説明

微視的な電子デバイス及び生体についての温度及び温度分布の高分解能検出

本発明は、対象物に対して1μm未満の分解能での温度及び/又は温度分布の測定方法、及び当該方法を実行するためのデバイス、より具体的には上記方法を実行するための顕微鏡に関する。
上記方法は、対象物上の基質層に取り込まれた分子温度計を塗布するステップと、上記分子温度計を上記顕微鏡の光源で光励起するステップと、及び上記顕微鏡の2つの光検出器で上記分子温度計からの発光を測定するステップと、を含む。第1の波長での第1の強度は、上記第1の検出器によって測定され、第2の波長での第2の強度は、上記第2の検出器によって測定され、上記強度比率が計算され、調整された曲線で温度を決定するために利用される。上記顕微鏡は、共焦点顕微鏡又は誘導放出制御顕微鏡(STED)である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に対して1μm未満の分解能での温度及び/又は温度分布の測定方法、及び当該方法を実行するためのデバイス、より具体的には上記方法を実行するための顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
微視的な対象物の高速な熱過渡の精密な測定及び記録は、例えば、生体の試験又は半導体や他の電子デバイスの製造において重要である。電子デバイスの操作において、温度及び/又は温度分布の測定は、集積回路(IC)の温度管理において重要である。更に重要なこととして、上記測定は、デバイス物理学の理解に関する情報を与える。過去に、操作している装置の時空間温度分布のモデル化及び実験的な記録に関する研究がなされてきており、ラマン顕微鏡と組み合わせた赤外熱顕微鏡及び光放出顕微鏡の2つの光学的な記録のアプローチが報告されている。(G.Albright,J.Stump, C. Li, Quantum Focus Ins. Corp. and H. Kaplan, Honeyhill Technical Company, Highlights, 2006; T. Fuyuki, Japanese Journal of Applied Physics 44, 2895−2901, 2005; S.Inoue, M.Kimura, T. Shimoda, Japanese Journal of Applied Physics 42 1168−1172, 2003; A. Sarua, H.Li, M. Kubal, M. J. Uren, T. Martin, K. P. Hilton, R. S. Balmer, CS Mantech, Apr. 24−27, 2006, Vancouver, British Columbia, Canada; J. W. Pomeroy, M. Kubal, M. J. Uren, K. P. Hilton, R. S. Balmer, T. Martin, Applied Physics Letters 88, 023507,2006)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの報告された方法において、高速検出及び高温分解能と組み合わせて、3次元全て、すなわちx、y、z方向で高物理空間分解能(high physical spatial resolution)を実現できる方法はなかった。一般的に、従来技術で実現した、焦点が合った状態でのXY平面での分解能は、1〜10μmの範囲であり、Z方向、すなわち光軸に沿った方向での対象物に対する分解能は、XY方向の分解能の2倍であった。
【0004】
そこで、本発明の目的とするところは、高時空間分解能で温度及び/又は温度分布を測定するための方法及びデバイスを提供することにある。更に、本発明の目的とするところは、XY方向で300nm以下の分解能を有し、Z方向で10〜40nmの範囲の分解能を有する、温度及び/又は温度分布を測定するための方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これら全ての目的は、1μm未満の分解能で、電子デバイス又は生体のような対象物の温度及び/又は温度分布の測定方法であって、
(a)対象物を準備するステップと、
(b)温度に依存する放出特性を有する基質(matrix)及び分子温度計(molecular thermometer)を含む温度計層について、
前記分子温度計は、前記基質に取り込まれており、
前記温度計層は、40nm以下の、好ましくは10nm〜40nmの範囲の厚みを有し、
前記対象物に又は前記対象物の表面の一部に、前記温度計層(thermometer layer)を塗布して、温度及び/又は温度分布が測定されるステップであって、
ステップと
(c)光源、第1の検出器、第2の検出器、及び試験するサンプルを収容及び走査するための顕微鏡台を有する顕微鏡を準備するステップと、
(d)前記対象物を前記顕微鏡台に設置して、前記光源を利用して前記分子温度計を光励起するステップと、
(e)第1の波長及び第2の波長での発光強度比率について、
前記第1の検出器及び前記第2の検出器が、夫々、前記第1の波長及び前記第2の波長の発光強度を測定するために使われて、
前記第1の検出器及び前記第2の検出器を利用して前記発光強度比率を測定することによって、前記光励起された分子温度計からの輻射放出を測定するステップと、
(f)前記測定された発光強度比率に基づいた温度及び/又は温度分布を決定するステップと、を含む、方法によって解決される。
【0006】
一実施形態によれば、前記顕微鏡は、共焦点顕微鏡又は誘導放出制御顕微鏡(STED)である。
【0007】
一実施形態によれば、前記分子温度計が、金属ポルフィリンと、励起一重項の1%超過、好ましくは励起一重項の50%超過、より好ましくは励起一重項の90%超過で光励起により項間交差が起こる他の分子(例えば、Brを含有する分子)と、例えば、Ir、Pt、Ru、Pd、又はZn、Fe、Au、Ag等のような他の元素を有していて、励起一重項の1%超過、好ましくは50%超過、更に好ましくは90%超過に対して光励起で項間交差が起こる金属−有機分子と、から成るグループから選択される。
【0008】
好ましくは、前記分子温度計は、金属ポルフィリンであり、好ましくは亜鉛オクタエチルポルフィリン(ZnOEP)、パラジウムオクタエチルポルフィリン(PdOEP)、及び白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)から選択される。
【0009】
一実施形態によれば、前記分子温度計が、前記基質の全質量を参照して、0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜3質量%の範囲の濃度で前記温度計層に存在する。
【0010】
一実施形態によれば、前記基質は、光学的に透明である。
【0011】
一実施形態によれば、前記基質は、不活性である。
【0012】
好ましい実施形態によれば、前記基質は、選択的に透明且つ不活性であり、前記選択的に透明且つ不活性である基質は、ポリマー基質であり、好ましくは、前記ポリマー基質は、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)のようなポリシリコン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンであるポリオレフィンから選択される物質で形成される。
【0013】
一実施形態によれば、重合性基質又は非重合性基質であってもよい前記気質が、無機酸化物又は無機窒化物であってもよい。
【0014】
好ましい実施形態によれば、前記重合性気質は、無機酸化物又は無機窒化物を含む。
【0015】
好ましい実施形態によれば、ステップ(b)が、スピン−コーティング、ディップ−コーティング、ドロップキャスティング、ドクターブレーディング、LB膜技術(Langmuir−Blodgett techniques)、スプレー法、熱蒸着、分子ビーム沈殿法(molecular beam deposition)、ラミネーション、及び例えば、接着法である付着法から選択される方法によって実行される。
【0016】
好ましい実施形態によれば、前記温度計層は、複層構造であって、少なくとも2つの副層を含み、夫々の副層は、好ましくは異なる前記分子温度計の濃度を有する。
【0017】
好ましくは、前記対象物に分子ヒーター層が塗布されずに、前記対象物の温度及び/又は温度分布を決定する。
【0018】
本明細書において、“分子ヒーター”は、単体物質、化合物、もしくは化合物及び/又は電磁放射の放出又は吸収で過度のエネルギーを生成する単体物質の混合物を包含しているものと意図される。
【0019】
好ましい実施形態によれば、ステップ(d)において、前記光励起が、連続励起又はパルス励起によって実行され、前記光励起が、400nm〜600nmの範囲の波長で起こる。
【0020】
好ましい実施形態によれば、本発明に係る方法は、更に、
−前記温度計層を光励起すること、
−少なくとも2つの異なる温度で前記温度計層からの発光強度比率を測定すること、
−前記温度を測定するための外部手段を利用して前記少なくとも2つの異なる温度を測定すること、及び
−測定された夫々の発光比率を、対応する温度と相関付けることによって、基板に塗布された際に前記温度計層のキャリブレーションを実行するキャリブレーションステップを更に備え、前記キャリブレーションステップは、請求項1で説明した前記分子温度計を光励起するステップ(ステップd)より前に実行される。
【0021】
好ましくは、前記キャリブレーションステップは、上述したステップの何れからも独立して実行される。
【0022】
好ましい実施形態によれば、前記発光強度比率は、前記第2の波長での燐光強度に対する、前記第1の波長での蛍光強度であって、好ましくは例えば、三重項−三重項消滅過程に続いて起こる遅延した蛍光のような遅延蛍光強度を含んでいるものの比率である。
【0023】
好ましい実施形態によれば、前記発光強度比率は、前記第2の波長での前記分子温度計の励起三重項状態からの燐光強度に対する、前記第1の波長での前記分子温度計の一重項の蛍光強度であって、選択的に三重項−三重項消滅過程に続いて起こる遅延蛍光強度を含んでいるものの比率(I一重項/I三重項)である。
【0024】
好ましい実施形態によれば、前記分子温度計は、PdOEPであって、前記発光強度比率は、I549nm/I662nmである。
【0025】
好ましい実施形態によれば、達成した分解能は、前記顕微鏡の光線に垂直な平面で、500nm未満であり、好ましくは300nm未満であり、より好ましくは200nm未満であり、更により好ましくは100nm未満であり、前記顕微鏡の光線に沿った方向では、500nm未満であり、好ましくは50nm未満であり、より好ましくは20nm未満であり、最も好ましくは約10nm未満である。
【0026】
本発明の目的は、
−レーザのような光源、レーザダイオード、発光ダイオード(Light Emitting Diode)、
−分子温度計層由来の発光の発光強度比率を測定するための第1の検出器及び第2の検出器、
−試験するサンプルを収容及び走査するための顕微鏡台を有する顕微鏡、及び
−前記顕微鏡台に設置されて、その後温度計層が塗布される対象物、
を備え、前記温度計層は、このように前記光源からの光線によって光励起された際に発光する、本発明に係る方法を実行するための顕微鏡によっても解決される。
【0027】
好ましくは、本発明に係る顕微鏡は、共焦点顕微鏡又は誘導放出制御顕微鏡(STED)である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下では、次の図面が参照される。
【図1】図1は、エネルギー計画及び活性な温度計分子の一例としてのパラジウムオクタエチルポルフィリン(PdOEP)の分子構造を示す。
【図2】図2は、膜の厚みを40nmとして、励起光パワーを0.8〜10mWとした場合のポリスチレン基質での1wt.%のPdOEPを含む温度計層のキャリブレーション曲線を示す。挿入図は、異なる温度での発光スペクトルを示す。
【図3】図3は、本発明に係る発光強度比率を測定するための2つの検出器を有する共焦点顕微鏡デバイスの概略的な構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、“温度計層”とは、重合性基質を含む層及び重合性基質を取り込まれた層を指していると意図される。本明細書において、“分子温度計”とは、共に温度依存する放出特性を有する分子種又はいくつかの分子種の組み合わせを指していると意図される。“分子温度計”という用語は、単体物質、化合物、もしくは化合物及び/又は蛍光及び/又は燐光の放出強度特性が温度に依存する単体物質の混合物を包含しているものと意図される。好ましくは、“分子温度計”は、ピコ秒(ps)からマイクロ秒(μs)までの範囲にわたる励起状態の寿命を有する。分子温度計の好ましい実施形態は、色素又は本明細書においてメタレーティッドポルフィリン(metallated pouphyrins)とも時々呼ばれる金属ポルフィリン、励起一重項の1%超過、好ましくは50%超過、より好ましくは90%超過で光励起により一重項から三重項への項間交差が起こる分子、及び構造にIr、Pt、Ru、Pd、又は他のZn、Fe、Au、Ag等を有していて、励起一重項の1%超過、好ましくは50%超過、より好ましくは90%超過で光励起により一重項から三重項への項間交差が起こる金属−有機分子を含むグループから選択される色素の組み合わせである。一般に、分子温度計として、熱的に活性化されたバンドを有する放射性色素又は少なくとも2つの放射性色素の組み合わせを使うことができ、それらの発光強度は、温度で変わる。
【0030】
特に好ましくは、分子温度計は、金属ポルフィリン(MOEP)であり、金属は、Pt、Pd、Zn、Ir、Ru、Fe、Mg、Co、Ni等から選択される。これらの分子にとって、温度に依存する発光強度比率は、上記第2の波長でのポルフィリン分子の励起三重項からの燐光強度に対する、ポルフィリン分子の一重項からの蛍光強度比率であり、上記第1の波長での三重項−三重項消滅過程に続いて起こる遅延した蛍光強度を選択的に含むものの比率である(I一重項/I三重項)。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、分子温度計が取り込まれる基質は、選択的に透明及び/又は不活性であり、好ましくは、選択的に透明且つ不活性である。基質と関連して本実施形態で用いられる、“選択的に透明”という用語は、このような基質は、このような基質に取り込まれる分子温度計が発光する波長領域で透明であるということを示していると意図される。好ましくは、本明細書において、“選択的に透明”という用語は、500nm〜1500nmの範囲で透明であることを指していると意図される。基質と関連して本実施形態で用いられる、“不活性な”という用語は、このような基質が化学的に不活性、すなわち、化学反応を経ないということを示していると意図される。好ましくは、このような用語は、基質が、このような基質に取り込まれた分子温度計とは化学反応を経ないという事実を指していると意図される。従って、好ましくは、“不活性な”という用語は、本明細書において、“分子温度計に関して化学的に不活性な”と同義に利用される。
【0032】
“項間交差が光励起により起こる分子”は、本件においては特に、S−−>Tであるが、インターシステムクロッシング(ISC)と命名されている異なる多重項間での分子内無放射遷移が起こる分子を指していると意図される。特に、光励起により一重項から三重項への励起した電子の遷移が起こる。本明細書で、このような項間交差が起こる割合について述べられる際(“励起一重項のx%”)、このことは、このような項間交差遷移を経る一重項状態の電子の割合を指していると意図される。従って、項間交差(ISC)が励起一重項状態の1%超過で起こるならば、これは、一重項の電子の全てのうちの1%超過が、三重項に交差することを意味する。
【0033】
“三重項−三重項消滅過程”は、双方が三重項である2つの温度計分子が励起一重項の分子及び基底状態の分子を生成するように相互作用することを指していると意図される。
【0034】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、発光強度比率は、上記第2の波長での上記分子温度計の励起三重項からの燐光強度に対する、上記第1の波長での上記分子温度計の一重項の蛍光強度比率であり、当該蛍光は遅延した蛍光及び速い蛍光の混合であってもよい。蛍光強度は、遅延した蛍光及び速い蛍光の混合であってもよい。好ましくは、遅延した蛍光は、三重項−三重項消滅過程に続いて起こる遅延した蛍光である。本明細書において、“速い蛍光”は、遅延していない蛍光である。
【0035】
三重項Tnへの項間交差が、励起一重項Snの50%超過で起こるのであれば、このことにより、発光が燐光として検出される三重項レベルTnの存在割合は、確実に高いものとなる。上述したように、三重項−三重項消滅過程の後に、遅延した蛍光をもたらしているのかもしれないインターナルアップコンバージョン(internal up−conversion)が続いて起こる。本明細書の表記として、遅延した蛍光は第1の波長で起こり、燐光は第2の波長で起こり、それらの夫々の強度は、第1及び第2の検出器で検出される。
【0036】
原則として、夫々の過程は、図1を参照しながら説明され、図1は、本発明に係る分子温度計の例として、パラジウム−オクタエチルポルフィリンのエネルギー計画及び分子構造を示す。原理は以下のようになる:分子の一重項帯での光子の吸収後、分子の金属中心へのスピン軌道結合により強化された効率的な項間交差(ISC)により(この分子では、90%超過)、寿命の長い分子の三重項状態T1の存在割合は大きくなる。この三重項状態について、続いて起こるエネルギー移動のための励起状態の容器とみなすことができる。励起した温度計分子間の三重項−三重項消滅(TTA)過程の結果として、基底状態に戻る温度計分子もいれば、より高い一重項状態に励起される温度計分子もいる。三重項状態から基底状態への放出緩和は、燐光であり、より高い一重項状態からの放出緩和は、遅延した蛍光として検出される。本発明者は、驚くことに、温度計層を対象物に塗布して、高分解能顕微鏡技術を利用してこのような対象物を研究することが可能であり、それ故にこれまでにない高精度及び高時空間分解能で、この対象物の内部及び表面の温度及び/又は温度分布を測定することが可能であることを発見した。従来の方法とは対照的に、別の分子ヒーター層は必要とされず、方法がラマン顕微鏡又は赤外線熱顕微鏡を必要としない。本発明に関連して利用される顕微鏡の好ましい方法は、共焦点顕微鏡及び誘導放出制御顕微鏡(STED)である。
【0037】
典型的なSTED顕微鏡によれば、励起ビームは、誘導放出により蛍光分子を脱励起(de−exciting)することができるドーナッツ型ビームと重ね合わされる。ビームの共同の調整により、ゼロに近づく励起スポット(excitation spot)の中央領域でのみ、確実に蛍光発光が可能となる。サンプルに対しての狭いスポットでの走査が、容易に副回折像を生成する。非常に大きいドーナッツ型ビームでは、STED顕微鏡の蛍光スポットの鮮明さは、原理的に、分子のスケールにまで落ちる(例えば、Wilig et al., 2006, Nature Vol. 440, p.935−939参照)。
【0038】
共焦点顕微鏡の原理については、標準的な落射蛍光顕微鏡と比較することによって説明することができる。標準的な落射蛍光顕微鏡では、より短い波長での励起光は、対象物を通して色反射体(chromatic reflector)によって反射され、ほとんど一定の照射をサンプルの全体に浴びさせる。色反射体は、短波長光を反射して、長波長光を透過する特性を有する。放射される(例えば、励起光よりも長波長である)蛍光は、サンプルから色反射体を通って、まっすぐに接眼レンズに伝わる。
【0039】
共焦点の結像系では、励起光の単一ポイント(又は時々、ポイントの集まりもしくはスリット)がサンプルに対して走査される。上記ポイントは、サンプルの回折限界スポットであり、サンプルの共役焦点面に置かれた照射されるアパーチャーを撮像することによって、又は通常は平行なレーザービームの焦点を合わせることによって、生成される。単一のポイントのみが照射されて、ビームが集光及び分岐するに従い、照射強度は焦点面上下ですぐに低下して、それにより試験される焦点面から離れて置かれている対象物に干渉する発光の励起は減少する。発光のライト(すなわち、信号)は、二色反射体(ミラー)に戻って、次いで、サンプルの共焦点面に置かれたピンホール口径を通る。像のピンホールを通る光は、光検出器によって検出される。大抵、コンピュータは、サンプルの連続的スキャニングを制御して、像を集めてビデオモニター上に表示するために利用される。大抵の共焦点顕微鏡は、標準的な顕微鏡に結合する結像系として実施される。
【0040】
要約すれば、共焦点結像系は、2つの方策によって焦点外の除去を実現する:(a)
照射強度が焦点面上下ですぐに落ちるように、集束ビームで、どの時点においてもサンプルの単一のポイントに照射すること、(b)照射されるサンプルのポイントから離れて放出された光が検出器に届くことを阻むように、共役焦点面でサンプルのピンホール口径を遮断すること(blocking)の利用。共焦点像は望ましい状況(小さいピンホールサイズ、照射されているサンプル)で、他の利点を提供することができる:得られる分解能は、標準的に操作される顕微鏡で得られる分解能の1.4倍に向上する。共焦点顕微鏡は、反射モードで利用されても、焦点外の除去を実行する。
【0041】
本発明に係る方法及び顕微鏡の好ましい実施形態によれば、レーザは、照明光源として利用される。更に好ましくは、サンプルの光学的断面は、サンプルの走査ステージを走査することによって得られてもよい。更に好ましくは、このようなサンプルの走査ステージは、圧電駆動ステージである。ステージはx−y方向(x−y走査)の走査パターンにより、マイクロメーターの距離で移動される。更に、顕微鏡台のz方向の動力化の付加によりz方向の走査の実行を可能として、それにより、サンプルの一連の光学的断面を取得することが可能となる。更に、好ましくは、アバランシェフォトダイオードが検出器として利用される。夫々の検出器が特定の波長に対して特有のものであることを確実なものとするために、夫々の検出器は、この特定の検出器によって検出されるこの特定の波長のために界面フィルター(interface filter)を有する。代わりに、光電子増倍管をアバランシェフォトダイオードの代わりに同様に利用することができる。
【0042】
本発明に係る方法及び顕微鏡の好ましい実施形態によれば、上記方法は、温度を測定するための外部手段が利用される、付加的なキャリブレーションステップを含む。温度を測定するためのこのような外部手段は、例えば、温度計層で覆われる対象物のトップで固定される熱電対のPT−100(NTB Sensordatenbank/Labor Elektronische Messsysteme; Sensor No. 03, Seiten 1 − 3に記載されている;市販されているものとして、例えば、Endress + Hauser, Switzerland からのBaumgartnerを利用することができる。)である。次いで、対象物は、肉眼的に熱せされる。一実施形態によれば、キャリブレーションステップの間、夫々の照射強度比率は、対応する測定温度と相関する。このような相関は、測定温度に対する測定される光励起された分子温度計による照射強度比率のプロットとして示されてもよい。“キャリブレーション曲線”と呼ばれてもよいプロットがこの操作に由来することは、当業者にとって明らかである。同様に、同じ情報が、適当な数学式によって、例えば、ある場合には式y=mx+bの一次方程式によって表されてもよい。いずれの場合においても、このような相関から得られる情報により、実験を補間又は推定して、光励起分子温度計からの測定される発光強度比率から温度を決定することが可能となることは当業者にとって明らかである。同様に、得られるデータが必ずしも直線関係を有していなくてもよく、単純化のためにこの例が与えられ、このような相関ステップの目的を示していることは当業者にとって明らかである。
【0043】
このような高分解能顕微鏡技術と組み合わせて、特定のヒーター層を利用せずに温度計層を利用することによって、開口数及び励起光源の波長に依存して、回折限界であって200nm未満であってもよいxy平面での空間分解能を得ることが可能である。更に、z方向に得られる分解能は、単純に温度計層の厚みに依存しており、10nmから40nmの範囲にある。更に、本発明によって達成される感度は0.25K又はそれ以上のものであり、達成される応答時間は短く、100ns程度である。温度計層は副層構造に取り込まれていてもよく、測定される対象物内に多様な深さで設置される1つ以上の温度計層があってもよいので、温度/温度分布の3次元像及び測定を得ることができる。本発明に係る温度測定方法をきわめてロバストなものとする発光強度比率が測定されるので、方法は光源強度とは独立したものである。
【実施例1】
【0044】
温度計層
一実施形態によれば、活性な温度計層は、不活性な基質膜(ポリスチレン、PS、又はポリメチルメタクリレート、PMMA、又は適当な他の物質)に非常に低い濃度で分散された金属ポルフィリン分子(MOEP)から成る。この分子は、インターナルアップコンバージョンをもたらす非常に強力に温度に依存する三重項−三重項消滅に基づく、遅延した蛍光の強力な温度依存性を有し、室温で高い発光効率及び高温で高い発光効率を有する。それらは2つの主な特徴であり、それにより、それらを以下の特性を有する薄い副層構造の現場のリアルタイムの温度センシングに適当な発光システムにする:
・ 供給電圧に比例した応答−光源の強度の多様性に対する独立を確実なものとする。
・ xy方向の回折限界空間分解能(現時点でNA1で200nm及び405nmの励起光源を有する)及びz方向(温度計層の厚み)で10nmまで低下する空間分解能
・ 0.25K又はそれ以上の感度
・ 短い応答時間−100ns
・ 複層構造での同様の動作
【0045】
本発明者は、複層構造に含まれる温度計層としてPS又はPMMA中に0.1〜3wt%の濃度のZnOEP、PdOEP、又はPtOEPを有し、10〜40nmの厚みのものを利用した。励起光源として405nmのcw(連続波)又はパルスレーザダイオードが利用された。cw又は高い周波数のパルスを利用する際、ポリマーブレンドされたMOEPの発光スペクトルは、励起三重項の寿命よりも長い時間領域に対して積分された。
【0046】
MOEP分子の励起後、造られた一重項は、中央の金属原子の影響により非常に増加する項間交差を介して三重項励起に遷移される。分子のエネルギー計画は、三重項−三重項消滅過程および例としてのPdOEPの分子構造と共に、図1に示されている。含まれるISC及びTTA過程の結果として、RTでの発光スペクトルは、Pd及びPtOEPにとっては、かなりレッドシフトした有効な燐光及び非常に弱い緑色蛍光かなら成る。
【0047】
図1は、エネルギー計画及び活性な温度計分子の一例としてのPdOEPの分子構造を示す。
【0048】
温度の増加により、蛍光発光でのかなりの増加が観測された(図2、挿入図)。上述したような非動的励起型では、直線的に温度に対して一重項(DF)−三重項(燐光)の強度比率が寄与していると考えることは可能である。
【0049】
図2では、1ポイント当たり20msの積分時間及び10μmの照射スポットでの異なる励起パワーに対するキャリブレーション曲線が示される。温度計の大員環は、40nmの厚みでPS層中にブレンドされたPdOEPである。このキャリブレーションのために、サンプルは巨視的に熱せられ、表面(PS膜)温度が調整された熱電対によって測定された。蛍光I一重項(I549)(図2、挿入図参照)に対して測定された強度と測定された燐光ピーク強度I三重項(I662)との間の比率は、293Kと400Kの間の温度に対して示される。
【0050】
図2は、ポリスチレン中に1wt%の濃度でブレンドされたPdOEPについてのキャリブレーション曲線を示す。膜厚40nm。0.8〜10mWのパワー。更に詳細は、本明細書参照。挿入図:異なる温度での発光スペクトル。
【0051】
厳密なレーザの強度、サンプルの構造(厚み、大員環、及びその濃度)、及び積分時間
に対して、I一重項/I三重項の比率の指数関数的な依存性は非常に再現性の良いものである。温度計分子の1wt%の濃度及び20msの積分時間に対して、比率は調べられた温度の間隔に対する厳密なレーザのパワーには依存しない。精度は、大員環に依存して0.1〜0.25Kである。
【実施例2】
【0052】
図3は、本発明に係る共焦点顕微鏡の構成の実施形態の概略図を示し、サンプルは、温度又は温度分布が測定され、温度計層が塗布された対象物である。共焦点デバイスが、発光強度比率を検出するための2つの検出器を有していることは、注意しておく必要がある。
【0053】
夫々の検出器は、選択的に特定の波長を検出するための界面フィルター(interface filter)を有する。更に、デバイスは、サンプル走査ステージを有し、好ましくは(Leika、Zeiss、Olympusのように)標準的に利用される蛍光共焦点顕微鏡に対して高周波数を有する圧電駆動ステージであり、高数値の非液浸又は液浸対物レンズは、ノッチ又はエッジカットオフフィルター(edge cut−off filter)に対して検出部の入り口で励起波長をカットオフして、当該検出部は、(2つの検出器によって検出される波長に対応して)2色性のビームスプリッター(2色性ミラー)及び2つの検出器(好ましくは、アバランシェフォトダイオード)を有し、夫々の検出器は、所望の波長又は波長範囲のみを通り抜けられる(例えば、夫々が549nm及び662nmのように、一方は緑、一方は赤)ようにする界面フィルターと、走査ステージ(選択的に複数の走査ステージ)、光源、及び検出器からのデータを制御及び収集するソフトウェアを有する検出部を制御するためのコンピュータとを有する。
光源は、例えば、レーザ、レーザダイオード、又は発光ダイオードであってもよいが、それらに限定されない。
【0054】
明細書、特許請求の範囲、及び/又は対応する図面に開示された本発明の特徴は、独立させてもそれらをどのように組み合わせても、双方の場合において、発明を様々な形態で理解するための資料となってよい。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μm未満の分解能で、電子デバイス又は生体のような対象物の温度及び/又は温度分布の測定方法であって、
(a)対象物を準備するステップと、
(b)温度に依存する放出特性を有する基質(matrix)及び分子温度計(molecular thermometer)を含む温度計層について、
前記分子温度計は、前記基質に取り込まれており、
前記温度計層は、40nm以下の、好ましくは10nm〜40nmの範囲の厚みを有し、
前記対象物に又は前記対象物の表面の一部に、前記温度計層(thermometer layer)を塗布して、温度及び/又は温度分布が測定されるステップであって、
ステップと、
(c)光源、第1の検出器、第2の検出器、及び試験するサンプルを収容及び走査するための顕微鏡台を有する顕微鏡を準備するステップと、
(d)前記対象物を前記顕微鏡台に設置して、前記光源を利用して前記分子温度計を光励起するステップと、
(e)第1の波長及び第2の波長での発光強度比率について、
前記第1の検出器及び前記第2の検出器が、夫々、前記第1の波長及び前記第2の波長の発光強度を測定するために使われて、
前記第1の検出器及び前記第2の検出器を利用して前記発光強度比率を測定することによって、前記光励起された分子温度計からの輻射放出を測定するステップと、
(f)前記測定された発光強度比率に基づいた温度及び/又は温度分布を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記顕微鏡が、共焦点顕微鏡又は誘導放出制御顕微鏡(STED)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子温度計が、
金属ポルフィリンと、
励起一重項の1%超過、好ましくは励起一重項の50%超過、より好ましくは励起一重項の90%超過で光励起により項間交差が起こる他の分子(例えば、Brを含有する分子)と、
例えば、Ir、Pt、Ru、Pd、又はZn、Fe、Au、Ag等のような他の元素を有していて、励起一重項の1%超過、好ましくは50%超過、更に好ましくは90%超過に対して光励起で項間交差が起こる金属−有機分子と、
からなるグループから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分子温度計は、金属ポルフィリンであり、好ましくは亜鉛オクタエチルポルフィリン(ZnOEP)、パラジウムオクタエチルポルフィリン(PdOEP)、及び白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記分子温度計が、前記基質の全質量に対して、0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜3質量%の範囲の濃度で前記温度計層に存在する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基質が、光学的に透明である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記基質が、不活性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記基質が、光学的に透明且つ不活性である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記光学的に透明且つ不活性である基質は、ポリマー基質である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー基質が、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)のようなポリシリコン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンであるポリオレフィンから選択される物質で形成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基質が、無機酸化物又は無機窒化物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記基質が、無機酸化物又は無機窒化物である、請求項9〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(b)が、スピン−コーティング、ディップ−コーティング、ドロップキャスティング、ドクターブレーディング、LB膜技術(Langmuir−Blodgett techniques)、スプレー法、熱蒸着、分子ビーム沈殿法(molecular beam deposition)、ラミネーション、及び、例えば接着法のような付着法から選択される方法によって実行される、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
前記温度計層が、複層構造であって、少なくとも2つの副層を含み、
夫々の副層は、好ましくは異なる前記分子温度計の濃度を有する、請求項1〜13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象物に分子ヒーター層が塗布されずに、前記対象物の温度及び/又は温度分布を決定する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(d)において、
前記光励起が、連続励起又はパルス励起によって実行される、請求項1〜15に記載の方法。
【請求項17】
前記光励起が、400nm〜600nmの範囲の波長で起こる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
−前記温度計層を光励起すること、
−少なくとも2つの異なる温度で前記温度計層からの発光強度比率を測定すること、
−前記温度を測定するための外部手段を利用して前記少なくとも2つの異なる温度を測定すること、及び
−測定された夫々の発光比率を、対応する温度と相関付けること
によって、
基板に塗布された際に前記温度計層のキャリブレーションを実行するキャリブレーションステップを更に備え、
前記キャリブレーションステップは、請求項1で説明した前記分子温度計を光励起するステップ(ステップd)より前に実行される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記キャリブレーションステップは、請求項1で説明したステップの何れからも独立して実行される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記発光強度比率は、前記第2の波長での燐光強度に対する、前記第1の波長での蛍光強度であって、好ましくは、例えば、三重項−三重項消滅過程に続いて起こる遅延した蛍光のような遅延蛍光強度を含む蛍光強度の比率である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記発光強度比率は、前記第2の波長での前記分子温度計の励起三重項状態からの燐光強度に対する、前記第1の波長での前記分子温度計の一重項の蛍光強度であって、選択的に三重項−三重項消滅過程に続いて起こる遅延蛍光強度を含む蛍光強度の比率(I一重項/I三重項)である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記分子温度計は、PdOEPであって、
前記発光強度比率は、I549nm/I662nmである、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
達成した分解能は、
前記顕微鏡の光線に垂直な平面で、500nm未満であり、好ましくは300nm未満であり、より好ましくは200nm未満であり、より一層好ましくは100nm未満であり、
前記顕微鏡の光線に沿った方向では、500nm未満であり、好ましくは50nm未満であり、より好ましくは20nm未満であり、最も好ましくは約10nm未満である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
−レーザのような光源、レーザダイオード、発光ダイオード(Light Emitting Diode)と、
−分子温度計層由来の発光の発光強度比率を測定するための第1の検出器及び第2の検出器と、
−試験するサンプルを収容及び走査するための顕微鏡台を有する顕微鏡と、
−前記顕微鏡台に設置されて、その後温度計層が塗布される対象物と、
を備え、
前記温度計層は、このように前記光源からの光線によって光励起された際に発光する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法を実行するための顕微鏡。
【請求項25】
共焦点顕微鏡又は誘導放出制御顕微鏡(STED)である、請求項24に記載の顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−513884(P2010−513884A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541845(P2009−541845)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010894
【国際公開番号】WO2008/077490
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(397051508)ソニー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (140)
【Fターム(参考)】