気性菌含有液体としてもよい。
好気性菌を用いると、酸素からなる微細気泡を含有した微細気泡含有液体を供給することによって好気性菌はより活性化され、土壌内の窒素固定量の増加が可能となる。また、土壌内に一定の窒素化合物が存在すると、好気性菌は窒素の生産を行わないので、過剰な窒素化合物は産生されない。従って、好気性菌の活性化による窒素固定量の増加によって土壌や作物などの汚染が生じることはない。
また好気性菌が窒素固定能を有する窒素固定菌である場合、酸素や窒素からなる微細気泡含有液体を供給することによって活性化され、より効率的に土壌内の窒素固定量を増加させることができ、植物に養分を供することができる。更に、好気性窒素固定菌は好気性であるため、窒素の生産を行わないので過剰な窒素化合物が産生されず、土壌や作物などの汚染が生じることはない。
【0030】
以上説明したように、本発明に係る微細気泡含有液体製造装置によれば、微細気泡を形成する気体の成分比(酸素と窒素の混合比)を調整することができ、更に液体の種類(水、液体肥料、好気性菌含有液体)を選択することができる。
そのため、植物の生育する土壌環境に応じて最適な微細気泡含有液体を容易に製造することができる。
【0031】
図3は、本発明に係る植物栽培装置の構成図である。
本発明に係る植物栽培装置は、上述した微細気泡含有液体製造装置に備えられた微細気泡含有液体を吐出する吐出管(13)又はノズル(14)を、植物を植えた土壌(15)の上部に配置することにより、直接土壌に微細気泡含有液体を供給できる構成を有している。
この植物栽培装置を用いると、微細気泡含有液体製造装置によって土壌環境に応じて最適な微細気泡含有液体を調製でき、得られた微細気泡含有液体を、直接植物を植えた土壌に供給することができるため、植物の育成効果の向上を図ることができる。
【0032】
本発明に係る植物栽培用液体は、液体中に酸素と窒素を空気と異なる成分比で混合した気体からなる500μm以下の径の微細気泡を含有し、土壌に供給されるものである。
本発明に係る植物栽培用液体は、上記した本発明に係る微細気泡含有液体製造装置を用いて製造することができるが、他の装置を用いて製造してもよい。
【0033】
微細気泡を含有する液体は、水、液体肥料、好気性菌含有液体のいずれか若しくはこれらを適宜任意の比率で混合した混合液体である。ここで、液体肥料及び好気性菌の種類については、上記したものが好適に用いられる。
微細気泡の径は500μm以下であればよいが、数十μm(100μm未満)の気泡であることが好ましく、具体的には例えば10〜30μmの範囲とされる。その理由は上述した通りである。
【0034】
本発明に係る植物栽培用液体は、植物の生育環境(土壌環境)に応じて、酸素と窒素の混合比を調整し、また液体の種類を選択することができる。
これにより、養分の少ないやせた土壌、あるいは肥沃な土壌、また施肥された土壌や窒素固定菌量の多い土壌など、植物の生育環境(土壌環境)に応じて最適な植物栽培用液体となる。
【0035】
本発明に係る植物栽培用液体を土壌に供給することにより、土壌に施す肥料を無くする或いは軽減することも可能である。
一般に、窒素化学肥料等により土壌に供給される窒素は、土壌内に存在する微生物の作用によりアンモニア態窒素に変換され、亜硝酸態窒素を経てさらに硝酸態窒素に変換される。従って、土壌内において窒素は、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素として存在する。植物は硝酸態窒素のみを根から吸収するが、吸収しきれない硝酸態窒素は、微生物の作用により窒素に還元される。
しかしながら、継続的な施肥によってアンモニア態窒素や硝酸態窒素が過剰となり、上記の窒素サイクルが崩れ、土壌汚染や作物汚染が引き起こされる。
【0036】
本発明に係る植物栽培用液体を土壌環境に応じて調製して土壌に供給することにより、土壌中の微生物を活性化して土壌中に含まれる窒素量を増加させることが可能となるため、養分の少ないやせた土壌にも適用でき、土壌改質ができた後には化学肥料や有機肥料を施すことなく植物の生長を促進することができる。従って、最小限の化学肥料で植物の育成効果の向上を図ることができる。
【0037】
本発明に係る微細気泡含有液体製造装置から得られた微細気泡含有液体を土壌に供給し、土壌から流出する化学肥料量、並びに土壌内の窒素固定量の変化についての試験を行った。
【0038】
(実施例1)
<化学肥料流出量比較試験>
本発明に係る微細気泡含有液体製造装置を用いて、水を微細気泡発生場(液体肥料及び好気性含有液体を含まない)として10〜30μmのマイクロバブルを含有する微細気泡含有液体を製造した。この微細気泡含有液体1Lを、液体肥料としてハイポネックス(商品名、ハイポネックスジャパン製)を予め施した土壌に供給し、流出した液体を以下に示す手順で調製して試料とした。
流出した液体に水酸化ナトリウムとペルオキソニ硫酸カリウムを加えて100℃にて1時間加熱した。加熱後、アジ化ナトリウムを加えて振とうした後、イソプロピルアルコールを滴下して振とうし、15分放置したものを窒素化合物の定量に用いた。
窒素化合物の定量方法として、全窒素測定法(総和法、アルカリ性ペルオキソニ硫酸カリウム分解法、過硫酸分解法、銅・カドミウムカラム還元法、硫酸ヒドラジニウム還元法)を用い、無機態窒素(硝酸態窒素、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素)及び有機態窒素(タンパク質)を定量して、流出率を算出した。
微細気泡含有液体を供給する土壌として赤玉土600gと砂質土1200gを使用した。これらの土を選択した理由としては、土の性質が異なるからである。具体的には、赤玉土は肥料を吸着しやすく、そのために肥料の流出が起こり難い。また砂質土は土壌内の間隙径が大きく、透水率が良い。
土壌に施したハイポネックスの量は、赤玉土に600g、砂質土に1200gである。
比較例として、微細気泡含有液体のかわりに水道水(1L)を用いて同様の試験を行った。結果を表1及び図4に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
試験の結果、微細気泡含有液体を供給した場合は水道水を供給した場合よりも、肥料の流出率が高いことが確認された。従って、微細気泡含有液体を供給すると、肥料の拡散を促すことができると言える。肥料流出が促進されるため、土壌中の肥料量は流れない程度の濃度である必要があるが、その良好な拡散性を利用して、土壌中の残肥を再拡散させることができ肥料として有効利用することができる。
また、微細気泡含有液体を供給した場合、赤玉土の方が砂質土よりも肥料の流出率が高いことが確認された。土壌内の間隙として、ミリスケール(mm)の団粒間間隙と、マイクロスケール(μm)の団粒内間隙があるが、赤玉土においては団粒内間隙まで微細気泡含有液体が浸透し、肥料を流し出したと考えられる。一方砂質土においては、一般に団粒構造をとり難く団粒内間隙が少ないために、赤玉土に比べ変化が小さいものと考えられる。
【0041】
(実施例2)
<窒素固定量比較試験>
本発明に係る微細気泡含有液体製造装置を用いて、実施例1と同じ微細気泡含有液体を製造した。この微細気泡含有液体を、好気性の土壌微生物(アゾトバクター、根粒菌、光合成細菌、放線菌、硝化菌等)を約250種類含有する菌力アップ(商品名、エイビーエス製)を1000倍希釈したものを予め施した土壌に1日1回供給し、その乾土を採取しその採取土を以下に示す手順で調製して試料とした。
採取土20gに蒸留水20gを加えて懸濁液とし、この懸濁液をろ過してろ液を得た。このろ液に水酸化ナトリウムとペルオキソニ硫酸カリウムを加えて100℃にて1時間加熱した。加熱後、アジ化ナトリウムを加えて振とうした後、イソプロピルアルコールを滴下して振とうし、15分放置したものを窒素化合物の定量に用いた。
窒素化合物の定量方法として、全窒素測定法(総和法、アルカリ性ペルオキソニ硫酸カリウム分解法、過硫酸分解法、銅・カドミウムカラム還元法、硫酸ヒドラジニウム還元法)を用い、無機態窒素(硝酸態窒素、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素)及び有機態窒素(タンパク質)を定量して、乾土100g当たりの窒素量を算出した。
比較例として、微細気泡含有液体のかわりに水道水を用いて同様の試験を行った。結果を図5に示す。
【0042】
試験の結果(図5)より、微細気泡含有液体及び水道水両方において、供給2日目に窒素量が最大となった。2〜4日目にかけては、両方とも窒素量の減少が見られ、微細気泡含有液体を供給した方が窒素量の減少率が高かった。4日目以降は両方において、窒素量が増加したが、微細気泡含有液体を供給した方が窒素量の増加率が高かった。
以上のいずれの現象においても、土壌中窒素の変化量は微細気泡含有液体を供給した場合の方が水道水を供給した場合よりも大きかった。これは微細気泡含有液体によって、土壌内の好気性菌が活性化されたためと考えられる。特に、微細気泡含有液体の供給直後は様々な菌の生存競争が起こり、土壌中窒素量の変化が激しくなるものと考えられる。2〜4日目にかけての窒素量の減少は窒素利用菌や脱窒菌の繁殖によるものと考えられ、4日目以降の窒素量の増加は窒素固定菌によるアンモニア態窒素の増加と、タンパク質(菌の死骸)の増加によるものと考えられる。
以上のことより、本発明に係る微細気泡含有液体を植物栽培用液体として土壌に供給することで、土壌中の微生物が活性化されて窒素固定量が増加するため、植物の養分となる化合物が多く産生されることとなる。
【符号の説明】
【0043】
A・・・微細気泡含有液体製造装置
B・・・植物栽培装置
1・・・気液混合槽
2・・・液体導入路
3・・・給気路
4・・・気体含有液体の吐出路
5・・・微細気泡発生手段
6・・・分岐弁
7・・・液体貯蔵タンク
8・・・混合弁
9・・・気体貯蔵タンク
10・・・ノズル
11・・・液槽
12・・・液体
13・・・吐出管
14・・・ノズル
15・・・土壌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細気泡の発生場となる液体と微細気泡を形成する気体とを混合する気液混合槽と、
前記気液混合槽に前記液体を導入するための液体導入路と、
前記気液混合槽に前記気体を供給するための給気路と、
前記気液混合槽内にて調製された気体含有液体を吐出する気体含有液体吐出路と、
前記気体含有液体吐出路に取り付けられた微細気泡発生手段と、
前記液体導入路と分岐弁を介して連結された複数の液体貯蔵タンクとを備えており、
前記液体貯蔵タンクは、少なくとも水貯蔵タンク、液体肥料貯蔵タンク、好気性菌含有液体貯蔵タンクからなることを特徴とする微細気泡含有液体製造装置。
【請求項2】
前記給気路に混合弁を介して複数の気体貯蔵タンクが連結されており、
前記気体貯蔵タンクは、少なくとも酸素タンクと窒素タンクからなることを特徴とする請求項1記載の微細気泡含有液体製造装置。
【請求項3】
前記液体肥料貯蔵タンクに貯蔵される液体肥料の主成分が窒素肥料、リン酸肥料、カリウム肥料であることを特徴とする請求項1又は2記載の微細気泡含有液体製造装置。
【請求項4】
前記好気性菌含有液体貯蔵タンクに貯蔵される好気性菌が窒素固定菌であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の微細気泡含有液体製造装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の微細気泡含有液体製造装置を備えた植物の栽培装置であって、
前記微細気泡発生手段にて発生した微細気泡を含んだ液体を、植物を植えた土壌に直接供給するように構成したことを特徴とする植物の栽培装置。
【請求項6】
液体中に、酸素と窒素を空気と異なる成分比で混合した気体からなる500μm以下の径の微細気泡を含有し、土壌に供給されることを特徴とする植物栽培用液体。
【請求項7】
前記液体が好気性菌を含有することを特徴とする請求項6記載の植物栽培用液体。
【請求項8】
前記液体が液体肥料であることを特徴とする請求項6又は7記載の植物栽培用液体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179266(P2010−179266A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26805(P2009−26805)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】