説明

微量供給ノズルおよびこれを備えた試薬処理装置

【課題】試料片が置かれたスライドガラス等の処理用プレートに、微量の試薬を供給する試薬供給ノズルを提供する。
【解決手段】微量供給ノズル10は、試薬を収容する容器12を有し、その容器の端には、処理用プレートに当接することにより、収容されている試薬を処理プレート上に供給するためのノズル先端部14が設けられている。ノズル先端部14の先端には、ノズル孔24が設けられ、この中にわずかな動きが許容されてボール26が保持されている。ノズル孔24は通常ボール26によりふさがれているが、ノズルの先端が処理プレートに押し当てられることによりボール26が移動し、これによりノズル孔とボールの間に隙間ができ、容器内の試薬がノズル孔より流出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を載せたプレート上で、この試料を試薬によって処理する試薬処理システムに関し、特に試薬の供給に関する。
【背景技術】
【0002】
生物試料のハイブリダイゼーションなど、試料を、スライドガラス等の処理用プレート上で試薬と反応させて処理を行う処理方法が知られている。処理に用いる試料は、非常に高価なものがあり、また実際に必要な量は微量である場合がある。試料の、処理用プレート上への供給を、分注装置によりノズルから滴下して行う場合、液滴の大きさよりも少ない量の供給は難しい。そこで、試料の微量の供給は、マイクロピペットを用いて手作業で行っていた。また、下記特許文献1には、試料が貼付されたプレートを収容部の中に起立状態に保持し、プレートと収容部の壁との間で生じる毛細管現象により、収容部の底に溜められた微量の試薬を試料に接触させる試薬処理ユニットが記載されている。
【0003】
また、微量の液体を供給するものとして、下記特許文献2,3に記載された修正ペンがある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−21799号公報
【特許文献2】特開平8−197881号公報
【特許文献3】特開平8−118896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高価な試薬を用いる場合、その使用量を極力少なくすることが望まれる。また、マイクロピペットの操作は、慎重な動作が必要であり、作業性が良くなかった。本発明は、微量の試薬の供給の作業性を改善することを一つの目的とする。また、微量の試薬の供給を自動化することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微量供給ノズルは、試薬を収容する容器と、容器の端に備えられ、収容された試薬を、試料を載せた処理用プレート上に供給する試薬供給部と、試薬供給部に設けられ、試薬供給部が処理用プレート上面に接触することにより、微量の試薬の供給を許容する供給制御部と、を有する。試薬供給部を接触させてプレート上に試薬を付着させることで、供給される試薬の量について液滴の大きさによる制限がなくなり、微量の試薬を容易に供給することができる。
【0007】
また、前記供給制御部は、試薬が流通するノズル孔を有するノズルチップと、前記試薬供給部の接触により前記ノズル孔を開放する弁体と、を有するものとすることができる。
【0008】
また、前記容器には、容器より流出した試薬の分、容器内に空気を導入するための空気孔を設けることができる。
【0009】
また、前記容器を、少なくとも前記空気孔およびその周囲を、前記空気孔を塞ぐキャップで覆うようにできる。
【0010】
本発明の他の態様である試薬処理装置は、上記の微量供給ノズルを備え、処理用プレート上で試料の試薬処理を行う試薬処理装置であって、試料を載せた処理用プレートを保持する台座と、前記微量供給ノズルを保持し、搬送する搬送機構と、を有し、搬送機構が、微量供給ノズルの前記試薬供給部を処理用プレートに接触させて、試薬を供給する。
【0011】
また、前記搬送装置は、微量供給ノズルの試薬供給部を、処理用プレートに接触させた状態で、処理用プレートの上面に沿って、供給する試薬の量に応じた所定の長さ移動させるようにできる。
【0012】
また、試薬処理装置は、処理用プレート上を撮像する撮像装置と、前記撮像装置により得られた画像から、処理用プレート上の試料の位置を算出する試料位置算出手段と、を有するものとでき、前記搬送装置は、算出された試料位置に基づき、試料の側方の処理用プレート上に、前記微量供給ノズルの試薬供給部を接触させるようにできる。
【0013】
また、処理用プレート上に供給された試薬を延ばして試料上に展開する展開部材を設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
微量供給ノズルの試薬供給部が、処理用プレートに接触することで、処理用プレート上に試薬を供給することができ、液滴の大きさに制限されずに、微量の試薬の供給が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は本実施形態の微量供給ノズル10の外観を示す斜視図、図2は長手方向の軸を含む断面図、図3はノズルの先端の詳細を示す断面図を示す。
【0016】
略円筒形状の容器12は、その内部の空間に試薬を収容することができる。容器12の円筒の一端(図2において下側の端)は開放しており、ここにノズル先端部14が結合されている。容器12とノズル先端部14の結合部分にねじを形成し、ねじ結合によりこれらを結合するようにできる。容器12のもう一方の端は、空気孔16が明けられた端面板18により閉じられている。ノズル先端部14は、容器12と結合する略円筒形の結合部20と、全体として先細形状となっているテーパ部22を有している。テーパ部22の先端には、図3によく示されるように、容器12の内部と外部とを繋ぐノズル孔24が明けられており、このノズル孔24内にボール26が配置される。ボール26は、ノズル孔24内で軸方向、すなわち図3において上下の方向に所定の範囲での動きが許容されている。ノズル孔24の先端は、内径がやや狭く、ボール26はこの狭い部分を通り抜けることができない。これによりボール26がノズル先端部14より脱落することがない。また、ノズル孔24の容器12側には、仕切り板28が形成されている。仕切り板28には並列する2本のスリットが形成され、このスリットの間の部分が板ばね30となっている。板ばね30は、ボール26をノズルの先端方向に付勢する。ボール26がノズル孔内の可動範囲の先端側に位置するとき、ノズル孔24を完全に塞ぎ、収容された試薬が漏れないようにしている。ボール26が先端側から押されると、板ばね30の付勢力に抗して、容器12の方向に押し込まれる。このときには、ノズル孔24の内径と、ボール26との間には若干の隙間が形成され、この隙間と、板ばね30を切り出したスリットと介して、容器内部と外部が連通された状態になる。これにより、試薬が流出する。このように、ボール26は、ノズル孔24を開閉する弁体として機能する。
【0017】
図4および図5は、微量供給ノズル10の保管時の様子を示している。容器12の端面板18側の端には、頂部キャップ32が被せられている。図5の断面図に示されるように、頂部キャップ32の内側には、空気孔16に対応する位置に、シールピン34が設けられており、空気孔16を塞いで試薬が外部に漏れないように、また蒸発等しないようにしている。ノズル先端部14には、これを覆うように先端キャップ36が装着されている。先端キャップ36は、先端部分、特にボール26を保護し、またボール周辺に残った試薬の蒸発を抑制する。
【0018】
容器12に試薬を充填する際には、容器12の開放している端を上に向け、ノズル先端部14が取り外された状態で行われる。このとき、容器12には頂部キャップ32が装着されており、空気孔16から試薬が漏出することを防止している。ノズル先端部14をねじ込み、更に先端キャップ36を装着する。または、先端キャップ36があらかじめ装着されたノズル先端部14を容器12に結合するようにしてもよい。頂部キャップ32および先端キャップ36を装着した状態で、微量供給ノズル10を高速遠心機にかけて、容器12の内面に付着した試薬を先端側に集めるようにしてもよい。
【0019】
試薬供給時には、頂部キャップ32、先端キャップ36を外して、微量供給ノズル10のノズル先端部14のボール26を、試料の置かれたスライドガラス等の供給対象に押し付けるように接触させる。これによりノズル孔24内でボール26が移動し、これらの間に隙間が形成されて、試薬が流れ出し、供給対象上に供給される。微量供給ノズル10を供給対象に接触させた状態で移動させると、その軌跡に沿って試薬が供給される。このときの移動距離と試薬の供給量は、ほぼ比例する関係となるので、移動距離を調節することで試薬の供給量の調整を行うことができる。
【0020】
図6および図7は、前述の微量供給ノズル10を用いた試薬供給装置40の概要を示す図である。テーブル42上には、少なくとも1枚のスライドガラス等の処理用プレート44を収容可能な反応槽46と、複数の微量供給ノズル10を保持可能なノズル保持ラック48が載置されている。反応槽46は、処理用プレート44が置かれる台座を含む。反応槽46とノズル保持ラック48を挟むように、また図6において紙面を貫く方向に、一対のX方向レール50が配置される。さらに、X方向レール50に橋渡しされるようにY方向レール52が配置されている。Y方向レール52は、不図示の駆動機構によりX方向レール50上を、このレール50が延びる方向に沿って移動可能となっている。Y方向レール52上には、試薬供給ヘッド54が支持されており、不図示の駆動機構でY方向レール52上を、このレール52が延びる方向に沿って移動可能となっている。試薬供給ヘッド54は、微量供給ノズル10を掴んで保持するノズル保持アーム56を有し、さらにこのアーム56を上下、すなわち、前述のX方向とY方向に直交するZ方向に移動させる駆動機構を内蔵している。このように、微量供給ノズル10は、X、Y、Zの直交する3方向に搬送可能となっている。
【0021】
ノズル保持アーム56に、試薬を加熱するヒータを内蔵することもできる。また、試薬供給ヘッド54内には、処理用プレート44の画像を取得する撮影装置、例えばCCDカメラを搭載することができる。撮影装置により取得された画像を、解析して処理用プレート44上に置かれた試料片の位置を特定し、試料片の位置から試薬を供給する位置、すなわち微量供給ノズル10を接触させる位置を決定する。試薬を供給する位置は、例えば試料片の縁から所定距離離れている位置とし、供給すべき試薬の量に応じて、複数箇所とすることができる。また、ノズル10を処理用プレート44に接触させた状態で移動させ、このときの移動量を調整することによっても、試薬の供給量を調整できる。反応槽46は、供給された試薬が、処理中に乾燥しないように蓋を備えている。この蓋には、個々の処理用プレート44の上方位置にシャッタが設けられており、試薬供給時、すなわち微量供給ノズル10が降下してくる際に、このシャッタが開いてノズル10のアクセスを可能としている。
【0022】
更に、試薬供給ヘッド54には、処理用プレート44上に供給された試薬を、試料片上に展開する展開手段を設けることができる。展開手段は、例えば図8に示すように、試料片60および試薬62を供給した位置を覆うような展開板58を、処理用プレート44上の試料片60およびその周囲に押し当てる装置として実現できる。ノズル保持アーム56が退避した後、図8(a)に示すように、別のアームに支持された展開板58を試料片60および供給された試薬62の液滴に押し当て、展開板58と処理用プレート44の隙間に、試薬62を展開して試料片60に試薬が行き渡るようにする。このとき、展開板58は処理用プレートに平行な状態で押し当てられるようにすることができる。また、図8(b)に示すように、斜めの状態で近接させ、展開板58の一端をまず接触させその後、全体を押し当てるようにすることもできる。このときには、試薬62は、試料片60の、展開板58が最初に接する位置側の近傍に供給する。
【0023】
また、展開手段は、試料片60と、わずかの間隔を開けた状態で、処理用プレート44上を平行に移動する棒状部材(展開バー)64を含むものとすることができる(図9参照)。この展開バー64は断面が円であり、軸方向の2カ所に他の部分より直径の太い部分66が設けられている。この太い部分66は、棒状部材の移動に際して、試料片60を避ける位置に配置され、また太い部分66とこの他の細い部分の径の差により、細い部分が試料片60と接しないような間隔が、処理用プレート44との間に形成される。展開バー64を移動させる機構も、試薬供給ヘッド54に搭載するようにできる。展開バーを用いて展開する際には、展開バーの移動方向において、試料片60より上流位置に試薬62が供給される必要がある。前述の撮影装置で捉えた映像に基づき試料片60の位置を特定し、この試料片より、展開バー移動方向上流側に微量供給ノズルが接触するように、試薬供給ヘッド54をX,Y方向に移動させる。
【0024】
試薬供給装置40の動作について説明する。あらかじめ試薬が充填されている微量供給ノズル10の頂部キャップ32をはずして、このノズル10をノズル保持ラック48にセットする。先端キャップ36は、ノズル保持ラック48にしっかり把持され、ノズル10を引き上げると、ノズル10のみが持ち上げられ、キャップはラック上に残る。試薬を複数使用する場合は、ノズル保持ラック48上の位置と、そこに保持された微量供給ノズル10に充填された試薬の種類の関係が制御装置に記憶される。
【0025】
試薬供給ヘッド54は、制御装置の制御に従って、X,Y方向に駆動され、必要な試薬が充填された微量供給ノズル10の上方に移動し、そこからノズル保持アーム56を下降させて微量供給ノズル10を保持する。そして、微量供給ノズル10を保持した状態でノズル保持アーム56を上昇させ、再度X、Y方向に移動することにより、微量供給ノズル10を対象の処理用プレート44上方へ搬送する。このとき撮影装置により処理用プレート44上を撮影し、取得された画像から制御装置は試料片の位置を特定する。そして、試料片60の近傍、かつ展開手段による展開が効果的に行われる位置に、微量供給ノズル10を降下させて、処理用プレート44上に接触させて試薬の液滴を付着させる。。次に、展開手段により、試薬の液滴を展開して試料に接触させる。使用済みの微量供給ノズル10は、ノズル保持ラック48に戻される。反応槽46のシャッタを閉めた状態で、反応に必要な時間が経過するのを待つ。所定の時間が経過した後、次の試薬が必要な場合は、再度上記の動作を繰り返す。
上記の微量供給ノズルの弁体は、ボールすなわち球形状であるが、棒状など他の形状であってもよい。また、弁体を付勢するばねは、板ばね以外の形状、例えばコイルばねなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の微量供給ノズルを示す斜視図である。
【図2】微量供給ノズルの断面図である。
【図3】微量供給ノズルのノズル先端部分の拡大断面図である。
【図4】キャップを装着した状態の微量供給ノズルを示す斜視図である。
【図5】キャップを装着した状態の微量供給ノズルの断面図である。
【図6】本実施形態の微量供給ノズルを使用する試薬供給装置の概要を示す正面図である。
【図7】図6に示された試薬供給装置の平面図である。
【図8】展開板の例を示す図である。
【図9】展開バーの例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 微量供給ノズル、12 容器、14 ノズル先端部、16 空気孔、24 ノズル孔、26 ボール、32 頂部キャップ、34 シールピン、36 先端キャップ、40 試薬供給装置、44 処理用プレート、46 反応槽、48 ノズル保持ラック、54 試薬供給ヘッド、56 ノズル保持アーム、62 試薬。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を収容する容器と、
容器の端に備えられ、収容された試薬を、試料を載せた処理用プレート上に供給する試薬供給部と、
試薬供給部に設けられ、試薬供給部が処理用プレート上面に接触することにより、微量の試薬の供給を許容する供給制御部と、
を有する、微量供給ノズル。
【請求項2】
請求項1に記載の微量供給ノズルであって、
前記供給制御部は、試薬が流通するノズル孔を有するノズルチップと、前記試薬供給部の接触により前記ノズル孔を開放する弁体と、を有する、
微量供給ノズル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の微量供給ノズルであって、前記容器には、容器より流出した試薬の分、容器内に空気を導入するための空気孔が設けられている、微量供給ノズル。
【請求項4】
請求項3に記載の微量供給ノズルであって、前記容器の、少なくとも空気孔とこれが設けられた周囲に被さり、前記空気孔を塞ぐキャップを有する、微量供給ノズル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の微量供給ノズルを備え、処理用プレート上で試料の試薬処理を行う試薬処理装置であって、
試料を載せた処理用プレートを保持する台座と、
前記微量供給ノズルを保持し、搬送する搬送機構と、
を有し、
搬送機構が、微量供給ノズルの試薬供給部を処理用プレートに接触させて、試薬を供給する、試薬処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の試薬処理装置であって、
前記搬送装置は、微量供給ノズルの試薬供給部を、処理用プレートに接触させた状態で、処理用プレートの上面に沿って、供給する試薬の量に応じた所定の長さ移動させる、
試薬処理装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載された試薬処理装置であって、
処理用プレート上を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により得られた画像から、処理用プレート上の試料の位置を算出する試料位置算出手段と、
を有し、
前記搬送装置は、算出された試料位置に基づき、試料の側方の処理用プレート上に、前記微量供給ノズルの試薬供給部を接触させる、
試薬処理装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の試薬処理装置であって、処理用プレート上に供給された試薬を延ばして試料上に展開する展開部材を有する試薬処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−8411(P2009−8411A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167311(P2007−167311)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】