説明

微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法及びその製造装置

【課題】 本発明は、溶融エレクトロスピニング法によって、溶剤を使用することなく、繊維径が500nm以下の微細熱可塑性樹脂繊維を製造する方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂糸を溶融エレクトロスピニングする微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法であって、先端部がターゲット方向に向けられた導電性筒状ノズルに熱可塑性樹脂糸を挿通し、該導電性筒状ノズルの先端部出口よりターゲット側の位置で熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱溶融すると共に導電性筒状ノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように高電圧を印加することを特徴とする微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法及びその製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂糸を溶融エレクトロスピニングする微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法及びそれに使用する微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ナノファイバーと呼ばれる繊維径がナノオーダーの微細繊維は表面積が非常に大きく、電池セパレーター、電磁波シールド材、フィルター、人工皮革、人工血管、細胞培養基材、ICチップ、有機EL、太陽電池等の用途に期待されている。
【0003】
しかし、ナノファイバーは繊維径がナノオーダーと非常に細いため、普通の繊維を製造する紡糸方法では製造することができないので、最近、エレクトロスピニング法により製造することが盛んに研究されている。
【0004】
エレクトロスピニング法としては、ポリマーを溶剤に溶解したポリマー溶液をノズルからターゲットに向けて垂らすと共にノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように5〜100kVの高電圧を印加する方法が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】加工技術 Vol.40,No.2(2005)101〜103
【非特許文献2】加工技術 Vol.40,No.3(2005)167〜171
【0005】
しかしながら、上記エレクトロスピニング法は溶液エレクトロスピニング法であり、ポリマーを溶解した溶剤がエレクトロスピニングする際に蒸発する。そのため、この方法でナノファイバーを製造するには蒸発した溶剤を回収しなければならず、巨大な溶剤回収装置が必要であり、製造コストが高くなるという欠点があった。
【0006】
これらの欠点を解消するために、溶剤を使用することなく、熱可塑性樹脂を加熱溶融してエレクトロスピニングする、所謂、溶融エレクトロスピニング法が研究されている。この方法としては、例えば、溶融押出機のノズル側をアースに接地し、ターゲット側をプラスにし、溶融押出機で溶融熱可塑性樹脂を押出すと共に10〜15kVの高電圧を印加する方法、ノズルの先端をヒートガンで加熱する溶融エレクトロスピニング法、真空中で溶融エレクトロスピニングする法等が提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【非特許文献3】加工技術 Vol.40,No.11(2005)720〜726
【0007】
しかし、上記溶融エレクトロスピニング法では、溶融粘度が溶液に比べて非常に高いため及び溶媒を含まないので溶媒の蒸発によるポリマーの細分化が起こらないため、繊維径が500nm以上の比較的太い繊維しか得られず、溶融エレクトロスピニング法によって、繊維径が500nm以下の微細繊維の製造方法の開発が待たれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、溶融エレクトロスピニング法によって、溶剤を使用することなく、繊維径が500nm以下の微細熱可塑性樹脂繊維を製造する方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法は、熱可塑性樹脂糸を溶融エレクトロスピニングする微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法であって、先端部がターゲット方向に向けられた導電性筒状ノズルに熱可塑性樹脂糸を挿通し、該導電性筒状ノズルの先端部出口よりターゲット側の位置で熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱溶融すると共に導電性筒状ノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように高電圧を印加することを特徴とする。
【0010】
本発明で使用される熱可塑性樹脂糸は、熱可塑性樹脂で製造された糸であれば、特に限定されず、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン―酢酸ビニル共重合体、エチレン―(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン―塩化ビニル共重合体、エチレン―プロピレン―ブテン共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン等が挙げられ、オレフィン系樹脂が好ましく、より好ましくはポリプロピレン樹脂である。
【0011】
熱可塑性樹脂糸の直径は、熱可塑性樹脂糸の先端部が瞬間的に加熱溶融される必要があるので1.0mm以下が好ましく、熱可塑性樹脂糸を挿通する導電性筒状ノズルの内径とのかねあいもあるが、0.3〜0.8mmがより好ましい。
【0012】
本発明で使用される導電性筒状ノズルは、高電圧を印加すると共に熱可塑性樹脂糸を挿通することにより、熱可塑性樹脂糸にプラスの高電圧を与え、溶融した熱可塑性樹脂糸がマイナスに帯電したターゲット表面にスプレーされる過程で微細繊維化する。
【0013】
従って、導電性筒状ノズルは良導電性の材料で形成されるのが好ましく、例えば、銅、鉄、ステンレススチール、金、銀、しんちゅう等が挙げられ、その形状は熱可塑性樹脂糸を挿通しうる形状であればよく、例えば、円筒状、楕円筒状、角柱状等が挙げられ、円筒状が好ましい。
【0014】
又、導電性筒状ノズルの内径は、熱可塑性樹脂糸が挿通可能であれば、特に限定されるものではないが、導電性筒状ノズルから熱可塑性樹脂糸全体に均一にプラスの高電圧を与えることができるように、熱可塑性樹脂糸が導電性筒状ノズルの内壁に接触することなく且つ狭い間隔で挿通されるのが好ましいので0.1〜1.0mmが好ましく、且つ、熱可塑性樹脂糸と導電性筒状ノズルの内壁の間隔が0.05〜0.2mmに設定されるのが好ましい。
【0015】
導電性筒状ノズルの長さは、短すぎても長すぎても導電性筒状ノズルから熱可塑性樹脂糸全体に均一にプラスの高電圧を与えることができにくくなるので、10〜50mmが好ましく、より好ましくは15〜30mmである。
【0016】
本発明で使用されるターゲットは、高電圧を印加する際にマイナス電極になり、製造された微細繊維がその表面に堆積されるのであるから、導電性を有する板状体が好ましく、例えば、銅板、鉄板、ステンレススチール板、金板、銀板、しんちゅう板、アルミニウム板、これらの導電性板とアルミニウム箔の積層板等が挙げられる。又、連続的に微細繊維を得るには、上記導電性板をベルト化し、ロールで回転するようにしてもよい。
【0017】
本発明においては、導電性筒状ノズルは先端部がターゲット方向に向けられており、熱可塑性樹脂糸を導電性筒状ノズルの後端部から先端部方向に挿通する。熱可塑性樹脂糸を導電性筒状ノズルに供給する速度は、遅すぎると放電が起きやすくなり、速すぎると熱可塑性樹脂糸を加熱溶融することが困難になり、微細繊維を得ることができなくなるので、1〜20cm/分が好ましい。
【0018】
導電性筒状ノズルに挿通された熱可塑性樹脂糸は、導電性筒状ノズルの先端部出口からターゲット方向に出てくるので、導電性筒状ノズルの先端部出口よりターゲット側の位置で出てきた熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱溶融する。
【0019】
熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱溶融する位置は、導電性筒状ノズルの先端部出口より遠くなると熱可塑性樹脂糸を微細化しにくくなるので、導電性筒状ノズルの先端部出口に近いほうが好ましいが、近くなりすぎると溶融された熱可塑性樹脂が導電性筒状ノズルの先端部に付着し、熱可塑性樹脂糸を導電性筒状ノズルに挿通できなくなり、微細化できなくなるので、導電性筒状ノズルの先端部出口から3mm以内が好ましく、より好ましくは2〜3mmの間である。
【0020】
熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱する方法は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂糸の先端部より導電性筒状ノズル側が加熱溶融されると、溶融された熱可塑性樹脂が導電性筒状ノズルの先端部に付着し、熱可塑性樹脂糸を導電性筒状ノズルに挿通できなくなり、微細化できなくなるので、熱可塑性樹脂糸の先端部がスポット加熱されるのが好ましい。
【0021】
又、熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱すると共に導電性筒状ノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように高電圧を印加する。熱可塑性樹脂糸にプラスの高電圧を与えることにより、溶融した熱可塑性樹脂糸が微細繊維化し、マイナスに帯電したターゲット表面にスプレーされ微細熱可塑性樹脂繊維が得られる。
【0022】
印加電圧は、低いと溶融した熱可塑性樹脂糸が微細繊維化せず、高すぎると導電性筒状ノズルとターゲットの間で放電して熱可塑性樹脂糸が微細繊維化しなくなるので5〜100kVが好ましく、より好ましくは10〜50kVである。
【0023】
請求項7記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置は、上記微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法のおいて好適に使用される製造装置であり、ターゲット、先端部がターゲット方向に向けられた導電性筒状ノズル、ノズル出口のターゲット側に設置された熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱するためのスポット加熱装置及び、導電性筒状ノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように高電圧を印加するための高電圧発生器よりなることを特徴とする。
【0024】
次に、本発明の微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置を図面を参照して説明する。図1は本発明の微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置の一例を示す模式図である。
【0025】
図中1はターゲットであり、ステンレススチール板の表面にアルミニウム箔が積層された長尺板状体の両端部が接続されて無端ベルト11となされ、ロール12、12で回転可能になされている。2はステンレススチール製導電性筒状ノズルであり、フッ素樹脂製の保持具3により保持固定されている。導電性筒状ノズルは内径0.8mm、長さ15mmであり、その先端部がターゲット1方向にむけて10cmの間隔で固定されている。
【0026】
ターゲット1と導電性筒状ノズル2の先端部の間隔は近すぎると放電が起こり、熱可塑性樹脂糸に電荷を負荷できなくなり、遠すぎると微細化された熱可塑性樹脂繊維がターゲット1に付着しなくなるので5〜15cmが好ましい。
【0027】
4は高電圧発生器であり、導電性筒状ノズル2がプラス電極になり、ターゲット1がマイナス電極になるように高電圧を印加することができるように、導電性筒状ノズル2及びターゲット1と電気的に接続されている。
【0028】
5はスポット加熱装置であり、ノズル出口から2mmターゲット側の熱可塑性樹脂糸に焦点があうように設置されており、ノズル出口から2mm出てきた熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱できるように設置されている。スポット加熱装置5は熱可塑性樹脂糸を瞬間的に加熱溶融する必要があるので、近赤外線集光型加熱装置が好ましく、このような近赤外線集光型加熱装置としては、例えば、ハイベック社から商品名「HEAT BEAM HYS」として市販されている。
【0029】
又、6は熱可塑性樹脂糸の供給ロールであり、駆動具(図示せず)により一定速度で回転可能になされており、熱可塑性樹脂糸7を一定速度で導電性筒状ノズル2に供給可能になされている。
【0030】
従って、供給ロール6から供給された熱可塑性樹脂糸7は、導電性筒状ノズル2に挿通され、高電圧発生器4によりプラス電荷が印加されると共に、導電性筒状ノズル2の先端部出口でスポット加熱装置5によりその先端部が加熱溶融され、その結果、微細繊維化されてマイナスに帯電したターゲット1表面上にスプレーされ、微細熱可塑性樹脂繊維が得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法の構成は上述の通りであり、溶融エレクトロスピニング法によって、溶剤を使用することなく、繊維径が500nm以下の微細熱可塑性樹脂繊維を容易に製造するすることができる。
【0032】
又、本発明の微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置の構成は上述の通りであり、溶融エレクトロスピニング法によって、溶剤を使用することなく、繊維径が500nm以下の微細熱可塑性樹脂繊維を容易に製造するすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に本発明の実施例を図面を参照して説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0034】
図1に示した微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置に使用し、導電性筒状ノズル2に太さ0.7mm、長さ20cmのポリプロピレン糸を挿通し、送り速度8cm/分の速度で供給した。
【0035】
スポット加熱装置5は近赤外線集光型加熱装置(ハイベック社製、商品名「HEAT BEAM HYS」)であり、ノズル2出口から2mmターゲット1側のポリプロピレン糸の先端部を500℃に加熱すると共に高電圧発生器4により導電性筒状ノズル2がプラス、ターゲット1がマイナスになるように13kVの電圧を印加したところターゲット1表面上に微細ポリプロピレン繊維が得られた。得られた微細ポリプロピレン繊維を電子顕微鏡で観察したところ、太さは100nm〜10μmであり、長さは3cm以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ターゲット
2 導電性筒状ノズル
3 保持具
4 高電圧発生器
5 スポット加熱装置
6 供給ロール
7 熱可塑性樹脂糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂糸を溶融エレクトロスピニングする微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法であって、先端部がターゲット方向に向けられた導電性筒状ノズルに熱可塑性樹脂糸を挿通し、該導電性筒状ノズルの先端部出口よりターゲット側の位置で熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱溶融すると共に導電性筒状ノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように高電圧を印加することを特徴とする微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項2】
導電性筒状ノズルは内径が0.5〜1mm、長さが10〜30mmであることを特徴とする請求項1記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂糸の直径が1.0mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂糸の導電性筒状ノズルへの供給速度が1〜20cm/分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項5】
印加電圧が5〜100kVであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項6】
導電性筒状ノズルの先端部出口から3mm以内の位置で熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱溶融することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項7】
ターゲット、先端部がターゲット方向に向けられた導電性筒状ノズル、ノズル出口のターゲット側に設置された熱可塑性樹脂糸の先端部を加熱するためのスポット加熱装置及び、導電性筒状ノズルがプラス電極になり、ターゲットがマイナス電極になるように高電圧を印加するための高電圧発生器よりなることを特徴とする微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置。
【請求項8】
スポット加熱装置が、近赤外線点集光型加熱装置であることを特徴とする請求項7記載の微細熱可塑性樹脂繊維の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−321246(P2007−321246A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149137(P2006−149137)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、「独創的シーズ展開事業(権利化試験)」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(395009145)カトーテック株式会社 (8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】