説明

心と体の健全性の維持・改善・増強剤

【課題】生体の本来持っている健全性を回復させることにより生体の精神的・肉体的健全性の維持・改善・増強を図る薬剤の提供。
【解決手段】下記式で表すセスキテルペン類縁体の少なくとも1種が有効成分の薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は人の精神的・肉体的健全性の維持・改善・増強剤に関する。
【背景技術】
現在の多くの医薬品は従来の生化学や分子生物学的知見に基づいて、原因と結果が直線的な因果律で説明できるものとして開発され、そのような考え方で臨床評価されているものが多い。その結果病気は治ったけれど患者は死亡していたということが、医薬品の有効性という観点だけからみるとおおいに起こりうることであった。典型的な例は抗がん剤でガンそのものは縮小しているのに患者は死亡してしまった、ということはよくあることである。しかし最近の医学・生物学からの生命理解や病態理解はこのような直線的な因果律でなく非線形的・ネットワーク的・全体論的な方法論で可能になり、従来の直線的還元論では解決できなかった病態にも対応できるようになりつつある。このような方法論は複雑系研究やカオス研究と呼ばれる分野で用いられている方法論であり医療にもとりいれられている。(W.Yang,A.J.Mandell et al:Physical Review E,Vol.51,Number1,p102−110,1995)(宮崎和成:人の心と体の健全性評価、複雑現象工学−複雑系パラダイムの工学応用−、第5.3節 (独)産業技術総合研究所監修、プレアデス出版、2005年、以下参考資料1と記す) (Miyazaki et.al.国際出願番号:PCT/JP02/04114,US出願番号10/474507、以下参考資料2と記す) 又、遺伝子発現と病態を関係付けようとするジェノミックスや、蛋白質の働きから病態を知ろうとするプロテオミックス、それらを情報論的に研究するバイオインフォーマティックス、これらのすべてを含めて研究しようというシステムバイオロジーという分野は、従来の還元論的医学・生物学の直線的な因果律を乗り越えて新しい非線系的、ネットワーク的な因果律に基づく全体論的医療の世界を切り開きつつある。(Hiroaki Kitano:Biological Robustness,Nature Reviews Genetics 5,826−837,2004)(J.K.Nicholson et.al.:Nature Biotechnology 22,1268−1274,2004)(F.J.Isaacs et.al.:Science 307,1886−1888,2005)このような医学・生物学の考え方に立てば、個々の病気の分類にそって直線的因果律を考えて開発された薬剤の使われ方は従来と違ったもになっても不思議ではない。本発明はこのような全体論的生命理解に基づき全体論治療を可能にする方法を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本発明者は上記課題に鑑み、全体論的治療を可能にする手法について検討を重ねてきた。その結果、上記式(1)及び(2)で表されるセスキテルペン類縁並びにこれら化合物の塩から選ばれた少なくとも1種が、このような全体論的治療を可能にする生体の本来の健全性・復元力(ローバストネス)を改善・増強することを見出し、ここに本発明を完成するに至った。本発明薬剤において、有効成分として用いられる上記式(1)及び(2)で表される化合物は、本発明者が先に開発した化合物であり、例えば特公平8−9540や特公平6−99305に記載されるように腫瘍壊死因子遊離抑制剤や糖尿病治療剤として有用であることが知られている。又特開紹64−6214号公報に記載されるように、潰瘍性大腸疾患治療剤を含むある種の医薬用途に有効であることが知られている。しかるに、本発明者は、別途研究の結果、該化合物が上記各公報に記載された医薬用途からは全く予期できない、個別の病態の特定の部位に作用するのではなく、生体の情報伝達系の復元力に作用する事により心と体の健全性・復元力を維持・改善・増強することにより個別の病態によらない有効性を示す事を見出した。この知見により該化合物の適用範囲と投与法、効果判定法を決める事ができ、新しい有用性を見出した事により本発明を完成したのである。該化合物は特公平8−9540や特公平6−99305に記載されているようにスタキボトリス エスピー・K−76(微工研菌奇第3801号)を用いて醗酵生産させたK−76アルデヒド体の1つのアルデヒド基を化学的にカルボン酸に酸化することにより製造することができる。この化合物を用いて参考資料1、2に記載されている方法を用いて該化合物の適用範囲や投与法・投与期間を決める事ができ、その結果として該化合物の臨床効果を導き出すことに成功した。この方法は生体の自然治癒力・復元力、具体的には生体情報伝達系のローバストネスをより正確に判定することにより初めて可能になることである。これを測定するために本発明者は参考資料1,2に記載されているように、生体信号とりわけ脈波の時系列データから一定時間ごとのリアプノフ指数とエントロピーの平均値を求め、これら2種のデータのM−Symmetry法、Wavelet Transform(ウェーブレット法)、Mirror Value(ミラー値)に基づく方法を用いた対称性分析、並びに/或いは、同じ生体信号からベルヌーイシフトを行って、リアプノフ指数とエントロピーの時系列データを求め、これら相関性を求めることにより、良好ないし正常な生体の復元力と良好でない又は正常でない復元力を容易に判定できることを見出した。又、この復元力で表される生体状態の判定結果は精神的・肉体的臨床症状に先行して現れることも見出した。
又、生体信号の時系列データをF−symmetry法に基づき分析してヒグチフラクタル(Higuchi Fractal)次元の比(D1/D2)を算出し、この比を用いた対称性分析をさらに組み合わせることで、判定の精度を著しく向上できることを見出し、該化合物の臨床効果をより一層発揮させる投与法を見つけ出すことに成功した(参考資料1,2)。又、該化合物の臨床効果を導き出す投与法の選択は、本発明者が参考資料1に記載している分子レベルから細胞レベルにいたる生体の情報伝達系に対する該化合物の作用機序から導くことができることも見出した。参考資料1で本発明者が実験に使用したDNAの転写調節やカルシューム作用調節は分子レベルから細胞レベル、生体レベルの情報伝達系で普遍的に使われている分子群であり、免疫・ホルモン・神経系の疾患ではこれらの調節異常が多く知られている。参考資料1で示したデータはこれらの伝達系のレスポンスを増強したり抑制したりすることにより常に一定範囲に保とうとする作用である。この作用が脈波の時系列データの変化となって測定されていることが判明したことにより該化合物の投与法を決めるにあたり、分子レベルから生体レベルにいたる連続した多くの生体情報を利用できるようになり本発明を完成させることができた。
【図面の簡単な説明】
図1は各種疾患におけるミラーバリュー(リアプノフ指数とエントロピー値の差)の平均値を示している。健常人に比べて末期がん、うつ病、統合失調症、喘息、潰瘍性大腸炎等の免疫・ホルモン・神経関連疾患でともに低い値を示している(参考資料1,2)。
図2はヒグチフラクタル(Higuchi Fractal)次元の比(D1/D2)を算出しそれから求めたF−コンスタント(F−Constant)を健常者、うつ病、統合失調症、アルツハイマー病等で比較したものである。各病態で健常者に比べて低い値を示している(参考資料1,2)。
図3は健常者とうつ病、統合失調症患者をリアプノフ指数(以下λ1)とエントロピー値(以下E)を用いて識別した図である。これだけでは識別率は83%であるがF−コンスタントやニューラルネットワークを同時に使うことによりほぼ100%の識別ができる(参考資料1,2)。
図4は該化合物1回20mg投与前後のλ1とEの変動を示している。該化合物投与によってλ1とEは互いに逆方向に大きく動き、ゆらぎの幅が拡大し次には又、反対方向へと動いている。従って、λ1とEの差(ミラーバリュー)が大きくなることがわかる(参考資料1)。
図5は図4の該化合物投与前後のλ1とEの傾向除去変動解析(Detrended Fluctuation Analysis)法によって得られる自己相似係数αの変動を表している。この指標によってもこの信号は長距離相関を回復し生体全体の健全性が回復したことがわかる(参考資料1)。
図6は免疫・ホルモン・神経関連の生体情報伝達系分子の相互関係を大まかに示すフローチャートである。このチャートでは最終生体反応が遺伝子発現になる場合を示しているがその他の生体反応でも各分子間の相互関係は基本的に変わらない。該化合物の作用点は各蛋自分子名の下に線を引いて示している。又、各分子の省略名と正式名を下段に示している(参考資料1)。
図7はカルシュームの関与する一部の生体情報伝達系の大まかなフローチャートを示している。又、各分子の省略名と正式名を下段に示した。
図8は該化合物によって抑制されたり増強されたりする転写調節因子CREBとDNAの結合状態を示している(参考資料1)。
図9は該化合物によって抑制されたり増強されたりする遺伝子発現の状態を示している(参考資料1)。
図10は該化合物によって刺激の大きいときは抑制的に調節され刺激の小さいときは増強的に調節される細胞内カルシューム分布を示している。各濃度の該化合物を48時間、HEK293(Human Embryonic Kidney)cellと培養し5μMのThapsigarginで刺激しfluo−3の蛍光標識を使い共焦点顕微鏡で細胞内遊離カルシュームの測定を行った(B.J.Bacskai et.al.:Nature,347,388−391,1990、参考資料3)。左側の上、下がNormal Mediumで培養したときで該化合物を加えた下の方で細胞内遊離カルシュームが多く放出されていることがわかる。右側がCalcium−free mediumで該化合物を加えたほうでカルシュームの放出が抑制されている。刺激は左が弱く、右では強いので該化合物は弱い刺激を増強し強い刺激を抑制していることになる。
図11は各濃度の該化合物で48時間処理後のHEK293cellのカルバコール刺激で放出される細胞内遊離カルシュームを参考資料3の方法で測定した結果を示している。該化合物濃度が高いほどカルシュームスパイク振動が減少している。
図12は図11のカルシュームスパイク振動のリアプノフ指数(λ1)を示す。振動の減少とピーク幅の増加にともなってλ1が増加していることがわかる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明薬剤において、有効成分として用いられる上記式(1)及び式(2)であらわされる化合物は先に本発明者等が開発した化合物であり、例えば、特公平8−9540や特公平6−99305に記載されているように製造し、製剤したものを用いることができる。該化合物の適用範囲は情報伝達系に何らかの異常を示す免疫・ホルモン・神経系の関与する疾患であり、病態発症前の段階でもこれらの情報伝達機構の頑健性・復元力・健全性が低下していると判定されれば投与適用となる。その生体状態の判定は本発明者等が開発した方法(参考資料2や参考資料1)を使うことができる。図1,2,3に示したミラーバリューとF−Symmetryに基づく方法を用いた対称性分析のいずれかでも健常の範囲に入っていなければ適用範囲になる。又、図5に示したようにリアプノフ指数とエントロピーの時系列データからDFA解析によって得たα値が0.5〜1.0の範囲に入らない場合も適用範囲となる。これらの指標の健全性が回復するまで1日1回から3回、1回当たり10mgから100mgを投与することができる。健全性の範囲は例えば、うつ病患者の場合図3に示した健常者とうつ病患者の識別方法を用いることができる。各種疾患の従来から使われている薬剤の判定もこの方法で可能であるし、該化合物と従来薬の併用の効果もこの方法で可能である。図6から12に示した生体分子同士の相互作用や細胞機能に対する該化合物の作用はこれらの情報伝達系過程が主に病態に関係していると考えられる疾患に対する該化合物の適用の選択に役立てることができる。又、これらのIn vitroシステムはそのままで本発明で示したような効果を示す化合物を分子レベル、細胞レベルでのスクリーニングで探索するためのシステムとして使用することができる。
【産業上の利用可能性】
従来の医療では対応が困難であった、原因と結果が直線的でない免疫・ホルモン・神経系の関与する病態に対して、該化合物の本発明に基づく投与は、生体の本来の自然治癒力・復元力を回復させるように働くことから、従来の医療では回復困難であった病気の治療に新しい道を開くことになる可能性がある。同時に病気にはいたっていないが生体が本来持っている健全性が損なわれつつあるという生体状態を改善し本来の健全性を取り戻させるという目的に使える可能性がある。 運動療法、食事療法、海洋療法、音楽療法等の施術の効果を該化合物の投与法を併用することで高められる可能性もある。又、東洋医学の全体論的療法と従来の西洋医学の直線的還元論に基づく療法を該化合物の本発明に基づく投与療法と併用することでより良い治療効果を得ることも可能となる。図に示したIN Vitroの試験や本発明で使っている生体状態判定法を使って化合物をスクリーニングすることで、該化合物のような自然の回復力を増強させる薬剤を見つけ出すことも可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】

上記式(1)、及び(2)で表されるセスキテルペン類縁体並びにこれら化合物の塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする自然治癒力・復元力の維持・改善・増強剤。
【請求項2】
生命の情報伝達系の頑健性(ノイズ抵抗性、復元力、ローバストネス(Robustness))を維持・改善することにより人の心と体の健康の維持・改善・増強をはかることを特徴とする請求項1の薬剤。
【請求項3】
生体信号、例えば脈波、とりわけ指尖脈波のカオス解析で判定される生体の頑健性・健全性を維持・改善・増強することを特徴とする請求項1,2で述べた薬剤。

【公開番号】特開2007−63242(P2007−63242A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278695(P2005−278695)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月28日 プレアデス出版発行の「複雑現象工学−複雑系パラダイムの工学応用−」に発表
【出願人】(503378567)有限会社生体複雑系研究所 (1)
【Fターム(参考)】