説明

微細酸化鉄粉末及びその製造方法

【課題】酸化鉄粒子を微細な状態で長期間保持するとともに、その微細酸化鉄粉末を安価に製造する。
【解決手段】マイクロビーズを用いて一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子1と、担体酸化物粒子1に担持された酸化鉄2と、からなる。
一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子1は凝集状態が緩和された粒子であり高分散状態を形成できるので、それに担持された酸化鉄2も高分散となり粒成長が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒などに用いられる微細な酸化鉄粉末とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安定な酸化鉄としては、黒色の Fe3O4と赤茶色の Fe2O3が知られ、粉末状態として磁性体原料、顔料、研磨材、触媒などの用途に広く用いられている。しかし酸化鉄粒子は、単独では凝集して粗大粒子になりやすく、触媒として用いた場合には表面積の低下によって活性が低下するという不具合があった。
【0003】
この問題を解決するために、例えば特開平06−116504号公報には、面積平均径が 0.1〜 1.0μmの酸化鉄粒子粉末にAl、Zrなどの酸化物を付着させてなる酸化鉄粒子粉末が提案されている。しかし酸化鉄粒子の表面がAl、Zrなどの酸化物で覆われるために、酸化鉄としての表面効果が低下するため、触媒として用いる場合には実用的でない。
【0004】
また酸化鉄に比べて凝集しにくい他の酸化物を担体とし、その担体に酸化鉄を担持して用いることも行われている。例えば特開平11−123330号公報には、アルミナ、ジルコニアなどの酸化物担体にIr、Pt、Rh、Pd、Ag、Co、Cu、Ni、Fe、Mg及びランタニド元素からなる群より選択される少なくとも一種の元素を0.01〜10重量%担持させた排ガス浄化触媒が開示されている。担持されたFeは、使用中に酸化されて酸化鉄となると考えられる。
【0005】
ところが酸化物担体に酸化鉄を担持した場合には、高温雰囲気下では担持されている酸化鉄どうしが粒成長して粗大化し、活性が低下するのが免れない。例えば上記公報に記載された触媒では、図2に示すように、Fe2は酸化物担体の一次粒子1が凝集してなる二次粒子の表面に担持されている。二次粒子は表面積が比較的小さいため、所定量の酸化鉄を担持した場合には酸化鉄粒子どうしの距離が近くなって粒成長しやすくなる。
【0006】
また特開平09−262473号公報には、アルミナ、チタニアなどの母材に、粒径10〜1000Åの Fe2O3と、粒径10〜1000ÅのPtとを担持してなる光触媒が記載されている。この光触媒によれば、可視領域の光を照射すると粒径10〜1000Åの微粒子状の Fe2O3によって水が分解され水素が発生する。Ptは水素発生反応の助触媒として働く。
【0007】
しかし母材上に Fe2O3を粒径10〜1000Åの微粒子として担持するには、上記公報には鉄をターゲットとするスパッタリングによって行う旨の記載があり、一般的な担持方法に比べて装置が大がかりとなるとともに工数が多大となるため、高価な触媒となってしまう。
【特許文献1】特開平06−116504号
【特許文献2】特開平11−123330号
【特許文献3】特開平09−262473号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化鉄粒子を微細な状態で長期間保持することを解決すべき課題とする。また本発明のもう一つの目的は、そのような微細酸化鉄粉末を安価に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の微細酸化鉄粉末の特徴は、一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子と、担体酸化物粒子に担持された酸化鉄と、からなることにある。
【0010】
担体酸化物粒子は、平均粒径が1〜 100nmであることが好ましい。また担体酸化物粒子は、セリア及びジルコニアの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0011】
そして本発明の微細酸化鉄粉末の製造方法の特徴は、マイクロビーズを用い担体酸化物を一次粒子レベルまで粉砕して微細な担体酸化物粒子を調製する分散工程と、担体酸化物粒子に鉄イオンを担持した後に焼成して酸化鉄を担持する担持工程と、を行うことにある。
【0012】
分散工程は湿式で行うことが望ましい。またマイクロビーズは、担体酸化物に含まれる少なくとも一種の金属の酸化物からなることが好ましい。さらに、分散工程は液体中で行うことで微細な担体酸化物粒子が分散した分散液を調製し、担持工程は分散液中に鉄イオンを溶解し蒸発乾固した後に、又はpH調整により沈殿物を生成した後に、焼成することが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微細酸化物粉末によれば、一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子は凝集状態が緩和された粒子であり高分散状態を形成できるので、それに担持された酸化鉄も高分散となり粒成長が抑制される。また担持されている酸化鉄が拡散障壁となるために、担体酸化物粒子どうしの凝集も抑制される。したがって担体酸化物粒子に酸化鉄が担持された粒子が集合してなる本発明の微細酸化物粉末は、粗大化が抑制され微細な状態を長期間維持することができる。
【0014】
そして本発明の製造方法によれば、マイクロビーズを用いて担体酸化物粒子を一次粒子レベルまで粉砕し、それに酸化鉄を担持するだけであるので、スパッタリングなどを用いる必要なく安価に、かつ安定して微細酸化物粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の微細酸化物粉末では、一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子に酸化鉄が担持されている。この状態は、図1に示すように、担体酸化物粒子の微細な一次粒子1それぞれの表面に酸化鉄2が略層状に担持された状態である。
【0016】
一方、通常状態の担体酸化物は、図2に示すように、一次粒子1が凝集してなる二次粒子の状態で存在している。したがって、それに酸化鉄を担持すると、酸化鉄2は二次粒子の表面に略層状に担持される。ここで図1と図2の一次粒子1の量を同量とし、酸化鉄2の担持量を同量とした場合、担体酸化物の表面積は一次粒子1が分散状態にある図1の方が大きいので、酸化鉄2の担持密度は図1の方が低くなる。したがって図1の本発明の場合には、担持されている酸化鉄どうしの距離が大きく、酸化鉄どうしの粒成長が抑制される。
【0017】
さらに担持されている酸化鉄2が拡散障壁となるために、一次粒子1どうしの凝集も抑制される。したがって本発明の微細酸化物粉末は、粗大化が抑制され微細な状態を長期間維持することができる。
【0018】
担体酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、シリカ、ゼオライトなどから選ばれる一種あるいは複数種、又はこれらから選ばれる複数種からなる複合酸化物を用いることができる。鉄との相互作用に優れているという意味から、セリア及びジルコニアの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0019】
酸化鉄としては、 Fe3O4及び Fe2O3のどちらも用いることができるが、触媒として用いる場合には Fe2O3が好ましい。この酸化鉄の担持量は、2〜30重量%の範囲とすることが好ましい。担持量が2重量%未満であると酸化鉄としての機能の発現が困難となり、30重量%を超えて担持すると酸化鉄どうしが粗大化しやすく微細な状態を維持することが困難となる。
【0020】
担体酸化物を一次粒子レベルまで微細化するには、レーザー粉砕などを用いることもできるが、直径が30〜 100μm程度のマイクロビーズを用いるのが簡便であり安価である。また一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物を安定して保持し、再凝集を抑制するためには、乾式粉砕より湿式粉砕を用いることが望ましいし、現時点では乾式粉砕は困難である。
【0021】
マイクロビーズを用いる場合、不純物の混入を避けるために、担体酸化物に含まれる少なくとも一種の金属の酸化物からなるマイクロビーズを用いることが望ましい。ジルコニアは粉砕媒体として好適であるので、ジルコニア製のマイクロビーズを用いる場合には、担体酸化物として少なくともジルコニアを用いることが望ましい。なお同様の理由から、粉砕容器も担体酸化物に含まれる少なくとも一種の金属の酸化物からなるものを用いることが望ましい。
【0022】
一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子に酸化鉄を担持するには、先ず鉄イオンを担持した後に焼成して酸化鉄とする。最初から酸化鉄として担持するためには、酸化鉄を微細な担体酸化物粒子以上に微細とする必要があり、粗大化しやすい酸化鉄をそのような微粒子状態とすることは困難であるからである。
【0023】
鉄イオンを担持するには、硝酸鉄など水溶性の鉄塩の水溶液を担体酸化物粒子に接触させて吸着担持する方法、水溶性の鉄塩の水溶液を担体酸化物粉末に含浸させた後に焼成して吸水担持する方法などがある。
【0024】
本発明の製造方法では、分散工程は液体中で行うことで微細な担体酸化物粒子が分散した分散液を調製し、担持工程は分散液中に鉄イオンを溶解し蒸発乾固した後に、又はアンモニア水などでpH調整することで沈殿を生成した後に、焼成することが特に望ましい。この方法によれば、微細な担体酸化物粒子を常に水で保護された状態として酸化鉄を担持できるので、酸化鉄の担持までに担体酸化物粒子どうしが凝集するのを抑制でき、きわめて微細な微細酸化鉄粉末を製造することができる。また分散工程と担持工程を連続的に行うことができるので、生産性が向上する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
CeO2−ZrO2複合酸化物粉末(モル比Ce:Zr=1:1、平均粒子径 320nm、80重量%以上の粒子が粒径 380nmで比表面積が65m2/g)を0.25Lのジルコニア製容器に80g投入し、さらにジルコニア製マイクロビーズ(直径50μm) 400gと、イオン交換水 700gを投入し、6000 rpmにて90分間分散し、最後に酢酸を添加してpHを3とした。これにより平均粒子径が22nm、80重量%以上の粒子が粒径43nm、比表面積が62m2/gであるCeO2−ZrO2複合酸化物粉末のゾル液が得られた。
【0027】
得られたゾル液に所定濃度の硝酸鉄水溶液の所定量を混合し、蒸発乾固後 300℃で3時間焼成して、各CeO2−ZrO2複合酸化物粒子に Fe2O3を担持した。 Fe2O3の担持量は 7.4重量%である。この触媒粉末を圧粉成形した後粉砕し、 0.5〜1mmに整粒してペレット触媒を調製した。
【0028】
(比較例1)
実施例1と同様のCeO2−ZrO2複合酸化物粉末(モル比Ce:Zr=1:1、平均粒子径 320nm、80重量%以上の粒子が粒径 380nmで比表面積が65m2/g)に所定濃度の硝酸鉄水溶液の所定量を含浸させ、実施例1と同様に Fe2O3を担持し、ペレット触媒を調製した。
【0029】
<試験・評価>
各ペレット触媒を評価装置にそれぞれ 1.5g充填し、H2が5%過剰のリッチガスとO2が5%過剰のリーンガスを5分間ずつ交互に流しながら 800℃で5時間保持する耐久試験を行った。耐久試験後の各ペレット触媒について、表1に示すモデルガスを流しながら、 100℃〜 500℃まで12℃/分で昇温させ、その時のC3H6浄化率を連続的に測定した。そしてC3H6を50%浄化できる温度を求め、結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2より、実施例1のペレット触媒は比較例1に比べてC3H6浄化活性が高いことがわかり、これは実施例1の触媒における酸化鉄の表面積が比較例1の触媒より高いことに起因していると考えられる。すなわち一次粒子レベルの微細なCeO2−ZrO2複合酸化物粒子に酸化鉄を担持することで、浄化活性が大幅に向上していることが明らかであり、実施例1の触媒は各粒子どうしの分散性が維持されていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の微細酸化鉄粉末は、自動車の排ガス浄化用触媒の他、分散安定性に優れているので、塗料や化粧品などの顔料、微細研磨材などにも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の微細酸化鉄粉末の粒子構造を示す説明図である。
【図2】酸化物担体に酸化鉄が担持されてなる従来の酸化鉄粉末の粒子構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1:一次粒子 2:酸化鉄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子レベルまで微細化された担体酸化物粒子と、該担体酸化物粒子に担持された酸化鉄と、からなることを特徴とする微細酸化鉄粉末。
【請求項2】
前記担体酸化物粒子は平均粒径が1〜 100nmである請求項1に記載の微細酸化鉄粉末。
【請求項3】
前記担体酸化物粒子はセリア及びジルコニアの少なくとも一方を含む請求項1又は請求項2に記載の微細酸化鉄粉末。
【請求項4】
マイクロビーズを用い担体酸化物を一次粒子レベルまで粉砕して微細な担体酸化物粒子を調製する分散工程と、
該担体酸化物粒子に鉄イオンを担持した後に焼成して酸化鉄を担持する担持工程と、を行うことを特徴とする微細酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項5】
前記分散工程は湿式で行う請求項4に記載の微細酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロビーズは前記担体酸化物に含まれる少なくとも一種の金属の酸化物からなる請求項4又は請求項5に記載の微細酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項7】
前記分散工程は液体中で行うことで微細な担体酸化物粒子が分散した分散液を調製し、前記担持工程は該分散液中に鉄イオンを溶解し蒸発乾固した後に、又はpH調整により沈殿物を生成した後に、焼成する請求項5又は請求項6に記載の微細酸化鉄粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−160579(P2006−160579A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357208(P2004−357208)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】