説明

微細炭素繊維構造体

【課題】透明性が優れた導電膜を作製できる微細炭素繊維構造体及びその製法を提供する。
【解決手段】炭素繊維と粒状部とを有する微細炭素繊維構造体であって、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合されており、また、炭素繊維の外径のメディアン径をDとし、粒状部の面積基準の円相当メディアン径をDとしたときに、D/Dが1.3〜10であり、Dが0.05〜0.4μmであり、炭素繊維メディアン長さが20μm以下であり、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している炭素繊維構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な炭素繊維構造体に関する。詳しく述べると、本発明は、樹脂、セラミックス、金属等の材料の電気特性、機械的特性、熱特性等の物理特性の向上に適した添加剤、あるいは、燃料、潤滑剤等の液体の電気特性、熱特性等の物理特性向上に適した添加剤として利用可能であり、特に、材料の透過率を維持したまま種々の物理特性を発揮する添加剤として利用可能な炭素繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細炭素繊維を製造する方法として、ベンゼン、トルエン又はキシレン等の炭素源となる炭化水素を気相中で熱分解する気相成長法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体が開示されており、粉体電気抵抗値が優れていることが記載されているが、さらに優れた粉体電気抵抗値を示す炭素繊維構造体が求められていた。
【0004】
また、導電性の透明膜としたときに、より透明性が優れた導電膜を作製できる炭素繊維構造体が求められていた。
【0005】
また、特許文献2には少なくとも2種類の炭素源を用いる気相法炭素繊維の製造法が開示されているが、得られた炭素繊維の粉体電気抵抗値の点で未だ満足できるものではなかった。
【特許文献1】特許第3720044号公報
【特許文献2】特開2004−339676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、極めて優れた電気特性、熱特性、機械特性、及び圧縮復元密度を発現し、導電性の透明膜としたときに、より透明性が優れた導電膜を作製できる微細炭素繊維構造体及びその製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、炭素繊維と粒状部とを有する微細炭素繊維構造体であって、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合されており、また、炭素繊維の外径のメディアン径をDとし、粒状部の面積基準の円相当メディアン径をDとしたときに、D/Dが1.3〜10であり、Dが0.05〜0.4μmであり、炭素繊維メディアン長さが20μm以下であり、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している炭素繊維構造体を提供するものである。
【0008】
更に、本発明は、メタン、ベンゼン、触媒及び水素を反応炉内に供給する気相法炭素繊維の製法であって、反応炉内に供給するガス組成中のメタン/ベンゼンのモル比が1を超え100以下であり、かつ反応炉に供給するガス組成中の水素容積率(水素容積率は0℃の値)が10%以上、100%未満である、下記の要件(以下、「本発明の微細炭素繊維構造体の要件」という)を満たす微細炭素繊維構造体の製法を提供するものである。
〔微細炭素繊維構造体〕
炭素繊維と粒状部とを有する微細炭素繊維構造体であって、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合されており、また、炭素繊維の外径のメディアン径をDとし、粒状部の面積基準の円相当メディアン径をDとしたときに、D/Dが1.3〜10であり、Dが0.05〜0.4μmであり、炭素繊維メディアン長さが20μm以下であり、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している炭素繊維構造体。
【0009】
なお、本発明において、反応炉とは、触媒を核として炭素繊維と粒状部を生成及び成長させる炉のことをいう。
更に、本発明は、メタン、トルエン及び/又はキシレン、触媒並びに水素を反応炉内に供給する気相法炭素繊維の製法であって、反応炉内に供給するガス組成中のメタン/(トルエン及び/又はキシレン)のモル比が1を超え100以下であり、かつ反応炉内に供給するガス中組成中の水素容積率が70%以上、100%未満である、「本発明の微細炭素繊維構造体の要件」を満たす微細炭素繊維構造体の製法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極めて優れた電気特性、熱特性、機械特性、及び良好な圧縮復元密度を発現する微細炭素繊維構造体及びその製法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
(1)微細炭素繊維構造体
本発明の微細炭素繊維構造体は、「本発明の微細炭素繊維構造体の要件」を満たすものであるが、この要件を満たした場合に、微細炭素繊維構造体は本発明が所望する極めて良好な粉体電気抵抗値を達成することができる。
【0012】
本発明の微細炭素繊維構造体は、図1に示すように炭素繊維と粒状部とを有し、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合された構造を有する微細炭素繊維構造体であって、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ、図2に示すように、炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続していることが、本発明の炭素繊維構造体が所望する極めて良好な粉体電気抵抗値を達成するために必須の特徴である。
【0013】
また、少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合された構造を有するため、炭素繊維構造体の集合体の圧縮復元密度(炭素繊維構造体の集合体を圧縮後、圧力を開放したときに回復した嵩密度をいう)が低い数値を示し、圧力解放後の嵩密度の復元力が高いものである。即ち圧力解放後に炭素繊維構造体は疎な構造に回復する。
【0014】
本発明の炭素繊維構造体の特徴の一つはD/Dが1.3〜10の範囲にあることであるが、好ましくは3〜10である。
【0015】
本発明が所望する良好な粉体電気抵抗値を実現するために、Dは0.05〜0.4μmの範囲であることが必要であるが、好ましくは0.1〜0.4μmである。
【0016】
また、本発明の炭素繊維構造体において、粒状部の円形度のメディアン値は好ましくは0.5以上、1未満、より好ましくは0.6以上、1未満、特に好ましくは0.7以上、1未満であることが、従来の技術では達成することができなかった、本発明の所望の粉体電気抵抗値を達成するために望ましい。
【0017】
さらに、本発明の微細炭素繊維構造体は粒状部が炭素繊維より結合されたものであり、当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、微細炭素繊維構造体の嵩密度が1×10−3〜5×10−2g/cmであることが好ましい。嵩密度が1×10−3g/cm以下の場合に、少量添加によって、樹脂等のマトリックスの物性を改善することができるため好ましい。また、圧縮復元密度は例えば0.1〜0.5g/cmのように極めて優れた数値を示すことができる。
【0018】
また、本発明の微細炭素繊維構造体は、粒状部が炭素繊維を通じて互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も極めて優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.009Ω・cm以下、より好ましくは、0.001〜0.008Ω・cmである。粉体抵抗値が0.009Ω・cm以下の場合に、樹脂等のマトリックスに配合された際に、良好な導電パスを形成することができるため好ましい。
【0019】
本発明の微細炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比(I/I比はアルゴンレーザーの514nmにてラマン分光分析した測定値より算出)が、好ましくは0.1以下である。
【0020】
ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められる。
【0021】
さらに、微細炭素繊維構造体の酸化温度は670℃以上であることが好ましい。前記したように微細炭素繊維構造体において欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱安定性を有するものとなる。
【0022】
(2)微細炭素繊維構造体の製法
次に本発明に係る微細炭素繊維構造体の製法について説明する。
【0023】
(2-1)メタン及びベンゼンを熱分解反応系の炭素源とする場合
メタン、ベンゼン、触媒及び水素を反応炉内に供給する場合において、反応炉内に供給する、換言すれば反応炉の入り口のガス組成中のメタン/ベンゼンのモル比が1を超え100以下、好ましくは1.1〜50、より好ましくは2〜30とし、そして反応炉に供給するガス組成中の水素容積率が10%以上、100%未満、好ましくは15〜95%、より好ましくは20〜90%となるように制御することにより「本発明の微細炭素繊維構造体の要件」を満たす微細炭素繊維構造体を得ることができる。
【0024】
この場合において、反応炉に供給されるメタンは、反応炉より排出される排ガス中に含まれるメタンを循環使用することができる。
【0025】
すなわち、原料ガスとしてメタンとベンゼンを使用した場合、その排ガス中には、未反応のメタンが比較的多く残存し、導入ガス中のメタン/ベンゼン比(理論値)と比較して、メタンリッチなガスとなっているため、メタン供給源として十分活用することが可能であるためである。このように、排ガスを循環使用することは、後述するようなキャリアガスとしての水素ガス等の使用量も節約でき、かつ系外への排ガスの排出量が低減できるために環境問題上でも好ましいものである。
【0026】
このように、排ガスを循環使用する場合には、好ましくは、反応炉より導出された排ガス中より、バグフィルターなどの公知の集塵装置を用いて固形分を除去し、さらにコンデンサ等にて冷却、例えば、−20〜40℃程度に冷却して、含有されるタール分等を除去したのち、ガス成分を分析、好ましくはリアルタイムに分析し、所期のガス組成となるように流量を調節して、新鮮な原料ガスと混合されることが望ましい。
【0027】
なお、雰囲気ガスには水素、およびアルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスを使用することができるが、水素を含有することが必須である。
【0028】
この場合において、反応炉に供給される水素は、反応炉より排出される排ガス中に含まれる水素を循環使用することができる。
【0029】
また、触媒としては、(a)鉄、コバルト、モリブデン等の遷移金属、フェロセン又は遷移金属の酢酸塩等の遷移金属化合物と、(b)硫黄、チオフェン又は硫化鉄等の硫黄化合物との混合物を使用することができる。
【0030】
微細炭素繊維構造体の中間体の合成は、原料となるメタン及びベンゼン及び触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。炭素源、触媒及び水素を反応炉へ供給する場合、空塔速度(Space Velocity、反応炉内ガス流量/反応炉断面積、ここで反応炉内ガス流量は温度0℃、圧力1atmにおける原料ガス、触媒ガス及び水素を含む全ガスの流量をいう)は0.05〜0.2Nm/secとすることが、「本発明の微細炭素繊維構造体の要件」を満たす微細炭素繊維構造体を得る観点より好ましい。
【0031】
原料となるメタン及びベンゼンの熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する微細炭素繊維構造体の中間体において、2つの粒状が微細炭素繊維により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。たとえば触媒として遷移金属化合物とイオウ化合物を使う場合はイオウ化合物/遷移金属化合物のモル比は好ましくは0.01〜10、より好ましくは0.05〜7、さらに好ましくは0.1〜5とすることができる。
【0032】
なお、微細炭素繊維構造体の中間体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
【0033】
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維構造体の中間体の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維構造体の中間体の製造用の金属触媒微粒子として利用される。
【0034】
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成され、炭素化合物の分解反応サイトである金属触媒表面の面積が大きくなるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所望の形状を有する微細炭素繊維構造体の中間体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、前駆体の粒状部を形成しているものとも思われる。
【0035】
反応炉の原料ガス供給口近傍において、特に金属触媒微粒子の生成・形成領域とされる反応速度論によって導かれる400〜1000℃の温度範囲において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、例えば、原料ガスが旋回流で反応炉内に導入する手段や原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
【0036】
さらに、400〜1000℃において、金属触媒微粒子の生成・形成後、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた微細炭素繊維構造体の中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した微細炭素繊維構造体の中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0037】
従って、このような微細炭素繊維構造体の中間体からこれら残留物を除去し、粒状部には欠陥が少なく、炭素繊維部には適度な欠陥を有する所期の前駆体を得るために、適切な方法で1800〜2800℃の高温熱処理を行う。
【0038】
すなわち、例えば、この微細炭素繊維構造体の中間体を800〜1300℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、1800〜2800℃の高温でアニール処理することによって所期の前駆体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、酸化反応を防ぐために不活性ガス雰囲気中あるいは少量の還元性ガスを添加してもよい。
【0039】
なお、前記微細炭素繊維構造体の中間体を1800〜2800℃の温度範囲でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成し、炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している。この時、アニール処理温度が、1800℃以下であると欠陥部が多く存在することとなり、所望の導電性能等の物性が得られない虞れがある。
【0040】
(2-2)メタン並びにトルエン及び/又はキシレンを熱分解反応系の炭素源とする場合
メタン、トルエン及び/又はキシレンを供給する場合において、反応炉内に供給する、換言すれば反応炉の入り口のガス組成中のメタン/(トルエン及び/又はキシレン)のモル比が1を超え100以下、好ましくは1.1〜50、より好ましくは2〜30とし、そして反応炉に供給するガス組成中の水素容積率が70%以上、100%未満、好ましくは75〜95%、より好ましくは78〜90%となるように制御することにより「本発明の微細炭素繊維構造体の要件」を満たす微細炭素繊維構造体を得ることができる。
【0041】
反応炉に供給するガス組成中の水素容積率以外は、前記の(2-1)メタン及びベンゼンを熱分解反応系の炭素源とする場合の項で述べた記載が、本項のメタン並びにトルエン及び/又はキシレンを熱分解反応系の炭素源とする微細炭素繊維構造体の製法にも適用することができる。
【0042】
なお、原料ガスとしてメタンとトルエン及び/又はキシレンを使用した場合にも、前記の(2-1)の項で述べた場合と同様、その排ガス中には、未反応のメタンが比較的多く残存し、導入ガス中のメタン/ベンゼン比(理論値)と比較して、メタンリッチなガスとなっており、反応炉に供給されるメタンとしては、反応炉より排出される排ガス中に含まれるメタンを循環使用することができる。反応炉に供給される水素としても、反応炉より排出される排ガス中に含まれる水素を循環使用することができる。
【0043】
なお、本発明において、各物性値は次のようにして測定される。
【0044】
<炭素繊維の外径のメディアン径D
本発明の炭素繊維構造体の写真をSEM(倍率1000〜5000倍)で撮影した。得られたSEM写真に基づき、各炭素繊維構造体における1本の繊維について繊維が延出する方向に対して垂直の方向から画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いて繊維の太さを求め、これを数値化し炭素繊維の外径のメディアン径D1とした。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80本程度)を全て用い、3視野で約200本の繊維を対象とした。
【0045】
<炭素繊維のメディアン長さ>
本発明の炭素繊維構造体の写真をSEM(倍率1000〜5000倍)で撮影した。得られたSEM写真に基づき、各炭素繊維構造体における粒状部の中心部から延出する微細炭素繊維の末端までを含めた微細炭素繊維の長さを画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いて求め、これを数値化し炭素繊維のメディアン長さとした。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80本程度)を全て用い、3視野で約200本の繊維を対象とした。
【0046】
<粒状部の面積基準の円相当メディアン径D及び円形度のメディアン値>
炭素繊維構造体の写真をSEM(倍率1000〜5000倍)で撮影し、得られたSEM写真に基づき、微細炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の面積基準の円相当メディアン径D2を計算し、これを数値化して炭素繊維構造体の各粒状部の面積基準の円相当メディアン径D2とした。
【0047】
また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度のメディアン値を求めこれを数値化した。
【0048】
(数1)
R=A×4π/L
この場合、粒状部の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、1視野で対象とできる粒状部(60〜80個程度)を全て用い、3視野で約200個の粒状部を対象とした。
【0049】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出する。
【0050】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定する。
【0051】
<酸化温度>
マックスサイエンス製TG−DTAを用い、炭素繊維構造体を約10mg秤量し、アルミナ坩堝に入れて、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、炭素繊維構造体の酸化温度を測定した。DTAの発熱ピークトップの温度を酸化温度として求める。
【0052】
<粉体電気抵抗及び復元性>
微細炭素繊維構造体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40L、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.2、0.8及び0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定する。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。
(実施例1〜4、比較例1)
CVD法によって、図3に示す反応炉を用い、表1に示す炭素源を使用して、表1に示す条件にて、微細炭素繊維構造体を合成した。
【0054】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物(チオフェン/フェロセンの質量比=1/4、即ちS/Feの原子比=0.55)を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。メタン、芳香族炭化水素、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、反応炉に供給し、1300℃で熱分解して、微細炭素繊維構造体の第一中間体を得た。
【0055】
なお、用いられた反応炉1は、図3に示すように、その上端部に、炭素源、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを反応炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた反応炉1では、導入ノズル2の内径a、反応炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、反応炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から反応炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。
【0056】
合成された第一中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなど分離し、第二中間体を得た。
【0057】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた微細炭素繊維構造体を気流粉砕機にて粉砕し、微細炭素繊維構造体(アニール品)を得た。実施例1にて得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したTEM写真を図1及び2に示す。
【0058】
それぞれの微細炭素繊維構造体につき、粉体電気抵抗値を測定した結果、表1に示す結果が得られた。実施例1〜4において、従来技術で実現できなかった極めて優れた粉体電気抵抗値の結果が得られた。
【0059】
なお、表1には、粉体電気抵抗値以外の上述したような各物性値についても、測定した結果を合わせて示す。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1において得られた微細炭素繊維構造体(アニール品)のTEM写真である。
【図2】実施例1において得られた微細炭素繊維構造体(アニール品)のTEM写真である。
【図3】実施例及び比較例において使用された反応炉である。
【符号の説明】
【0062】
1 反応炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 反応炉の内径
c 衝突部の内径
d 反応炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から反応炉の下端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と粒状部とを有する微細炭素繊維構造体であって、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合されており、また、炭素繊維の外径のメディアン径をDとし、粒状部の面積基準の円相当メディアン径をDとしたときに、D/Dが1.3〜10であり、Dが0.05〜0.4μmであり、炭素繊維メディアン長さが20μm以下であり、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している炭素繊維構造体。
【請求項2】
粒状部の円形度のメディアン値が0.5以上、1未満である請求項1に記載の炭素繊維構造体。
【請求項3】
嵩密度が1×10−3〜5×10−2g/cmである請求項1又は2に記載の炭素繊維構造体。
【請求項4】
圧縮復元密度が0.1〜0.5g/cmである請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維構造体。
【請求項5】
/I比(I/I比はアルゴンレーザーの514nmにてラマン分光分析した測定値より算出)が、0.1以下である請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維構造体。
【請求項6】
メタン、ベンゼン、触媒及び水素を反応炉内に供給する気相法炭素繊維の製法であって、反応炉内に供給するガス組成中のメタン/ベンゼンのモル比が1を超え100以下であり、かつ反応炉に供給するガス組成中の水素容積率が10%以上、100%未満である、下記の要件を満たす微細炭素繊維構造体の製法。
〔微細炭素繊維構造体〕
炭素繊維と粒状部とを有する微細炭素繊維構造体であって、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合されており、また、炭素繊維の外径のメディアン径をDとし、粒状部の面積基準の円相当メディアン径をDとしたときに、D/Dが1.3〜10であり、Dが0.05〜0.4μmであり、炭素繊維メディアン長さが20μm以下であり、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している炭素繊維構造体。
【請求項7】
メタン、トルエン及び/又はキシレン、触媒並びに水素を反応炉内に供給する気相法炭素繊維の製法であって、反応炉内に供給するガス組成中のメタン/(トルエン及び/又はキシレン)のモル比が1を超え100以下であり、かつ反応炉内に供給するガス中組成中の水素容積率が70%以上、100%未満である、下記の要件を満たす微細炭素繊維構造体の製法。
〔微細炭素繊維構造体〕
炭素繊維と粒状部とを有する微細炭素繊維構造体であって、当該構造体において少なくとも2つの粒状部が炭素繊維で結合されており、また、炭素繊維の外径のメディアン径をDとし、粒状部の面積基準の円相当メディアン径をDとしたときに、D/Dが1.3〜10であり、Dが0.05〜0.4μmであり、炭素繊維メディアン長さが20μm以下であり、粒状部は炭素繊維の成長過程で形成されたものであり、かつ炭素繊維と粒状部とは少なくとも表面においてグラフェン層が連続している炭素繊維構造体。
【請求項8】
反応炉内に導入されたガス温度が400〜1000℃の領域において、ガスに乱流を生じさせる請求項6又は7のいずれかに記載の炭素繊維構造体の製法。
【請求項9】
反応炉に供給されるメタンが、反応炉より排出される排ガス中に含まれるメタンを循環使用することにより供給されるものである請求項6〜8のいずれかに記載の微細炭素繊維構造体の製法。
【請求項10】
反応炉に供給される水素が、反応炉より排出される排ガス中に含まれる水素を循環使用することにより供給されるものである請求項6〜9のいずれかに記載の微細炭素繊維構造体の製法。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−239148(P2007−239148A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64102(P2006−64102)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】