説明

微細気泡発生装置

【課題】機械的攪拌手段を備えずに低動力で運転することが出来、構造が簡単で製作費が安価である、微細気泡発生装置を提供する。
【解決手段】液体が収容される容器(1)の下部に設けられ且つ底面が解放された気体収容室(31)と、当該気体収容室に接続された気体供給管(32)と、当該気体収容室の内部においてその底面側の液面に向けて傾斜して配置された液体噴射ノズル(33)とから主として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡発生装置に関し、詳しくは、例えば、生物反応器(バイオリアクター)、有機化学分野における水添反応や酸化反応などに好適に使用することが出来る微細気泡発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、種々の好気性培養プロセスに使用されるバイオリアクターは、その攪拌方式により、機械攪拌方式(例えば特許文献1)と通気攪拌方式(例えば特許文献2〜4)とに大別される。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−186783号公報
【特許文献2】特開平06−253824号公報
【特許文献3】特開平09−173090号公報
【特許文献4】特開2000−32995号公報
【0004】
ところで、バイオリアクターにおいては、生物反応の促進の観点から、反応器に取り込まれる空気含有ガスは微細化されることが望ましく、また、気液反応器においても、化学反応促進の観点から、反応器に取り込まれる反応ガス(水素や酸素など)は微細化されることが望ましい。しかも、工業化に際しては、低価格と低エネルギー消費であることが重要である。
【0005】
機械攪拌方式による場合は、キャビティー生成によって気相をせん断し微細化するため、これを実現するためのエネルギー消費は小さくない。通気攪拌方式による場合は、特に大型化へスケールアップする際に、その動力コストがしばしば問題になる。また、エジェクター式に代表される混合ノズルを使ったものも多数あるが、ノズル式は予め気泡流を形成してから供給するという発想であるため、液とガスをノズル内部で接触させることで気泡流を生成する必要があり、構造が複雑になる。よって、装置化や運転条件のフレキシビリティーに乏しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、機械的攪拌手段を備えずに低動力で運転することが出来、構造が簡単で製作費が安価である、微細気泡発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、液体が収容される容器(1)の下部に設けられ且つ底面が解放された気体収容室(31)と、当該気体収容室に接続された気体供給管(32)と、当該気体収容室の内部においてその底面側の液面に向けて傾斜して配置された液体噴射ノズル(33)とから主として構成されていることを特徴とする微細気泡発生装置に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微細気泡発生装置は、例えば、好酸素発酵菌利用した酢酸プラントの様な好気性バイオリアクターや各種の気液反応器において好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の微細気泡発生装置が微細気泡発生手段として気泡式攪拌装置に取り込まれた態様の一例の要部の説明図、図2は他の一例の要部の説明図、図3は更に他の一例の要部の説明図である。
【0010】
本発明において液体が収容される容器(1)は、角柱状容器、円筒状容器など任意の形状の容器を使用することが出来、また、その容量は目的に応じて適宜決定することが出来る。図示した容器(1)の形状は角柱状(方形状)である。液体としては、目的に応じ、各種の反応原料液体などが使用される。
【0011】
容器(1)には、必要に応じ、例えば、連続的処理が目的の場合は、液体供給管と液体排出管とが設けられる。図示した容器(1)の場合、アップフロー形式であり、液体供給管(11)は容器(1)の下部に設けられ、液体排出管(12)は容器(1)の上部に設けられた溢流受槽(13)の底部に設けられている。なお、符号(14)は、容器(1)の蓋であり、これには適当な気体放出孔(図示せず)が設けられている。
【0012】
気泡式攪拌装置のための気泡式攪拌手段(2)は、容器(1)内の液体を混合(循環)し得る限り、従来公知の気泡式攪拌手段を採用することが出来る。例えば、環状や板状の細孔から気体を液体中に加圧して噴き出す手段(気体が空気の場合はエアレータ又はエアレーションと呼ばれる手段)があり、その中には、散気管式、散気板式、散気筒式と呼ばれる各種の手段がある。また、中空パイプの側周面全面に空隙を有するものはドラフトチューブと呼ばれる。更に、例えば、プラスチックスやステンレス等の管で作製され、その先端部には、空気などの細かい気泡を発生させるために無数の孔が開いた多孔性物質(例えば、ステンレス等の焼結金属、ガラスメッシュ、セラミック等)が取り付けられたエアスパージャー(ガス分散器)と呼ばれる手段がある。符号(21)は加圧気体供給配管である。なお、加圧気体供給配管(21)は、図示を省略した常用の付帯設備(コンプレッサー、加圧タンク、流量調節弁など)に接続されている。
【0013】
気泡式攪拌手段(2)によって形成する気泡径は、液体内を上昇する気泡によって容器(1)内の液体全体の混合(循環)が起こる様に適宜決定され、容器(1)の大きさ、液体の性状、要求される混合効率などによって異なるが、通常0.5〜20mm、好ましくは4〜10mmの範囲である。なお、上記の気泡径は、気泡発生位置から液界面に至って消滅する迄の距離の略真中の位置において測定した値である。一般に、エアスパージャーは、多孔性物質の孔の微細化により、エアレータに比して微細な気泡を形成することが容易である。
【0014】
微細気泡発生手段(3)は、容器(1)内の液体中に気泡式攪拌手段(2)によって形成される気泡より小さな気泡を形成する手段であり、微細気泡発生手段(3)によって形成する気泡径は、通常0.05〜1mm、好ましくは0.2〜0.6mmである。
【0015】
上記の気泡径の測定は、例えば、透明容器を使用し、高速ビデオカメラ等による写真撮影による方法、または、光ファイバープローブを使用し、プローブ先端が接触する相と光ファイバー自体の密度の違いによる反射を利用する方法によって行なうことが出来る。
【0016】
微細気泡発生手段(3)は、容器(1)の下部に設けられ且つ底面が解放された気体収容室(31)と、当該気体収容室に接続された気体供給管(32)と、当該気体収容室の内部においてその底面側の液面に向けて傾斜して配置された液体噴射ノズル(33)とから主として構成されている。
【0017】
図1に示す気体収容室(31)は容器(1)の左右の内側面に設けられており、図2に示す気体収容室(31)は容器(1)の左右の外側面に設けられており、図3に示す気体収容室(31)は4本の支柱に支持されて容器(1)の中央部に設けられている。なお、図示を省略したが、円筒状容器の場合は、その全周囲に図1又は図2に示すと同様の気体収容室を配置することも出来る。
【0018】
気体供給管(32)は、適当な内径の管にて構成され、その先端は気体収容室(31)に接続され、その後端は、配管により、コンプレッサー(5)、加圧タンク(6)、流量調節弁(7)から成る付帯設備に接続されている。気体としては、目的に応じ、例えば、空気含有ガスや反応ガス(水素や酸素など)が使用される。
【0019】
液体噴射ノズル(33)は、気体収容室(31)の内部においてその底面側の液面に向けて傾斜して配置され、その後端は加圧液体供給管(34)に接続され、加圧液体供給配管(34)は、図示を省略したが、加圧式バッファータンク、流量調節弁などの付帯設備に接続されている。一般に、加圧式バッファータンクには容器(1)に収容された液体と同一種類の液体が充填される。この場合、液体排出管(12)から排出された液体を循環して使用することが出来、循環液体は昇圧ポンプにより加圧式バッファータンクに供給することが出来る。
【0020】
上記の微細気泡発生手段(3)においては、液体噴射ノズル(33)から噴出される高速液ジェットが液体中に進入すると、高速液ジェットに同伴されて気体収容室(31)の気体が液体中に進入し、この高速同伴気体によって液体中に微細の気泡が形成される。従って、液体噴射ノズル(33)の寸法や配置位置などの条件は、上記の目的が達成される様に、適宜選択されるが、液体噴射ノズルの内径(a)は、通常0.2〜150mm、好ましくは25〜100mm、液体噴射ノズルと液面との間の離間距離を(b)(mm)とした際の(b)/(a)は、通常2〜60、好ましくは10〜30、液体噴射ノズルの傾斜角度は、通常15〜75°、好ましくは45〜60°であり、液体噴射ノズルから噴出される高速液ジェットの噴出速度は、通常1〜20m/s、好ましくは1〜5m/sである。
【0021】
なお、図示した例においては、気体収容室(31)に配置された液体噴射ノズル(33)は1本であるが、複数本にしてもよい。この場合、複数本の液体噴射ノズルの傾斜角度などは同一であっても異なっていてもよい。すなわち、異なる方向に異なる傾斜角度で複数本の液体噴射ノズルを配置してもよい。
【0022】
気泡式攪拌手段(2)と微細気泡発生手段(3)との位置関係は、特に制限されないが、両者の機能を区分して発揮させる観点から、整流部材(4)によって上下に区分された容器(1)を使用し、その上部に気泡式攪拌手段(2)が備えられ、その下部に微細気泡発生手段(3)が備えられた構造とするのが好ましい。斯かる構造によれば、次の様な作用が奏せられる。すなわち、一般に気泡径が小さくなるに従ってその上昇速度が低下するが、気泡式攪拌手段(2)によって形成される液の循環作用により、微細気泡の上昇は促進される。また、微細気泡は整流されて上部に上昇して混合されることとなる。整流部材(4)としては、金網、目皿板などが使用され、その開口部の大きさは、容器(1)の下部から上昇してくる微細気泡が目詰まりすることなく通過して整流されるのに必要な大きさとされる。金網の場合の開口部の大きさは、通常5〜60メッシュとするのがよい。
【0023】
前記の微細気泡発生手段(3)の使用態様は次の通りである。すなわち、先ず、容器(1)内に所望の液体を供給して気体収容室(31)に密閉空間を形成する。そして、必要に応じ、気体供給管(32)から気体収容室(31)に所望の気体を供給し、底面の解放端から液体中に噴き出させて気体収容室(31)内部の置換を行なう。そして、気体収容室(31)に供給される気体の圧力を調節し、気体収容室(31)における液面高さ(液体が気体収容室(31)の解放端から気体収容室(31)に進入するまでの間隔)を設定する。液面高さは通常10〜50mmである。液面高さが余りに低い場合は、気体収容室(31)内の僅かな圧力変動などにより、底面の解放端から液体中に気体が噴出することがある。次いで、液体噴射ノズル(33)から高速液ジェットを連続的に噴出させて液体中に進入させる。そして、高速液ジェットに同伴させて気体収容室(31)の気体を液体中に進入させ、この高速同伴気体によって液体中に微細の気泡を形成させる。気体収容室(31)内部から流出した量の気体は、気体供給管(32)から連続的に供給される気体によって補填され、気体収容室(31)内部の圧力は略一定に保たれる。また、気体収容室(31)における液面高さも略一定に維持される。そして、形成された微細気泡は、気泡式攪拌手段(2)によって形成される液の循環作用により促進されて上昇する。
【0024】
微細気泡発生手段(3)においては、高速液ジェットの噴出速度、すなわち、加圧液体供給管(34)から噴出される液量を調節することにより、微細気泡の気泡径の制御が可能である。また、高速液ジェットによって形成される微細気泡の気泡径は略均一である。
【0025】
因みに、図1に示すのと同様構造であって、容器(1)が透明アクリル樹脂にて構成され且つ以下の表1に示す寸法を有する気泡式攪拌装置を使用し、液体に水道水(気泡の写真撮影の際の便宜上、気泡安定剤として1−Pentanolを50ppm添加)、気体に空気を使用し、アクリル壁面から20mm離れた位置を測定断面とし、微細気泡の気泡径を測定した。但し、微細気泡発生手段(3)の設置個数は1個とした。また、整流部材(4)は容器(1)の高さ方向の真中より若干高目の位置に配置した。
【0026】
【表1】

【0027】
気泡径の測定は、高速ビデオカメラ(Phantom V5.0:512×512pixel,0.074mm/pixel,500fps)を容器(1)の高さ方向の中央部付近の外側側面に配置し、これに対向する外側側面に連続光の光源(ハロゲン光源)を配置し、上昇する微細気泡によって得られる陰影画像の2値化処理によって行なった。微細気泡の気泡径の測定結果は平均値として0.3mmであった。
【0028】
一般に、微細気泡発生手段としてエアスパージャーを使用することも可能である。しかしながら、エアスパージャーには、細孔の閉塞による気泡サイズのばらつきと気泡発生率の低下や気泡発生量に制限がある等の問題がある。これに対し、本発明の微細気泡発生装置は、エアスパージャーにおける上記の様な問題は皆無である。
【0029】
一般に、本発明の微細気泡発生装置は、液の循環作用により微細気泡の上昇を促進し得る攪拌装置と組合せて使用される。前述の例は、本発明の微細気泡発生装置と気泡式攪拌装置とを組合せた例であるが、本発明の微細気泡発生装置は機械式攪拌装置と組合せることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の微細気泡発生装置が微細気泡発生手段として気泡式攪拌装置に取り込まれた態様の一例の要部の説明図
【図2】本発明の微細気泡発生装置が微細気泡発生手段として気泡式攪拌装置に取り込まれた態様の他の一例の要部の説明図
【図3】本発明の微細気泡発生装置が微細気泡発生手段として気泡式攪拌装置に取り込まれた態様の更に他の一例の要部の説明図
【符号の説明】
【0031】
1:容器
11:液体供給管
12:液体排出管
13:溢流受槽
14:蓋
2:気泡式攪拌手段
21:加圧気体供給配管
3:微細気泡発生手段
31:気体収容室
32:気体供給管
33:液体噴射ノズル
34:加圧液体供給管
4:整流部材
5:コンプレッサー
6:加圧タンク
7:流量調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が収容される容器(1)の下部に設けられ且つ底面が解放された気体収容室(31)と、当該気体収容室に接続された気体供給管(32)と、当該気体収容室の内部においてその底面側の液面に向けて傾斜して配置された液体噴射ノズル(33)とから主として構成されていることを特徴とする微細気泡発生装置。
【請求項2】
液体噴射ノズル(33)の内径(a)が0.2〜150mmであり、液体噴射ノズルと液面との間の離間距離を(b)(mm)とした際に(b)/(a)が2〜60であり、液体噴射ノズルの傾斜角度が15〜75°である請求項1に記載の微細気泡発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−222805(P2007−222805A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47970(P2006−47970)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】