説明

微細泡沫群生成装置

【課題】 微細泡沫群の生成のためのエネルギー効率に優れた微細泡沫群生成装置を提供する。
【解決手段】 気体および界面活性剤水溶液の気液混合物が回転軸20と混合室43の内壁との間に設けられた間隙43aを通過する流路を形成し、気液混合物に対して効率的に旋回力を作用させることにより微細かつ均一な気泡群を効率的に生成することができる微細泡沫群生成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡沫生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の泡沫群生成装置としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この泡沫群生成装置は、回転軸の回転方向に面を有して放射状に設けられ、回転軸の回転に伴い回転される撹拌フィンと、撹拌フィンの回転中心に一方端を開口し、他方端は吸気気体を収納する気体容器に開口される吸気管と、気体容器と撹拌フィン間に設けられ、吸気管による吸引量を調整可能な調整機とからなる微小気泡を多く含んだ気泡を発生可能な気液混合用インペラーで、気液混合室への気体の導入には回転円筒軸に設けられた貫通穴が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−215714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された泡沫群生成装置において、均一かつ微細な泡沫群を生成するためには、撹拌フィンを高速で回転させなければならない。液体中に放出された泡状の気体を分裂して微細な泡沫にするためには、泡沫を構成する気泡に対し十分に大きな剪断力(気泡の一端と他端に流速差を生じさせることにより気液界面に作用する力)を作用させる必要がある。しかし、撹拌フィンにより液体を撹拌させる構成では、気泡のサイズより大きな範囲にわたり液体が略同じ流速で回転するため、気泡に対し十分に大きな剪断力を作用させることは困難である。さらに、発生した泡沫は、撹拌フィンの回転により生じた遠心分離作用により、集合して再び合体し易くなる。泡沫の集合および合体を防止するために、撹拌フィンを多段化するなどの工夫が必要となる。従って、特許文献1に開示された泡沫群発生装置では気液混合に要するエネルギーが過大となり、エネルギー効率が悪い(即ち微細泡沫の生成効率が悪い)という問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、微細泡沫群の生成のためのエネルギー効率に優れた微細泡沫群生成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために講じた第1の手段は、回転する回転軸と、供給される気体を通す給気口と、供給される界面活性剤水溶液を通す給液口と、前記給気口および前記給液口に連通して気体および界面活性剤水溶液の気液混合物を混合する混合室とを有し、該混合室に前記回転軸を収容するケーシングと、を備えた微細泡沫群生成装置であって、前記回転軸の軸方向に沿って前記混合室の内壁を延在させ、前記混合室の内壁と前記回転軸との間に間隙を設け、該間隙に前記気液混合物を通過させることである。
【0007】
また、第2の課題解決手段は、前記混合室の一端にシール部材を配設すると共に前記混合室の他端に気液混合物を排出する排出部を形成し、前記気液混合物が前記シール部材に接触してから前記間隙を通過して前記排出部から排出されることである。
【0008】
また、第3の課題解決手段は、前記回転軸の表面を親水性としたことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気液混合物が混合室の内壁と回転軸との間隙を通過する。このとき、回転軸により気液混合物は旋回流となり、下流側に配置された混合室へ均一に分散される状態で送られる。この結果、混合室内では気液分布の偏りが小さくなり、気液混合がより効率的に行われる。
【0010】
また、シール部材は回転する回転軸との接触部分で摩擦により熱が発生するが、気液混合物により冷却される。このため、シール部材の熱による劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る微細泡沫群生成装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る微細泡沫群生成装置の要部を示す断面図である。
【図3】本発明に係る微細泡沫群生成装置の間隙の寸法を変更した場合の試験結果である。
【図4】本発明に係る微細泡沫群生成装置の回転軸の表面特性を変更した場合の試験結果である。
【図5】本発明に係る微細泡沫群生成装置を使用した微細泡沫群生成システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る微細泡沫群生成装置の一例を示した断面図である。また、図2は、図1の要部を示した断面図である。
【0014】
本実施形態に係る微細泡沫群生成装置1は、電動モーター10と、電動モーター10の回転子(図示せず)に連結された回転軸20と、回転軸20に連結されたインペラー30と、回転軸20およびインペラー30を収容するケーシング40と、電動モーター10の内部への水分の浸入を防止するシール部材50と、により構成される。
【0015】
回転軸20は、円柱状または円筒状に形成され、一端が電動モーター10の回転子と、他端がインペラー30と一体回転するように連結されており、電動モーター10の回転駆動力をインペラー30に伝達する構成となっている。さらに本実施例では、回転軸20は、モーター軸21の軸方向に沿って包囲するように回転筒22が固定される。回転筒22でモーター軸21を包囲するため、水分によるモーター軸21の腐食が防止できる。
【0016】
インペラー30は、回転軸20に対し垂直板状の円板部31と、円板部31の両側面に同心円状に周設された周壁32と、を備え、さらに表面にはフィン(図示せず)が突設されている。そしてケーシング40内を通過する気体と界面活性剤水溶液の混合物(以下、「気液混合物」ともいう)を撹拌するとともに、発生した気泡を細かく分断して微細泡沫群にする。
【0017】
ケーシング40は、電動モーター10の筐体に固定され、気体を供給するための給気口41と、界面活性剤の水溶液を供給するための給水口42と、給気口41および給水口42に連通しすると共に回転軸20を収容する第1混合室43と、インペラー30を収容する第2混合室44と、気液混合物を吐出する吐出口45とを備える。また、ケーシング40は、例えば変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)等の樹脂を成型したものである。
【0018】
第1混合室43の電動モーター10側には、例えばゴムや樹脂からなるリップシール等のシール部材50が配設される。そしてシール部材50により水分が電動モーター10の内部に侵入しないように第1混合室43が区画される。尚、シール部材50は回転軸20がケーシング40に対して相対回転し得るよう構成される。また、第1混合室43内において、ケーシング40と回転軸20(回転筒22)との間には後述の所定幅を有する間隙43aが幅狭に形成される。即ち、回転軸20の軸方向に沿って第1混合室43の内壁を延在させ、気液混合物が第1混合室43の内壁と回転軸20との間隙43aを通過するように流路が形成される。
【0019】
次に、供給される気体および液体から微細泡沫群を生成する過程を詳細に説明する。
【0020】
まず、給気口41から供給された気体および給水口42から供給された界面活性剤水溶液は、それぞれ通路41a,42aを通り第1混合室43内に供給される。第1混合室43内で、気液混合物は回転軸20の回転により生じる旋回流により混合されながら、シール部材50で折り返して間隙43aに送出される。そして、気液混合物が間隙43aを通過する際に、回転軸20の回転により気液混合物も回転する旋回流を生じる。このとき、間隙43aが幅狭に形成されているため、回転している回転軸20により 気液混合物が 旋回流となり、第2混合室44の円周方向へ均一に分散される状態で送られる。この結果、第2混合室44内では気液分布の偏りが小さくなり、第2混合室44内での気液混合がより効率的に行われる。また、第1混合室43の一端にシール部材50を配設すると共に第1混合室43の他端に気液混合物を排出する排出部43bを形成し、気液混合物がシール部材50に接触してから前記間隙43aを通過して前記排出部43bから排出されるように流路が形成される。シール部材50は回転する回転軸20との接触部分で摩擦により熱が発生するが、気液混合物により冷却される。このため、シール部材50の熱による劣化を防止できる。
【0021】
第1混合室43内で生成した微細泡沫群は、さらに、第2混合室44内に送出される。第2混合室44内では、微細泡沫群は、電動モーター10と一体回転するインペラー30の表面と第2混合室44との間に形成された間隙44aを通過する。このとき、回転しているインペラー30の表面に形成されたフィンと静止している第2混合室44の内壁との間には、大きな速度差が生じる。この速度差による剪断力で、微細泡沫群を構成する気泡はさらに細かく分断されると共に均一に混合される。そして、吐出口45から微細泡沫群が吐出される。
【0022】
次に、第1混合室43内の間隙43aについて詳細に説明する。
【0023】
図3に、第1混合室43内の回転軸20の表面とケーシング40の内壁との間隙43aの寸法を変更した場合の微細泡沫群生成試験の結果を示す。間隙43aの寸法は、内径が回転軸20の外径に、外径が間隙43aを隔てて回転軸20の表面と対向するケーシング40の内壁の内径に、長さが間隙43aの軸方向長さ(即ち、ケーシング40の内壁の内径が一定部分の軸方向長さ)にそれぞれ相当する。疏水加工の有無は、回転軸20(回転筒22)の表面にグリスなどの疎水性材料を塗布したか否かを示す。図3の試験では全て疏水加工しない状態で行われた。入力電圧は、電動モーター10を駆動するための入力電圧である。本実施例においては、入力電圧を18Vとした場合に、電動モーター10が2000rpmの回転速度で回転する構成となっている。液体流量は、給水口42から供給される界面活性剤水溶液の流量である。尚、本実施例において供給される界面活性剤水溶液の温度は40±5℃である。空気流量は、給気口41から供給される空気の流量である。液体流量と空気流量の比から、含水率が約20体積%の微細泡沫群が生成される条件である。
【0024】
評価結果において、泡流量は、吐出口から吐出された微細泡沫群の流量である。泡径分布は、泡径を0.15mm以下、0.15mm以上−3mm以下、および3mm以上の三段階に分類したときの、それぞれの成分の割合(%)である。
【0025】
評価パターンAと評価パターンBとの比較は、空隙43a部分の長さを変化させた場合の、微細泡沫群の泡径分布の比較である。評価結果より、空隙43a部分の長さが長くなるほど微細泡沫群の泡径が小さくなることがわかる。
【0026】
評価パターンAと評価パターンCとの比較は、空隙43a部分の隙間サイズを変化させた場合の、微細泡沫群の泡径分布の比較である。評価パターンAの隙間サイズは0.5mmで、評価パターンBの隙間サイズは1.5mmである。評価結果より、空隙43a部分の隙間サイズが小さくなるほど微細泡沫群の泡径が小さくなることがわかる。しかしながら、隙間サイズを小さくし過ぎると、回転軸20の表面43bとケーシング40の内壁43cとの距離が近くなり、管摩擦抵抗が増大してしまう。その結果、給水手段および給気手段への負荷が大きくなり エネルギー効率が低下してしまうため、本寸法形状において、隙間サイズは0.5mmとなる条件が最適であった。
【0027】
次に、回転軸20(回転筒22)の表面処理について詳細に説明する。
【0028】
図4に、回転軸20の表面43bを疏水加工しない場合とした場合それぞれの微細泡沫群生成試験の結果を示す。評価パターンAと評価パターンDとの比較は、疏水加工の有無に応じた微細泡沫群の泡径分布の比較である。その他の評価条件は図3における評価条件と同様である。評価結果より、疏水加工をしない方が微細泡沫群の泡径が小さくなることがわかる。これは、回転軸20の表面43bを疏水加工することにより、回転軸20の表面43bに接する水(界面活性剤水溶液)への剪断力の伝達効率が低下するためである。即ち、回転軸20の表面43bを親水性材料にするか、親水性材料をコーティングするなどして親水加工することにより、回転軸20の回転に伴う気液混合物への旋回力の伝達効率が向上し、より少ない消費エネルギーで微細な泡沫群を生成し得る。
【0029】
図5は、微細泡沫群生成装置1を使用した、微細泡沫群生成システム100である。微細泡沫群生成システム100は、所定温度の水を生成する給湯器101と、給湯器101に連通して水の供給流量を調整する第1流量調整手段102と、液状の界面活性剤を収容する石けんタンク103と、石けんタンク103に連通して界面活性剤の供給流量を調整する第2流量調整手段104と、第1流量調整手段102および第2流量調整手段104に連通して水および界面活性剤を混合して界面活性剤水溶液にする混合手段105と、圧縮空気を生成するエアーコンプレッサ106と、エアーコンプレッサ106に連通して空気の供給流量を調整する第3流量調整手段107と、界面活性剤水溶液および空気を混合して微細泡沫群を生成する微細泡沫群生成装置1とを備えたものである。
【0030】
従って、本実施例の応用例に関する微細泡沫群生成システム100を使用すれば、任意の水温に調整することにより生成する微細泡沫群の温度を制御できる。また、水および界面活性剤の流量を調整すると共に、空気の流量を調整することにより、任意の含水量を持つ微細泡沫群が得られる。また、微細泡沫群生成装置1の回転軸20の回転速度を調整することにより、微細泡沫群の泡径分布を任意に制御できる。
【0031】
このように、微細泡沫群生成システム100によれば、任意の特性を有する微細泡沫群を生成することが可能となり、手洗い用、体洗い用、浴槽用等、様々な用途に利用可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 微細泡沫群生成装置
20 回転軸
40 ケーシング
41 給気口
42 給水口
43 第1混合室(混合室)
43a 間隙
43b 排出部
50 シール部材
100 微細泡沫群生成システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する回転軸と、
供給される気体を通す給気口と、供給される界面活性剤水溶液を通す給水口と、前記給気口および前記給水口に連通して気体および界面活性剤水溶液の気液混合物を混合する混合室とを有し、該混合室に前記回転軸を収容するケーシングと、を備えた微細泡沫群生成装置であって、
前記回転軸の軸方向に沿って前記混合室の内壁を延在させ、前記回転軸と前記混合室の内壁との間に所定の間隙を設け、該間隙に前記気液混合物を通過されることを特徴とする微細泡沫群生成装置。
【請求項2】
前記混合室の一端にシール部材を配設すると共に前記混合室の他端に気液混合物を排出する排出部を形成し、前記気液混合物が前記シール部材に接触してから前記間隙を通過して前記排出部から排出されることを特徴とする請求項1に記載の微細泡沫群生成装置。
【請求項3】
前記回転軸の表面を親水性としたことを特徴とする請求項1または2に記載の微細泡沫群生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−207789(P2010−207789A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60245(P2009−60245)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】