説明

微細流路における液相輸送方法

【課題】本発明によれば、隣接する液体セル間において分子膜を隔てた液体の輸送を可能とし、その液体セルの体積を能動的に操作できる方法を提供しうる。
【解決手段】両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させて両親媒性分子からなる分子膜の並列構造を形成させる際に、2つの液相として有機相および水相を用い、または気相とともに用いる液相として有機相もしくは水相を用い、分子膜形成後に、微細流路内で分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈を行うことを特徴とする微細流路における液相輸送方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細流路における液相輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液相内(液体セル)の微量物質の検出を行う場合、たとえば蛍光試薬による検出を試みるとき、液体セル内に含まれる検出対象物質があまりに微量であると、信号が微弱で検出が容易ではないという課題があった。
【0003】
本発明者は、先般、脂質二分子平面膜等の二分子膜を容易に、且つ大量に形成することができる微細流路を用いた二分子膜の作成技術を開発した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、本発明者は、この二分子膜の作成技術の応用の一環として、前記のような液体セルの微量物質の検出への適用を検討する過程で本発明に到達したものであり、本発明は、隣接する液体セル間において分子膜を隔てた液体の輸送を可能とし、その液体セルの体積を能動的に操作できる方法を提供することを目的とする.
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させて両親媒性分子からなる分子膜の並列構造を形成させる際に、2つの液相として有機相および水相を用い、または気相とともに用いる液相として有機相もしくは水相を用い、
(i)導出する液相が有機相である場合には濃度が相異なる2種類以上の水相を用い、その水相を交互に形成させることにより、
(ii)導出する液相が水相である場合には濃度が相異なる2種類以上の有機相を用い、その有機相を交互に形成させることにより、または
(iii )導出する相が気相である場合には濃度が相異なる2種類以上の水相および/または有機相を用い、その水相および/または有機相を交互に形成させることにより、
分子膜形成後に、微細流路内で分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせることを特徴とする微細流路における液相輸送方法;
(2)両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作成する上記(1)に記載の微細流路における液相輸送方法;
(3)濃度が相異なる2種類以上の水相または有機相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、濃度が相異なる2種類以上の水相または有機相が交互に並んだ状態を作成する上記(1)もしくは(2)に記載の微細流路における液相輸送方法;
(4)微細流路の分岐構造が十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる上記(2)もしくは(3)に記載の微細流路における液相輸送方法;
(5)両親媒性分子が脂質、界面活性剤もしくはポリマーである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(6)両親媒性分子がリン脂質である(1)〜(5)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(7)両親媒性分子が有機相に配合して導入される(1)〜(6)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(8)両親媒性分子が有機相および水相の界面に吸着し単分子膜を形成する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(9)疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させる上記(1)〜(8)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(10)親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により水相を導出して、隣り合う有機相同士を接触させる上記(1)〜(8)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(11)分岐微小流路による導出が毛管作用および/または吸引により行われる上記(1)〜(10)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(12)2個以上の分子膜が並列に配置された構造を有する上記(1)〜(11)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(13)分子膜が二分子膜もしくは単分子膜である上記(1)〜(12)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(14)濃度の小さい水相もしくは有機相が1/3以下の体積に減少する上記(1)〜(13)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(15)濃度の小さい水相もしくは有機相が1/10以下の体積に減少する上記(1)〜(14)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(16)水相もしくは有機相が、水相もしくは有機相内物質としてイオン、分子もしくは微粒子を含有する上記(1)〜(15)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(17)濃度の小さい水相もしくは有機相内で水相もしくは有機相内物質が3倍以上に濃縮される上記(1)〜(16)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法;
(18)濃度の小さい水相もしくは有機相内で水相もしくは有機相内物質が10倍以上に濃縮される上記(1)〜(17)のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。

(19)両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈を行うことを特徴とする水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈方法;
(20)両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相の体積の調節を行うことを特徴とする水相もしくは有機相の体積調節方法;
(21)両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、被測定物質を含む測定用溶液を濃度の小さい水相もしくは有機相に添加して、または測定用溶液自体を濃度の小さい水相として、濃度の大きい水相もしくは有機相への液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内の被測定物質を濃縮させた後に、被測定物質を含む測定用溶液中の被測定物質を検出することを特徴とする被測定物質の検出方法;
(22)濃度の小さい水相もしくは有機相内の被測定物質が10倍以上に濃縮される上記(21)に記載の被測定物質の検出方法;ならびに
(23)両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の水相および/または有機相を介して並列構造を形成してなる分子膜含有構造、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、隣接する液体セル間において分子膜を隔てた液体の輸送を可能とし、その液体セルの体積を能動的に操作できる方法を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の微細流路における液相輸送方法においては、両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させて両親媒性分子からなる分子膜の並列構造を形成させる。本発明においては、上記の2つの液相として有機相および水相を用い、または気相とともに用いる液相として有機相もしくは水相を用いる。
【0008】
有機相としては、各種の有機化合物から選ばれるが、好適にはデカン、オクタン等のアルカン類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、オレイン酸等の脂肪酸類等が挙げられる。液相と気相を用いる場合、液相としては有機相もしくは水相、一方気相としては空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等が好適である。
【0009】
両親媒性分子としては、通常、リン脂質、糖脂質、中性脂質等の脂質;パルミチン酸、ステアリン酸、等の両親媒性界面活性剤;もしくはその構造中に疎水部と親水部を有するブロックコポリマー等のポリマーから選ばれる。このようなブロックコポリマーとしては、ポリエチレンオキシド−ポリエチルエチレン、ポリエチレンオキシド−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド−ポリカプロラクタム、ポリブチルアクリレート−ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0010】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作成するのが好適である。このような微細流路の分岐構造としては、特に制限されないが、好適には十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる。微細流路の大きさは、目的に応じて決定しうるが、通常0.1〜1000μm程度、好ましくは10 〜500μm程度から選ばれる。微細流路を形成する材料の材質は、たとえばプラスチック、セラミック、金属等のいずれでもよく、たとえば微細流路の壁面を疎水性とする場合にはアクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好適であり、一方、親水性にする場合には石英ガラス、シリコン、ホウケイ酸ガラス(たとえば「パイレックス」(登録商標))等が好適である。微細流路を形成する材料の形状、大きさは目的とする用途等により適宜選定し得、たとえば、加工した流路を有する板状体(たとえば〜数センチ角)が挙げられる。
【0011】
両親媒性分子は有機相に配合して導入するのが好適である。両親媒性分子は2つの液相(有機相と水相、水相と水相)、または液相と気相、の界面に吸着し単分子膜を形成する。有機相を2分して異なる両親媒性分子を導入することにより、非対称二分子膜を形成しうる。
【0012】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を制御するためには、上記の微細流路の分岐構造を用いて、たとえば供給する、2つの液相の粘度、表面張力、密度、液性(極性)等にもよるが、2つの液相の吐出速度(吐出量)を適宜調整する。この場合、特開2004−12402号公報、特開2004−67953号公報、特開2004−59802号公報、特開2005−255987号公報および特開2005−270894号公報に記載される方法に準じて連続相と分散相(液滴)の形成を行うこともできる。
【0013】
2つの液相が有機相および水相である場合、好ましくは疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成しうる。
【0014】
一方、好ましくは親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により水相を導出して、隣り合う有機相同士を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成しうる。
【0015】
分岐微小流路は、微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けられ、毛管作用(自発的な浸透)および/または吸引(ポンプやバルブを用いる)により、上記のように液相のひとつを導出させる。分岐微小流路の大きさは、毛管作用および/または吸引に適した範囲から適宜選定され得るが、通常0.1〜200μm程度等から選ばれる。
【0016】
そして、本発明においては、
(i)導出する液相が有機相である場合には濃度が相異なる2種類以上の水相を用い、その水相を交互に形成させることにより、
(ii)導出する液相が水相である場合には濃度が相異なる2種類以上の有機相を用い、その有機相を交互に形成させることにより、または
(iii )導出する相が気相である場合には濃度が相異なる2種類以上の水相および/または有機相を用い、その水相および/または有機相を交互に形成させることにより、
分子膜形成後に、微細流路内で分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせる。
【0017】
すなわち、本発明においては、たとえば導出する液相が有機相である場合には、上記の微細流路の分岐構造、十字路、T字路もしくはY字路等を用いて、連続相を有機相とし、かつ濃度が相異なる2種類以上の水相を分散相(液滴)として、それらの水相を交互に形成させる。また、導出する液相が水相である場合には、上記の微細流路の分岐構造、十字路、T字路もしくはY字路等を用いて、連続相を水相とし、かつ濃度が相異なる2種類以上の有機相を分散相(液滴)として、それらの有機相を交互に形成させる。
【0018】
上記の水相もしくは有機相の濃度は、媒質であるイオンもしくは分子の濃度をいい、分子膜を挟み、濃度が相異なる水相もしくは有機相の濃度差は浸透圧により好ましくは3倍以上、もっと好ましくは10倍に体積の増加、減少を生じさせるように設定され得る。
【0019】
本発明によれば、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に分子膜が配置された構造を有し、両親媒性分子からなる分子膜が得られる。通常2個以上の二分子膜が間隔をおいて並列に配置される。上記間隔は目的に応じて決定され得、有機相もしくは水相を介して形成され、有機相もしくは水相の間に両親媒性分子からなる二分子膜が配置されている。しかしながら、これらの有機相もしくは水相を除去してその間隔を零(すなわち多層膜)とすることができるし、二分子膜と多層膜の混合型としてもよい。さらに、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に、有機相もしくは水相の間に1個のみの二分子膜が配置されていてもよい。分子膜は上記のように二分子膜に代えて単分子膜とすることもできるが、二分子膜が好適に使用される。
【0020】
分子膜は平面、球面のいずれであってもよく、閉じた球体形であってもよいが、通常は二分子平面膜が選ばれる。
【0021】
本発明の微細流路における液相輸送方法においては、通常2個以上の分子膜が並列に配置された構造を用いて、濃度の小さい水相もしくは有機相内の物質を3倍以上、好適には10倍以上に濃縮し得る。また、濃度の小さい水相もしくは有機相は1/3以下の体積に、好適には1/10以下の体積に減少させ得る。これらの濃度または体積の調節は、浸透圧が平衡に達するまでの範囲内で、所望の値を得るように適宜調節しうる。
【0022】
水相もしくは有機相内の物質はイオン、分子もしくは微粒子のいずれでもよい。これらのイオンとしては、各種の陽イオン、陰イオン等が挙げられ、分子としては核酸、糖類等が挙げられ、さらに微粒子としてはラテックス、ポリマー、無機酸化物、炭素等が挙げられる。
【0023】
本発明の水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈方法においては、上記のような、両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈を行うことができる。
【0024】
また、本発明によれば、両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相の体積の調節を行うことができるので、極少量の水相もしくは有機相の所望体積を簡易に得ることができる。このような体積の調節の場合には、上記の水相もしくは有機相内物質は含まれていてもいなくてもよい。
【0025】
さらに、本発明においては、両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、被測定物質を含む測定用溶液を濃度の小さい水相もしくは有機相に添加して、または測定用溶液自体を濃度の小さい水相として、濃度の大きい水相もしくは有機相への液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内の被測定物質を濃縮させた後に、被測定物質を含む測定用溶液中の被測定物質を検出することができる。検出は目的に応じて、定性、半定量もしくは定量のいずれでもよい。たとえば、濃度の小さい水相もしくは有機相内の被測定物質が低濃度で検出が困難である場合に、本発明方法によれば、被測定物質が容易に10倍以上に濃縮され得るので、被測定物質濃度の検出が簡易に可能となる。
【0026】
以下、図面を用いてさらに本発明を詳細に説明する。
【0027】
図1は十字型微細流路を用いた、2種類以上の液滴の規則正しい交互生成(a)と二分子膜並列構造の作成(b)の模式図を示す。
【0028】
微細流路(3)内部に,両親媒性分子を含有する有機相(たとえば、脂質と有機溶媒からなる)(2)中にイオン濃度の異なる2種類以上の水相(1)、(1’)が分散相(液滴)として規則的に交互に並んだ状態を作成する。次に,側面に設けた分岐微小流路(4)に有機相(2)を導出させ,隣接する水相(1)、(1’)を接触させる。これにより,両親媒性分子で構成される二分子膜(5)の並列構造を形成する((a)〜(b))。二分子膜形成後、イオン濃度の相違による浸透圧を利用し、二分子膜を介して液相の輸送を行う。この液相の輸送を利用し、液体セル内の物質の濃縮および希釈操作を行うことができる。
上記の二分子膜に代えて、隣接する水相(1)、(1’)を接触させる際に、たとえば
有機相(2)を少量残存させることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
石英ガラス基板に微細流路を加工して、液滴生成および脂質分子膜並列構造の作成を行った。液滴を生成するための微細流路の分岐構造は十字形状とし、サイズを幅200μm、深さ100μmとした。脂質膜を形成する微細流路を幅200μm、深さ100μmとし、有機相導出用の分岐微小流路を、幅20μm、深さ100μmの溝が50μmピッチで微細流路の両側に多数並んだ構造とした(図2)。
【0030】
2つの分散相(液滴となる相)として純水(1)と塩化カリウム(KCl)4M水溶液(1’)、連続相(液滴を取り囲む相)として、クロロホルム(和光純薬工業)にリン脂質(ジオレイルホスファチジルコリン、DOPC、和光純薬工業)を5mg/mLの濃度で溶かしたものを用いた。シリンジポンプ(KD Scientific社製、KDS200)を用いて、連続相を0.05mL/hr,2つの分散相を各0.02mL/hrで装置に送液したところ、十字路において、規則正しい周期で2種類の液滴(1)、(1’)が交互に生成される様子を観察することができた。吸引流量を0.05mL/hrに設定すると、有機相が十字路下流部の両側面に設けられた、より微細な流路(幅20μm)に回収され、前後の液滴同士が接触することで、脂質膜の並列構造が作製され、様子を確認することができた。さらに、下流に至るほど純水の液体セルの体積が小さくなり、塩化カリウム水溶液の液体セルの体積が大きくなることが光学顕微鏡(50倍)により観察された(図3)。図3において、右側が上流、左側が下流である。
実施例2
実施例1と同一の実験装置を用いて、2つの分散相のうち純水側の相に蛍光試薬を添加した以外は同様にして実験を行った。蛍光試薬を添加した液体セルの体積が時間とともに小さくなり、それに伴なって蛍光強度が増大する様子が光学顕微鏡(100倍)により観察された(図4(a)〜(f))。図4において、(a)0秒、(b)1.0秒、(c)3.0秒、(d)4.0秒、(e)5.0秒および(f)6.0秒を示す。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば,隣接する液体セル間において分子膜を隔てた液体の輸送を可能とし、その液体セルの体積を能動的に操作できる方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】十字型微細流路を用いた、2種類以上の液滴の規則正しい交互生成(a)と二分子膜並列構造の作成(b)の模式図。
【図2】本発明において用いられる微細流路の一例の模式図。
【図3】本発明における水相内物質の濃縮の様子を示す光学顕微鏡写真(50倍)。
【図4】本発明における水相内物質の濃縮の様子を示す光学顕微鏡写真(100倍)。
【符号の説明】
【0033】
1 水相
1’ 水相
2 有機相
3 微細流路
4 分岐微小流路
5 二分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させて両親媒性分子からなる分子膜の並列構造を形成させる際に、2つの液相として有機相および水相を用い、または気相とともに用いる液相として有機相もしくは水相を用い、
(i)導出する液相が有機相である場合には濃度が相異なる2種類以上の水相を用い、その水相を交互に形成させることにより、
(ii)導出する液相が水相である場合には濃度が相異なる2種類以上の有機相を用い、その有機相を交互に形成させることにより、または
(iii )導出する相が気相である場合には濃度が相異なる2種類以上の水相および/または有機相を用い、その水相および/または有機相を交互に形成させることにより、
分子膜形成後に、微細流路内で分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせることを特徴とする微細流路における液相輸送方法。
【請求項2】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作成する請求項1に記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項3】
濃度が相異なる2種類以上の水相または有機相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、濃度が相異なる2種類以上の水相または有機相が交互に並んだ状態を作成する請求項1もしくは2に記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項4】
微細流路の分岐構造が十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる請求項2もしくは3に記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項5】
両親媒性分子が脂質、界面活性剤もしくはポリマーである請求項1〜4のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項6】
両親媒性分子がリン脂質である請求項1〜5のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項7】
両親媒性分子が有機相に配合して導入される請求項1〜6のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項8】
両親媒性分子が有機相および水相の界面に吸着し単分子膜を形成する請求項1〜7のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項9】
疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させる請求項1〜8のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項10】
親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により水相を導出して、隣り合う有機相同士を接触させる請求項1〜8のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項11】
分岐微小流路による導出が毛管作用および/または吸引により行われる請求項1〜10のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項12】
2個以上の分子膜が並列に配置された構造を有する請求項1〜11のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項13】
分子膜が二分子膜もしくは単分子膜である請求項1〜12のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項14】
濃度の小さい水相もしくは有機相が1/3以下の体積に減少する請求項1〜13のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項15】
濃度の小さい水相もしくは有機相が1/10以下の体積に減少する請求項1〜14のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項16】
水相もしくは有機相が、水相もしくは有機相内物質としてイオン、分子もしくは微粒子を含有する請求項1〜15のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項17】
濃度の小さい水相もしくは有機相内で水相もしくは有機相内物質が3倍以上に濃縮される請求項1〜16のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項18】
濃度の小さい水相もしくは有機相内で水相もしくは有機相内物質が10倍以上に濃縮される請求項1〜17のいずれかに記載の微細流路における液相輸送方法。
【請求項19】
両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈を行うことを特徴とする水相もしくは有機相内物質の濃縮および希釈方法。
【請求項20】
両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、分子膜を介して濃度の小さい水相もしくは有機相から濃度の大きい水相もしくは有機相へ、の液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相の体積の調節を行うことを特徴とする水相もしくは有機相の体積調節方法。
【請求項21】
両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有する分子膜含有構造を用いて、被測定物質を含む測定用溶液を濃度の小さい水相もしくは有機相に添加して、または測定用溶液自体を濃度の小さい水相として、濃度の大きい水相もしくは有機相への液相輸送を生じさせ、水相もしくは有機相内の被測定物質を濃縮させた後に、被測定物質を含む測定用溶液中の被測定物質を検出することを特徴とする被測定物質の検出方法。
【請求項22】
濃度の小さい水相もしくは有機相内の被測定物質が10倍以上に濃縮される請求項21に記載の被測定物質の検出方法。
【請求項23】
両親媒性分子からなる分子膜が濃度の相異なる2種類以上の水相および/または有機相を介して並列構造を形成してなる分子膜含有構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−131805(P2009−131805A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311179(P2007−311179)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】