説明

心不全の治療剤

【課題】
交感神経系の異常、特に交感神経系の分化形質転換と心不全発症の分子メカニズムあるいは病態との関連を解明することにより、心不全の治療および予防のための新たな手段を提供する。
【解決手段】
カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質を有効成分とする心不全の治療剤、および前記治療剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質を有効成分とする心不全の治療剤、および前記治療剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の機能は交感神経系と副交感神経系のバランスによって緊密にコントロールされている。交感神経系はノルエピネフリン(NE)を産生し、心拍数、伝達速度、心筋の収縮弛緩を増大させるが、副交感神経系はアセチルコリンを産生し、心臓のはたらきに抑制的に作用する。
【0003】
うっ血性心不全では、交感神経系がアップレギュレートされ、その過剰な興奮が心臓にダメージを与え、重篤な不整脈や心臓NEの枯渇をもたらす。このNEの枯渇は、過剰なNE分泌やNE再取込みの阻害によると考えられてきた。これに対し、最近発明者らは、うっ血性心不全におけるNEの減少は、NE再取込みの低下を伴うNE合成のダウンレギュレーションによることを報告した(非特許文献1)。
【0004】
In vitroで白血球阻害因子(Leukemia inhibitory factor: LIF)はgp130を介して交感神経を誘導し、神経伝達物質をカテコールアミンからアセチルコリンに転換させることが知られている(非特許文献2)。発明者らは、培養ラット心臓細胞から、交感神経の伝達物質をカテコールアミンからアセチルコリンコリンに転換させるコリン作動性分化形質転換因子を精製し、これがLIFと同一であることを報告した(非特許文献3)。LIFはIL-6ファミリーのメンバーであり、in vitroおよびin vivoで神経伝達物質の転換を誘導する。なお、gp130はIL-6、LIF、CNTF、OSM、CT-1等の受容体に共通のコンポーネント(βサブユニット)である。
【0005】
汗腺は生まれた時にはカテコールアミン作動性神経の支配を受けるが、成長するにつれて神経伝達物質がカテコールアミンからアセチルコリンに変わることが知られている。IL-6ファミリー受容体の共通成分であるgp130の交感神経特異的ジーンターゲッティングにより、汗腺では交感神経はコリン作動性神経には分化しないことが確認されている(非特許文献4)。LIFを膵島で過剰発現するトランスジェニックマウスでは、カテコールアミン作動性神経の減少と、コリン作動性神経の増加がみられる(非特許文献5)。これらの結果は、LIF/gp130 シグナリングがコリン作動性神経への分化形質転換に不可欠であることを示唆する。
【0006】
一方、うっ血性心不全の心臓では、成長因子やサイトカインレベルが上昇し、成人心臓細胞において胎児性遺伝子発現(いわゆるrejuvenation(若返り))を誘導するLIFや他のIL-6ファミリーがアップレギュレートされること、胎児の交感神経に特異的な未成熟神経マーカーであるGAP43とPSA-NCAMの強い発現がみられることが知られている。これらの事実は、心臓の交感神経系の異常が神経のrejuvenationと関連していることを示唆する。
【0007】
これまで心不全と交感神経系の異常との関連については十分な報告はない。現在、心不全の薬物治療には、静脈うっ滞を改善するには利尿薬が、心臓の拍出量改善のためには強心薬が使われ、必要に応じて血管拡張薬が併用されている。もし心不全と心臓交感神経系の異常との関連が明らかにされれば、それは心不全治療の新たな標的となり得る。
【非特許文献1】Kimura, K., et al., "Cardiac Sympathetic Rejuvenation: A Link between Nerve Function and Cardiac Hypertrophy.", Circ Res 100, 1755-64 (2007)
【非特許文献2】Patterson, P.H. and Chun, L.L., "The influence of non-neuronal cells on catecholamine and acetylcholine synthesis and accumulation in cultures of dissociated sympathetic neurons.", Proc Natl Acad Sci U S A. 71, 3607-3610 (1974)
【非特許文献3】Yamamori, T. et al., "The cholinergic neuronal differentiation factor from heart cells is identical to leukemia inhibitory factor.", Science 246, 1412-6 (1989)
【非特許文献4】Stanke, M. et al. "Target-dependent specification of the neurotransmitter phenotype: cholinergic differentiation of sympathetic neurons is mediated in vivo by gp 130 signaling." Development 133, 141-50 (2006)
【非特許文献5】Bamber, B. A., Masters, B. A., Hoyle, G. W., Brinster, R. L. & Palmiter, R. D. "Leukemia inhibitory factor induces neurotransmitter switching in transgenic mice." Proc Natl Acad Sci U S A 91, 7839-43 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、交感神経系の異常、特に交感神経系の分化形質転換と心不全発症の分子メカニズムあるいは病態との関連を解明することにより、心不全の治療および予防のための新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、うっ血性心不全のヒト患者および動物モデルにより、交感神経系の分布と伝達物質、各種マーカーの発現を解析した。その結果、うっ血性心不全では神経伝達物質の転換、すなわち、カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換が生じ、このプロセスは不全心筋から放出されるコリン作動性分化形質転換を介したgp130介在性シグナリングによって誘導されることを確認した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤に関する。
【0011】
前記分化形質転は、交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換として現われ、したがって、本発明はそのような神経伝達物質の転換を阻害する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤を提供する。
【0012】
ある実施形態において、前記カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換あるいは神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質は、白血病阻害因子(LIF)シグナルを阻害する物質である。
【0013】
前記LIFシグナルを阻害する物質としては、LIFに結合し、LIFとLIF受容体の結合を阻害する物質を挙げることができる。
【0014】
別な実施形態において、前記カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換あるいは神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質は、カルジオトロフィン−1(cardiotrophin-1 : CT-1)シグナルを阻害する物質である。
【0015】
前記CT-1シグナルを阻害する物質としては、CT-1に結合し、CT-1とCT-1受容体の結合を阻害する物質を挙げることができる。
【0016】
本発明はまた、コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤も提供する。
【0017】
前記分化形質転はまた、交感神経から放出される神経伝達物質のアセチルコリンからカテコールアミンへの転換として現われ、したがって、本発明はそのような神経伝達物質の転換を促進する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤も包含する。
【0018】
コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換あるいは神経伝達物質のアセチルコリンからカテコールアミンへの転換を促進する物質としては、神経細胞成長因子(NGF)を挙げることができる。
本発明の対象となる心不全は、特にうっ血性心不全である。
また本発明は、以下の工程を含む心不全の治療剤のスクリーニング方法に関する:
(a) 被検物質の交感神経からコリン作動性ニューロンへの分化形質転換阻害活性を測定する工程、
(b) 前記測定結果に基づき、交感神経のコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する活性を有する物質を心不全の治療剤として選択する工程。
さらに本発明は、以下の工程を含む心不全の治療剤のスクリーニング方法に関する:
(a) 被検物質の交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する活性を測定する工程、
(b) 前記測定結果に基づき、交感神経から放出される神経伝達物質のアセチルコリンへの転換を阻害する活性を有する物質を心不全の治療剤として選択する工程。
ある実施形態において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(a) 被検物質のLIFシグナル阻害活性を測定する工程、
(b) LIFシグナル阻害活性を有する物質を選択する工程。
別な実施形態において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(a) 被検物質のCT-1シグナル阻害活性を測定する工程、
(b) CT-1シグナル阻害活性を有する物質を選択する工程。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、交感神経系の分化形質転換を標的とした、心不全の治療および予防のための新たな方法が提供される。本願発明の心不全の治療剤は、強心剤や利尿薬等の従来の心不全治療薬とは異なる作用メカニズムを有し、心不全の根本的かつ予防的治療を可能にし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.定義
1.1 交感神経系と副交感神経系
交感神経系(SNS: Sympathetic nervous system)
「交感神経系」は、消化、呼吸、発汗、および代謝といった生体の自律機能を調節する神経系(自律神経系)の一つである。自律神経系は、この交感神経系と後述する副交感神経系の2つの神経系からなり、ひとつの臓器に対しては、一般にこれら2つの神経系が拮抗的に働く。交感神経系は、一般に激しい活動を行っている時に活性化される。したがって、その活性化は、心臓であれば、血圧が上昇し、心拍数が増大し、心収縮力が増大する。
【0021】
交感神経の軸索は交感神経節などでニューロンを乗り換え、その節後繊維が標的細胞に達する。交感神経のシナプス伝達はニコチン性アセチルコリン受容体を介して行われ、節後繊維の末端からはノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が伝達物質として放出される。
【0022】
副交感神経系(PNS:Parasympathetic nervous system)
「副交感神経系」は、生体の自律機能を調節するもう一つの神経である。副交感神経の伝達物質は神経節、神経終末の両方ともアセチルコリンである。
【0023】
1.2 コリン作動性ニューロンとカテコールアミン作動性ニューロン
自律神経は「コリン作動性ニューロン」と「アドレナリン作動性ニューロン」に分類される。
「コリン作動性ニューロン」とは、神経伝達物質としてアセチルコリンを放出するニューロンのことをいう。コリン作動性ニューロンは大量のアセチルコリンにより遮断されることが知られている。
【0024】
「カテコールアミン作動性ニューロン」とは、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)またはアドレナリン(エピネフリン)を神経伝達物質として放出するニューロンのことをいう。
【0025】
1.3 神経伝達物質−アセチルコリンとカテコールアミン
「神経伝達物質」とは、シナプスでシグナル伝達に介在する物質で、シナプス前細胞の細胞体で合成される。シナプス終末に活動電位が到達すると、前細胞が開口、神経伝達物質が放出され、シナプス後細胞膜上の受容体に結合し、イオンチャンネルを開き、脱分極(あるいは過分極)を起こさせる。
【0026】
カテコールアミン
「カテコールアミン」は、カテコールアミン作動性ニューロンから放出される神経伝達物質である。「カテコールアミン」はカテコール核を有する生理活性アミンの総称であり、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンが含まれる。
【0027】
アセチルコリン
「アセチルコリン」は、コリン作動性ニューロンから放出される神経伝達物質である。「アセチルコリン」はコリンの酢酸エステル化合物で、コリンアセチルトランスフェラーゼのはたらきにより、コリンとアセチルCoAから合成される。
【0028】
1.4 分化形質転換(transdifferentiation)
「分化形質転換」とは、分化した機能的な細胞種が他の正常な細胞種に変わることを意味し、いったん決定された分化形質が異質のものに変わる分化決定転換、細胞の腫瘍化を包含する形質転換、組織レベルでの形質転換である化生と区別されている。
【0029】
本発明において「カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換」とは、カテコールアミン作動性ニューロンが分化形質転換することによりコリン作動性ニューロンへ変化することをいう。
【0030】
前記分化形質転換は、当該ニューロンにおける神経伝達物質のカテコールアミンからコリンへの転換として把握できる。
【0031】
1.5 カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質
本発明で用いられるカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質は特に限定されず、いかなる物質でもよい。ある物質がカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害するか否かは当業者に公知の方法により測定することが可能である。
【0032】
カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換の阻害を測定する方法は特に限定されないが、例えば、カテコールアミン作動性ニューロンマーカーやコリン作動性ニューロンマーカーを指標として行うことが可能である。カテコールアミン作動性ニューロンマーカーを上昇させる物質やコリン作動性ニューロンマーカーを減少させる物質はカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質と考えられる。コリン作動性ニューロンマーカーは特に限定されないが、例えば、choline transporter (CHT)やvesicular acetylcholine transporter (VAChT)、choline acetyltransferaseなどを挙げることができる。カテコールアミン作動性ニューロンマーカーは特に限定されないが、例えば、tyrosine hydroxylase (TH)などを挙げることができる。
【0033】
例えば、アンジオテンシンIIで刺激した心筋細胞の培養液を含む培地で星状ガングリオンニューロン(stellate ganglion neuron)を培養するとカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換が促進され、CHTやVAChTなどのコリン作動性ニューロンマーカーが増加し、THなどのカテコールアミン作動性ニューロンマーカーが減少する。被検物質の存在下および非存在下においてこのコリン作動性ニューロンマーカーの増加およびカテコールアミン作動性ニューロンマーカーの減少を観察し、被検物質存在下においてコリン作動性ニューロンマーカーの増加が抑制および/またはカテコールアミン作動性ニューロンマーカーの減少が抑制された場合には被検物質はカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する活性を有していると判断される。
【0034】
カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進する物資の例としては、LIF、CT-1、カルジオトロフィン様サイトカイン(CLC)や毛様体神経栄養因子(CNTF)などのニューロポエチン、ニューロトロフィン-3(NT-3)やグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)などの神経栄養因子などを挙げることができる。従って、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンの分化形質転換を阻害する物質の例としては、これらの因子を阻害する物質を挙げることができる。
【0035】
1.6 LIFシグナルを阻害する物質
本発明で用いられるカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質の好ましい例として、白血病阻害因子(Leukemia inhibitory factor:LIF)シグナルを阻害する物質を挙げることができる。
【0036】
LIFは約180個のアミノ酸からなるペプチドに約20kDa〜40kDaの糖鎖が結合した分子量約40000〜60000の糖タンパク質であり、そのアミノ酸配列も公知である(例えば、GenBank Accession No:NP_002300、Proc. Nat. Acad. Sci. 85: 2623-2627, 1988など)。
【0037】
LIFは、LIF受容体(例えば、GenBank Accession No:CAA43805)とgp130からなるヘテロ受容体を介してそのシグナルを伝達する。
【0038】
本発明のLIFシグナルを阻害する物質としては、特に限定されないが、LIF、LIF受容体、gp130のいずれかの発現を阻害する物質(例えば、LIFの発現を阻害する物質、LIF受容体の発現を阻害する物質)、LIF、LIF受容体、gp130のいずれかに結合してLIFとその受容体への結合を阻害する物質(例えば、LIFに結合する物質、LIF受容体に結合する物質)などを挙げることができる。
【0039】
LIF、LIF受容体、gp130のいずれかの発現を阻害する物質の例としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、dsRNAあるいはsiRNAなどを挙げることができる。
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は公知の方法にしたがい、LIF、LIF受容体、gp130をコードするDNAまたはmRNAの所定領域を構成するヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチドとして調製できる。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、当該所定領域に安定にハイブリダイズしてLIF、LIF受容体、gp130の発現を阻害できる限り、多少のミスマッチが存在してもよく、オリゴヌクレオチド誘導体や修飾体を含んでいてもよい(特開平09-118623等参照)。修飾体としては、例えばメチルホスホネートやエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体あるいはホスホロアミデート修飾体等を挙げることができる。
【0040】
「dsRNAあるいはsiRNA」は、LIF、LIF受容体、gp130のmRNAの所定領域と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAであって、その発現システムは公知の方法にしたがい調製できる(特表2006/016657等参照)。「dsRNAあるいはsiRNA」は、LIF、LIF受容体、gp130の発現を阻害できる限り、その二重鎖RNA部分に多少のミスマッチが存在してもよく、細胞内で毒性を発現しない限りその長さも制限されない。
【0041】
特に、本発明のLIFシグナルを阻害する物質の好ましい態様として、LIF、LIF受容体、gp130のいずれかに結合してLIFとその受容体との結合を阻害する物質を挙げることができ、特に好ましくはLIFまたはLIF受容体に結合してLIFとその受容体との結合を阻害する物質を挙げることができる。
【0042】
LIFシグナル阻害活性は当業者に公知の方法、例えば後述する方法などにより測定することが可能である。
【0043】
1.7 CT-1シグナルを阻害する物質
本発明で用いられるカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質の好ましい例として、カルジオトロフィン-1(cardiotrophin-1:CT-1)シグナルを阻害する物質を挙げることができる。
【0044】
CT-1はIL-6ファミリーサイトカインの一つであり、そのアミノ酸配列は公知である(例えば、Cytokine 8: 183-189, 1996、GenBank Accession No:NP_001321)。
【0045】
CT-1もまた、gp130をβサブユニットとして含む受容体を介してそのシグナルを伝達する。本発明のCT-1シグナルを阻害する物質としては、特に限定されないが、CT-1、CT-1受容体、gp130のいずれかの発現を阻害する物質(例えば、CT-1の発現を阻害する物質、CT-1受容体の発現を阻害する物質)、CT-1、CT-1受容体、gp130のいずれかに結合してCT-1とその受容体への結合を阻害する物質(例えば、CT-1に結合する物質、CT-1受容体に結合する物質)などを挙げることができる。
【0046】
CT-1、CT-1受容体、gp130のいずれかの発現を阻害する物質の例としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、dsRNAあるいはsiRNAなどを挙げることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド、dsRNAあるいはsiRNAの調製については、前述のとおりである。
【0047】
特に、本発明のCT-1シグナルを阻害する物質の好ましい態様として、CT-1、CT-1受容体、gp130のいずれかに結合してCT-1とその受容体との結合を阻害する物質を挙げることができ、特に好ましくはCT-1またはCT-1受容体に結合してLIFとその受容体との結合を阻害する物質を挙げることができる。
【0048】
CT-1シグナル阻害活性は当業者に公知の方法、例えば後述する方法などにより測定することが可能である。
【0049】
本発明のカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質、交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質、LIFシグナルを阻害する物質またはCT-1シグナルを阻害する物質は特に限定されず、阻害活性を有する限りタンパク質、抗体、合成低分子化合物、天然化合物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物など例示できる。
【0050】
本発明のカテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質、交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質、LIFシグナルを阻害する物質またはCT-1シグナルを阻害する物質の好ましい例として、抗体を挙げることができる。
【0051】
例えば、本発明のLIFシグナルを阻害する物質の好ましい例としては抗LIF抗体、抗LIF受容体抗体、抗gp130抗体を挙げることができ、CT-1シグナルを阻害する物質の好ましい例としては抗CT-1抗体、抗CT-1受容体抗体、抗gp130抗体を挙げることができる。
これらの抗体はLIF受容体、CT-1受容体またはgp130を介したシグナル伝達を遮断し、LIF、CT-1などの生物学的活性を阻害する物質である。
【0052】
本発明で用いられる抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来の抗体である。
【0053】
本発明で使用される抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるもの等がある。
【0054】
抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、LIF、LIF受容体、CT-1、CT-1受容体、gp130あるいはこれらの免疫学的に活性な断片などを感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0055】
具体的には、抗体を作製するには次のようにすればよい。
抗原の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または、培養上清中から目的の抗原蛋白質を公知の方法で精製し、この精製蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、抗原を発現している細胞や抗原蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0056】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0057】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0058】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0059】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270 )、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
【0060】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0061】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0062】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0063】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0064】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0065】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質または抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原または抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原または抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602、WO 94/25585、WO 96/34096、WO 96/33735参照)。
【0066】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0067】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0068】
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0069】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0070】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0071】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0072】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0073】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0074】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0075】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
【0076】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
【0077】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0078】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、通常、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体重鎖C領域の例としては、Cγ、Cα、Cμ、Cδ、Cεが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4を使用することができる。ヒト抗体軽鎖C領域の例としては、κまたはλを挙げることができる。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0079】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、これらはヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
【0080】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。
【0081】
得られた抗体のLIF、LIF受容体、CT-1、CT-1受容体またはgp130への結合活性は当業者に公知の方法で測定することは可能である。また、抗体のLIFシグナル阻害活性またはCT-1シグナル阻害活性も当業者に公知の方法で測定することが可能である。
【0082】
2. 本発明にかかる心不全の治療剤
本発明にかかる心不全の治療剤は、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質を有効成分として含有する。
【0083】
本願実施例に示すよう、発明者らは、ヒトおよび動物モデルを用いて心不全(特にうっ血性心不全)の心臓交感神経系では、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換(CTD)が起きていることを明らかにした。そして、この転換は、インターロイキン6ファミリーのメンバーである白血病阻害因子(LIF)やカルジオトロフィン−1(cardiotrophin-1 : CT-1)によって媒介され、特にその共通コンポーネントであるgp130シグナル経路によって制御されていることを明かにした。
【0084】
これらの事実は、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害することにより、心不全(特にうっ血性心不全)の治療あるいは予防が可能となることを示す。
【0085】
カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換は、交感神経における神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換として捉えることもできる。したがって、本発明の心不全の治療剤は、交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質を有効成分とするともいえる。
【0086】
カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換は、前述のとおりLIFやCT-1によって介在される。したがって、本発明の心不全の治療剤の有効成分として、LIFやCT-1のシグナリングを阻害する物質を利用することができる。
【0087】
同様の効果(心不全の治療効果)は、コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進させること、換言すれば、交感神経における神経伝達物質のアセチルコリンからカテコールアミンへの転換を促進させることによっても、達成できる。したがって、コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換(交感神経における神経伝達物質のアセチルコリンからカテコールアミンへの転換)を促進させる物質も、本発明の心不全の治療剤として有効である。そのような物質の例としては、神経細胞成長因子(NGF)を挙げることができる。NGFは天然由来の配列を有するNGFでもよいし、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された改変体などであってもよい。
【0088】
本発明の心不全の治療剤は、経口、非経口投与のいずれも可能であるが、非経口投与であることが好ましい。具体的には、経肺剤型(例えばネフライザー等の器具を用いた経肺投与剤)、経鼻投与剤型、経皮投与剤型(例えば軟膏、クリーム剤)、注射剤型等が好適な剤型として挙げられる。注射剤型の例としては、例えば点滴等の静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等が挙げられ、これにより全身または局部的に投与することができる。こうした投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することもできる。
【0089】
本発明の治療剤の有効投与量は、投与される有効成分に応じて当業者が適宜決定することが可能であり、特に限定されるものではないが、通常、一回につき体重1kgあたり0.001mg から1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000mg/bodyの範囲で選ばれる。上記は一般的な値であって、各治療剤の投与量はその有効成分の特定と効果に応じて適宜設定され、これらの投与量に制限されるものではない。
【0090】
本発明の治療剤を投与する対象となる疾患は、心不全、特にうっ血性心不全であるが、当該疾患には他の疾患に合併あるいは併発されたものも含まれる。
【0091】
本発明の治療剤は、心不全における交感神経系のカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害、あるいはコリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進させることにより、心臓の異常な症状を改善する。
【0092】
本発明の治療剤を投与する時期は、上記疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず、予防的投与であっても維持的投与であってもよい。その意味において、本発明の「治療剤」には予防剤も含まれる。
また、本発明の心不全の治療剤は他の心不全治療剤と併用されてもよい。
【0093】
本発明の心不全の治療剤は、常法に従って製剤化することができ(Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
【0094】
このような担体および医薬添加物の例としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0095】
実際の添加物は、本発明の治療剤の剤型に応じて上記の中から単独でまたは適宜組み合わせて選ばれるが、これらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された抗体を溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0096】
本発明の、カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤は、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害することにより心不全を治療する方法と言い換えることもできる。
【0097】
また、本発明の、交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤は、交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害することにより心不全を治療する方法と言い換えることができる。
【0098】
また、本発明の、コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤は、コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進することにより心不全を治療する方法と言い換えることができる。
【0099】
さらに、本発明の、神経伝達物質のアセチルコリンからカテコールアミンへの転換を促進する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤は、神経伝達物質のアセチルコリンからカテコールアミンへの転換を促進することにより心不全を治療する方法と言い換えることができる。
【0100】
3. 本発明の心不全の治療剤のスクリーニング
3.1 分化形質転換阻害活性による評価
前記した本発明の治療剤は、(a) 被検物質の交感神経(またはカテコールアミン作動性ニューロン)からコリン作動性ニューロンへの分化形質転換阻害活性を測定し、(b) 前記測定結果に基づき、交感神経(またはカテコールアミン作動性ニューロン)のコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する活性を有する物質を心不全の治療剤として選択することにより実施できる。
【0101】
被検物質の分化形質転換阻害活性は、例えば、神経細胞と被検物質を接触させ、被検物質存在下での交換神経からコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を観察し、被検物質非存在下での分化形質転換と比較することにより、行うことができる。
【0102】
3.2 神経伝達物質の転換による評価
本発明の心不全の治療剤は、(a) 被検物質の交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する活性を測定し、(b) 前記測定結果に基づき、交感神経から放出される神経伝達物質のアセチルコリンへの転換を阻害する活性を有する物質を心不全の治療剤として選択することによっても実施できる。
【0103】
被検物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する活性は、例えば、カテコールアミンを放出する神経細胞などと被検物質を接触させ、被検物質存在下でのカテコールアミンおよび/またはアセチルコリンの放出を観察し、被検物質非存在下でのカテコールアミンおよび/またはアセチルコリンの放出と比較することにより、行うことができる。
【0104】
3.3 LIFあるいはCT-1シグナル阻害活性による評価
本発明の心不全の治療剤は、(a) 被検物質のLIFシグナル阻害活性あるいはCT-1シグナル阻害活性を測定し、(b) 前記測定結果に基づき、LIFシグナル阻害活性あるいはCT-1シグナル阻害活性を有する物質を心不全の治療剤として選択することによっても実施できる。
【0105】
本発明のスクリーニング方法に用いる被検物質は如何なる物質でもよく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物、抗体などが挙げられる。
【0106】
特異的マーカーによる評価
カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、tyrosine hydroxylaseなどのカテコールアミン作動性ニューロンのマーカーとcholine transporter、choline acetyltransferaseなどのコリン作動性ニューロンのマーカーを用いて測定することが可能である。
【0107】
より具体的には、例えば、カテコールアミン作動性ニューロンのマーカーを用いてカテコールアミン作動性ニューロンマーカーが陽性であるニューロンの量を測定すると同時に、コリン作動性ニューロンのマーカーを用いてコリン作動性ニューロンマーカーが陽性であるニューロンの量も測定する。その後、カテコールアミン作動性ニューロンマーカーが陽性であるニューロンの量とコリン作動性ニューロンマーカーが陽性であるニューロンの量を再度測定し、カテコールアミン作動性ニューロンマーカーが陽性であるニューロンの量が減少し、コリン作動性ニューロンマーカーが陽性であるニューロンの量が増加している場合にはカテコールアミン作動性ニューロンがコリン作動性ニューロンに分化形質転換したと判断することが可能である。
【0108】
電子顕微鏡による評価
コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換は電子顕微鏡によっても測定することが可能である。カテコールアミンを含む神経末端は小さい顆粒小胞(small granular vesicles)として観察され、一方、アセチルコリンを含む神経末端は小さい無顆粒小胞(small agranular vesicles)として観察される。
【0109】
神経伝達物質の転換は、カテコールアミンやアセチルコリンを検出してその発現量を指標とすることにより測定することが可能であり、また、前記した電子顕微鏡による神経終末の観察によって測定することが可能である。
【0110】
本発明のスクリーニング方法の一態様としては、例えば、被検物質と伴にアンジオテンシンIIで刺激した心筋細胞の培養液を含む培地で星状ガングリオンニューロン(stellate ganglion neuron)を培養する。通常、星状ガングリオンニューロンはカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換が促進されるが、被検物質が交感神経からコリン作動性ニューロンへの分化形質転換阻害活性を有している場合または交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する活性を有している場合には、分化形質転換の促進が阻害され、または交感神経から放出される神経伝達物質のアセチルコリンへの転換が阻害される。被検物質の存在下と非存在下で比較することにより、目的の被検物質を選択することが可能である。
【0111】
また、本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、例えば、被検物質をDahl食塩感受性(DS)ラットなどの非ヒト心不全モデル動物に投与し、被検物質投与動物と被検物質非投与動物でのカテコールアミン作動性ニューロンおよびコリン作動性ニューロンの状態を比較するまたは交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの変換の状態を比較することにより、被検物質がカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換阻害活性を有しているか否かまたは被検物質が交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの変換を疎外する活性を有しているか否かを判断することが可能である。
【0112】
発現量による評価
LIFシグナル阻害活性は、たとえば、LIF、LIF受容体、そのサブユニットであるgp130のいずれかの発現の阻害活性として評価できる。発現の阻害はそれぞれのタンパク量あるいはmRNA量を測定することにより評価できる。同様に、CT-1シグナル阻害活性は、たとえば、CT-1、CT-1受容体、そのサブユニットであるgp130のいずれかの発現の阻害活性として評価できる。発現の阻害はそれぞれのタンパク量あるいはmRNA量を測定することにより評価できる。
【0113】
タンパク量は、目的とするタンパクに特異的な抗体を用いて、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、またはRIA法等の免疫学的方法によって評価できる。
【0114】
検出に用いられる抗体は、公知の方法にしたがって調製できるし、市販のものを用いてもよい。抗体は、常法により、抗原タンパク質、あるいはそのアミノ酸配列から選択される適当な断片を用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得てもよい。
【0115】
抗原ポリペプチドは、遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、当該タンパクをコードする遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させればよい。
【0116】
得られた抗体は、それを直接標識するか、または該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
【0117】
前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)またはビオチンであるが、これらに限定されない。標識二次抗体(または標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(またはストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
【0118】
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
【0119】
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルムまたはイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
【0120】
LIF、LIF受容体、gp130のmRNAの発現量は、当該mRNAを特異的に増幅または検出しうるプライマーやプローブを用いて、RT‐PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、クロスハイブリダイゼーション法、または遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルター等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法によって評価できる。
【0121】
シグナル伝達阻害の評価
被検物質のLIFシグナルあるいはCT-1シグナル阻害活性は当業者に公知の方法で測定することが可能であり、特に限定されない。
【0122】
例えば、LIFとLIF受容体および/またはgp130、CT-1とCT-1受容体および/またはgp130との結合阻害を指標としてLIFシグナルあるいはCT-1シグナル阻害活性を測定することが可能であるし、LIF受容体/gp130を発現する細胞またはCT-1受容体/gp130を発現する細胞の生理活性を指標としてLIFシグナルあるいはCT-1シグナル阻害活性を測定することも可能である。また、LIF受容体、CT-1受容体またはgp130の細胞外領域と他の受容体の細胞内領域を含むキメラ受容体を発現する細胞の生理活性を指標としてLIFシグナルあるいはCT-1シグナル阻害活性を測定することも可能である。
【0123】
例えば、被検物質をLIF受容体/gp130を発現する細胞またはCT-1受容体/gp130を発現する細胞にLIFまたはCT-1存在下で接触させ、細胞の生理活性を測定し、被検物質を接触させない場合と比較して生理活性に変化がある被検物質を選択することにより、LIFシグナルあるいはCT-1シグナル阻害活性を有する物質を選択することが可能である。
【0124】
また、例えば、被検物質をLIF受容体、CT-1受容体またはgp130の細胞外領域と他の受容体の細胞内領域を含むキメラ受容体を発現する細胞にLIFまたはCT-1存在下で接触させ、細胞の生理活性を測定し、被検物質を接触させない場合と比較して生理活性に変化がある被検物質を選択することにより、LIFシグナルあるいはCT-1シグナル阻害活性を有する物質を選択することが可能である。
【0125】
本発明において「変化」とは、通常生理活性の上昇(亢進)あるいは低下を意味する。一般的に、被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を上昇(亢進)させる物質はリガンドであり、一方、生理活性を低下させる物質は、阻害物質であるものと考えられる。本発明の上記方法を用いることにより、当業者においては、指標とする生理活性の種類を考慮して、適宜、生理活性を変化させる被検化合物についてリガンドもしくは阻害物質であるか否かの判定を行うことが可能である。
【0126】
LIF受容体、CT-1受容体またはgp130の細胞外領域とのキメラ受容体に用いられる受容体細胞内領域は、キメラ受容体にリガンドが結合した場合に、生理活性の変化を誘導し得る限り特に制限されず、どのような受容体由来でもよい。受容体の具体的な例としては、例えば、細胞膜受容体、核内受容体、細胞内受容体等を挙げることができる。好ましい受容体として、細胞膜受容体を挙げることができる。細胞膜受容体とは、細胞膜表面に発現し、細胞外領域にリガンドが結合すると、細胞内にシグナルが伝達され、何らかの生理的変化を誘導する受容体である。また、細胞膜受容体の細胞内領域を用いる場合、細胞内領域全体であってもよいし、その一部であってもよい。受容体の細胞内領域の一部を用いる場合、シグナル伝達領域を含むことが好ましい。
【0127】
受容体の具体的な例としては、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。
【0128】
これら受容体ファミリーに属する受容体およびその特徴に関しては多数の文献が存在し、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New Comprehesive Biochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II" pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV., New York, USA、Patthy L. (1990) Cell, 61: 13-14.、Ullrich A., et al. (1990) Cell, 61: 203-212.、Massagul J. (1992) Cell, 69: 1067-1070.、Miyajima A., et al. (1992) Annu. Rev. Immunol., 10: 295-331.、Taga T. and Kishimoto T. (1992) FASEB J., 7: 3387-3396.、Fantl WI., et al. (1993) Annu. Rev. Biochem., 62: 453-481.、Smith CA., et al. (1994) Cell, 76: 959-962.、Flower DR. (1999) Biochim. Biophys. Acta, 1422: 207-234.、宮坂昌之監修, 細胞工学別冊ハンドブックシリーズ「接着因子ハンドブック」(1994) 秀潤社, 東京, 日本、等が挙げられる。上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒトまたはマウスエリスロポエチン(EPO)受容体、ヒトまたはマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体、ヒトまたはマウストロンポエチン(TPO)受容体、ヒトまたはマウスインスリン受容体、ヒトまたはマウスFlt-3リガンド受容体、ヒトまたはマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、ヒトまたはマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体、ヒトまたはマウスレプチン受容体、ヒトまたはマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒトまたはマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒトまたはマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒトまたはマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒトまたはマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等を例示することができ、本発明においてはこれら受容体を好適に使用することができる。これらの受容体の配列は公知である(hEPOR: Simon, S. et al. (1990) Blood 76, 31-35.; mEPOR: D'Andrea, AD. Et al. (1989) Cell 57, 277-285.; hG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 87, 8702-8706.; mG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Cell 61, 341-350.; hTPOR: Vigon, I. et al. (1992) 89, 5640-5644.; mTPOR: Skoda, RC. Et al. (1993) 12, 2645-2653.; hInsR: Ullrich, A. et al. (1985) Nature 313, 756-761.; hFlt-3: Small, D. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91, 459-463.; hPDGFR: Gronwald, RGK. Et al. (1988) Proc. Natl. acad. Sci. USA. 85, 3435-3439.; hIFNα/βR: Uze, G. et al. (1990) Cell 60, 225-234.およびNovick, D. at al. (1994) Cell 77, 391-400.)。
【0129】
核内受容体とは、リガンドの結合により特定のDNA配列に結合し、mRNAの転写活性の増減を誘導する活性を有する受容体であり、ステロイド受容体ファミリー、レチノイドX受容体ファミリー等を使用することができる。ステロイド受容体ファミリーには、グルココルチコイド受容体、ミネラルコルチコイド受容体、プロゲステロン受容体、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体が含まれる。また、レチノイドX受容体ファミリーには、レチノイン酸受容体、甲状腺ホルモン受容体、ビタミンD3受容体が含まれる。細胞内受容体は、細胞内に存在し、種々のリガンドが結合し、生理活性を誘導する受容体を意味する。
【0130】
キメラ受容体の細胞内領域としては、構造と機能が詳細に検討されている点で、G-CSF受容体(例えば、マウスG-CSF受容体、ヒトG-CSF受容体)の細胞内領域を用いることが可能である。マウスG-CSF受容体は813個のアミノ酸からなり、単一の膜貫通領域によって細胞外領域と細胞内領域に分けられている(Fukunaga, R. Cell (1990) 61, 341-350)。また、G-CSF受容体遺伝子を骨髄球前駆細胞株であるFDC-P1やpro-B細胞株であるBa/F3細胞で発現させると、発現されたG-CSF受容体が細胞増殖シグナルを伝達し、G-CSF依存性の増殖活性が認められることも示されている。さらに、増殖シグナルの伝達には細胞内領域の76アミノ酸からなる領域が必須であることが明らかになっている(Fukunaga, R. EMBO J. (1991) 10, 2855-2865)。従って、当該76アミノ酸をシグナル伝達領域として含有するキメラ受容体を作製し、Ba/F3細胞に発現させることで、検出指標を細胞増殖活性とすることが可能である。
【0131】
ヒトG-CSF受容体では、716番目以降のアミノ酸を欠失変異させることで、受容体の内在化が抑制され、細胞表面に発現するG-CSF受容体数が増加するために、G-CSF刺激時のシグナル伝達効率が著しく促進されることが示されている(Melissa G., Blood (1999) 93, 440-446)。欠失領域には、内在化に必要なモチーフと想定される配列を含むbox3と呼ばれる領域が含まれており、一方、シグナル伝達に必要なbox1、box2は保存されている。したがって、マウスG-CSF受容体においても当該領域すなわちbox2を含まず、box3を含む領域を欠失させることによりG-CSF受容体刺激時のシグナル伝達効率を高めることが可能であることは容易に予想される。
【0132】
キメラ受容体においては、好ましくは膜貫通領域を含む。キメラ受容体に使用する膜貫通領域は、特に限定されず、キメラ受容体の細胞外領域に使用した受容体由来でもよいし、細胞内領域に使用した受容体由来であってもよい。また、全く別の細胞膜受容体に由来したものであってもよい。
【0133】
本発明において生理活性とは、生体、組織、細胞、タンパク質、DNA、RNA等に量的および/または質的な変化、影響をもたらすことが可能な活性である。本発明においては、どのような生理活性を用いてもよい。生理活性としては、サイトカイン活性、酵素活性、転写活性、膜輸送活性、結合活性等を用いることができる。酵素活性としては、例えば、タンパク質分解活性、リン酸化/脱リン酸化活性、酸化還元活性、転移活性、核酸分解活性、脱水活性がある。また、結合活性としては、例えば、抗原と抗体との反応、細胞接着因子どうしの結合および/または活性化がある。
【0134】
本発明において、生理活性の変化を測定する為に用いる検出指標としては、量的および/または質的な変化が測定可能である限り使用することができる。例えば、無細胞系(cell free assay)の指標、細胞系(cell-based assay)の指標、組織系の指標、生体系の指標を用いることができる。無細胞系の指標としては、酵素反応やタンパク質、DNA、RNAの量的および/または質的な変化を用いることができる。酵素反応としては、例えば、アミノ酸転移反応、糖転移反応、脱水反応、脱水素反応、基質切断反応等を用いることができる。また、タンパク質のリン酸化、脱リン酸化、二量化、多量化、分解、乖離等や、DNA、RNAの増幅、切断、伸長を用いることができる。例えばシグナル伝達経路の下流に存在するタンパク質のリン酸化を検出指標とすることができる。細胞系の指標としては、細胞の表現型の変化、例えば、産生物質の量的および/または質的変化、増殖活性の変化、形態の変化、特性の変化等を用いることができる。産生物質としては、分泌タンパク質、表面抗原、細胞内タンパク質、mRNA等を用いることができる。形態の変化としては、突起形成および/または突起の数の変化、偏平度の変化、伸長度/縦横比の変化、細胞の大きさの変化、内部構造の変化、細胞集団としての異形性/均一性、細胞密度の変化等を用いることができる。これらの形態の変化は検鏡下での観察で確認することができる。特性の変化としては、足場依存性、サイトカイン依存応答性、ホルモン依存性、薬剤耐性、細胞運動性、細胞遊走活性、拍動性、細胞内物質の変化等を用いることができる。細胞運動性としては、細胞浸潤活性、細胞遊走活性がある。また、細胞内物質の変化としては例えば、酵素活性、mRNA量、Ca2+やcAMP等の細胞内情報伝達物質量、細胞内タンパク質量等を用いることができる。また、受容体の刺激によって誘導される細胞の増殖活性の変化を指標とすることができる。組織系の指標としては、使用する組織に応じた機能変化を検出指標とすることができる。生体系の指標としては組織重量変化、血液系の変化、例えば血球細胞数の変化、タンパク質量や、酵素活性、電解質量の変化、また、循環器系の変化、例えば、血圧、心拍数の変化等を用いることができる。
【0135】
これらの検出指標を測定する方法としては、特に制限はなく、発光、発色、蛍光、放射活性、蛍光偏光度、表面プラズモン共鳴シグナル、時間分解蛍光度、質量、吸収スペクトル、光散乱、蛍光共鳴エネルギー移動等を用いることができる。これらの測定方法は当業者にとっては周知であり、目的に応じて、適宜選択することができる。例えば、吸収スペクトルは一般的に用いられるフォトメータやプレートリーダ等、発光はルミノメータ等、蛍光はフルオロメータ等で測定することができる。質量は質量分析計を用いて測定することができる。放射活性は、放射線の種類に応じてガンマカウンターなどの測定機器を用いて、蛍光偏光度はBEACON(宝酒造)、表面プラズモン共鳴シグナルはBIACORE、時間分解蛍光、蛍光共鳴エネルギー移動などはARVOなどにより測定できる。さらに、フローサイトメータなども測定に用いることができる。これらの測定方法は、一つの測定方法で2種以上の検出指標を測定しても良く、簡便であれば、2種以上の測定を同時および/または連続して測定することによりさらに多数の検出指標を測定することも可能である。例えば、蛍光と蛍光共鳴エネルギー移動を同時にフルオロメータで測定することができる。
【実施例】
【0136】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によってその技術的範囲を限定されるものではない。
【0137】
1.方法および材料:
1.1 動物
Dahl食塩感受性ラット(DSラット):6週齢
Dahl食塩耐性ラット(DRラット):6週齢
Wister系ラット:6〜8週齢
ラットはいずれも日本クレアより購入し、高食塩食(8%NaCl)を9週間給餌した。
【0138】
1.2 LIF発現トランスジェニックマウス
LIF cDNAをpCALNL5(Kanegae, Y. et al., Nucleic Acids Res 23, 3816-21 (1995), Betz, U.A., et al., J Exp Med 188, 1955-65 (1998)):東京大学 斎藤教授より供与を受けた)にサブクローニングした。pCALNL5は、ニワトリβアクチン(CAG)プロモーター、loxP-neo-loxP、ポリアデニル化シグナルを含む。このコンストラクトを前核にマイクロインジェクションして、心臓でLIFを発現するトランスジェニックマウス(LIF-loxPマウス)を作成した。導入遺伝子は下記のプライマーを用いたPCRにより確認した。
Forward Primer: 5’-GAGGATCGTTTCGCATGATT-3’(配列番号1)
Reverse Primer: 5’-TATTCGGCAAGCAGGCATCG-3’(配列番号2)
【0139】
このLIF-loxPマウスをαミオシン重鎖(MHC)-Creマウスと交配して、LIFαMHCCreマウスを作成した。すべてのマウスはC567BL/6と10代バッククロスした。
【0140】
1.3 gp130ノックアウトマウス
ジーンターゲッティングによりgp130ノックアウトマウスを作製した。
gp130-floxed マウス(gp130 flox/floxマウス:Betz, U.A., et al. J Exp Med 188, 1955-65 (1998)ce39)およびドパミンβヒドロキシラーゼ-Cre組換えトランスジェニックマウス (DBH-Creマウス:Rosanna, P., et al. Development 134, 1663-70.(2007)) は、それぞれDr. Werner MullerおよびDr. Gunther Schutzより供与を受けた。
【0141】
レポーター遺伝子コンストラクトとして、ニワトリβアクチン(CAG)プロモーター - クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT) - EGFPを有するCAG-CAT-EGFPトランスジェニックマウス(Kawamoto, S., et al., FEBS Lett 470, 263-268 (2000))は大阪大学の宮崎教授より供与を受けた。
【0142】
上記のDBH-Creマウスを、gp130 flox/floxマウスあるいはCAG-CAT-EGFPトランスジェニックマウスと交配して、ダブルトランスジェニックマウスを作成した。
【0143】
1.4 心不全モデルマウス
左心室心不全は慢性横行大動脈狭窄モデルを用いて作成した。また、右心室心不全は長期間の低酸素(10% O2)による肺高血圧モデルを用いて作成した。
【0144】
1.5 心筋細胞馴化培地
Wistarラット心筋細胞の初代培養は、既報に従い実施した(Ieda, M. et al., J Clin Invest 113, 876-84 (2004))。すなわち、心筋細胞を血清を含む培地で24時間培養したのち、血清を含まない新しい培地と交換し、アンジオテンシンII(1x107 M)含有あるいは非含有馴化培地で24時間培養した。
【0145】
1.6 LIFおよびCT-1のsiRNAトランスフェクション
LIF siRNAおよび CT-1 siRNAはAmbion(Austin, TX)より購入した。心筋細胞へのトランスフェクトはリポフェクチンRNAiMAX 試薬(Invitrogen)を用いて実施した。
【0146】
1.7 交換神経の培養
2日齢のWistarラットから星状神経節ニューロンを単離し、5% FBSと神経成長因子(NGF; 50 ng/ml, Upstate, Charlottesville, VA)を含むDMEM(Sigma, St. Louis, MO)中で培養した。最初の5日間はシトシン 10μM 1β-d-アラビノフラノシド(Sigma)を添加して、非神経細胞の増殖を抑えた。2日間培養したのち、LIF(Chemicon, Temecula, CA)あるいは心筋細胞馴化培地で14日間培養した。培地は2〜3日おきに交換した。
【0147】
1.8 心筋細胞の初代培養
新生ラット心筋細胞の初代培養は、既報(前掲)に従い行った。心筋細胞は、in vitroで1x10-7 MアンジオテンシンIIに30分間、50 μmol/l 過酸化水素に3時間、1 μml/l ドキソルビシン(DOX)に2時間、10 μmol/l ノルエピネフリン(NE) に30分間、あるいは5 μmol/lセラミドに15分間暴露することで心不全類似の状態にした。
【0148】
低酸素刺激は、細胞を0% N2/5% CO2/5% O2F雰囲気下で2時間培養することにより付与した。
【0149】
機械的伸長刺激は、心筋細胞を20%まで伸長されたラミニン被覆シリコンディッシュで培養することにより付与した。
【0150】
1.9 RNA抽出と定量的PCR
RNA抽出は既報(Ieda, M. et al., J Clin Invest 113, 876-84 (2004))に従い実施した。TaqMan リアルタイムPCRはABI Prism 7500 sequence detection system (Applied
Biosystems, Foster City, CA)を用いて実施した。 すべてのサンプルは3回測定を行った。プライマーと TaqManプローブ(LIF (Rn00573491_g1), CT-1 (Rn00567503_m1), CNTF (Rn00755092_m1), CLC (Rn02133709_s1), BDNF (Rn01484928_m1), NT-3 (Rn00579280_m1), GDNF (Rn00569510_m1), VAChT (Rn00581454_s1), CHT (Rn00506029_m1), TH (Rn00562500_m1), BNP (Rn00580641_m1), アンジオテンシノーゲン (Rn00593114_m1), ACE (Rn00561094_m1))は、Applied Biosystemsより購入した。データは、GAPDHを用いて正規化した。 NGFのプライマーとプローブは、既報(Ieda, M. et al., J Clin Invest 113, 876-84 (2004))に従って作成した。mRNAレベルはGAPDH mRNAと比較して正規化した。
【0151】
1.10 RT-PCR
ChAT44およびVAChT45用プライマーは、前記したものを用いた。 マウスLIF用プライマーは以下の配列のものを用いた。
mLIF-F2: 5’-CCTCTAGAGTCCAGCCCATAA-3’(配列番号3)
mLIF-R2: 5’-CTCTAGAAGGCCTGGACCAC-3’(配列番号4)
【0152】
1.11 ウエスタンブロット分析
氷冷したバッファー中で心臓をホモジェナイズしてサンプルを調製した。免疫検出は、は、抗LIF抗体 (AB-449-NA; R&D System, Minneapolis, MN)を用いて実施した。ニトロセルロース膜に転写したのち、化学発光検出(SuperSignal West Pico, PIERCE, Rockford, IL)により45-kDa LIFタンパクを視覚化した。
【0153】
1.12 ノルエピネフリンの測定
ノルエピネフリン(NE)濃度は、既報に従いHPLCにより測定した(Ieda, M. et al., J Clin Invest 113, 876-84 (2004))。
【0154】
1.13 免疫組織化学
心臓は、0.4%パラホルムアルデヒドを含むPBSでかん流して一晩固定し、OCTコンパウンドに包埋し、液体窒素で凍結させた。凍結切片は、交感神経を検出するために抗TH抗体(Chemicon, Sigma and ImmunoStar, Hudson, WI)で、あるいは副交感神経を検出するためにCHT (Chemicon)およびChAT (Chemicon)で染色した。
【0155】
切片は、Alexa 488, 546, 633(Molecular Probes, Carlsbad, CA)、TRITC (DAKO, Glostrup, Denmark)を結合させた二次抗体とともにインキュベートし、核はTOTO3 (Molecular Probes)で染色した。共焦点顕微鏡観察は、LSM 510 META (Carl Zeiss, Jena, Germany)を用いて実施した。
【0156】
免疫染色に先立ち、抗原回復のため、パラフィン包埋切片の一部は10 mM クエン酸緩衝液 (pH 6)および20 mM Tris-HCl緩衝液 (pH 9) で処理し、シグナルをTSA direct kit (NEN Life Science, Boston, MA)で視覚化した。神経密度は、Image J softwareで測定した。ヒト交感神経節については、クレシルバイオレット染色を行い、ニューロンの総数を決定した。
【0157】
1.14 交換神経線維のBDAによる順行性ラベル
機械的人工換気のもと、ハミルトンマイクロピペットを介して10% BDAを左星状神経節に注入し、星状神経節の交換神経線維をラベルした。ラットはBDA注入後3日目に殺し、0.4%パラホルムアルデヒドを含むPBSでかん流し、免疫組織化学解析を行った。
【0158】
1.15 透過顕微鏡観察
心臓は0.2%グルタルアルデヒドと0.4%パラホルムアルデヒドを含むカコジル酸緩衝液で固定し、エポキシ樹脂に包埋した。
【0159】
超薄切片(80 nm)は酢酸ウラニルとクエン酸鉛で染色し、JEOL-1230 透過電子顕微鏡(JEOL Ltd., Tokyo, Japan)で観察した。AF64Aはアセチルコリンマスタード塩酸塩から調製し、ラットに腹腔内投与した(150 μmol/kg)。AF64Aは、コリントランスポーターと変性コリン作動性神経線維に特異的に取り込まれる。コントロールとして、食塩水を同様に投与した。投与3日後、心臓を取り出し、上記のとおり固定した。サンプルは、抗TH抗体(Chemicon)で免疫染色し、NANOGOLD-Fab (Nanoprobes, Yaphank, NY)を結合した二次抗体とインキュベートし、前述のとおり可視化した。
【0160】
1.16 ヒトサンプルの調製
左心室と星状神経節のコントロールサンプルは、心臓疾患を有しない解剖死体8検体(平均年齢, 57 ± 17)から調製した (図5-2a)。心不全サンプルは、拡張型心筋症、陳旧性心筋梗塞、心筋炎によるうっ血性心不全で死亡した患者8例 (平均年齢, 51 ± 13)および拡張型心筋症により死亡した心臓移植レシピエント3例から調製した(図5-2b)。サンプルは、0.4%パラホルムアルデヒド中で迅速に固定し、パラフィンまたはOCTコンパウンドに包埋した。
【0161】
1.17 統計解析
値は平均±標準偏差として記載した。グループ間のちがいはStudentのt-testを用いた有意差検定により評価し、P値<0.05を有意とした。
【0162】
2.結果
2.1 ラット心臓における交感神経および副交感神経の分布
左心室を免疫染色し、カテコールアミン作動性ニューロンとコリン作動性ニューロンのマーカーである、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)とコリントランスポーター(CHT)の分布から、ラット心臓における交感神経と副交感神経の分布をみた。
【0163】
左心室ではTH神経が多く、心外膜下よりも多く分布していた(図1a,b) 。CHTニューロンはTH神経より少なく、その密度は心筋層間で異なっていた (図1a,c)。心外膜では密集して束になった神経線維においてTHの発現がみられたが、CHTは発現していなかった(図1a)。
【0164】
星状神経節では大多数の神経がTHで、ごくわずかの神経がコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT, コリン作動性ニューロンマーカー)を共発現していた。対称的に、心臓神経節のほとんどすべての神経は、ChATで、わずかの神経がTHだった(図1-1d)。よって、カテコールアミン作動性ニューロンの分布は左心室で顕著であり、心臓交感神経系と副交感神経系は、それぞれ星状神経節および心臓神経節の神経から延びていた。
【0165】
2.2 Dahl食塩感受性ラット心室におけるコリン作動性ニューロンの増加
うっ血性心不全(CHF)で心臓神経分布が変化するかどうかをみるために、Dahl食塩感受性(DS)ラット(CHF model)とDahl食塩耐性(DR)ラット(control)における交感神経の機能を調べた。
【0166】
DSラットは多呼吸や努力性呼吸を示し、身体活動の低下がみられた。また、DSラットは平均体重と心臓重量が顕著に低く、15週齢において心臓-体重比率はDRラットの1.7倍であった(図1a-d)。DRラットに対して、DSラットは心肥大マーカーであるBNPの有意な左心室高発現、高血漿NE濃度、低心臓NE濃度を示し、これはうっ血性心不全の結果と一致するものだった(図1e-g)。
【0167】
三重免疫染色の結果、DSラットでは、DRラットに比べて左心室におけるカテコールアミン作動性ニューロン(TH) が少なく、コリン作動性ニューロン(CHT) が多かった(図1h)。DSラットの心外膜交感神経束では、DRラットに比べてCHT神経が顕著に増加し、TH神経が顕著に減少していた(図2a)。TH神経ではCHT の共発現もみられた。DRラットでは、これらの繊維の大部分はTHを発現し[TH/NF(neurofilament) ratio = 84%], 、ごく一部がCHTを共発現していた(CHT/NF ratio = 3%)。対照的に、DSラットではCHT神経が多く(CHT/NF ratio = 21%)、TH神経は少なかった(TH/NF ratio = 39%) (図2-1b,c)。同時に、DSラットの左心室では、コリン作動性ニューロンの活性がアップレギュレートされ、心臓交感神経線維のなかにはカテコールアミン作動性ニューロンの特徴とコリン作動性ニューロンの特徴の両方を有するものもあった。
【0168】
2.3 心不全ラット星状神経節におけるコリン作動性ニューロンの分布
星状神経節における特異的マーカーの発現を調べた。DRラットでは多くの THニューロンとわずかなChAT ニューロン、多くのChAT神経前繊維が認められた。比較すると、DSラットはよりChAT ニューロンに富み、そのなかにはTHを共発現しているものもあった(図2-1d,e)。CHTと小胞アセチルコリントランスポーター(VAChT)の発現は、DSラットの星状神経節では極めて高かった(それぞれ1.9-倍および6.6-倍)(図2-1f,g)。このDSラットにおけるコリン作動性ニューロンへのシフトは星状神経節特異的で、いずれのラットについても、腰部交感神経節ではChATの発現は検出されなかった (図3-2a,b)。これらの知見は、における心臓交感神経系のコリン作動性ニューロンへの分化形質転換はニューロン本体だけでなく末梢軸策でも起こることを示すものであった。
【0169】
2.4 DSラットにおけるカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換
心臓交感神経系がカテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンに機能的変化を生じることを確認するために、順行性神経トレーサーであるビオチニル化デキストランアミン(BDA)を注入して、心臓交感神経系を星状神経節から順行性にラベルした。その結果、星状神経節と突出神経線維のいずれにおいても、交感神経はBDAでラベルされた(図3-1a, 図4-2a)。DRラット左心室では、すべてのBDA神経線維はTHを共発現していたが、DSラット左心室ではTHを共発現しているBDA 神経線維とCHTでラベルされたBDA 神経線維があった (図3-1b)。
【0170】
さらに、透過電子顕微鏡による交感神経系の直接観察により、DRラットでは多くの小顆粒小胞(SGV、カテコールアミンを含む)が認められ、これは以前の研究結果と一致するものであった。一方、DSラットの神経終末ではSGVと小顆粒小胞 (SAGV, アセチルコリンを含む)が認められた(図3-1c)。
【0171】
AF64A はコリン作動性ニューロン特異的毒素で、コリン作動性ニューロン終末の空胞変性を誘発する。そこでAF64Aをラットに注射し、抗TH抗体を用いた免疫電子顕微鏡法により交感神経終末を分析した。DRラットでは、TH immuno-gold 粒子でラベルされたカテコールアミン作動性ニューロン終末はインタクトなままであり、空胞変性はSAGVでマークされたコリン作動性ニューロン終末でのみ認められた。DSラットでは、空胞変性はTH immuno-gold 粒子でラベルされたカテコールアミン作動性ニューロン終末でも認められ、それらはSGV と SAGVの両方を有していた(図3-1d, 図4-2b,c)。以上より、DSラットでは、交感神経系のコリン作動性ニューロンへの機能的変化が生じているといえる。
【0172】
2.5 コリン作動性分化因子の分泌による神経伝達物質の転換
DSラットの交感神経系における神経伝達物質の転換は、液性因子、特に心筋細胞から分泌されるIL-6ファミリーサイトカイン[LIF, CT-1, カルジオトロフィン様サイトカイン (CLC)、毛様体神経栄養因子(CNTF)]、ニューロトロフィン[神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF),ニューロトロフィン-3(NT-3)]、グリア細胞由来神経栄養因子により媒介されうるものかどうかを検討した。
【0173】
LIFとCT-1はDSラットの心室でDRラットより有意に高く(約5倍)発現しており、GDNFも同様であったが(2倍高い)、心不全を有する動物とコントロールの間に発現量の違いは見られなかった(図4-1a)。
【0174】
心不全のin vitroモデルとして、初代培養心筋細胞に、アンジオテンシンII(AngII)、過酸化水素、ドキソルビシン、ノルエピネフリン、セラミド、低酸素、機械的伸長等の種々の刺激を与えた。こうして誘発したうっ血性心不全において、LIFとCT-1 のmRNA を定量した。すべての刺激はLIFとCT-1 mRNA をアップレギュレートし、最も強い効果はAngIIで観察された (図4-1b)。DSラット心室でもアンジオテンシノーゲン(AGT) とアンジオテンシン転換酵素(ACE)がアップレビュレートされ、これはレニン−アンジオテンシン系がうっ血性心不全(CHF)で増大することを示す(図4-1a)。これらの知見に基づき、培養心筋細胞をAngII で処理し、不全心筋類似の状態を誘発させた。AngII はLIFとCT-1を顕著に増大させたが(それぞれ、8.1倍と4.2倍)、他の因子にはあまり顕著な影響は与えなかった(図4-1c)。
【0175】
初代培養星状神経節ニューロンを未刺激またはAngII-刺激心筋細胞の馴化培地の存在下で培養した(UCM, AngII-CM)。AngII-CMは顕著にCHTとVAChT(それぞれ、3.2倍および11.5倍増加)アップレギュレートさせ、TH をダウンレギュレートさせたが、UCM は何の影響も与えなかった(図4-1d)。星状神経節ニューロンのAngII直接処理はコリン作動性関連遺伝子の変化を誘導しなかった。星状神経節ニューロンのLIF(10 ng/ml)処理は、AngII-刺激心筋細胞の馴化培地による処理と同じ、すなわちCHT、ChAT、VAChT をアップレギュレートし、TH を顕著にダウンレギュレートさせた(図4-1e)。結果は、いずれも免疫蛍光染色で確認した(図4-1f)。
【0176】
AngII刺激まえに心筋細胞をsiRNAで前処理し、LIFおよび/またはCT-1発現を特異的に阻害したところ、これら細胞の馴化培地は、未処理細胞の培地に対して、VAChT を76% (LIF siRNA)および71%(CT-1 siRNA)まで減少させた(図4-1g)。この結果は、肥大心筋細胞由来のコリン作動性神経分化因子の組合せ、主としてLIFとCT-1が、星状神経節ニューロンの神経伝達物質の転換を媒介することを示す。
【0177】
2.6 心臓特異的LIF過剰発現による心臓交感神経系における神経伝達物質の転換
LIF-LoxPマウスを作成し、αMHC-Cre (心臓特異的にCreを発現する)マウスと交配した(図5-1a)。LIFαMHC-CreダブルトランスジェニックマウスはLIFを心臓特異的に高発現した(図5-1b,c)。13系統のダブルトランスジェニックマウス系統を作成し、異なるレベルでLIFを発現する2系統を選抜した(lines 3および10) (図5-1d)。Lines 10 (図5-1e) は同腹の8週齢の野生型に比べて心肥大を示したが、CHT神経はほとんど見られなかった。LIFαMHC-Cre 系の10匹のマウスはわずかなTH神経(野生型の78%)と優位に高いCHT神経(8倍)を示したが(図5-1f,g)、line 3では神経伝達物質とフェノタイプの変化は見られなかった。心臓NE濃度はLIFαMHC-Creマウスの心臓で減少していた(line 10)(図5-1h)。これらの結果に一致して、野生型マウスの星状神経節ではわずかなChAT神経しかみられなかったが、LIFαMHC-Creマウスの星状神経節では多数のChAT神経がみられ、なかにはTHを共発現しているものもあった(図5-1i,j)。以上の結果は、心臓特異的なLIFの過剰発現が神経伝達物質の転換を誘導し、心臓交感神経系におけるコリン作動性神経分化形質転換をin vivoで引き起こすことを示す。
【0178】
2.7 マウスにおける交感神経系特異的なgp130遺伝子の条件的ターゲッティング
gp130介在性シグナルは、うっ血性心不全における交感神経系のコリン作動性神経分化形質転換を誘導する。DBHCre とEGFP-floxed マウスを交配して作成して、交感神経系特異的EGFPレポーターマウス(EGFPDBHCreマウス)を作製し、副腎、星状神経節、交感神経系におけるEGFPの発現を確認した(図6-1a)。これらマウスの星状神経節神経体の57%はEGFPでマークされ、このトランスジェニックレポーターマウス系統が有効であることが確認された(図6-1b)。交感神経系-特異的 gp130遺伝子ノックアウトマウスは DBHCre と gp130-floxedマウスを交配して作成した。得られたGp130DBHCreマウスは正常に成長し、THで染色されるがCHTでは染色されない、正常な星状神経節と左心室交感神経系を有していた。この結果は、コントロールであるgp130flox/flox マウスの結果と一致した(図6-1c,e)。
【0179】
前述した方法で心不全と肺高血圧のモデルを作成した。Gp130flox/flox マウスは、ラットうっ血性心不全(CHF)モデルと同様、心臓交感神経系と星状神経節のコリン作動性神経分化形質転換示した。これらの変化は、gp130DBHCre マウスでは生じていなかった (図6-1c,e)。
【0180】
定量的分析により、gp130DBHCre マウスの心室交感神経系のTH/NF神経領域比はコントロールレベルに戻るが、CHT/NF神経領域比は顕著に減少することがわかった(図6-1d)。星状神経節のChAT/TH 比はgp130DBHCre マウスで顕著に減少した(図6-1f)。ChAT/TH比の回復率は、EGFPでマークされた星状神経節神経体の計算された57%に基づけば、交感神経系-特異的EGFPレポーターマウスでの結果と一致した。以上の結果は、うっ血性心不全における交感神経系のコリン作動性神経分化形質転換はgp130シグナル経路によって一次的に制御されていることを示すものだった。
【0181】
2.8 うっ血性心不全におけるヒト心臓交感神経系の神経伝達物質の転換
上記の見解がヒトにあてはまるかどうかをみるために、うっ血性心不全を有する患者の心臓交感神経系の神経伝達物質のフェノタイプを調べた(図5-2)。実験結果に一致して、コントロールの心外膜神経束は大多数のTH神経を有していたが、うっ血性心不全患者の心臓ではCHT 神経が大多数で、両方のマーカーを共発現している神経もあった。星状神経節では、同じ神経伝達物質フェノタイプがみられ(図6-2)、うっ血性心不全患者ではコリン作動性ニューロンへの分化形質転換が起きていることが確認された。
【0182】
3.考察
動物モデルとうっ血性心不全患者の心臓組織の両方において、うっ血性心不全の左心室はコリン作動性ニューロンの顕著な増加を有し、心臓交感神経線維の順行性ラベルによりこれらのCHT神経が交感神経系に由来することが確認された。これらの結果は、心臓交感神経系は潜在的に2つの機能を有しており、環境に応じて神経伝達物質を転換させることを示す。さらに、このプロセスのメカニズムは、心筋細胞の外来性アンジオテンシン刺激が交感神経系をコリン作動性神経に誘導する多くの因子を分泌させることによることを同定した。また、コリン作動性分化形質転換は心臓特異的LIF過剰発現によって誘導されること、交感神経特異的gp130遺伝子のターゲッティングにより、うっ血性心不全誘導性コリン作動性神経分化形質転換が防止できることも確認した。
【0183】
今回の知見は、心不全発症のメカニズムとして、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換の関与を示す。すなわち、カテコールアミン作動性ニューロンからコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害することにより、心不全(特にうっ血性心不全)の治療あるいは予防が可能となることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明により、新たな心不全の治療剤とそのスクリーニング方法が提供される。本発明の治療剤は、これまでの心不全治療薬とは異なる作用メカニズムを有し、心不全の根本的かつ予防的治療法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1−1】図1−1は、ラット心臓における交感神経系と副交感神経系の分布を示す。(a)TH, CHT(緑)、αアクチニン(赤)に左心室の免疫染色の結果(矢印は心外膜上の交感神経を示す)、(b)左心室のTH神経の定量解析結果(n=5)、(c)CHT神経の定量解析結果(n=5)、(d)星状神経節と心臓神経節のTH(赤), ChAT(緑)、Toto(青)による免疫染色の結果、(e) ChATニューロン(上図矢印)はTHニューロンによって囲まれ、心臓神経節にもわずかなTHニューロンが観察された。*=P<0.01, ns=有意差ナシ, スケールバーは(a)100μm,(d)50μm
【図1−2】図1−2は、DSラットとDRラットの(a)心臓、(b)体重(n=5)、(c)心臓重量(n=5)、(d)心臓重量/体重比(n=5)、(e)BNP mRNA発現量(n=5)、(f)血清ノルエピネフリン濃度(n=5)、(g)左心室の組織ノルエピネフリン量(n=5):*=P<0.01、(h)左心室の三重免疫染色の結果(αアクチニン(紫)、TH(赤)、CHT(緑)):四角で囲んだ領域はhigh-power photomicrograph、スケールバーは100μm
【図2−1】図2−1は、(a)TH(赤)とCHT(緑)による二重染色共焦点象、矢印はCHT神経の増加を示す。四角で囲んだ領域はhigh-power photomicrograph、(b,c)左心室心外膜TH/NFおよびCHT/NF比(n=5)、(d)星状神経節のTH(赤)とCHT(緑)による二重免疫染色の結果、(e)星状神経節のChAT/TH比の定量的解析結果(n=4)、(f)RT-PCRによる星状神経節におけるVAChT発現の定量的解析結果(n=4)。*=P<0.01, スケールバーは20μm
【図2−2】図2−2は、(a)左心室心外膜のTH(緑)とNF(赤)による二重染色共焦点象、(b)左心室心外膜のCHT(緑)とNF(赤)による二重染色共焦点象。矢印は交感神経束におけるCHT神経を示す。
【図3−1】図3−1は、心不全ラットの心室における心臓交感神経の分化形質転換を示す。(a)右パネルはBDAによる順行性ラベルの結果、(b)DSラット心室の心外膜交感神経(左の2パネルはTH共発現BDA神経、右の2パネルはCHT共発現BDA神経)、(c)左心室の神経終末の透過電子顕微鏡像(黒い矢印:交換神経終末のSGV、白い矢印:副交感神経終末のSAGV)、(d)AF64A投与後の左心室の免疫電子顕微鏡像。四角で囲んだ領域はhigh-power photomicrograph、スケールバーは(c, d)0.5μm、(b-右横断面)20μm、(b-左横断面と縦断面)50μm、(a-右)100μm、(a-中)2mm
【図3−2】図3−2は、DSラットの腰神経節の免疫染色結果を示す。(a)TH(赤), ChAT(緑)、Toto(青)、(b)ChAT/TH比の定量解析結果。
【図4−1】図4−1は、培養交感神経におけるコリン作動性ニューロン分化因子による神経伝達物質の転換を示す。(a)IL-6ファミリーmRNAの発現解析結果(n=4-6)、(b) アンジオテンシンII(AngII)、過酸化水素、ドキソルビシン、ノルエピネフリン、セラミド、低酸素、機械的伸長刺激付与後のLIFおよびCT-1の発現解析結果(n=4)、(c) AngII刺激/未刺激によるIL-6ファミリーmRNAの発現解析結果(n=4)、(d) AngII 刺激/未刺激心筋細胞馴化培地のTH、CHT、VAChT発現への影響(n=3)、(e)LIF刺激のChAT、VAChT、GAPDHの発現への影響(n=3)、(f)TH(赤)、ChAT(緑)、Toto3(青)による交感神経の免疫細胞化学的染色結果、(g)siRNAによるLIFおよびCT-1の発現への影響。*=P<0.01、**=P<0.05、ns=有意差ナシ、スケールバーは100μm。
【図4−2】図4−2は、BDAによる順行性ラベルの結果を示す。(a)心臓神経叢(左)と左心室(右)におけるBDAの検出結果、(b)神経終末の透過電子顕微鏡解析結果、(c)TH-nanogoldとAF64A処理後の免疫電子顕微鏡解析結果。スケールバーは0.5μm(b,c)、50μm(a)。
【図5−1】図5−1は、LIF過剰発現による神経伝達物質の転換に対する影響を示す。(a) LIFαMHC-Creマウスの作製手順、(b) LIFαMHC-CreマウスにおけるLIF mRNA発現解析結果、(c)野生型マウスとLIFαMHC-CreマウスにおけるLIFのウエスタンブロット解析結果、(d)lines 3と10におけるLIFの定量解析結果、(e) 野生型マウスとLIFαMHC-Creマウスの心臓、(f)野生型マウスとLIFαMHC-Creマウスの二重免疫染色結果(αアクチニン(赤)、TH/CHT(緑))、(g) 野生型マウスとLIFαMHC-Creマウスのノルエピネフリン量、(i)星状神経節におけるTH神経とCHT神経の定量解析結果、(h) TH(赤)、ChAT(緑)、Toto3(青)による交感神経の免疫細胞化学的染色結果、 (j) 野生型マウスとLIFαMHC-Creマウスの星状神経節におけるChAT/TH比の定量解析結果。*=P<0.01、**=P<0.05、ns=有意差ナシ、スケールバーは50μm(f)、100μm(i)、5mm(e)。
【図5−2】図5−2は、ヒトサンプルの特性を示す。(a)コントロール群、(b)心不全患者群、(c) コントロール群のHE染色およびMasson trichrome染色結果、(d)心不全患者群のコントロール群のHE染色およびMasson trichrome染色結果、(e)星状神経節(SG)のNissl 染色結果、(f)星状神経節ニューロン数の定量解析結果(n=5)。スケールバーは100μm(c,d)、200μm(e)。
【図6−1】図6−1は、gp130遺伝子ノックアウトによる交感神経の分化形質転換の阻害を示す。(a) EGFPDBHCreマウスの左心室(LV)、星状神経節(SG)、副腎(AG)の免疫蛍光染色結果(GFP(緑)、Toto3(青)、n=3)、(b) EGFPDBHCreマウスにおけるEGFP細胞の定量解析結果(n=3)、(c) gp130DBHCreマウス(gp130ノックアウト)とGp130flox/floxマウス(コントロール)における慢性横行大動脈狭窄(TAC)と低酸素による心不全の誘発、(d) 左心室および右心室TH/NFおよびCHT/NF比の定量的解析(n=4)、(e) gp130DBHCreマウスとGp130flox/floxマウスの免疫染色結果(TH(赤)、ChAT(緑))、(f) ChAT/TH比の定量解析結果(n=4)。*=P<0.01、**=P<0.05、ns=有意差ナシ、スケールバーは100μm(a,e)、20μm(c)。
【図6−2】図6−2は、ヒト交感神経系における神経伝達物質の転換を示す。(a)心不全患者の左心室における免疫染色結果(TH(赤)、CHT(緑))、(b)TH神経とCHT神経の定量解析結果、(c)心不全患者の左心室における免疫染色結果(TH(赤)、ChAT(緑))、(d) TH神経とChAT神経の定量解析結果。*=P<0.01、ns=有意差ナシ、スケールバーは50μm(a)、100μm(c)。
【配列表フリーテキスト】
【0186】
配列番号1:プライマー
配列番号2:プライマー
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテコールアミン作動性ニューロンのコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤。
【請求項2】
交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤。
【請求項3】
白血病阻害因子(LIF)シグナルを阻害する物質を有効成分として含有する、請求項1または2記載の心不全の治療剤。
【請求項4】
LIFシグナルを阻害する物質がLIFに結合し、LIFとLIF受容体の結合を阻害する物質である、請求項3に記載の心不全の治療剤。
【請求項5】
カルジオトロフィン−1(cardiotrophin-1 : CT-1)シグナルを阻害する物質を有効成分として含有する、請求項1または2記載の心不全の治療剤。
【請求項6】
CT-1シグナルを阻害する物質がCT-1に結合し、CT-1とCT-1受容体の結合を阻害する物質である、請求項5に記載の心不全の治療剤。
【請求項7】
コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進する物質を有効成分として含有する心不全の治療剤。
【請求項8】
コリン作動性ニューロンからカテコールアミン作動性ニューロンへの分化形質転換を促進する物質が神経細胞成長因子(NGF)である、請求項7に記載の心不全の治療剤。
【請求項9】
心不全がうっ血性心不全である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の心不全の治療剤。
【請求項10】
以下の工程を含む心不全の治療剤のスクリーニング方法:
(a) 被検物質の交感神経からコリン作動性ニューロンへの分化形質転換阻害活性を測定する工程、
(b) 前記測定結果に基づき、交感神経のコリン作動性ニューロンへの分化形質転換を阻害する活性を有する物質を心不全の治療剤として選択する工程。
【請求項11】
以下の工程を含む心不全の治療剤のスクリーニング方法:
(a) 被検物質の交感神経から放出される神経伝達物質のカテコールアミンからアセチルコリンへの転換を阻害する活性を測定する工程、
(b) 前記測定結果に基づき、交感神経から放出される神経伝達物質のアセチルコリンへの転換を阻害する活性を有する物質を心不全の治療剤として選択する工程。
【請求項12】
以下の工程を含む、請求項10または11記載のスクリーニング方法:
(a) 被検物質のLIFシグナル阻害活性を測定する工程、
(b) 前記測定結果に基づき、LIFシグナル阻害活性を有する物質を心不全の治療剤として選択する工程。
【請求項13】
以下の工程を含む、請求項10または11記載のスクリーニング方法:
(a) 被検物質のCT-1シグナル阻害活性を測定する工程、
(b) 前記測定結果に基づき、CT-1シグナル阻害活性を有する物質を心不全の治療剤として選択する工程。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公開番号】特開2011−231014(P2011−231014A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218339(P2008−218339)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(502100149)
【Fターム(参考)】